祈り屋と衒学者
<<一覧に戻る | 作者コメント | 感想・批評 | ページ最下部
 ――手をもみ、祈願せざるを得ない人間に、彼は誤っているとか妄想を抱いているとどうして言えようか(ウィトゲンシュタイン)。



 石動翔太は階段を駆け上がる。
 旧校舎はコンクリートが剥き出しだった。内装は取り払われ、天井から電気配線がぶらさがっているような状態だ。「廃墟」――そんなことばが脳裏をよぎる。来年の春には取り壊される予定だ。当然、一般生徒の立ち入りは禁止されていた。
 石動は一般生徒だったが、その規範を破る程度には一般的ではなかった。しかし、興味本位で探検をしているわけではない。彼には目的があった。
 息を荒げて階段を上りきり、石動は膝に手をついた。見ると、両開きの傾いだ扉が目の前にある。錠前つきの鎖で閉ざされてはいるが、扉の蝶番が外れているため、完全に閉鎖されているわけではない。片方の扉をずらし、しゃがんで体をよじれば強引に通り抜けることができる。事実、扉は少し開いていた。
 ――いる。石動は直感した。
 心臓がひときわ大きな鼓動を打つ。走り続けてきたせいで額には汗がうき、全身が火照っている。しかし、その胸の高鳴りは、単にここまで体を酷使してきたことだけに起因するものではなかった。
 溜まったつばを飲み込み、石動は大きく息を吐いた。呼吸を整え、決意を固めると、目の前の狭隘な空間をくぐり抜ける。普通の体格なら通れなかったかもしれない。このときばかりは、石動も自分の小柄な体を褒めてやった。するりと扉の間を抜ける。しかし、なにかにつまづいたか、勢い余って前のめりに倒れてしまった。
 頭を振りながら顔を上げると、そこは屋上だった。太陽が真上にある。雲一つない快晴だ。もとより誰かが訪れるような場所ではないが、とりわけ今日は休日だ。黒ずんだ手すりの向こうに見える新校舎からは、普段のうとましい喧噪は聞こえてこない。部活動も休止中だった。採点のためのテスト休みだったからだ。屋上には、風の鳴く音だけが響いていた。
 誰もいない。
 いぶかしんだ石動は、腕をついて起き上がり、体の土ぼこりを手で払う。もう一度見てみるが、彼の直感ははずれたらしい。ここは見渡すほどのスペースもない。ところどころひび割れたタイルが目につくだけで、人一人が隠れられるような余地などなかった。
「やっぱり、デマだったか」
 そういって、彼は自嘲した。一つは、ありそうにない噂を真に受けたこと。もう一つは、噂の真偽はともかく、せっかくの休日を費やし、汗だくになってまでわざわざこんな辺鄙なところにやって来たことだった。
 石動は屋上の端まで歩いていった。近くで見ると、手すりはほとんど錆びだった。触れただけで倒れそうだったので、よりかかるのはやめておく。
 屋上からの眺望はすばらしかった。この学校も高台にあるので、校内の敷地だけでなく、山に囲まれた自分の街もほぼ視野に入れることができたからだ。昼の日差しを浴びて、そこだけが白く輝いている。石動は自宅の赤い屋根を探してみたりもしたが、山陰に隠れているらしく、見つけることはできなかった。
「まあ、この景色が見れただけでも、よしとするか」
 そうつぶやいて、石動はきびすを返す。もう帰るつもりだった。途中で本屋にでもよっていこうか。そんなことを考えながらふと視線を上げると、

 ――彼女が、いた。

 屋上の入り口、その屋根の部分に、一人の少女がいた。長い黒髪が風にもてあそばれているが、本人に気にする様子はない。陽光を強く反射する白い肌。切れ長の瞳は長いまつげに縁取られている。少し高い鼻の下には薄い唇がある。ほんの一瞬、石動は彼女に見蕩れた。
 少女はぺたりと尻をつけて座っている。首を上げ、忘我とした表情で空に顔を向けているが、その瞳は何も映していないかのようにうつろだった。口も半開きで、さながら魂が抜け出てしまっているかのようだ。
 しかし、石動が一番目を惹かれたのはその両腕の形――少女は両手の指を組んで胸の高さまで上げた状態で静止していた。まるで、遥かな高みにいる存在に、祈りを捧げているかのように。
 ――いた。本当に、いやがった。石動は驚いていた。噂が真実だったことにではなく、彼女を見ている自分の頬がいつのまにかにやけていたことに。
 ぶるぶると首を振って気を取り直し、戦闘態勢で少女をにらみつける。 青空の中にぽつんと点をうったように、少女の姿が浮き上がっている。 彼女はいまだに石動の存在に気づいていないようだった。少しむっとして、彼は少女に声をかけた。
「おい、『祈り屋』!」
 つっけんどんな声に呼びかけられても、少女はぴくりともしなかった。
 石動が再度大声で叫んでやろうと息を吸い込んだとき、少女は急に石動の方を見た。
「――だれ?」
 せき込む石動を不思議そうに見つめる瞳には、さきほどと違って生気がある。ちょこんと首を傾げる仕草にも、希薄だった人間味が感じられた。石動はなぜかほっとした。安堵を得て強気になった石動は、自分を眺める少女にびしりと人さし指をつきつけた。
「俺は一年三組の石動翔太! 祈り屋、いまどき神の存在を信じているというお前のその間違った観念、この俺が正しにきてやったぜ!」
 石動が朝ちょっと練習してきた自慢のポーズを決められても、少女の時間は動かなかった。さらにせばまった眉根の距離が、石動の心に悔悟の念を抱かせる。
 そして、少女はいった。
「ごめん、本当にわかんない……きみ、だれ?」
 少しの間、石動はその場から動くことができなかった。


「私、二年五組の二宮水澄。石動くん……で、よかったよね。はじめまして。どうぞよろしく」
 屋根の上から降りてきた少女――二宮は、最初の印象とは大違いのさわやかな笑顔でそういった。石動はようやく、休日にもかかわらず彼女が制服姿であることに気づいた。
 石動は二宮の背後に目を向けた。入ってきたときには死角になっていてわからなかったが、入り口の脇にはしごがあったのだ。さっきの場所にはそこから昇ったようだった。
 自己紹介が終わると、二宮は右手を差し出した。石動はそれを見て、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ふん。俺はお前と、仲良しごっこをするために来たわけじゃない」
 腕を組んで顔を背ける石動を、二宮はきょとんとした顔で見ている。頬に視線を感じた石動は、少女に顔を向け、挑戦状をたたきつけるかのように再度指をつきつけた。
「いいか。俺はお前に『神など存在しない』ということを教えてやるためにきたんだ。『祈り』なんて行為は無意味なジェスチャーにすぎないということを、これから時間をかけてみっちり仕込んでやる。お前はいずれ、真理という名の巨大な岸壁の前に立ち尽くすことになるのだ……覚悟しておけ!」
 決まった――突き出した腕のキレのよさに石動はとても満足した。祈り屋は、これから自らにつきつけられることになるであろう、残酷な真実の姿を想像し、怖れおののいているに違いない。だが、それも仕方のないことだ。彼女は真理の光に照らされることで苦痛を味わうかもしれないが、それが理性的な人間としての正しい生き方なのだ――石動は、大略そんなようなことを思った。
 二宮は無言だった。しかし、しばらくすると突然、吹き出した。すぐに腹を抱えて大笑いをはじめる。遅まきながら、石動は自分が笑われていることに気づくと、腕を振って二宮に怒鳴った。
「な、何がおかしいんだよっ、祈り屋!」
 二宮は答えなかった。正確には、笑いがおさまるまで答えられなかったのだ。本人はにやける顔を正そうとしているのだが、その努力は一向に結実せず、引き締めようとした口元はすぐさまゆるんでしまうのだった。
「ご、ごめ……ふっ、あははっ」
 おかしくてたまらないと全身で語る二宮の姿に、石動の怒気はさらに激しさを増す。
「いいかげんにしろっ! 人が真面目に話をしてるんだ、それを笑うやつがあるかっ!」
 二宮の笑いの衝動はだんだんと沈静化してきたようだ。ようやく話せるようになった二宮は、震える声で石動にいった。
「だ、だって……なんか、きみ、変なんだもん……っく、ふふ」
 変。変といったか、この女。石動の怒りは最高潮に達した。
「――もういい!」
 石動は肩を怒らせ、わざと足を踏み鳴らしながら屋上を後にした。楽しそうな笑い声の響くこの空間から、一刻も早く抜け出したかった。
 不愉快だ――石動はそう思った。



「また来たね。こんにちは、石動くん」
 石動が屋上の扉を抜けた途端、後背から少女の声が降りかかった。
 入り口の方を振り仰ぐと、二宮が屋根の端に足をかけて座っていた。今日はどうやら『祈り』はしていなかったらしい。むしろその様子から察すると、石動のことを待ち構えていたようにも見えた。
 にこにこと楽しげに笑う二宮の姿に、石動は早速心をかき乱された。しかし、鋼の自制心をもって激昂の衝動を抑え、二宮をにらみつけるにとどめる。ここにはケンカをしにきたわけではない。石動はそう自分にいい聞かせた。
 今日は土曜日だった。授業は午前中で終わり、大半の生徒はとっくに帰宅している頃合いだ。グラウンドは屋外系の部活動でにぎわっており、新校舎の方からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
 そんなときでも、彼女はここにいた。石動は二宮に聞いた。
「ここでなにしてるんだよ。授業はもう終わってるだろ」
 二宮はあっけらかんと答えた。
「なにもしてないよ。強いていうなら、きみを待ってたってとこかな。もう一度ここへ来るんじゃないかって、思ってたから」
 首を傾げてこちらを見下ろす二宮。石動は鼻を鳴らしていった。
「ふん……いい度胸だ。それなら話は早い。今日こそお前に神なんてものはいないってことを教えてやる。いいか、そもそもだな……」
「ちょっと待った」
 話しはじめた石動をさえぎって二宮はいった。石動が不満そうな顔で二宮を見ると、彼女は自分のとなりを手で叩いていった。
「話すならこっちに来ない? 天気もいいし、風が気持ちいいよ」
 石動は舌打ちして答えた。
「俺は別にお前とおしゃべりするために来たんじゃ」
「怖いの?」
 とぼけるように二宮はいった。石動は眉をぴくりとさせ、震える声でいった。自制心の臨界点に近かった。
「……いいだろう。そっちにいってやる。お前に見下ろされるのもシャクだしな」
 そういって、石動は入り口の脇にあるはしごの前に立った。塗装もはがれ、錆の浮いたはしごをつかむのは気が引けたが、迷っていては怖がっていると勘違いされる。意を決し、石動は一気にはしごを昇った。
 屋根の上に顔を出すと、石動の視界が急に開けた。
 ――高い。
 たかだか二メートルほど上がっただけなのに、そこはまるで別世界だ。見える景色は大して変わらない。なのに、しっかりと踏みしめることのできる領域が狭まっただけで、こんなにも人は不安になるものなのか。石動は無意識につばを飲んだ。
「どうしたの? 早く上がって来なよ」
 二宮はまったく泰然としている。その様子を見て、石動は負けじと屋根の上に立った。
 視線の高さはおよそ三〇メートルを超えている。足がすくみ、寒気が股の間を這いずりまわった。足の震えをさとられまいと、石動は両足を開いて腕を組み、二宮を見下ろす。
「ど、どうだ。これで文句は、な、ないだろう」
 二宮は眉をひそめた。いたずらを見とがめた姉のような表情。
「立ったままだと危ないよ。ほら、早く座りなよ」
 そういって、石動の前をぽんぽんと叩く。しかし、石動は自分の偉容を誇示しようと、そのまま立って話すことにした。
「いや、こ、このままでいい。さぁ、話をつづけ、る――」
 そのとき、突風が屋上を吹き抜けた。横殴りの風にあおられた石動は、バランスを崩して屋根の上から転落しそうになる。
「ぞわぁっ、あ、お」
 焦ってめちゃくちゃに振り回された石動の腕を誰かがつかんだ。二宮だった。
「もうっ。だからいったでしょ、危ないって」
 二宮は腕を引っ張って石動を自分の近くに座らせた。石動も素直にしたがう。地面をはるか下に望んだときの恐怖が、石動から完全に虚勢を奪っていた。確かな足場に安堵を得た石動は、思わず大きく息を吐いていた。
「し――死ぬかと思った」
 それを聞いた二宮は楽しそうに笑った。
「九死に一生、ってやつだね。一つ貸しだよ、石動くん?」
「な……ぐ」
 石動は悔しそうに顔を背けた。おかしい。さっきからペースを崩されっぱなしだ。当初の予定では、真理を説く自分にこそ優位があるはずだったのに。実際にイニシアティブを握っているのは終始向こうの方だ。
 挽回のチャンスをどうやって作り出そうかと石動が考えていると、二宮がいった。
「さて。じゃあ、本題に入ろうか。この前は聞きそびれちゃったけど、石動くんはここに何をしに来たのかな?」
 新校舎の方を眺める二宮の横顔を一瞬見てから、石動も同じ方を向いていった。
「いっただろう、祈り屋。俺はお前に神なんていないってことを教えに」
「そうそう、それそれ。『祈り屋』って何のこと? 私の名字は二宮だよ?」
 自分から聞いておいてことばを遮られた石動は、それでも律儀に質問に答えた。舌打ちした上でのぶっきらぼうな口調だったが。
「……お前のあだ名だよ。知らないのか? 旧校舎の屋上で人知れず祈りを捧げる生徒の噂。誰がいい出したかは知らないが、その生徒のことを『祈り屋』っていうんだよ」
「あー、なんか聞いたことあるかも。あれって私のことだったんだ。へー、そうかそうか。それで『祈り屋』なのかぁ。そういえば名前も似てるしねぇ。おもしろいおもしろい、うん」
 勝手に一人で納得し、首を何度も縦に振る二宮を見て、石動は毒気を抜かれてしまった。こんなに目立つ行為をしていて噂にならないと本気で思っていたのだろうか? 無関心なのか、単にバカなのか。いずれにしても、石動の戦意はかなり下火になっていた。
 肩を落として静かに息を吐く石動を見て、二宮ははっと気づいたように物思いを中断した。
「あっ、ごめんごめん。話の途中だったね。それで? 石動くんはこの祈り屋に何のご用かな?」
 取りなすように石動をうかがう二宮。すっかり雑談みたいになってしまったなと思いながら、石動はいった。
「お前、神を信じてるんだろ?」
「……え?」
 何をいわれたのかよくわかっていない二宮を尻目に、石動はいった。
「とぼけなくていい。俺だってこの目で見たんだ。あんな風に祈ってたってことは、お前には祈りをささげるための神がいるってことだろ? 何の宗教かは知らないが、どうせキリスト教だろう。教会に行かずにわざわざこんなところでやる理由まではよくわからないが、とにかくお前は神を信じてるはずだ」
 話しているうちにだんだんと調子の出てきた石動は、二宮そっちのけで話を続ける。
「しかし、だ。残念ながらお前は間違っている。この世に神なんて存在しないんだ。いきなりそういわれても信じられないかもしれないな。納得できないのも仕方がない。だがこれは事実だ。俺はお前にそのことを教えに――」

「私、神さまなんて信じてないよ?」

 話の腰を砕いて、二宮がいった。
「――来たってわけだ。これからゆっくり説明してやるからようく……なんだって?」
「だから、神さまなんて信じてないんだってば、私」
 石動がそのことばの意味を理解するまで数秒を要した。中々上手くならない吹奏楽部員の外れた演奏が、むなしく屋上にも届いてくる。
 ようやく理解を終えた石動は、信じられないといった風に叫んだ。
「ちょっと待て! お前が神を信じていない、だと? 嘘だ! あんなに熱心に祈っていたくせにそんなバカな話が」
「いやだから、祈ってもいないの。ただ手を組んでただけ。家が一応そっち系だったから、なんとなくそういう風になったけど」
 何かを隠している様子もなく、ただ単に事実を述べているという風に、二宮はいった。
「な、な、な……」
 混乱した石動は、壊れた人形のように同じ声を発するだけだった。
 祈り屋が、祈っていなかった? ――果てしなくパラドキシカルな事態を前に、石動の思考は失速し続け、ついには停止してしまった。
「石動くん? ねえ、聞いてるの? 石動くんったら。おーい」
 二宮が顔の前でいくら手を振っても、石動はしばらく茫然自失のままだった。
 不合理だ――石動はかろうじてそう思った。



「あれ、石動くん。今日も来たんだ?」
 二日後。二宮の姿は放課後、おなじみの場所にあった。
「納得のいく説明をしろ、祈り屋。俺はお前のいったことが理解できない」
 腕を組んで仁王立ちになった石動は、どことなく憔悴した顔でいった。目の下には薄いくまがあった。
 石動ははしごを昇り、二宮のとなりにあぐらをかいた。二宮は制服姿で、授業が終わってそのままここに来たのだろう。ただ、この場所に来るときには常に制服なのではないかとも石動は思った。
「説明って、いわれてもなぁ」
 困ったように苦笑する二宮は、端から投げ出した足をぶらぶらと振った。風になびく髪をかき上げ、グラウンドで熱心に練習する部活動を眺めながらいう。
「きみは私に神さまなんていないってことを教えるために来たんでしょ? で、もとから私は神さまなんて信じてない。なら、きみの目的はきみが来る前からすでに達成されている、ってことになるけど……それじゃダメなの?」
 からかうような瞳を向けてくる二宮に、石動は強くいった。
「当たり前だ! あんなことをしておいて『手を組んでいただけ』なんて、いいわけにしか聞こえない。わざわざこんなところに潜り込んでまでやってるんだ、何か目的があるんだろう? それが神に関係しないとなぜいえるんだっ。やっぱりお前、神を信じているんだろう!」
 さながら異教の民を糾弾する異端審問官のように、石動は二宮に迫った。
「あはは。いやぁ、なんていったらいいのかなー」
 おどけるように頭をかく二宮。顔はへらへらとゆるんでいるが、その瞳に笑みはなかった。
「どうなんだ!」
 その表情には気づかず、自分にさらに詰め寄る石動に、二宮は降参とでもいうように両手をあげていった。
「わかった、わかったよ。ここまで何度も足を運んだ石動くんに敬意を表して、きみには私の秘密を教えてあげよう。女の子の秘密を聞けるなんて、幸せな男の子だなぁ、石動くんは」
「なにを――」

「気持ち悪いのよ」

 怒鳴りかけた石動を制し、二宮はいった。何の感情も込めず、ただ事実だけを述べるように。
 唐突なことばに、石動は口をつぐんだ。
「ああ、ごめんね。石動くんのことじゃないの。なんというか、私が気持ち悪いのは『世界そのもの』っていうのかな」
 世界そのものが、気持ち悪い? ――石動はその意味を理解できず、黙って話の続きを待った。
「石動くんは、いま幸せ?」
 二宮が石動の方を見ずに質問を投げかけた。
「幸せ? なんだよ、いきなり」
「私は幸せだよ。とっても、ね」
 二宮は笑顔を浮かべていった。
「お父さんとお母さんは優しいし、夫婦仲も円満。ここまで育ててくれた両親には本当に感謝してるし、愛してる。あと妹が一人いるんだけど、これがまたかわいいのよ。もう中学生なんだけど、背も小さいし甘えん坊だから小学生にしか見えないの。あの子のほっぺたをすりすりしてるとすっごく癒される。私、妹が大好き」
 突然家族の話をされて、石動は面食らっていた。そんな石動を尻目に、二宮は話を続ける。
「友だちも好きよ。マコにミヤにサオリ……あまり付き合いの広い方じゃないけど、その分一人一人の友だちとは何でも話し合える仲だと思ってる。その場しのぎの浅い関係なんかじゃない。だからたまにケンカもするけど、後でちゃんと仲直りできる」
 石動は話の先がまったく見えなかった。二宮が幸せなのは結構だが、それが何の関係があるというのだろう。
「もちろん、私は自分のことも好き。 能天気な性格してるから、あんまりくよくよ悩むこともないし。うちのお母さん美人だから、顔もけっこういい線いってると思うんだけど……石動くんは私の顔を見てどう思う?」
「は? いや、ど、どう思うっていわれても」
 振り向いて真剣な面持ちで聞いてくる二宮に、石動は焦って口が回らなかった。
「ふふ。冗談だよ」
 いたずらっぽく笑い、二宮は再び前を向いた。
「でも自分の性格や顔を気に入ってるってのは本当。そういうことに対するコンプレックスとかはないよ。恵まれた家庭があって、心を許せる友だちがいて、自分のことで大きな悩みもない。だから、私はいま幸せ。他の人から見てもそう思うだろうし、私自身も幸福を感じている」
 二宮はそこで一旦口を閉じ、高い空をじっと見つめた。その瞳ははるか彼方の空間を映しているようにも、まったく何も映していないようにも見えた。石動は声をかけようとしたが、その前に二宮が口を開いた。
「けどね」
 宵闇のように黒々とした瞳にまっすぐ見据えられ、石動の体は金縛りにあったかのように動かなくなってしまった。石動は二宮の奥底にある得体の知れない何かをのぞき込んでしまったかのように錯覚した。それはひどく恐ろしいものだった。石動はすぐにでも目をそらしたかったが、その意に反して視線は二宮を捉えてはなさない。二宮は石動にかまわずいった。
「ときどき、そういうことすべてが気持ち悪くなることがあるの。いつからそうなったのか、なぜそうなるのかは私にもわからない。私が愛しているもの、幸せだと感じているものすべてを否定し壊してしまうような、そういう『気分』になることがあるのよ。そのときには、両親の優しい微笑みも、妹のやわらかいほっぺたも、友だちとの楽しいおしゃべりも、全部が全部『気持ち悪い』。頭ではその素晴らしさをわかっているはずなのに、心では全然違うことを思ってる。私は自分に嘘なんかついてないはずなのに、それすらも本当なのかどうかわからなくなってくる」
 二宮は石動から視線を外してうつむいた。石動は思わず止まっていた息を吐き出す。
「その気分から逃げるために、私は『祈り』をすることにした」
 二宮は首を上げた。西に傾いた太陽が、空を美しく赤色に染め上げている。じきに日没だった。
「祈っていると、心がからっぽになるの。何も考えないし、何も感じない。だからあの『気分』も浮かばなくなる。私がいなくなるの。二宮水澄という人間はこの世界から消え去って、彼女の幸福も同時に失われる。だから、気持ち悪くならない。手を組んでいる間だけは、全部がからっぽなの」
 夕暮れの中で無表情に語る二宮の姿が、石動にはとても儚げに感じられた。触れれば消えてしまうのはでないかと思うほど、彼女の存在は不確かだった。石動は黙って二宮の横顔を見つめていた。見つめることしかできなかった。
 しばらくして、二宮が急に石動に振り向いた。さきほどまでの沈んだ雰囲気が嘘だったかのように、明るい笑顔だった。
「ごめんね、石動くん。変な話で意味わからなかったでしょ? とにかく、私は神さまのために祈ってるんじゃないってことがわかってもらえれば、それでいいや」
 そういうと、二宮はすっくと立ち上がり、さっさとはしごを降りた。屋根の上にいる石動を見上げる、いままでとは逆の構図になる。
「私はもう帰るね。石動くんも早く帰りなよ」
「あっ、お、おい」
 足早に屋上から去ろうとする二宮に石動は思わず声をかけた。二宮は石動の方を見ずに、低い声でいった。
「それから、ここにはもう来ない方がいいよ。先生に怒られちゃうからね」
 それだけいうと、二宮は入り口の中に消えていった。
 石動は呼び止めることもできず、少しの間ぼんやりと夕日をながめていた。考えるのは二宮のことだった。ここ数日、石動は何度か二宮の笑顔を見た。含むところなどなにもない、本当に楽しそうな笑みだった。しかし、最後に見せた笑顔だけは違った。表面上は明るいものだったが、作り物の面のように薄っぺらい笑みだった。
「なんなんだ、あいつ」
 石動はぽつりとつぶやいた。何もかもよくわからなくなっていた。自分がここに来た理由も、二宮がここにいる理由も。
 それから石動は、完全に日が沈んで街灯の光が明るくなりはじめる頃まで、ずっと屋根の上に座っていた。



「二宮! 二宮水澄はいるかっ!」
 昼休み。二年五組の教室の喧噪は、クラスの生徒たちには聞き慣れない人物の大声によってかき消された。
 生徒の視線がいっせいに入り口の方に向けられる。そこには、石動が腕を組んでふんぞり返っていた。眉を寄せ、クラス全体をねめつけるように左右に首をめぐらしている。
「いっ、石動くん!?」
 静寂に包まれた教室の奥を石動が見ると、唖然とした様子の二宮が窓際の席に座っていた。周囲には数人の女子が立っている。石動は迷うことなく二宮の席に近づいた。その気迫におされ、生徒たちは石動に道をあける。
「二宮」
 二宮の側に立った石動は、驚くその顔をまっすぐに見ながら呼びかけた。
「ど、どうして、ここに来たの? ここ、二年生の教室――」
 周りを気にしながら無意識のうちに小声で話す二宮に、石動はまったく無頓着にいった。

「よくわからなかった」

「……え?」
「お前の話は俺にはよくわからなかった」
 あっけにとられる二宮に、石動はぶっきらぼうにいった。
「俺は納得のいく説明をしろといったはずだ。だが、この前の話では俺はまだ理解すらできていない。つまり、納得もしていない。俺が納得できるまで、お前には説明する義務があるはずだ。さあ、説明しろ、二宮水澄――俺にもわかるように、な」
 そういうと、石動は口を閉じて、二宮が話しはじめるのを待った。説明を聞くまではそこから動く気はない、とでもいうように。
「ねえ。あの子、一年でしょ?」
「一度は撃沈されたが、リベンジに来たってところか」
「年下からいい寄られるなんて……やるなぁ、水澄」
「答えてやれよー、二宮ぁ!」
 気づくと、教室は再び喧噪を取り戻していた。石動は周りを見回した。こちらを見ながらひそひそと話をしている女子たち、肩を組んでにやにやと笑っている男子、手を叩いたり口笛を吹いてはやし立てる男女のグループ、なぜか床に手をついて落ち込んでいる様子の男子――多種多様な反応があった。
 石動はその意味がよくわからなかったので、二宮の方に視線を戻した。二宮はうつむいたまま頭を小刻みに震わせていた。
「? どうした、二宮」
 石動が声をかけると、二宮は急に立ち上がり、不思議そうな顔をしている石動の手をつかんだ。
「――来てっ!」
 二宮は石動を引っ張りながら教室を足早に出ていった。わけもわからないまま、石動は二宮についていく。後ろを見ると、生徒たちはさらに騒がしく口々に何かを叫んでいた。
「お、おい、どこにいくんだ、二宮」
「いいからっ」
 石動が行き先を聞いても、二宮は聞き耳を持たなかった。廊下にたむろする生徒たちも、二人に奇異な視線を向けてくる。二宮はさらに速度を上げた。
 やがて二宮は、人気のない、体育館に続く通路の入り口で石動の手を離した。奥からは熱心に練習するどこかの部活のかけ声が響いてくる。
 石動はさっきまでつないでいた手を見ていたが、はっと何かに気づくと、ズボンを手でこすってから腕を組んだ。
 息を整えているのか、自分に背を向けている二宮を問いただそうと、石動は声をかける。
「なあ、なんでこんなところに連れて来たんだよ、にの――」
「石動くん!」
 不機嫌そうに聞いた石動は振り向いた二宮の怒声に気圧された。柳眉を逆立て、険しい表情でにらみつけられ、石動は少しひるんだ。
「な、なんだよ」
 顔をそむけていった石動を見て、二宮は大きく息を吐いた。頭を振り、乱れた髪をかき上げる。落ち着きを取り戻した二宮は、それでも低い声でいった。
「誤解されるようなこと、いわないでよ。石動くんだって、その、困るでしょ? それに、理由ならこの前話した通りだから、私からいうことはもう」
「誤解って、なんのことだ?」
 石動が心底いぶかしむような顔をしていうので、二宮は額に手をあてた。
「あのねぇ……」
「それに」
 石動がいった。
「さっきもいっただろ。俺はこの前の話は理解できなかったんだ。つまり、お前が神を信じているという疑いは依然晴れていないわけだ。そうだとはっきりするまで、俺はお前に説明を求める。というわけで放課後、いつもの場所でな」
「へ? あ、ちょ、ちょっと!」
 一方的にそういって、石動は二宮を置いてずんずんと歩いていってしまった。
 取り残された二宮は、伸ばした腕をゆっくりおろし、苦笑を浮かべてつぶやいた。
「なんだか変な子と知り合いになっちゃったなぁ」
 予鈴が鳴った。昼休みももうすぐ終わる。
「それにしても……」
 二宮はうつむいて疲れたようにいった。
「はぁ……みんなに何ていいわけしよう」
 肩を落とし、二宮はゆっくりと教室の方へと戻っていった。


「来たか、二宮。逃げ帰ったんじゃはないかと心配したぞ」
 放課後。二宮が屋上を訪れると、石動はすでに屋根の上であぐらをかいていた。腕を組み、得意そうな顔で二宮を見下ろしている。
「それも考えたけどね、正直……」
 肩をすくめて答えると、二宮はかばん片手にはしごを上り、石動のとなりに腰掛けた。
「さて、えーっと。何の話だっけ?」
 二宮がとぼけたように聞くと、石動は顔をしかめた。
「昼休みにいっただろう。お前は祈っている理由を『気持ち悪いから』といったが、俺には何のことだかさっぱりだ。それをもっとくわしく説明してもらおう。そうでなければ、お前に対する俺の疑いは晴れない」
「くわしく、ねぇ……」
 大真面目にそういう石動を見て、二宮は苦笑した。これほど熱心に聞かれるとは思っていなかった。
「そうだなぁ、なんていえばいいのか……そうだ」
 暮れなずむ空を眺めながらうなっていた二宮は、両手をぱんと鳴らして石動を見た。
「石動くんは天国とか地獄って信じる?」
「天国と、地獄?」
 唐突な質問に、石動は困惑した。しかし、単語の意味を理解した瞬間、二宮に詰め寄る。
「お前……天国と地獄を信じてるってことは、やっぱり神を信じてるんだな!? 神がいなければ、天国での安楽も地獄での苦痛も意味をなさないからな、そうだろう!」
「いやいや、そういうことじゃなくて。私も信じてないよ」
 二宮は石動を押しとどめるように両手を出した。気勢をそがれ、石動は不満そうに聞いた。
「じゃあ、どういうことだよ」
「石動くんはどう思ってるのかなーって。天国と地獄。やっぱり、信じてないの?」
「ふん、当たり前だ」
 石動は自信たっぷりにいう。
「天国や地獄――いわゆる死後の世界なんてものは、大昔の死ぬのが怖い連中が勝手に考え出した保険みたいなものだ。ただの空想でしかない。そんなのを信じるのは心の弱い人間だけだ」
「なるほどねぇ」
「お前はどうなんだ、本当に信じてないのか?」
 疑り深い目で二宮を見る石動。二宮はその疑念を意に介さずいった。
「んー。どっちかっていうと、天国や地獄がないことを信じてる、って感じかな」
「どういう意味だ?」
「だって確かめようがないじゃない。死んでみたら、やっぱり天国や地獄はありましたー、なんてこともありえるわけでしょ? もちろん、そうでない可能性もあるんだけど。私はその、そうでない方がいいなあって思ってるの」
 石動はふと浮かんだ疑問を口にした。
「なんだ、お前。天国にいきたくないのか?」
「うん」
 二宮はあっさりと頷いた。
「そりゃ私だって地獄に行くのはいやだよ? 痛いのも苦しいのもご遠慮します……だけどね、反対に天国にも行きたくないの。多分、天国に行けたら、楽しいことやうれしいことしかないんだろうなっていうのはわかる。それがすっごく幸せなんだろうなってことも。でもね、だからこそいやなの」
 狐につままれたような顔をする石動に、二宮は聞いた。
「石動くんは、もし天国に行けるってわかったら、うれしい?」
「え? ああ、いや、その」
 答えに窮する石動にはかまわず、二宮は続ける。
「私、うれしいって答える人は世の中たくさんいると思う。その人たちは逆に、地獄に行くのがわかったら、すごくいやな顔をするんじゃないかな。でもね、どっちに行くのもいやだって答える人も、ちょっとはいると思うんだ。私はその一人ってわけ。そういう人たちは多分、死んだら何も残らないってのが理想なんだと思う。少なくとも私はそう。だって、死んでも何かが残るんだったら、それって生きてるのと何が違うの?」
 二宮はさらに突飛な質問をした。
「石動くんは、自殺しようって思ったこと、ある?」
「じ、自殺? あ、あるわけないだろ、そんなの!」
「そう。私はあるよ」
 何でもないことのようにいう二宮に、石動は内心の驚きを隠せなかった。
「自殺しようって思う人の中にも、二つのタイプがあると思うんだ。一つは、毎日の生活がつらいことや悲しいことばっかりで、人生に疲れちゃった人。生きていても何もいいことなんてないから、この世とはサヨナラして、あの世で幸せになりたいって思ってる。でもそういう人ってさ、もしこの世で幸せになれるんだってわかったら、自殺しないんじゃないかな。たとえばね、いじめがつらくて自殺しようとしてる子に、『もうきみをいじめるやつなんていないよ』っていってあげて、その子が納得して安心したら、やっぱりその子は自殺しないと思う。もちろん、それができなくて、結局自殺しちゃう子もいるのかもしれない。けど、そういう人たちって普通の人と同じで、要は死にたいんじゃなくて、不幸な目に遭いたくない、幸せになりたいってことでしょ? 自殺はその手段で、目的じゃない」
 滔々と語る二宮に圧倒され、石動は黙ってその話を聞くことしかできなかった。
「けど、もう一つのタイプに、自殺は目的であって手段じゃない、って人がいると私は思う。そういう人たちは、自分が幸福か不幸かなんて関係ない。生きることそのものがいやなの。だからあの世にも行きたくない。だってそれは、生きてるのと何も変わらないから。うれしいことや楽しいこと、悲しいことやつらいこと、そういうことがあることそのものから抜け出したいんだよ。そういう理由で自殺をしようと思ってる人に、この世で幸せになれるから自殺はやめなさいっていってもダメ。こういってもいいかも、その人たちにとっては、生きてることそのものが不幸なんだ、って。この世でもあの世でも、その人たちが幸せになれる可能性なんてないの。だから死を望む。無になりたいと願って」
 二宮はそこで石動を見て、苦笑しながらいった。
「私も一回自殺しようかなんて考えたことがあるけど……すぐやめたよ。だって本当に無になれるかなんてわからないし、それであの世に行くのなら同じことだしね。自殺の罪で地獄に行くぐらいなら、こっちで楽しく暮らした方がいいに決まってる。痛いのはいやだし、みんなが悲しむから、やっぱやめとこうって思ったの……わがままだねぇ、私って」
 そういって笑う二宮を見ても、石動は笑えなかった。まさか自殺の話になろうとは思ってもみなかった。しかも、二宮はそれを考えたことがあるというのだから。
 固まってしまった石動に、二宮は優しく微笑んだ。
「だから私は、祈ることをはじめた。祈っている間は心がからっぽになって、幸福も不幸も感じない。生きていることに対するあの『気持ち悪さ』も感じない。神さまに会いたいとか、願いごとがあるとか、そんなんじゃないの。どう、わかってくれたかな?」
「どうっていわれても……」
 二宮が聞くと、石動は長い間ずっと黙って考えていた。風が吹き、新校舎やグラウンドからの喧噪を運んでくる。日はさらに傾き、太陽の半分は稜線の下に隠れている。石動が眉間にしわを寄せてうなっている間、二宮は体をゆらして鼻歌を歌っていた。
「お前が救世主としての神を信じていないことはわかった……」
 唐突に、石動はつぶやいた。二宮は鼻歌をやめ、石動の方を向く。
「そう? よかった。じゃあ、これで疑いは晴れたってこと――」
「しかぁし!」
 大声で叫んだ石動は屋根の上で立ち上がり、驚く二宮を指さした。
「お前が造物主としての神を信じていないかどうかはまだわからない! もしお前が創造科学やID論に加担しているのなら、これは由々しき事態だっ。俺はそのことについてもお前を啓蒙しなければならない!」
「え……ええっ!?」
 あっけに取られる二宮を置いて、石動はすばやくはしごを降りた。上にいる二宮をもう一度びしりと指さすと、高らかに宣言する。
「二宮! 俺は明日もここへ来るぞ。お前も来い!」
「え、いや、私、明日は用事が」
「なら明後日だ! 用事がない限りここに来ること、いいな! ただし、雨が降ったら中止とする。以上!」
 よどみなく一方的にそう告げた石動は、すぐさま旧校舎の中に消えた。二宮の耳に、荒々しく階段を駆け下りる石動の足音が聞こえてくる。
「どうしたら納得してくれるのかなぁ、あの子は……」
 途方に暮れる二宮は、困ったように苦笑した。そうして、なんとなく鼻歌を再開する。日が完全に暮れるまで、二宮は屋上でずっと歌っていた。



 それから石動は毎日のように、放課後になると旧校舎の屋上に足を運んだ。大抵そこには二宮もいて、屋根の上に登って二人で話をした。
 石動が勢いよく神に対する持論を展開すると、二宮が何の反論もなくそれを受け容れる。空回りした石動がことばを失えば、二宮が他愛のない話題を提供する。流されるままに二宮の話に受け答えをする石動。やがて自分の本来の目的とはずれた会話をしていることに気づくと、石動は大声を上げ、捨て台詞を残して帰っていく――それがお定まりのパターンになっていた。
 そんなことが一週間ほど続いたある日――放課後、二宮はやはり屋上にいた。いつもの場所に腰掛け、空を見上げる。
「うーん……これは降るかな」
 これ見よがしな雨曇りだった。灰色の雲がどこまでも地上を覆い、辺りは変に明るい。湿った肌寒い空気が背筋に触れ、二宮は自分の肩をさすった。
「予報でも雨っていってたしなぁ。今日は帰ってもいい、よね?」
 屋上に石動の姿はなかった。いつもなら先にいるのはむしろ石動の方だ。急用でもできたのかもしれない。お互い明確な約束をしているわけでもなかった。一方が来なかったとして、他方にそれを責める権利があるとも思えない。
「よく考えたら、私にはここに来る義務なんて、別にないんだよね」
 二宮は苦笑した。ここには元々「祈り」をするために来ていた。祈りをしないのであれば、ここに来る理由は特にない。石動が自分に何を納得させたいのか、というより、どうすれば石動の気がすむのかはわからないが、それに付き合う義理は実はない――などといいつつ、毎日ひまさえあればこの場所を訪れている。
「ほんと、なんでここにいるんだろ、私」
 二宮は自問するが、自分でもよくわからなかった。多分、石動との会話に何かを期待しているのだと思う。それはきっと、あの「気分」のことを話してからだろう。
「そういえば――最近来ないな、『あれ』」
 誰もいない屋上で、二宮はつぶやいた。あれは定期的になるようなものでもない。いつ来るのか、それは自分でも予測できない。ただ、少なくとも石動との会話を始めてからここしばらくは来ていない。それが偶然なのかは、二宮にも判断がつかなかった。
「ま、いっか」
 二宮は立ち上がり、大きく伸びをした。帰る前に一度校舎に寄ってみようと思った。まだ石動がいるかもしれない。勝手に帰ったと思われたら、やっぱり怒られるだろうから。
 そのとき、鼻の頭に何かが当たった。見上げると、細い雨脚がかすかに見えた。
「あちゃー、降りはじめちゃったか」
 これはもう直帰でいいかも――そんなことを二宮が考えたとき、

 ――世界が、一変した。

「っ!」
 二宮は思わず胸を押さえ、その場に座り込んだ。来た。あの「気分」だ。悲鳴が声にならないほどの、強烈な気持ち悪さ。濡れて斑点模様のできたコンクリートが、皮膚病患者の肌のように思えた。遠くに見える白い壁の新校舎が、まるで墓場のように薄気味悪い。呼吸が荒くなり、わけもわからず涙が出る。悪寒が全身を這いまわった。二宮は自分の肩を抱いた。声が漏れる。
「い……いや」
 頭の中に様々なものが浮かんだ。それはいつも二宮が愛するもの、幸福を感じるものだった。妹の顔、両親の顔、友だちの顔、そして――石動の顔。それらはすべて、いまの二宮にとっては吐き気を催す一因、不快な肉の塊でしかない。記憶は汚染され、感情も浸食される。耳の中で不協和音が暴れまわり、そこかしこから腐臭が漂う。
 ――何もかも、気持ち悪い。
「う……うぅ、ああ、あ……」
 ことばを覚える前の赤子のように、無意味な吐息が口をつく。二宮は激しくせき込んだ。わずかに残った理性の欠片が、最後の抵抗を試みる。震える両手に必死に力を入れた。
 二宮は、手を組んだ。


「くそ、なんで俺がこんなことを……」
 廊下を歩きながら石動はぼやいた。手には大量のプリントが抱えられ、ときおりその重さにふらりと揺れる。成績不振を理由に何かと目をつけられている石動は、教師に雑用をいいつけられたのだった。
 教室に入り、教卓の上にどさりとプリントの束を置いた。思いがけない重労働だったと、体を伸ばして息をつく。
 教室には誰もいなかった。すでに放課後だ。いつもは居残ってくだらない話に興じる帰宅部連中も、夜から雨との天気予報を信じてそそくさと帰っている。運の悪いことに教師に捕まった石動はそうすることもできず、とっくに降り出していた雨に足止めを食った状態だ。
 石動は窓際に近寄った。連日の晴天の反動か、強く重苦しい雨だった。黒雲が分厚く空を覆い、ときたま腹の底にまで響くような雷鳴がとどろく。
「これは止まないな」
 弱まりそうなら図書館あたりで暇をつぶすつもりだったが、雨は強まる一方だった。二宮も今日はいないだろう。早く帰ろう――そう石動が決めたとき、雷光が閃いた。

 ――なんだ?

 石動は一瞬の光の中で、何かを見たような気がした。こうだ、とはっきりいえるわけではない。少し違和感を覚えただけ、といえばそれまでだ。しかし、何かの見間違いとして忘れてしまうのは、なぜかためらわれた。向かいにあるのは旧校舎だった。
「旧校舎……?」
 嫌な予感がして、石動は窓を開けた。急に雨音が音量を増し、冷たい空気が入ってくる。日も暮れかけ、暗闇と雨で視界は最悪だ。石動は目を凝らしたが、何も見つけることはできなかった。
 気のせいだったのか? 石動がそう思ったとき、再び稲妻が空を走った。薄闇の中に沈んでいた旧校舎が、刹那の間白光の中に浮かび上がる。

 屋上に、手を組んで祈りをささげる少女の姿があった。

「――っあいつ!」
 石動はそれを見た瞬間、きびすを返して教室から飛び出した。湿った床に足をとられながらも、全速力で廊下を駆け抜ける。
 なぜだ。石動は怒りの混じった疑問を持った。よりによってこんなにも強い雨の日に、なぜあいつはあんな場所にいるのか。雨が降ったら話はなしだと、いっておいたはずではなかったのか。最近は不思議とあの「気分」にもならないと、話していたばかりではなかったのか!
 急いで階段を駆け下り、玄関に着く。靴を履き替える時間も惜しくて、石動は上履きのまま外に出た。激しい雨脚に、体はすぐずぶ濡れになる。はりつく髪を払い、泥だらけになりながら水浸しのグラウンドを突っ切った。途中、石動は屋上の方を見上げたが、死角になっていて彼女の姿を確認することはできない。
「くそっ」
 いっそ見間違いであれば――そう思いながら、裏手にあるガラスの割れた窓から旧校舎に入った。いつにも増して暗いコンクリートの廊下を進み、息切れしながら階段を上る。胸が苦しい。横っ腹が痛い。吸っても吸っても酸素が足りない気がした。頭がしめつけられるような感覚――くらくらしながらも、石動は足を止めなかった。
 やがて閉鎖された扉の前に行き着く。体力の限界に近かった。石動は床に手をついてせき込んだ。全身が重かった。普段運動しないことをこれほど後悔したことはいままでにない。
 息をのみ、荒い呼吸をくり返しながらも石動は前を向いた。そのまま四つん這いで鎖の下を通り抜ける。再び雨に打たれたが、石動は気にすることなく立ち上がった。
「二宮っ!!」
 振り返って見ると、入り口の屋根の上にはやはり二宮水澄の姿があった。最初に会ったときのように、両手を組んで胸の高さまで上げている。首を上げ、曇天の空に半眼で視線を向けてはいるが、瞳に光はない。まばたきすらしないその様子に、石動は一抹だが恐怖すら覚えた。
「バカ! なにやってんだ、こんな日に! 早く降りてこいっ」
 雨音に負けないよう、口に手をあてて叫ぶが、二宮は何の反応も示さなかった。いつからそうしているのかはわからないが、この雨だ。髪も体にはりつき、とっくに濡れ鼠だというのに、二宮は微動だにせず、ただ祈りを続けている。
「ああくそっ!」
 悪態をつき、石動は急いではしごを上った。二宮の肩に手を置き、振り向かせる。
「おい、二宮!」
 二宮はなされるままに体の向きを変えたが、石動を見たわけではなかった。目はうつろなままで、無機質なガラスのようだった。石動は両肩をゆすり、二宮を正気に返そうとした。
「二宮! 聞いてるのか、にのみ……や?」

 ――たはわたしの……りで。なぜ……

 そのとき石動は、二宮がか細い声で何かをつぶやいていることに気づいた。いぶかしみ、その口元に耳を寄せると、かろうじてその内容を聞き取ることができた。

 ――あなたの光とまことを遣わしてください。彼らはわたしを導き、聖なる山、あなたのいますところにわたしを伴ってくれるでしょう。神の祭壇にわたしは近づき……

 それは聖書のことばだった。よくは覚えていないが、おそらく旧約聖書の中の一節だろう。二宮はそれをただひたすらに唱えていた。途切れることなく、しかし弱々しい声で。
「二宮……」
 石動は二宮の顔を見た。雨に塗れ、体温が低下しているのだろう。顔はひどく青ざめ、唇も紫色だった。病人のように脆弱なその姿はとても痛々しく、正視にたえなかった。思わず顔をそむけようとした石動は、そこであることに気づいた。最初はたまった雨粒だろうと思った。見た目はほとんど区別はつかない。だが、石動は確信した。何の理由もなかったが、見間違いなどではないと思った。
 二宮は、泣いていた。
 口では絶えず聖句を唱え、能面のように感情の希薄な表情をしているのに、そのまなじりからはとめどなく涙が流れていた。
 石動はいい知れない焦燥に駆られた。このままでは二宮が死んでしまうと本気で思った。
「悪い、二宮!」
 そういうと、石動は二宮の頬を強く打った。一回、二回。二宮の頬に少しあとが残る。石動は罪悪感を抱いたが、それにはかまわず、もう一度二宮の肩をゆすった。
「二宮、二宮!」
 石動は何度も彼女の名前を呼んだ。すると、空虚だった二宮の瞳が、次第に生気を取り戻していく。やがてそれは石動の顔に焦点を結び、二宮は驚いたような表情でいった。
「……い……する、ぎ……くん?」
「そうだ、俺だ。よかった、気づいたか」
 石動は無意識に微笑んでいた。しかし、それなら早く彼女を保健室に連れて行かなければと思い、石動は二宮に聞いた。
「大丈夫か、二宮? 立てるか? まず俺が下に降りるから、その後でお前はゆっくり――」
「どうして……?」
 呆然とした様子で二宮がいった。それは石動に対する問いかけというより、自ずから口をついて出たことばのようだった。
「二宮、いまはもうしゃべるな。いいか、俺が先に降りてお前を支えるから無理せず」
「ねえ、どうして?」
 それまでの様子とは違い、二宮は少し強い調子でいった。そして、おもむろに両手を差し出し、石動の頬に手をあてる。
「に、二宮?」
 うるんだ瞳に見つめられ、石動はうろたえた。しかし、二宮の方は石動が見えていないかのように、まるで鏡に語りかけるかのように独白する。
「どうして、どうしてなのよ……いつもそう。私が幸せを感じるといつもこうなるのよ。私は自分に嘘なんかついてないのに、みんなのことが大好きなはずなのに。気がつけば世界はゆがんでる。あれもこれも気持ち悪い。何もかも吐き気がする。すべてが偽りで、うわべだけのお世辞みたいに思えてくる――ねえ、これは罰なの? 私が罪を犯したから、私はこんなに苦しんでいるの? ……私がいつ、何をしたっていうのよ。私が、何をっ」
 話していくうちに、二宮の声はだんだんと大きくなっていった。そして、二宮はいきなり石動の肩をつかむと、思いっきり体重をかけた。
「お、おい、二宮……ぐっ」
 まるきり押し倒された格好の石動は、受け身もとれずコンクリートで背と頭を打った。痛みにひるんでいる間に、二宮が四つん這いで覆いかぶさってくる。
「くそっ、いいかげんにしろよ、この――」
 石動が二宮を押しのけようとしたとき、石動は彼女の顔を見て動きが止まった。
 二宮は笑っていた。目に涙をためた、泣き笑いの表情だった。
「二宮……」
「きみもそう。石動くん」
 二宮はそのときになって初めて石動を見たかのようだった。切れ長の瞳がいつの間にか石動を捉えていた。
「きみといる時間は本当に楽しかった。私、部活に入ってないから、年下の、それも男の子と話す機会ってあんまりなかったの。だから、弟ができたみたいでうれしかった。きみの話は難しくてあんまり理解できなかったけど。それに……あの『気分』について話したの、きみが初めてだったんだよ? 誰にも相談なんかできなくて、ずっと一人で抱え込んでた。最初はきみを追い払うため、八つ当たりするためにいっただけだったのに、きみはまたここに来てくれた。それでずいぶん気が楽になったの。人に話すだけでこんなに安らかな気持ちになれるなんて、知らなかったよ、私。それからは、きみと何でもないおしゃべりをするだけで幸せだった。だから、だから――」
 二宮はそこで一旦口を閉じ、本当に幸福そうな笑みを浮かべていった。

「ああ、でも、ほんと――気持ち悪いね、石動くん」

「――っ!」
 震える声で二宮がそういったとき、石動は無我夢中で彼女を引き寄せ、力一杯抱きしめた。二宮も抵抗することなく、なすがままに石動の腕の中におさまる。
 冷たい。これが人肌の温度かと疑ったほどに、二宮の体は冷えきっていた。石動は歯を噛みしめた。悔しかった。何もできない自分の無力さが憎かった。
 二宮の後ろ頭に手を添えて、その耳元ではげますように石動はいった。
「もういい。もういいんだ、二宮。俺が悪かった。俺がバカだったんだ。お前がこんなに苦しんでいるなんて、お前をこんなに苦しめていたなんて、気づきもしなかった……本当に、ごめん」
 二宮はか細い声で小さく笑った。
「ふふ、変なの。どうして泣いてるの、石動くん?」
 石動は驚いた。そういわれて初めて、自分も泣いていることに気づいた。石動は腕に力をこめた。
「ごめん、二宮。ごめん」
「痛いよ、石動くん……それに、なんで、石動くんが、あやま、る――」
 二宮の声がだんだんと小さくなっていった。もともと弱っていた体からさらに力が抜けていく。かくんと首が下がる。
「二宮? 二宮っ!」
 石動は声をかけたが、返事はなかった。背中を叩いたり、体をゆすってみるが、まるで糸の切れた人形のように二宮は動かなかった。
「ちくしょう……ちくしょうッ!!」
 石動の絶叫が旧校舎にこだました。しかし、それはすぐに雨音にかき消され、誰にも聞こえなくなった。



 数日後、石動は市内の病院にいた。目の前には白い扉があり、「二宮水澄」の名札がかかっている。
 石動は一つ咳払いをしてから扉をノックした。すぐに「どうぞー」と聞き覚えのある声が返ってくる。
 引き戸を開けると、そこは小さな個室だった。奥のベッドには二宮が半身を起こしている。その手前に見知らぬ女性がパイプ椅子に座っていた。その顔立ちから、石動は彼女が二宮の母親だとわかった。
「あ、石動くん。お見舞いに来てくれたの? ありがとう」
 二宮が手をあげて笑いながらいった。母親の方も柔和な笑みで石動に会釈した。優しそうな人だ、と石動は思った。石動は無言で頭を下げた。
「じゃあ、みーちゃん。お母さん、着替えを取りに一旦家に帰るから、また夜に来るわね。何かあったら無理せずすぐに看護士さんにいうのよ?」
「はーい」
 母親はもう一度石動に会釈してからその場を後にした。石動は彼女を見送ってから、二宮に振り返る。
「ここ、いいか」
「どうぞどうぞ。うちの母がお座席をあっためておきましたゆえ」
 冗談めかしていう二宮には何も答えず、石動は椅子に座った。確かにほんのりと熱が残っていた。
 石動は二宮を見た。病院着に身を包んだ二宮に、特に悪いところはないようだった。何もいわずにじっと自分を見ている石動に、二宮は首を傾げていった。
「どうしたの、石動くん?」
「え? ……ああ、いや」
 石動はあらぬ方向を見ながら頭をかいた。そのまま二宮を直視せずにいう。
「その、具合はどうだ」
 二宮は両腕を上げて肘を曲げてみせた。
「うん、この通りすっかり元気だよ。心配しなくても、ただの風邪だから大丈夫。入院だって大事をとってのことだったし、明日には無事退院です。学校には月曜からいく予定」
「そうか」
 石動はほっと肩の力を抜いた。少し頬がゆるんだが、その表情は晴れなかった。石動はぼうっとベッドの上を見ていたが、しばらくして決心したように二宮の方を見て口を開いた。
「なあ、二宮。俺、お前に――」
「ありがとね、石動くん」
 二宮が石動をさえぎっていった。まるで、その先のことばが何だったのかを知っていたかのように。
 機先を制され、二の句がつげない石動に微笑み、二宮は窓の外を見ながらいった。日が傾き、空はきれいなオレンジ色だった。
「石動くんなんだよね、私を保健室まで連れて行ってくれたの。お見舞いに来た担任の先生が教えてくれたよ。背の低い一年生が気を失った私をおんぶしていきなり現れて、帰ろうとしてた保健の先生がびっくりしたって。その子は救急車が来るまでの間、自分もずぶ濡れで寒そうなのに、ずっと私のことを看ててくれたんだって」
 二宮は振り返って石動の方を見たが、石動は何もいわなかった。二宮がいった。
「石動くんは風邪とか大丈夫だった? ちゃんと保健の先生に診てもらった?」
 うつむき、石動はぽつりと返した。
「俺は風邪なんか引かない……バカだからな」
 石動はそういうと、顔を歪めた。そこからせきを切ったように、石動は独り言のようにしゃべり続けた。
「そうだ、俺はバカだ。大バカだったんだ。お前がどんな気持ちであそこにいるのかも知らずに、興味本位でちょっかい出して。お前のことなんかこれっぽっちも考えずに、ただ自分のいいたいことを勝手にいうだけで……迷惑なやつだよな、ほんと」
 二宮は何もいわず、石動を見ている。
「俺、最近本をよく読むんだ。図書館の、哲学とか宗教の棚に置いてあるやつ。難しい本ばっかりだから、正直内容はそこまで理解できてない。なのに、理解したつもりになって、難しいことばをかっこつけでいってみたりするんだ。そんなの、意味ないのにな。二宮の噂を聞いたときも、一人で意気込んでた。『神の存在を信じてるやつなんか、俺が論破してやる!』って。だけど結局、俺は自分の知識を誰かにひけらかしたいだけだったんだ。普通のやつにこんなこといっても、相手にされないだけだからな」
 石動はそういうと、二宮の方を見据え、さっきいえなかったことを口にする。
「俺、お前に謝らないといけない。二宮、本当にすま――」

「ちぇいっ!」

 びす。
 下げかけた頭にいきなりチョップを食らい、石動は二宮を上目でにらんだ。
「……なにするんだ」
「石動くんが謝ろうとするからだよ。そんなのしなくていいの」
 弟を叱る姉のような口ぶりで二宮はいった。石動が口を開こうとすると、手のひらを出してそれを止める。
「いいたいことを勝手にいってたのは私も同じだよ。石動くんの質問に答えるふりをして、私は自分の悩みを話してただけ。だから、私は石動くんに感謝してるんだよ? 誰にも打ち明けられなかったあの気分について話すだけで、私の気持ちはずいぶん楽になってた。理由はどうあれ、石動くんが来てくれたことで、私は本当に救われてたんだよ」
「いや、だけど――」
「それに!」
 石動はなおも食い下がろうとしたが、二宮は強引に重ねていった。
「あの雨の日に、石動くんは私を助けに来てくれたじゃない。誰にも気づかれないような場所にいた私のことを、石動くんだけは見つけてくれた。あのまま屋上に誰も来なかったら、私はもっとひどい病気になってたかもしれない。もしかしたらあの『気分』にたえきれなくなって、自分で死を選んでいたかもしれない。そんな私のところに、石動くんはちゃんと来てくれた。それだけで、十分だよ」
「二宮……」
 そういって笑う二宮の顔は、本当にすがすがしいものだった。石動はしばらくほうけたように二宮を見ていたが、そのことに気づくと、急にそっぽを向いた。無意識のうちに、その笑顔に見蕩れていた。
「な、なら、もういい……これで借りは返したぞ、いいな」
「借り? ……ああ、落ちそうになったときのこと。うん、じゃあ、お互いこれでチャラってことで!」
 もごもごという石動に、二宮は元気に返した。しばらくそのまま沈黙が続く。石動は何か話そうと話題を探すが、口を開いてもことばが続かなかった。二宮の方はさして気にもせず、窓の外を眺めながら鼻歌を歌っている。
 沈黙に耐えられなくなったか、石動が声をかけた。
「に、二宮!」
「ん? なあに?」
「二宮のお母さん、美人だな」
 無理矢理ひねり出した話題がそれだった。
「えへへ。そうでしょ。でもあげないよー。お母さんはお父さんとラブラブなんだから」
「誰もそんなことはいってない!」
 思わず両親ののろけ話をされて、石動は焦っていった。落ち着こうと大きく咳払いをする。そして、頬をかきながら伏し目がちにいった。
「……は、母親似だよな、お前」
「あ、やっぱりそう思う? よくいわれるんだよねー。うちのおばあちゃんなんかたまに間違えるぐらいだもん。電話ごしならともかく、直接『サチコぉ〜』って呼びかけてくるの。いやいやわかるだろっ、みたいな」
 二宮は楽しそうにそう話した。石動は呆然とした様子で固まっている。二宮が首を傾げると、石動は大きなため息をついた。
「……もういい」
「え? なになに?」
 自分の発言に理解が及んでいない二宮を無視して、石動はパイプ椅子から立ち上がった。
「あれ、石動くんもう帰っちゃうの? もっとおしゃべりしようよー」
「ふん、知るか。俺はもう帰る。具合もいいようだし、見舞いの義務は果たしただろ」
 そっけない石動のことばに、二宮は「えー」と文句を垂れた。石動はかばんから薄い紙袋に包まれた何かを取り出すと、ベッドの上に投げた。そして、そそくさと部屋から出て行こうとする。
「あ、ちょ、ちょっと。これ何、石動くん?」
 慌てて二宮が呼び止めると、石動は入り口の前で振り返った。
「差し入れだ」
「差し入れ?」
 二宮が聞き返すと、石動は真面目な顔をしていった。
「哲学の入門書だ。一般向けだし、新書でページ数も多くないからすぐ読めるはずだ。それはお前にやるから、一度目を通してみろ。哲学がお前の問題――あの『気分』について何の役に立つかはわからない。もしかしたら何の意味も持たないかもしれない。それでも、お前はお前の問題に取り組んでいかないといけないはずだ。俺もよくはわからないが、過去にお前のような問題を抱え込んでしまった人間が哲学者の中にはいるんじゃないか。だから、哲学について勉強するのは、お前にとって無駄なことじゃないだろうと俺は思う」
 二宮は紙袋をとって中の本を見た。表紙にはシンプルに「哲学入門」とある。ぱらぱらとめくってみると、親しみやすい文章で、確かに読みやすそうだった。
 二宮は石動を見ていった。
「うん、わかった。読んでみるね。きみのいう通り、私も自分の問題を一から考え直してみなきゃ。ありがとね、石動くん」
「ああ……何かあったらいってくれ。俺も、力になれることがあったら協力するから」
 どことなく恥ずかしそうに石動がいうと、二宮は優しく微笑んでいった。
「もちろん!」
 石動が病室の外に出て扉を閉めようとしたとき、部屋の中では二宮がさっそく本を読みはじめようとしていた。



 石動は屋上にいた。金網ごしに見上げると、空には雲一つない。どこまでも青く澄み渡った空が広がっていた。
 いまいるのは旧校舎ではなかった。生徒に開放されている新校舎の屋上だ。周囲は真新しいフェンスで高く囲われ、質素なベンチがいくつか置いてある。平日の昼時には弁当を食べるために人が集まるが、今日は土曜日だ。午前中で大半の生徒は帰宅している。石動の他には誰もいなかった。
 時計を見ると、すでに一時を回っている。腹が減っていた。だが、約束がある以上、先に食べてしまうわけにもいかない。石動は待った。
「あ、石動くーん」
 しばらくして、後ろから聞き覚えのある声に呼びかけられた。石動は振り向きながら少し不機嫌そうにいった。
「遅いぞ、二宮」
「ごめんごめん。ちょっと夢中になっちゃって」
 そういって、二宮は近くのベンチにかばんを置いた。石動がそちらに歩いていくと、二宮はかばんの中から二つのものを取り出した。一つは弁当、もう一つは――まるで百科事典のように分厚く大きな本だった。
「じゃーん……これ読んでたの。そしたら、いつの間にか時間すぎちゃってて。いやー、おもしろいね、この本」
 なぜか誇らしげな様子で差し出された本の表紙には、「ツァラトゥストゥラはこう語った」とある。石動でも知っている有名な本だ。読んだことはないが。
「いまね、大体三分の一くらい読んだんだけど、読んでてなんか不思議な気分になるね。なんていったらいいのかなぁ、たとえるなら――」
「二宮」
 本を胸に抱えて、つらつらと話をはじめそうだった二宮を制し、石動はいった。
「腹が減った」
「あ、そうだね。ごめんごめん。じゃあ、まずはお弁当食べよう」
 そういっていそいそとベンチに座る。石動もとなりにこしかけ、自分のかばんから弁当を取り出した。
 かわいらしい弁当を食べながら、本の内容について二宮は熱く語った。その話を聞きながら、石動は黙々と弁当を食べる。
 二宮と最初に会ったあの日のように、今日はいい天気だった。違うのは、ここが新校舎で、二宮はもう祈るのをやめたということだ。彼女は最近、哲学に興味を持ったらしく、こんな本を読んだとよく石動のところに報告に来る。もちろん、石動がすすめたのがきっかけだった。
 その行動の変化――祈ることをやめ、哲学書を読みはじめたことの意味は、石動にはまだよくわかっていない。ただ、彼女が自分の問題に正面から向き合おうとしていることだけはわかった。石動もできるかぎり、その手伝いをしようと思っている。自分でも前にも増して真剣にかつ多くの本を読んでいるのも、その一環だった。
 弁当を食べ終えた石動は、二宮の話にときおり相槌を打ったり、質問をしたりする。グラウンドでは、屋外系の部活が練習をはじめようと、気合いの入ったかけ声を叫んでいた。
svaahaa I0z7AdLSAc

2010年12月04日(土)13時31分 公開
■この作品の著作権はsvaahaaさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 四作目。おそらく私が投稿した作品中もっとも小説「らしい」とは思いますが……その分、地力が出たというか。正直いうと消化不良です。もっとおもしろい話にできたんじゃないか、と。妙に長い本作を読んでいただけるだけでも望外の喜びではありますが、もしいただけるなら一言でいいので、どこをどう改善すればいいのか、アドバイスをお願いします。誤字報告から辛口批評まで大歓迎ですので(これは本作に限りませんが)。

 冒頭の引用はイルゼ・ゾマヴィラ編、鬼界彰夫訳『ウィトゲンシュタイン哲学宗教日記』(講談社、二〇〇五、一三一頁)から、本文中の引用は旧約聖書の『詩編』四三編(新共同訳、一九八七、一〇一三頁)から行いました。何か問題等あれば指摘してください。

 モチーフ的にはサルトルの『嘔吐』のパクリだと思います。私自身は読んでいないので、パクリになっているかすら怪しいですが。「哲学」も微妙ですが、「萌え」はないに等しいかなと思っています。大陸系にはまったくうといので(なぜ書いたし)、この点についてもアドバイスをいただければと思っています。

 12月に入って企画がにわかに活気づいてきたような気がします。「哲学的な彼女」企画のさらなる盛り上がりとそれに本作が貢献できることを願いつつ。どうぞよろしくお願いします。


この作品の感想をお寄せください。

2011年01月04日(火)11時02分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 真柴竹門さん、感想ありがとうございます。平易な「嘔吐」解説、感謝します(最初その文章量にびっくりしましたけど)。

>世界観が灰色
 あまり意識してはいなかったのですが、そう感じられましたか。多分、私の青春がそんな色だったからでしょうね――え?

>それこそ哲学的な彼女企画のイラスト
 そういっていただけるのは光栄ですが、私自身はあの子は「伊豆見左近」だと思っているクチです。もし未読であれば「シャッターボタンを全押しにして」を読むことをおすすめします(宣伝ってダメなんですかね?)。

>そこで私なりに「吐き気」とは何かを、私なりの解釈で説明してみたいと思います。〜
 解説ありがとうございました。身体的な嘔吐のメカニズムを比喩的に用いた説明でわかりやすかったです。私自身、すでに「世界なんて所詮は偶然によって出来てるんだ」と心底思っているので、理解がすんなりできました(ちなみに私は「人は幸せになるために生まれてきたんだ!」とか「生まれてきたことには必然的意味がある!」などの思想が「大嫌い」です)。
 ただ、そういわれてみると、私が思い描いていたこととサルトルの意図が同じものなのかが怪しく感じられるようになってきました。サルトルの「嘔吐」が「実存、意味、社会的動物」と「偶然思想の極端化」との「ズレ」に起因するものなのだとすれば、二宮の「気分」は、幸福だと自覚する自分の生活の価値を無化しようとする「存在することへの虚無感」そのものだといえるからです。

>物書き(ですか?)なら、資料確認の能力が必須ではないでしょうか?
 おしかりごもっともです。すべては私の軽々しい無計画さが招いたことですから。サルトルとの違い(の疑惑?)が浮き上がってきたいま、なおさら私は原典に当たる必要があるのでしょう。新訳で読みたいですが……2000円は財布の審議を受けてみないことにはなんとも(汗)。図書館で探すことにします。

 ともあれ、長文での解説お疲れさまでした。改めて感謝します。思わぬ好評に喜びつつ、どうもありがとうございました。

pass
2011年01月03日(月)00時41分 真柴竹門  +40点
はじめまして、真柴竹門です。三箇日の二日目におみくじを引くと吉が出てちょっとハッピーな気分で感想です。
実は十二月初旬に読んだのですが今日になって感想を投稿します。
まず世界観が灰色で、それでも主人公やヒロインが瑞々しいという好対照を感じ、凄く気に入ってます。
二宮の登場シーンが本当に神秘的で抜群です。出だしの掴みがナイスです。大吉レベルです!
それこそ哲学的な彼女企画のイラストに描かれてる赤い瞳と黒髪の女性が祈ってる姿を想像したくらいです(二宮とは外見が違うとわかってますが)。そして実際には、良い意味でちゃんとした常識を持つ普通っ娘で安心しました。
逆に石動の暴走っぷりに驚かされたくらいです(笑)。でも二宮に会いに教室へ行くシーンは、何故か石動に萌え(笑)。勿論二宮のほうがダントツに萌えですが。
そう、本作は萌えがちゃんと出来てます。良いことです。
んで日常描写だけじゃなく、二箇所ほどある哲学シーン(「気持ち悪いのよ」「石動くんは天国とか地獄って信じる?」)もスラスラ読めました。
ラスト直前の二宮が「吐き気」に見舞われ、石動が救出するシーンは圧巻でした。本当にサスペンスフル!
病院や屋上昼飯シーンによるオチはとても温かくて、後味の良い気分で読了しました。

さて、著者は「吐き気」がわからないと、お困りのようですね。
実は二〇一〇年夏頃に「嘔吐」が六十年振りの新訳で発売されました。
その訳者の鈴木道彦が、あとがきで簡単な解説をしてます。
面倒臭がりの私は本編を読まず、ただその解説だけを立ち読みで済ませました(笑)。
でもちゃんとした本のあとがきでの解説ですから、そんなにデタラメなことは書いてないでしょう。
そこで私なりに「吐き気」とは何かを、私なりの解釈で説明してみたいと思います。
優しく説明しようとしたためか、分量が爆発的に多いですが。ではいきます。

まず「吐き気」の根本的な出発点とは何か? それを一言でいえば『偶然思想の極端化』です。
この『偶然思想の極端化』とはどんなものかを知るために、五つほどの例題を味わってみましょう。
一.
svaahaaさんって「祈り屋と衒学者」を読む限り、本当に文章力があります。
きっと才能があるのでしょう。反対に才能がないといい文章は書けません。
しかし才能の有る無しは偶然が決めることですよね?
「努力したからだ!」というのは関係ありません。あなたがいい文章を書けるのはたまたまなのですよ。
(※あくまで例えですよ? 例え)
二.
svaahaaさんの身体があるのは、父親の精子の中のある一つが母親の卵子が受精したからなんです。
けれどもし、たまたま貧弱でダメダメな精子がくっ付いてたらどうなりますか?
下手すれば「ダウン症」とか先天的な病気を持って生まれたことでしょう。つまり健康体の身体を得たのは偶然にすぎません。
三.
悲しいことに、世の中には無差別殺人をする殺人鬼というのは存在します。
けどなぜ、あなたはまだ生きているのですか?
それも偶然、無差別殺人鬼に狙われなかったからです。ラッキーですね。
四.
「哲学的な何か、あと科学とか」サイトの「脳分割問題」を読みましたか?
とりあえず「意識」と「身体」を別々に捕えて下さい。
そして「svaahaaさんの意識」が「日本に存在する、ある一つの身体」に宿ってるのは何故でしょう? 勿論、それも偶然です。
もしかしたら「svaahaaさんの意識」はどこかの貧しい国の子どもの身体に宿り、苦しい日々を送っていた可能性だってあります。
五.
量子力学という物理学の学問があります。
物質ってデーンとそこにちゃんと存在するような気がしますね。でもそれは間違いです。
これも「哲学的な何か〜」の「2重スリット実験」を読んでもらえればわかります。
ミクロの世界だと、ある場所に物質が存在するかしないかは、何と確率論によってしか求められないのです。
つまり、物質の世界にも偶然ってのがあるんですよね。
……どうです? だんだんと「世界なんて所詮は偶然によって出来てるんだ」って気になってきませんか?
そしたらさ、例えば「人は幸せになるために生まれてきたんだ!」とか「生まれてきたことには必然的意味がある!」とか馬鹿馬鹿しく思えてきますよね。
実はサルトルの「嘔吐」は、この立ち位置から当時の啓蒙主義的(?)なエリート達を批判した作品なんだそうです。
予想の遥か斜めを行く所からのヒューマニズム批判に当時の人はビックリしたんじゃないでしょうか、これは私の想像ですが。
次に、じゃあ『偶然思想の極端化』が吐き気とどう繋がってくるんでしょうか?
svaahaaさんは乗り物酔いをしたことありますか? 私は小学校の遠足のバスで、よくゲェーゲェーしました。
乗り物酔いの仕組みってのは、こんな感じだそうです。まず、身体から脳へ「振動で揺れている」という情報が流れます。
しかし一方、目からはバスの中の静止した場景、つまり「動いてないから静止している」という情報も脳へ届けられます。
そして二つの情報を脳内で合致させてみると「ズレ」が生じますよね。この「ズレ」が脳に不快感をもたらし、吐きそうになるんだそうです。
そのことを知った私は『じゃあ乗り物に乗ってる時、目を閉じていれば酔わないんじゃないか?』と気付きました。
効果は的中! 例え眠らずとも、ただ目を閉じてるだけで酔わなくなったのです。
ちなみに、これはあくまで「予防法」にすぎません。ですから酔った後にいくら目を閉じても全く効果なしです。これも私自身が実証済みです。オェー!
はてさて、ちょっと寄り道して『偶然思想の極端化』の射程の広さと破壊力を説明するために「実存、意味、社会的動物」を用いてみましょう。
まず実存から。実存哲学の反対は政治哲学、と考えたら理解が進みやすくなります。
政治哲学はマクロ視点を重要視する哲学、実存哲学はミクロ視点を重要視する哲学、と今は捉えて下さい(つまり本来の意味とは違うってこと)。
もし「社会の平和のために死んでくれ」と頼まれたとして、実存哲学はその場合「いや、重要なのは、いま確かにここにいる自分なんだ! 社会よりも、この自分!」と主張します。
しかし『偶然思想の極端化』は、この実存を踏み潰します。何故なら、ここにいる私は偶然にすぎないからです。
次に意味。例えば前衛芸術ってよくわからないですよね。それこそバケツの絵の具をぶちまけただけのも「芸術」だそうですから。
だけどね。ある芸術家が「うむむ」と悩んでいて、カッと一念発起、バケツを慎重に零しだし、最後に「うむ、よし!」と満足げに頷くのです。
これはこれで確かに表現であり、一応意味はあるんでしょう。
しかしただの一般人が誤って足をぶつけてバケツを零したとしますね。これに意味はあるのでしょうか? 当然、ないです。
宗教的精神でない限り、普通は偶然の出来事に対して「無意味」と捉えます。つまり偶然ってやつには意味がないんです。
最後に社会的動物。人間ってのは社会的な生き物であります。例えば監獄に閉じ込め、食事は与えるけど誰とも話をさせないようにしたとします。
そしたら、大抵の人間は数日か数十日で発狂するそうです。肉体的には問題なくても、精神的に問題が発生するのです。
そして『偶然思想の極端化』は、人を無人島以上の孤独化に追い込みます。
ほら、学校のクラスメートってたまたま同じ教室で授業を受けるだけの存在でしょ? そして親や恋人や夫婦などなども、徹底して考えれば偶然要素が絡んでいることに気付けます。
しかし、ですよ?
人間は苦しいからって、そう簡単に「実存、意味、社会的動物」ってのを捨てられますか? んなの無理ですよね。
このことから主人公のロカンタンは、次のように気付きます。人間は実存的存在であり、意味を求める存在であり、社会的動物である、と。
けれど悲しいかな。彼の心には既に『偶然思想の極端化』が住み着いちゃってます。
一方では「実存、意味、社会的動物」を持ち続けるが、もう一方では『偶然思想の極端化』をも持ち続けます。
この「ズレ」が、嘔吐になるんじゃないでしょうか?

まあ、ここまで長々と説明したが、所詮は解釈にすぎません。だって1・2ページの解説を読んだだけですから、間違ってる可能性が大です。
ですからsvaahaaさん、やっぱりあなた自身で「吐き気」を調べて下さい。物書き(ですか?)なら、資料確認の能力が必須ではないでしょうか?
そして私は私なりに責任を持って「吐き気」解釈をしましたが、多分svaahaaさんには私以上の責任があると思うんですよ。
何故ならあなたは「吐き気」を題材にした作品「祈り屋と衒学者」を書いたのですから。
なのにあなたが「吐き気」をよくわかってないなんて、読者にもsvaahaaさん自身にも悪いことだし、そして「祈り屋と衒学者」という作品が悲しいじゃないですか。
ですからあなたは私以上に「吐き気」を理解する必要があります。別に書き直さなくてもいいです。ただ「吐き気」をちゃんと理解してあげるだけで十分ではないでしょうか。
とはいえあまり心配しなくていいですよ。鈴木版「嘔吐」は読み易い感じでした(勘ですが)。だからsvaahaaさんなら必ず読了できるはずですよ。ファイト!
あ、一応いっときますが、svaahaa版「吐き気」が間違ってたとしても削除しないで下さいね。つーか削除したら私が怒ります(笑)。
「恥を晒したままは嫌だから」との理由は却下ですからね。
何故ならこの「祈り屋と衒学者」はよく出来てる作品だからです。これを削除するほうが恥だ!(笑)。

最後に、点数は四十点を差し上げます。本作が「嘔吐」に興味を抱かせてくれました。
そしてコンクリートのような灰色の世界と、萌える二宮水澄と石動翔太を創出した功労に拍手を送ります。
どうもありがとうございました。

110

pass
2010年12月31日(金)21時28分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 110K1さん、感想ありがとうございます。予期せぬ厳しいおことば感謝します(感想がいただけるとは思わなかったので)。

>作者が消化不良と表するならば、まずは作者が納得するまで自分の中で溶かさねばならないだろう。
 正直、焦っていました。投稿期間のこともありましたし、消化不良であってもとにかく体から出したかったのです(因果応報、相応の「もの」は残りましたが)。助言を求めたのも、「媚を売る」というよりは、やはり私の実力不足を補おうとしたためです。企画の投稿システムの由来上、本企画はライトノベル作法研究所の「鍛錬投稿室」の雰囲気を引き継いでいるように感じられますので。無論、それが企画の趣旨だったかは私にはわかりませんし、消化不良の解決策が「悩み抜く」「自分の感性を磨く」ことでしかないこともおっしゃる通りです。今後、大いに懊悩・研磨していこうと思います。

>テーマに対して真剣に成り切れないのは作者の甘えだ。
 そうですね。レスにテーマを掲げたこと自体が「甘え」でした。ついつい甘えの出てしまう若輩ですが、こうして「お叱り」もいただけたので、甘えた甲斐があったと思います。

>読者の声に怯んで次の作品が書けない、などと言わないで貰いたい。
 いえいえ、ご心配なく(笑)。この企画最大の教訓は「厳しい意見ほど自分にとって実りあるものだ」ですから。実際に体験しないとその大切さはわかりませんね。貴重な経験をさせていただきました。いまではむしろ以前より意欲が湧いているぐらいですよ。

>この作品の纏う雰囲気自体は私の好みだからだ。
 いつまでこの雰囲気が書けるかはわかりませんが、ね。もしあるのなら、あの作者さんの「片鱗」を使って今後も描いていきたいと思います。

 態度変更および忌憚のないご意見助かりました。今後どこかで110K1さんのような感性の方に気に入ってもらえるような作品が書けることを目指しつつ、どうもありがとうございました。

pass
2010年12月30日(木)20時39分 110K1 KI8qrx8iDI
 今まで傍観者として沈黙を守ってきた。しかし、ついに耐えかねて不本意ながらも書き込むことにした。読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて感想を送る。

 作者が消化不良と表するならば、まずは作者が納得するまで自分の中で溶かさねばならないだろう。六十五枚という枚数を費やしてもなお作者が解かせないのであれば、百枚でも二百枚でも、自身が納得するまで書くか、自身の心の靄が消えるまで自問自答するしかないのではないだろうか。
 それをせずに読者に助言を請うたところで、話が進展するとは私には到底思えないのだが。無論、貴殿が読者の求めるものを与えたい、という意気込みは買うが、ただ読者に媚を売るのであれば、そんなことはせずに自分の感性を磨いた方が良いと思う。

 少なくとも、前作までの作風とは大きく異なった本作を書いたからには、作者は自分の作品に対して徹底的にならねばならなかったのではないか。舵を切ったからには、前作の読者に怒りを抱かせるくらい考え込まねばならなかったのではないかと私は思う。「動機を持つ者と、持たない者」を作品のテーマに添えるのは作者の自由だが、テーマに対して真剣に成り切れないのは作者の甘えだ。これならば、主題を記すのに全神経を注いで、読者軽視といわれた方がまだ良かった。少なくとも、私にはその方が良かった。

 以上が私のこの作品に対する端的な感想だ。しかし、作者にはくれぐれも落ち込んだりしてほしくない。断じて、読者の声に怯んで次の作品が書けない、などと言わないで貰いたい。私は作者の創作意欲を挫くために文字を綴っている訳ではない。
 というのも、この作品の纏う雰囲気自体は私の好みだからだ。むしろ、十代二十代の若年層が怯むくらいの作品を、貴殿には期待していたくらいだ。私はこの企画で小説の「物語性」について、ある作者の感想で滔々と語ってしまったが、貴殿の作品にもその片鱗が宿っていると思う。それは、この企画において多くの作者が蔑ろにしてきたものだ。貴殿にはそれを、どうか大切にして貰いたい。貴殿が思い悩んだ先に、物語を深める要素が眠っているのだから。
 もし貴殿がこの作品を消化したならば、きっとこの作品は私にとって素晴らしいものになっただろう。それを思うと、本当に悔しい限りだ。

 私の主義は、自分の本当に気に入った作品にしか感想を記さないものだったが、終盤に来て態度を改めた。他の作品の感想で貴殿の名前を見た時、何となく共感するところがあったからだ。私が評価する作品を評価する貴殿は、私と感性が合うのではないか。それ故、読者として忌憚のない感想を記したのだと思って頂きたい。

 この企画でなくても良い。いつか貴殿の心の靄が、そして消化不良が解消することを切に願う。
123

pass
2010年12月27日(月)17時16分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 〓〓〓さん、感想ありがとうございます。こうして皆さんから具体的な指摘がもらえるとやはりうれしく、かつ悔しいですね。もう少しおもしろくできたのではなかろうか、と(詮ないことですが)。以下、長文注意です。

>二宮さんの苦しみが抽象的で自己投影し易いと思いますし、
 それはまったくの計算外でした(汗)。「吐き気」の扱いはいまだにどうすべきだったのか、わかりません。現象としてのリアリティを追求して詳細な描写をすべきだったのか、むしろ何で悩んでいるのかわからないぐらいの方がよかったのか。今後の宿題ですね、これは。

>自力で解決する具体的な方法を示しているのが良いです。
 自力で、というのは書いているときにぼんやりとは意識していました。野々宮真司さんのおっしゃるように、石動を「救い役」として機能させるとしても、それはやっぱり「きっかけ」でしかないと思います。こういう問題は自分で何とかしなければならないでしょうし、下手をすると一生つきあっていかなければならないかもしれませんから(楽観すれば「思春期の悩み」として過去のものになる可能性もあるでしょうけど)。

>サポートする哲友がいるのは小説ならではの夢ですね。
 むしろ私の夢です(笑)。いわゆる一つのハッピーエンドかと思います。

>石動(いするぎ)くんは名前の読みが難しかったです。
 すいません(汗)。本作を読んでくれた姉も同じことをいっていました。ちなみに二宮の下の名前は水澄(みすみ)です。本筋には関係ありませんが、一応補足ということで。
 石動の身体的特徴は正直深くは考えてません。おっしゃる通り、「ちびっこ」の方が生意気さが出るかなと思ったぐらいでして。これが意識して書けるなら万々歳ですよ、ええ。

>病院で二宮さんのお母さんと顔を合わせるシーンは物足りない印象を受けました。
 なるほど。母親との会話を伸ばすか、妹でも出した方がよかったでしょうか。一応、端から見れば何の問題もない、というのが「吐き気」のミソだと思っているのですが、それを強調するためにも描写を増やした方がいいのでしょうね。何だか皆さんのご指摘を取り入れていくと、枚数制限に引っかかってしまいそうです。逆にいえば、現状では無駄が多いのでしょう。必要十分な量に圧縮して書く――難しそうだ……。精進します。

>作品世界に多元的な広がりを感じます。全体に地の文章が中庸で好感が持てました。
 前半はやはり何の計算もないです(爆)。後半については少し意識していました。これは私の哲学的な動機から生じた意図なので、文学的な意義・効果についてはよくわからないのですが(文学ではとっくの昔に検討・実践済みのテーマ/技巧だと思います)、「内面描写を一切排し、外在的な描写のみで心理を表現する」ということを実践してみようとした結果です(成否は「いわずもがな」だと思いますが!)。これは今後も考察・実践していきたい課題です。

>最終作、出さないですか?
 ……そういわれると、出したくなります。とはいえその実完成すらしていないので、出さないというよりは出せない、時間的に間に合わないのだとお考えください。それに加えていまはいろいろと頭の中で益体もない考えが渦を巻いている状態でして……努力してみます。〓〓〓さんに社交辞令以上の意図はないと思いますが、そうであってもそういっていただけて本当に励みになりました。ただ、期待はしないでください(投稿も、内容も!)。

>小説よりも論文や実務文書に向いている
 そうかもしれません。それならそれでデメリットではありませんが……私はもう少しだけ夢を見たいと思います(心底自堕落な夢ですけどね)。

 思いがけず元気をいただきました。読者さんからの感想が持つ力の偉大さを思い知ったところで、どうもありがとうございました。

pass
2010年12月26日(日)23時58分 〓〓〓  +20点
 良かったです。10代の読者の目に触れる場所に置いておきたいと思いました。二宮さんの苦しみが抽象的で自己投影し易いと思いますし、自力で解決する具体的な方法を示しているのが良いです。サポートする哲友がいるのは小説ならではの夢ですね。
 石動(いするぎ)くんは名前の読みが難しかったです。クライマックスの二宮さんの台詞まで適当に読んでいました(汗)。身体感覚の記述は臨場感がありました。息を切らしたり、平衡感覚が今ひとつだったり、プリントが重かったり。虚弱なのかと心配になりましたが、全体を通して読むと未発達な子どもの体の持ち主なのであろうと納得します。本文には「小柄」「背の低い」とありますが、おそらく「1年生にしては小柄」「1年生にしては背の低い」という意味なのでしょう。2年生の教室の描写は彼が少年未満であることを秀逸に表現していたと思います。哲学かぶれのちびっこ勇者が二宮姫を救う物語に萌えます。……あれ?
 病院で二宮さんのお母さんと顔を合わせるシーンは物足りない印象を受けました。というのは、病理の根深さを家族関係から測ろうと思って読むからです。家庭に隠された問題はあるか、程度はどうか。明るく社交的で感じの良さそうな台詞があったら、白くも黒くも解釈できて、面白かったかも知れません。
 ラスト、主人公二人の日常が続き、過去の偉人と書物を通して出会い、グランドの運動部員は彼らの生を生き、作品世界に多元的な広がりを感じます。全体に地の文章が中庸で好感が持てました。

 最終作、出さないですか? 博士と萌え助手の掛け合いが延々続くようなのとか、読みたかったです。たとえば「2次元より平らな世界-ヴィッキー・ライン嬢の幾何学世界遍歴-」みたいのです。(ヴィッキーは2次元どころか、線分です!) しかし、作者様は小説よりも論文や実務文書に向いているかも知れませんね。では、楽しませていただきまして、どうもありがとうございました。

111

pass
2010年12月25日(土)23時27分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 開蔵さん、感想ありがとうございます。久しぶりに企画をのぞいたらエラいことになってますね。最後まで気が抜けないなと思いました。

>石動くんいいですね〜wこの企画で珍しいタイプの男の子で新鮮でした!うん、哲学的なラノベとしてとても楽しい!
 そういっていただけるとありがたいです。いまにして思えば、石動も二宮もう少しキャラを掘り下げるべきだったと思います。

>吐き気に至るのが唐突過ぎる点、吐き気の原因が樹根や会話者やその会話の肉声といった眼前の存在者でない点、
>これらの両点に『嘔吐』との違いが見受けられました。二宮さんの吐き気の原因はなんだったんでしょう。
 詳しい方にそういっていただけると助かります。やはり唐突過ぎるのと原因が不明なのがいただけないんでしょうか。前者は描写不足というか、展開を急ぎすぎたためだと思います。後者については……いろいろ考察していただいて申し訳ないんですが、明確な原因はないんです(爆)。それがないというのも不安の一部だったりするんですが、やはり説得力に欠けますか。存在者や身体を一気に飛び越えて、吐き気が世界そのものに向かっちゃってるんですが。これは私の思考の癖というか勝手な想像なので、リアリティを考えるなら設定を改めるべきかもしれません。

>吐き気と祈りは今後も解釈をたのしまさせてもらいます!
 私のふらついた設定よりも開蔵さんの解釈の方が有意義だと思います。

 告白すると、この話を書いたきっかけは開蔵さんの「火の夜」だったりします。何がどう転んでこんな話になったかはさておき、読了感想に加え、アイディアの源をいただき、どうもありがとうございました。

(開蔵さんには関係ない話で恐縮ですが、いろいろと思うところがあって最終作は出せないかもしれません。誰得情報ですが、この場を借りて報告させていただきます。)

pass
2010年12月25日(土)22時22分 開蔵  +30点
石動くんいいですね〜wこの企画で珍しいタイプの男の子で新鮮でした!うん、哲学的なラノベとしてとても楽しい!

吐き気に至るのが唐突過ぎる点、吐き気の原因が樹根や会話者やその会話の肉声といった眼前の存在者でない点、
これらの両点に『嘔吐』との違いが見受けられました。二宮さんの吐き気の原因はなんだったんでしょう。
眼前の存在者の存在への吐き気でもなく、酔いに蝕まれもせず、言語脱落の世界観でもない。
二宮さんが自分の肉体にはノータッチで、眼の前にいない人々の顔を浮かべてるのもry

『嘔吐』はあくまでもモチーフとのことでしたが、しかし原因とかが気になったのは本当ですのでとりあえず。
吐き気と祈りは今後も解釈をたのしまさせてもらいます!
122

pass
2010年12月19日(日)12時00分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 酉野目さん、感想ありがとうございます。全作感想いただけて本当にうれしいです。

>主人公がうざいです。同族嫌悪に近いです。ああ、私にもこんな頃・・・ぐばぁ
 何か悪い意味で(?)「琴線に触れ」てしまったようで申し訳ないです。「同族嫌悪」と書かれていますが、ぶっちゃけ石動は私の「自己嫌悪」の化身そのもので、まさしくおっしゃる通りなんですね。「うざい」といっていただけたなら、ある意味私の意図したキャラになってくれているんじゃないかと。「哲学すること」の最大の敵って、こういう膨張した虚栄心じゃないかと(自戒を込めて)思っておりまして。野々宮真司さんへのレスで書いた「動機を持つ者と、持たない者」の意味はこれだったりします。
 あんまりこういうことをいうべきじゃないんでしょうけど、まあそこはお目こぼしを。他の作品でもいいまくってますから、いまさらすぎるんですがね(笑)。

>どちらにしろ神は存在も不在も証明できないわけで、
 証明できたとしても存在することにはなりませんしね。小説の中で「私は確かにここにいるんだ!」ってキャラが叫んでるようなものでしょうか? この例え自体には議論の余地がありそうですが、個人的にはああいう存在証明の類に一番いいたいのは「何の存在を証明したの?」ってことです。「存在の証明が存在の事実には直結しない」というさっきの話と同様で、「神と呼んだものの存在が証明できたところで、それが宗教的な対象としての『あの神』と同じだといえるのか」って思うんですよね。証明がその存在を保証するのは最初に与えた「定義」の内容しか持たないものだと思うので。
 まあ、以上は雑談として受け取ってくださいな。

>感情論だけで偉そうに知ったかぶる人が多いのは〜
 ええと。なんだか他人事のようには聞こえないほど耳が痛いです。なるべく自重と自己批判を怠らぬよう気をつけますので勘弁してください(汗)。

>感想よりも愚痴になってしまいましたが、そのような刺激があったと捉えて下さい。
>(しかしどの作品も一定以上の評価を得ているsvaahaaさん・・・)
 読んで何らかの刺激になったというのであればそれだけで十分喜ばしいことです。評価を得ているかはあれですけど、投稿した作品に対してたくさんの感想がもらえたことは確かです。これは本当に幸せなことだと思います。

 後味の悪さについては平謝りするしかありませんが、それでも感想をしてくださったことに感謝します。どうもありがとうございました。


pass
2010年12月18日(土)18時00分 酉野目  +10点
主人公がうざいです。同族嫌悪に近いです。ああ、私にもこんな頃・・・ぐばぁ

 旧時代の哲学は「神の存在」が前提ですが、現代の哲学はことある毎に「神の存在」を否定します。(もちろん双方に例外はあります)
 どちらにしろ神は存在も不在も証明できないわけで、感情論だけで偉そうに知ったかぶる人が多いのは、ネットの世界だけではなさそうです。最近とは言えませんが、本当に目の前の事柄しか考えていない人が多く感じます。何かしら考えた持論があるのなら兎も角、丸々受け売りだったり、何にも考えていないのに意見を誇らしげに、まるでそれが世界の総意であるかのように語る人は何で生きているんでしょうね。ぐちぐち。

 感想よりも愚痴になってしまいましたが、そのような刺激があったと捉えて下さい。
 (しかしどの作品も一定以上の評価を得ているsvaahaaさん・・・)
 
 


 
118

pass
2010年12月05日(日)06時24分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 juthさん、感想ありがとうございます。思いがけない好意的な評価に戸惑っています(汗)。ほめられてうれしくないわけがないんですけどね。

>石動くんの性格が自分とちょっと似てるなぁと思って、羨ましく思ったり。
 ほほう。どの辺りが似てらっしゃるのかな。ちなみに私は自分の話したいことを勝手に話す辺りが自分と似てるかなと思ってます。もちろん、知り合いに対してだけですけど(石動みたいに初対面の人には無理ですよ、当然)。

>哲学の話を聞いてくれる人がいるのは、ホントいいことですよね。
 ほんとそうですよね。私には哲友がおりません(涙)。唯一姉が話を聞いてくれるので、たまに白熱した話なんかすると楽しいです。

>神がいるかどうか、不在の証明、それをどう考えているのか人と話したいと思いました。
 本作は一応「神」をキーワードに話を考えていきました。物語の原案の一つには、神の存在証明的なことについての「おしゃべり」が多くある話もありました(女神が少年に自分の存在を証明しようとするが、ことごとく反論される)。ただ、方向性がまったく変わってしまったというか、いまの流れになった後は、そういうおしゃべりはなるべく押さえようと思いまして。しかし、私もこういう話が大好きなので、他人と話し合いたいという気持ちにはすごく共感します。

 なんか雑談みたいになっちゃいましたけど、これにて。どうもありがとうございました。

pass
2010年12月05日(日)01時08分 juth  +40点
面白かったです。
石動くんの性格が自分とちょっと似てるなぁと思って、羨ましく思ったり。
哲学の話を聞いてくれる人がいるのは、ホントいいことですよね。その点、二宮さんみたいな人が自分の周りにいれば良かったのにと思ったりしました。

神がいるかどうか、不在の証明、それをどう考えているのか人と話したいと思いました。

128

pass
2010年12月04日(土)22時26分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 野々宮真司さん、感想ありがとうございます。投稿してすぐ感想がもらえるのは、やはりうれしいというか、安心しますね。

>この短期間に四作もの小説を次々に投稿するエネルギーにまずは感服します(笑)。
 いやまあ、「能力」というよりも「暇人」だというのが真相だと思います(汗)。そのエネルギーは何というか、この企画が引き出してくれたものなんですよね。最近物を書いてなかったんですけど、この企画に参加してからまた書く意欲が湧いて来たんです。「哲女」企画さまさまですよ、ええ。感謝感謝です。

>物語の基本は「誰かが誰かを助けること」だと私は思ってるんですが、
 なるほど。まったく意識しておりませんでした(爆)。今度から物語を考えるときの参考にさせていただきます。

>一番気になったのは「石動が神を否定しようとする動機」が明確に描かれていなかったことです。
>「石動は過去に辛い出来事を経験した時、神に祈ったけれども叶えられなかった」という内容のエピソードを付け加えれば、それだけでぐっと物語の完成度が上がるはずです。
 これを読んだときに正直ドキっとしました。なにせこの部分は最初に悩んだ問題であり、ご指摘いただいた内容そのままのエピソードが当初の予定では組み込まれるはずだったからです。原案としてあった石動の背景は「神を信じていた妹が難病にかかり、妹は最期のときまで祈りを捧げていたが、結局助からなかった」というものです。元々病院のシーンでは石動がその過去を語り、二宮に妹の死と神の関係について別の解釈を提示されるという流れがありました。
 じゃあなぜごっそり削ってしまったのかというと……自分なりのテーマとして「動機を持つ者と、持たない者」というのがあったからなんです。石動がただの哲学かぶれになったのも、一応意図したものでした。とはいえ、これはただのいいわけで、こっち方面で物語を掘り下げているかというと、そんなことは全然ない。この部分で完全にブレています。なので、ここは素直にご指摘通り、上述のエピソードを挿入すべきだったんでしょう。何を血迷ったんでしょうね、私は(汗)。

 的確かつ平易な批評をいただき、大変参考になりました。ご指摘を肝に銘じつつ、今後もがんばっていきたいと思います。どうもありがとうございました。

pass
2010年12月04日(土)21時51分 svaahaa I0z7AdLSAc 作者レス
 ルトさん、感想ありがとうございます。いつも感想していただいて感謝の念で一杯です。

>読後感は、なんというか、もやっとしました。
 いっそ投げて、あのボール。実は書いた私も「もやっと」してたりします。違う意味でですけど。読者さんにそういう読後感を与えるのはまずいですよね。問題提起としてそれを狙ったのならともかく、お話でそうさせちゃダメだよ、自分。

>感情移入していたのが離れてしまった、という感じ。前後不覚に陥るほどの重症というのは、これは、なんとも。
 あちゃー、って感じですね(汗)。単純に「やりすぎ」ということでしょうか。なんというか、無理矢理山場として成立させるために過剰に演出してしまったのかもしれません。よく考えてみれば、こういう感覚が身体に異常をきたすほど強く現れうるかといわれると、やっぱり違う気がします。ぼんやりと頭に浮かんで来たものを突き詰めて考えていくと、ある瞬間はっと気づく――そういう性質のもののように思えて来ました。うん、見事な失敗ですね(笑)。

>流れ自体は王道を外れるものではなく、安心して見ていられ、期待通りニヨニヨできる終わり方でした(?
 そういっていただけると。ニヨニヨしていただいて何よりです。流れが王道な分、上述の件が浮いてしまったのかもしれませんね。

>キャラのほうは好感でした。
>特に空回りしっぱなしの石動くんが、不器用に好意を示したりぶっきらぼうに優しさを見せるところに萌えました。……あれ?
 いやー、さすがルトさん、お目が高い。実際、何となくそういう面を意図して書いた……記憶があるないような(汗)。いずれにしても、キャラを気に入っていただけたなら個人的には「御の字」です。

>あまりいい感想ではなかったかもしれません。
 いえいえ。貴重なご意見、痛み入ります。おことば通り、今後のはげみとさせていただきます。

 全作くまなく感想をいただき、大変うれしいかぎりです。企画も残りわずか(?)ですが、お互いがんばっていきましょう。どうもありがとうございました。

pass
2010年12月04日(土)21時30分 野々宮真司 H4HIQlHxIA +20点
 svaahaaさん、初めまして。野々宮と申します。
 この短期間に四作もの小説を次々に投稿するエネルギーにまずは感服します(笑)。速く沢山書く能力というのは小説家にとってもっとも重要な能力の一つだと思いますので、素直に羨ましい。
 で、肝心の内容についてですが、まずは良かった点。キャラの数をしぼって石動と二宮の関係に徹底的に焦点を当てている点はブレがなくていいと思います。物語の基本は「誰かが誰かを助けること」だと私は思ってるんですが、本作は「石動が二宮を助ける物語」として一本筋が通っているので、長くても最後まで読ませる力を持っています。基本はきっちり押さえられていますね。
 次に良くなかった点ですが、一番気になったのは「石動が神を否定しようとする動機」が明確に描かれていなかったことです。単に哲学にかぶれたというだけでは動機として弱い。そのせいで、石動君のキャラが薄っぺらくなってしまっています。石動というキャラを強化し、物語の強度を高めるためには、彼が神を否定したがる具体的な動機が絶対必要だと思います。
 たとえば、「石動は過去に辛い出来事を経験した時、神に祈ったけれども叶えられなかった」という内容のエピソードを付け加えれば、それだけでぐっと物語の完成度が上がるはずです。二宮の苦しみは相当深いものがありますから、石動くんの方にも、それに対抗しうるだけの「深み」を与えなくてはいけないわけです。
 基礎的な文章力や生産力はお持ちだと思いますので、あとはキャラの魅力を掘り下げることを心がけていけば、傑作を書き上げることができるのではないでしょうか。応援しております。
109

pass
2010年12月04日(土)20時53分 ルト  +10点
 読み終わった第一印象から自分の感想を読み解いていく私です。読後感は、なんというか、もやっとしました。

 こういう「気分」については、なんとなく共感できる部分もありました。ですが、発作のように湧き起ったものが思っていたものより強すぎて、感情移入していたのが離れてしまった、という感じ。前後不覚に陥るほどの重症というのは、これは、なんとも。
 流れ自体は王道を外れるものではなく、安心して見ていられ、期待通りニヨニヨできる終わり方でした(?

 キャラのほうは好感でした。能天気の影に悩みを持つ二宮さんと、単細胞で真っ直ぐさんな石動くん。特に空回りしっぱなしの石動くんが、不器用に好意を示したりぶっきらぼうに優しさを見せるところに萌えました。……あれ?

 うむむ。あまりいい感想ではなかったかもしれません。参考程度に軽く受け止めて、今後とも頑張ってください。
109

pass
合計 8人 170点


お名前
E-Mail  公開しない公開する
↑作者レスをする場合は、作品投稿時のメールアドレスを入力して下さい。
−− メッセージ −−
作者レス
評価する
 PASSWORD(必須)  トリップ 

<<一覧に戻る || ページ最上部へ
作品の編集・削除
PASSWORD