僕と狂人
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 好奇心は猫をも殺す。



◆プロローグ

「僕と、付き合ってください!」

 放課後、学院の校舎の裏。
 僕は思い切って声を張り上げた。
 目の前には背の低い女の子。
 突然の告白に驚いてか、きょとんとした様子で僕の顔を見上げている。

「付き合う? ――とはどのような行為を指すのだろうか」
「え?」

 今度は僕の表情が呆気に取られたようなものに変わる。

「ええとそれは、一緒に映画を観に行ったり、買い物をしたり」
「そうか。きみはそれを望んでいるのか。私は別に構わない。可能な限り『付き合う』としよう」

 事も無げに、彼女は言う。

「…………え、ええと、付き合ってくれる、でいいのかな?」
「ああ。そう答えたはずだが」

 や、やったー?
 いやいや、何か腑に落ちない。

「……い、いや、山田さん、ちゃんと分かってる? 男子と女子が付き合うって事はつまり、『恋人同士になる』って事なんだけど」
「恋人……?」

 そこで彼女――山田さんは頤に手を当てて考え込んだ。

「私の記憶する処によると、恋人とは恋しい相手の事を指していうらしい。間違いないな?」
「え、うん」
「しかし、この定義に基づいて言うのであれば、私はキミと現時点で『恋人同士』にはなれない」
「え、どうして!」
「キミは私に恋しているのか?」
「ええ!? あ、いや、それはまあ、えっと」
「どうなんだ。はっきり言いたまえ」
「はい、恋してます」
「ふむ。では『キミにとって私は恋人である』という事実が成立するわけだ。しかしだ。私がきみに――とりわけ異性として――恋しているか否か、と問われると特に恋してはいない、と言わざる得ない。つまり、少なくとも現時点において、私にとって、キミは恋人足りえないという結論に至るわけだ」
「そうだけども……いや! そうじゃなくって!」
「む……?」

 僕は慌てて頭の中を整理した。
 彼女は物事への思考回路が常人とは異なる。
 普通だと伝わるはずのニュアンスが、伝わらないことがよくあるのだ。

「ええとですね……ここで言う『付き合う』とは、その、『恋人同士になることを前提に付き合う』というか……」
「ほう……? しかしそれは『前提条件』として成立しないのではないか? 私がきみに恋するか否かは余りに未確定だ。要素数が多すぎる」
「要素数……?」

 彼女はたまに、僕にはよく分からない言い方をする。
 彼女は再び頤に手を当てて考え込む。

「そうだな……察するに、『恋人同士になるという結果を期待した上で、付き合うという行為を試行する』
 キミの言いたい事はこういう事か?」
「はい、そうです。そういう事です」
「成る程。これでようやく得心がいった」

 山田さんはやっと納得できた事に満足したのか、口元に少しだけ笑みの形を作った。

「ではそのようにする事に、私は異論は無い。しかし、私はこう見えて多忙なのだ。放課後や休日にきみと『付き合う』事ができない可能性がある事を、予め了承しておいて欲しい」
「あ…うん……」
「しかしきみも奇特な人間だな。私は『誰かに恋する』という行為を今ひとつ実感できない。好き好んで私に話しかけてくる事といい、きみの行為は理解し難いな」

 そうなのだ。
 彼女は普通の人にとっての『当たり前』を理解する事ができない。

 こうして、僕こと大垣文人は、山田さんと恋人同士になるという結果を期待した上で『付き合い』という行為を試行する事になったのだった――



 僕は山田さんが好きだ。
 下手をしたら小学生に間違えられかねない背の低さも、その割には妙に艶のある少し凛とした顔も。
 山田さんを好きになって以来、彼女に関係する情報は可能な限り集めた。いちおう軽犯罪法に抵触しない程度に。
 好きな人の事を知りたいと思うのは当然の感情だ。

 彼女は変わっている。
 どのくらい変わっているかというと、学院の擁する七人の超人的な奇人変人《七狂人》のひとりに数えられるくらい。

 《七狂人》。
 僕の通う学園には、こう呼ばれる七人が存在するのだ。
 狂人、といっても頭がおかしいわけではない――いや、おかしいのかもしれない。常人には理解出来ないような思考回路、あるいは行動原理を持つ稀代の奇才。それが《七狂人》と呼ばれる七人なのだ。
 常識という規格に当てはまらない、この世界において『狂った』パラメータを持つ人間。

 そして、山田さんはその七狂人のひとりで、《ラプラスの魔女》の異名を持つ奇才だ。
 なんでも、世界が世界自身を駆動する速度以上の速度で世界を限定的に演算する事によって、これから目の前で起こる事象の『確実な予測』を行える――らしい。
 詰将棋で数手先を読むかのように、数秒後に起こりうるあらゆるケースの結果を周囲の事象から読みとる事ができる――らしい。
 そういう説明があるものの、それがどういう原理なのかは、僕にはよく理解できない。

 まあ、そんな事はともかく。

 僕は山田さんが好きだ。

 ◆

 山田さんとの最初のデートは、放課後のショッピングだった。
 彼女の提案である。
 制服のまま商店街を僕と並んで歩いていた山田さんの第一声が僕の予想の斜め上を横切った。

「ところで私は、金というものを一切所持していない」

 え、ショッピングなのに?

「私は納得のいかないモノは持たず、作らず、利用しないと誓いを立てているんだ」

 なぜそんな誓いを……

「ええと、お金を使わないって事?」
「ああ」

 それでどうやって生活しているのだろう……と思ったが、彼女が学院において特別待遇であるから、直接金銭に関わらなくても生きていけるのかもしれない。

「でもそれって、不便じゃない?」
「私は不確かなものが嫌いなんだよ」
「お金はそう不確かでもないと思うんだけれど……」

 そう言った僕を、山田さんは少し不機嫌そうな顔をして睨んだ。

「きみ、千円札を持っているか?」
「え? うん」

 僕は財布から千円札を取り出す。
 彼女はそれを俺の手から取り、ぴらぴらとはためかせた。

「まず率直に考えて――この『千円札』と呼ばれるモノ、この紙切れがそこらに並ぶ美味そうな食物や品々と等価交換されている。この現象を、きみは不思議とは思わないかね」
「いや、あんまり……」

 山田さんはそこで先刻よりもあからさまに不機嫌な表情になる。
 まるで、『なんで思わないのかこの馬鹿は』とでも言いたげな雰囲気だ。

「例えば、きみが10億円相当の札束の入ったアタッシュケースを持っていたとしよう。きみは自らを『裕福』と見做すだろう。
 しかし、ここが店も文明も無い無人島だったならどうだ? きみはその時、『裕福』であると言えるだろうか?」
「いや、発想と状況が突飛過ぎて……」
「翻って考えてみたまえ。金とは――金の価値と呼ばれるものの、根源にあるモノとは、一体なんだ? なぜきみを含め、人々は金の価値をこうまで信仰できるのか? 
 明日にでも核戦争が起こって経済が崩壊してしまえば、億万長者も貧乏人も立場はまったく同じになるというのに!」

 なにやら街中でひとりヒートアップして来た山田さん。
 何だか微妙にイヤな予感がしてきた。

「人々に疑問の余地すら与えずに信仰させる概念。これはつまり、洗脳だよ。常識という名の、世界が強制する思考矯正だ。紙幣など、本質は紙に過ぎない。わかるか? ただの紙に過ぎないのだよ!」

 そう断言しつつ、山田さんは何故か千円札を何の躊躇もなく破り、そして捨てる。
 あああ、僕の千円札が……
 しかも紙幣を破くのは犯罪に当たるんじゃなかったっけ……
 周囲を通り過ぎる人々が眼だけは合わせないようにしつつ、僕らを見ながら通り過ぎるのが分かる。
 もちろん山田さんはそんなのはお構いなしである。
 その眼は僕ではなく宙を凝視し、もはや金とかいう概念憎し、常識死ね、世界壊れろと喚き出さんばかりの様子である。

「――あまつさえ! このヒゲのおっさんが描かれた紙キレ、コレを銀行に預けてしまったならどうだ? そこには最早『紙』としての物理的実体すらなくなり、数字というただのデータが残る。その概念的実体は記録に基く記憶であり、他者との共通認識に過ぎない。そして認識とは、脳のシナプスの配列、及びそれが生み出す電気信号でしかないのだ!!」

 そこまで一息に言い放ち、はーはー、と息を乱す彼女を、僕はどーどー、と落ち着けようとする。

「お、落ち着こうよ山田さん」

 普段は理路整然、沈着冷静な山田さんが、これだけ激情に駆られて荒れ狂うのを、俺は始めて見る。
 まるで感情の暴風雨のようだ。
 いや、今のこの山田さんこそが『狂人』たる彼女の姿なのか――

 と、急に彼女の声のトーンが普段の落ち着いたものに戻った。

「私はね、大垣くん。この人の社会における共通認識というモノはとかく危険なモノであると認識している。私の見ているものと、きみが見ているものが同一の物であるという事実を担保するのは、この『どうやら同じものであるらしい』としか表現しようのない曖昧な感覚なのだ。世界はきみが考えている程強固で確実なモノではない。わかるかい?」
「うんまあ、分かるような、ちょっと分かりづらいような……」

 僕は曖昧な答えを返すことができない。
 そんな僕を見る彼女の眼に、不意に悲しみの影のようなものが宿ったかのように見えた。

「きみたちは、この共通認識を意識せずに使っている。使役し、利用し、使いこなしている。世界の定めた法――常法を、だ。『魔法使い』ではなく『常法使い』。それがきみ達であり、きみ達のいう『普通の人間』だ。きみたちは強い。常法は魔法などより遥かに強力だ。私は学院において『魔女』などと呼ばれたりもするが、常法が圧倒的優位たるこの世界においては私は異端者であり、敵対者であり、絶対弱者なのだよ」

 そう告げた山田さんが、僕にはなんだか寂しそうに見えた。
 まるで、本来自分はこの世界に居てはいけない、居るべき場所がない、とでも考えているかのように。

 僕は黙っている。
 僕は山田さんのように特殊な才能を持つわけではなく、特に大した取り柄も無い人間だけど、彼女の言いたいことは、何となく分かる気がした。
 彼女の狂人たるステータス。『ラプラスの魔女』と呼ばれる由縁となる奇才。
 山田さんは世界から外れた奇才を持つが故に、誰もが「当たり前」と感じる事が「当たり前」であると認識できない。
 世界の構成要素を通常の概念としてではなく極限まで断片化された、現実としての最小構成要素(バイナリ)として認識する事で、彼女は世界をデータの流れとして認識する。彼女は世界をそのようなものと認識する事で『確実な予測』という魔法とも呼べる能力を可能としているのだ。

 どのように言葉を返して良いか分からず僕が立ち尽くしていると、山田さんが口を開いた。

「しかしだ」
「え?」
「私の主観が下す評価として、これが私個人の感性の尺度が『可愛い』と判断する事もまた疑いのない事実だ」

 と、山田さんは指差す。
 その方向の先には、銀で作られたらしき猫の携帯ストラップがあった。
 値札には、3980円。
 高ッ!

「えーと、ひょっとして……」

 山田さんは僕の方をじっと見ている。

「欲しいの? コレ」
「欲しい、というか、この品が私の主観的な感覚に基く「所有の欲求」を満たしたいのか否かと問われれば――それは原理が明らかでないにせよ――肯定せざるを得ないという事実が在る事を、認めざるをえない、といえるだろう」

 微妙に眼を逸らしながら、山田さんはそんな事を言った。

「すいませーん!」

 僕は店員を呼び、財布から新たに出した五千円札でそのストラップを購入する。
 最初に彼女に渡したのがこっちでなくて良かった、と思いつつ。

 店を出た彼女は早速携帯に取り付けた猫のストラップを手にご満悦の様子だった。
 なにやら鼻歌まで歌い出しそうなくらいご機嫌だ。
 さっき寂しそうに見えたのは僕の見間違いだったのだろうか。
 何にせよ、気に入ってもらって何よりだ。
 彼女の様子を観察している僕に気付き、山田さんは、つと立ち止まって僕を見た。

「大垣くん、礼は言わないぞ。私は金という概念と敵対している。よって、きみが行った行為は」
「うん、山田さんが喜んでくれたなら、俺は満足だよ」

 事実、僕は彼女が喜んでくれている事で満足だったので、そう言った。
 すると山田さんはその白い顎に手をやり、なにやら思案にくれるようなポーズを取った。

「いやしかし――手段はどうあれ、きみの行為により、わたしの欲求が満された事は事実だ。私はきみに感謝の念を禁じ得無い」

 そして、僕の眼をじっと見る。表情はやはり真顔だ。

「まずは礼を言う。ありがとう」
「え? ああ、うん」

 綺麗さと可愛らしさの親和的融合とでも評すべき彼女の顔に見つめられ、僕は少し顔が紅くなる。

「感謝の意を示すだけでは足りまい。私も何らかの手段できみの欲求を満たそうと思う。そうだな――」

と、そこでまた少し思案のポーズを取る。

「きみが私に欲求する行為を言ってみたまえ。でき得る事なら叶えよう」
「え? えーと……」
「できれば性的欲求に類する直接的な要求は遠慮して欲しいが」

 ぶ、と僕は飲んでいた缶コーヒーを吹き出してむせる。

「い! いや! いいって、山田さんが満足ならそれでいいって言っただろ」

 いきなり何を言い出すのだろうか。自分の顔が更に紅くなっているのが分かった。
 一方、彼女は顔色ひとつ変えていない。

「そうか? 私の貧相な体付きでは、きみの性欲は喚起されない、という事か……」
「いや、そうじゃなくて!」

 自分の身体を眺めながらそう呟く山田さんに、僕はより一層慌てる。
 ちょっと気落ちした様子に見えたのは気のせいだろう。たぶん。

「ま、まあこのデート自体、僕の欲求に答えているとも言えなくもないわけだしね」
「ふむ……そうなのか」

 やや怪訝な顔をしつつも、いちおう納得してくれたようだ。

 まったく、山田さんは変なコだ。
 でも僕は、山田さんが好きだ。

 彼女に破り捨てられた千円と、税込3980円、それがこの日の放課後デートの出費額だった。



 彼女と『交際の試行』を初めてからから、僕は、放課後に時間を見つけては山田さんをデートに誘った。
 山田さんは大抵の場合、デートに付き合ってくれた。
 相変わらず費用は全て僕持ちだったけど、あれ以来山田さんは特に何かを欲しがる態度を見せなかったので、大抵は食事代や入場料といった費用だけで済んだ。
 僕は彼女と居ることが楽しくて、彼女も僕と居て話したりすることが嫌じゃないといってくれるので、僕は満足していた。

「アンタも大概変わってるよね。《七狂人》の人と付き合いたがるなんてさ」

 キョーコが言った。
 鈴屋京子。僕の幼なじみだ。
 その日は別の用事があるとかで、山田さんをデートに誘う事ができなかった。
 それで仕方無く帰宅しようとしたところ、ちょうど同じく一人で下校するところだった彼女と鉢合わせたのだ。
 家が向かい同士だとはいえ、一緒に下校するのはひさしぶりの事だった。

「昔っから、フミは割と変なやつとばっか付きあうよね」
「じゃあ、キョーコだって変な奴って事になるけど?」

 彼女は僕の事をフミ、と呼ぶ。
 断っておくと、この付き合っているは「恋人関係だった」という意味じゃない。
 幼なじみの友人として付き合ってる、という意味だ。

「アタシのは腐れ縁みたいなモンじゃん?」
「うーん……そんな風に思ってたんだ」

 少しうなだれて見せると、キョーコはあはは、と笑った。
 屈託のない笑顔だ。

「まあどうこう言うつもりはないんだけどさ、やっぱ気を付けた方がいいよ?」
「なにが?」
「わからない? 《七狂人》が周囲の人に避けられてるって、分からないわけじゃないんでしょ?」
「……。それは彼女が変だから? それとも、普通の人とは違う不思議な能力を持つから?」

 《七狂人》には名前と身元が一般学生にも知られている者もいれば、そうでない者も居る。
 学院史上最高最悪の狂人「葛井軍機」や学院で教師を務める「五藤左巻」などの人物だ。山田さんもその一人だが、先の二名と違って彼女は学生という集団の中で『他とは違う』というレッテルを背負って生きる事になる。人は本能的に自分とは異なるもの、理解できないものから距離を置こうとする。

「それもあるけど……危険なんだよ。こう言っちゃあ何だけど、あの人のあの変わり様、周囲にイジメられてもおかしくないでしょ?」
「まさか、虐められてるのか?」
「まさか。《七狂人》に手を出したらどうなるかなんて、イジメっ子でも分かってる。学院において最優先で保護されるべき才能のひとつだもんね。彼女の奇才は。だから誰もが、アタシ達の担任ですら彼女を腫れ物に触るように扱うんだよ」
「……」
「ただ、それを抜きにしても、あの子はちょっと危ないよ。知ってると思うけど、《七狂人》に常識は通じない。常識って概念が普通の人のように認識できないんだって。それで――」

 そこで、キョーコは少し声をひそめる。

「飽くまで噂なんだけど、あの人、人を殺してるんだって。何人も」
「え……?」

 人を? 彼女が、人殺し?
 僕はその意味を咀嚼しようとする。

「今からちょうど一年くらい前、彼女にちょっかい出した女子がいたんだって。生意気だとかなんだとかで。で、そいつ当時この辺でも有名な不良だかと付き合ってたらしくて。不良の彼氏と、その取り巻きの不良男子数人、あとその子で、彼女を呼び出してシメる事にしたってワケ」

 シメる?
 《七狂人》の一人である彼女を?

「あのひと――山田さんは呼び出されて、なんの躊躇もなくホイホイ付いて行ったんだって。シメるって言ったって、一人の女の子相手に、不良の男どもは何をしようとしてたんだか……まあ、山田さんはあの容姿だし、不良どもは相当よからぬ事考えてただろうね」

 僕はもう、想像しただけで腹が煮えくり返ってくるような思いだった。
 尤も、表情には出していないつもりだったので、キョーコはそんな僕の内面を知る由も無い。

「そいつらは普段は学校にも言ってないような札付きのワルだったから、彼女が《七狂人》の一人だって知らなかったかも知れないし、知った上で粋がってただけかもしれない。まあとにかく山田さんは学院裏の廃工場まで付いて行ったんだって」
「それで……どうなったんだ?」
「彼女がその不良の集団に連れられていくのを見た生徒が学院に連絡したから、20分くらいで学院の教員達が現場に駆けつけた。現場には――」

 ごくり、と僕は息を飲む。

「何も無かったんだって」
「え?」

 何も、無かった?

「微かな血痕みたいなのはあったらしいけど、それ以外は何も」
「それって一体――」
「ね、怖いでしょ? でも、もっとヤバいのはその後。その、山田さんにちょっかい出した女子と、その不良の彼氏、そいつの取り巻き。こいつら全員、今も行方不明中なんだって。っていうか実質的には死亡扱いだね。この街の警察も、コイツらを探そうとすらしてないんだ」
「……」

 僕はただ黙っていた。
 山田さんの奇才である「事象演算」を使えば、不良数人を撃退する事は難しくない、と思う。
 『小石を投げる』という事象から、『小石がやがて地面に落ちる』という結果を予測するという、誰でも可能な予測を限りなく高度化したものが彼女の奇才だ。
 小石がいつ投げられ、どのように地面に落ちるのかが先立って分かれば、小石を投げる事自体を止めさせたり、小石を受け止めたりといった完全な対応を取れる。
 彼女は身体こそ小さいが運動神経はかなり良いから、彼女にとって喧嘩なんてものは後出しジャンケンと同じようなものなのだ。
 相手が次に出す手を知った上で、こちらの出す手を決める事ができる。
 そして、彼女が常識に囚われない、つまり、『人を殺す事に、なんの躊躇いも持っていなかったとしたら』――

「ま! 繰り返して言うけど、飽くまで噂だよ。アタシだって知り合いに聞いただけって話だから、都市伝説みたいなものかな」

 さすがに表情に出てしまっていたのか、キョーコは僕の顔を見ながら急に明るい調子で言った。

「いくら何でも、何の理由もなく人を殺しちゃったりするほど『狂って』はないよ、きっと」

 キョーコが本当は『あり得る』と思っているのが分かる。
 でも幼なじみとして、僕に気を使っているのだろう。

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「ん……」

 僕がそういうとキョーコはちょっと照れたのか、目を逸らして曖昧な返事をした。

 ちょうどその時、お互いの家に到着したので、僕はキョーコはそこで別れる。
 明日の放課後も、山田さんとデートする予定だった。



 僕が山田さんを好きになったのは、2ヶ月前。

 僕だって最初は《七狂人》の一人であり、周囲から避けられている彼女を、少し怖いと思って避けていた。
 彼女は自分からは誰とも仲良くしようとしなかったし、教室ではいつも何かの資料か本を読んでいた。
 仲良くすることも、排する事もできない彼女を、担任でさえも扱いかねていたに違いない。
 クラスの誰もが、腫れ物に触るかのように彼女に接していた。

 ある日の放課後、僕はひとり、普段は誰も足を踏み入れない校庭の裏で一人考え事をしていた。
 薄暗いその場所のコンクリートの階段に座ってぼうっとしていると、こちらからは死角となる、建物の角の向こうから、何やら声が聞こえた。

「きみ、一体何が目的だ。私に纏わり付いた処で何も得るものは無いぞ。帰りたまえ」
「もう一度いう。きみが欲しがるような物を、私は持っていない」

 その特徴的なしゃべり口と声で、僕はその声がかの有名な狂人――山田さんである事にすぐに気付いた。
 何か不穏なやりとりのように思えたけれど、彼女の話しかけている相手の声は聞こえない。
 僕は興味を引かれ、角の先にいる相手に気付かれないよう、忍び足でゆっくりと角に近づいた。
 学院の重要人物《七狂人》である彼女が何か陰謀めいた話をしている。
 それをこっそり立ち聞きする状況から、僕は映画か何かの登場人物の気分になっていた。

 角から少しだけ頭を出し、こっそりと向こう側を伺う。
 すると、予想した通り、そこに山田さんが立っているのが見えた。
 腕を組み、仁王立ちのようなポーズで、こちらに背中を向けて立っている。ただ、顔は下を向き、自身の足元を見ているようだった。
 さっき聞こえた話し声からして、誰か話し相手がいるはずだったのだけれど、山田さん以外の人影は見当たらない。
 けれど、彼女の足元に居るものを見て、彼女が一体誰と話していたのかが分かった。

 彼女の足元には、一匹の黒猫。
 彼女の足に身体を擦り付けたり、額を軽くぶつけたりしている。

「私はきみの期待に答えられるような事はしてあげられないのだ。諦めたまえ」

 彼女の言葉は、足元の彼には当然通じない。
 無視もできずに困った様子で立ち尽くす彼女を、僕はしばらく眺めていた。

「む……? そこに誰かいるのか?」

 しばらくすると、角の影からその様子を観察していた僕に気付いた。
 けれど、その時にはもう、僕の中で彼女に対する忌避の気持ちはなくなっていた。

「猫に話しかけても理解できないと思うよ?」

 角から現れてそう話しかけた僕に、彼女は一瞬目を丸くした。
 相手が学生で、普通に話しかけられた事が珍しかったのかもしれない。

「何者だ、きみは?」
「ただの通りすがりの学生」

 僕がそう言うと、彼女は怪訝な表情を浮かべた。

「この猫には私の言葉は理解できないと言ったな? なぜそう思う」
「なぜって……猫に人間の言葉は通じないでしょ。知能も低いし」
「ほう。何を根拠にそう思う? 猫は人間より劣った生物であると?」
「いや、そうは思わないけど……」
「では説明したまえ。なるべく論理的にな」

 と、まあこんな調子でお互いを知り合ったのが僕と山田さんとの関係の始まりだった。
 この時の事がきっかけで、僕は彼女の事をもっと知りたいと思ったし、彼女は僕の名前と顔を覚えてくれたようだった。
 クラスが違うのでそう毎日会えたわけではなかったけれど、会えばお互いに言葉を交わすくらいには親しくなった。話す内容はやっぱり普通とは違っていたけれど。
 そんな僕に、僕を知るクラスメイトの中には距離を置く奴もいた。けれど、そんな事は関係なかった。
 それから2ヶ月、僕はずっと彼女の事を見ていた。
 そして更に1ヶ月後、僕は意を決し、この時と同じ場所で、彼女に告白をしたのだった。



 キョーコと一緒に下校した次の日。

 映画館で山田さんと一緒に映画を観た後、僕らは街を並んで歩いていた。
 でも、今日の山田さんは何か様子がおかしい。
 悩み事でもあるのか、ずっと何かを考えているような様子だった。
 いつもなら、例えば映画を見終わった後には、

「ふむ。俳優たちはこれらの状況を台本に基づいて演じている。つまり本当の意味で映画内の体験を受けて感情や言葉を発していないはずだ。であるにも関わらず、しかも観客は演技である事を解っていながら、彼らの一挙一投足に感銘を受け、彼らの行く末を案じたりする。この現象は一体何だろうか。どう思うかね? 大垣くん」

 などと、いつもの事ながら僕が困ってしまうような質問を浴びせてくるのが常だったのだが、この日は映画館を出てからも、ずっと考え込んでいる。
 映画を観ている間もずっとそうだった気がする。スクリーンに目を向けず、頤に手を当てて何かを思案している様子だった。

「山田さん、何か悩み事でも?」

 僕がそう聞くと、山田さんは僕の顔をしばらくじっと見上げてから、何か言おうとするものの、すぐに顔を逸らした。
 それでも、表情はまた何か物思いに耽っている様子だ。

 何か気に障る事をしてしまったのだろうか。
 原因はわからないけど、とにかく謝ってみるべきだろうか。
 僕がそんな事考えていると――

「大垣くん。きみにひとつ、言っておくべき事があるのだが」

 と、山田さんが急に立ち止まり、この日のデートで初めてはっきり言葉を発した。
 何か、意を決したかのような口調だった。

「え! あ、はい! 何!?」

 思わず声を上擦らせながら、僕は山田さんの方を見る。
 彼女は、もう一度僕の顔を見上げ、僕の目をじっと見据えた。
 そして。

「生物学的に見て、自然界における一夫多妻制はむしろ自然な形だ。それは認めよう」
「へ?」

 一体何を言い出したのかが理解できず、僕は唖然とする。

「そして、『ヒト』――『ホモ・サピエンス』もまた、元来こういった生き物なのではないかという解釈が存在する事もまた事実だ。より身近な例としては、一夫多妻制を社会制度として認める国も多く存在すると聞く」
「あの……山田さん? 一体何を……」
「分かっている。これはヒトの社会通念が生んだひとつの因習に過ぎない事をね。本来我々は多種多様の遺伝子情報を残す事により進化してきた生命体であり、それはある見方において本来正当化されうる行為であるとの見方を私は否定するつもりはないよ。先進国における婚姻が一夫多妻制である事を理由に、それが人としてあるべき姿――真理または本質であるとはいうまい。しかし、しかしだ。私も雌雄異体である所のヒトという種における女性の一個体として、好ましい男女の交際形態とでもいうべきものがあるとの倫理観を持っている。私も意志と目的を持つヒトである以上、これが不当あるいは傲慢である等とはいえまい、そうだろう。それに――」
「山田さん!!」

 たまらず、僕は大声で彼女が突如語りだした謎の論説を遮る。
 流石に、山田さんもそこで言葉を継ぐのを止めた。

「一体どうしたんだよ、何が言いたいのかわかんないよ」

 とりあえず、率直にそう伝えた。
 こう言われ、山田さんは若干落ち着いたようだった。
 ごほん、と咳をした上で、語りだす。

「ええと、つまりだ。きみが私と私以外の女性、二人以上の女性と同時に交際するという行為を、様々な観点から非常に好ましくないと見ている、という事だ」
「え? ええとつまり、僕が山田さん以外の子と二股をかけるのが嫌だって事?」
「……そ、そうとも表現できるな」

 珍しく、少し動揺したような表情を作ってから、山田さんは目を逸らした。

「そりゃもちろん、僕だって山田さんが僕以外の人と二股かけてたりしたら物凄く嫌だけど……」

 僕がそう言うと、今度は少し怒ったような、いかにも不快、といった表情で再び僕の顔を見上げる。

「そうか――、ではきみは、それが好ましくない行為であると考えている上で、敢えて私にそのようにしているのだな?」

 ……?
 山田さんが何を言わんとしてるのかが把握できず、その言葉が脳に浸透、解釈されるまでに数瞬を要した。
 そして、ひとつの解答に至る。

「山田さん、ひょっとして、僕が二股かけてると勘違いしてない?」

 そう言うと、今度は山田さんが言葉を失う。
 目の焦点が虚空に結ばれ、僕の言葉を再解釈しているようだった。
 そして、ひとつの回答に至る。

「……では、昨日共に下校したという、親しげな女子は何者だ?」

 探るような視線と共に、そっと聞いた。

「ああ、キョーコか。あれは僕の幼なじみだよ。家が向かい同士で、昨日は山田さんとデート出来なかったから一人で帰ろうかと思ってたらたまたま彼女も一人で帰る所だったから、一緒に帰っただけ。勿論、彼女に対して恋愛感情は全く無いよ」
「……ホントに?」
「天地神明に誓って。ていうか、アイツには彼氏いるし。大学生の」

 すると山田さんはさっと顔をふせ、いつもの頤に手を当て思案するポーズをとった。

「む……確かきみは一緒に映画を観に行ったり、買い物をしたり、といった行為を『付き合うこと』であると定義したが、一緒に下校するという行為はその最たる凡例の一つであると、私が昨日読んだ書籍には記されていたぞ?」
「……参考までに、それってなんて本?」
「『中学生恋愛マニュアル』という書籍だ。『付き合う』という行為を実践する上での参考図書として県民図書館で借りてきた」
「ッ……!」

 吹き出しそうになるのを必死で堪えるが、顔のにや付きが抑えられていないのは自分でも分かる。

「何をニヤついている?」
「い……いや……」

 ニヤ付きが止まらないのは、彼女の勘違いのせいだけじゃない。
 僕は嬉しかったのだ。
 おそらく僕なんかより――というか、学院においてトップレベルの頭脳と事象認識、演算能力を持っていながら、その事象の構造体である常識というものが上手く認識できない。最強レベルの世間知らずである彼女。
 これはそんな彼女なりのヤキモチ、というヤツだろうか。

「心なしか……微妙に愚弄されている気がするのだが」

 必死に表情を隠そうとする僕の顔を覗き見て、少し不機嫌な様子でそう言った。
 僕は答えた。

「気のせいだよ」



 その後も何度かデート重ねていた僕らだったけれど、道はいつまでも平坦に続いてゆくわけじゃなかった。
 つまり、事件が起こった。

「提案なんだが――――別れよう」

 ある日の放課後、人気のない路地まで歩いてきた所で、山田さんは僕にそう告げた。
 最初は何かの冗談かと思ったけれど、彼女の真剣な表情を見て、彼女が本気である事を知る。

「……なんで?」

 突如頭を殴られたかの様なショックにより忘我の淵に立たされながら、僕は声を搾り出した。

「これまで付き合ってきて、解っただろう。私は、変な女だ」
「そりゃ変わってるとは思ったけど、そんな事!」
「私がこの学園でどういう存在なのか、知っているだろう?」
「《七狂人》の一人?」
「そうだ」
「だから何? 学院の普通の生徒には避けられたり、恐れられてたりするけど、《七狂人》はこの学院にとって、最も貴重で最重要とされる人材だろ? それを気に病むなんて……」
「キミは解っていない。《七狂人》に名を連ねる人間が、どういう人間なのか」
「……」

 僕は黙ってしまった。
 確かに、解っていないのかも知れない。

「《七狂人》とはつまり、この世界を支配する理や常識から外れた者の事だ。つまり、世界から見て、敵となる者。私達は、狂っているんだよ。狂人だ。私と共に居る歩む者は、絶えず常識や良識と敵対しなければならない」
「分からないよ。それがなんで別れるなんて話になるのか」
「私は、大きな秘密を隠し持っている。誰にも言えない秘密をね。それを知れば、キミはきっと、私の事を嫌いになる。嫌悪し、軽蔑する事だろう」
「そんな事――」
「それくらい、私が抱えている秘密は重い。私と付き合うなど、止めた方がきみにとって幸せだ。今なら引き返せる。きみも、私も」
「このまま付き合えば、僕も、山田さんも、不幸になる。山田さんはそう思ってるんだね?」
「……そういう事だ。これ以上近づいたら……私は――」
「山田さんは、僕の事が嫌いなのか?」
「いや。私――私は……」

 彼女は俯き、何を言うべきか、迷っている。
 僕は構わず、はっきりと告げることにした。

「山田さん、もう一度――いや、何度でも言うよ」
「――?」

 彼女が顔を上げる。

「僕は山田さんが好きなんだよ」
「!」

「山田さんが狂っていようとも、どんな秘密を持っていようとも、そんなのは関係ない。引き返すつもりは、ないよ」
「大垣くん――」

 何かを告げようとした彼女の声を遮りつつ、僕は言う。

「それに。別れるなんて、原理的に不可能だよ」
「――え?」

 やれやれ、自分で言った事を忘れたらしい。
 僕はその為にこんなに頑張っているというのに。

「だって、俺たちはまだ『恋人同士』じゃないんだから。今はまだ僕が一方的に恋人だと思ってるだけ。だから別れるなんて、できないだろ?」
「あ――」
「じゃあ、また明日」

 僕はそのまま彼女に背を向けて、すたすたと歩き出した。
 気持ちと決意は伝えた。
 これ以上、言うべき事はなかった。

「ありがとう。それでも――」

 声が急速に遠ざかってゆく。
 彼女もまた僕に背を向けて歩き出しているのが分かった。

「私の秘密を知れば、キミはやっぱり、私を軽蔑すると思う」

 最後にそう呟くのが聞こえた。



 その日は朝から雨が降り続いていた。

 山田さんは、学院に来なかった。
 彼女は「学院母体機関の研究参加の為」として、たびたび欠席する事がある。
 学院の中枢であり本来の姿、研究機関としての活動に彼女らの持つ奇才が必要であり、むしろその為に様々な優遇措置を受けこの学院に居るのが彼らなのだ。
 しかし、この日はそういった理由ではないようだった。欠席理由は不明。
 彼女の担任に当たる教師も欠席理由は聞いていないらしい。
 何度か携帯に連絡を入れたけれど、電源を切ってしまっているようで、繋がらない。
 もちろん、メールの返信もない。

 僕の頭の中は昨日からずっと、彼女の事で一杯だ。
 先週までは、それまで通りの彼女だった。
 相変わらずお金を持たなかったり、独特な思考を暴走させて荒れ狂ったりはしていたけれど、僕も彼女も一緒に居る事が楽しいと感じている――そう思っていた。
 それが突然、彼女が昨日になってああいった事を言い始めたのは、何か事情があるに違いない。
 僕はそれを、確かめずにはいられなかった。
 そこで、僕は彼女と同じクラスであるキョーコを当てにする。

「えー? なんで私がそんな事しなきゃなんないのよ」
「頼む! 一生のお願い!」
「前も言ったと思うけど、私だってあのヒト苦手なんだケド」
「頼むよ。男子は学院女子寮の敷地に入る事さえできないんだよ」
「うーん……」
「彼女の事が心配なんだよ」
「……」

 ふう、とキョーコは溜息を吐く。

「あーもーわかったよ。貸しにしといたげる。好きな相手が心配って気持ちも分かるしね」
「恩に着る!」

 こうして、この日の放課後、僕はキョーコと連れ立って彼女の寮までやって来た。
 場所と部屋は知っていたけど、実際に来るのは初めてだった。
 キョーコに説明した通り、親族でもない限り、男がひとりでこの寮に入る事が許可される事はまずない。

 僕は寮の前で待っておいて、キョーコに彼女の部屋まで行ってもらう。
 十数分くらい立ってから、僕の携帯が鳴った。
 キョーコからだ。

「どうだった? 彼女、居た?」
「……」
「キョーコ?」
「フミ……」

 声が震えている。
 携帯の向こうで、キョーコの息づかいが荒くなっているのが分かった。

「落ち着いて聞いて。その、山田さんの部屋なんだけど……」
「……」

 心臓が高鳴る。

「返事がなくて、鍵がかかってなかったから、部屋の中を少しだけ覗いてみたの。そしたら……そしたら……」

 次の瞬間、キョーコの短い悲鳴のような声が聞こえた。
 そして、携帯の落ちる音がしてから、切れた。

 漠然とした不安が一気に迫り上ってきた。
 何かが起こっている。

 僕はすぐに寮の管理人に事情を説明した。
 必死な様子が通じたのか、すぐにロックを解除し、寮内へ通してくれた。
 同時に、警察への通報を頼んでから寮内に入る。

 エレベータで彼女の部屋の階まで昇り、廊下に出た。
 辺りに不審な雰囲気は感じられない。強いて言うなら、妙なまでに人の気配がなく、静まり返っているように感じた。
 キョーコの姿は見えない。

 僕は廊下を進み、山田さんの部屋――501号室のドアの前に立った。
 インターホンを押す。

 ……。

 しばらく待ってみたが、返事はない。
 ドアの向こうで人が動くような気配も無かった。

 次に、ドアを叩き、それと同時に彼女の名を呼びかけてみる。

「山田さん?」

 やはり、なんの反応も感じなかった。
 僕は意を決して、ドアのノブに手を掛ける。

 ガチャリ。

 呆気無く、ドアは開いた。
 鍵が掛かっていなかったのだ。

 ごくり、と唾を飲み込み、ゆっくりとドアを開け、中を覗き込む。
 そこには特に飾り気のない、無機質な空間が広がっていた。
 白い壁の廊下の先に半分ほど開いた扉が見え、やはり殆ど飾り気がないリビングの部屋が少しだけ見える。

 リビングからは彼女と同じ、ハーブか何かの様な香りが漂っていたけど、微かに何か異質な臭気が混じっているような気がした。
 何か――何か奇妙な予感がした。

「山田さん! 大垣だけど!」

 もう一度だけ呼びかけてみる。
 やはり返事は無かった。

 僕の中の不穏な予感が、ざわざわと音を立てて急成長しているような感覚があった。
 心臓が高鳴り、その音がはっきりと聞こえる。嫌な汗が浮き出ているのが分かる。
 そして僕は、我慢ができなくなった。
 殆ど忘我の内に、僕は不安に突き動かされるようにリビングの部屋へと突き進んでいた。

「山田さん!」

 そう言いながら扉を開け、リビングの部屋に入った。
 その瞬間、微かに漂っていたあの異様な臭気がはっきりと感じ取れた。
 いや、それよりも先に、僕は目の前に広がる『それ』に戦慄していた。
 そこに広がっていたのは、殺風景な光景ではなかった。

 そこで僕が見たものは。
 赤黒い血で汚れた壁と床。
 そして、その床に横たわる、何匹もの猫。
 一匹残らず、死んでいる。

 僕は絶句し、立ち尽くしていた。

『私は、大きな秘密を隠し持っている。誰にも言えない秘密をね。それを知れば、キミはきっと、私の事を嫌いになる。嫌悪し、軽蔑する事だろう』」

 彼女が昨日言っていた言葉が、脳裏に響く。
 彼女の持つ、誰にも言えない秘密。
 狂人である所の、彼女の狂気。

 これが?

 彼女は猫が好きだと言っていた。
 最初のデートの時、彼女が唯一欲しがったのが、猫の形をした銀のストラップだった。

『世界から見て、敵となる者。私達は、狂っているんだよ。狂人だ。私と共に居る歩む者は、絶えず常識や良識と敵対しなければならない』
『これ以上近づいたら……私は――』

 彼女の言葉が、頭の中に に浮かぶ。
 そして、彼女に告げた、僕自身の言葉も。

『僕は山田さんが好きなんだよ。山田さんが狂っていようとも、どんな秘密を持っていようとも』

 ――……

「フミ……」

 右耳が微かな声を捉え、僕は我に返る。
 声のした方を見ると、そこにキョーコが居た。
 床に座り込み、脇腹を押さえながら壁に背を預けている。
 脇腹に、床と同じ赤黒い色が滲んでいる。
 蒼白になった顔の頬にもナイフで切られたような切り傷が見えた。

「キョーコ!」

 僕が駆け寄ろうとすると、今度は背後から声が聞こえた。

「大垣くん」

 それは、聞き覚えのある声。
 もちろん、誰の声なのか、分からないはずはない。

 僕は、振り返る。

 そこに、山田さんが立っていた。
 手に、何か持っている。
 それは――ナイフ。
 赤黒い血の色に、染まっている。

「山田さん……」
「フミ逃げて……コイツ、やばいよ……」

 キョーコが搾り出すような声で言った。

 ――僕は、動くことができない。

「言っただろう。私は狂人だ。これ以上関わらない方が良いと」

 山田さんは僕の目から表情を隠すかのように顔を伏せながらそう言うと、ドアの方へ歩き出した。
 外でサイレンの音が近づいてくるのが聞こえていた。

 ――僕は、動くことができない。

「さようなら、大垣くん」

 それだけ告げると、彼女は部屋から出て行った。

 ――僕は、動くことができない。

 去り際もずっと伏せたままだった彼女の顔を、僕はちゃんと見ることはできなかったけれど、その声で分かった。

 山田さんは、泣いていた。



 いつか、山田さんは僕にこんな事を言った。

「偽らざる狂人は誰にも理解されない。
 誰の同意も得られず、味方など何処にも居ない。
 みんなが敵。
 世界で独り。
 救いなんて無い。
 何故なら、例えば誰も、人を殺すことを『良い』だなんて思わないから。

 ――それでも、そういう風にしか生きられないのだとしたら。

 正しさや良識という名の暴力は、全ての『良くないもの』を決して許さないだろう」

 僕はその時、なんて言葉を返したのだっけ。



 その日もまた、朝から強い雨が降り続いていた。

 あの出来事から、2日が過ぎていた。
 山田さんはあの日以来、失踪したままだ。
 学院は警察と協力して彼女の行方を追っているらしい。

 僕自身もいくつか質問を受けたけれど、僕が彼女の行動について言える事なんて何もなかった。
 山田さんの行動について『不審な点』なんていくらでもあるし、学院だってそんな事は百も承知だ。
 狂人がいつ何をするかなんて事に、理由など無い。

 キョーコはあの後すぐに病院に運ばれた。
 山田さんによって付けられた彼女の腹の傷はかなり深かったものの、命には別状が無い、との事だった。
 学院が管轄する《七狂人》絡みで起こった事件である事の責任をとってか、入院に関する費用などは学院が負担するらしい。
 病室も、個室を充てがわれていた。
 絶対安静ながら意識を取り戻した彼女が、側にいた僕に最初にいった言葉は、「側にいて欲しい」だった。

「一人は怖いんだよ。アイツ、アタシを殺しに来るかも知れない」
「大学生の彼氏は?」
「……別れた。だから私が入院してる事も教えてない」
「そっか……」

 元より僕は彼女の側に居るつもりだったので、その日も僕はずっとキョーコの病室にいた。
 彼女の横たわるベッドの側で椅子に座り、見舞いの品の果物を剥いたりしながら、浅い眠りと朦朧とした目覚めを繰り返す彼女の話し相手をしていた。
 21時の消灯時間が訪れ、部屋の灯りが落ちる。
 つい数時間前までは僕と途切れ途切れに言葉を交わしていたキョーコも、いつの間にか寝息を立ていた。
 病院全体が、静まりかえってゆくような感覚を覚える。
 窓の外からは絶えず雨音が聞こえる。
 病室に備えられた時計の秒針が刻む無機質な音が、いやにはっきりと病室内に響いていた。
 僕の目は冴えていて、一向に眠くはならない。

 そして、時計が22時を回った頃――――僕はこの部屋に誰かが侵入してくる気配を感じた。
 もちろん、誰が来たのかは分かっていた。

 僕は立ち上がり、病室のドアの方を向く。
 窓から挿し込むおぼろげな光に照らされ、そこに立っていたのは――

 もちろん、山田さんだった。
 服はあの日の制服のまま。
 雨で、全身が濡れている。

「ん……?」

 気配を感じ、キョーコが目を醒ます。
 そして、

「ッ!!」

 山田さんの姿を見て声にならない悲鳴を上げた。
 僕の肩に、しがみつく。

「やっぱり……来たんだ……私を殺しに……」

 山田さんを凝視しながら、キョーコは震える声でそう呟きながら、僕の肩を掴んだ手をより一層強く握った。

 僕は肩に乗ったキョーコの手に自分の手を重ね、そっと引き離す。
 そして、山田さんへ向かって、一歩進み出た。

「邪魔をしないで欲しい。大垣くん。でなければ、私はきみを――」

 山田さんは、はっきりと、僕にそう言い放つ。
 その右手に、あの日と同じく、ナイフが握られているのが見えた。

「山田さんがここに来ることはわかってたよ。狂人は、何にも囚われずに自分のしたい事をするから、必ずキョーコを殺しに来ると思った」
「……その通りだ。私は私の欲するままを実行する。だからそこをどいてくれ。大垣くん」

 僕の後ろで、キョーコが息を飲むのを感じる。

「大丈夫だよ」

 僕がそれだけ言うと、キョーコのが少しだけ落ち着くのを感じた。

「山田さん――――」

 そしてもう一度、僕は彼女に伝える。

「僕は君が好きだよ、山田さん」



 次の瞬間――――

 山田さんが、動いた。
 同時に、僕も動く。

 身体を沈めた僕の頭を、山田さんのナイフが掠める。

 そして。

 そのまま。

 僕は身体を反転させ。

 拳を振り上げ、相手の手首を掴む。

 同時に。

 金属がぶつかり合うような音がして。

 床に、ナイフが転がった。

 そして、沈黙――――







「あー……、分かってたんだ、やっぱ」

 場違いな声が、沈黙を破った。
 僕に手首を掴まれたキョーコが、その手に握った果物ナイフを見ながら言う。

 そして、その目が、僕の顔にゆっくり移った。

「アンタ、やっぱりヘンな奴と惹きあう何かがあるんじゃないかな」

 その顔には、笑みすら浮かんでいた。
 僕は彼女に言ってやる。

「うん、分かってたよ。あの時、山田さんの部屋の猫達を殺したのは――」
「そ、アタシだよ」

 僕の言葉に、キョーコは悪びれること無く答えた。

「なぜ、あんな事をした?」

 山田さんがそう問うと、キョーコは笑った。

「ナゼ? 狂人が狂人の行動に理由を求めるなんて、滑稽ってモンでしょ、そりゃ」

 と、そこで、相手を嘲笑するかのようだった彼女の口調が、ほんの一瞬だけ語気を強めた。

「一般道徳の倫理観なんて持ち出さないでよ。理由も意味も必要ない。アタシはアタシの欲するままを実行する」

 微かに怒りのような感情さえにじませたその言葉は、陶酔でも自虐でもない。
 言葉にできない何かへの、決して届く事の無い叫びに聞こえた。

 僕は黙っている。
 キョーコは狂っていた。
 いつから?
 それは分からない。
 僕には。

 山田さんは、ただ奇妙なくらい静かな眼差しでキョーコを見つめていた。

「私を、殺すでしょ?」

 キョーコは再び嘲笑に似た笑みを浮かべて山田さんに問う。

「ああ、殺すよ」

 事も無げに、山田さんも答える。

「私は狂人『ラプラスの魔女』。
 私は私の欲するままを実行する。
 お前は私と同じ、弱く儚く救われない狂人だが――――」

 山田さんがナイフを振り上げた。

「それでも、死ね」

 その言葉を合図にして、僕は掴んでいたキョーコの手を離す。
 そして、僕の目の前で、二人の狂人が互いを殺し合った。



 今朝から降り続いていた雨が、ようやく弱まり始めていた。
 病院を抜けだした僕らは、夜の道を傘も差さず、二人並んで歩いている。
 辺りに人の気配は無く、まるで世界に僕ら二人だけしか居ないような気がした。
 僕らはしばらく言葉を交わす事も無く歩き続ける。

 山田さんには、おそらくあの時――キョーコという存在を認識した時から、自分がこれから『人を殺す事』が見えていたのだろう。
 彼女の奇才『事象演算』は現在の世界情報を彼女自身というブラックボックスに似た演算装置を通す事で結果――つまり未来の事象を認識する。
 高度な事象演算を行う場合、彼女は演算の補助として何故か猫を用いるらしく、彼女は自宅に何匹もの猫を飼っていた。
 もっとも、彼女が猫を飼っていたのは演算の為というよりは単純に猫を愛していたからに他ならないが、その猫達を殺されるという事象は彼女の演算に支障を生じさせた。
 演算過程がスキップされて、結果だけが見えたのだ。
 つまり、彼女は自分がキョーコを殺す結果だけを認識した。
 しかし結果が見えたとしても、それを変える余地がなければ意味がない。
 小石を投げれば地面に落ちる。それが分かっていても、それが500m先で行われたなら小石が地面に落ちるという結果を変える事は出来ない。
 まして――普通なら猫を殺されたからと言って人を殺したりはしない。
 しかし、山田さんはそれをするのだ。
 だから彼女は自身を狂人であると自覚しているし、そうある事が自分であると覚悟している。

「いいのか? 人殺しでも」

 ふいに、山田さんが僕に訊いた。
 僕は答える。

「僕は山田さんが好きだ。人を殺そうが、世界を滅ぼそうが、関係ないよ」

 山田さんが、僕の顔を見る。
 そして、また前を向いた。

「そうか」

 再び、しばらく言葉を交わす事も無く歩き続ける。
 電柱の上の水銀灯が、柔らかに降り注ぐ雨をおぼろげに照らし出していた。

「もし私が、猫を殺すような女だったら、それでもきみは、私を愛しただろうか」

 また、山田さんが僕に訊いた。
 僕は答える。

「もしそうなら、僕は最初から山田さんを好きになんてならなかったよ」

 山田さんが、僕の顔を見る。

「しかしきみのその想いに反して、私の本当の姿は、猫をも殺す狂人なのかも知れないぞ」

 僕は山田さんの顔を見て、微笑んでみせた。

「恋は宗教だって言う人もいるけど、僕は山田さんを盲信しているからね。
 山田さんが、猫にそんな事をする女の子だなんて、絶対に認めないと思うよ。たとえ山田さん自身がそう言ったとしても」

 山田さんは、僕の顔を見ながら、数度目をぱちくりさせた。

「それは――……」

 と、何かを言おうとして、

「――いや、真実とは、そういったモノか」

 いつもの頤に手を当てるポーズで独りごちた。

 本当の事なんて誰も確かめられない。それは『信じている』だけに過ぎない。
 自分の目で見た事が事実だと思うのは、信じさせる力が強力であるからに過ぎない。
 事実は事実ではない。
 『確信』とは、『確』かであると『信』じている、という事だ。


 そのまま僕と山田さんは、誰もいない夜の道を当ても無く歩き続けた。
 そうして僕らが辿り着いた先は、学院の校舎裏だった。
 なぜ僕の足がここに向いたのかは分からない。
 たぶん、山田さんだってそうだ。
 ただ単に誰も居ない場所に来たかったからかも知れないし、この場所が僕達ふたりにとって特別な意味を持つからなのかも知れなかった。

「あの黒い猫は、まだこの辺のどこかに居るのかな」

 校舎裏を歩きながら僕がそんな事を呟くと、山田さんがふと立ち止まった。

「大垣くん」

 名を呼ばれ、彼女を振り返る。
 雨に濡れた黒い髪と白い顔がとても綺麗だった。

「私と、付き合ってください」

 山田さんが、僕にそう告げた。

 あまりに突然の事だったから僕の思考は一瞬どこかへ飛びかけた。
 けれど、答えは殆ど反射的に口から出ていた。

「はい」


 ――こうして、僕は『付き合い』という行為を試行した結果、山田さんと恋人同士になる事ができたのだった。



 それから、僕と山田さんに日常が戻ってきた。
 今日も僕は常識に従って学院に通い、健全に授業を受けている。

 キョーコは、公的には失踪した事になっていた。
 どうやら、学院が手を回したらしい。いつかキョーコが話していた事件と同じ事をしたのだろう。、
 この街を牛耳る学院、その中枢《観測室》と呼ばれる研究機関にとって彼女の奇才は不可欠であり、彼女の保護の為にはどのような隠蔽工作も行う。

 僕は幼なじみであるキョーコを失ったし、山田さんは飼っていた猫達を失った。
 それでも僕らの狂った日常は前向きに、奇怪しくも可笑しく回ってゆく。
 おそらく僕も、とっくの昔に狂っているのだろう。
 山田さんに狂って、世界から狂った。
 世界という現象に対して、いつだってスタンド・アローンであるところの僕らは、世界のルールを踏み壊しながら歩いてゆくのだ。
 彼女と一緒なら、それも楽しいと、僕は思う。

 終業を告げるチャイムが鳴った。
 僕は教室から一番に走り出て、彼女との待ち合わせの場所へ向かう。

 総ての意味を踏破して。
 あらゆる価値を突破して。

 僕は僕を実行する。

<了>


◆狂人目録◆
第一狂人 《狂王》葛井軍機(かずらいぐんき):フリーター
第二狂人 《庭園管理者》笹倉桜(ささくらさくら):研究者
第三狂人 《ラプラスの魔女》山田律(やまだりつ):特待生
第四狂人 《怪物》更科奇型(さらしなきけい):ニート
第五狂人 《左巻き》五藤左巻(ごとうさまき):教師
第六狂人 《奇好師》鈴屋京子(すずやきょうこ):学生 → 先月付で削除/後任者のアテ有り
第七狂人 《壊れもの》フラジール:実験体
やみくろ 

2010年11月09日(火)19時58分 公開
■この作品の著作権はやみくろさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
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2011年03月02日(水)23時47分 やみくろ  作者レス
>タケさん
ご感想頂き有難うございます!

書き手として、お読み頂いた方の心を右に左に動かせた事はまことに本望にございます。
お話としての構成には僕としても注力したつもりでした。
タケさんの感想を聞けた事でその成果を確認できたので嬉しい限りです。

このご感想を読んで初めて主催者である飲茶氏に評価して頂いた事を知りました。
『ライトノベル賞』を賜ったとの事で。
得点としてはそう高くはなかったはずなので、驚きです。

そんな中で評価して頂いた事ももちろん嬉しいのですが、このタケさんのご感想の様に、受賞前はスルーした方に読んで頂ける機会が巡って来たことが何より嬉しいです。
陽の当たらない場所もちゃんと評価対象にしている飲茶さんと、この作品を読んで頂いた全ての方々に感謝です。
この企画に参加して良かった!

pass
2011年03月02日(水)00時40分 タケ  +50点
普通じゃない普通じゃないって言うけど、自分なら別にそんなの気にしねーよ、こんな可愛いこなら、付き合っちゃうよ

と安易に考えて、さんざん彼女に感情移入してたら、突然、地獄に突き落とされました。(笑)

そして、いや、そんなことする子とは一緒に暮らせないな、とあっさりと自分の気持ちがくつがえってしまったのにびっくり(笑)

で、思わぬ真犯人に、あ、そうなんだ、良かったーと思うと同時に、そこをやってないと信じるのが愛なんやなー、と。
くそ、完全に作者にしてやられたぞという感じ(笑)

最後のアテありは、やっぱり主人公が、、、。

飲茶氏が評価してるから読んでみたら、なるほどと納得でした。
平均点が高いやつしか読んでなかったのですが、こういう面白いのが埋もれてたんですね。感謝。

149

pass
2011年03月01日(火)21時36分 やみくろ  作者レス
>Mさん
お読みいただき有難うございます!

> もし本当だったら自分なら彼女を許せるだろうか、
まさにこのような事を主題としながら書いていました。
また、読み手にこのような事を思考して頂きたくて、あの様な展開にしました。

相手を好きだから許せるのか? 
好きなのは相手が自分の理想を反映しているからか?
ならばその理想と現実が食い違ったなら相手を好きではなくなるのか?
であるなら相手を好きであるとはどういう事なのか? 
ただの自分勝手なエゴなのか?

個人的に、『哲学』とはそういった答えの出ない命題を考え続ける事そのものだと思っています。

pass
2011年03月01日(火)17時20分 M  +50点
かなり面白かったです。特に後半の急展開はドキドキしました。
もし本当だったら自分なら彼女を許せるだろうか、
なんて考えてしまいました。

165

pass
2011年02月10日(木)23時44分 やみくろ  作者レス
>真柴竹門さん
ご感想、どうもありがとうございます!
節分の日に豆をも食さなかった僕からすると、真柴竹門さんの日常クオリティはとても高いように思えます。

さて、とても詳細かつ大量のご感想、重ね重ね感謝です。
コメントから細かい所までちゃんと読んで頂けたのが分かり、途中で四苦八苦しながらも書き上げて投稿した甲斐があったなあ、としみじみ思いました。

> 文体とか前半ストーリーのノリも、良い意味でライトでした。読みやすいし、サクサク〜っと楽しめます。
書いてある内容の読み取り易さ、状況の把握し易さには結構気を遣ったつもりだったので、そこに着目して頂けて嬉しいです。

> にしても「ラプラスの魔女」と異名を持つ山田さんの能力、本当に魔法ですね。
山田さんには常人当たり前のように所持している共感などといった能力が欠如している――というよりは不完全なのです。
故に、量子力学などの理論を飛び越え、説明不能な魔の領域たるアンチ常識、つまるところ『魔法』と呼ばれる現象を顕在化させます。
ちなみに、山田さんが確定未来を視る為には3.0秒あたりネコ一匹分の演算空間を要します。つまり、彼女は周囲に存在するネコの数に応じて未来視時間を延長する事ができるのです。
逆に、ネコが周囲に一匹も存在しない場合はせいぜい1秒程度しか確定未来視が行えません。もっとも、この事と彼女がネコを愛している事実の間に直接の因果関係はありませんが。

> つーかキョーコの説明による「七狂人」のほうがラプラス云々よりも気になりました。一体どんな奇人変人どもが優遇されてるのやら?
上記のいわゆる魔法と呼ばれる現象の発現を、学園関係者の中では『発狂』と呼びますが、七狂人は皆、任意かつ限定的な範囲で世界を常識から逸脱、つまり発狂させる事ができます。
教師などの職に就いてはいても、人格的に常識の通じない連中である事は間違いないでしょう。
ちなみに第一狂人である《狂王》葛井軍機は狂人の中でも史上類を見ない『常時発狂状態』にある狂人の中の狂人と言われています。

> ……いや、そんなものよりも山田さんの萌え〜なシーンをもっと増やしたほうが有意義ですね。
萌え要素に関しては、女の子がこんな反応したら可愛いな、と思うような行動を想像(妄想)して表現してみました。どうやら真柴竹門さんにも伝わったようで、僕の萌え感覚がそれほど異常では無い事が判明しました。

> 『中学生恋愛マニュアル』なんて俗っぽい本を置いてある県民図書館ってどんなんですか?! 
なんとなく置いてあるっぽいかな? と思ってました。最近の図書館は多分「完全自殺マニュアル」みたいな本もリクエストすれば置いてくれるんじゃないでしょうか。

> それからエピグラフの「好奇心は猫をも殺す」は山田さんのことだけじゃなく、キョーコのことも兼ねてるように思えてきました。
正にそのつもりでした。もっというと、クライマックスにおけるミスリードを誘う為の記述でもありました。

> しかも山田さんの殺害行為を主人公は止めようともしないだなんて、作者も主人公も半端じゃないですね。
主人公も僕も、普通であるより『奇妙で奇特な方が好き』なんでしょうね。


以上、作品内容や表現に関しても深く突っ込んで頂けた事がとても嬉しく、色々と執筆時に妄想していたものの敢えて省いた裏設定などについても長々と語ってしまいました。
最後にもう一度感謝の辞を述べさせて貰いたいと思います。ご読了とご感想頂き、どうもありがとうございました!

pass
2011年02月09日(水)22時25分 真柴竹門  +30点
はじめまして、真柴竹門です。節分の日には、大関の甘酒を飲みながら福豆を食べて、晩飯には鉄火巻き・キュウリ巻き・ネギトロ巻きをまるかぶりして、特別な日なのに普通の日常を過ごした、そんなあとに感想を執筆です。

出だしですが『程よくライトに壊れてる彼女だな』と印象的で良かったです。恋人関係とやらを分析する奇人っぷりがかわいいですね。
文体とか前半ストーリーのノリも、良い意味でライトでした。読みやすいし、サクサク〜っと楽しめます。
名前が山田さん(山田律)というメチャクチャ普通なネーミングなのも、なかなか上手いなと思いました。ここら辺がギャップを生み出していて、自然と覚えやすい形になっています。また、セリフの言葉づかいが回りくどいのも素敵です。
でも千円札を破くのは頂けませんな。一寸の金にも五分の魂があるというものです。いや、ちょっと違うか(笑)。んで『破くな〜!』と同時に『いや、紙幣の本質は、その信仰・洗脳にあるんだよ!』と哲学的ツッコミを入れざるを得ませんでした(ん? 信仰・洗脳というより取り決め・信用といったほうが語感が良いな……)。
にしても「ラプラスの魔女」と異名を持つ山田さんの能力、本当に魔法ですね。物理の量子力学で不確定性原理というのが提唱されてからラプラスの悪魔なんてのは既に駆逐されてるというのに。
あと映画に対する山田さんのツッコミにも、『それが共感というヤツなんだよ!』とツッコミ返ししたりもしました。……まあ、ウンチクはここまでにしときましょう(笑)。
つーかキョーコの説明による「七狂人」のほうがラプラス云々よりも気になりました。一体どんな奇人変人どもが優遇されてるのやら?
……いや、そんなものよりも山田さんの萌え〜なシーンをもっと増やしたほうが有意義ですね。
ヒートアップした山田さんもさることながら(金の件は置いといて)、穿った頼み方でストラップを要求したり、感謝したりするところが非常に良いです! しかも自分の体が貧相ではないかと悩むあたりは堪りません! でもエ○ 無しなんですね(笑)。
けどヤキモチやきな山田さんをかわいく想像するだけでオーケーということにしときましょう。というか『中学生恋愛マニュアル』なんて俗っぽい本を置いてある県民図書館ってどんなんですか?! それとも私が知らないだけで、図書館というのはそんなのも置いてあるんですか。うーむ。

さて、中盤から後半にかけてですが、ゆっくりと物語に陰りが忍び込んできます。それでも大垣文人が恋に落ちるキッカケとなった「黒猫に話しかける山田さん」は凄く萌え〜でした。
それから、山田さんが別れ話を持ちかけた時の主人公の……

>「それに。別れるなんて、原理的に不可能だよ」
>「だって、俺たちはまだ『恋人同士』じゃないんだから。今はまだ僕が一方的に恋人だと思ってるだけ。だから別れるなんて、できないだろ?」

……という返し方は上手かったですね。
そのあとのソフト狂人からハード狂人へとストーリーがスライドするのには驚きました。まさかネコ殺しときましたか。
しかも真犯人は山田さんじゃなくてキョーコだって判明した際は『えええええ?!』ってなりましたよ。大学生の彼氏と別れたってのが不自然で少しだけ怪しんではおりましたが。あの「山田人殺し説の噂」はダミーだったのですね。
というか主人公は推理によって正解に辿り着いたんじゃなく、恋に基づく信用(盲目)でキョーコを疑ってたってのも驚きです。
しかも山田さんの殺害行為を主人公は止めようともしないだなんて、作者も主人公も半端じゃないですね。更に……

>「もし私が、猫を殺すような女だったら、それでもきみは、私を愛しただろうか」
>「もしそうなら、僕は最初から山田さんを好きになんてならなかったよ」

……なかなか思い切ったことを述べよりますな。
その意味合いも、後述のセリフから鑑みるに「ネコを大事にする山田さんの姿を見なかったら恋は始まらなかった」といった『出会い』のことじゃなくて「ネコを愛でているあの山田さんの姿を妄信してるからね。山田さん自身が「私はネコ殺しだ」と言っても信じないくらいに」という『理想像』のことを指しているってのがまた壮絶です。
それからエピグラフの「好奇心は猫をも殺す」は山田さんのことだけじゃなく、キョーコのことも兼ねてるように思えてきました。だってネコ殺しを仕出かした人物の名は《奇好師》鈴屋京子、ですもの。
つーかラストはヒロインの逮捕劇(逃避行の末に警察に見つかるか、自首するか)といったのを想像してただけに、二人は日常に戻ってキョーコは失踪扱いにはドン引きしました。ここでそんなご都合主義を持ち出すのかというか、『この学園どんだけー!』と薄ら寒くなったと言いますか。
「◆」による題名は「プロローグ」だけなのかとか、後半で明かされるラプラス能力が万能すぎだとか違和感を感じたところはありましたが、そんな些細なことはどうでもいいです。
学園という世界は元から狂ってるようですし、まさに主人公も恋という名の狂気に落ちていきました。それでもまあ、ラストのオチはそんなに暗くないですね。逆にちびっと明るいようなハッピーエンドで悪くありませんでした。ギリギリでハッピーエンド、でしたが(笑)。

それでは、点数のほうは三十点にします。ちょっと哲学面が薄いので、こんな感じですかね? でも、ライトな狂人性とハードな狂人性の両方を扱い、萌えとストーリーを両立させたなかなかのラノベ的小説でありました。
とても楽しい節分の日を送れたことを感謝しつつも、この辺で失礼したいと思います。ありがとうございました。

156

pass
2010年11月12日(金)00時02分 やみくろ  作者レス
『ライトノベルっぽさ』を強く意識して書いたので「ラノベだ」と評価して頂いてとても嬉しいです。
殺す殺さないを超越した決着をつける、というのはとても難しそうですね。特に読み手が気持ち悪く感じないオチの考案が。
ご感想、どうもありがとうございました!

pass
2010年11月10日(水)23時47分 ルト  +20点
 おお、ラノベだ、と思いました。いやそれは感想じゃない。
 山田さんのキャラがよかったです。特にヤキモチ焼くところとか。
 ストーリーを見ても、七狂人の伏線と結びが上手いですね。一瞬あれ? と思わされた次の瞬間に腑に落ちまして、ラストの目録で再確認できました。大垣くんのことも含めて。
 そういうわけで、よく出来ていると思うのです。
 私の好みとは少々ずれていましたが、些細なことです。
 どうせ常識に囚われないなら、殺す殺さないを超越した決着をつけて欲しかったなーとか、そういう個人的な嗜好は瑣末なことです。
 南無。
151

pass
2010年11月10日(水)19時41分 やみくろ  作者レス
>〓〓〓さん
感想ありがとうございます!
猫にして良かった!

pass
2010年11月09日(火)21時11分 〓〓〓  +20点
こんにちは!
評価欄に「すごかったです」が無いので、点数をどうして良いか分かりません!!(山田さんに影響されて融通が利かないモードなのです) クライマックスの説得力は猫ゆえですね。猫でなければ山田さんをにくんだまま読了したと思います。
151

pass
合計 5人 170点


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