哲学的な魔女、あとオレとか
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 夢見がちな世界は、真実を前にして躓く。

 おれは現実に目を背けている。
 だが、それを一体誰が非難できるのだろうか。
 恐らく、おれは間違っている。
 だけど、正しさが人間を救うとは限らない。



 埃が鼻を優しく撫でた。
 むっとするカビの不快な臭いの中で、おれは身体を必死に伸ばして本を引き摺り下ろす。灰色のモールで飾られた埃まみれの本の背表紙を一瞥し、また自身の背丈ほどある本棚に戻す。
 かれこれ三時間。不毛な時間を過ごしている。一七歳の成長著しい身体ではあるが、さすがに堪えた。二の腕と腰に来る。
 少しでも気を抜こうものなら、たちまち生ぬるい痛みがじわじわと患部に広がっておれを苦しめる。
 それもこれも、全ては米原真妃乃(まいばらまきの)の一言から始まった。

「我が校伝来の呪術書を探しましょう」
 文芸部部室にて、女子生徒は唐突に宣言した。
 おれはノートにペンを走らせるのをやめた。たった一人の傍聴人のおれは発言者に向かって、鋭い視線を放った。
「それ、新手のギャグか何かか?」
「そのままの意味です」
 真妃乃は断言した。
 短髪であるが、側面だけ少し長く伸ばした黒髪。一年年下ということもあって華奢な体躯。紺色のセーラー服から伸びた血の気の薄い四肢は、白いタイと同じ色をしている。
「実はですね……」
「別に説明はしなくていいぞ」
 真妃乃が得意げな笑みを浮かべて口を開いたのを、おれは大仰に制した。
「どうせ、また新聞部辺りの噂話なんだろ?」
 おれは芝居がかった溜息をついた。真妃乃を非難する意味合いを含めたにもかかわらず、彼女はおれのささやかな主張を斟酌しない。
「さすが先輩、もはや以心伝心ですね。では、早速行きましょう」
「どこへ!?」
 いや、全然心と心で通じ合えてないから。おれは一度だって、おまえの心を理解した覚えはない。
「図書室の閉架図書ですよ。先輩、感度悪いんじゃないですか。ちゃんと電波三本、立ってます?」
「おまえの心なんざ、わかって堪るか!」
 あと、女が感度とか立ってるとか言うな。おれは極めて紳士的だから、猥褻な意味で捉えたりはしないけれども。もっとも、今はおれと真妃乃の二人っきりだから第三者の目を気にする必要はないが。
「先輩ったら、まったく素直じゃないですねえ。いいんですよ、わたし、そんな先輩の心もちゃんとわかってますから」
 真妃乃はにこにこと太陽の様な笑みを照射してくる。
 年下ならではの邪気の欠片もない完璧な笑顔だというのに、その表情の裏には何かとんでもない意味が隠されている様な気がする。
「おまえな、そんな笑みを浮かべたって、おれは何もしないぞ」
「なんですか、先輩。可愛い後輩の言うことがきけないっていうんですか?」
 いや、本当に可愛い後輩は自分の事を「可愛い」だなんて形容しないはずだ。
「わたしが事前に手回しをしておきますから」
 結局、真妃乃はおれの返答を受け取ることなく、部室を飛び出してしまった。

「納得いかねえ……」
 世間は秋。山手の山々は赤い葉で着飾り、生徒達はこれから迎える文化祭へ向かって一丸となって、青春の一頁を凄まじい筆圧で書き殴っているというのに、おれは生意気な後輩の一言によって鼠色の埃と戯れている。
 真妃乃の言う我が校伝来の呪術書とは何か。
 その由緒は横浜開港つまり江戸時代後期にまで遡ることができるだとか、その書にはかつての海洋の覇者オランダの国家機密が記されていただとか、その文章にはイギリスで厳しく弾圧された「魔女」と呼ばれた呪術師が記した魔法の書だったとか、いや実は血を血で洗う「魔女」達の戦いによってある高名な「魔女」がその書に封印されているんだとか、いやいやそんなことがあって堪るか……。
 とにかく真妃乃は声を大にして説明した。が、結局その全貌は杳として知れない。しかしながらそのせいで、一人空しく埃に埋もれる放課後を過ごす羽目になった。
 そこでふと思い至る。
 真妃乃の姿が見えない。
 おれは閉架図書の薄暗い部屋を後にすると、一心不乱に文芸部部室へ向かった。途中ですれ違った生徒が、体中に埃をくっつけたおれに不審な目を向けるのにも気にしない。
 おれはノックもせずに扉を開けた。
 真妃乃は目を見張った。
 そして、頬張っていたドーナツから口を放した。
 おれは爽やかな笑みを浮かべた。
 真妃乃も明るい笑みを浮かべた。
 おれは、真妃乃の後頭部に手刀を叩き込んだ。
「……ぇぅ!」
 今まで聞いたことのないか細い悲鳴が上がった。真妃乃はドーナツを手にしていない方の手で頭を抱えた。
「な、何するんですか、いきなり! 痛いじゃないですか?」
「人が埃まみれになってんのに、何一人でドーナツ頬張ってんだ、ああ!」
 おれは力の限り怒鳴った。真妃乃は小柄な体を震わせた。
「いや。先輩はきっとお疲れだろうな……なんて思い、このわたしが駅前まで行きドーナツを調達してきた次第であります」
「それで自分で喰ってたんじゃ説得力全然ないぞ」
 おれの鋭い眼光に、真妃乃はうっと怯んだ。
「……これは」
 真妃乃は目を泳がせた。
「毒見です」
「いや、多分毒は混入していない」
「先輩は多分、とかいう理由でお亡くなりになってもいいんですか? わたしは先輩のお身体のことを思って、こうして自らの身を挺して毒見をしているんですよ?」
 彼女は急にまくし立てた。
「大体、先輩は根拠もなく『多分毒は入っていない』と仰いましたが、果たしてそう言い切れるのでしょうか? 食の安全が脅かされている現在、わたし達が口にするものが本当に安全かどうか、消費者には一瞥しただけではわかりません。経済学で言うところの『情報の非対称性』がつきまとうんです。いくらトレーサビリティ ――追跡可能性が確保されても、損害を回避できないんですよ」
「おまえなあ。大体、追跡可能性が担保されていれば、ちゃんと毒が混入した過程だって追跡できるし、それで責任の所在が明らかになるじゃないか?」
「確かに、責任の所在は明らかになりますよ。トレーサビリティが担保されているんですから。ただ、もし毒が混入しようものなら、その頃には親愛なるわたしの先輩は時すでに遅し、天に召されているか、地獄に堕ちていることでしょうが」
「ああ、なるほどな。合点承知だ」
「わかって頂けましたか?」
 真妃乃は自説を唱え満足したのか、笑みを浮かべて幸せそうに別のドーナツを頬張り始めた。
 おれは彼女の笑みを見て、こちらも微笑ましくなって……真妃乃の後頭部に手刀を叩き込んだ。
「……ぉぅ!」
 どこかで聞いたことのあるか細い悲鳴が上がった。真妃乃はドーナツを手にしていない方の手で頭を抱えた。
「結局、呪術書捜索は全部おれに押し付けやがって! で、おまえは一人部室で優雅にドーナツ喰ってるってのはどういう了見だ!」
 おれは力の限り怒って、真妃乃の小柄な体を揺さぶった。
「いや、だから先輩にドーナツを差し上げに駅前まで行って来たんですよ。それで、毒見をしたんです」
 真妃乃は弁えている。繰り返しはギャグの基本だ。
 おれの突っ込みも真妃乃の返答も、よく訓練された応酬である。こうして、おれ達のコミュニケーションが築き上げられている。
 おれはとりあえず一通りの応酬に満足して、机に腰掛けた。
 真妃乃は箱からドーナツを取り出し、一口食べると皿に置いて、また箱から新しいドーナツを取り出した。
「あのな、一口だけ齧った食べかけを放置すんなよ」
「ああ、それは先輩の分ですよ。どうぞ召し上がって下さい。毒見は済ませておりますから」
「マジで毒見してんのか!?」
 おれは椅子を背後に倒すのも構わず立ち上がった。よもや本当に毒見をしているとは。
「毒見以外の何に見えましたか?」
 真妃乃は怪訝そうな顔でおれを一瞥した。
「……何、本当にくれるの、これ?」
 おれは皿に置かれた食べかけのドーナツを指差して言った。
「ええ、差し上げますよ。先輩へのご褒美と思って買ってきたものですから」
 じゃあ、食べんなよ。
「いいのかよ? これ千円くらいしたんじゃないのか……」
「ええ、ですが別にいいですよ。先輩はわたしのために埃塗れになってまで頑張って頂いたのですから」
 真妃乃はそう言って皿を差し出した。
 その笑顔を前にすると、なんだか本心からそう思ってくれているように思えた。おれは彼女の笑顔に免じて、皿を受け取った。なんだ、そういうことなら、おれも食べるにやぶさかでない。
 真妃乃はぼそりと呟いた。
「……わたしも食べたかったですし」
「やっぱそうだったかちくしょう!?」
 おれは怒鳴った。真妃乃は天真爛漫に笑った。
 腹の虫が収まらなかったが、目の前で真妃乃が酷くおいしそうにドーナツを齧っている姿を見ると、ここ数時間の重労働のせいか、腹が減ってきた。
 ここは、真妃乃の言葉に甘えて、ドーナツを頂くとするか。まあ、せっかく毒見もして頂いたことだし。
 そこでふとおれは動きを止めた。欠けた円を眺める。
 綺麗に残った真妃乃の歯型。その一口が小さいことが一目でわかる。そして、彼女の唇が触れたところが、つややかに光っている。
 不覚にも、心臓が高鳴った。
 なんてこった、よもやこのおれが後輩の歯型と唾液のついたドーナツ如きに胸を高鳴らせるなんて。
 しかも、これって間接キス以上の何かが得られてしまうんじゃないのか。おれの想像は留まることを知らない。
「……先輩、何ドーナツ相手に睨んでるんです? ドーナツが親の仇か何かなんですか?」
 真妃乃は形良く整った眉を顰めた。

 青かった空の色が深くなっていた。
 日も傾き出し、じりじりと地平線の彼方へと押し出されていく。
「結局見つかりませんでしたか」
 真妃乃は言った。その言葉からは残念がっている様子は見受けられない。
 おれは真妃乃と肩を並べて文芸部部室を後にし、藍色の空を背景にして帰路の途上にいた。
「では、引き続き捜索をお願いします」
「ちょっと待てや、こら!」
 おれは声を荒げた。
「おまえはどうした、おまえは!?」
「申し訳ありません。一年生は皆、土日に模試があるんです」
「ああ、そうなのか。じゃあ仕方ねえな」
「という訳で、件の捜索、よろしくお願いします」
 真妃乃は頭を下げた。
 おれは納得して、前を見据えた。天上に浮かぶ三日月が、親切にもおれに囁いてくれる。月は言っている、そこで納得してはいけない、と。
「……そんな訳あるかあ!」おれは怒鳴った。
「そこは普通、来週の月曜日にするか、捜索を諦めるところだろうが!」
「えっ!? でも先輩、わたしの差し上げたドーナツを快く食べていたじゃないですか?」
 真妃乃はうろたえたような身振りをしてみせる。
 もしかして、彼女が口にしたドーナツを食べたということは、おれが思っていた以上に深刻な意味があったのだろうか。
「お、おう。……それが?」
 おれは恐る恐る訊ねた。
 真妃乃は答えた。
「あれは、十日分の報酬の前払いでして……」
「……理不尽だっ」
 おれの労働の対価ってそんな安いの? おれは反射的に突っ込もうとして、寸前で思い留まった。
 ドーナツ十個千円。真妃乃の歯型と唾液はプライスレス。お金で買えない価値がある。真妃乃がドーナツを頬張る姿が脳裏で再生される。その情景は写真に収めておきたいと思う程、絵になっていた。
「すでに閉架図書立ち入りや貸出の手続きは済んでますから。あとは呪術書を発見するだけですよ、先輩」
 真妃乃はおれの手を取った。彼女の手のすべすべした感触に、おれは何故かどぎまぎした。
「先輩、わたしの目にははっきりと見えます。見果てぬ先で掴む、我が校伝来の呪術書が!」
 なんだよ、見果てぬ先って。
 目を輝かせる真妃乃を見て、おれは思わず溜息をついた。

 真妃乃と桜木町駅で分かれ、おれは今まで手にしていたが決して乗ることのなかったものを床へと放った。
 スケートボードだ。
 おれは力強く大地を蹴り出した。一歩一歩、着実に世界が流れていく。その一歩はとても小さいが、その積み重ねが時にとんでもない速さを生み出す。一度慣れればどんな乗り物にもないスケボー独特の速さが癖になる。
 普段は気にも留めない凹凸を活かして速さをつけていく。
 橋を渡って神奈川県庁方面の道路をスケボーで駆けていくと、見慣れた後姿が目に入った。
「水戸部」
 おれの声に、波打つ黒い長髪が揺れた。
 水戸部朱里(みとべあかり)の吊り目がちな瞳がおれを捉えると、穏やかな笑みを浮かべた。
「あれ、文芸部はどうしたの?」
「その帰りさ」
「やけに早いね。いつも真妃乃ちゃんに振り回されて遅めの帰宅なのに」
 水戸部はそう言うと笑った。おれは唇を尖らせながら自分の後頭部を乱暴に掻いた。
「どこの誰が真妃乃に振り回されてるって?」
「さあ、どこの誰でしょう?」
 水戸部は微笑んだ。笑窪が浮かんだ笑顔は、自然な表情の良さを如実に伝えている。
「今度は一体何をやってるの?」
「我が校伝来の呪術書捜し」
 水戸部は目を丸くすると、顔を綻ばせた。
「なんだか面白そう」
「水戸部もどうだ? 実際にやってみると、そうでもないことがわかるぜ」
「やめとくよ。せっかく二人でいるのに邪魔しちゃ悪いし」
 水戸部は悪戯っぽい笑みを浮かべた。普段の楚々とした雰囲気とは一味違った魅力に溢れている。
「それが生憎、一人でね。我儘な後輩は呑気にドーナツ頬張っててさ」
 おれは大仰に溜息をついた。
「あれでもうちょっと可愛げがあればなあ……」
「ふふっ。とか言って満更でもない癖に」
「……それは、ともかくだ。水戸部こそ、今日はやけに早いじゃんか?」
 水戸部はおれのクラスの学級委員を務めていて、放課後も忙しなく校内を行き来している印象が強い。
「うん、委員会合が早く終わったから。今日はゆっくり帰ろうと思って」
 おれは目を丸くした。水戸部は近年稀に見る優等生で、学校が終わったら図書室、図書室が閉まれば図書館へ行くような女の子だ。そんな水戸部が今日はゆっくり帰るだなんて珍しい。
「あ、そうそう。その会合でね、文化祭実行委員を決めなくちゃいけないんだけど……」
 おれは水戸部の話の概要を悟って、彼女の言葉を遮った。
「言っとくけど、おれは嫌だからな」
「だよね」
 水戸部は心底困ったという風な笑みを浮かべた。
「うちのクラスの男子、学校行事にあんまり協力的じゃないから。どうしようかな、あんまり日数ないし」
「確かにな。アイツ等、協力的じゃないどころか消極的にも程があるからな。それを思うと水戸部はとばっちりかもしれねえけど……ご愁傷様だ」
「本当にね」
 水戸部は笑ったものの、これから選出せねばならない実行委員の人選に頭を悩ませているようだった。
「いや、おれとしては……」
「あ、それは気にしないで」
 おれが取ってつけたように言い訳をしようとするのを、水戸部は制した。
「きみには色々と面倒事、押しつけちゃってる負い目、わたしも感じてるからさ。なんだかんだ言っても手伝ってくれるしね」
 水戸部はそう言うと、穏やかな微笑みを向けた。
 そんな笑みを浮かべられると、まるでおれが彼女に言わせてしまったかのようで、逆に辛い。
「……まあ、今まで通りでいいってんなら、陰ながらではあるけど、手伝ってやらないこともないけどさ」
 紺色に変わりつつある空を見上げて、おれは言った。
「ありがとう。そう言ってくれると思った」
「……おまえなあ!」
 おれは眉を思い切り寄せた。どうも最近女に振り回されているような気がしてならない。
「まあ、そう言うことだから。一応、心に留めておいて」
 水戸部の朗らかな笑顔に、おれは黙って頷いた。

 夢を見た。
 真妃乃が出てきた。
 夢の中だと言うのに、真妃乃は普段通り、年上のおれをからかっては笑った。
 その笑みの中でやたらと彼女の柔らかそうな唇と白く揃った歯ばかりがクローズアップされるので、自己嫌悪に陥った。
「……馬鹿みたいだ」
 ていうか、「みたい」じゃない。
 馬鹿だ。
 おれは自分の髪をぐしゃぐしゃに掻きむしった。今見た夢に、深い意味はないはずだ。
 深い意味があって堪るか、断じて。



 朝日はいい。
 壮大な一日の始まりに相応しいオープニングだ。
 特に気に入っているのが、休日の日の朝だ。白紙の一日をどう自分色に染め上げるか、思い悩むことができる。
「っていうのによぉ……」
 残念ながら、おれは一人スケボーに乗り、地面を蹴って学校へ向かった。言うまでもなく真妃乃直々に依頼された謎の呪術書の捜索だ。
 スケボーから降りて学校まで伸びる坂道を上っていると、見慣れた後姿が視界に入ってきた。
「休日出勤とは御苦労さんだな、水戸部」
 声をかけられて振り返った水戸部は、柔和な笑顔で応じた。
「きみも御苦労様。お互い大変ね」
「おれはともかく、水戸部に休日はないのか? おまえいっつも学校にいるじゃん」
「家だと気が散って勉強できないタイプだからね。こうして学校に来て勉強することにしてるの。今日は真妃乃ちゃんと本探し?」
「半分正解ってとこかな。本探しだよ……一人で」
 水戸部は噴き出した。血色のいい唇を白い手で覆った。
「笑うんじゃねえよ!」
「……本当に、ご愁傷様だね」
 何が悲しくて一人寂しく書庫で埃塗れにならなきゃならんのか、わからない。理不尽にも程がある。
 せめて、真妃乃と二人で捜索するのであれば、どんなに良かったことだろう。年下の癖にやたらと生意気だが、整った容姿と愛らしい仕草でその旨を良しとしよう。良しとしようって言ってんのに、本人は模試で欠席だ。不条理で理不尽だ。
「じゃあ、あとで書庫の方に行ってみるから。お仕事頑張ってね」
 水戸部はおれの肩をぽんぽんと叩くと、身体を震わせて笑った。

「……納得いかねえ」
 おれは埃と格闘しながら、粛々と本の発見という職務に努めていた。
 しかし、おれの身体が灰色一色に染まろうとも、呪術書の「じゅ」の字出てくる気配がない。
「所詮、噂は噂ってことか」
 思わず額に手をやった。
 汗が雫になって零れ落ちた。外は肌寒くなったというのに、おればかりが熱くなっている。
「程々で手打ちにして、休日を満喫しようかな」
 そもそも存在自体が定かではない呪術書相手に、貴重な土日を費やす事もないだろう。真妃乃がおれの働きを調べようにも当人は大手予備校の模試を横浜か関内で受けているだろうから、確認できまい。
 真妃乃は成績優秀で品行方正な生徒だ。模試をサボって駆け付けるとは思えない。
 ならば、迷ってはいられない。
 時は金なり。
 おれは捜索を断念し、休日を心行くまで謳歌することに決めた。

 もし、おれが捜索を断念しなければ、運命は変わっていたのかもしれない。
 それとも、その時おれが取り得るどんな選択をしていても、おれはその本に出会っていたのだろうか。
 もしも、そうだったのだとしたら、おれの望みも願いも罪も絶望も、全てが己の定めだったというのだろうか。
 避ける事の出来ない宿命があるとすれば、おれの意思はどこへ帰結していくのだろう。

 漁っていた本を本棚に戻していると、不可解な本が現れた。
 本棚にどうしても入らない一冊が出てきたのだ。
 最初は本を抜いたり入れたりして、どうにか本棚に収めようとしたのだが、上手くいかない。
 隙間なくきっちり本が並んだ棚を前にして、おれは顔を曇らせた。
「なんで一冊余るんだ?」
 おれはしげしげと目の前の本を眺めた。
「てか、そもそもこんな本あったか?」
 本棚に入らない本という存在も不可解ながら、その本自体も実に不可解だった。アルファベットのようでありながら、似て非なる言語で記された背表紙。西洋を思わせる古臭い紋章や記号が並んでいる。
「……まさかまさか、この本が噂の呪術書だったりするのか?」
 まさか、である。
 というか、もしお目当ての物なら遅えよ。
 おれは外身をそっと取り出すと、本を開こうとした。
 呪術書捜索は諦めていたはずなのに、おれの手は自然と動いた。長年閉じられたままになっていたからか、上手く開かない。頁と頁がくっついているのかもしれない。
「くそっ、こんにゃろ!」
 おれはムキになって爪を立てて、半ば強引に頁を開いた。
 空気が震えた。
 次の瞬間、本の重量が途端に増して、おれは思わず本を落としてしまった。開いた頁に書かれている意味不明の言語の羅列が揺らぎ、目の前の空間を湾曲させる。
 眼下に広がる不可解な光景に、おれは目を見張った。ブザーのしらせもなく唐突に映画が始まってしまったかのような感覚に驚いた。目を擦ったが、それでもなお空間は揺らめいている。
 次に頭を叩いたが、依然おれの前には巨大な水泡が浮かんでいるように世界が歪んでいた。
 その内、その揺らぎが収まっていき、像を結んだ。
 短髪であるが、側面だけ少し長く伸ばした髪。一年年下ということもあって華奢な体躯。紺色のセーラー服から伸びた血の気の薄い四肢は、白いタイと同じ色をしている。
 米原真妃乃と瓜二つの少女が目の前に現れた。
 ただ、おれの知っている真妃乃と違う点。
 それは、髪の色が灰色で、瞳の色が血の様に真っ赤であるということだった。
 目の前の少女が口を開いた。
「……ああ、良く寝た」
 真妃乃の声そのものだった。



 人間は自由に呪われている。
 おれ達は真理も正義も絶対の価値観も有しないまま、常に決断を迫られている。
 そして、その決断には責任が伴う。おれ達は自由を『強制』された挙句に、選択に対して責任を持たなくてはならない。
 だが、おれは自分の行いに対して、責任なんてものを取れる程、大人じゃなかった。

 突如として現れた米原真妃乃のそっくりさんに、おれは腰を抜かしていた。
 おれは目前で起こった超常現象に茫然としていた。
 百聞は一見に如かず、などと人は知った口をきくが、俄かに信じられない事実を前にして、人間はただ口を開けっぱなしにすることしかできないんじゃないかと思う。
 ちょうど、今のおれみたいに。
 目と鼻の先に佇む、だるそうな真妃乃そっくりの少女の手から、先程の歪んだ空間が現れる。その空間に赤い瞳の少女がまるで鏡の様に写り込む。
「なかなか可愛いじゃないの。わたしの新しい顔は」
 真妃乃と同じ顔をしながら、浮かべる笑みは今までおれが見たことのない笑みだった。口の端を持ち上げて微笑む表情だ。
「で、どうやらわたしの封印を解いたのは、あんたみたいね」
 赤い瞳を燦々と輝かせた。
 その目はやけにぎらぎらしている。凶暴な目つきで今にもおれを殺気で仕留めようと企んでいる様だった。
「……なんだよ、おまえは?」
 口の中が乾いて、上手く喋れない。
 彼女は口を開いた。色っぽい唇が動くだけで声は出てこなかった。
「今、なんて言った?」
「どうやら、術の類は使えないようね。まあいいわ」
 彼女の赤い瞳が炯々と光った。
「わたしの封印を解くなんて人間風情が生意気よ……と言いたいところだけど、今日のところは許してあげる」
 彼女はそう言うと、ふうっとおれの頬に息を吹きかけた。背筋を凍らせる冷たい吐息に、おれは気を失いそうになった。

 皮肉な事に、おれは呪術書捜索を諦めた途端、目的の呪術書を発見してしまったようだ。しかも、おれは知らぬ間に呪術書に封じ込められていた何かを呼び覚ましてしまったらしい。
「じゃあ、おまえはあの本に封印されていた『魔女』だって言うのか?」
「さっきからそう言っているでしょ?」
 耳にすることができない名を有する彼女は言った。
「じゃあ、魔法とか使って空を飛んだりするのか?」
「魔法も何も、わたしは普通に浮く事ができるわよ」
 彼女の身体は、予備動作もなく唐突に、そして呆気なく宙に浮いた。
「わたしの身体はここにはないわ」
「馬鹿言うな。現に、こうしておれの目の前にいるじゃないか?」
「これを見てもそう言える?」
 彼女はそう言うと、手を掲げた。
 そして次の瞬間にはおれの頬を捉えていた。綺麗なまでの平手打ちだった。
 白い泡が爆ぜた。
 おれは反射的に目と瞑っていた。しかし、おれを襲うはずの衝撃も痛みもない。
 恐る恐る目を開いた。おれの頬を叩いたはずなのに痛みはなく、ぶつけられたはずの彼女の指がなくなっている。
 さっきまで彼女の指だった何かが、無重力空間に漂う液体の様に泡立っている。その泡が集まって、彼女の指があるべくしてそこにある、といった風に組み上がった。
「わたしは実体をもって存在しない。わたしはあんたの頭の中にいるの」
 そう言って、彼女はおれのこめかみを指差した。
「じゃあ、今おれが見ているおまえの姿は?」
「ただの虚像よ。あんたの脳が生み出した、偽りの映像。わたしの姿も声も、あなたの脳の中で作り出されているだけのね」
「……信じられない。おれの頭はおかしくなったのか?」
 おれは思わず頭を抱えた。
「それよりもあんた、わたしを蘇らせた以上、守ってもらいたいことがある。いいかしら?」
「な、なんだよ?」
 魔女は口を開いた。
 ついつい口元に視線が行ってしまう。なまじ真妃乃の姿をしているからだろう。自己嫌悪に陥った。
「わたしを封印していたその呪術書。出来得る限り近くに所持すること。そして何より大事なことは、絶対に水につけたら駄目よ。そうしたら、わたしはあんたの頭の中から消えてしまうから」
「ああ、そういうことなら了解した」
「ならよろしい」
 魔女は笑った、人を取って喰うような笑みで。
「ただ、一方的に守れって言われても、インセンティブが働かないと困るわね。些細なことでわたしは消えたくないし。あんただって、一文も得がないのはつまらないわよね……」
「え?」
「取引と行きましょう」
 おれは目を瞬かせた。
 唐突な魔女の言葉についていけない。いや、最初からあんまりついていけてない様な気がするけど。
「あんたは呪術書を死守することを条件に、あんたの願いを叶えてやってもいいわよ。好きなだけね」
 おれはまともなリアクションを取ることができなかった。
「な、何それ?」

 今までおれが生きてきた世界はどこへ行ってしまったのだろう。
 おれは今、未知なる遭遇において案山子のように突っ立っているだけだった。動き始めた世界のうねりに対して、ただ傍観者でいた。
「わたしの喋る聞き取れない『言葉』は、世界の理を司る小人を動かすことができる。小人が働くことで世界が動き出して、あんたの願いを叶えてやることができる。そういうことよ。理解できた?」
 おれは頷いた。
 魔女の言っていることはわかる。しかし、魔女の言っていることを無批判に受け入れることには躊躇われた。
 もしこの魔女が不思議かつ不気味な雰囲気さえ纏っていなければ、おれはこいつを精一杯罵倒したことだろう。嘘だとか有り得ないと言った言葉で唐突に宗旨替えした世界から目を背け、拒絶することができた。
「ただし、呪術書が水に触れた時点で、呪術書は消滅する。わたしという存在が消えれば、もうわたしが小人を動かして願いを叶えるなんて芸当もできなくなる。そんなの嫌でしょ?」
 おれはこくこくと顔を上下させた。
「ならよろしい」

 魔女は封印を解いて貰った礼に、世界の理を司る小人を動かすことで願いを叶えてやるという。
「願いって言ったけど、本当になんでも叶うのか?」
「世界の理って言っても、無理なものは無理だけどね。叶うも叶わないもあんたの願い次第ってことよ」
 おれは眉根を顰めた。
「おれの命や魂と引き換えに、とかそういうのはないよな?」
「ないわよ。小人は何も求めやしないもの。ただ、わたしという存在が消えれば願いを叶えてあげることができなくなる。どうせなら、あんただって、この世の中、ラクして生きていきたいと思うでしょ? だからあんたは魔術書を水に濡らさない。あと極力身近に置く。これだけをしていればいいわ」
 魔女は笑った。
 その笑みも恐ろしいまでに冷たい。真妃乃の顔をしていながら、全然真妃乃っぽさの欠片もない。
「そう言えば、なんで真妃乃の顔をしてんだ? それとも、他の姿に変えられるのか?」
「あんたが脳裏に強く描いていた像だから。あんたの脳裏に描かれている像であれば、基本的に他の姿にも変えられるわ。もっとも、その像を維持するのは、あんたの脳にとって負担になるから、一番負荷の軽い像でいるって訳」
「ああ、そうなんだ」
 おれは納得した後、頭を抱えた。おれは、こんなにも脳裏に強く真妃乃の像を思い描いていたのか……!?
 恥ずかしい気分で一杯だった。魔女はそんなおれを実に楽しそうに見ていた。
 唐突に、戸がノックされる。
 がらがらという音がして、戸が開かれた。おれが視線を向けると、水戸部が柔和な笑みを浮かべて立っていた。
「お目当ての本は見つかった?」
 水戸部の何気ない言葉に、おれは戸惑った。
 一拍してから、魔女の言葉が思い浮かぶ。おれの頭の中で浮かび上がった虚像。魔女の姿も言葉も、水戸部は捉えることができないようだった。
「あんまり事を大きくしないでくれる?」
 魔女は釘を刺す様に言った。人を凍らせる冷たい言葉遣いだが、やはり水戸部には届いていないみたいだった。
「いいや。ちょうど今諦めたところさ」
 おれは努めて冷静に答えた。
「そうなんだ。でも、真妃乃ちゃんに怒られない?」
「多分大丈夫だ。アイツ、気紛れだし」
 おれはなるべく水戸部を見つめる様にして話す。真妃乃姿の魔女が漂っている光景は、現実離れし過ぎていて到底受け止められない。
「そうだ。あんた、わたしのこと疑ってるでしょ? わたしが小人に働きかけて彼女にしてもらいたいことを、叶えてあげてもいいわよ」
 魔女は笑みを浮かべながら言った。その笑みは真妃乃や水戸部のものとは違い、温かみに欠ける笑顔だった。
 おれはうっかり返答しようとして、固く唇を噛み締めた。魔女に対して発言したところで、水戸部にとっては魔女の声も姿も捉えられない以上、おれの独り言になってしまう。
 しかも、彼女に対しての願いを彼女の目の前で呟くとか、言語道断だ。
「別に遠慮することはないわよ。もし差し障りがあるんなら、その辺りも小人に働きかけてもいいわ」
 おれは戸惑った。
 別に魔女の言うことを、信じていない訳ではない。
 不可解な現象であり受け入れがたい事実ではあるものの、こうしておれの目の前に現れた以上、おれはどこかでこの不可思議を受け止めねばならない。
 ただ、どうしても最初の一歩が踏み出せないのだ。
「あら、どうしたの? わたしの言っている事が真実かどうか、確かめる絶好の機会じゃない?」
 せっかく視界から外しているというのに、後輩と酷似した容姿の魔女はおれの視界に割り込むように宙を漂っている。
「み、水戸部……」
 おれは意を決して声を出した。
 が、語尾は消え入りそうだった。
 そうだ、存在しない本を探すという重労働に、脳が過負荷に耐えられなくなって幻覚を催しているのかもしれない。
 ならば、おれは確認せねばならない。自分が正常であるかどうかを。
「ん、どうしたの? 急に改まって」
「お、おれに……」
 おれは水戸部に何かを言おうとした。おれの水戸部に対する願い。色々と思うところがあったはずなのに、土壇場になると頭が真っ白になる。
 水戸部の怪訝な表情。ちょっと小首を傾げてながらも、おれの言葉を何も言わずに待っている。ああ、そんな姿もまた可愛らしいな……。
「だっ、抱き着いてくれても構わんぞ!」
 声を大にして叫んでから、おれは激しい自責の念にのた打ち回りそうになる。
 なんだよ、抱き着いてくれても構わんって!?
 そんな言葉を同級生の女の子に言うなんて、おれはまったくもって正常じゃない。いや、健全な男子高校生かもしれないけど。ある種、自分の欲求に正直なのかもしれないけど。
 その発言はないだろうよ、このおれ。
 果たして、水戸部はその発言に唖然として、唇を無防備に開けている。彼女もまた、言葉を脳内でうまく処理できていないように思える。
 できれば、そのまま右から左に流して頂いて、今の発言がなかったことになってくれることを、おれは切に願った。
 ああ、おれは馬鹿だ。大馬鹿者だ。死にたい。
 おれは激しい後悔に苛まれながらも、先程まで視界に漂っていた魔女の姿を探した。
 しかし、真妃乃の顔をした赤い瞳の魔女の姿はどこにもいない。
 おれは項垂れた。
 なんのことはない。結局、おれの壮大な勘違いだった。おれは自分で自分を正常だと思っていながら、全然正常じゃなかったのだ。激しい現実逃避が生み出したまやかしに踊らされていただけだった。
 さて、過去は過去だ。これからどうやって自分の失言をリカバーしようかと、前を見据えた、その時だった。
 穏やかならがも強い力に胸を押された。おれは不意の衝撃に対応できず、強かに地面に背骨を強打した。脳裏に星が瞬いた。
 次に襲った感覚は、息苦しさ。肺を優しく圧迫されて、おれは思わず咳き込んだ。
 最後に襲った感覚は、多幸感だった。シャンプーか、あるいはリンス、もしくはボディーソープ、でなければ香水か……、とにかく清潔感ある優しい香りがおれを包んだ。
 身体に圧しつけられた、今まで味わったことのない存在感を有する大きな二つの膨らみの、柔らかさと温かさ。服を介してほのかに伝わってくる、温かいぬくもり。首筋をくすぐる甘い吐息と、おれの首元に乗っかった瑞々しい唇。
 おれの脳はようやく職務を開始した。おずおずと上体を起こすと、おれは息を飲んだ。
 水戸部がおれの身体の上に覆い被さっていた。
「……なんだ、こりゃ?」
「何よ、あんたが言ったからやったんじゃないの?」
 真妃乃の声だが口調は冷めている。おれが頭上を見上げると、そこには魔女の姿が浮いている。
「抱き付けって言ったのに……、押し倒されてどうすんのよ?」
「……う、うるさい!」
 おれは魔女の攻撃に構わず、おれの身体にしっかり抱き着いて離れない水戸部の様子を窺おうとした。
 しかし、おれの視界からは、水戸部の豊かな長髪が広がるだけで、その表情を窺い知ることができない。
「おい。大丈夫か、水戸部?」
 おれは水戸部の肩を抱き、身体を起こさせる。そこでようやく、水戸部の顔を見ることができた。
 普段の水戸部からは想像できない、弱々しくて、儚いはにかみがそこにはあった。幼い子どもが親に抱き着く様な理屈で、そこに嫌らしさや後ろめたさは漂っていないはずだ。
 なのに、その姿はひどく無防備でおれの心を大いに揺さぶった。普段清楚な水戸部からは予想だにしない、どこか色っぼい面に困惑した。
 しかし、水戸部の呆けた顔に、本来の表情が戻ってくる。おれの背中に回していた手を額に当てて、水戸部は苦しげに息を吐き出した。
「……えっと、大丈夫か?」
「え、何が?」
 そう言って、おれの瞳を見つめて初めて、水戸部は自分が置かれている状況を理解したように見えた。
 埃っぽい閉架書庫の中で、仰向けに倒れているおれ。その上に隙間なくぴったりと覆い被さって頭を抱えている水戸部。
 水戸部は悲鳴とともに上体を起こした。ようやくおれは水戸部の軽過ぎる体重から解放された。
「ごっ、ごめんなさい! わたし、そんなつもりは全然……」
 水戸部は顔をこれでもかというほど真っ赤に染めて、両手を大仰に使って釈明する。
「えっ! ああ、うん……」
 おれもつられて上ずった声を上げてしまった。
 気まずい。
 激しく、気まずい。
 水戸部は頬や耳を真っ赤にして、俯いてしまっている。華奢な身体をこれでもかと縮めている姿を見て、なんだか悪いことをしてしまったと思った。
「あ、いや。いいんだよ、おれも変な事言っちまったし」
 おれはいたたまれなくなって頬を掻いた。
 さて、どうやってこの事態を乗り切ろうか、おれは脳を回転させることに努めた。
 しかし、水戸部は息を飲んで驚いたようだった。
「え? なんて言ったの?」
 おれは逆に、水戸部のその言葉に驚いた。
「……もしかして、覚えてないのか?」
 水戸部はこくこく頷いた。
「いや、きみが何かを言ってくれたのは覚えているの。だけど、どうしても思い出せないの。それがなんて言葉だったのか。それと……あの、どうして、わたしが、その……」
 水戸部は顔を俯かせた。
「……抱きついちゃったのかも」
 水戸部の表情は伺い知れないが、普段は白い耳がこれでもかと赤くなっている。
「あ、いや。それはいいんだよ。ほら、おれと水戸部の仲だし」
 おれが精一杯の強張った笑みを浮かべて言うと、彼女も強張った笑みを浮かべた。

「信じて頂けたかしら?」
 魔女は非常に嫌らしい笑みを浮かべた。心の底から、人の不幸を楽しんでいる様な笑みだ。
「……ああ」
「なのに浮かない顔ね。ご希望通り、抱き着かれたばかりか押し倒されたっていうのに」
「それを言うな、それを!」
 おれは頭を抱えた。
「我ながら、もっとマシな願いにしておけば良かった」
 別に、水戸部に抱き着いて貰えたことが嬉しくなかった訳じゃない。
 むしろ、水戸部に抱き着いてもらえ、しかも押し倒されちゃった日には、死んでもいいと思っている男子生徒はごまんといるはずだ。
 だが、ならば何故こんなにも恥ずかしい気持ちになるのか。何故、心のどこかで晴れやかな気分にならないのか。
 むしろ、おれは今激しい後ろめたい気分に苛まれていた。
 そして、あったはずだ。もっとスマートな真偽の検証のやり方が。
「でも、あんたの後輩、ちょっと厄介そうね」
「なんだよ、いきなり」
「わたしの封印されていた呪術書を探しているんでしょ? わたしとしては余計な面倒事にはあまり関わりたくないわ。だから、その子には黙っておきなさい」
「ああ、言われなくてもわかってる」
 もし真妃乃にこれを見せれば、とんでもないことになるかもしれない。それは別に、真妃乃に悪意がある訳じゃない。むしろ、純粋無垢なる善意が問題なのだ。興味本位で濫用して、世界が真妃乃の思い通りになったとしたら。世も末かもしれない。
 もっとも、水戸部相手に「抱き着け」なんて言ったおれが、濫用云々言う資格はとうにないような気もする。残念ながら。
「でも、小人に頼むとか言ってる割には、凄いあっさりしてるんだな」
「そりゃそうよ。あっさりも何も、あんたにはわたしの『言葉』は聞えない訳だし」
「おまえが小人に頼んでる時、姿が見えないのもそのせいか?」
 魔女は怪訝そうな顔をした。
「姿が消えてたの?」
「ああ、どこにいるのかわかんなくなった」
 魔女は形良く整った顎に手をやった。校内でも噂される美少女である真妃乃の姿なので、そういう仕草も実に絵になっている。
「消えているつもりはないけれど……。あんたの脳に像を作り出す作用が弱まってしまうのかもしれないわね」
 おれは曖昧に頷いた。
 よくわからない事に対して説明を求めるべきじゃない。どうせ、理解に苦しむだけだ。おれはその点、よく弁えているつもりだ。
「まあ、とにかくよ」
 魔女はおれに向かって手を差し出した。
「これから長い付き合いになりそうだから。よろしく」
 おれは頷いた。
「ああ」
 そして差し出された魔女の手を掴んだのだが、おれの指が触れた途端、その像が曖昧に歪んだ。



 月曜日は退屈なホームルームから始まった。
 文化祭実行委員の人選が俎上に上がった。無論、自ら進んで手を上げるものは誰もいない。
 いつも朝礼では解決せず、昼休みを潰して放課後に善良な男子生徒か低レベルな我慢比べに負けた奴がやる。
 他の雑務の押し付けとなんら変わりない不変の法則に従って、今日もまた朝一番から不毛な議題に時間を費やしていた。
 クラスの男子は嫌そうな顔を余すところなく曝け出し、「おまえがやれよ」という無言の圧力をかけあっている。そうやって、良い感じに良心ある人間に日々の鬱陶しい仕事が極めて民主的に、極めて「自発的」に押し付けられていく。
「月日が流れようとも変わらない、普遍性があるわね」
 魔女は一人教室の上に漂って、そんなことを言っている。動物園で檻の外から奇想天外な生き物の生態を見て感心しているようだった。
「で、どうする? 世界を動かす小人さんに頼んでみる?」
 魔女は言った。その口調はどこか事務的で冷たい。
 ちょうどそのタイミングで、クラスでも極めて素行の悪い男子が「多い勝ち」で決めようなどと言い出した。
「多い勝ち」は極めて「民主的な」決定方法である。グーかパー。参加者は「多い勝ち」という言葉に合わせてどちらかを出せばいい。そして、少ない方を出した人間が負け。負け続け、最後の一人になった者が、名誉ある文化祭実行委員会の称号を得ることができる。
 なんのことはない、今日も世界中のどこかで行われている多数の横暴が今日ここでも行われようとしている、というただそれだけのことなのだ。
 皆一応に渋い顔をする。最初にどちらを出せば、この不条理なゲームから降りることができるか知っている奴等だけが笑みを浮かべている。嫌らしい笑みだ。
「いつものあんたなら、この理不尽なゲームに参加せざるを得なかった。不条理だと言いながら、結局誰かが割を食う羽目になる」
 魔女は高らかに謳った。
「だけど、今のあんたは違う」
 おれは目を伏せた。
 今のおれには、力がある。世界を司る小人に働きかけて世界を変える力を持つ魔女がいる。おれが一声上げれば、それでこんな不条理なゲームは終わりを告げる。
 なら、おれは今、何をするべきだろうか。今までのように何もしなくても良いのだろうか。そんなことはない。むしろ、力がある今だから動くべきだ。
 おれは宙を漂う魔女に目配せをした。魔女はふふんと笑ってみせる。
「こうやって昼休みも放課後も潰すのタリいじゃん? だからさっさと決めちまった方が……」
「じゃあ、おまえがやれよ」
 おれはへらへら笑いながら喋り倒している男子を遮って言った。
 クラスがしんと静まり返る。おれに向かって多くの視線が集まった。
 おれの向う見ずな言葉を非難している目、いいぞよく言ったと背中を押す目、これから起きる騒動に想いを馳せて輝かせている目。
「……てめえ、何様だよ?」
 へらへら笑っていた男の取り巻きの一人がおれを睨んだ。日直もやらなければ掃除当番にも顔を出さない集団を構成する男は、おれに対して苛立ちを隠す事なく放射してくる。
「そういうおまえが何様だよ? たまには学校行事の一つや二つでもやってみればどうよ?」
 椅子がひっくり返った。
 取り巻きの男が目を怒らせて立ち上がると、おれの胸倉を掴みかかった。男子が息を飲み、女子が声を悲鳴を上げた。
 動向を見守っていた水戸部が思わず両者に割って入ろうとする。
 しかし、取り巻きの男がおれに対して手を上げることはなかった。取り巻きの男の肩に、手が置かれている。
「わかったよ。やってやるよ」
 先程「多い勝ち」を提案した男子が、取り巻きの男を押さえ込むとそう呟いた。
「あ? おまえ何言ってんだよ? なんでそんなクソ面倒な事やるんだよ?」
 取り巻きの男は、訳がわからないといった風で「多い勝ち」男子に詰め寄った。
「うるせえな。てめえも手伝えよ」
「多い勝ち」の男子がどこか気だるそうな口調で呟くと、取り巻きの男は急におれを掴んでいた腕を引っ込めた。取り巻きの男も急に覇気がなくなった。
「ああ、そうだな。手伝おう」
 男達は訳が分からず立ち往生し、女子は何やらひそひそと囁いている。
 こうして、不毛な議論は決着した。
 おれが教室の上を見上げると、真妃乃姿の魔女が楽しそうに口笛を吹いていた。

 昼休み。
 おれは一人教室を抜け出すと、屋上へ向かった。
 向かうのは、普段から立ち入り禁止になっている区画の屋上だ。非常階段を上って行って、ドアを強引によじ登る。
 どうしても、一人になる必要があった。自分以外の誰もいない事を確認して、おれは笑った。
「凄いじゃないか、ええ?」
 おれの声に反応して、真妃乃の顔が青い空に浮かんだ。ただし、灰色の髪に赤い瞳をした脳内映像だ。
「恩に着るぜ、魔女さんよ!」
 おれは精一杯の賛辞を送る。魔女はふふんと鼻を鳴らして胸を張った。
「わたしにかかれば御茶の子さいさいよ」
「小人さんだかなんだか知らねえけど、これは凄え力だ」
 おれは惚れ惚れとした目線で魔女を見つめた。魔女はその視線を当然のものとして受け取った。
「で……」
 おれは咳払いをした。
「本当に対価はないんだな? おれが地獄に堕ちるとか、命が削られるとか?」
 魔女は深々と溜息をついた。
「何度も何度も言わせないでくれる? わたしが小人に働きかけるのに、支払うべき対価なんて存在しないわ。あえて言うなら、あんたは呪術書を水から守るくらいで」
 魔女は眉を吊り上げた。
「そんなに地獄に堕ちたいんだったら、堕として差し上げましょうか?」
「いえ、結構です……」
 おれは両手を揚げた。
「何、あんた、信じる宗教でも持ってるの?」
「え、宗教? まさか! おれは無宗教だっての」
 魔女はおれの答えを聞くと、高らかに笑いだした。人間性が垣間見える、人を心行くまで見下した高飛車な笑い声だった。
「なんで馬鹿笑いされなくちゃならんのだ?」
「なんで宗教を信じていないのに、地獄だとか言い出すのよ? 馬鹿じゃないの!?」
 姿だけでなく声まで真妃乃と同じため、まるで真妃乃に爆笑されて嘲笑われているようだった。納得いかない。
 だが、確かにおれは無宗教のはずなのに、この魔女との契約によって地獄に堕とされる姿をありありと思い描けてしまうのは何故だろう。
 やはり、この魔女の本性が悪魔であってもさもありなん、と言った性根の曲がり具合をしているからだろうか。
「そうだ、魔女さんよ。地獄に堕ちるかどうかはともかくとして。地獄ってあんの?」
「さあね」
 魔女は鼻歌を歌った。
「でも、おまえを見る限り、魔界とか天国とか、地獄があっても不思議じゃない様な気がする……」
「それは論理の飛躍よ。それにわたしが世界に対して、例外中の例外かもしれないじゃない? そういう可能性を考慮しないで決めつけるのは感情的だと思うわよ」
 おれは適当に相槌を打った。
「ま、それもそうだな。天国や地獄があるかどうかは、死んでからでもわかるし」
 おれは青い空を眺めた。
「それにしても、なんでおまえはおれに対して協力的なんだ?」
 おれの問いに、魔女は笑った。
「面白いからに決まってるじゃない」
 おれはその言葉に渋い顔になったに違いない。
「わたしは小人を介してしか、現実に介入できないからよ。だから、あんたの願いに合わせて小人に働きかけて、この世を精一杯満喫するのよ」
 魔女は笑いながら言った。
「つまり、あんたはわたしにとって、格好のエンターテイメントって奴なのよ」
「そんなにつまらないなら、おれの願いなんて聞かずに、小人に訴えかければいいんじゃないのか?」
「馬鹿ね。それじゃあつまらないって言ってるのよ」
 魔女は腹に手を当てて、笑いを堪えているようだった。
「自分でクリケットをするのと、クリケットを観戦するのは違うでしょ? そういうことよ」
「へぇ……」
 おれは頭上を見上げた。青い空がのんびりと広がっている。
「もう一つ、聞きたいことがある」
 魔女は笑みを消した。
「……何よ?」
 おれは真顔で問うた。
「……クリケット、ってなんだ?」

「諦めるのが早過ぎます」
 真妃乃は断言した。
 眉を凛々しく上げた顔は非常に勇ましい。戦いを司る女神のような強さと美しさを共に纏っている。
 ある日の放課後、おれは真妃乃の追及に頭を悩ませていた。
「先輩、三日坊主は悪い癖です。時間をかけて丁寧に探さねば、見つかる物も見つかりません」
 土日の模試が終わった月曜日。普段と変わらぬ文芸部部室にて、真妃乃は言った。
「おまえなあ、そんなに言うんだったら、なんで手伝ってくれないんだよ?」
 真妃乃は力強く言った。
「埃塗れになるのが嫌だからです」
「おれだって嫌だよ! 開き直りやがって!」
 おれは危く読んでいた中島敦全集を放り投げてしまうところだったのをどうにか押さえ込む。
「一体先輩は何に不満なんです? それとも、そんなにわたしと一緒に呪術書捜しがしたいんですか?」
「何故そういう解釈になる!? そもそももう呪術書捜しはもう良いだろ? 納得がいかないんなら、後は自分で調べろよ。おれは止めんが、手伝いもせんからな」
「しかし、それではわたしの方が、納得がいきません」
「そりゃ、我が校伝来の呪術書がなかった、なんて言われるとがっかりしてしまう気持ちもわからんでもない。そうかもしれないけどさ……」
「いえ、十日分の報酬を事前に支払ったのに三日程しか働いてくれない先輩に憤っているのです」
「そっちかよ!」
 おれは声を大にして叫んだ。
「そんなに怒るんだったら、今度何かで埋め合わせするから」
「『今度何か』ってなんですか? そんな曖昧な表現で、本当に代替案を実行して頂けるのか、大いに疑問ですね」
 真妃乃は追及の手を緩めない。なんでおれが追及されているのか、甚だ納得できないけど。
「じゃあ、どうすれば諦めてくれる?」
 真妃乃は大いに唸った。
「そうですね、呪術書を目の前に持って来て頂ければ、諦めましょう」
「それって意地でも持ってこいって意味か!? おまえ、おれの話聞いてんのか?」
「聞いていますよ」
 真妃乃は間髪入れずに言った。
「……話半分に」
「ちゃんと聞けよ! 半分と言わずに全部聞けよ、こら!」
「嫌ですよ」
「嫌!?」
 真妃乃は心底嫌そうな顔をした。おれは衝撃を受けた。この後輩は本当におれに対して容赦がない。
「どうするの? 彼女の呪術書に関する関心が無くなるよう、小人に働きかけようかしら?」
 埒が明かないと判断したのか、魔女の囁きにおれは首を振った。
 そこまでしなくても良いだろう、とおれは思った。
 彼女の興味関心にいちいち小人にお伺いをかけていたら大変な事になる。どうせ、すぐに真妃乃の関心は他の物に移る。
「あんたがそう言うならいいけど。他にないの? この娘に対する願いとか願望は?」
 おれは顔を顰めた。
 真妃乃の声でそんなことを言われると、なんだか変な気分に陥る。真妃乃がまるで自ら誘っているようで、おれの心をざわつかせた。
「前の子みたいに、抱き着かせることもできるのよ?」
 魔女の揶揄する様な言葉を、おれは聞かなかった振りをしてやり過ごす。胸を渦巻く葛藤が、おれを欲求通りに動かすことを必死に制していた。
「別に対価は必要ないっていってるのに。変なところで意地っ張りなんだから」
 魔女はむくれた。
 おれは溜息をついて、真妃乃に向き直る。真妃乃は天井を見上げていた。
「ひょっとして、先輩にはわたしの背後霊とか見えたりするんですか?」
 真妃乃はそんなことを言っている。
「幽霊までいて堪るか!」
 おれは声を荒げた。



 おれの日常も、おれの世界も、全ては順調だった。
 魔女に頼めば、教師から試験の内容を事前に手に入れることができる。お陰で開校以来誰も至ることのなかった百点満点の境地に達した。
 面倒な掃除当番も他の人がやってくれる。しかも、笑顔で。お陰でおれも笑顔で文芸部部室へ向かうことができた。
 嫌われてもすぐに仲直りできる。失言だってなかったことにできる。
 素行の悪い連中相手にも、物申せる。殴られたり報復される心配もない。襲われたって魔女に頼めば、考えを改めてくれる。
 人間関係から解放された。幸せが満たす。
 ただ、懸案がいくつかあった。
 水戸部と真妃乃のことである。

 青空を見ていると、気分が良い。
 今すぐにでも蝋の翼で飛び立ちたい衝動に駆られる。横浜の良いところは、青い空があれば、青い海が広がっていることだ。おれは、青という色が持つ、清涼感を心で感じて、胸が躍る気分だった。
 ただ、その青一色の空に浮いた染みの様に、小さな雲が二つ浮いているのだった。
 おれは悩みを抱えていた。
 閉架書庫での一件の後から、水戸部はどうもよそよそしい。無論、それはおれが魔女の願いを叶える能力を確かめるために「抱き着いてくれ」と願ったことにある。
 水戸部が我に返った時、彼女はおれを押し倒していた訳だ。美人だが慎ましい彼女からすれば、顔から火を吹く程恥ずかしいに決まっている。
「どうする? 小人さんに相談する?」
 おれは押し黙った。
 どうも気乗りしない。
 確かに水戸部がおれに対してよそよそしいのは困る。どこか避けられているようで、おれも傷付いているところもある。
 だけど、わざわざ魔女に頼む事なのか。
 普段はついつい安易に魔女を頼ってしまうのだが、何故か水戸部のことになると中々気が進まない。
「何よ、素行の悪い不良少年にはバンバン小人さんに陳情しろって言うくせに。えこひいきも大概になさい」
 魔女は言った。煮え切らないおれを非難しているようだった。
「悩みがないだけ、それだけ人間は幸せよ」
 おれは押し黙った。魔女は返事をしないおれに、露骨に不機嫌な顔をした。
 野毛山付近で、見慣れた長髪を目にした。噂をすれば影、水戸部の姿がそこにはあった。
 すぐに不穏な雰囲気であることを察した。水戸部に大柄の男が詰め寄っているのが見えた。見るからに柄の悪い男は声を荒げている。
「魔女さんよ」
「……何かしら?」
 魔女は絶対零度の笑みを浮かべた。
「急に頼みごとができたんだけど、よろしいか?」
「命じて下すって、構わなくってよ」
 魔女は茶目っ気たっぷりに答えた。
 おれは地面を蹴り、スケボーで人の間を縫う様に滑ると、水戸部に因縁をつける男の背後に立った。
 水戸部はパッと顔を明るくし、大柄の男はおれの気配に振り返ろうとする。
「ったく、女の子に絡んじゃ駄目だろ?」
 おれは男の肩に手を置いた。男はゆっくりと顔を向けた。
 向けられた顔は、眉を顰め、鬼の形相を浮かべていた。目こそサングラスのせいで窺い知ることはできないが、全身から殺気を滾らせている。
「……おまえ、誰だよ?」
 その声に、おれは怯みそうになる。
 だが、問題はない。おれには魔女がついている。そう思うことで自分を叱咤する。
「誰でも良いだろ? とっとと失せろ」
「誰に向かって口利いてんのか、わかってんのか?」
 男は言うが早いか太い指をまとめて、拳を上げた。
 おれは男のあまりの迫力に思わず後ずさりそうになる。おれを踏みとどまらせたもの、それは一重に意地だけだった。この時に真妃乃の姿をした魔女の姿がないのが、非常に心細い。
 不意に、宙に魔女の姿が浮かんだ。灰色の髪を揺らして宙を泳いでいる。
 男は急に鬼の形相を解いて、無表情になる。
 まるで、灰色の魔女の姿を目にして放心状態に陥ったようだった。上がった拳をどこに下ろすか、苦慮している素振りをみせた。
「わかったんなら、帰れよ」
「ああ、そうだな……」
 男は先程までの態度が嘘のように、怒気を霧散させた。すぐに、とぼとぼその場を離れ出した。
「……あんたの願いって、人助けな訳?」
 頭上に漂っている魔女は灰色の髪を撫でながら訊いた。
 おれは返事をしなかった。
 水戸部は強張った表情を弛緩させた。途端に端正な顔がくしゃっと歪む。
「おいおい、どうしたよ?」
「怖くって、つい……」
 水戸部は顔を手で覆った。
「ほらほら、抱きしめてやりなさいよ?」
 魔女は赤い瞳でおれを睨むと、ヤジを飛ばした。

 横浜には日本最大の中華街がある。
 おれは雑踏をかき分けてそこでタピオカ入りミルクティーを買って、山下公園を水戸部と共に歩いた。
 山下公園は穏やかな海を眺めることができた。木々が秋の季節に合わせて赤や黄に染まっている。
「ありがとう」
「……お?」
 水戸部が急に口を開いて、思わずおれは目を丸くした。
「さっきは助けてくれて」
 水戸部は顔を上げた。そのぱっちりとした大きな瞳は今もほのかに赤い。
「あ、いや。それはいいんだよ。ほら、おれと水戸部の仲だし」
 おれは笑った。水戸部もつられた様に表情を緩めた。
「……なんか、最近助けてもらってばっかりだね」
「え、そうか?」
 おれは曖昧な笑みを浮かべた。
 最近、魔女に願いを片っ端から聞いて貰っている手前、学級の煩わしい雑務は減少の一途を辿っていた。無論、その号令をかけるのは、おれだ。
「どうした、水戸部? なんかおまえ、最近おかしいぞ?」
 その言葉に反応してか、おれの視界の先に魔女がすっと飛び出してくる。おれは首を微かに左右に振って、魔女が勝手な真似をしない様に先手を打つ。
 魔女は目をぎらつかせ、唇を尖らせた。
「……そう見える?」
「ああ」
 水戸部は困った、という顔をした。
「……小人さんに頼んで、聞き出す?」
 魔女は言った。おれは首を振った。
 そして、今のおれの所作がまるで水戸部に向けたものであったと思わせるために、口を開いた。
「いや、無理におれに言わなくてもいいんだ。ただ、おれは水戸部を心配してるから」
「うん、ありがとう」
 水戸部は弱々しいながらも笑った。おれも努めて水戸部を安心させるために笑ってみせた。
「あ、いや。それはいいんだよ。ほら、おれと水戸部の仲だし」
 ただ、水戸部の儚い笑みは、これから何か一波乱あることを告げる、伏線の様なものだと思わずにはいられなかった。
 


 横浜ランドマークタワー。
 その名の通り、横浜を象徴する陸標だ。おれは、このビルがあんまり好きではなかった。
 横浜の大抵の場所から見えるその建物はまるで、自分が横浜という巨大な街から逃れられないことを暗示しているようだ。
「おまえ、本当にわかってんのか?」
 桜木町駅で、おれは最後の抵抗を試みた。
「男女二人っきりでランドマーク行くなんて、誰のやることだと思う、ええ?」
 真妃乃は唸った。
「そうですね、一般的に考えれば、それは恋人のすることでしょうね」
「だろ? なんでまたランドマークなんだよ!?」
「わたしが差し上げたドーナツの穴埋めをすると言ったのは、どこのどいつですか? 人が折角チャラにして上げようというのに、ここで駄々をこねるなんて、先輩は状況を理解していないようですね」
 おれは思わずうっと呻いた。それを言われると反論しがたい。
「先輩だって男でしょう? そして、男が言った言葉に二言はない。ならば、先輩はランドマークタワーへ行くべきです」
「その前提は間違ってるんじゃないのか!?」
 その三段論法は絶対的に間違っている。
 徹底抗戦を貫くおれに対して、真妃乃は実力行使に出た。
 おれの手をしっかりと掴んで引っ張っていくと、強引にエスカレーターに乗った。そうしておれは済し崩し的に「動く歩道」で輸送されてしまった。
 おれのすぐ脇でも、高校生くらいの目鼻立ちが整った女の子が、彼氏と思われる男子を引き摺っていた。
 何だか、どきりとした。
 おれもきっと、傍から見れば真妃乃の恋人と思われていることだろう。そんなことはないんだが。
 そんなことはないはずなのに、おれは真妃乃の私服姿を見ると、そんな思考とは裏腹に心が騒いだ。
「大体、なんでランドマークなんだ? 他にも行く場所、いくらでもあったんじゃねえの?」
「別にいいじゃないですか。それとも先輩は、ランドマークが親の仇とでも言うんですか?」
「……いや、そこまでは言わないけど」
 真妃乃の分も含めた入場料を支払うと、展望台直通のエレベーターに乗った。あっという間に地上約三百メートルの展望フロアに到着した。
 眼前に広がる青一色に息を飲んだ。
「おお、凄えな……」
 思わず窓に張り付く様に近付いた。目の前に広がる東京湾の青い海。視線の向こうにベイブリッジが佇んでいる。雲一つ浮いていない快晴の下、青い空が広がっていた。
「ヤベえな、こりゃ」
「でしょ?」
 真妃乃は言った。
「いつか、彼氏と一緒に来たい場所なんですよ」
 真妃乃はさらりと言った。
 頭上で笑い声がした。おれが虚空を見上げると、真妃乃の顔をした魔女が腹を抱えて宙を漂っている。
 ウザ過ぎる。
 おれは顔面の筋肉を駆使して、魔女にどっか行け、とフェイスランゲージで伝えた。魔女はおれを見下す強い視線を痛いほど浴びせた後、天井を伝ってどこかへ姿を消した。
 おれが改めて、真妃乃に向き合うと、彼女は天井を眺めている。
「何もいませんけど、先輩には何か見えたりするんですか?」
 真妃乃が目を輝かせて訊いてくる。おれは首を左右に振った。
「いいや。それよりもだな……。そうそう、なんで彼氏と一緒に来たい場所を、部活の先輩と先に来ちゃうんだよ? 普通そういうのって、大事に取っておくイベントなんじゃねえの?」
「ははは、やだなー」
 真妃乃は年相応の、年下ならではのあどけない笑みを浮かべた。
「彼女に良いところ見せようと張り切って事前勉強してきた彼氏の面目を、完膚なきまでに潰してやる楽しみと比べれば、そんなの大事なうちに入りませんよー」
「……おまえって結構ヤな奴だよな!」
 いとあはれなり、将来の真妃乃の彼氏殿。
 きっと貴君の面目とやらは、米原真妃乃によってシュレッダーにかけられた不要な紙のように、切り刻まれてしまうのだろう。合掌。
「そう言えば、おまえって浮いた話聞かないけど。その当てあんの?」
「誰のせいでその当てがないか、先輩はご存じですか?」
 真妃乃は長い眉を寄せて睨みつけてくる。その瞳の輝きにおれは思わずたじろいだ。
「な、なんだよ?」
「わたしはですね、同級生の間ではこう噂されているんですよ。『同じ部活の上級生と付き合ってる』って」
「マジで!?」
 おれは声を上げた。
「マジですよ。わたしとしては不本意千万な話ですが、学年では極めて信憑性の高い話として、今では周知の事実ですよ。お陰でわたしに告白してくる男子なんて皆無です。本来なら持ち込むことすら校則違反のスケボーで通学している、『目付きの鋭い』年上のボーダーが彼氏ってことになってるんで」
「噂の本人を前にして『不本意千万』とか言うなよ!」
 あと目付きの鋭いのところを強調して言うな。何だか「目付きが悪い」と言われているような気がして傷付く。おれだって結構気にしてるのに……。
「だって……」
 真妃乃は渋い顔になった。
「……不本意なんですもん」
「なんでそんな酷いことを平然と言えるんだよ!」
「しかもその『目付きのわる……鋭い』先輩はタチが悪くて、同級生の学級委員とも懇ろにしているともっぱらの噂で……」
「ストーップ! おれは知らないからな、そんな噂! あとその噂は極めて信憑性が薄いからな、デマだからな! あと『目付き悪い』言うな! 傷付くから!」
 おれは人目も気にせず叫んだ。
「なんで最初に噂を否定しないんですか? 怪しさをぷんぷん漂わせてるじゃないですか。……まぁ、いいですよ。わたしは先輩を相手取って慰謝料をたんまり請求してやりますから」
「ちょっと待て。なんで付き合ってもないのに慰謝料を請求されにゃいかんのだ?」
 真妃乃は目を瞬かせた。
「でも、事実上の恋人、みたいなもんですし……」
「事実上!?」
「と、まぁ冗談はさておき……」
「冗談だった!?」
 真妃乃は目の前に広がる風景を眺めた。
「この青、素敵じゃないですか?」
「あ? ……ああ、そうだな」
 おれも真妃乃に倣って眼前の大パノラマに目を細めた。
「これを見たかったんです」
 真妃乃は両手を窓に当てて、硝子の向こうに広がる風景を見つめた。
「先輩、先輩にはこの空や海の青い感じ、ちゃんと見えてますか?」
 真妃乃は言った。
 浮かべた優しげな表情は非常に魅力的だった。瞳に映り込む青い色がきらっと輝いて見えた。
「ああ、見えてるよ。青々とした感じが胸に広がってる」
 真妃乃は硝子に顔をつけるようにして見入っていたが、不意におれに向かって振り返った。
「それは良かった」
 普段大人顔負けの凛々しい表情とは対照的な、年相応の幼い笑み。
 その笑顔に、おれの心は大いにざわめき立った。

「あんたがあの子にだけ、願いを叶えてと言わない理由、わかったわ」
 真妃乃と桜木町駅で別れ、おれはスケボーで夜の横浜の街を滑っていた。
 おれは魔女との会話をしたくなかったので、地面を乱暴に蹴ってスピードを上げたというのに、魔女の姿はおれの頭上から離れない。
「あんたはそういうのを抜きにして、彼女に認められたい。そうでしょ?」
 その言葉に漂う、人を見下したようなニュアンスにおれは忌々しいと思った。
「黙れ魔女。呪術書水につけるぞ」
「脅しのつもり? 今更その気はないくせに。今呪術書が濡れれば、これからあんたは世界を思い通りに動かせなくなるわよ」
 おれは押し黙った。
「あんたとわたしの仲じゃないの。これからも仲良くしましょう」
 そう言って、魔女は不快な笑みを浮かべた。
 その笑みに、仲良くする気あんのか、と問いたい。



 一波乱あるかもしれないという、一抹の予感。
 それは日を開けずに現実のものとなった。
 水戸部がどうしても会いたい、と言ってきた。

 おれは彼女を文芸部部室へ招いた。
 部室に水戸部の姿がある、というのは違和感を感じた。
 水戸部は酷く落ち着かないようだった。無闇矢鱈と視線を移している。
「で、ご用件は?」
 おれは水戸部に席を勧めると、おれは進んで座った。
「うん」
 しかし水戸部は一言答えるだけで、中々用件を伝えようとしない。彼女は長い髪を闇雲に左右に振って、心地良い香りを振り撒いていた。
「あの、一つ訊いていいかな?」
 水戸部はようやく口を開いたと思ったら、またすぐに顔を俯けてしまう。
「なんだよ、急にもったいぶって」
「あのさ。この前、きみに抱きついちゃったじゃない?」
 おれはおずおずと頷いた。あの話はおれが望んでいながら、酷く恥ずかしい。
「あの時、きみはわたしになんて言ったの?」
 おれは固まった。おれが強張ったことを察して、水戸部の表情も硬くなった。
「ごめんね。せっかく何か言ってもらったのに、忘れちゃって。でも、どうしても気になって。確認せずにはいられなかったから」
 おれは曖昧な笑みを浮かべた。曖昧な笑みを浮かべることしかできなかった。
 水戸部は悲しそうな顔をした。
「わたし、ちょっとこれから生意気な事言うけど許してね」
 彼女はそんな事を言った。
「きみ、あの時、わたしに告白してくれたのかな?」
「はい!?」
 おれは目を白黒させた。
 おれが水戸部に告白?
 何故そうなった? おれにはまったくもって、意味がわからない。訳が分からない。誰かこのおれにわかるように説明しろ、簡潔に。
「あっ、いやっ、そういう訳じゃないけど!? でも、なんて言うのかな。そうじゃないと、その、わたし、自分の行動に上手く説明することができなくって……」
 水戸部の二度に渡る爆弾発言に、おれの理性は吹き飛びそうになった。
 今の発言は、凄まじい威力だ。
 もし、おれのあの時の言葉が告白だとしよう。その後、彼女はおれに抱き付いた。その説明で、水戸部がおれに抱き付いたことが極めて論理的に説明できるのだという。
「水戸部、それって……」
 遠回しな告白なんじゃねえの。水戸部は頬を真っ赤に染めている。
「……迷惑、だったかな?」
「いや、そんなことは……」
 そう言って、思い留まる。脳裏に真妃乃の顔が浮かんだ。
「だよね」
 水戸部はまるでおれの心を覗いたかのような顔をした。
「ずっと凄い嫌な気分だった。特に真妃乃ちゃんには、悪いなってずっと思ってた。でも」
 水戸部は顔を上げた。
「あの時、きみに抱き着いてから、もう自分の心を偽れなくて……」

「いいじゃないの。この娘はあんたに抱かれることを心の底から願ってる。あんたも、満たされず弄んだ欲望を発散できる。両者の利害は一致しているじゃないの?」

 おれは顔を上げた。
 頭上では魔女がおれ達に冷ややかな視線を送っている。なまじ魔女の姿が真妃乃と瓜二つなだけに、あたかもおれが真妃乃に不倫の現場を目撃された気分だった。
「ざけんなよ。利害が合えば何やっても良い訳ねえだろ!」
 おれの言葉に、水戸部は身体を強張らせた。
「あっ、いや。今のは、水戸部に言ったんじゃないからな」
 水戸部は驚くべき速さで、おれから後ずさった。
「……そうだよね。ごめんね」
 水戸部は笑みを浮かべている。無理矢理笑顔を作ろうとしていた。揺さ振れば瞳から涙が零れそうな程潤んでいる。
「きみの気持ちを知った上で抱き着くなんて、反則だよね。ごめんね、本当に……」
「いや、水戸部。違うんだ。おまえは何も悪くない!」
 おれは今になって初めて、後悔していた。魔女の力の真偽を確かめる対象に、水戸部を使ってしまったことに。
「ただ、聞きたかったの。きみの言葉を。忘れたとか酷いことを言ってる自分が嫌で嫌で堪らないけど、それでも言って欲しかったの」
 瞳が揺らいでいる。その中で歪むおれ自身の姿に、激しい吐き気と憎悪を抱いた。
「わたしがずっと求めていた言葉を」
 そう言うと、水戸部はしゃがみ込んでしまった。
 違うんだ。
 おれは、おまえの欲していた言葉を言った訳じゃない。
 おれの胸に、罪悪感が漂った。
 間違えたね。
 胸を漂っていた黒い霧が囁いてくる。
「わたしを失望させないで」
 おれは頭上を見上げた。魔女が心底つまらなそうな目をしていた。
「あんたの願いを片っ端から叶えてあげてるんだから、せめて面白いドラマを提供しなさいよ?」
 魔女の冷たい言葉に、おれの頭に血が上った。目の前が真っ赤になった気分だった。
「なんだと?」
「つまんないのよ。最近の満足げなあんたの顔。見ているわたしをハラハラさせる展開にしないと、盛り上がらないじゃない」
 おれは絶句した。コイツは、一体何を言っているんだ。おれには、魔女の言っていることが本当に理解できなかった。
 いや、魔女の口から世界を眺める事が楽しみであることは聞いていたが、よもや本当に求めているのか。おれの生きる世界という、エンターテイメントを。
「あんたが脳裏に思い描きながらも、決して口には出さない願い。面倒だから、わたしが勝手に叶えちゃてもいいわよね?」
「ば、馬鹿なこと言うな!」
「人が願っている事を叶えてあげるなんて、わたしったらなんてお人好しなんでしょうね」
 魔女は笑みを浮かべ得た。おれは血の気が引く思いだった。
「ふざけんな。おれは『おれ』だ! 例えおれの願いであっても、おまえが勝手気ままに変える権利があんのかよ!?」
「ぎゃんぎゃんうるさいわね。別にいいじゃない? 今までだって散々そうしてきたんだから?」
 おれは思わず口を噤んだ。
「わかったわよ。そんなに自分が可愛いっていうんなら……」
 魔女は手を上げた。
「代わりに、こっちでいいわ」
 途端、懐かしい衝撃を味わった。
 前は床に倒れてしまった。しかし、今度は足に力を入れて踏ん張った。
「人間って不幸ね。素直になれないから」
 魔女は言った。
 しかし、今のおれには魔女の言葉に構っていられなかった。
 背中に回った水戸部の手が、おれの身体を捕えて放さない。華奢な身体の一体どこにそんな力があるのか、おれにはわからない。
「水戸部!」
 おれは、彼女の両肩を掴んで揺さ振った。
 水戸部は顔を上げた。あの日、閉架書庫で見た無防備な顔。その顔は子どものようにあどけなく、無垢に見える。
 熱にうなされて、どこか夢見心地の水戸部はおれに抱き着いて一行に離れない。曲線美に富んだ起伏の激しい身体をおれに押し付けてくる。
 水戸部は目を瞑ると、顎を上げた。そして、その顔が徐々に迫ってくる。
 駄目だ。こんなの、間違ってる。
 そう思った時、文芸部部室の扉が開かれた。

 そこから現れた少女は、眉を上げた。
「ま、真妃乃……」
 おれの言葉に、水戸部は身体を剥がした。その顔に表情が戻ったところを見ると、我に返ったようだ。
「先輩」
 真妃乃はずんずんとおれの前へ出てくると、断言した。
「……もし誰かと抱き合うなら地球ではないどこかでやってください」
 真妃乃が間髪入れずに放った鉄拳のお陰で、おれは一言も反論することが許されなかった。



 ぼんやりとした面持ちで帰路についた。
 ともすれば、スケボーを床に打ちつけて叩き折ってしまいたい衝動に駆られた。
 あの後、真妃乃は身を翻し、また部屋はおれと水戸部の二人だけになった。水戸部は両手で顔を覆って泣いていた。おれが何か言おうとした時、部屋を飛び出していってしまった。
「別に傷付くことはないわ」
 魔女は冷たく言った。おれは目を瞑った。
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「わたしは小人と対話ができるのよ。だから、わたしはあんたも含めた全ての小人達が動かす世界に対して、知ることができる訳だし、影響力を持てるって訳」
 魔女は怜悧な笑みを浮かべた。
「確かに。あの子は泣いたわ。いきなりあんたに抱き着いてしまったことを後悔しているみたいだし、あんたに恋心を抱いてしまったことに後ろめたい気分で一杯。後輩の真妃乃からあんたを取り上げてしまうことへの罪悪感っていうのかしら。でもね、小人の世界ではもっとシビアよ。そこではあんたを欲する随分と剥き出しの感情が漂っている。それを意識や理性が必死に押さえ込んでるって訳。わかる?」
「おまえは、世界の理を司る小人に働きかけて、世界を動かす事ができるって言ったよな……」
「そうよ。それが何か?」
「その小人ってどこにいるんだ?」
 おれは魔女に厳しい視線を送った。しかし、魔女は笑みを浮かべたままだ。
「ひょっとして、ここなんじゃないのか?」
 おれは、自分のこめかみを指差した。
「御名答」
「じゃあ、おまえは人間の脳に働きかけて、皆の意思をねじ曲げていたって言うのか!」
 おれは声を荒げた。
「人聞きの悪いことを言ってくれるわね。人間風情が生意気よ」
 魔女は顔を顰めた。
「大体、あんたのいう意思っていうのは人間にとっていらない機能なのよ。そんなちゃちなことでグダグダ言ってんじゃないわよ」
「なんでいらないんだ?」
「だって、あんた、あんた以外の人間が意識を持っていようが持っていまいと、そんなの全然関係ないじゃない。意識があろうとなかろうと、彼らは笑って泣いて怒るのよ。現にあんたは今に至るまで、わたしが脳に対して干渉していることにまったく気がつかなかったじゃない? あんた達は脳という器官を知識として知っていたとしても、意思や意識を脳が生み出しているなんてこれっぽちも考えて日常生活を営んでいる訳じゃない。……ああ、そんなことガザニガが言ってたわね。それすらも脳の機能だって」
「そんなの嘘だ」
「嘘じゃないわよ。人間でも、リベットだとかヘインズだとか、とっくのとうに気がついちゃってる人がいるのよ。意思決定は意識せざる深層意識によって行われ、あんた達のいう『おれ』や『ぼく』、『わたし』は七秒のタイムラグにすら気がつかず、『思考した結果、行動に移した』だなんて考えてるだけ。クオリアに意味を見出して、大切な『わたし』の所以だとか言ってる人間の能天気ぶりに、笑い死にするところだったじゃないの。黒いからこそカラスなんだ、なんてカラスが鳴いているようなものよ」
 おれは、顔を覆った。受け止めきれない現実の数々を前にして、思わず目をそむけたくなった。
「そんなに『おれ』という意識にすがるんだったら、このわたしに教えなさいよ。人間の意識はさっき言ったように、脳が作り出した事後承認機関なんだけど、意識には二十以上の段階があるの。覚醒から眠りにかけて、ね。意識は常に一定のクオリティで動いている訳じゃない。『おれ』という意識は絶えず濃くなったり薄くなったりを繰り返している。そこで質問。どこまでが一体『おれ』なのかしら?」
 おれは黙った。そんな質問、答えられる訳ないじゃないか。
 むしろ、おれに教えてくれ。
 一体、どこまでが『おれ』なんだ。
「脳死と同じ議論よ。どこまで脳のモジュールが生きていれば『人間』で、どこまで脳のモジュールがお陀仏していれば『死体』なの?」
 魔女は笑った。真妃乃の顔をしていながら、真妃乃の笑みではない。
「何黙ってんのよ。認めちゃえばいい話でしょ? 所詮あんたの身体は親御さんから受け継いだ遺伝子という設計図に基づいて作られて、その通りに作られた脳が『おれ』をエミュレートしているだけだって。人間如きが小人さんから自由になれる訳ないじゃない。自由意思なんて幻想よ」
 魔女は囁いた。その囁きは甘いはずなのに、今は酷く苦い。
「ふざけるなよ。じゃあ、おれを責めるなよ。自由意思もない、脳にエミュレートされる哀れな『おれ』を責めるなよ」
「何よ、勘違いしちゃって。わたしは何もあんたのことを責めている訳じゃないのよ。ただ、『おれ』という確立した意識、普遍的な自己という下らない考えを捨てれば、楽になるって言ってんのよ」
「そんな簡単に、捨てられる訳ないだろが……」
 おれは『おれ』だ。
 自分の意識が、意思が、自我が、心が、そんなよくわからないものに左右されて、動いているなんて。
「自由意思なんて言うんなら、受け止めなさいよ。だって、他ならぬあんたのお願い事だったんじゃないの?」
 おれは声を上げた。
 おれは弱い男だった。
 おれは『おれ』を捨てることもできなければ、自らに課せられた責任を背負う事すらできない。
 魔女は囁いた。人の悪い笑みを浮かべながら。
「現に、水戸部をご覧なさい。そうやって我慢したところで、何が変わるって言うの。それで彼女は報われた? 全然。彼女はあんたと真妃乃がよろしくやっているのを、ただ指を咥えて眺めて生殺しにされてるだけ。わたしが彼女の脳にいる小人に囁きかけて、『素直』になった方が、彼女にとっても幸せだと、あんたは考えないの?」
 おれは怒鳴った。
 心の中で、霧が弾け飛んだ様な気がした。
「それで、おれに抱かれるのが、水戸部の幸せ? 笑わせんな! 水戸部の幸せは水戸部のもんだ。余所の誰かがガタガタ言うことじゃねえ!」
「なるほど。じゃあ、彼女は今、幸せだったのかしら? わたしが彼女の頭を見た時、あんまり幸せそうに感じなかったけどね。それじゃあ、あんまりにも可哀想だったから、わたしなりにお節介をしたつもりだったんだけど。今まで散々お預けにされていた男に抱き着いて、それで現に彼女の心は安らいだんだから、わたしは良い仕事してるんじゃなくて?」
 おれは首を振った。
「じゃあ、あんたが今までやってきたことって何よ? わたしはあんたが望むから、小人達に働きかけたのよ? その引き金を引いたのは、わたしじゃなくてあんたよ? わたしの性能を試すって言って、最初に願いを叶えろって水戸部を選んだのは、他ならぬあんたなのよ」
 魔女はおれに止めを刺した。
「手前勝手なこと言って、誠実ぶるのはやめたら?」



 おれは卑怯だ。
 引き金を引いていたにも関わらず、銃が悪いと言っていた。
 だから、おれは悪くない、とも。

 おれは向き合わねばならない。
 自分が何を欲しているのか。自分が何を望んでいるのか。
 自分が何を選ぶべきなのか。自分が何を決断すべきなのか。
 そして、選んだ末に背負うこととなる責任に。決断した意思の重さに。

 おれが『おれ』であるということ。
 おれが、自らの意思で選び取った以上、もはやその事実から目を背けることなどできやしない。
 まして、今まで通りに過ごす事など。

「……魔女さんよ」
「何よ?」
「時間が欲しい。というより、おまえと少しの間離れたい」
「別にいいわよ。本を置いて行けば、わたしはあんたの脳裏に浮かばなくなるから」
 おれは自分の机の上に、呪術書を置いた。
「でもね、一つ言っておくわ」
 魔女は言った。
 こんな時でもさえ、普段と変わらない魔女。
「わたしの『封印』を解いた者の中で、わたしから離れられた人間なんて今までいなかったことを」
 おれは笑った。
 その笑みはいわば無意識で、自分でもどんな意味を成しているのかはわからない。
「そこまで深く考えてる訳じゃねえよ」
「そうかしら? まぁ、あんたがそう言うなら、そう言うことにしておいてやってもいいわ。……ただし、わたしは全てお見通しよ」
 魔女は笑った。
 全てお見通し。浮かべられた笑みは、おれを馬鹿にしていた。
 おれは、自分の部屋のドアを乱暴に閉めた。

 おれは一人、海の見える丘公園に佇んでいた。
 目の前に広がる倉庫街と高速道路が良く見える、などと揶揄される公園からの景色は、どこか無機質でよそよそしい雰囲気を纏っている。
 スケボーに乗る気分じゃなかった。だから、ここへ歩いてきた。頭の中で色々な考えが渦巻いて、収集がつかなかった。自分の心の中で立ち込める靄を吐き出せず、もがき苦しんだ。
 苦しみ。水戸部のこと。彼女のおれに対する想い。
 苦しみ。真妃乃のこと。自分の中で押し隠していた気持ち。
 苦しみ。魔女のこと。おれが『おれ』であるという意識。
 今まで直視して来なかったものの清算を全て一度に突き付けられた様だった。

 水戸部のこと。
 今まで、おれは彼女の気持ちに気がつかなかった。
 だが、おれは知ってしまった。彼女の気持ちを。ならば、せめておれは誠実に彼女の気持ちに対して答えなければならない。
 今までのおれならば、答えられなかったはずだ。魔女の力を使ってねじ曲げてでも、直視しなかったはずだ。
 だが、おれは気付いてしまった。魔女の力が個々人の脳に作用することを。おれは、認めたくなかった。例えそれが世界の理であったとしても。
 だからおれは始めなくちゃいけない、自分自身の意思で。
 そして、水戸部の気持ちに対して正面から向き合うということは、真妃乃のことに対しても正面から向き合わなくてはならないことを意味している。
 それは何故か? 決まっている。
 おれが、一体誰のことを愛しているか、その問いかけに繋がっているからだ。

 蒼穹がおれの頭上に広がっていた。
 象の鼻公園はランドマークタワーの前にある。最近整備された公園で、その先には国際旅客船ターミナルがある。公園には様々な近代的なオブジェが配置され、老人がキャンパスに筆を走らせている。
 のどかな日常がそこにはあった。
 おれはその中をスケボーで駆けていく。
 待ち合わせの時間よりも早くに現地入りしていたつもりだが、彼女はすでに手すりに持たれて海を眺めていた。
「相変わらず早いな」
「まあね」
 水戸部は苦々しい笑みを浮かべた。
「で、話したいことって何?」
「……単刀直入だな」
「あ、ごめん」
 水戸部は力なく謝る。普段の水戸部とは違い、どこか心に余裕がない。心ここにあらず、と言った趣におれの心は痛んだ。
「全てを打ち明けようと思う」
 おれは言った。水戸部は何も言わずに海を眺めている。瞳が青に輝いている。
「実は、おれには人を思いのままに動かす力がある。自分自身の力じゃないんだけど、おれはその力にアクセスできた」
 水戸部は目を瞬かせた。
「嘘だと思うだろ? 今は何も言わないで。まあ、その辺は騙されたとでも思って聞いてくれ。おれも騙されてるんじゃないかと思った。自分が生み出した幻想に弄ばれてるんじゃないかとね。それで、おれは最初に力を使った」
 おれは言葉を切った。そして、水戸部の瞳を見つめた。
「きみに抱き着け、って言ったんだ。お笑いだろ?」
 水戸部は唇を噛み締めていた。ピンク色の唇に力が入り、白っぽい色に変わる。
「それが真相だ」
 水戸部は笑った、弱々しく。しかし、その華奢な肩は怒っている。
「別に許して欲しい訳じゃない。ただ、真実を知って欲しかった。おれはきみに告白なんてしてない」
 おれは努めて冷酷を装って喋った。
 願わくは、水戸部の心が傷付く様に。
「おれはこれから真妃乃のところに行くつもりだ」
 水戸部の瞳から、涙が零れた。
「そっか。決めたんだね、ついに」
 水戸部は両手で口を覆った。
「水戸部に手を出したのは、真妃乃に手を出せなかったからだ。代償行為、みたいなもんだ。だから、大した意味はない。おまえがこうして思い悩むことなんてない」
 水戸部は頷いた。
「水戸部……きみは、もうおれなんかに縛られないでくれ。そうじゃないと、おれは真妃乃に向かい合えないから」
「そっか」
 水戸部は洟を啜った。
 おれは身を裂かれる思いだった。こんなにも水戸部がおれの事を愛してくれたということに。
 ふと、何故水戸部はおれの事を気にするようになっただろう、という疑問が頭をもたげた。
 しかし、口には出さなかった。今更栓なきことだ。これから、おれは真妃乃と向き合わなくてはならないというのに。
「でもさ、きみに抱きついて欲しいと思われるくらいには可愛いんだ、って思うのくらいは良いよね?」
 水戸部は笑った。
「別にいいけど」
 おれは頭を掻いた。
「……いつまでも抱いておくのか、その気持ち?」
「うん」
 水戸部は強く頷いた。
 今までの気持ちに区切りをつける様に。胸に抱いていた想いに告げる様に。
「いつか他の誰かに対する想いで、上書き保存ができる日まで」
 水戸部の弱々しい笑み。
 泣きながらも笑みを絶やさない彼女の姿に、おれは心を打たれた。
「……そういうことなら良いんじゃないか?」
 おれは水戸部に背を向けた。
「じゃあ、そういうことで」
 おれは歩き出した。
 目を瞑った。
 おれは大馬鹿者だ。
 こんなことで、謝ったつもりになっている。自分の犯した行いを償えたなんて思っている。
 そんな自分に、吐き気がする。
「わたし、恨んでなんかないよ!」
 背中に声をかけられて、おれは思わずはっとした。
「もし、きみがそう願ってくれなかったら、わたしはずっと溜め込んでたと思うから。だから……」
 水戸部は叫んだ。
「きみも、自分の気持ちを大切にね」
 おれは思わず鼻を啜った。
 その時ばかりは、人に愛されるのも悪くないと思った。
 思わず涙が零れた。おれは慌ててそれを拭った。
 視線を感じて振り返ると、水戸部は手を後ろに回して笑った。
「別にいいんだよ。ほら、きみとわたしの仲だし」
 水戸部の笑顔は、直視するには眩し過ぎるくらい輝いて見えた。

 真妃乃のこと。
 水戸部に対して、おれの気持ちを明らかにすることは、真妃乃のことに対しても同じ事だ。
 おれは、自分自身の内なる想いについて決着をつけねばならなかった。
 おれは、真妃乃のことが好きだということを、正面から向き合わなくちゃいけなかった。
 他ならぬ、おれ自身の意思で。

 象の鼻公園を出ると、スケボーに乗った。
 アスファルトを蹴って、人の流れの切れ目を狙って抜けて行く。
 臨海部に広がる山下公園に入る。象の鼻公園とは違って、緑が多い。もっとも、木々も秋風に吹かれてその色を変えている。
 向き合わねばならない。それは水戸部と同じように、おれもまた自分の心に正直になれなかった。
 誰が一体そんなおれをなじることができるだろうか。
 そんなにも人々は、自分に対して正直なのか。
 おれは、そんなことを言って、今まで自分に向き合わなかった。
 海から運ばれた潮風が、黒髪を揺らしている。視線の先に佇む人影が声を発した。
「先輩」
 真妃乃はおれを見据えて言った。
「よお」
 おれは平生を装って言った。真妃乃はおれの顔を指差した。
「……頬、大丈夫でしたか?」
 真妃乃はおれの目と鼻の先まで近付いてきた。
 その距離感におれは戸惑う。
「……少々、強く殴り過ぎました」
「少々!?」
 滅茶苦茶痛かったんだけど。
「まあ、それはあんまり気にしてない。それよりも、おれはおまえに、謝らなくちゃいけない事がある」
「水戸部先輩のことでしたら、別に良いですよ。わたし、気にしてませんから」
 真妃乃の態度に、おれは目を見張った。
 この一歳年下の後輩は、おれの心中などお見通しだ、と言わんばかりに言った。
「水戸部先輩の、先輩を見る目が同級生に対するものと違う、なんてとっくの昔からわかってましたよ。わたしだって女ですからね」
「じゃあ、なんで怒ってるんだ?」
「それは、わたしの前でいちゃついているからです。先輩が女性といちゃつくのは勝手ですが、地球圏以外の場所でやって下さい」
 真妃乃はそう言うと、ふうと溜息をついた。おれは一瞬納得しかけて、慌てて叫んだ。
「っておい、じゃあおれはどこで女性といちゃつけばいいんだ!?」
 よもや個人的にスペースシャトルをチャーターしなくてはならないのだろうか。
「まあ、先輩が女性といちゃつかなければ問題ないですから」
「そっちの方が問題だ!」
「うわ、先輩……、異性の後輩相手に女性と不純な交際がしたいだなんて、高らかに宣言しないで下さいよ」
「おまえの『いちゃつく』って言葉、不純な交際のことを差してたの!?」
 おれは一通り真妃乃と不毛な応酬を繰り広げた。
 真妃乃の普段と変わらない笑顔を見ると、これから本題だというのに、こちらも自然な笑みを浮かべる事ができた。
 振り返ってみれば、おれは真妃乃の前では自然体でいることができた、と思う。
 それも彼女に惹かれている理由の一つの様に思える。
「……実は、我が校伝来の呪術書だが、実在したんだ」
「何故黙っていたんです?」
 真妃乃は目を輝かせた。
「その本に宿る魔女が、願いを叶えてくれるって言ったから。あと、内緒にするようにって言われた」
 真妃目は睨んだ。
「で、それを今更言うというのは、一体どういう了見なんですか?」
 おれは息をついた。
 目の前の真妃乃は、後輩らしからぬ落ち着いた雰囲気を纏って佇んでいる。まるで真妃乃の方が長く生きている様な錯覚に陥った。
 真妃乃の眉を持ち上げて、唇を結んだ凛々しい姿に、気圧されてしまいそうになる。ともすれば言葉を発せなくなりそうだった。
 何やってるんだ、おれ。このために、おれは水戸部を傷付けてまで会ってきたんじゃなかったのか。
 今、自分の気持ちと向き合わずして、真妃乃と真正面から対峙せずして、いつ向き合う?
 おれは、口を開いた。
「おまえに、告白しようと思って」
 真妃乃は表情を変えない。おれの言葉が聞えていないのかもしれない、と思うくらいぴくりとも動かなかった。
「何故、このタイミングに?」
 その真妃乃の言葉に、動揺の色は見受けられない。
「……色々なものに、ケリをつけなくちゃいけない気がして」
 真妃乃は大きく溜息をついた。
「その呪術書に宿る魔女とやらが願いを叶えるんでしたら、わたしに選択の余地はないんじゃありませんか?」
「いや、おまえには使っていない」
 おれは強く言った。
 真妃乃はそこで初めて、目を見張った。その表情からは驚きが滲んでいる。
「いいや、おまえには使えなかった。魔女に頼まずとも、自らの力でおまえに振り向いて欲しかったから」
 真妃乃は息を飲んだ。
「素直じゃなかったよ。自分の力で、なんて思っていながら、ずっと一歩を踏み出せなかったんだ。今、自身の願いを叶える力を手にして思い至った。おれの思いは誰かよってにいじられて、踏み躙られるなんておかしいって。だから、おれ自身の思いを大切にしたい。そして、そう思う分だけ他人の思いもまた大切にしたいって」
 おれは言った。
 言ってから、恥ずかしい思いで一杯になった。
 全身の毛穴から汗がわっと吹き上がった様な気がした。体温が急激に上がってともすれば蒸発してしまいそうになる。
 事前に脳裏に想定していた言葉は何一つ言えなかった。なんと言うか、恥に恥を重ね塗ったような気分だった。
 ここまでカッコつけさせたんだ、最後までカッコ良く終わらせてくれよ。おれは、心の中でそう願った。
「先輩は卑怯です」
 真妃乃は言った。
 年上相手でも遠慮することのない、力強い口調で。
 そして、鋭い眼光でおれを睨みつけた。魅力的な瞳は殺気を漲らせていて、まるで猛禽だ。
「わたしが部室で先輩を殴った時から、答えはすでにわかってたんじゃないですか?」
 真妃乃は睨んだ。
 おれは、その言葉に目が潤んでしまった。



 魔女のこと。
 おれは今、最後のケリをつけなければならない。
 己が開いた頁は、己で閉じる。そういうことだ。
 それが、己自身を強く信奉する者が等しく背負う定めだ。

 青い空は赤に染まり、そして日が沈んだ。
 黒一色に塗り潰された空で、高層ビル群が白く輝いている。
「ケリはついたのかしら?」
 灰色の髪に赤い瞳。
 真妃乃の顔をした魔女がおれの視界に浮かんだ。
「ああ、万事解決だ」
 魔女は笑みを浮かべた。
「それはつまらないわね。もっとドロドロしたものが見たかったのに」
 魔女は顔を顰めた。
「……ここは?」
「国際旅客船ターミナルさ」
 おれは今、その屋上部にいた。
 一般人でも立ち入り可能な緑の芝生も、今は暗くなって詳細はよくわからない。しかし、目の前に広がる横浜のビル灯りが、ぼんやりとをおれ達の姿を浮かび上がらせる。
 目と鼻の先にある海がざわめいた。
「今後ともわたしの恩恵に授かりたいんなら、こういう場所には来ないことね」
 魔女は唇を尖らせた。
「そんなに消えちまうのが怖いのか?」
 おれは笑った。魔女もまた笑った。
「『おれ』という意識にしがみついているあんたが言えたことじゃないわ」
「おまえはおれよりも長い間、誰かの脳裏に浮かんで『生きて』きたんだろ? もう十分だ、なんて思わなかったのか?」
「思わなかったわ。いつ目覚めるともしれない闇の中に埋没するのはね、死にも等しい苦痛なのよ」
「よく言うぜ。おまえの身体はとっくのとうに滅びちまってるってのに。おまえはもう、死んでいる……んだぜ?」
 魔女は笑わなかった。
「おまえはひょっとして、封印される前の自分と今の『わたし』という自分が断絶してるかもしれない、だなんて思って絶望したのか?」
 魔女は笑った。
 温かみを感じさせない、冷えた笑み。
「そんなもの、問うにも値しないわ。それがどうしたっていうの? わたしだろうが『わたし』だろうが、そんなのどっちだっていいわよ。わたしが『わたし』であることを放棄するだけで、そんなものを問い続ける必要性は無に帰す」
「そんなの、おれは認めたくねえな」
 その言葉に、魔女はぴくりと眉を上げた。真妃乃譲りの小さな背が、怒りを露わにしている。
「何がよ?」
「確かに、自由意思なんて幻想なんだろう。おれが『おれ』である所以は脳の機能で、脳が壊れてしまえば、今の思考すらできなくなっちまう。おれは遺伝子の設計図によって、環境から組み立てられた壮大な肉塊であることを受け止めなくちゃいけない。おれが語ろうと思って語っているつもりだけど、本当は七秒前から無意識が、おまえのいう小人達が蠢いて、すでに喋る内容を持って来て、口を動かしていたんだろう。それでもな……」
 おれは呪術書を掲げた。
 魔女はその光景に赤い瞳を見開いた。
「おれは『おれ』であることが大事なんだ」
 おれは本を手放した。
 呪術書は、地球の生み出した重力によって引かれ、黒い海の中に落ちた。
 ぼっ、という蒸気が爆ぜる音がした。次第に魔女の身体の輪郭が朧になっていく。
「……やってくれるわね」
 魔女は眉根を下げた。憂いを帯びたその表情にぞっとした。背筋を凍らす程の魅力がそこにはあった。
「だろ?」
 魔女は長い溜息をついた。泣いているのか笑っているのか、一瞥してわからない複雑な表情を浮かべていた。
「あんたは大馬鹿者よ。そんなことをしたって、何の意味にもならないじゃないの。自分の背負う罪から逃れたいだけ。あんたはわがまま坊やよ」
「哲学も脳科学もな、人間を救済するとは限らないんだよ。現実は、事実はおれ達を肯定してくれない。別にいいぜ。おれはそれでも信じ続け、騙され続けるつもりだから」
 魔女の身体が、横浜の闇と混じり合っていく。
「……馬鹿な男。どんなに否定したところで、自分が糸によって操られている木偶人形であることに変わりはないわ。そんなこと、操られている方からすればわからないこと、問うだけ無駄だって」
 脚が、手が、髪が、ゆっくりと黒に溶けていく。まるで手品を見ているようだった。
「おれは根拠もなく信じてるぜ。これは一種の信仰さ。自分という唯一無二で不滅な魂があると信じる宗教さ。おれは『おれ』で、おれ自身の意思でここにいる。最悪の免罪符だと思ってるが、それでもいい。おれはそうすることで『救われる』から」
「時代精神に囚われた、哀れな男……」
 魔女は消えていく。
 灰色の髪も、赤い瞳も闇夜に消えていく。
 白い唇が呪言を告げるように動いた。
「……そうやって、一人哀れに道化を演じて、踊り狂っていればいいわ」

 闇夜の上で、星々が慎ましく輝いていた。
 海を挟んだ向こう岸で輝くランドマークタワーの行き過ぎた自己主張で、存在感が薄い。
 おれは手すりにもたれかかって、宝石の様に瞬く星の光に見入った。
「あ、スケボー」
 おれは顔を顰めた。
 自宅の机の上に置いてあった呪術書を取りに戻った時、そのまま自室に置いたまま出てきてしまった。
 行きは魔女との決着ばかり考えていたから気にも止めなかった。
「ま、いっか。歩いて帰ろう」
 おれは一人夜景を眺めた。
「……先輩は愚か者です」
 背後に気配を感じて振り返ると、そこには真妃乃が立っていた。
「せっかく、人を自由に動かす力を手に入れたというのに、みすみす手放すなんて」
 そう言って、おれの隣に立つと、手すりに身体を預けた。
 おれは夜空を見上げた。
 何光年も先にある星の光が揺らめいて見えた。
「でも、やっぱ大切だろ?」
 おれは自らの手を眺めた。
 呪術書を海に放った時の感触が手に蘇った。
 この決断すらおれは背負って行かなければならない。
「誰にも脅かされない『おれ』っていう器が」
 それを守るために、おれは魔女と袂を分かつことに決めた。
 その決断が新たな背負うべき罪になろうとも。
 真妃乃は頷いた。
 真妃乃の顔は、暗闇でも白く鮮明に浮かび上がっていた。
「非常に非論理的で感情的です」
 真妃乃は言った。
 フォロー無しかよ。
 そういうことを平気でいう彼女に、おれは頭を掻いた。
 まったく、本当にこの後輩は。
 しかし、真妃乃は不意に表情を和らげた。
「けれど、そう思ってしまう先輩に一定の理解があるつもりです」
 真妃乃はそう言うと、おれに朗らかな笑みを向けた。
 その言葉に優しさを見出してしまい、おれは思わず顔を赤らめた。



 変わった世界は元には戻らない。
 おれのせいで、人々は変わってしまった。
 彼らは自分の行動が変化してしまったことすら気付かず、日々の生活を送っていくのだろう。
 おれは罪深いことをしたと思っている。
 だから、せめて世界が元の形にまで近づけるよう、おれは呪術書を海へ還元した。
 
 おれは現実に目を背けている。
 だが、それを一体誰が非難できるのだろうか。
 恐らく、おれは間違っている。
 だけど、正しさが人間を救うとは限らない。

 夢見がちな世界は、真実を前にして躓く。
金椎響 8tiPoznsKE
http://kagamimono-nishiki.hatenablog.com/
2010年10月30日(土)22時01分 公開
■この作品の著作権は金椎響さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 感謝を捧げます――私の小説を読んで下さった全ての方々に。

◆あらすじ◆
 文芸部に所属する「オレ」は、一歳年下の後輩米原真妃乃に振り回され、学校伝来の呪術書なるものを捜索することになった。
 しかし、尾ひれのついた噂が多い呪術書はなかなか発見できない。そんななか、閉架書庫で棚に戻らない奇妙な本が現れた。
 呪術書に封じられた魔女が姿を現す。呪術書に封じられていた「魔女」との出会いが、「オレ」の生活を数奇なものへと変えていく。

◆作者からのコメント◆
 初めまして。作者の金椎響です。
 前作『シャッターボタンを全押しにして』に続き、二作目の投稿となります。
 前作で寄せられた皆さんの感想に基づいて、地の文や表現などをがらりと変えてみましたが、いかがでしたでしょうか。
 枚数制限を大きく超過してしまい、後に大幅に削る羽目になりました。

◆哲学的なテーマ◆
 本作は前作の対比ということで、哲学者の理論の引用を極力避け、主なテーマを「自由意思」にしました。
 また「わたし」、罪というテーマについては要所要所ですが語っております。
「自由意思」について補足をしたいと思います。魔女はまるでリベットに感化されたような強烈な自由意思否定の立場に立っています。逆に、「オレ」は肯定の立場をかなり感情的に貫いています。本来ならば、魔女の意見はデネットを始めとする肯定派から激しく非難されて然るべきですし、「オレ」はかなり感情的な意見が混じっていて「マズいかも」と思いながら書きました。しかし、これも問題提起だと思って、思い切ったことを言わせました。

※なお、本文では「意思」という言葉を使っています。
 哲学では「意志」を使うのが一般的だと思うのですが、脳科学では「意思」という言葉を使っていたので(例えば「意思」決定。他には法律の世界)こちらの方で統一させて頂きました。

◆おわりに◆
 最後に、私のような初心者に、このような機会を与えて下さった飲茶様やうっぴー様をはじめとする企画運営の皆さま、そして、私の作品を読んで下さった全ての読者の方々に心から感謝致します。
 本当に、本当に、ありがとう。

最終更新日 2012年08月08日(水)


この作品の感想をお寄せください。

2011年01月25日(火)02時03分 真柴竹門  +40点
追記感想を投稿する真柴竹門です。金椎響さん、またお会いしましたね。
エキセントリクウ作品の感想でも書いたことなんですが、また身体を壊してしまって軽い風邪を引いとります。元々熱は無いし関節痛も治ってきたけど、咳がまだ止まりません。ゴホゴホ。
さて、金椎響さん以外の人なんですが、私が書いた本作の感想はもっと下のほうに投稿されてるんで、読むのでしたらそちらから読んで、次に金椎響さんの感想に目を通し、それから気が向いたらでいいからこの追記感想でも見るって形をオススメします。
すみません、金椎響さん。とてもちょっとやそっとの追記では済みそうにないんで改めて投稿してしまいました。これに関しては無理に返事をしなくてもいいです。
書きたいことは四つありまして、まず簡単で短い三つのほうから話をします。

>フッサールは言ったじゃない、そんな操られている方からすればわからないこと、問うだけ無駄だって
→えっ、言ってませんでしたっけ? 第一作以降、基本的に自分の頭のなかの知識をメインに書いていたので。

すいません。もう調べなくていいですよ。一言でいえば、私が誤読していました。

>「……馬鹿な男。どんなに否定したところで、自分が糸によって操られている木偶人形であることに変わりはないわ。フッサールは言ったじゃない、そんな操られている方からすればわからないこと、問うだけ無駄だって」

私がこのセリフを読んだ時、間違って『フッサールは人間なんて糸に操られている木偶人形にすぎない、って主張したのか?!』と読んでしまったのです。
ですが感想投稿後の一時間後に『ヤベッ! 違うぞ! このセリフ、よく読めばあくまで不可知論的な主張をしているにすぎないぞ! つまり例えば「神はいる」とも「神はいない」とも言わず「神がいるかどうか分からない」とフッサールは考えたんだって魔女は言いたいんだ』と気付きました。
そのあとすぐに感想を修正して、その部分を訂正しました。ほら、感想欄をもう一度見てみて下さい。無くなっていますよね。不可知論的な発言なら、竹門現象学派の人間としても「現象学的還元」を行う際の言葉なんだとすんなり受け入れられます。
ですが、こっちが修正する前にもう感想を読んだのですか。本当にメール自動送信機能を活躍させてますね。活躍させすぎてこっちが大変です(笑)。

次に二つ目は脳科学的自由論について。
これはわざわざ書かなくていいことなのかもしれませんが、一応、前の感想では字数的に書けなかった私の立ち位置を明らかにしておこうかな、と思いました。金椎響さんの意見を完全否定するつもりじゃありません。
まず、私は脳科学を肯定しています。そして自由論も、自由論の本を読んだことがあまりないのでよくわかりませんが、抽象的な話になりがちに陥りそうなんだけれども、これも肯定的なのです。
ただ問題なのは、この二つをくっつけてしまうことに異議を申したいのです。つまり「混ぜるな、危険!」というわけです。
まあ、思考実験と単なる実験結果を混同による危険性という金椎響さんの主張と似ているのですが、『死の季節』の「ハル」の「尊厳、崇高」とは違って、私は「住み分け」を重視した所からの意見です。
確かに脳科学からの問題提起は私も「マジかよ?!」と驚かされるし、考えるキッカケやら材料やらにもなるので、とても有意義でしょう。ちょっと口が悪すぎたかもしれません。反省してます。
しかし、脳科学的自由論の場合はそういったメリットよりもデメリットのほうが大きいと思うのですよ。
さすがに「脳科学的に言って自由意志なんて無いんだ!」なんていう困ったさんはいないでしょうが、ミスリードを起こしてしまうようで嫌なんですよ。
脳科学は悪く言えば「何でもアリのごたまぜな学問」でして(良い言い方をすれば学際的)、自由という抽象的問題も吸収してしまうような越権行為をしそうなんです。
逆に自由論を展開する時に脳科学側が関わってくると、「科学的知見」って簡単に覆せないってイメージがあるもんだから、自由論に変なしがらみが付いてしまって質が落ちてしまうんじゃないかと心配してしまいます。
私としては「脳科学は脳科学、自由論は自由論」とハッキリさせておきたいのです。
例えば自由論者が「脳科学的に自由意志なんてないんじゃないかー?!」って悩んでたら「いやいや、自由ってのは抽象的な領域で議論すべきことなんだから関係ないよ」と指摘し、「好きなときにボタンを押して下さい」というリベットの実験に対して「そんなの自由云々とは全く関係ない話だよ」とツッコみたいのであります。
というか私の脳科学的自由論批判の根本は、リベット実験を完全にバカにしてるところから来ています。あれはトンデモと変わりませんよ。そりゃリベット実験を始めて知った時は驚きましたけど、すぐに『胡散臭いな』と思い直した人間ですから。
つまりは自由論は抽象的で、脳科学は物質的または「脳と心の相関性」なんだってことです。……ごめんなさい、私のほうもちょっとまとまってません。この話題はここまでにします。

そして三つ目ですが……

>高望みがいけないことは誰でも知ってますが、知らず知らずのうちに高望みすることがありますからね。
>そうですよね。言う通りだと思います。その辺りの分相応さが金椎響なんだと思います。

いやいや、そこまで落ち込まないで下さいよ。そのあとにちゃんと書いてあるじゃないですか。ほら……

>まあ、アマチュアでもこの両立を心がけるのは大変結構なことですが。

ね。そんな縮こまらずに、もうちょっとだけでもいいから、前を、いや上を向いてみましょうよ。


では四つ目の本題へ、とその前にちょっと寄り道しましょうか。
「虐殺器官」を買って第一部まで読みました。svaahaaさんじゃないけど、ここまでだけで、「虐殺器官」が金椎響さんへいかに影響を与えたかが窺い知れますね。
つーか矢鱈に肉感的な機械が出てくるし、ジジィは何でこんなバカなことをしたんでしょうね?
「死の季節」の時と違って、何だか楽しめそうな作品です。期待して読み進めたいですな。……ってか今、酷いことを書いてしまったような?

>わたしにとって『虐殺器官』は聖書です(笑)

そうなんですか。私にとって聖書は、マンガだけど「スパイラル〜推理の絆〜」(原作、城平京。漫画、水野英多)ですね。そして聖書、ではないですけど思い出深いのが、外伝二作目である「小説 スパイラル〜推理の絆〜2 鋼鉄番長の密室」です。
影響を受けやすいティーンエイジャーだった頃、城平京の「名探偵に薔薇を」がファーストインパクトでしたが、「外伝2」のセカンドインパクトのほうが強烈でした。ここからスパイラルファンになったようなもんです。
良かったら「外伝2」を読んでみて下さい。本編を知らない人でも楽しめるように書かれていますし、ある意味で金椎響さんと真柴竹門がどれほど方向性の違う人間かが顕著になるでしょう(笑)。
(※続く)

119

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2011年01月25日(火)02時00分 真柴竹門 
金椎響さんへの追加感想その2


それでは本題の四つ目に移りましょうか。
ああ、金椎響さん以外で本当に興味のない方は読まなくて良いですからね。
コホン……

>くっくっくっ。私を落胆させないで下さいよ? ミステリー作家に憧れてたなら「フェアプレイ」くらい知ってる筈です。気の利いた返事を楽しみにしていますよ。
>「アンフェア」という言葉がありまして……(遠い目)
>というのは冗談で、実は真柴竹門さんの作品(問題編)は既に読み終わりました。感想・評価については今しばらくお待ち頂けると幸いです。

ちがうわーーーーー!!!
私はこれっぽっちも「シャイスタ★(略)を読んでくれ」だなんて書いてません! 全然違う意味です! しかも金椎響さんの書き方を他人が見たら……

>『とめどなく 刻まれた
>時は今始まり告げ
>かわらない思いを乗せ
>閉ざされた扉開けよう』

……とか「永劫回帰」とか『』とかが「シャイスタ★」のヒントだと思ってしまいかねません。ですがそれも違いますよ! というかそもそもムチャクチャ浮いてるじゃないですか、これ!
ああもう、おかげで「感想文に仕込んだ謎」を作り手が暴かなきゃいけないハメになってしまいました。私、いい恥さらしです。病魔による死の床に伏せっているというのに!(嘘)。
なに? 感想文に仕込んだ謎だって?
金椎響さん、マジで気付かなかったんですか? 同じ四行で、次のようなリンクっぷりに。

>とめどなく 刻まれた(私は前に(略)信条を昔から『何度も』自分の胸に『したためました』)
>時は今始まり告げ(そう己に言い聞かせ『始めた』から(略)があるのでしょう)
>かわらない思いを乗せ(ミスメールの件で(略)全て読んだ今もそれは『変化』していません)
>閉ざされた扉開けよう(この思いのまま(略)他の作品の『ドアを開いていく』つもりです)

勿論「哲彼企画」に対する決意文は全くの嘘なんかじゃないです。でも突然こんなのを表明されて戸惑いませんでしたか? 「偶然を利用してやるー!」とか「論理的思考やアンテナ的観察力で、アンラッキーをラッキーに!」とか意味不明じゃないですか。
そしてこの「四行の決意文と、四行の謎の短文」が「謎=ミステリー」だとも思いませんでしたか?
このリンクに気付きやすいよう、最後のほうで「ガチャン! ギイィッ……」「バタンッ!」とか訳わからん演出をして四行目の「扉=ドア」を強調しておいたというのに。
フェアプレイってのは、その作中内に全ての手がかりが記されていることを指す言葉です。つまり「哲魔女、オレとか(略)」の私の感想の中に、この謎を解くヒントが全てあるんだと言いたかったのですよ。
では「編集→このページの検索」を利用して、ヒントの 『 を検索してみて下さい。
……しましたか? してから次を読んで下さいね。
すると次の五つがピックアップされるでしょう?
『言葉』『ググること』『ニコ動』『とめどなく 刻まれた〜』『挫けない』
……これらがヒントなのです。というか例えば……

「あ〜、新房昭之監督のせいで(略)が起こりそうだなあ」
「う〜ん、「我が校伝来の呪術書」とか(略)何でこんなことわざわざ書いてるんだろう?」

……とか不自然に感じませんでしたか? 内面描写って大抵は『』とか()を使って分かりやすいよう表すのが通例です。
言葉づかいからしてこれらは明らかに内面描写だというのに『』ではなく「」とすることで、これまた違和感を誘ったのでした。
さて、これら五つのヒントを並べてみると、やはり一番に目を引いて意味不明な『とめどなく 刻まれた〜』が気になるものです。他の四つのヒントの表す意味は汲み取れますが、これだけはそうはいきません。
するとヒントの中に『ググること』とあるじゃないですか。それもわざわざ……

>あ、svaahaaさん、ごめんなさい!(略)知らないことは『ググること』すら出来ませんからね。

……とまあ、svaahaaさんをダシにしてまで書いたヒントです。そのうえ文章の前後から考えて意味不明な『』による強調をしています。また『ググる』ではなく『ググること』とあります。
そしたらGoogleで『とめどなく 刻まれた〜』を調べるのが自然でしょう。
では実際にググってみて下さい。いいですか?
……はい、調べましたね。そしたらどんな検索結果が出ましたか?
そう「魔法少女まどか★マギカ」ですよね。
さらに調べれば、これはOPソングの「コネクト」(ClariS)だと判明します。こちらとしては……

>真柴竹門さんが最後まで小説を読むことは、他の方の感想を拝読させて頂いたので存じておりますよ。

……という点からモーフィアスさんの「終末崩壊序曲!」で私の感想を読んだと推理しました。ならば金椎響さんは私がアニメソングを少しばかりながら嗜んでいることも知っていると結論付けたのです。
そして私が感想文の中で「PV・CMやOPソングを見ても異端性はわからないので、私なんかのための感想より先に本編を鑑賞してみたらどうですか?」と書いていたのを思い出すでしょう。
勿論ムリヤリな紹介は誰だって嫌なものですから「まあ、度が過ぎた感想欄の私信利用はしてないでしょうし、心の広いであろう金椎響さんならお茶目な私のバカに付き合ってくれると信じてます」と前もって謝罪しておいたのですよ。
……ん? 今から本編を見ようとしませんでしたか? もう遅いわ!
十八日の午後をすぎた夜、念のため色んな動画共有サイトを見て回りました。金椎響さんが実費を用いることなく「まどか★マギカ」を見られるかの確認のためにです。
すると運営が働き出したためか、前日まで会った「まどか★マギカ」の一話本編がどこもかしこも削除されてるではないですか。
あの日の時点で無料視聴できたのは「ニコニコ動画」の「ニコニコチャンネル」でしている、テレビ放送後一週間だけ無料公開だけでした。
エルシャダイネタから恐らく金椎響さんは「ニコ動」の会員登録を済ませていると推理していましたが、これ以外の手がかりが無くてかなりのギャンブルでした(ニコ動は会員登録してないとダメ)。
が、会員登録していてもタイムリミットが迫っていたのです。Googleで「魔法少女まどか★マギカ ニコニコ動画」で検索してすぐ出てくるサイトに入り、第一話の紹介をよく見ると「11/01/13 03:00」とあります。つまり……

>というか図書室で水戸部がオレに抱きつくシーンを『ニコ動』へ急いでアップして下さい!(笑)。それも20日午前3時までのうちにです!(←意味不明〔笑〕)。

……というのは「急げ!」という暗に秘めたメッセージだったのですよ。もちろん水戸部の動画アップは本音ですよ。しかしそれと同時に『利用できるな』と考え付いたのも本当です。
とまあ、こんな小細工も仕掛けてましたが、先ほど「ニコ動」へ行ってみると第一話はいつまでも無料配信中みたいですね(笑)。まあ期日が迫っているのは第二話のほうですな。こっちは二十七日午前三時二十分までが無料期間のようです。
なに? 「ニコ動」に登録してないだと? まあ金椎響さんは現実世界でお忙しくなったみたいだし、もっとショートで済ませるためにも……
>魔法少女まどか★マギカ - TV‧OP「コネクト」
>【魔法少女まどか☆マギカ】ED Magia _ Kalafina from 2話
をコピペででググって下さい。合計3分30秒ぐらいなら大丈夫でしょう?
……んで金椎響さんが視聴したとして話を進めます。
どうでしたか、OPソングの出だし? というのも……

>交わした約束を忘れないよう、ちゃんと読みましたよ。

……いやいや。金椎響作品全読は私の一方的じゃないですか。
そう、ここで『言葉』に注意してたら「交わした約束を忘れないよう」が歌詞だったことに気付けるでしょう。
さらに注意をすれば『とめどなく 刻まれた〜』がBメロを占め、最後に『挫けない』がCサビの最後の歌詞であるとも気付けます。つまりね……
>目覚めた心は走り出した(十年たって始めて小説を書く喜びに目覚めました)
>未来を描くため(アマチュアですが意欲のある限り主人公達の未来を描いていきます)
>難しい道で立ち止まっても空は(きっと「シャッターボタン」のような困難にあって立ち止まることがあっても)
>綺麗な青さでいつも待って(upa・R・upaさんやsvaahaaさんのような優しき未知の人が待っていると)
>てくれるだから怖くない(そう思えばこの先の執筆活動も不安なんかありません)
>もう何があっても挫けない(いや、どんなことがあろうと挫けずに自分で立ちますよ)
……って具合に「気の利いた返事を楽しみに」していたのですよ(美文を書けない自分が恨めしい)。
いいですか? 「永劫回帰」というのは内側からの勇気付けなのですよ。つまり、時には誰にも頼らずとも立ち上がる強さが必要なんですが、それは「メタ認知」を用いて、自分を肯定し、自分で自分を励ますことで可能になるんじゃないのかなと思うんですよ。
そういうバカをやりたかったんですが、ねえ。……ん? いま、気の利いた返事を書こうとしてませんか? もう書かんでいいわーーー! てか「夢見がちな世界は現実を前にして躓く」って何?!
ああもう、こうなったら八つ当たりだー! 「ニーチェはこう考えた」や「まどか★マギカ」よりも最優先で「スパイラル外伝2」を読めー! でないとティロ・フィナーレだ!
つーか素直に読むか普通? あんな不自然な文をー? 金椎響さんは本当に、実直な方なんですねー(怒)。
……あれ? 何か大事なことを忘れているような?

>実は真柴竹門さんの作品(問題編)は既に読み終わりました。感想・評価については今しばらくお待ち頂けると幸いです。

……え? 読んじゃったの?(滝汗)。

120

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2011年01月23日(日)23時29分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
<前半部分>

 真柴竹門さん、こんにちは。作者の金椎響です。
 最初に、この作品を読んで頂いてありがとうございます。ついに、三人目の金椎響著作、全投稿作品の読破者ですね、本当にありがとうございます!
 えっと、超特急で文章をしたためたため、誤字脱字があるかもしれません。また、後日改めて文章を書き直す恐れがございますので、たまに確認して頂ければ幸いです。追伸は基本、こちらのコメントに記したいと思います。本当にごめんなさい。

>はっきりいって「哲彼企画」の「シャッターボタン〜」と同じくらい「異端」な作品です。
→明らかに他の作品と毛並みが違うのに、皆さんから評価して頂けるという不思議。これも一重に読者の皆さまのお陰です。本当にありがとうございます。
>ちなみに「死の季節」での感想のやり取りで、伊藤計劃「虐殺器官」に興味を持ちました。
→最近、書店で文庫版『ハーモニー』と合わせて並んでいますよね。わたしにとって『虐殺器官』は聖書です(笑)

>前に「She said〜」を読了しましたが、出だしが妙に凝ってるなあという印象を受け、とっても訝しみました。(……)けどそれは前作の「哲学的な魔女〜」ネタをリテイク(っていうの?)していたんですね。
→一作目からわたしの作品を読んで頂けるとわかる「遊び」だったりします。

>……嫌みですか、それ?
→嫌みじゃないですよ!? やはり、読者様からのご指摘は小説創作において非常に参考になります。方向性や展開を考える上では読者の目は重要ですから。特に、今まで自分の作品を衆目にさらしたことがなかっただけに、皆さんの率直な意見は非常に貴重な体験となりました。
 でも、真柴竹門さんにわたしのスタンスに気付いて頂けたことは嬉しいです。一応、自分のできる範囲で自身のスタイルを変えようと努力したつもりでしたので。最近、その辺りの説明が疎かになっているような気がして、本当に申し訳ないんですけれど。

>(……)それは高望みですよ。(……)その両方を持ってる人なんて本当に希少です。この両立が出来るだけできっと、プロ作家として飯を食っていけるんじゃないでしょうかね? (……)高望みがいけないことは誰でも知ってますが、知らず知らずのうちに高望みすることがありますからね。
→そうですよね。言う通りだと思います。その辺りの分相応さが金椎響なんだと思います。
 なんというか、皆さんからの叱咤を前にするとついつい自分の至らなさを嘆いて、高望んでしまうんですよね。
 いくら、自己表現、自家発電、自己満足を自覚しているとはいえ、こうしてわたしの作品を読んで頂ける以上、作者も読者も楽しめる作品が作れれば良いな、なんて思ってしまうんです。せっかく、皆さんが貴重な時間を割いて読んで下さるんだから、皆さんが満足して下さる作品に仕上げたい、なんて思うとついつい考えすぎちゃって、空回りしちゃうんですよね。……すいません。

>自由の問題を脳科学の観点から疑問視する哲学が巷では人気のようですが、正直言って私はこれを唾棄しています。間違ってると思っていますし、悪い哲学とすら感じています。
→『死の季節』で「ハル」にちょっと考えさせてますけれど、わたしもそういう風に思う時があります。思考実験と単なる実験結果を混同してしまう危険性を孕んでいるんじゃないかな、なんて思います。
 ただ、その一方で、脳科学は問題提起として見ると、凄い面白いんじゃないかな、とも思います。研究結果を見て、「ええっ!? 嘘でしょ」という驚きや、その時抱いた自身の考えを大切にしたいんです。衝撃的な報告もあるので、それに疑いの目を向けたり、自分の頭で考えるのって、大切なことなんじゃないかな、なんて。なにより、「脳科学的にはこうなっているらしい」で終わるんじゃなくて、そこからわたし達がどうするのか、という点が重要なんじゃないかな、と。あんまりまとまってなくて、すみません。
>まあ、「自由とは何か?」という問題はこれだけでは解決できませんので、もっと多角的な解答を沢山用意しなければいけないのでしょうが。
→仰る通りだと思います。流石に自由という問題は大き過ぎて、100枚という枚数を費やしても答えられるものではなかったので、かなり限定的になってしまっているとわたし自身も思っております。
>(……)それにある意味で、問題提起の仕方は四作品中もっともスマートだと好評価することも可能ですしね。
→ありがとうございます。この作品が「60点」と評価して下さった読者様もいるように、問題提起と物語が直結していたように、作者も思います。これを直感、みたいな感覚ではなく、技術として用いられるようになれば、作家性が高まるような予感がします。……頑張ります!

>(……)小人、ですか。(……)やっと哲学用語の「デカルト劇場(またはカルテジアン劇場)」だと気付けました。(……)しかし主人公がこめかみを指差さなかったら、マジでわかりませんでした。「劇場」という言葉を使ったらワザとらしいですしね。
→「御名答」!
 ただ、鋭い方や哲学について造詣が深い方にはアッサリその後の展開がわかってしまう恐れもあったので、危ない綱渡りだったと思います。
 あと、彼は知っていたからこそ、あえてわたしに訊ねたのではないか、なんて思います。わたしは言いたくてウズウズしましたけれど、それはわたしに解説を求めているのではなく、後から読む読者様に対しての示唆だったのではないか、というのが、わたしの予想です。

>料理のさじ加減といい、伏線の張り加減といい、「死の季節」の境界線の問題といい、こうしてみると「程度問題」って意外と人類の永遠のテーマなのかもしれませんね。
→わたしもそう思います。

>それからガザニガ・リベット・ヘインズ、全然知りません。金椎響さんのほうが私より哲学の造詣が深いのでしょう。
→彼等は脳科学者や神経生理学者だったりします(笑) 大学で意思決定や政策選択を学ぶなかで、脳科学も知っておいた方がいいか、と思ったのがきっかけです。哲学者については、わたしは基本的にアウシュヴィッツ関連の哲学者がメインで、他の哲学者については自信がないです。

>フッサールは言ったじゃない、そんな操られている方からすればわからないこと、問うだけ無駄だって
→えっ、言ってませんでしたっけ? 第一作以降、基本的に自分の頭のなかの知識をメインに書いていたので。というのも、第一作を世に送り出した後は、京都からはじまり、横浜、東京、そして東北各地を転々とする生活(今岩手にいます。雪が凄いです)でして、今手元に一冊も本がないのです。一応、わたしも今まで書いた論文はフラッシュメモリとHDDに保存してあるはずなので、確認してみます。

>本作の魅力は何といってもキャラとキャラとの掛け合いですね。
→ありがとうございます。
>つーか真妃乃は銀河超えた!
→読者の方からそういう反応を心待ちにしておりました! 嬉しいです、凄い嬉しいです!
>銀河、スマン。でもこの気持ちは本物なんです。かわいい……かわいすぎるぞ!
→そのように言って頂けると、作者も嬉しい限りです。自分の描いたキャラクターをこうして評価して頂けると、パソコンに齧りついていた甲斐がありました。

>いいなあ、こうゆうデートシーン。主人公が羨ましいです。
→わたしも早く素敵な異性を見つけて、真妃乃ちゃんくらいキツい冗談を言っても許してもらえる関係を築きたいです(笑)
>つーか、真妃乃がモフモフとドーナッツを食べてるのを想像するだけでヤラれちまいそうですぜ。……これぞ萌えですな。
→ドーナツは人を幸せにします(笑)
>作者としては萌えと評価されるのは気に入らないのかもしれませんが、一応いっておきましょう。今の世の中、萌えから完全に離れられるとは思わないことです。
→そうですね、その通りです。
 そして、今頃になって、違和感が解けました。
 わたしは<萌え>を書いたつもりはないけれど、皆さんに「萌え」て欲しかった、ということが、今になってわかりました。
<萌え>は、女性がなんでもかんでも「カワイイ」と言ってしまう様な、第一印象に対して条件反射的に飛び出す様なものじゃなくて、「男性が女性に対して抱く、『理想像の女性』の究極形態」……とまではいかないまでも、皆さんから「気に入った」と言って頂いて愛でられる「萌え」が描きたかったことがわかりました。

 あと、わたしは基本的に作者と読者は一方通行で、それ故読者は自身の思いを作品にはフィードバックはできないけれど、作品を自由に解釈できると思っています。そして、そこに作者がどうこう言う余地ってないと思います。読者に勘違いされたくないんなら、それはしっかり作中に書き込めや、みたいな。……と言いつつも、作者はお喋りなので、訊かれたら長々書いちゃう駄目な奴なんですけど。基本的には、そういうスタンスです。
 だから、わたしはお喋りな奴で至らないので、こうしてぐちゃぐちゃ書いてしまうんですけど、気にせずにキャラクターを愛し、世界観を堪能して頂ければ幸いです。わたしの手から離れた時点で、この物語は読者の物だと思っておりますから。

 それに、一応この企画は「哲学的な萌え小説を募集」、とあるので、もし「萌え」が本当に見出せなかったら、そもそもわたしの投稿作品は皆危ない訳でして……。


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2011年01月23日(日)23時26分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
<後半部分>

>そして水戸部朱里とオレですが、二人のラブロマンスはたまりません。まさにトキメキとイタミが織り成す失恋ストーリー。
>というか図書室で水戸部がオレに抱きつくシーンを『ニコ動』へ急いでアップして下さい!(笑)
→同感です。ていうか、まずはアニメ化して欲しいです(笑) アニメ映画化でも良いですね、何度でも映画館へ足を運びたいです。で、フィルムブックとか設定資料集とかが出たら買い込みます(笑) あ、実写は駄目です。作者が一番傷付くので。

>逆に真妃乃はちとドラマティックな面が薄いのですが、それこそないものねだりでしょう。ページ数の関係もありますし。
→100枚とはいえ、四人の人間をみっちり書こうと思ったら足りませんでした。それが心残りだったりします。

>けれど黒髪少女ですか。しかも恥ずかしがって照れるところがまたいいです。きっと清らかな端整の頬を「ポッ」と赤らめたのでしょう。だから「あかり」なのですね。ええ、そういうことにしときます。素敵です。
>そして水戸部からの告白シーンも恋愛と哲学の両方でドキドキしましたが、比べるとなると繰り返しになりますが、やっぱりラストの失恋シーンが個人的に良かったですね。
>(……)
>振られたばかりだというのに主人公の心理を察する配慮と優しさが印象的でした。水戸部はいい奴です。水戸部も最高です。
→その通りです。水戸部ちゃんは良い奴、最高です!

>前はあれだけ銀河を誉めそやしていたのに、真妃乃も水戸部もそれ以上にベタ褒めだなんておかしくないかって?
→魅力と言うのは、迷いだと思います。あの子が好きなのに、この子も気になる、みたいな。だから、全然大丈夫だと思いますよ。ただ、実社会ではご用心を(笑) やっぱり、女の子は男性に一途で健気な姿勢を求めているところがありますから。

>というか金椎響作品全て読んで思ったことなんですけど、左近はまだしも、どうしてヒロインの肌が人間離れしてるのばっかなんですか? 好み?
→語り部達のものの喩えだと思いますよ(苦笑)
 個人的に、魔女と右京は凄い白いイメージで書きました。インドア派の左近も凄い白そうですね。確かに、作者の好み、というのはあると思います。日焼け知らずの「美白」な女の子に憧れているところがあります。あと、わたしが「色白いね」って言われると、嬉しいからですかね。「ああ、そっか。『色白い』って褒め言葉か〜」みたいな。

>さて、魔女に関してですが……
>もはや恒例となった逆転の発想で(……)全く驚かないように変更するのです。
→前々からずっと思っていましたけど……凄い添削能力ですね。
 わたしにもあなたのような高い推敲能力が欲しいです。いや、これはお世辞じゃなくて本当に。
 最後については、かなり迷ってしまったんですよね。魔女の心情を思うと、冷静に書けなくなって戸惑ってしまった、というのが本音です。

>というか本作品は修正ポイントなんて殆どありませんね。いいことです。
→ありがとうございます。

>そして文体ですが、四作品中で一番読みやすかったです。他の方も言っておられますが、これを変えられるのはやはり「作者の技量」なんでしょうね。これもいいことです。
→ありがとうございます。

>世界観、というか雰囲気ですが、「She said〜」と同じくあまり感じられません。ですがそれは悪いことではなく、会話のテンポを重視するなら邪魔になるやもしれないものなので、私としては肯定的です。
→そうポジティヴに評して頂けると、作者としても助かります(笑)

>にしてもこの長文、「She said〜」で「結構テキトー」になると予告していたとはいえ、本当にまとめる気ゼロですね(笑)。
→いえいえ、読者様に率直に言って頂けると嬉しいので、わざわざまとめて頂かなくても大丈夫ですよ。

>つーか現時点では、金椎響さんの「シャッターボタン〜」(……)に五十点を差し上げてるのですが、(……)三十点や四十点の作品に対してベラボウに長文感想を書いてる私って、とても変ですなあ(笑)。普通は逆です。
→でも、それだけ真摯にこの作品に向かい合って下さっているんだと思いますので、作者にとっては嬉しいです。

>それから2957文字オーバーの件ですが、あれは感想欄の話だったんですね、すみません。……しかし、金椎響さんはやはりわかっていませんね。もう一度いいます。上には上がいるのですよ?
>私なんか大分前の感想欄投稿でも3563文字オーバーしたことあるんですからね。ふふん、また私の勝ちです。だから言ったでしょう? あなたはまだまだ青い青いって。ワハハハハハ!
→相変わらず凄いですね。わたしも人の事を言えたものではないですけれど(苦笑)

>それでは点数は四十点を差し上げます。哲学の魔女、コメディの「オレ」、ドラマの水戸辺、そして金椎響作品ベストヒロインの真妃乃。
>哲学面でマイナス十点を出したというのに、よく健闘しましたよ。しかも約十五日間で仕上げたというのは凄いですね。
>こんな面白い作品を生み出してくれて、本当にありがとうございます。
→あの時は神様が宿っていたのだと思います。わたしも今思うと、二週間ちょっとでこれを書いたのが信じられないです。

>私は前に書いたように「多くの作品に出会いたい」という信条を昔から何度も自分の胸にしたためました。
>そう己に言い聞かせ始めたからこそ、今の自分があるのでしょう。
>ミスメールの件で足止めを喰らったけれど、金椎響作品を全て読んだ今もそれは変化していません。
>この思いのまま、私は「哲彼企画」の他の作品のドアを開いていくつもりです。
→この企画には素晴らしい作品が沢山ありますので、頑張って下さい。あなたの感想は、きっと他の投稿者様にも喜ばれると思います。

>くっくっくっ。私を落胆させないで下さいよ? ミステリー作家に憧れてたなら「フェアプレイ」くらい知ってる筈です。気の利いた返事を楽しみにしていますよ。
→「アンフェア」という言葉がありまして……(遠い目)
 というのは冗談で、実は真柴竹門さんの作品(問題編)は既に読み終わりました。感想・評価については今しばらくお待ち頂けると幸いです。ちょっと、現実世界の方が忙しくなってしまって、なかなか自分の時間を確保できなくて。
 あと、感想については期待しちゃいけませんよ。わたしは常に皆さまからの期待を裏切り続けた人間なので。「夢見がちな世界は現実を前にして躓く」ので(笑)

>「死の季節」で自分が体を壊しておいて世話ないですが、もう一度だけ。金椎響さん、ゆめゆめ体を壊さぬようお気をつけ下さいね。
→お気遣いを感謝します。健康は立派な資本ですのでお大事になさって下さい。
>それではさようなら。ごっどすぴーど!
→「GODSPEED!!」

 最後に、真柴竹門さん、わたしの作品をすべて読んで下さったばかりか、真摯な感想を記して頂けたこと、本当に嬉しく思います。
 今までは「読み」専門としてこのような企画に携わって来ましたが、今回は作者として参加して本当に良かったです。そうわたしに思わせたのは、真柴竹門さんをはじめとする読者の皆さまの存在と、暖かいお言葉があってのことです。
 真柴竹門さん、本当に、本当にありがとうございました。

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2011年01月18日(火)22時45分 真柴竹門  +40点
どうも、金椎響(かなしいひびき)さん、真柴竹門です。交わした約束を忘れないよう、ちゃんと読みましたよ。
最近は新番組アニメ「魔法少女まどか★マギカ」を鑑賞し、「あ〜、新房昭之監督のせいでまーた「魔法少女もののアイデンティティークライシス」が起こりそうだなあ」と危惧しながら感想を書きます。
はっきりいって「哲彼企画」の「シャッターボタン〜」と同じくらい「異端」な作品です。金椎響さんは見てないと仮定しますが、PV・CMやOPソングを見ても異端性はわからないので、私なんかのための感想より先に本編を鑑賞してみたらどうですか?
ちなみに「死の季節」での感想のやり取りで、伊藤計劃「虐殺器官」に興味を持ちました(ハヤカワ文庫の印象的な黒いカバーで気にはなっていましたし)。
まあSFはウェルズの「タイムマシン」しか読んだことない人間ですし、私の読書スピードやら色々考えた結果、二月十五日までに読了できないでしょうから、その感想は追記でも無理だと最初から諦めてて下さい。

では余談はここまでにして、本編の感想です。
まずは、自虐ネタから。
前に「She said〜」を読了しましたが、出だしが妙に凝ってるなあという印象を受け、とっても訝しみました。
「う〜ん、「我が校伝来の呪術書」とか「横浜開港」とか「洋の覇者オランダの国家機密」とか、何でこんなことわざわざ書いてるんだろう?」と。
けどそれは前作の「哲学的な魔女〜」ネタをリテイク(っていうの?)していたんですね。ということは……

>そして、選んだ末に背負うこととなる責任に。
>この決断すらオレは背負って行かなければならない。
>その決断が新たな背負うべき罪になろうとも。

……うわあああ! 「背負い(つまり引き受ける)」ネタは二作目で既に利用していたんですね?! だったら作者が三作目を執筆時にそのネタを使えるわけないじゃないですか!
なのにベラベラベラベラと見当違いの修正案を書いてた私って、まるで道化です。ミスメールの件で三作目から読もうと思ったのが仇となりました。

>特に、具体的な改善点を指摘して頂けたことは、わたしにとって指針となりました。

……嫌みですか、それ?
まあ、本当に困っていたと仮定して話を進めますが……

>というか、なんでわたしはそういう風に書けないんでしょうね。今、わたしは軽い自己嫌悪に陥ってます。

……あのですね、金椎響さんはどうやら文学的な文章力はお有りのようです。けどプロット面で弱くて嘆いてるみたいですが、それは高望みですよ。
ミステリーをご存知ならエドガーアランポーを知ってると思いますが、彼は詩も巧みながら、理知的な面も持っています。だから世界初の探偵小説を書けたのでしょう。
けど、その両方を持ってる人なんて本当に希少です。この両立が出来るだけできっと、プロ作家として飯を食っていけるんじゃないでしょうかね? 私はよくわからないですが。
ちなみに、私が前に修正案を出せたのは感想欄で「読者の望み」と「作者の嘆き」のどっちも知ることができたからにすぎません。もし片方が欠けていれば私は客観的な改善案なんか出せなかった筈です。
高望みがいけないことは誰でも知ってますが、知らず知らずのうちに高望みすることがありますからね。気をつけましょう。まあ、アマチュアでもこの両立を心がけるのは大変結構なことですが。

話を「哲学的な魔女〜」に戻して哲学面を検討しますが、この点でマイナス十点にします。でもこれは金椎響さんのせいではなく、かなり私情が入ってるからですね。
自由の問題を脳科学の観点から疑問視する哲学が巷では人気のようですが、正直言って私はこれを唾棄しています。間違ってると思っていますし、悪い哲学とすら感じています。
「シャッターボタン〜」ではアウシュヴィッツネタから倫理的な哲学問題を提起され、「死の季節」では脳科学からある境界線の問題を投げかけました。この二つは良いんです。
しかし「She said〜」と「哲学的な魔女〜」だと、まさに私の嫌いな脳科学的自由論を展開します。しかも「She said〜」ではダーツェンに(今作の主人公以上の)明確な答えを語らせようとしました(そして割と失敗気味の解答)。
この脳科学的自由論がかなり癇に障るのですよ。けれど考え直してみました。「She said〜」と違い、今作はまだ問題提起のレベルですし、「背負う」ネタを使った解答をしています。
まあ、「自由とは何か?」という問題はこれだけでは解決できませんので、もっと多角的な解答を沢山用意しなければいけないのでしょうが。
ですので始めのうちは感情的にマイナス二十点にするつもりでしたが、すぐに「いや、マイナス二十点というのは流石にやりすぎだ!」と思って、マイナス十点にしたのです。
だからこの減点は、運が悪かったと捕らえても構いません。それにある意味で、問題提起の仕方は四作品中もっともスマートだと好評価することも可能ですしね。にしても……

>「私の喋る聞き取れない『言葉』は、世界の理を司る小人を動かすことができる。小人が働くことで世界が動き出して、あんたの願いを叶えてやることができる。そういうことよ。理解できた?」

小人、ですか。最初これを読んだとき「この世界の設定では天上にギリシャ神話的な神々がいるのかな? この魔女は精霊使い?」と先入観を持ちました。しかしラスト近くで小人がどこにいるか尋ねるシーンで……

>「ひょっとして、ここなんじゃないのか?」
>オレは、自分のこめかみを指差した。
>「御名答」

……という描写でやっと哲学用語の「デカルト劇場(またはカルテジアン劇場)」だと気付けました。
「現役厨二病患者にして無粋な設定マニア」の頓珍漢な応答に際し、作者としては答えを言いたくてうずうずしたんじゃないですか? よくこらえましたね、金椎響さん。
あ、svaahaaさん、ごめんなさい! 無知は悪いことじゃないと思いますよ! 知らないことは『ググること』すら出来ませんからね。
しかし主人公がこめかみを指差さなかったら、マジでわかりませんでした。「劇場」という言葉を使ったらワザとらしいですしね。
料理のさじ加減といい、伏線の張り加減といい、「死の季節」の境界線の問題といい、こうしてみると「程度問題」って意外と人類の永遠のテーマなのかもしれませんね。本作のテーマと違うのですが、考えさせられます。
それからガザニガ・リベット・ヘインズ、全然知りません。金椎響さんのほうが私より哲学の造詣が深いんじゃないですか?

では哲学面の話はここまでにして、小説面の話にしましょう。
本作の魅力は何といってもキャラとキャラとの掛け合いですね。
米原真妃乃とオレがとにかくコミカルでした。これこそ「お金で買えない価値がある」というものです(笑)。
つーか真妃乃は銀河超えた!(←人物名ですよ?)。何このプンスカ少女! スゲー楽しー! 激ヤベー!! ……うぉおおおおお!!!
銀河、スマン。でもこの気持ちは本物なんです。かわいい……かわいすぎるぞ! 小動物が、小動物がぁああ!(ムスカ調)。

>「でも、事実上の恋人、みたいなもんですし……」
>「事実上!?」
>「と、まぁ冗談はさておき……」
>「冗談だった!?」

いいなあ、こうゆうデートシーン。主人公が羨ましいです。冗談を交わせる仲ってのは多分友人から夫婦までどんな関係でも交流を滑らかにする大事なファクターですし。
きっと主人公に食べかけのドーナッツをあげたのは意図的でも深層心理の表れでもなく、本当に無邪気な気持ちで差し出したんでしょうね。うん、そういうことにします。
つーか、真妃乃がモフモフとドーナッツを食べてるのを想像するだけでヤラれちまいそうですぜ。……これぞ萌えですな。
作者としては萌えと評価されるのは気に入らないのかもしれませんが、一応いっておきましょう。今の世の中、萌えから完全に離れられるとは思わないことです。
よくわからなくても結構ですが、あの硬派な作品の「バイバイ、エンジェル」に出たヒロイン・ナディアに対しても、ネットで「ナディア萌え〜」と呼ばれてることを知った時、私は目を点にしてしまいましたよ。
まあ、念のため「萌え」という用語はここまでにしておきます。
(※続く)

103

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2011年01月18日(火)22時40分 真柴竹門 
金椎響「哲学的な魔女、あとオレとか」への感想その2


そして水戸部朱里とオレですが、二人のラブロマンスはたまりません。まさにトキメキとイタミが織り成す失恋ストーリー。
というか図書室で水戸部がオレに抱きつくシーンを『ニコ動』へ急いでアップして下さい!(笑)。それも20日午前3時までのうちにです!(←意味不明〔笑〕)。
んでもってラスト前の別れも爽やかですし、ドラマ性に関しては水戸部が担当してる分、真妃乃より上ですね。逆に真妃乃はちとドラマティックな面が薄いのですが、それこそないものねだりでしょう。ページ数の関係もありますし。
けれど黒髪少女ですか。しかも恥ずかしがって照れるところがまたいいです。きっと清らかな端整の頬を「ポッ」と赤らめたのでしょう。だから「あかり」なのですね。ええ、そういうことにしときます。素敵です。
そして水戸部からの告白シーンも恋愛と哲学の両方でドキドキしましたが、比べるとなると繰り返しになりますが、やっぱりラストの失恋シーンが個人的に良かったですね。

>「私、恨んでなんかないよ!」
>「もし、君がそう願ってくれなかったら、私はずっと溜め込んでたと思うから。だから……」
>「君も、自分の気持ちを大切にね」

振られたばかりだというのに主人公の心理を察する配慮と優しさが印象的でした。水戸部はいい奴です。水戸部も最高です。
ん? 前はあれだけ銀河を誉めそやしていたのに、真妃乃も水戸部もそれ以上にベタ褒めだなんておかしくないかって?
いやいや、金椎響さんなら薄々勘付いてると思いますが、私はエ○ ゲーマーですよ。そして浮気性じゃなかったらエ○ ゲーマーは勤まりません(そんなにプレイしてないけど〔笑〕)。
そんで魔女ですけど、真妃乃が「彼女」を担当して魔女が「哲学」を担当するのは、確かに「彼女」と「哲学」が解離してるように見えますね。まあそこは顔の面でリンクしてるってことにしときましょう。
というか金椎響作品全て読んで思ったことなんですけど、左近はまだしも、どうしてヒロインの肌が人間離れしてるのばっかなんですか? 好み?
さて、魔女に関してですが……

>ラスボスの割には潔いというか、倒すのはあまりに簡単というか
>ただ、魔女自身は自分が今存在していることにかなり絶望しているんですよね。だから、「オレ」に殺されて癪な半面、それでもいいか、みたいな諦めがあったんです。
>途中で決別して最後に憤っているのは、「オレ」が結果的に魔女を消してしまう行為よりも、「オレ」に認められなかったことに対する怒りです。
>「オレ」が真妃乃に対して、魔女による介入を避けたのと同じように、魔女もまた、意思をいじられていない、そのままの「オレ」に受け入れて欲しかった、という思いもあったんです。

……とまあ、いつも通り「読者の望み」と「作者の嘆き」が書かれていますね。では、こういうのはどうですか? ……にしてもホント、どっちかが欠けていたら良い改善案でも悪い改善案でも思いつくことすら不可能ですよ。感想投稿、様様です。
もはや恒例となった逆転の発想でして、魔女は呪術書が海に落ちた時に「なっ……!?」と驚くのですが、これを逆にするのです。全く驚かないように変更するのです。するとこんな感じになります。
「お前、自分が死ぬってのに驚かないんだな?」
「……まあね。そんなこと、七秒前からわかってたことだし。ん〜!(背伸び)。まあ、これはこれでアリかなって、そう思っただけよ。それだけ」
「……なあ。どうしてそんな悲しそうな顔でオレを見るんだ?」
「ふふ。あんたには関係ないことよ。私が最も小人の影響を与えなかったあんたには、ね」
……どうです? あまりのアッサリ感が反対にラスボスチックとなってませんか?
というか本作品は修正ポイントなんて殆どありませんね。いいことです。
そして文体ですが、四作品中で一番読みやすかったです。他の方も言っておられますが、これを変えられるのはやはり「作者の技量」なんでしょうね。これもいいことです。
世界観、というか雰囲気ですが、「She said〜」と同じくあまり感じられません。ですがそれは悪いことではなく、会話のテンポを重視するなら邪魔になるやもしれないものなので、私としては肯定的です。
あえて言うなら「春の日差しがぬくぬくと強く差し込むような秋の風流」ですかね。かなり強引ですけど。ちなみに「ぽかぽか」ではなく「ぬくぬく」であり、春が真妃乃で秋が水戸辺です。
う〜ん、あまり心にもないことを書くのは作者に失礼なので、世界観についてはここまでにしときます。
……いや、というか中盤での主人公の小人乱用というドタバタから考えて、世界観もクソも無いような気がしてきました(笑)。

にしてもこの長文、「She said〜」で「結構テキトー」になると予告していたとはいえ、本当にまとめる気ゼロですね(笑)。
つーか現時点では、金椎響さんの「シャッターボタン〜」とupa・R・upaさんの「夢見る神 夢診るフロイト」に五十点を差し上げてるのですが、そのお二方の二作品よりも三十点や四十点の作品に対してベラボウに長文感想を書いてる私って、とても変ですなあ(笑)。普通は逆です。
それから2957文字オーバーの件ですが、あれは感想欄の話だったんですね、すみません。……しかし、金椎響さんはやはりわかっていませんね。もう一度いいます。上には上がいるのですよ?
私なんか大分前の感想欄投稿でも3563文字オーバーしたことあるんですからね。ふふん、また私の勝ちです。だから言ったでしょう? あなたはまだまだ青い青いって。ワハハハハハ!
……あれ? 私、どうして泣いてるんでしょう? 私はただ、金椎響さんを励まそうとしただけなのに。

それでは点数は四十点を差し上げます。哲学の魔女、コメディの「オレ」、ドラマの水戸辺、そして金椎響作品ベストヒロインの真妃乃、どれも素敵な存在でした。
哲学面でマイナス十点を出したというのに、よく健闘しましたよ。しかも約十五日間で仕上げたというのは凄いですね。
こんな面白い作品を生み出してくれて、本当にありがとうございます。



では、ここから金椎響作品全ての総括をも含めて書きますので、金椎響さん以外の人はここから先を読まなくて結構です。
というか金椎響さんですらついてこれない可能性もありますしね。
私は金椎響作品を「シャッターボタンを全押しにして(一作目)」→「死の季節(四作目)」→「She said to me, “GODSPEED”.(三作目)」→「哲学的な魔女、あとオレとか(二作目)」という順番で読みました。なのに……

「シャッターボタン〜(一作目=五十点満点)」→「哲学的な魔女〜(二作目=四十点)」
→「She said〜(三作目=三十点)」→「死の季節(四作目=二十点)」

……何という下落傾向な評価をしてしまったんでしょうか(汗)。しかも読む順番が投稿順ではなく、ランダムで読了していった点がまた追い打ちをかけてしまってます。
そして私のほうも、ミスメールの件で金椎響全作品を読むことになったのですが、どの作品も良かったからその辺では不満はないのですけど、やはりそれ単独で考えると不幸といえば不幸です。
しかし、私は転んでもただでは起きませんよ?(いつも転びっ放しですが〔笑〕)。 
アンラッキーをラッキーに捻り変えてみせる、それが論理的思考、そしてアンテナ的観察力ってなもんです。相手が偶然だろうとも、こっちが利用してやりますよ。
というわけで、「死の季節」の酉野目さんとは違う形で、小説を綴るためキーを押す勇気付けを届けたいと思います。
まあ、度が過ぎた感想欄の私信利用はしてないでしょうし、心の広いであろう金椎響さんならお茶目な私のバカに付き合ってくれると信じてます。
では。
私は前に書いたように「多くの作品に出会いたい」という信条を昔から何度も自分の胸にしたためました。
そう己に言い聞かせ始めたからこそ、今の自分があるのでしょう。
ミスメールの件で足止めを喰らったけれど、金椎響作品を全て読んだ今もそれは変化していません。
この思いのまま、私は「哲彼企画」の他の作品のドアを開いていくつもりです。
つまり……
『とめどなく 刻まれた
時は今始まり告げ
かわらない思いを乗せ
閉ざされた扉開けよう』
……くっくっくっ。私を落胆させないで下さいよ? ミステリー作家に憧れてたなら「フェアプレイ」くらい知ってる筈です。気の利いた返事を楽しみにしていますよ。
まあ何がしたいのかっていうと、「永劫回帰」みたいなことです。そりゃあ「永劫回帰」と比べたら、てんで質は落ちるのですが、やりたいことは似ています。
「良い作品でした」「面白かったです」という好評も確かにいいのですが、時には逆境に落ちてこれらの言葉すらないこともあります。そんな場合でも『挫けない』ためにはどうすればいいのか?
「永劫回帰」というのは、こういった外側からの勇気付けではありません。つまり外側の反対は……?
まあ金椎響さんの心が、外側の反対側から果たして回答を書けるのでしょうかね。
あと、ヒントは『』といった二重かぎカッコです。ああそうそう、無理して即レスしなくていいですからね(むしろそんなの望んでいない)。
しっかし、金椎響さんはおろか、他の読者さんがこれを読んでも置いてけぼりでしょうね(笑)。やりたい放題すぎますが、ま、いっか。
ガチャン! ギイィッ……
ではそろそろお暇しますか。残念ですが追記ぐらいならともかく、本格的な出会いはこれでお終いでしょう。
「死の季節」で自分が体を壊しておいて世話ないですが、もう一度だけ。金椎響さん、ゆめゆめ体を壊さぬようお気をつけ下さいね。
それではさようなら。ごっどすぴーど!
バタンッ!

113

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2011年01月13日(木)02時14分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 nさん、こんにちは。作者の金椎響です。返信が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。

『シャッターボタンを全押しにして』を読んで頂いたばかりか、こうして二作目を読んで頂けたこと、本当に感謝しております。nさん、本当にありがとうございます。

>二人の女の子の間で揺れ動く主人公の心、
>それが本当に苦悩として伝わってきて、巧いと思いました。
→ありがとうございます。
 作者的には、100枚という枚数を費やして「オレ」という人間のこころの変遷を描き出したい、などと思っていたので、そのようなお言葉を頂けると嬉しくてによによしてしまいます。

>ともすれば「贅沢な!」「共感できない」となってしまいそうな設定なのに、
>魔女に翻弄される主人公を「ざまあみろ」とは決して思えず、
>共感し、応援し、共に悩みながら読みました。
→そう言って頂けると、作者としても嬉しいです。
 前作との対比で、今度は主人公が女の子にモテモテですけれど、一番戸惑っていたのは、作者のわたしかもしれません(苦笑)
 共感し、応援し、共に悩んで頂きながら読んで頂けると、わたしとしても嬉しいです。すいません、語彙の少ないわたしには、ただただ「嬉しい」としか表現できません。

>水戸部さんの清らかさが本当にきれいで、真妃乃の小悪魔的な愛らしさと良い対比になっていました。
>「やっぱ男はそっち行っちゃうかぁ・・・」と残念半分・諦め半分。
→良い子ですよね、水戸部ちゃん。わたしのお気に入りキャラの、一人です。というか、登場人物は皆、わたしの子どもみたいなものなので、愛着も人一倍だったりします。
 ヒロインを真妃乃にするか水戸部にするかでギリギリまで悩みました。書いていて、どうしても感情移入してしまうんですよね。
 やっぱ男はそっち行っちゃうかぁ……。どうなんでしょうね(笑) 男の子の読者にその辺りを詳しく訊いてみたいですよね。真妃乃と水戸部、彼女にするならどっち? みたいに。
 感想の中でも「水戸部に感情移入した」という声と「真妃乃が良かった」という声があるので、やはり男性陣の中でも賛否両論なのかもしれませんね。

>哲学要素も浮いていない。お話の重要なファクターとして働いています。
>ただ、「哲学的で萌える女の子」は薄い気もします。
>この展開だと、哲学的な魔女には萌えを感じにくいです。
→感想のなかで少し書いてしまったのですが、魔女は最終的に「オレ」と敵対し、最後には消されてしまうので、魔女に対する萌えは当初からあまり書き込まない方針でした。
 作者としましては、「萌え」なら真妃乃か水戸部に感じて、という気持ちでしたから。その御指摘につきましては、作者の技量が足りていなかったと思います。
 今後は、nさんの御指摘を踏まえて、作品作りに活かしていきたいと思います。
>魔女は怖い。本当に怖いです。思い通りになるという「自由」は恐ろしいですね。
>邪悪なものとして、惹きつけられました。
→そのように言って頂けると嬉しいです。
 この世に青天井の、果てしなき無制限の「自由」はないけれど、それは決して「不自由」なことではないんですよね。わたし達は、ある一面では「自由」に囚われていますけれど、本当の、文字通りの「自由」ってとても恐ろしく、扱いにくい存在だと、わたしも思います。

>そして、心に響いたかと言えば、「シャッターボタンを全押しにして」まではいかないかなぁという感想です。
>よりライトノベル的であるからなのか・・・私の心に対しても「ライト」でありました。
>実は以前、途中まで読んでギブアップした経緯があります。再チャレンジして、ようやく最後まで読めました。
>逆に言えば、軽いならいっそのこともっと軽く、笑いっぱなしで一気に読める感じでもよかったかな、と思います。
→その辺のさじ加減が上手くいかなかったかな、と作者も猛省しております。
 処女作を投稿した当初、まったくと言って良い程反響がなかったので、それが悔しくて悔しくて。かと言って、わたしにはショートショートは書けないので、作風だけを変えるという苦肉の策で挑んだのが、本作だったりします。
 また、前作とは違ったスタイルで挑みたい、という気持ちもありました。わたしだって、ちゃんと書けるんですよ、ラノベだって……みたいな負けず嫌いがありまして。
 最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。そして、お疲れ様でした。

 最後に、この作品を読んで頂き、本当にありがとうございました。
 前作に引き続いて、本作にも感想、そして高い評価を頂いたこと、本当に嬉しく思います。
 なにより、nさんの率直なお言葉が頂けたことは、作者にとって励みになりました。

 nさん、本当に、本当にありがとう。わたしの感謝の気持ちが、あなたのこころに届きますように。

pass
2011年01月13日(木)02時03分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 110K1さん、感想どうもありがとうございました。
 日付を見ると『死の季節』→『シャッターボタンを全押しにして』→『She said to me ”GODSPEED”』そして、本作に感想を記して頂けたようですね、ありがとうございます。
 なんと、金椎響ワールド完全制覇ですよ。本当に、ありがとうございます。

>第一作『シャッターボタンを全押しにして』とは打って変わった文体と作風に驚かされた。私はライトノベルズを前面に押し出したこの作品の評価を最後まで下せずにいた。
→ごめんなさい。作者のスタイルによって読者の皆さんを振り回してしまったかもしれないな、と思うと申し訳ない気持ちです。

>金椎響はこの企画で唯一「小説」を書いている投稿者である。アマチュアで荒削りな点があるが、そこを問題にするのはこの際相応しくないだろう。高名な作家でない限り、それはプロアマ共に議論される点であるし、そこに多少の瑕疵があったとしても、それが作品の質を直ちに落とす要因になるとは限らないからだ。
 むしろ、金椎響はこの作品を契機に私という意識や自我、自由意思、欲求といった哲学的なテーマについて大きく舵を切ったとするならば、この作品の意義を再評価しなくてはならない。
→そのように肯定的に捉えてくれると、救われます。
 確かに、そのように指摘されると、この作品が重要なターニング・ポイントになっているような気がします。

>この作者の優れている点は、哲学と物語性の融合だろう。百枚という怒涛の枚数と一人称形式は作者がこの企画において一貫した態度だ。数枚程度で綴られる、ちょっと笑う程度の一発芸クラスのものとは違っている。この企画において、多くの作者が蔑ろにしてきたテーマ性を、金椎響氏は妥協することなく、そして読者に媚びることなく描いてきた。この企画では誰も評価していなかったので、私がその点について改めてここで記したい。
→評価して頂いて、ありがとうございます。
 わたしがこの企画に参加するきっかけはまさに、テーマ性だったりします。わたしの作品の存在によって、少しでもこの企画の多様性が広がれば、なんて思って、キーを叩いていたような気がします。

>無論、読書に対してどのように楽しむか、それは読者の自由だ。その点に関して、読者の一人でしかない私がとやかく言う筋合いはないだろう。しかし、ついつい哲学と萌えだけに焦点が行ってしまう風潮に警鐘を鳴らす意味合いを込めて、私は氏を評価した。
→本来的な意味での、「小説」復興ですね。
 確かに、110K1さんにそう指摘されると、今までわたし達は「哲学」と「萌え」という観点にばかり目が言ってしまって、「小説」という一番大切な部分をついつい見逃してしまう傾向にあったかもしれませんね。

>四十点か五十点か。私は大いに迷った。私はすでにこの作者に五十点を二つも与えてしまった。しかし、作品は皆、その作品自体で評価されねばならない、というのが私の信条だ。それ故、この作品には五十点を与えたいと思う。私の他にも投稿した作品が現在総得点第一位のsvaahaa氏が、金椎響の作品に二つも五十点を与えていることからも、この作者の技量がわかるのではないか。
→110K1さんとsvaahaaさんからは三つの作品で50点を頂いているんですよね、本当にありがとうございます。作者として、自身の生み出した作品がここまで評価されると、嬉しくて嬉しくて泣き出してしまいそうです。

>本作と第四作目ではランドマークタワーを「墓標」と表現していることは印象的だ。死の気配を上辺だけ取り除いた、胸糞悪い脱臭された死が四作目『死の季節』では主題だった。その原点はもう本作の段階で出ていたのだろう。
→現在の本作では削ってしまった描写をよく御存じでしたね、驚きました。本当に、企画が始まった当初から、わたしの作品を読んで下さったんですね、ありがとうございます。

>脱臭された死の象徴でありながら、一方では三つの作品でそれぞれの主人公が各々決断を迫られ、その結果、恋人を得た舞台にもなっている。四作目では主人公が人間関係を見直す契機となった場所が、この横浜である。人の営みを感じさせない区画がある一方で、作者は四百枚という枚数を費やして横浜という街を舞台に高校生達の生活を見事描き切った。そこには脱臭された死とは対照的な、香る生があると指摘できるのではないだろうか。
→ここまで解説されてしまうと、もうわたしの言うことはありませんね。

>私は作者金椎響個人の事を知らない。それ故、私は氏を必要以上に買い被っているのかもしれない。それは著者に対する私の高評価からもそれは明らかだ。しかし、それもまた許されるのではないだろうか。作者は作者なりに物語を描き、読者は読者でその物語を堪能した。そういうことなのだろう。
→多分、皆さんが思っている程、金椎響という人間は立派な奴じゃないと思います。
 ですが、わたしの描いた物語を堪能して頂けたのであれば、作者冥利に尽きます。

>私の大方の予想では、恐らく金椎響はこの企画において大賞に選ばれることはないだろう。しかし、それは作者本人が一番良くわかっていることだろう。
>だが、私は作者に感謝したい。この企画に苛立ちを募らせていた私にとって、氏の作品は興味深かった。作者が物語に込めた意味を読み解く作業は私の胸を躍らせた。まるで推理小説を読んでいるかのようだった。哲学のハウツー本にできない芸当だったと思う。
→ありがとうございます。
 しかし、こうして実際に書かれてしまうと、ちょっぴり残念ですね。大賞を取るつもりで書いていた訳じゃありませんけれど。
 ですが、110K1さんが楽しめたのであれば、それはまた作者にとっても幸せなことです。わたしの描いた物語に胸を躍らせてくれる、これほどまでに嬉しいことは多分ないと思います。

 最後に、110K1さん、感想どうもありがとうございました。
 金椎響の世界はとりあえず、ここで終わりですが、またどこかであなたの素敵な解説が見れる時を、楽しみにしております。

 110K1さん。本当に、本当に、ありがとう。

pass
2011年01月06日(木)17時03分 n  +40点
二人の女の子の間で揺れ動く主人公の心、
それが本当に苦悩として伝わってきて、巧いと思いました。
ともすれば「贅沢な!」「共感できない」となってしまいそうな設定なのに、
魔女に翻弄される主人公を「ざまあみろ」とは決して思えず、
共感し、応援し、共に悩みながら読みました。
水戸部さんの清らかさが本当にきれいで、真妃乃の小悪魔的な愛らしさと良い対比になっていました。
「やっぱ男はそっち行っちゃうかぁ・・・」と残念半分・諦め半分。

哲学要素も浮いていない。お話の重要なファクターとして働いています。
ただ、「哲学的で萌える女の子」は薄い気もします。
この展開だと、哲学的な魔女には萌えを感じにくいです。
魔女は怖い。本当に怖いです。思い通りになるという「自由」は恐ろしいですね。
邪悪なものとして、惹きつけられました。

そして、心に響いたかと言えば、「シャッターボタンを全押しにして」まではいかないかなぁという感想です。
よりライトノベル的であるからなのか・・・私の心に対しても「ライト」でありました。
実は以前、途中まで読んでギブアップした経緯があります。再チャレンジして、ようやく最後まで読めました。
逆に言えば、軽いならいっそのこともっと軽く、笑いっぱなしで一気に読める感じでもよかったかな、と思います。
110

pass
2010年12月30日(木)19時53分 110K1 KI8qrx8iDI +50点
 今まで傍観者として沈黙を守ってきた。しかし、ついに耐えかねて不本意ながらも書き込むことにした。読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて感想を送る。

 第一作『シャッターボタンを全押しにして』とは打って変わった文体と作風に驚かされた。私はライトノベルズを前面に押し出したこの作品の評価を最後まで下せずにいた。
 金椎響はこの企画で唯一「小説」を書いている投稿者である。アマチュアで荒削りな点があるが、そこを問題にするのはこの際相応しくないだろう。高名な作家でない限り、それはプロアマ共に議論される点であるし、そこに多少の瑕疵があったとしても、それが作品の質を直ちに落とす要因になるとは限らないからだ。
 むしろ、金椎響はこの作品を契機に私という意識や自我、自由意思、欲求といった哲学的なテーマについて大きく舵を切ったとするならば、この作品の意義を再評価しなくてはならない。
 この作者の優れている点は、哲学と物語性の融合だろう。百枚という怒涛の枚数と一人称形式は作者がこの企画において一貫した態度だ。数枚程度で綴られる、ちょっと笑う程度の一発芸クラスのものとは違っている。この企画において、多くの作者が蔑ろにしてきたテーマ性を、金椎響氏は妥協することなく、そして読者に媚びることなく描いてきた。この企画では誰も評価していなかったので、私がその点について改めてここで記したい。
 無論、読書に対してどのように楽しむか、それは読者の自由だ。その点に関して、読者の一人でしかない私がとやかく言う筋合いはないだろう。しかし、ついつい哲学と萌えだけに焦点が行ってしまう風潮に警鐘を鳴らす意味合いを込めて、私は氏を評価した。

 四十点か五十点か。私は大いに迷った。私はすでにこの作者に五十点を二つも与えてしまった。しかし、作品は皆、その作品自体で評価されねばならない、というのが私の信条だ。それ故、この作品には五十点を与えたいと思う。私の他にも投稿した作品が現在総得点第一位のsvaahaa氏が、金椎響の作品に二つも五十点を与えていることからも、この作者の技量がわかるのではないか。

 この作品は前作と違って平易な作風なので、私が特別解説する必要はないだろう。なので、ここでは四つの作品について、読者として感じたことを綴りたい。
 四作の作品に共通することは、一人称小説であること、百枚という枚数を費やしていること、そして、舞台が横浜の街であることだろう。作者は何故ここまで横浜という街に拘ったのだろうか。
 本作と第四作目ではランドマークタワーを「墓標」と表現していることは印象的だ。死の気配を上辺だけ取り除いた、胸糞悪い脱臭された死が四作目『死の季節』では主題だった。その原点はもう本作の段階で出ていたのだろう。
 脱臭された死の象徴でありながら、一方では三つの作品でそれぞれの主人公が各々決断を迫られ、その結果、恋人を得た舞台にもなっている。四作目では主人公が人間関係を見直す契機となった場所が、この横浜である。人の営みを感じさせない区画がある一方で、作者は四百枚という枚数を費やして横浜という街を舞台に高校生達の生活を見事描き切った。そこには脱臭された死とは対照的な、香る生があると指摘できるのではないだろうか。

 私は作者金椎響個人の事を知らない。それ故、私は氏を必要以上に買い被っているのかもしれない。それは著者に対する私の高評価からもそれは明らかだ。しかし、それもまた許されるのではないだろうか。作者は作者なりに物語を描き、読者は読者でその物語を堪能した。そういうことなのだろう。

 私の大方の予想では、恐らく金椎響はこの企画において大賞に選ばれることはないだろう。しかし、それは作者本人が一番良くわかっていることだろう。
 だが、私は作者に感謝したい。この企画に苛立ちを募らせていた私にとって、氏の作品は興味深かった。作者が物語に込めた意味を読み解く作業は私の胸を躍らせた。まるで推理小説を読んでいるかのようだった。哲学のハウツー本にできない芸当だったと思う。

 したり顔で長々と駄文を記したことを、どうか許して頂きたい。しかし、私がこうして恥をさらすくらいには、この作品は興味深かったのだ。
117

pass
2010年11月15日(月)23時29分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 どうも、こんにちは。作者の金椎響です。
 受賞歴のあるよしぞーさんから今回、感想が頂けたことに喜びを感じます。
 よしぞーさん、本当にありがとうございます。

>あぁ、ライトノベルだなーと思いました。やりとり、コメディタッチで、魔女にびんたされたり、つっこみが面白かったです。
→ありがとうございます。
 やりとりや突っ込みに力を入れたつもりでしたので、そう評価してもらえれば光栄です。

>ただ、ちょっと、何をやっているか、ちょっと雑然とした印象を覚えて、わからなかったところもありました。
→申し訳ないです。
 今回、字数が大幅にオーバーしてしまって、作者が作品に振り回されてしまいまして。
 取捨選択、というよりも選択と集中ができれば良かったのですが、作者の力量が足らず、読者の方には見苦しい点が多々あったと思います。

>キャラの魅力でいえば、すいません、俺は真妃乃がかわいいとはおもえなかった。でも、一般的には高感度高いキャラなのはわかります。
→いえいえ、いいんですよ。
 真妃乃の可愛さを引き出せなかったのは、読者の方の問題ではなく、一重にわたくし作者の問題ですので。その辺りをもう少し、上手く書ければ良かったのですが。作者の至らぬところがあったと思います。

>あとちょっと惜しいかなと思ったのは雰囲気です。もうちょっとあれば、もっと引き込まれるのにと思うところが、ところどころあったのですが、ちょっと弱いかなぁと思いました。
→そうですね。よしぞーさんの仰る通りだと思います。
 前作が「ラノベぽっくない」というご指摘を頂いておりましたので、今回は「ラノベだラノベ」と自分に言い聞かせ過ぎてしまって、なんだか上手く雰囲気を醸し出せなかったかもしれないな、と自己反省しております。

>しかし、主人公という存在の強さが輝いていたように思います。心理描写の書き込みなどによって、主人公キャラがとても立っていたように思います。それで物語をひっぱっているような気がしました。
→ありがとうございます。
 今回一人称にこだわって書いただけに、よしぞーさんにそう言って頂けると本当に嬉しいです。

 最後に、今回よしぞーさんの忌憚のない感想と評価を頂けたこと、本当に感謝しております。
 作者の豆腐メンタルにビシビシ亀裂が入って、ちょっとキツいですが、これをバネに今後も精進していきたいと思いますので、どうか温かい目で見守って頂ければ幸いです。
 あと、お名前が「某よしぞー」さん、とのことでしたが、文中では全て誠に勝手ながら「よしぞー」さん、としております。ブログを拝見していた手前、こちらの方で統一させて頂きましたこと、事後報告ながら、記しておきます。
 よしぞーさん、本当に、本当にありがとうございます。

pass
2010年11月15日(月)19時20分 某よしぞー 4XnS5OgSrI +30点
ども、某よしぞーです。
あぁ、ライトノベルだなーと思いました。やりとり、コメディタッチで、魔女にびんたされたり、つっこみが面白かったです。
ただ、ちょっと、何をやっているか、ちょっと雑然とした印象を覚えて、わからなかったところもありました。
キャラの魅力でいえば、すいません、俺は真妃乃がかわいいとはおもえなかった。でも、一般的には高感度高いキャラなのはわかります。
あとちょっと惜しいかなと思ったのは雰囲気です。もうちょっとあれば、もっと引き込まれるのにと思うところが、ところどころあったのですが、ちょっと弱いかなぁと思いました。
しかし、主人公という存在の強さが輝いていたように思います。心理描写の書き込みなどによって、主人公キャラがとても立っていたように思います。それで物語をひっぱっているような気がしました。


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2010年11月14日(日)20時16分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 どうも、作者の金椎響です。
 svaahaaさん、本作を読んで頂いて本当にありがとうございます。
 まず最初に、前作に引き続き、本作も100枚という無駄に長い小説を読んで頂いたばかりが、素晴らしい感想と高い評価を頂いたことに対して、感謝したいと思います。

>「前作を読んだんなら今作も読むべきだろ常考」とゴーストがささやいたので、なんとか読み通しました……目が疲れた(笑)。
>またまた作者さんにつられて超長文になってますが、私の性分もあるので諦めてください。というか、これだけ長い作品を書くあなたが悪いんです!(いっときますけど、褒めてるんですよ?)。
→お疲れ様でした。
 いえいえ、長い分には全然構いませんよ。
 わたしも、こんなに長い感想を頂ける幸せを噛み締めております。

 誤字報告と気になった表現についての御指摘、本当にありがとうございます。報告箇所については、書き直させていただきました。
 こうやって丁寧に指摘して頂けると、本当に助かります。
 誤字や表現については、かなり厳しく見ているつもりなのですが、やはり見落としてしまいますね。読者の方々には本当に申し訳ないです。

>あとは「俺」と「オレ」はどちらかに統一した方がいいのではと思います。
→一応「オレ」で統一したつもりだったのですが、確かに「俺」という表記もありますね。本当にすいません。
 何日かに分けて書いたこともありますし、普段わたしが使っているパソコン以外でも作成したのでどうしても変換ミスが出てしまって。一発で「真妃乃」と出なくていちいち変換していた時は、泣きたい気分でした。

>前作とはうってかわって見事にライトノベルですね。全然「異端」じゃないです。あまりに雰囲気違うので驚いてしまいましたよ。文体や雰囲気を使い分けられるその技量がうらやましいです。努力とセンスの賜物だと思います。
→それは良かったです。前回は捻くれた「ぼく」が世界を捉えていたので、冗長気味でしたが、今回はあっさりした「オレ」が主人公だったので変えてみました。
 あと、前作との対比で本作は「軽い」感じで作りたいな、と思いまして。
「ぼく」が夕日が好きなのに対して、「オレ」は朝日が好きだったり、前作では夕日の描写が多かったのに対比して本作では青空の描写を多くしました。

>一番気に入ったのはやはり前半のドーナツのかけあいです。まさに絶妙。テンポもよくて楽しかった。この部分で「真妃乃」のキャラが際立って、十分「萌え」を演出できていると思います。しっかりもののお茶目な後輩……なんて甘美な響きなんだ。
→前作では「ぼく」も伊豆見も比較的真面目だったので、こういったかけ合いができなくて。今回それが炸裂した形になります。svaahaaさんにそう言って頂けると、わたしも本当に嬉しいです。

>ただ、その代わりに振り返ってみると「水戸部」の存在が若干浮いているように思えます。なんというか、「俺」の罪を演出するためだけのスケープゴートのような気がしてしまって。
→そうですね、そういう捉え方もできてしまうあたり、ちょっと作者の配慮が足りなかったかなと思います。
 今回、真妃乃、水戸部、そして魔女と三人の女の子を取り上げたことで、かなり文字数がオーバーしてしまって、しかも制限字数で上手くまとめることができなかったりと、作者の力量不足が際立ってしまって、読者の皆様には本当に申し訳ない気持ちで一杯です。

>肝心要の「魔女」ですが、ラスボスの割には潔いというか、倒すのはあまりに簡単というか……少しばかり薄かったかなと思います。
→中盤辺りに魔女が「オレ」に対して、あんたの考えなんてお見通しよ、みたいな言葉を言っているのに、あっさり倒されやがって、って感じですよね。その気持ちわかります、作者だけど。
 ただ、魔女自身は自分が今存在していることにかなり絶望しているんですよね。だから、「オレ」に殺されて癪な半面、それでもいいか、みたいな諦めがあったんです。
 途中で決別して最後に憤っているのは、「オレ」が結果的に魔女を消してしまう行為よりも、「オレ」に認められなかったことに対する怒りです。「オレ」が真妃乃に対して、魔女による介入を避けたのと同じように、魔女もまた、意思をいじられていない、そのままの「オレ」に受け入れて欲しかった、という思いもあったんです。
 ですが、その辺りも丁寧に描けなかったのは、一重に作者の力量不足ですね。
>本に封印されることへの不安や恐怖や孤独感なんかがもう少し描かれていると豊かなキャラになったかなーとか、偉そうなことを思ったりしました。
→いやいや、全然偉そうじゃないですよ。そう言った忌憚のないご意見は作者にとって、非常にありがたいものです。
 その辺りも丁寧に描写したかったです。魔女に「萌え」要素こそ与えなかったものの、彼女の不安や恐怖、迷い、孤独感、絶望を通して読者に共感してもらいたかっただけに、作者であるわたし自身、本当に残念です。
 
>思わずにやっとしたのは、まさかの「lebensborn」組カメオ出演(で合ってるのかな?)。前作を読んだ人にはうれしい発見ですね。読んでない人にはわからないように配慮もしてあって、ここが浮いてしまうなんてことにもなっていません。
→ええ、御指摘の通りです(笑)
 ちょうど、前作最後の場面で「ぼく」がランドマークタワーを前にして伊豆見に引き摺られるシーンです。
>横浜はどうやら青春する少年少女の巣窟みたいだ。
→横浜、特にみなとみらいはヤバいです。見るからに幸せそうな少年少女や男女があまりにも多くて。多くて……。生きるのが辛い。

>「小人……小人かぁ」と思いました。
>魔法の設定として出てくることばが「小人」っていうのは正直……「かっちょわるい」です。
→そう言われると、確かにかっちょわるい!
 ただ、何か思わせぶりな言葉を出して、変に読者を納得させるよりは「小人」と評して、その瞬間だけは納得して頂いて、後で「ん? 小人って何だよそれ」と疑問に思って頂くように繋げたかった、というのもあります。
 が、確かに「小人」はちょっと……。作者の微妙なセンスが滲み出ていますよね。どうにかならなかったのか、わたし。
 ちなみに、魔女が魔法とか唱えちゃったりしたら格好良いかな、とも思ったのですがやめてしまいました。何分、「オレ」に特別なスキルは何もない、という設定だったので。それ故「オレ」は魔女の本当の名前すら聞き取ることができません。ちょうど、魔女が脳に介入している時は、「オレ」には見えないし、その辺りは割愛してもいいかな、とも思ってしまいました。
 
>哲学部分については、問題提起できていると思います。極端な意見をいわせた方が議論はしやすいし、「それは違うだろ」と釣られる(?)人も多くなると思うので、その辺はむしろ成功だと思います。
→それは良かったです。
 いや、何分「オレ」も魔女もかなり際どいことを言っているのでちょっと心配になってしまって。
>「自由意思はなく、自由意志はある」
→その可否は別として、凄い明言に聞えます(笑)

>「哲学的な小説」というものがあるとすれば、それは読者自身に哲学することを促す、良質な思考実験を提出するようなものであって、教科書的な教説をまき散らすものではない――なんて考えています。
→わたしもsvaahaaさんと同じ考えです。
 やはり、哲学というのは実際に自分の頭の中で考えないことには始まらないものだと思うんですよね。
 そう言う意味で、わたしは問題提起にこだわっています。
 わたしは、皆さんに問題を提供できても、答えを与えることはできないんじゃないかなと思います。多分、その答えは、各々が問題の中で独自に見出していかなければならないものだと思うので。キルケゴールじゃありませんけど、自分だけの哲学を、皆さん自身の手で見つけていただければ幸いです。

>本当は+10点して前作よりもいいと思ったことを表現したかったのですが、システム上不可能だったので、あしからず。これだけ長い作品をちゃんと構成を考えて書ける作者さんはすごいですね。これからもがんばってください。
→ありがとうございます。
 そのお言葉、本当に嬉しいです。
 はい、これからもご指摘を肝に銘じて、頑張っていきたいと思います。

 最後に。
 前作に引き続き、本作を読んで頂いて本当にありがとうございます。
 svaahaaさんの丁寧な御指摘やご感想、率直な意見は作者にとって、何物にも代えがたい財産です。拙いながらも勇気を振り絞って、作品を投稿した甲斐がありました。
 svaahaaさん、本当に、本当にありがとう。

pass
2010年11月13日(土)15時40分 svaahaa I0z7AdLSAc +50点
「前作を読んだんなら今作も読むべきだろ常考」とゴーストがささやいたので、なんとか読み通しました……目が疲れた(笑)。というわけで、感想を書かせていただきます。またまた作者さんにつられて超長文になってますが、私の性分もあるので諦めてください。というか、これだけ長い作品を書くあなたが悪いんです!(いっときますけど、褒めてるんですよ?)。以下、感想です。

 まずはやはり誤字報告から。間違ってたらすいません、無視してください。

>本当に安全かどうか、消費者には一瞥してわかりません。
「一瞥しても」あるいは「一瞥では」じゃないですかね。否定文なので。
>天に召されているか、地獄の堕ちている
「地獄に」かと。
>「……なんか、最近助けてばっかりだね」
 前後の文脈からして、「助けてもらって」ですかね。
>「私、恨んで何かないよ!」
「恨んでなんか」ですね。

 次に、気になった表現など。これは私の趣味嗜好もありますので、重要視する必要はまったくありません。そんなこと気にするやつもおるんかいな、程度の認識でお願いします。

>次の瞬間、本の重量が途端に増して、オレは思わず本を落としてしまった。開いた頁に書かれている意味不明の言語の羅列が揺らぎ、目の前の空間を湾曲させる。
>目の前に広がる不可解な光景に、オレは目を見張った。目の前で唐突に映画が始まってしまったかのような感覚に驚いた。目を擦ったが、空間は揺らめいている。頭を叩いたが、目の前には巨大な水泡が浮かんでいるように世界が歪んでいる。
 前作でもいいましたが、「目の前」という単語が連続して四回もでてきたのが気になりました。少しずつ意味の異なることばに置き換えるか、文章そのものを変えた方がいいのではと思います。
>「お前は、封印される前の自分と今の『わたし』という自分との間にぽっかりと断絶してるかもしれない、だなんて思って絶望したのか?」
 直前が「間に」とあるので「ぽっかりとした断絶がある」の方が自然かと。あるいは「〜前の自分と〜という自分がぽっかりと」などにするとか。

 あとは「俺」と「オレ」はどちらかに統一した方がいいのではと思います。最初は地の文が「オレ」で会話文が「俺」かとも思ったんですが、そうでもなさそうですし。何日かに分けて書かれたんでしょうから、そのときに混乱したとか?

 さて、以下は内容についてです。まとまってないので何いってるのか私もわかってないですけど、少しでも参考になれば幸いです。

 前作とはうってかわって見事にライトノベルですね。全然「異端」じゃないです。あまりに雰囲気違うので驚いてしまいましたよ。文体や雰囲気を使い分けられるその技量がうらやましいです。努力とセンスの賜物だと思います。
 一番気に入ったのはやはり前半のドーナツのかけあいです。まさに絶妙。テンポもよくて楽しかった。この部分で「真妃乃」のキャラが際立って、十分「萌え」を演出できていると思います。しっかりもののお茶目な後輩……なんて甘美な響きなんだ。
 ただ、その代わりに振り返ってみると「水戸部」の存在が若干浮いているように思えます。なんというか、「俺」の罪を演出するためだけのスケープゴートのような気がしてしまって。描写を削ってしまったからそうなったのか、私だけが感じる特異な意見なのかはわかりませんが。
 肝心要の「魔女」ですが、ラスボスの割には潔いというか、倒すのはあまりに簡単というか……少しばかり薄かったかなと思います。もっと暴走したり、感情をあらわにしたりするとよかったんでしょうけど、短編という制約の下では無理だったんでしょうね。コメントにもあるように萌え要素はなくてもよかったんでしょうが、本に封印されることへの不安や恐怖や孤独感なんかがもう少し描かれていると豊かなキャラになったかなーとか、偉そうなことを思ったりしました。まあ、それも字数制限にひっかかるでしょうから、あえて切り捨てられたのかもしれませんけどね。
 思わずにやっとしたのは、まさかの「lebensborn」組カメオ出演(で合ってるのかな?)。前作を読んだ人にはうれしい発見ですね。読んでない人にはわからないように配慮もしてあって、ここが浮いてしまうなんてことにもなっていません。横浜はどうやら青春する少年少女の巣窟みたいだ。いや、全国各地そうなんでしょうけど。
 で、これは現役厨二病患者にして無粋な設定マニアの戯れ言なんですが、「小人……小人かぁ」と思いました。終盤で「小人=脳」だとわかるので、そこからは少し違和感も和らいだんですが、魔法の設定として出てくることばが「小人」っていうのは正直……「かっちょわるい」です。何でもかんでもややこしい単語を使っていては読みにくくなるだけなので、こだわりすぎはよくないというのはわかるんですけど、精神年齢十代の読者としてはもう少し謎めいたことばにしてほしかったかなと。まぁ、それがメインでないことは重々承知しているので、この辺はさらっと流してください。

 哲学部分については、問題提起できていると思います。極端な意見をいわせた方が議論はしやすいし、「それは違うだろ」と釣られる(?)人も多くなると思うので、その辺はむしろ成功だと思います。かくいう私も、自分の哲学を再確認させてもらいましたし。ちょこっとだけ語らせていただくなら、「自由意思はなく、自由意志はある」ってな感じですが、まあ、それは置いといて。
 自分では全然実践できていないのですが、「哲学的な小説」というものがあるとすれば、それは読者自身に哲学することを促す、良質な思考実験を提出するようなものであって、教科書的な教説をまき散らすものではない――なんて考えています。作者さんはどうやらそれを実践されているようですごいと思いました。その意味で、今作も「哲学的な小説」といえそうです。

なんやかんやいいましたが、評価はご覧の通りです。本当は+10点して前作よりもいいと思ったことを表現したかったのですが、システム上不可能だったので、あしからず。これだけ長い作品をちゃんと構成を考えて書ける作者さんはすごいですね。これからもがんばってください。

心底長くなりましたが(ホントだよ……すいません)、以上です。どうもありがとうございました。
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2010年11月02日(火)19時50分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 キャンさん、感想どうもありがとうございます。
 100枚という無駄に長い小説にも関わらず、貴重な御時間を頂いて読んで頂き、感想、評価を頂いたことを嬉しく思います。キャンさんには改めて感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

 キャンさんの感想は、他の方の小説でも拝見しておりました。この方から感想を頂けるよう努力をしなくてはいけないな、などと個人的には思っておりました。今回図らずとも感想が頂けて光栄です。
 
>意思はまぁ脳科学でだいぶ解明できるだろうけれど、素朴な意識のほうは難しいだろう。
なるほど。こうして御考えを一言でも記して頂けると、作者としてはありがたいです。
>コレだけ言えば充分だろうし、感想ですでに萌に関しては言及されてるからこれだけ。
すいません。大幅な字数制限によって多くの場面を削ってしまい、萌え要素まで削ったのは本末転倒だったと猛省しております。100枚も使ったにもかかわらず、上手くまとめあげることができなかったのは、作者の未熟さ以外の何物でもございません。皆さんの御指摘を肝に銘じて、精進していきたいと思います。
>問題提起としては成功してるだろう。
ありがとうございます。その言葉は作者冥利に尽きます。

 最後に、キャンさん、わざわざ私の作品を読んで頂き、今回評価して頂いて、本当にありがとうございます。キャンさんの御言葉を肝に銘じて、今後とも創作に努めていきたいと思います。

pass
2010年11月02日(火)04時42分 キャン  +20点
意思はまぁ脳科学でだいぶ解明できるだろうけれど、素朴な意識のほうは難しいだろう。コレだけ言えば充分だろうし、感想ですでに萌に関しては言及されてるからこれだけ。問題提起としては成功してるだろう。
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2010年10月31日(日)22時25分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 uap・R・upaさん、感想どうもありがとうございます。
 前作に引き続き、今回も無駄に長いにも関わらず読んで下さったばかりか、素晴らしい感想と分析と評価を頂けて、もう何と感謝の言葉を言えば良いのかわかりません。uap・R・upaさん、本当にどうもありがとうございます。
>面白かったです。ラブコメディのごとく三角関係ができてしまったと思ったら、それをうまく解消して真妃乃を選ぶに至らせたところがよくできていました。完成度も高いですね。
 ありがとうございます。
 一応テーマが「自由意思」なだけに、最終的には「オレ」に決断を迫る流れで作りました。
>脳科学についてはあまり知らないのですが、そこに挑んだ金椎響さんの作品に完敗です。
 実は脳科学については前々から興味がありまして。ただ、今回かなりの脳科学的なネタを放出してしまったので、今後何を書くかで困りそうですが(笑)
>願い事を叶えるのに対価はないということを魔女は言っていましたが、実は主人公は対価を暗に払っていると思いました。
 いやはや、もう私からは何も言うことはありませんね! 作者冥利に尽きます! 自分の作品を分析して頂くことが長年の夢だっただけに、今にも飛び跳ねたい気分です。
>きれいに水戸部と「オレ」との仲を見事にシメられていると思います。
 どうもありがとうございます。前回では恋愛の成就を描いたので、今回は恋愛まで至らない愛を描きたいなと思いました。
>「だっ、抱き着いてくれても構わんぞ!」と言った主人公の大胆さもありますが……
 uap・R・upaさんに指摘されると、何だか書いた私も凄く恥ずかしい……。
 今回の主人公である「オレ」は調子がいいというか、向う見ずなところがある、ということを端的に示したくて(笑) あと、ともすれば重くなりそうな物語をなるべく「軽く」する意味合いも込めて。前作で押さえたギャグテイストを今回はその反動でかなり爆発させてしまいました。
 別に、私が異性の方に抱き着いて欲しいだなんて、思っている訳じゃないんですよ。……ただ、抱き着かれたら抱きしめちゃう自信は無駄にありますけど。
>今回は文芸部でその特有の比喩が見られませんでしたね。また、文芸部である必要性があったかなぁ、とも思いました。
 当初「オレ」はかなり文学少年だったんです。中島敦文集をこよなく愛しながらスケボーに乗る、不思議な男子だったのですが、字数を大幅にオーバーしてしまって、文学関連をごっそり削除してしまった恥ずかしい経緯があります。私自身、文学を知ったかぶりなのにしたり顔で話すのが大好きなので、そういう突っ込みを真妃乃にやらせてみたり。ただ、本作で一番訴えたかった点が意思だったので、取捨選択を迫られて泣く泣くその場面は削除しました。
 まぁ、これも比喩を多用した前作との対比だ、今回は簡潔に書いたんだ、と自分に言い聞かせた後ろめたいこともありまして……すいません。ただ制限字数以内にまとめきれなかっただけです。今後、その弱点を克服していきたいと思います。
>この作品の欠点を上げるとすれば、哲学的な彼女である魔女でしょうか。
 実は魔女についてはある種意図的にそういう要素は深く書かない様に決めていました。というのも、「オレ」と魔女は最終的に敵対し、最終的には「消して」しまうので。魔女の位置付けは「オレ」に対する『彼女』ではなく、対峙する敵だ、という意識で書きました。言わばラスボスですかね。
 また、克服するべき相手が、暗に真妃乃であることを暗示したかったので。本当に向き合わなくちゃいけないのは、真妃乃の姿をした魔女ではなく、真妃乃自身であり、同時に自分自身(の心)なんだよ、と。
 もっとも、あえて魅力的に書いておいた方が、中盤から終盤に置いて劇的な印象を与えられたかも、と思うと非常に悔しい気分です。また、愛する魔女の存在と自分の信条との葛藤を描くのも良かったかも、なんて。
 題名こそ『哲学的な魔女』ですし、現に魔女は哲学的なことを言っていますが、物語的には『哲学的な彼女』は真妃乃(あるいは水戸部)自身にしたつもりです……が、その意味を上手く伝えられなかったのは一重に作者である私の未熟さ故です。自分の意図を伝えることについては、読者の視点や気持ちを斟酌することを忘れず、磨いていきたいと思います。
>私はむしろ水戸部のほうに萌えをより強く感じてしまい……
 実は字数オーバーで作品の質を下げないために、水戸部の存在を消そうかな、と思ったのですが、結局全体的に細部を削ることにしました。それは本作に対する水戸部の存在感が予想以上に大きかった、以上に水戸部自身の魅力が作者である私にそうさせなかった、ような気がします。

>二つ目の作品でまたさらに長編の作品ですが、金椎響さんの作品は高得点を取れると思います。企画も中盤戦にさしかかろうとしていますがぜひ頑張っていきましょう。
>素敵な作品をありがとうございました。
 uap・R・upaさんには前作に引き続き、今作でも感想を頂いて、本当に感謝しています。ともすれば独り善がりになりかねない小説創作において、uap・R・upaさんの客観的かつ的確な批評を頂けることが、何よりの私の財産になっています。私は本当に素晴らしい読者に出会えたことを感謝せねばなりません。
 正直な心境を申し上げますと、uap・R・upaさんから頂いた評価を糧に小説を書いている気がします。一人パソコンに向かってキーを叩く所作が、これほどまでに楽しいと思ったことは今までなかったです。自分の作品を真摯に読んで下さる読者がいるんだ、その事実だけで私の涙腺が緩みます。
 uap・R・upaさん、本当にありがとうございました。私も環境が許す限り、この企画にはこれからも関わっていきたいと思っておりますので、今後ともお互い頑張りましょう!

pass
2010年10月31日(日)15時13分 upa・R・upa adavoR6tGU +40点
 ふたたびこんにちは、uap・R・upaです。「哲学的な魔女、あとオレとか」を拝読しましたので、ここに感想を投下いたします。
 面白かったです。ラブコメディのごとく三角関係ができてしまったと思ったら、それをうまく解消して真妃乃を選ぶに至らせたところがよくできていました。完成度も高いですね。
 脳科学についてはあまり知らないのですが、そこに挑んだ金椎響さんの作品に完敗です。
 願い事を叶えるのに対価はないということを魔女は言っていましたが、実は主人公は対価を暗に払っていると思いました。それは願いを叶えることで起きる周囲の「変化」だと思います。この作品の終わりにも書いてありましたが、「変わった世界は元には戻らない」という言葉通り、それが対価になっているんだなと思いました。
 反復して使われる言葉「俺と水戸部の仲」も使い方がいいですね、この言葉は「別にいいんだよ。ほら、君と私の仲だし」という水戸部の言葉を持ってくるために、反復して使ったんでしょう。きれいに水戸部と「オレ」との仲を見事にシメられていると思います。
 また「だっ、抱き着いてくれても構わんぞ!」と言った主人公の大胆さもありますが、その台詞を言ったことを告白する主人公には勇気もありますね。それをドロドロの展開に誘導することなく、きれいで自然な展開にされていったのも気づけば見所になってました。
 前回は写真部でカメラに見立てた比喩が多かったですが、今回は文芸部でその特有の比喩が見られませんでしたね。また、文芸部である必要性(まぁ、呪術本を探すといえば文芸部がやりそうなことだ、とも言い切れないとも言えませんが)があったかなぁ、とも思いました。
 この作品の欠点を上げるとすれば、哲学的な彼女である魔女でしょうか。脳科学的な説明を難解にも繰り返していましたが、萌え要素については皆無だと思います。真妃乃と同じ容姿をしている点で萌えを主張されてもいいんですが。(これは読者の好みが左右しているのかもしれませんが)私はむしろ水戸部のほうに萌えをより強く感じてしまい、魔女に萌えを感じられませんでした。といった印象に左右されてですが、彼女である魔女に萌えを感じられませんでした。
 二つ目の作品でまたさらに長編の作品ですが、金椎響さんの作品は高得点を取れると思います。企画も中盤戦にさしかかろうとしていますがぜひ頑張っていきましょう。
 素敵な作品をありがとうございました。
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pass
合計 7人 270点


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