死の季節
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 冬は死の季節だ。
 凍てつく北風が虫を、木々を、動物を死に追いやり、深い眠りへと誘う。春という新たな季節まで、寒さが大地をあまねく支配する厳しい時だ。
 たとえ、越冬を試みる者がいたとしても、彼らが一瞬でも隙を見せれば、冬は容赦なくその寒さをもって死に至らしめる。
 冷たさに打ち勝つ温もりのないものは、冷えて死ぬ。生きて春を迎えることができない。

 自然の厳しい掟がこの世界にはある。



 塗り斑のない黒い夜に、丸い月がぽつりと浮かんでいた。
 天上の球体だけが、暗く沈んだ世界をほのかに照らしている。その情景を見ると「ああ、またここに来たんだ」と思う。わたしにとって、ここはお馴染みの場所だ。
 足首あたりまで、水に浸かった黒の世界。裸足だというのに、寒くない。もっとも清涼感溢れる冷たさとも無縁の、素気ないものだけど。
 普段の生活とは違い、この世界は喧騒とは無縁だ。がやがやという耳障りな音がしない。しん、と静まり返った空間。静けさは孤独だ。わたしはこの世界でただ一人、静寂を打ち壊す存在となっていた。
 わたしだけ。一人だけ。一人ぼっち。その言葉の心地の良い響きを、味わう様に噛み締める。思わず溜息を零してしまう。闇は怒るだろうか。静けさは、わたしから発せられる雑音を不快に思うのだろうか。
 わたしがそんなことを思いながら佇んでいると、視線の先が揺らいだ。水面が騒ぎ、水が跳ねる音がぴちゃんぴちゃんと木霊する。蜃気楼の様に覚束ない像がゆっくりと迫ってくる。一歩一歩近付く毎に、その詳細が明らかになる。わたしはその様子を、黙って見守っていた。
 湖面に波紋が幾重にも広がり、幻想的な円を描いていく。わたしだけの孤独な世界が唐突に終わりを告げ、舞台に新たな人物の登場を報せる。
「また会ったね」
 セーラー服に身を包んだ少女が話しかけてくる。顔は黒い影で塗り潰されていて、わたしには一体彼女がどんな容姿をしているのか、さっぱりわからなかった。しかし、その声はひどく落ち着いていて、理知的だった。セーラー服に袖を通す生徒にしては、高低差のあるメリハリのついた身体つきで大人びている。
 わたしは首を傾げた。
 また。
 わたしは、彼女とどこで会っただろうか。
 自分の記憶と、顔を黒に染めた彼女の言葉を照らし合わせた。その声を頼りに、わたしは脳に刻み込まれた誰かの顔を必死に思い出そうとする。
 また会ったね。
 誰の声だろうか。誰の言葉だろうか。わたしは彼女の顔に張りつかせた黒い影を見つめながら思った。

 わたしの知り合いで、誰か死んだだろうか。

 今まで顔を覆っていた影が薄くなった。そこから垣間見えた唇がにっと曲げられ、まるでわたしを嘲笑っているようだった。



「……おはよう」
 瞼を開けると、冷やかな瞳と目が合った。眠りから醒めて、急に現実感を伴う。世界がわたしの眼前まで迫ったような感覚を覚えた。ちょうど今し方、この世界に創造されたような、産み落とされたような気分にわたしは酔った。
「放課後だけど」
 わたしはのろのろと身体を起こした。高校生の体躯に合わなくなってきた机の上で、わたしは突っ伏して惰眠を貪っていたらしい。わたしは反射的に自分の髪に指を通して、寝癖がないか丹念に確認するのを怠らない。羽織ったカーディガンやリボンの皺を弄っていると、「寝起きの人には『おはよう』って言うんだよ」と言われた。
 わたしは彼女に向き直った。わたしを「冷ややかに」見つめるのではなく、その瞳が、あるいは視線自体に冷たさを内包しているような感じ。見る者を震わせ、その背筋を凍らす。月並みな表現で捻りがないと思うけれど、メドゥーサのような眼力を宿した双眸。
 彼女はわたしを見つめると、意味深な笑みを浮かべた。
 旧校舎の自習室には誰もいない。わたしと、目の前で佇んで笑みを向ける彼女を除いて。
 赤い太陽が窓からわたし達を窺っている。そろそろ地平へと沈むけれど大丈夫、と声をかけているようだった。
「きみがうたた寝とは珍しいね」
「……昨日は眠れなかったから」
 わたしは昨夜の出来事を反芻した。闇に沈み、水で浸された空間。そこで出会った顔のわからない少女。わたしがあの世界に、「死者の国」にいる時は、いつだって寝不足だ。夢を見ている、というよりも、睡眠時間を費やして、ここではないどこか、別の世界に旅立っているみたいだ。
 あそこは、夢とはまた別物だ。他に見る夢にはない現実感を伴っているから。今、わたしがこうして存在している世界となんら変わりのない世界の延長線に、あの水浸しの空間があるように思えた。
 わたしはこめかみを漂う睡魔を振り切る様に、首を左右に振った。わたしの今まで染めたことのない黒髪が周囲を泳いだ。
「きみのそういう何気ない仕草、とっても色っぽいよ」
 彼女はそう言うと、自分のゆるく波打つ長い髪を掻き上げた。まるで、わたしにその白い耳を見せつけるように。
「馬鹿言わないで」わたしは言った。女の子に色っぼいだなんて言われても、ちっとも嬉しくない。
「そういう素気ないところも、ボクは好きだよ」
 彼女はそう言うと、ニヤっと笑ってみせる。意地悪そうな笑み。人々は彼女のような笑みを指して「小悪魔的な」だなんて言うのだろうか。わたしはこころの中で深く溜息をついた。
「……そろそろ帰ろうか?」
 わたしが訊くと、彼女は大仰に両手を掲げた。
「もう帰るのかい」
 彼女の答えが返ってきた。そんなの、あんまりだ、というニュアンスをその言葉に込めて。
「きみも意地が悪いな。ボクがこの後、行く当てがなく暇を持て余していることを承知でそんなことを言うんだから」
 彼女は肩を落としながら、その後もぶうぶう小言を吐いている。わたしはそんな彼女を尻目に、机の上に広げた文房具や参考書を鞄の中にしまい始めた。
「わかった、謝るよ。きみの気分を害するつもりはなかったんだ」彼女は先程までの笑みを消して、真面目な口調で言った。
「だから、もう少し親睦を深めよう。なにか希望があるのであれば遠慮なく言ってくれ。ボクは精一杯、誠意を持ってきみの期待に応えるから」
「別に。そんなんじゃないよ」
 わたしは電子辞書をケースに収めると、鞄の中に放り込んだ。
「ただ、今日は寝不足だから。早めに帰るだけ」
 鞄のジッパーを引き上げるわたしの手を、彼女は掴んだ。
 わたしは、思わず彼女の顔を見た。普段通り、背筋をつんと冷たくさせる、落ち着き過ぎて冷気を発するようになってしまった瞳が、わたしをとらえて離さない。
「じゃあ、ここで眠っていくといい。ここは旧校舎の自習室だから、誰も来やしないし、荷物もボクが見ていてあげるから。きみは好きなだけ眠って、英気を養うといい」
 わたしが反射的に腕を引っ込めようとしても、彼女は手を離そうとしない。
 ひんやりとした感触。わたしよりも細くて長い指。わたしよりも低い体温。わたしよりもずっと白い肌。それはどこか死人を思わせた。生気を欠いた人の形。それがわたしを掴んで放さない。
「わかった」
 わたしは短く応じると、彼女は笑みを浮かべて握っていた手を解いた。
 わたしは手を引っ込めると、今まで彼女に触れていた部分を指でなぞった。そこだけは、彼女と同じようにひんやりとしていて、生きていないような、壊死してしまったような感じがした。

 彼女の名を上嘉瀬右京(かみかぜうきょう)という。
 腰まで伸ばした黒髪はゆるく波打っていて、肌は血が通っていないかのようにどこまでも白い。白さは健康的と評するよりも、病的だ。表皮を漂白剤で浸したかのように色素がない。そのコントラストは美しくもあり、人の手によって作り上げられた人工物のような、作り物めいた印象を見る者に与えた。
 切れ長の瞳はいつも冷ややかで、色っぽく伸びた形のよい眉が高校生らしからぬ艶やかな雰囲気を醸し出している。それはまだ乳臭くて垢抜けない他の同級生よりも、一足早く大人へステップアップした豊かな体躯を見ても明らかだ。腕や足はわたしよりもずっと細いのに、胸はわたしのものよりも一回りは大きい。別に、同級生の胸を見ていちいち殺意を覚えている訳じゃないけれど。それでも、そんな細い脚でそんなに大きい胸を支えられる右京の姿はなんだか釈然としない。
 相貌も理知的に整っていて、学年中の女子と対峙しても一際輝きを放っていた。人込みのなかに佇んでいても、彼女という存在感を埋没させることはできない。
 わたしは、この容姿端麗で博学多才、しかしどこか一般人とはズレている一風変わった友人を持て余していた。
 わたしにとって、右京は同級生の一人でしかないが、彼女にとってのわたしはどうやら「親友」らしい。わたし以外に、特にこれといった友人のいない右京は、わたしを「親友」と言って憚らない。他の人間とはロクに口も利かない癖に、わたしには何故か興味と関心を抱き、さも当然と言った面持ちでわたしの隣にいることもしばしばだ。そして、事あるごとに、隙さえあればこうしてわたしのまわりをつきまとっていた。
 我ながら、変な人に目をつけられたものだと思う。断じて、「類友」ではない。そうであってほしい。

 頬に氷が触れたような気がした。
 眼を開くと、右京がわたしの頬を触っていた。冷えた瞳を輝かせて、白い指を伸ばすとわたしの頬をそっと優しく、なにかを確かめる様にしてなぞっていた。
「なに?」
 わたしは眉を精一杯曲げて、抗議の声を上げた。右京は大げさに肩を縮めて精一杯、ボディランゲージを用いて釈明する。
「いや」
 一言で終わらせるな。全然弁明になってない。わたしは身体を机から引き剥がすと、右京を強く睨んだ。
「眠りが浅い様に見えたけど? もう少し寝ていても大丈夫だけど……」
「いい」
 わたしがぶっきらぼうに言うと、右京はやれやれと溜息を零しながら、腰を上げた。わたしがもう一寝入りしている間に、帰り支度を整えていたのかもしれない。サッと学校指定の鞄を肩にかけた。
「本当に残念だ。きみの可愛い寝顔をもう少し堪能したかった」右京の言葉に、わたしは厳しい視線で応じる。
「はいはい、わかったよ。そう厳しい目でボクを見ないでくれ。じゃあ、帰ろうか?」
 右京は観念した風を装って言った。わたしは頷くと、椅子を引いた。
 浅い眠りのせいか、頭に霧がかかったような不快な気分に、わたしは瞼を閉じた。一度視覚情報を遮断して、自分のこころを整理する。
 右京はくすっと小さく笑った。そして、流れる様な手付きでわたしの髪に指を通した。
「なに?」わたしは瞼を少しだけ持ち上げながら言って、唐突な所作に対して不快感を露わにした。
「いや」
 右京は短く言ってから、唇を曲げた。
「……寝癖がついてたから」
 わたしは思い出したように、先程右京が指を通した部分に手をやった。

「大丈夫かい?」
 桜木町駅のプラットフォームは、平日はみなとみらいにオフィスを置く会社員で、休日は観光客と若い男女、それに加えて家族連れでいつも混雑していた。そして、わたし達もまた、こうしてホームに立つことで濫りに駅を混雑させている。
「なにが?」
 わたしは周囲の喧騒に紛れないよう、声を強めて言った。
「いや」
 彼女はわたしの瞳をじっと見つめる。わたしの瞳をじっくり検分することで、わたしの内に潜むなにかを必死に見極めようとしている様に見えた。
「普段のきみとは違う様な気がしてね。寝不足、ときみは言ったね。確かにそうなのだろう。きみは今日一日、まるっきり集中力を欠いていた。でもね、それは睡眠不足の他に、なにか重大な理由があると、ボクは思うんだ」
 わたしは右京の言葉に、目を丸くした。右京は一風変わっているが、決して愚鈍ではない。そんなことはとうの昔からわかっていたはずなのに、こうして指摘される度に、わたしを驚かせた。
「……重大な理由、って?」
「たとえば、なんらかの出来事がきみの身に生じて、きみのこころをとらえて離さない、とか?」
 等間隔に設置されたスピーカーが、ホームに電車の到来を告げた。くぐもった声が、京浜東北線で人身事故が起こり遅延が発生したことを、それを詫びる旨を、至極淡々とした口調で告げていた。
「別にボクは、無理矢理きみからそれがなにかを訊き出してやろう、とは思わないけれど……」
 右京は進入してきた電車が京浜東北線であることを確認すると、足を進めた。
「……ボクでよければ、精一杯きみの力になるつもりだよ」
 右京はそう言うと、またなにを考えているのかわからない笑みを浮かべた。
「じゃあ、また明日。今日は早めに休むんだよ」
 わたしがなにか右京に告げる前に、彼女はひらひらと手を振るとさっさと電車に乗り込んでしまった。



 あなたは、どこで死ぬだろうか。

 もちろんそんなこと、知る術もない人がほとんどだと思う。
 そこは病院のベッドの上かもしれない。味気ないリノリウムの廊下の上かもしれない。砂利の敷き詰められたレールの上かもしれない。
 あるいは明日、車のバンパーにとらえられてあっさり肋骨を砕かれて、皮の下に収納された臓器をぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、路上に捨てられたその他のゴミのように転がっているかもしれない。呆気なく、なんのドラマもないまま。
 通勤電車が脱線するなんて、ちょっと前までは誰も思ってもみなかったけれど、それは現実に起こってしまった。
 いまや、予測し制御しようとする試みから生まれた至極合理的な都市のなかでさえ、死のバリエーションは豊富にある。豊富な死がわたし達の前に、提示されている。
 ベッドで死ぬとしたら、そのベッドはどこにあるのだろうか。
 廊下で死ぬとしたら、どこの廊下に倒れるのだろうか。
 レールの上で死ぬとしたら、どこのレールの上で挽肉になるのだろうか。
 道路で死ぬとしたら、どの道でぼろぞうきんにされるのだろうか。

 わたしは、それが知りたい。

「……あなたは誰?」
 夢とは明らかに違う、現実感を有する世界にわたしはいた。
 わたしは、自分と対峙している顔無しの少女に問うた。わたしの問いに、少女は笑みを浮かべた。それはどこかで見た様な気がするし、それは単なるデジャブなのかもしれない。顔の大部分を黒く塗り潰された彼女からは、容易にその人相を判別させない。声も、言葉も、その笑みも、わたしの耳に届き、わたしの目がとらえているのに、脳裏に人物像を描けなかった。それは思考にモザイク処理がなされたような気分だった。
「あなたもよく知っている者よ」
 誰かはわたしにそう告げた。わたしは眉を曲げて、次の瞬間には言葉を紡いでいた。
「わたしの知り合いで、死んだ女の子はいないと思うけど」
 名前も知らない彼女は笑った。年頃の女の子らしい、甲高い笑い声。脳髄にきんきんと響き、思わず眉を寄せたくなるような。金属が奏でる不協和音にも似た、不快な音の重なり。
「そうだね」
「死者じゃないのに、ここにいるの?」
 わたしは一歩踏み込んでいた。この世界はわたしだけの世界で、わたしの他には誰もいない世界。暗闇を照らす満月と、暗がりを満たす水面、そして静寂だけの空間。
 その世界に足を踏み入れ、迷い込むことができるのは、死者だけだった。この世界に存在する生命はわたしだけで、それ以外はもうこの世に存在しない亡霊達だけだ。満月も、水面も、静寂も、わたし以外の生者の登場を拒んだ。
「じゃあ、死んでいるけれど、『死んで』いないっていうのかな」
 彼女は笑った。まるで、旧知の友人に話しかけるように。まるで、窮地の友人に話しかけるように。その笑みの意味は、親しみなのだろうか。それとも、嘲りなのだろうか。
「そのうち、あなたにもわかると思うよ」

 揺さ振られている。
 不均等な力が脳を刺激して、様々な情景を脳裏に浮かび上がらせた。それは、旧校舎の自習室に並ぶ机、ホームで別れた右京の意味深な笑顔、「死者の国」で見た顔無しの少女の笑み。
 光が爆ぜた。
「まったく、きみという奴は」
 顔無しの少女の輪郭と、目の前でわたしの肩を揺さぶる右京の姿が重なって見えて、わたしは目を白黒させた。
「きみはボクがいないと、一人で家にも帰れないのか?」
「……右京?」
 わたしが瞬きをすると、電車内のスピーカーが次の停車駅を告げる。東神奈川。わたしが降りなければならない駅の名だ。
「……そんな。どうして?」
「なんだか心配になってね」右京はわたしの寝癖を直しながら言った。
「横浜で降りて、次の電車を待った。桜木町も横浜も、横浜線と京浜東北線は同じホームだろう? 案の定、電車に乗り込んだら泥の様に眠るきみを見つけた。こうして隣に座っていたという訳だ」
 右京はそう言うと、わたしの腕を掴む。ホームに車両が滑り込むと、ドアが両開きに動いた。
 わたしは右京のされるがままに、電車を降りた。力は込められていない。ただ、普段通りの冷たさがあるだけ。わたしは右京の手を振り払うことなく、彼女の先導に従っていた。
 東神奈川の駅を降りると、師走の風がわたし達を出迎えた。凍てつく冷気という手荒い歓迎が、今年も残すところ僅かなのだ、という事実を教えてくれる。
 一日が有する重みを解釈するのは、それぞれの価値尺度に依るだろう。特に若い年代の人間は、二四時間を無為に過ごしがちだ。しかし、わたしのような「死」に敏感な人種は、その重みに想いを馳せるとぞくぞくする。
 今日も一日、生きていられたことを思うと、ほっと安堵する。些細な幸せ、などではない。ウサギが今日も狼に食べられなかった、と胸を撫で下ろす、臆病なものだ。決して、人様に褒められるような慎ましく微笑ましいものじゃない。
 顔を上げると、右京がじっとわたしを見つめていた。
「やはり」
 右京は半ば呆れる様にして言った。
「今日のきみは変だ」



 主義を持たない、という主義。こだわりを持たない、というこだわり。イデオロギーに染まらない、というイデオロギー。
 なにかから自由であろうと思っても、わたしは常になにかに縛られている。捕らわれている。囚われている。わたしは他ならぬ「自由」という概念にとらわれている。選ばされた結果に対する責任を取る様に、常に迫られている。

 いつか、この楔から解き放たれる日が来るのだろうか。

 右京は日の沈んだ寒空の下で、わたしの腕を引いて歩いた。
 空気は触れると肌に切り傷をつけてしまうんじゃないか、と思わせるほど冷たくて、わたし達は白い息を口から吐き出しながら帰路についた。
「立派なお宅だな」
 右京は白い吐息を吐きながら言った。師走の北風を受けて白さに一層の磨きをかけた右京の肌は、美白というよりも、頬に白いペンキを塗ったようになっている。そんな姿に、こころの中を罪悪感が掠めた。わたしは「上がってく?」と訊いた。
 はたして、右京は目を丸くした。彼女が纏っていた冷たい雰囲気が一瞬緩んだような気がした。
「良いのかい?」
 彼女は短くそう言うと、ごほんとわざとらしい咳払いをした。
「いや、普段つれない態度のきみがここまで態度を軟化させるのは、ボクにとって大変喜ばしいことだ。これは絶好の機会だ。金輪際一切ないかもしれない、この千載一遇の好機を逃す理由はないとも思う。けど……」
 右京は髪を軽く掻いた。普段の右京らしからぬ所作に、思わずわたしは噴き出してしまうところだった。
「なんせこれから夕食時だろう。家の方もさぞお忙しいのでは……」
 わたしは右京の言葉を遮って、鍵を解錠し戸を開けた。家主である私を、闇が出迎えてくれた。蛍光灯の灯りも、生活を匂わす音もそこにはない。
「ああ」
 玄関前に置かれた靴が、全てわたしのものであるとわかったようで、右京は頷いた。ああ、そういうことか。右京はわたしが言葉に出す前に、全てを納得してくれたようだった。こういう時、右京の鋭い洞察力はわたしのこころを不用意に刺激しないから、ありがたかった。
「では、お言葉に甘えて上がらせてもらおう」

「感慨深いよ」
 右京はそういうと差し出した珈琲に口をつけた。
「きみがわざわざ淹れてくれた珈琲を飲むことができるなんて。ボクは嬉しくて涙が出そうだ」
 そんな涙見たくない。大体、同級生が出したたかが珈琲に感激して泣かねばならないのか、わたしにはわからない。
 彼女はわたしをどこか「ありがたい」存在のように扱っている節がある。同級生だというのに、変なところでやたらと気を遣う。もっとも、その反動なのか、無頓着なところはとことん、なのだけど。他の女友達のように、巷の流行できゃあきゃあ騒ぐことはないし、学内の下世話な噂話に昼休みを費やすことはない。
 右京のわたしを見る目。それが単なる学友を見る目ではないように感じる。それは右京にとって意識的に行っている態度なのか、それともわたしだけに垣間見せる無意識的な所業なのか、わたしの立場からはわからない。
 まるで、家族の様な。まるで、恋人の様な。まるで、戦友の様な。
「死者の国」
 その言葉が不意に脳裏をよぎったので、思わずわたしは顔を強張らせた。意図していなかったはずの単語の到来に、わたしのこころは大いに揺さぶられた。何故、このタイミングで。わたしは背筋を震わせていた。
「ん」
 右京はわたしの顔を覗き込むようにして、言った。
「きみ、大丈夫か?」
 わたしはその問いにすぐに頷いた。間髪入れずに、何度も何度も頭を上下させていた。そうすることで、大丈夫であろうとしているようだった。
 全然、大丈夫じゃなかった。わたしは、他ならぬわたしの思考回路に戸惑っていた。なんで、急にその言葉が思いついたのか。なんで。どうして。
 ――ボクでよければ、精一杯きみの力になるつもりだよ。
 記憶から蘇った声に、わたしは我に返った。そういうことなのだろうか。わたしだけの世界。わたしが訪れることのできる「死者の国」の存在。
 わたしは右京に、そのことを打ち明けるべきなのだろうか。あるいは、わたしは「死者の国」のことを、誰かに打ち明けたがっているのだろうか。
 わたしは、唇をきゅっと噛んだ。そうすることで、その衝動をぐっと胸の内に押さえ込もうとした。でも、抑え込もうとすればするほど、その言葉はわたしのこころの中で精一杯暴れた。



 わたしはとても怖かった。

 いつか自分が、あるいは他人が死ぬ、ということをいつも胸に抱えて生きなければならないことが。そんなことを意識しなくちゃいけない日が来てしまうことが。そして、その日が来てからの、忘れることのできない胸のどこかで疼く痛みが。
 けれど。ひたひた、と日々の生活のなかに、日常の風景の一枚に、とにかくわたしを取り巻いている世界中のあちこちに、その「足跡」があることを、わたしは敏感に感じ取っていた。
 家族が死んだとき。後輩が自殺したとき。愛犬が死んだとき。
 あのとき感じた匂い。胸をちりちりと焦がすような、胸が苦しくなって、口の中に苦い味が広がる感覚。一度その匂いを嗅ぎ、味わうと、わたしは意識せざるを得なくなる。ずっと身体に、そしてこころにまとわりついているような気色の悪さがあった。
 その匂いを、自然として、日常として生きることができる日がくるのだろうか。それは努力して獲得できるものなのだろうか。そうであるなら、わたしは精一杯努力したいけれど。
 逃れ難い感覚であるならば、せめて特別なものとしてでなく日常としたい。生活というフレームに収めたい。

 多分、ほとんどの人はできているのだろう。わたしはそれを獲得できるだろうか。

「で、年取っても胸が下がらない人の特徴は、適度な運動を心掛ける事と、胸のサイズに合ったブラをつける事なんだって。昨日ラジオで聴いたんだけど」
 牛乳の紙パックを片手にしたり顔で解説する長谷川神奈(はせがわかな)を見つめた。そして、わたしは軽く溜息をついた。彼女を取り巻く女子生徒も笑ったり、相槌を打ったりして和やかそうに見えた。
 昼休み、わたしは近くの座席の女子生徒と昼食の時間を共にする。別に、神奈や他の女子と特段仲が良い訳ではない。ただ、女は極めて社会的な生き物で、こういう場面で問われる協調性に対して無頓着でいられなかっただけだ。
「……それって常識だと思うんだけどな」
「え! そうなの? あたし、今までサイズ測った覚えがないよ。いっつも行き当たりばったり、適当に合いそうなもの買ってたから」
 神奈は丹念に手入れされた短い髪を揺らした。赤い髪留めが蛍光灯の光を受けて輝いた。
「わたしにはそっちの方が凄いと思うけどな」
 大抵の女子はそれで失敗していると思うのだけれど。大体、自分の胸に合ってないサイズのブラはどうにもこうにもしっくりこない。ちょっとした動作の際に、いちいち気になって耐えられなくなる。
「だって、普段からつけてるサイズで買えば基本的に問題ないでしょ? でも、それは普段からつけてるっていう理由で買ってる訳で、それが本当にあたしの身体に合ってるかと言われると、いまいち自信がなくて」
 神奈はそう言って自分の胸元に手を置いたので、私はうんうんと頷いてみせた。
「結局、神奈はブラが云々というよりも……サイズを測ってもらって、自分が本来付けるべきサイズを教えてもらいたいんでしょ?」
「そうそう!」
 わたしは適度に相槌を打ちながら、彼女の胸を眺めた。
 なるほど、劣等感を抱いてもおかしくないくらいの、慎み深さだった。わたしはこころの中で安堵した。神がわたしに与えたものの多さに。少なくともわたしは、胸の大きさで高校時代を悶々と過ごし、昼食時に牛乳の紙パックを握り締めるという苦行からは無縁だった。このことをわたしは、天と天におわします神に感謝しなくてはならないだろう。わたしには、信じる教義も父なる神もいないのだけれど。
 それと同時に、わたしはぼんやりと思い至る。そんなこと、彼女だってわたしに指摘されるまでもなく、わかっているはずだ、と。少なくとも、わたしに指摘される前に、他の女友達にわたしと同様の突っ込みを入れられているはずだ。
 結局のところ、相互のコミュニケーションをしている、という認識を生み出すために行われている会話だ。わたし達はそういうところも喋り合うことができるくらいに、打ち解けていますよ、という相互認識を改めて確認しているだけだ。それ以上の、深い繋がり合いなど、上辺だけでは到底無理だ。
「ハルってさ」
 神奈はそう言うと、ちらりとわたしの様子を窺った。わたしの反応如何によっては、その発言をあっさり翻しそうな感じがぷんぷんする。あ、言い過ぎかも。そう思ったら、すぐに話題を変えられる風見鶏のような節操の無さ。しかし、それは世の中を上手に泳いで行くスキルの高さの裏返しだ。
「結構毒舌だよね」
「そうかな」
 わたしは肩を竦めた。神奈は本当にそう思っているのだろうか。これも上辺だけのやりとりのような気がする。なんと発言しても変わらない、無意味なキャッチボール。空っぽのコミュニケーション。
 周りを取り囲む女の子達は、きゃっきゃと囁き始めた。でも、そうやってわたしもハッキリ言いたいな、みたいなことを言って、「毒舌」と評されたわたしに対する負のイメージを払拭し、粉飾していく。本音で語らない世の中で、あなたみたいにハッキリ物事を言う女の子って必要だよね、そんな意見が次第に輪郭を持って浮かび上がってくる。
 なんだか馬鹿みたいだ。滑稽千万の茶番を、自ら進んで演じているようで吐き気がした。
「上嘉瀬さんって変わったよね」
 そろそろ話を変えようとしていた時、投げかけられた言葉に、神奈の箸の動きがぴたりと止まった。逆に、わたしは思わず顔を上げていた。唐突な話の流れに驚いた訳じゃない。その言葉尻が引っかかったのだ。
 上嘉瀬さんって変わったよね。
 そこは「上嘉瀬さんって変わってるよね」と言うべきところなんじゃないのか。わたしはこころの中でそう呟いていた。
 変わったのか、あの右京が。いつも超然としていて、とらえどころのない笑みを浮かべている上嘉瀬右京が。一体、いつの段階から、どのような変化を経たというのだろう。わたしには、全然想像ができなかった。
「それはほら、三年前に……」
 女友達は、驚くわたしの顔と固まる神奈の顔を見て、言葉を切った。きっと、普段から右京と親しくしているわたしが黙り込んだことに思い至って、空気を読んだのだろう。この場に相応しくない話題だ、と。ここにいない人間の風説をするべきじゃない。まして、わたしの友人かもしれない人物を。
 しかし、わたしが黙りこくっていたのは、そういう意味合いじゃない。むしろ、その話の詳細を、細かいディティールを、克明に把握したかった。
 だけれども、彼女はそそくさと話題を変えてしまい、わたしはその話を問い正す機会を逸してしまった。
 三年前。
 右京の身に一体なにが起きたというのだろう。「三年前」という単語が、わたしのこころの中でずっと浮き沈みを繰り返していた。

「先程のきみ達の話を小耳にはさんで」
 右京は自信たっぷり、といった面持ちで言った。
「長年抱き続けていた難題が、今ようやく解決に至ったよ」
 わたしは思わず身体を強張らせた。同じ教室での会話なのだ。神奈達との話を、上嘉瀬右京当人が耳にしている恐れを、わたしはすぐに至らねばならなかった。
 わたしは唾を飲み下した。三年前、一体なにがあったのか。張本人である右京が解説してくれるとなれば話が早い。
 わたしは、この後打ち明けられるだろう、三年前の出来事に想いを馳せた。右京の次の句を、固唾を飲んで見守っていた。
「ボクの胸が張り出しているのは、適度な運動を心掛けているのと、胸のサイズに合ったブラをつけていた努力の賜物だった訳か」
「いや」
 そうじゃないだろう。というか、それが右京の長年抱いていた難題だったのか。もっと他に相応しく、妥当な難題がこの世には沢山あったはずだ。
「というか」
 右京は姿勢を正した。
「きみは、友人からは『ハル』と呼ばれているのか?」
 わたしはむっ、と口ごもった。
「それは神奈達が言ってるだけ」
 女の子はそういうものだ。格別仲が良くなくたって、親しげに下の名前をもとにした愛称で呼び合ったりする。そうやって、わたし達は仲が良いよね、ということを確認し合って、それを衆目に向かって公開しているのだ。
 実際のところは、多分違うのだろう。神奈にとってわたしは、沢山いる多くの友人の一人だし、それはわたしにとっても同じだ。単なる知り合いの一人で、それ以上の意味合いを持たない。
 代替可能な、誰でも良い存在。たまたまそこにいた、という理由で親しく接している。特に理由のない間柄。
「きみは素で、そんなことをあっさり言ってしまうから素敵だよ」
 右京は眉を上げて、上品な笑みを浮かべた。
「冗談でもきみのことを『ハル』などと呼ばない方がいいな。ボクまできみに軽蔑されてしまいそうだ」
「別に、軽蔑してる訳じゃない」
 ただ、なんとも思っていないだけだ。
「そうだ。難題といえば……」
 右京は何気なく言った。
「最近、どうにも妙な感覚がするんだ」
「なに?」
 わたしは妙にもったいぶった話をする右京に警戒心を露わにした。
「……魂が引っ張られている様な感覚がするんだ」
 わたしは眉を顰めた。
「なに、その右京らしくない言葉?」
 自身の言葉に、彼女を非難する色合いが含まれていたのには我ながら驚いた。普段理路整然としたことを呟いている癖に、その口から「魂」というフレーズが飛び出したこと、それ自体が驚天動地の出来事だった。
「いや、わからない」
 対する右京は、なんだか力の抜けた笑みを浮かべている。悪びれる風もないが、普段の高踏的な態度という訳でもなかった。とても上嘉瀬右京らしくない。
「だいたい、『魂』だなんて。確か、右京は無宗教でしょ? 信じる教義もない無神論者が『魂』だなんて。たとえ肉体が滅びてもなお存在する、こころの機能を有した物体なんて、普段の右京なら『きみね、そんなの非科学的にも程があるよ』の一言であっさり退けてしまうんじゃないの?」
 わたしの言葉に、右京は「うん、そうだね」と言って頷いてみせる。しかし、その動作はどこかぎこちなく、歯切れが悪いように見えた。
 魂が引っ張られている。
 それは一体、どこへだろうか。
 それは「死者の国」へと導かれている、とでも言うのだろうか。わたしのこころのなかでそんな疑念がぐるぐると渦巻いていた。
 顔を削がれた少女の姿と、目の前で平生とは異なる笑みを浮かべる右京の姿が脳裏にぼんやりと浮かび、重なり合った。



 わたしは世界を構成する一員のはずなのに、世界に含まれていないような気がする。

 この世界に違和感を感じている者。どうしてひとと違うことがいけないの、と。この世界はなにかおかしい、なにか変だ。自分がこの世界に違和感を感じていること、居心地の悪さを覚えていること、みんなと同じではないこと、それをみんなが許してくれないこと。世界に居場所がないと感じる人々の一人として、世界に居場所がないと叫び続ける。この世界はなにかおかしい、と叫び続ける。

 わたしは、いつだって一人だ。一人ぼっちだ。

「人間の思考とは、脳の機械的な活動の結果に過ぎない」
 いつもの旧校舎の自習室で、右京は言った。舞台で自分の役を演じ切ってやろうと張り切る女優のように、わたしには見えた。
「他の人は、『自分で自由に思考している』などと思い込んでいるかもしれないけれど、それはただの勘違いだ」
 わたしは眉を寄せた。右京はわたしのリアクションを受けて、言葉を紡いだ。
「それは、脳障害者の事例を見れば明らかだ。思考が脳の物理的な破損により乱される事から、思考が物理的な活動である事がわかると思う」
「その話なら聞いたことがある」
「それは結構なことだ。また、麻薬やアルコール摂取者、あるいは精神病患者の事例でみられるように、思考が薬品等の化学物質により乱されることから、思考が生化学的な活動である、と指摘できる」
 わたしは頷いた。あなたの言っていることを理解している、という意思表示。右京の話に水を差さない程度に、わたしは控え目に相槌を打った。
「これらのことから はっきりしていることは、脳の物理的な構造の変化が思考に直結すると言うこと。つまり、『脳の構造が許す範囲でしか思考が成立しない』ことを意味する訳だ」
 右京は話を続ける。
「自閉症って知ってるかい?」
「いや、そう深くは」
 わたしの答えに、右京は頷いた。
「言葉の発達が遅れたり、人との感情的な交流ができなかったり、ある一定の行動様式や興味の対象が極端に狭い、反復的な行動を繰り返す、といった症状をもたらす病なんだけど。近年の研究によれば、自閉症は生まれつきの脳障害であって、親の育て方や本人の性格とは、一切関係がないことが指摘されている。一昔前は逆に育て方や当人の性格的な面に左右される、って思われていた訳だけど。まぁ、それは置いておいて」
 右京は一旦言葉を区切ると、また口を開いた。
「ここに二つの箱があります。サリーは右の箱Aにリンゴを入れて、外に出かけました。すると、そこに意地悪なアンがやって来てサリーがいない間に、箱Aからリンゴを取り出して隣りの箱Bに移し変えてしまいました。さて、これは『サリーとアンの実験』というんだけれど、これを自閉症の子供に聞かせて『さて、ここで問題です。戻ってきたサリーはリンゴを取り出す時、どちらの箱を開けるでしょう?』と訊ねる訳だ。さて、どう答えると思う?」
「普通に考えて」
 わたしは言った。
「箱Aを探すんじゃないの。サリーは、リンゴが移し変えられたことを知らないんだから」
「でもね、多くの自閉症患者は皆『箱Bを探す』と答えてしまうんだ。実は、自閉症患者の『脳』では他人の視点を想像して、推論する機能がうまく働いていないことが指摘されているんだ。単純に、脳にその機能がないから、それができない」
「……脳にその機能が、ない」
「結局、脳という機械の問題なのさ。プログラミングに不備があるから、正常にエミュレートできないように、そこに『こころ』があるかどうかなんて一切関係がない。むしろ、自閉症を『こころの病』だなんて訳のわからない言葉を持ち出してしまったばっかりに、沢山の誤解と苦しみが生まれてしまった……」
 ごほん。右京はわざとらしく咳払いをした。
「『サリーとアンの実験』で明らかになったのは、ボク達が普段、当たり前で自明で普遍的だと思ってきた『論理的な思考』も実は、『単に脳の機能として発生している』にすぎない、ということなんだ。一見すると、自明であるかのように見える事柄や事実ですら、それを解釈するための機能を持たない人にとっては、まったく意味のわからない話だし、『そんなの当たり前』だなんて思っている人たちだって……」
 右京はわたしをじっと見つめた。
「脳が壊れてしまえば、同じ事柄が一瞬にして理解不可能なものに変わってしまう恐れがある」
 右京は笑った。話の内容に相応しくないくらい、輝いた表情で。
「そう考えると、恐ろしくないか?」
 わたしも笑った。不謹慎だ、と咎められるような笑みを浮かべて。
「ええ。凄く」



 かつて、父とキャッチボールをしたことがあった。

 わたしがまだ幼稚園児か、もしくは小学校低学年のころだったと思う。
 わたしは苛立っていた。
 父はわたしとボールのやりとりをしているはずなのに、「そこ」に父がいないように思えた。こころ、ここにあらず。わたしは父と話し、ボールを投げ合っているというのに、わたしの言葉も、ボールも届いていないように思えた。わたしの放ったボールが弧を描き、ガラス窓を打ち破って、不毛なキャッチボールが終わった。
 それ以降、わたしは父とキャッチボールをしなくなった。それは、わたしが以降父との和解を拒んだ、という事実であり。

 わたしの父が死んで、未来永劫、和解の機会を失ってしまったことを如実に示していた。

「ハル、大丈夫? 顔色が悪いよ」
 隣の席に座る神奈が、わたしの肩を擦った。その小さな手は、わたしを慮って差し出されたものなのだろうか。それとも、他の女子生徒の目を気にして差し出されたものなのだろうか。
 わたしはこめかみを突く定期的な痛みにさらされながら、曖昧に頷いた。
「保健室に行かなくても大丈夫? キツそうなら言ってね」
 わたしは強く頷いた。そんな風に見つめてくれなくてもいい。それが嘘偽りの演技だったら、わたしのこころが傷付くから。神奈はわたしに優しく接するばかりで、それは今のわたしが最も必要としていないものだった。
 完全なる善意がわたしには見えないからか、全ての善意が嘘っぽく見える。本心から願っていない、というよりも打算的な関係は、わたしの目にはひどく汚れて見えた。いっそ、相手の善意を好機と思って、欲深く貪れればよかったのに。相手の優しさにつけ込んで、身ぐるみを剥いでやりたい気分だった。
「……ハル?」
「大丈夫だから」
 大丈夫だ。わたしは自分にそう言い聞かせた。
 そろそろ来ると思っていた。ちょうど二五日から三〇日の周期で訪れるアレのせいで、頭痛がするだけ。わたしは瞼を下ろして、深呼吸をした。そうやって、自分を落ちつけようとする。
 無論、こんなことで下腹部の膨満感や倦怠感が和らぐ訳じゃない。ただ、そうやって少しでも自分の気持ちに折り合いをつけようとしているだけだ。
 痛みと格闘する中で、これもわたしの身体のなかで視床下部の支配を受けて脳下垂体前葉から分泌される各種ホルモンの作用なのか、なんて思った。
 卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンという化学物質によるもの、科学的に言えばなんと味気ないのだろう。もしも、今のわたしの思考を右京が読んだのならば、嬉々としてその詳細を語ってくれるに違いない。
 しかし、きっとわたしの求めているのは、そういうものじゃないんだろうな、なんて思う。わたしは脳や身体の神秘を科学的に解明する試み自体、どこか釈然としなかった。科学の客観視は、生命を酷く軽く取り扱う。そこに生来的に備わった尊厳だとか、崇高さを綺麗にスライスして剥ぎ取って行く。
 脳の意思決定過程が暴かれる毎に、人間の意識が解明される毎に、次第にブラックボックスの黒い部分が取り除かれて行って、脳という器官が非常に精緻に組み上げられた機械のように見えてくる。
 わたしはそこに吐き気を覚えた。たとえ、この身体が両親から受け継いだ遺伝子を元に設計された肉の塊であろうとも、そこに尊厳や崇高さといったものが宿っていて欲しい、と。そう思った。
 しかし。しかしながら、もしそこに尊厳が宿っていたとしたら、この苛立ちは一体なんなのだろうか。隣に座る同級生に対する無遠慮な苛立ちが、脳のホルモンバランスの乱れによる一時的な衝動じゃないとすれば、これもわたしの立派な「思い」なのだろうか。本能や欲求を下の階層に押しやって、自己決定だけを拾い上げて尊いものとして扱おうとする、その決定的な差異は一体なんだというのだ。
 そこに明確な境界があるのだろうか。理性至上主義も甚だしい。わたし達は、そんな素晴らしい存在じゃない。
 ――もっとプリミティブな、単純なルールに忠実な獣のような。
 横で心配そうに見つめる神奈の気配をひしひしと感じながら、わたしは軽く唇を噛んだ。

「ああ、大丈夫だ。言わないでくれ」
 放課後、いつもの自習室で右京と顔を合わせた時、彼女は言った。
「ボクにはわかっているよ。それが……」
 右京は笑みを浮かべた。
「乙女の日であることが」
 何故わかった。わたしは思わず唇を尖らせていた。そして、人に自分の乙女の日を知られると、変な気分に陥るから困る。
「なに、きみの顔を見ればわかるよ」
 したり顔で解説に興じる右京を尻目に、わたしは机の上に突っ伏した。そして、ずきずきと痛むこめかみをそっと擦った。
「きみは、その……量はどのくらいかな?」
「さあ。他の人と比べたことなんかないし」
「一週間くらい続いてるのかな?」
「ええ。ただ、本当に辛いのは最初の二、三日だけだけど」
 別に、生理が、月経が嫌だから女に生まれてくるんじゃなかった、だなんて思わない。その問いは多分、不適当だ。わたしは、痛みに根を上げてこんなことを言っている訳じゃないはずだし、生理痛に悩まされなければこんなことを思わなかったか、と問われれば多分違うから。
 わたしが女として生まれた意味なんて、はたしてあるのだろうか。
 そもそも、わたしが『わたし』として生まれた意味。意味は元来その対象に備わるものではなく、他から見出されるものだとしても、その問いの質はなんら変わらない。それとも、なんの理由もなく、ただそこに「ある」だけなのだろうか。わたしは、理由だとか意義だとか、そういう次元の問題を超越して、ここにいるのだろうか。
 女に生まれて、今までなにか得なことがあったか。いいや、いつだって損をしてる、なんていうと損得勘定で動く功利主義者みたいで嫌だけれど。そこまでわたしのなかで確立した価値尺度が存在する訳じゃないけれど。
「……色々と、思い悩んでいるんだね」
 右京は言った。
「でも、『どうしてわたしが女として生まれたか』という問いは、その問い自身に『なに、それは子どもを産むためさ』とか……。どうしても、子どもや出産にまつわる『答え』をすでに内包しているようで、その受け答えは議論としてはちょっと危険だと、ボクは思うね」
 わたしは右京の言葉にはっとなった。
 それは、わたしのこころのなかで渦巻いていた問いに対する答えでもあり、なぜわたしのこころのなかで渦巻いて疑問がわかったのか、という謎でもあった。
 上嘉瀬右京はわたしに向かって言った。
「なに、きみの顔を見ればわかるよ」



 世界が「寂しく」なってゆくこと。

 世界から様々な要素が抜き取られて、閑散とし、やがて風の音のみが唄う風景がやってくる。
 歴史のグラウンド・ゼロ。世界の墓標。それは、まるでわたしだけがやってこれる世界を、「死者の国」を彷彿とさせた。
 個人の視線から世界の終わりが描かれることの喜びを。
 世界が終わることの安らぎを。
 終わり、という区切りが与えてくれる安心感を。

 わたしは、「寂しい」世界が見たい。

 静寂が全てを包んでいる。
 天上には輝く星々の姿は見えず、ただ丸い月だけがぼんやりと浮いて、「死者の国」を淡い光で照らしている。波打つ湖面が、月の姿を忠実に写しだそうと躍起になっているけれど、わたしが歩くたびに、その輪郭がゆらゆらと揺さ振られて覚束ない。
「また会ったね」
 わたしが振り向くと、背後でセーラー服を着た顔無しが立っていた。黒く塗りつぶされた顔。声も、言葉も、わたしの記憶とは合致しない。
 ただ、顔がなく、声も捉えどころがない。まるでムハンマドだ。偶像崇拝が禁止されたイスラム教は、預言者のムハンマドの顔を直接描かない。そんな知識が唐突に脳裏に浮かび上がった。
 わたしはセーラー服に身を包んだ身体を直視する。大人びた印象を与えるこの体躯だって、単なる虚像かもしれない。本当は、もっと小柄かもしれない。猫背かもしれないし、雄々しい体格なのかもしれない。
 それは塗り潰された顔と同じだ。セーラー服もまた顔を覆う黒い影と同じ意味合いが込められているのかもしれない。意味なんてない、という意味。外見の些細な差異なんて無意味、無価値、という意味が。
 わたしはすんすん、と鼻を鳴らした。それはなんだか犬みたいで、人前では決して出さない様に気をつけている癖なのだけれど。鼻は正直だった。目の前に佇む少女の周りに漂う空気を、匂いを敏感に嗅ぎ取っていた。
 彼女が纏っている雰囲気から香る、死の匂い。わたしの胸の隅に陣取って、わたしのこころのなかで、精一杯暴れようとするなにかが喜ぶ匂い。口に広がる、珈琲よりも苦々しくて、生々しい死の味。粘着質な黒い霧が彼女を中心にして、とぐろを巻いているような感覚にわたしはとらわれていた。
「あなた、死んでるのね」
 わたしは言った。確かめるように。彼女から発せられる死の香りを確かめるように。
「死んでいるけれど、『死んで』いないの」
 彼女は言った。かつて、この場所で、「死者の国」で聴いた、彼女の言葉。
「……『死んで』いない?」
「ねえ、『死ぬ』ってどういうことなのかな」
 彼女はわたしに訊いた。わたしは答えを発する代わりに、頭部に広がる塗り潰された黒を見つめた。
 死ぬ。
 それは、ぐちゃぐちゃになることだ。頭蓋骨を粉々に砕かれて、守るべき脳をもみくちゃにされることだ。各々がそれぞれ役割分担をしていた五臓六腑を、その境界線が曖昧になるまで混ぜ込むことだ。表皮の下に広がる筋肉や血管や脂肪や骨、それぞれがそれぞれの意味をなさないまで、線をぼかす作業だ。
「――それは」
 彼女はわたしに訊いた。
「あなたのお父さんのこと? それとも、あなたのお母さんのこと? そうじゃなかったら、あなたの妹さんのこと? あるいは――」
 彼女はわたしに訊いた。
「ひょっとして、あなたのこと?」
 わたしは、彼女の問いに笑った。
 笑ってしまった。笑いを堪えようと我慢したのに、わたしは耐えられなかった。自分で聴いていて、自己嫌悪に陥る様な甲高い声で、わたしは笑った。癪に障る高音域で、そこらじゅうで壊れた歓声奇声を上げる女みたいに。
「死者の国」、生者の進入を許さない、死の世界。
 その世界に足を踏み入れることができる、わたしという存在。

 実はね、あなたはとっくのとうに亡くなっているの。
 驚いたでしょ? わたしも驚いたわ。でも、考えてみて。「死者の国」なんだから、生きている人間は入れるはずないでしょ。
 なのに、あなたはこの場所に足を踏み入れている。この場所に来ることができる存在を、一体誰が「生者」と言えるの。

 わたしは思わず、天井で輝く満月を見上げていた。
 黒く塗りつぶされたセーラー服の少女は、冷えた笑みを顔に張りつかせていた。わたしに微笑むように。わたしを嘲るように。

「わたしは『あなた』だったのよ」

 視界が開けて、白色がわたしの目に向かって飛び込んでくる。
 眩しい。それが保健室の天井で輝く蛍光灯が発する眩い灯だと気付くのに、時間を有した。
「良かった。ハル」
 声がする方に顔を向けると、神奈がわたしの右手をしっかりと握り締め、ベッドの隅に齧りつく様にして座っていた。その姿はまるでリスみたいで可愛らしかった。
「……生きてる?」
 わたしは呟いていた。わたしは生きているのだろうか。わたしは、「本当に」生きているのだろうか。
「うん」
 右手が締め上げられて、痛かった。わたしよりも小さくて短い指なのに、神奈の握る手は万力のように力強かった。正直なところ、わたしはかなり驚いていた。小柄な神奈の力強い握力もそうだし、くりっと大きな瞳に大粒の涙を浮かべているところも、意外だった。
 わたしは、この娘を単なる同級生の一人としか見なしていなかった。こんなに力強く相手の手を握り、瞳を潤ませるような間柄じゃない。そんな風に思っていた。それは、わたしの錯覚だったのだろうか。被害妄想だったのだろうか。
 神奈はわたしの無事を確認して手を離すと、ハンカチを片手に声を荒げた。わんわんと泣くものだから、わたしの方が逆に動転してしまった。
 わたしは、心底困り切ってしまい、苦し紛れに神奈の髪をくしゃくしゃ触った。神奈がハンカチから顔を上げ、わたしを見上げるようにした時、不意に懐かしい感覚に陥った。
 そういえば、かつてわたしには妹という存在が確かに近くにいて、こうして泣いている時、わたしは困り果てて妹の髪を撫でたことがあったな、と。
 神奈の濡れた瞳と、かつての妹の幼い顔の輪郭が重なって、わたしも知らぬ間に涙を一筋、頬に転がしていた。



 冬は死の季節だ。
 凍てつく北風が虫を、木々を、動物を死に追いやり、深い眠りへと誘う。春という新たな季節まで、寒さが大地をあまねく支配する厳しい時だ。
 たとえ、越冬を試みる者がいたとしても、彼らが一瞬でも隙を見せれば、冬は容赦なくその寒さをもって死に至らしめる。
 冷たさに打ち勝つ温もりのないものは、冷えて死ぬ。生きて春を迎えることができない。

 自然の厳しい掟がこの世界にはある。

「まったく。学校指定のスカートというものほど、馬鹿げたものはないね」
 右京はそう言いながら、白い吐息を吐き出した。
「服装の自由、というものがないと不便だ。こんな寒空の下、女子生徒にスカートを穿くよう強いるなんて狂気の沙汰だよ。ボクは今日ほど、自分が女だったことを後悔した日はないよ」
 かくいう右京はストッキングを穿いて冬の寒さをしのいでいる。わたしは学校指定のハイソックスなので、一二月の寒さに震えねばならなかった。
「でも、スカートの下にジャージを穿くのは格好悪いし」
「きみもそう思うかい? 同感だよ、あれはないな」
 歩くたびに端が見境なく揺れるマフラーをわたしは弄った。
「しかし、制服にいちいち文句をつけるのであれば……『どうして最初から制服のない、私服登校可能な高校を受験しなかったのか』という問いに対して、わたし達は応答責任があるように思えるな」
「高校受験という人生を左右する局面で服装云々言ってる場合じゃない、とわたしは思うんだけど」
「きみ、それは実に身も蓋もない。『偏差値が高くて、私服登校可能な高校に進学できる頭脳を持ち得なかったわたし達が悪い』と、果たしてなるのだろうか?」
 わたしは手を上げた。改札の向こうに、小柄な神奈の姿が見えた。
「……きみねえ」
 右京は気分を害したようだった。その目付きは普段よりもずっと冷たい。
「第三者の参入を許す様な真似は、正直あまりしてほしくないな。よりにもよって、このボクがいる時に」
「いいじゃない。もっと、こう……寛容に」
 右京は目に見えて不満そうだった。神奈がわたし達に合流するまでの短い間に、小言をぶつぶつとその口から垂れ流していた。そのせいで、右京の周囲には白い湯気が立ち込めて、なんだか雲みたいになっている。
 わたしの横で所在なく寄り添っていた右京を目にして、神奈もまた戸惑っているように思えた。わたしは神奈の顔を見て、不意に思い至ることがあった。
「三年前」という、言葉。三年前、右京の身に一体なにがあったのか。わたしはその問いかけをしなければならない気がしていた。
 そして、もう一つ思い当たるところがあった。あの時、女子生徒達との昼食の際、凍りついた神奈の動き。箸を進める手がぴたりと止まったあの瞬間、話題に上がっていたのは上嘉瀬右京の「三年前」だった。
 わたしは向かってくる神奈の姿を見つめた。わたしと右京を繋ぐ神奈の存在。それはもしかしたら、わたしにとって「失われた環」を埋める発見なのかもしれない。
「でも、うちの制服。凄い可愛いよね」
 神奈は寒気に頬を赤く染めながら言った。先程の会話の要点を神奈に話すと、彼女は無邪気に笑った。
 同級生だと言うのに、年下のような幼さが神奈にはあった。決して、彼女自身が甘えている訳ではないのに、大きな瞳で見上げられると、母性本能がくすぐられているような気がした。
「ある程度偏差値が高くて、駅に近くて、進学率が高くて……」
「……制服が可愛かった、から?」
 ぽつりと、右京は言った。わたしも神奈もその一言に目を丸くして、ぽかんとしていた。
 相互不干渉主義を掲げていたはずの右京の唐突な会話への介入に、わたしも神奈も茫然としていた。
「そ、そう。可愛かったから!」
 一拍遅れて、神奈は声を上ずらせて言った。

「どうしちゃったの、上嘉瀬さん?」
「さあ」
 わたしと神奈は顔を突き合わせていた。当の本人がふらっと教室から姿を消したのを良いことに、わたしは右京の話題を気兼ねなく話すことができた。
 わたしはちらりと教室の出入り口を見た。そして、そこから右京の姿が当分現れそうにないことを頼みに、わたしは神奈に訊いた。
 上嘉瀬右京の身に起きた、三年前の出来事のことを。
「訊いてなかったの?」
「うん」
 神奈は目をぱちくりと瞬かせた。
「そもそも。どうして、神奈が右京のことを知ってる訳?」
「それは……。あたし、中学が上嘉瀬さんと一緒だったから」
 なるほど、そういうことか。わたしは思わず唸りそうになるのを必死に堪えた。
「結構、有名な話なんだけど」
 神奈の顔がくしゃっと歪んだ。わたしはその表情の変化を見逃さなかった。そこに浮かんでいるのは躊躇いだけではないことは容易に見てとれた。
 深い悔い。後悔の念だ。
 わたしが放っている匂いと同じものを、神奈もまた放っているような気がした。
 わたしはそっと、神奈の両肩を抱いた。その挙動に神奈は震えた。わたしの行動からなにかを感じ取ったらしい。その表情が途端に弱々しいものに変わる。
「放課後に訊くから」
 神奈はしばしの間、茫然としていたが強く頷き返してくれた。



 鈍色の雲が横浜ランドマークタワーを取り囲むようにして浮いている。これから激しい雨が降る予感を抱かせる、不吉な連なりだった。太陽も分厚い雲のカーテンに遮られ、横浜という街はどこまでも薄暗い。
 それでも近年再開発が進んだベイエリアは眩い白い輝きを放って、ぼんやりとした影との対決姿勢を崩さない。そのどこまでも明るく照らし出された街並みが醸し出しているのは、死の予感を剥奪された「闇のない世界」故の、逆説的な無気味さだ。
 恐らく、このエリアを救急車が駆け抜けることがあっても、霊柩車は走らないのだろう。人の営みを感じさせない素気なさ。人が生きていることを感じさせない味気なさ。粉飾された、作り物の「闇のない世界」……。
 脱臭された死。胸をちりちりと焦がす胸糞悪さがしない街。胸糞悪いことが不快感の原因なのでは決してない。胸糞悪くならない事が、胸糞悪いのだ。
 濱の街に立つランドマークタワーは、わたしの目には墓標に見えた。そして、周りを取り囲む黒い雲は、まるで葬式に参列する人々の列だ。

「お一人ですか、お嬢さん?」
 立ち入り禁止区域に指定された旧校舎の屋上で声をかけられた。澄んだ声音の持ち主は上嘉瀬右京だった。
「まったく、きみという奴は。『立ち入り禁止』の文字が目に入らなかったのか?」
「それは右京も、でしょ?」
「そうだったね」
 右京はわざとらしく肩を竦めた。
「なんだか、大雨の予感がするね」
 右京は下へ下へとずるずると落ちていく雲を指差して言った。
 海から吹きつける濱風が、右京のゆるく波打った豊かな黒髪を揺らした。唐突な強風に、わたしは思わず髪に手をやった。
 右京の前髪が空を泳ぎ、普段は隠れている額が一瞬だけ、露わになる。日焼け知らずの白い肌を走る、赤い稲妻。その赤はよく見ると深紅ではなく、薄紅色だった。
 わたしは思わず、息を飲んでいた。見てはいけない瞬間を、垣間見たような気がした。あるいは、この傷こそが「失われた環」なのだろうか。「三年前」という言葉に集約された、上嘉瀬右京の身に起きた出来事。
「ああ、これか……」
 右京は照れたような笑みを浮かべて、手で前髪をかいた。せっかく隠れた傷跡を、わたしに見せる様に。さらけ出す様に。
「ボクはね」
 右京は言葉を紡ぎ始めた。
「きみのことを、唯一無二の親友だと思っている。代替不可能な、かけがえのない人だと思っている。一方的な想いできみを戸惑わせていることを承知で言うけれど、きみはボクにとって、とっても大切な存在なんだ。だから……」
 右京は瞼を伏せた。形良く整い、大人びた雰囲気を醸し出す眉を寄せて、苦しげに息を吐いた。
「これだけは、訊かないでくれ」
 わたしは、息を飲んだ。息を飲み込んでしまって、新たに酸素を補給することができなかった。
「これだけは、これだけはボクの口からは語りたくない」
 右京はそれだけを口から捻り出すと、さっと身を翻した。
 わたしは、風に煽られる黒髪になにか言葉をぶつけるべきだったのかもしれない。なにか言葉を発して、去りゆく彼女を引き止めるべきだったのかもしれない。
 だけど、その時のわたしは肝心の言葉が思い当たらずに、ただ唇を噛み締めているだけだった。



 わたしはわきまえている。

 自分がいかなる物語を語ろうとしているのかを。自分がいかなる結末に向かって物語っているのかを。
 そう、物語には終わりがある。最後に、わたし達はそこへ辿り着くことになるだろう。無論、わたしの紡ぎ出す言葉を、途中で聴くのをやめてしまったらそうならないとは思うけれど。
 物語に登場する人物は、結末へ辿り着くことを許される。それは終わりを意味する。句点、あるいはピリオド。
 ともかく、そこで物語は終わる。後はなにも続かない。一頁目から始まっていたものが終わる。終わりの後は、なにもない。記されるべき頁がないからだ。
 そして、そこには記されるべき物語の不在がただ横たわっているだけだ。

 それはとても残酷だけれども、同時に、この上ない幸福でもあるはずだ。

「失われた環」
 すっかり馴染みの「死者の国」で、黒い影で顔を覆った少女は言った。
「素敵な言葉ね」
 その口元もまた黒一色に塗りつぶされていて、一体彼女がどんな表情を浮かべているのか、わたしには皆目見当がつかない。というのに、わたしは彼女が笑っている、と信じて疑わなかった。きっと、唇を曲げて笑いかけているはずだ。
「もう少しだよ」
 彼女は言う。初めて出会った時と同様、誰の声とも似ていない声音でわたしに話しかけてくる。
「その時を楽しみにしてるから」
 足首まで浸かっていた水面が波打った。「死者の国」の終わりを告げる合図。わたしはまた、生者の世界に戻らねばならないことを告げる報せ。
 闇がセーラー服の姿を黒に染め上げ、彼女と暗闇の境は曖昧模糊となって消えていった。存在が溶け出し、無に帰すように。個という枠組みが消えて、全てが一つになったかのように。

 すんすん、と。
 わたしは鼻を鳴らしていた。横浜を駆け巡る風のなかから死の匂いを探り当てようと、わたしは目を閉じて風を追っていた。
 わたしが生きて鼻を鳴らしている今も、どこかで誰かが死んでいる。現在進行形で、死に瀕している。顔も知らない誰か。彼もしくは彼女が死んでも、それでも世界はなに食わぬ顔をして回り続ける。
 地球はリアリストだ。その大地に多くの血を沁み渡らせ、多くの屍を内包しながら、それでも澄ました顔をしてまわっている。
 わたし達は、どこへ向かっているのだろう。なんの理由も説明されることなく、この世界に産み落とされたわたし。わたし達は、どこから来て、これからどこへ向かって歩けば良いのだろう。
 地球も、風も、誰も教えてくれない。ただ、どこかで誰かが死んだ、という腐臭だけはしっかりとわたしに届けてくれる。名も知らぬ誰かの死亡診断証明書。
 背後で金属音が響き渡った。誰かが立ち入り禁止の屋上へ踏み入ったことを知らせる音に、わたしは振り返った。
「ハル。やっぱり、ここにいたんだ」
 神奈は華奢な背を精一杯小さくしているように見えた。きっと、彼女なりの覚悟の現れなのだろう。これから告げねばならない事実に、己が潰されないように。
「話すよ。三年前のこと」
 神奈は重たい口を開いた。



 わたしの人生は、人の死の物語じゃない。人が死ぬ風景についての物語だ。

 それは父が死んだ風景であり、母が死んだ風景であり、妹が死んだ風景であり、後輩が自殺した風景であり、愛犬が死んだ風景だ。
 誰かが死んで、いなくなった後の風景だ。終わりとしての「死」の後。句点あるいはピリオドの後ろに続く文章だ。終章が終わった後の、作者の後書きだ。
 死者は、人生が終わればそれで終わりだ。
 しかし、生者には余白が残されている。短いか長いか、それはともかく、綴ることができる空き地が続く限り、その物語は続く。筆を置かない限り、紡がれる人生という物語だ。
 わたしが死者の国で出会った彼女。顔を黒インクで塗り潰された少女。

 彼女が『死んだ』風景が、わたしの物語に、わたしの人生に、わたしの余白に記されることになるだろう。

 わたしは神奈との話を終えた後、「紆余曲折」を経て家に帰ってくると、ソファに身体を預けた。
 ただいま、と言わなくなってどれくらいの月日が経っただろうか。上嘉瀬右京にとって、「三年前」がターニング・ポイントになったように、わたしにとっても、それと同じような意味合いを持つ言葉が存在する。
「死者の国」
 わたし以外の人も、この世界に縁があるのだろうか。他の人はどうなのだろうか。
 わたしはふう、と短い溜息をついた。

 右京の額に走る薄紅色の稲妻。長谷川神奈。「死者の国」、「三年前」
 真実というものは、正体がわからないから魅力的なのだ。知らないからこそ楽しめる。心躍らせることができる。恐怖を噛み締めることができる。
 知ってしまえば、なんのことはない。そういうことがあった、それだけだ。それだけの話だ。身も蓋もないことだ。
 しかし、そんな単純な事実が、今もなお右京と神奈を呪縛する。とらえて離さない。因果関係で捉えようとしてしまう。わたしのせいだ、と。
 神奈は赤い髪留めを外すと前髪を掻き分けた。普段は髪に隠れて見えない額に走った、古い傷。右京のものとよく似た、赤い稲妻。
「前にも言ったよね。わたしと上嘉瀬さん、同じ学校で同級生だったの。その時はウッちゃん、って呼んでたんだけど……」
 神奈は絞り出す様にして言った。
「三年前。あの日も、今日みたいに風の強い日だった。校舎を囲っていた鉄パイプの足場が、突風にあおられて崩れたの」
 わたしは目を伏せた。
 なんとなく、そんな予感はしていた。きっと、真相はこんなものだ、と。
 しかし、この味気ない足場の崩落という一コマが、その後の二人を縛り付ける呪縛になるんだ、と思うと不思議な気分だった。
「走って逃げれば良かったのにね」
 神奈は言った。頭上から雨の様に降り注ぐ鉄パイプを前に、ぎゅっと目を瞑ってしまったこと。彼女はその点に関して深くは言わなかったけれど、きっと、鏡であの傷を見る度こう思っているはずだ。
 なんで、あの時、と。どうして、と。
「思っていたよりも痛くなかった。びっくりして、恐る恐る目を開けたら、そこに立ってたの」
 ウッちゃんが。
 わたしは神奈の言葉を頼りに、脳内で映像を作った。わたしはかつての右京を知らないけれど、きっとなにか強く思うところがあったに違いない。少なくとも、神奈の頭が運悪く鉄パイプに当たってかち割れてしまっても致し方ないとは思わなかったはずだ。
 それくらい、当時の右京には他人に対する関心があった。
「そのうちの一本が、ウッちゃんとわたしの頭に当たった。わたしのは、傷になって残ったくらいだけど」
 神奈は言った。傷になって残ったくらい。しかし、その傷が女の子にとって重荷でないはずがない。
「全生活史健忘。知ってる? 記憶喪失って奴。ウッちゃんは、脳の記憶を司る部分を物理的に損傷して……記憶を失ったの」
 神奈を救った代償に。わたしは思わず息を飲んでいた。なんと言えば良いのかわからなかった。
 これだけは、訊かないでくれ。これだけは、これだけはボクの口からは語りたくない。
 右京の言葉が脳裏に浮かんだ。
「記憶喪失、ね」
 わたしは呟いた。フィクションで持てはやされて陳腐化してしまった言葉を、よもやこうして現実の世界で呟く事になろうとは、思わなかった。それも、上嘉瀬右京を語る言葉として使用するなんて、夢にも思っていなかった。
 不思議な気分だった。現実感を伴わない、リアリティの欠如したフィクションの世界に迷い込んでしまったようだった。
 いや、そうじゃない。そんな風に斜に構えるのは違う。
 彼女はかつての自分、かつての『わたし』という脳のモジュール自体を、三年前に失っている恐れ。脳の変化が思考に直接影響を与える右京との会話が脳裏をよぎった。鉄パイプがかつての自分を、『わたし』という意識を殺した。
 だから、だ。だから「死者の国」に迷い込んだのだ。死んでいないけれど『死んで』しまった少女。
 上嘉瀬右京は記憶を失いながらも、多少の性格の変貌が見受けられるも、日々の生活に支障をきたす事なく、『生きて』いる。
 だけれども、わたしは思う。「死者の国」に現れた以上、かつての右京はすでに『死んで』しまっているのではないだろうか。生者厳禁の「死者の国」に足を踏み入れられる時点で、他ならぬわたし自身がとっくのとうに死んでいる恐れもあるけれど。
 それよりも、かつての右京が『死に』、今の右京が『生きて』いる説の方が受け入れやすかった。
 これが真実か。わたしは息を吐いた。真実というものはなんて呆気ないのだろう、味気ないのだろう。
 そして、救いようがないのだろう。
 その後の右京と神奈の関係を振り返れば、その後互いが互いを苦しめ合ったことは容易に想像がつく。それはしこりとなって、そして深淵となって二人の間に横たわり、断絶を強いてきたに違いない。
 運命の悪戯か、それとも神の気紛れか。
 そして、二人の間に位置するわたし。ひょんなことから二人を繋いだわたし。わたしは一体、どうすれば良いのだろうか。
 わたしは顔を上げた。
 しかし、誰もその答えを教えてくれなかった。



 空が泣き出した。
 雲がとうとう耐えられなくなって、そのなかに秘めていた水を大地に向かって盛大に放擲しているようだった。大粒の雨が大地に降り注ぎ、無機質なコンクリートやアスファルトに覆われた地表でアテもなく彷徨っている。溝に向かって流れるものもあれば、ところどころにできた小さな窪みに身を寄せ合っているものもある。
 わたしは、旧校舎の屋上で神奈から「三年前」の全容を打ち明けられた後、一人帰路についていた。普段なら京浜東北線を使って家に帰るのに、わたしは傘も差さずに歩道を歩いていた。
 雨は配慮というものを知らない。それ故、わたしはすぐに濡れ鼠になった。羽織ったカーディガンも、リボンも、セーラー服も、ハイソックスだって。髪が濡れて頬に張り付いて、下着がじんわりと冷えると凄い気持ちが悪かった。
 過去の自分との断絶。かつての『わたし』と今の『わたし』との同質性が担保されない異常事態。言葉で記すよりも、ずっと深刻なアイデンティティ・クライシス。
 わたしは天を仰いだ。
 それは右京だけに課された問いでないことに、すでにわたしは気がついていた。それは、わたしに対する問いかけでもあった。「死者の国」を訪れる、招かれざる客。生者でありながら、足を踏み入れることができるわたし。
 わたしは、とっくのとうに『死んで』しまっているんじゃないだろうか。
 ああ、きっと同じだったのだ。鏡に映った自分という虚像。
 まるで、家族の様な。まるで、恋人の様な。まるで、戦友の様な。まるで、鏡像のような。まるで、虚像のような。まるで、『わたし』の様な。
「三年前」に『死んで』しまったかもしれない右京。家族と共に死んでいたはずの、死んでいなければならなかったわたし。
 類は友を呼ぶ、とは違う同質性があるような気がした。あるいは、右京の抱く傷跡と、自分が抱いている傷跡が同じだから互いにその傷を舐め合える、なんてわたしは思っているのだろうか。馬鹿みたいだ。
 海の向こうで稲光が走った。それは、神奈の負った傷みたいで。あるいは、右京が額に持つ稲妻みたいな軌跡を描いていた。
 脳裏に、わたしを見つめる冷たい眼差しが浮かんだ。
 ボクでよければ、精一杯きみの力になるつもりだよ。理知的な面持ちで呟いた彼女の言葉が再現される。桜木町駅のプラットフォーム。別れ際にわたしに投げかけられた言葉。誰もいない家に招いた時、唐突に浮かび上がった「死者の国」というワード。わたしは鈍色の空を見上げた。
 話してもいいのだろうか。でも、誰かに打ち明けたら、みっともなく泣いてしまいそうで。恥も外聞もなく喚き散らしてしまいそうで。
 わたしは自分で自分の肩を抱いた。冷たい雨に耐える様に、吹きつけられる北風から身を守る様に。歯を食いしばって、目をぎゅっと瞑った。
 額を打つ雨粒が止んだ。
 しかし、わたしの周囲では依然として、大粒の雨がアスファルトで舗装された道路を叩いていた。わたしのまわりだけ、雨が止んでしまった。

「……まったく、きみという奴は」

 わたしがゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには右京が立っていて傘を差し出していた。その傘は女の子が持つには大きすぎた。
 右京はわたしの右手を掴むと、腕を引いた。わたしは右京にずるずる引き摺られるようにして歩き出した。懐かしい感触がした。ひんやりとした冷たさを湛えていた右京の手は、今はとても温かい。その温かさは仄かな熱を持っていて、じわじわと、しかし確実に冷えたわたしの身体を温めた。
 右京は、おもむろに口を開いた。
「ボクと神奈は昔、仲が良かった……らしい」
 右京はちらりと後ろを振り返った。澄んだ眼で見つめてきたので、わたしは頷いた。
「額の傷は、そういうことなんだ」
 右京はぽつりと言った。前を向いてしまったので右京がどんな顔をしてその言葉を発したのか、わたしにはわからなかった。そこに浮かんでいたのは苦悶だろうか。悔いだろうか。怒りだろうか。わたしにはわからなかった。
 どこまで考えても想像の域を出ない。伝聞推定から迫る真実は、どこか胡散臭い。身も蓋もなくて容赦がない現実とは違う、粉飾に彩られた想像。
「……自分からは話したくないんじゃなかったの?」
「ああ」
 その声音は晴れ晴れとしていた。激しい天候とは対照的に、平常の右京とは異なる、生き生きとした口調だった。
「……ボクの口からは、言いたくなかった」
 恐らく無意識なのだろう、わたしの腕を握る右京の力が一段と強くなったような気がした。わたしを逃がさない様に。しっかりとらえて離さない。
「そう。三年前のあの日はボクにとって記念すべき日なんだ。ボクという意識が生まれた誕生日。戸籍上の生年月日とは異なる、ボクの本当に生まれた日……」
 右京は笑った。自分の言葉に笑っている様な寂しい笑顔に、わたしのこころは大いに痛んだ。
 わたしは右京を軽んじていたというのに。しかし、そんな意識とは裏腹に、わたしのこころはきゅっと締めつけられるような痛みを訴えていた。
「全生活史健忘。俗に言う、記憶喪失という奴だ。笑ってしまうだろう? 映画やドラマでしか聞いたことのない言葉に驚いてしまって、あの時のボクはただ呆然としていたよ。ボクは自伝的記憶を失った。自分にまつわる歴史の喪失だよ。ボクの人格や性格形成に関わっていた事実を無くしてしまったんだ」
 右京は顔を下げた。ああ、言ってしまった、という後悔がその背中から漂っていた。
 人々の抱く秘密は、他人からすれば、重要度という程度の差はあれ、ただの情報でしかない。しかし、当人にとっては、自分の一部だ。それが人格だとか、コンプレックスだとかを組み上げている。そういう部分部分から成り立っている。
「一年程経った時だったかな。三年は病床の上だと聞かされていたのに、ボクの回復は前人未到でね。お陰ですぐに退院できた。でも、本当に大変だったのはその後だったよ。学校の連中は、明らかにボクを勘違いしていた。ボクの自己認識とは異なる『上嘉瀬右京』を思い描いていた。あれには本当に参ったよ。それに、吐き気がした。それが彼ら彼女らの勘違いじゃなくて、他ならぬボク自身の勘違いだと気がついた時には……吐き気どころじゃなかった」
 自分が描いた自画像と、他人が描いた似顔絵がまったくの別物で、驚いてしまった。右京は言った。
 ゆるく波打った黒髪の下から垣間見えた右京の顔は、どこか寂しげだったのにも関わらず、美しかった。
 滅びの美。朽ちるものが最後に放つ輝きを、彼女もまた発しているように思えた。
「その当時、ボクは軽い記憶混濁がある、くらいにしか思っていなかった。医師達も、実生活に戻ればそのうち思い出す、だから気を落とさないで気長に、なんて言っていたよ。とんでもない勘違いだ」
 右京は立ち止まった。
「きみがボクに対して、ひどく無関心だったことは知っていた。きみがまわりの人間そのものに対して、なんら興味がないことも重々承知だった。ボクは……」
 右京は思わず口走ってしまった、というように唇を手で覆った。
 大き過ぎる傘がアスファルトに転がって、わたし達は土砂降りの洗礼を受けた。わたし達は、雨のカーテンに隔てられながら、雨水に打たれる互いの姿をぼんやりと見つめ合っていた。
 鏡に向かって対峙したわたし。
 わたしと右京は全然違う人間であるはずなのに、その根っこは同じような気がした。
「……きみは、怒るかな?」
 右京はわたしに訊ねた。わたしは、その問いをこころの中で反芻した。普通の人間なら、怒るのだろう。自分を今まで軽んじていたことに対して。
 こういう時、普段のわたしなら怒らないと思う。何故なら、わたしも同類だから。右京がわたしを都合のよい友人だと思っていたように、わたしもまた右京をなんとも思っていなかった。
 だから、そんなことを今更言われたどころで、腹を立てるのは筋違いだ。自分の事を棚に上げて、相手を罵るなんて恥知らずだ。そう思った。そう思っていたはずのに。
 かくっと、膝から力が抜けてしまった。
 わたしは力なく濡れたアスファルトの上に座り込んでしまった。地面にお尻をつけて見上げる右京は、とても大きく見えた。わたしの目指す進路を阻むように立ちはだかっているようだった。
「ごめんよ」
 右京は膝をつくと、地面に転がった傘を拾った。同じ目線になって、改めて冷たい視線と対峙する。
 生まれ持った冷たさを有していた眼差しは、どこか穏やかなようでいて、激しいうねりを感じさせた。冷めた怒りを、青い炎をその瞳の中で燃やしている様だった。
「赦しておくれ」
 右京は腕を広げると、わたしの背に回した。
 あれほど冷たいと感じていた右京の体温は、わたしが思っていたよりもずっと暖かくて。ずっと柔らかくて。

 強張ったこころが弛緩して、解きほぐされた。



「湯加減はどうだい?」
 雨で頭のてっぺんから足の爪先まで濡らしたわたし達は、逃げるように右京の家まで落ち延びた。
 さぞ身体が冷えただろう。右京はそう言うと、わたしに風呂を勧めてくれた。銭湯や温泉といった公でない、私的領域。なのに、わたしの家の風呂場じゃない、不思議な感覚に戸惑った。
 新しくはってくれた湯船に浸かり、身体を芯から温めた。包まれるような優しさ。激しい雨粒じゃない、穏やかさを内包した潤いに、わたしの波立ったこころが落ち着いていくようだった。湯から香る心地良い芳香に、わたしは鼻を鳴らした。右京の発する清々しい香りが、そこにはあった。
 わたしが浴室を後にすると、脱衣所で右京がわたしの着衣を真剣な眼差しで検分していた。
 まじまじと人の下着を高く掲げ、広げているものだから、なんだか見ているわたしの方が恥ずかしくなった。
 わたしがキツい視線を投げかけていると、右京は「いや、違うんだ」と言った。しかし、右京は具体的な言葉でなにがどう違うのか、語らなかった。それでは疑いが晴れない。わたしに見咎められて、背中でわたしのショーツを隠すあたり、下着泥棒みたいに見えた。
「下のコンビニでとりあえず、替えの下着を買ってきたんだ」
「それはありがとう」
「で。サイズが間違ってなかったか、確認しただけだ」
 わたしは礼を言って、差し出されたビニールに包まれた無印良品の下着をさっさと身につける。
「で、背中に隠してるのは?」
「無論、ボクが責任を持って洗濯して返却しよう」
 しかし、よもや右京とこんな話ができるとは思っていなかった。別に、右京と下着の話をしたい訳じゃなかったけれど、今までこういう話をする機会がなかったような気がする。
 いや、違う。神奈との会話の後、右京とこういう話をした。なのに、真剣に取り合わなかったのが他ならぬ自分だったことに思い至った。
 嘘だ誠だと言って、わたしは面と向かって誰かと対峙するのをずっと拒んできた。多分、そういうことなのだろう。自身の不誠実さに思い至って、わたしは溜息をついた。
 右京から手渡された服に袖を通す。右京の趣味は大人びていて、鏡に映る自分の年齢が二、三歳上に見えた。わたしも、大学生になったらこんな服を着ているのだろうか。
「きみの口に合うと良いんだが……」
 台所に引っ込んだ右京は、わたしにマグカップを差し出した。そのなかでは黒い液体が、自分がとても熱いことを湯気を上げることで必死に訴えていた。
「ありがとう」
「この前お宅で頂戴したあの珈琲を、ボクなりに再現したつもりなんだけど……」
 右京はそう言って、自分のマグカップに口をつけた。半分ほどカップの中身を啜ってから、急に思い出したようにミルクと砂糖を入れ始めた。右京がブラックの珈琲が駄目なことを、わたしは初めて知った。わたしはその事実を知らず、家ではブラックを出してしまった。
「ああ、あの時はいいんだ」右京は言った。
「きみがボクに珈琲を淹れてくれたのが、あまりにも嬉しかったものだから。味は二の次になっていたから」
 そう言う右京は、ミルクをどばどば入れて砂糖をどばどば入れると、親の仇の様にぐるぐるスプーンでかき混ぜている。カロリー高いだろうな、なんて思いながら見ていると、「きみもやるといい」と言われた。若い今しかできない飲み方だ、と彼女は言った。
「……一つ、良いかな?」
「なに?」
 右京はわたしを真っ直ぐ見つめた。冷たさを感じない、たぎる視線にわたしは怯んだ。
「きみに軽蔑されるのを承知で、こんなことを言ってしまうのだけれど……」
 視線は揺るぎないのに、口からついて出てくる言葉はどこか頼りない。右京らしからぬ物言いに、わたしはじれったい気分だった。
 はっきりと言ってくれていい。わたしはそう思っていた。遠慮することはないじゃない、だから言って。
「……きみのことを、『ハル』と呼んでも良いだろうか?」
 わたしは目を瞬かせた。対して、右京は居心地の悪そうに肩を縮めた。わたしが上辺だけでそう呼ばれることが嫌なのを承知で、彼女はそんなことを言っている。右京はわたしに対して、面と向かって対峙しようとしている。
 わたしは右京をじっと見つめた。右京の瞳の奥で輝く光に、わたしはなにかを見出した様な気がした。
 わたしは、おずおずと頭を上下に振って、頷いて見せた。



 いつから物語は始まり、いつ終わるのだろう。
 物語は肝心なところが曖昧だ。特に、それがわたしという一人の人間の人生だった場合、最後に一言言い残せても、全てが終わった後から、その全体を振り返って統括することができない。それが主体の宿命なのだろう。客体として、わたしが見てきた死の風景をいくら綴ることができても、主観的に自分の死をまとめることはできない。
 わたしの物語は、人が死ぬ風景についての物語だ。わたし自身の物語のはずなのに、わたしの死を網羅的に記す事は許されていなかった。
 だから、なのだろうか。

 わたしは、人の死の風景に惹かれる。そこに自分の死を重ねることで満たされようとする。

 裸足を水に浸しながら、闇を歩く。
 不快感こそないが、幸福感もない。きっと、舞台装置としての意味合い以上のものは込められていないに違いない。頭上でぽつねんと輝く満月だって、単なる照明器具でしかないのだろう。わたしは一人、その世界を歩いていた。
「死者の国」
 わたしが一人ぼっちになって以来、足を踏み入れることを許された、孤独で無機質な世界。今まで、様々な人と会ってきた。父にも会った。母にも会った。妹にも会った。自殺した後輩にも会ったし、愛犬にも会った。
 わたしは彼ら彼女らを前にすると、いつも平常心が保てなくなって、気のない素振りばかりをしていた。
 ムキになってしまいそうで、怒り狂ってしまいそうで。どうして、わたしを置いて逝ってしまったの、そうなじってしまいそうだったから。
 わたしはこころに麻酔をかけて、自分は大丈夫なんだと思い込んでいた。
「ハル」
 背中に声をかけられて振り向くと、そこには右京が立っていた。見慣れた制服姿で周囲を注意深く見回していた。
「……ここは?」
 わたしは口ごもった。
 とても一言では言い表せなくて、説明しきれなくて戸惑った。そもそも、右京にこの場所について打ち明けるべきなのだろうか。「死者の国」はわたしにとって、右京の「三年前」と同じくらい重い意味を持っていた。
 そう簡単に打ち明けられるトピックスじゃなくなっていた。わたしという人格を形成する上で、極めて重要なピースだった。
 それなのに。
「死者の国、だよ」
 わたしはそう言うと、要点をかいつまんで説明した。
 重大な秘密を暴露してしまった、という不安がこころのなかを渦巻いていた。できれば、彼女には秘密にしておきたかった、なんてわたしは思ってしまう。右京を疑っているのではなく、むしろ信頼のおける右京だからこそ、自分の重荷を背負わすことをしたくはなかった。こころの靄を外注に出すような真似をしたくなかった。
 その一方で、恐らく最初に打ち明けるであろう人間は右京だったのではないか、とも思った。桜木町駅のプラットフォーム。ボクでよければ、精一杯きみの力になるつもりだよ。
 泣いてしまう。ずっとそんなことばかり思っていた。あるいは、当たり散らしてしまう、そんなことを恐れて今まで自分のこころのなかにしまい込んでいた。
 でも、言葉にして吐き出すと、不思議とこころが晴れていった。
 こころを押し潰していた憂鬱な重たさが消え、胸の隅に陣取っていたなにかがどこかへ行ってしまった。後に残った清々しさが腹の内に広がって行く。
 解き放たれた、のだろうか。わたしは自身に問うた。捕らわれていたなにかから。囚われていたなにかから。わたしは自由になったのだろうか。
 右京はわたしの説明を黙って聞いた。わたしが口を閉ざすと、眉を上げて笑った。
「おや。……ということは、すでにボクは彼岸を渡ってしまったのかな?」
 右京は笑った。
「……そうなのかも、しれない」
 わたしのぎこちない言葉に、右京はやれやれと肩を竦めた。
 その右京の表情が、突然凍りついた。
 わたしは怪訝に思って、右京の見ている方へ視線を向けた。顔の霞んだ少女がゆっくりとした足取りでわたし達の方へやって来ていた。
 今まで黒く塗り潰されてその全容は杳として知れなかった。その顔が、今、くっきりと像を結んでいる。

 その顔は、上嘉瀬右京その人だった。



 どんなに人が死のうとも。

 これは、世界のどこかで、今も起こっている人の生き死に――というか死の話だ。
 目を背けることなんて論外だけど、残念ながら人はそんなに強くできていない。嫌なものから目を背けることだってできるし、目を瞑ることだってできる。そうやって、自分の殻に閉じこもって偏狭な自分を守る。
 だけれども、いざその「現実」を見つめようとすると、わたし達は新たな問題にぶち当たる。「現実的」な視線そのものが、実はとっても残酷なのだ。直視するその視線自体が有する冷たさ。
 わたし達は、自分自身の「残酷さ」を引き受けているのだろうか。世界を見つめる、その視線そのものが残酷でグロテスクなことを、多くの人は知らない。一体、「現実を見ろ」と叫ぶ人のどれだけがその事実を理解しているのだろうか。
「自分と関係ない、と思い込んでいる」世界を眺めることの、つまりわたし達の冷たさだ。

 そう、どんなに人が死のうとも。

「こんにちは」
 黒い仮面を剥ぎ取り、右京の顔をした彼女は言った。わたしの隣で愕然とする右京とは異なり、人懐っこい笑みを浮かべている。
 見知った右京の顔だというのに、そこに浮かべられている笑みはひどくよそよそしく他人行儀に見えた。
「……どうやらボクと瓜二つのようだけど。きみはどなたかな?」
 右京は努めて冷静に振る舞っているようだった。というのも、右京の声は震え、笑みは強張っていた。だから、こころの揺れがわたしにも如実に伝わってきた。
「かつて、上嘉瀬右京と呼ばれていた者だけど」
 彼女は笑った。
 わたしの知らない笑み。右京の声そのものなのに、女の子特有の媚びたような甘さがそこにはあった。隣で苦しげに佇む右京の声にはないものを、目の前の右京らしき少女は持っていた。
「……どうしてボクの名を語る『きみ』が、『死者の国』に?」
 右京の問いに、彼女は笑った。
「だって、わたしは」
 その言葉が、静寂に包まれていた世界をぶち壊した。水面が揺れ、満月が滲んだ。右京は大人びた眼を開き、わたしは逆に目を瞑った。
「死んでるんだから」
 唇がにっと曲がった。こころのこもっていない笑み。
「わたしは三年前のあの日、あなたが生まれた日に『死んだ』の」
 彼女は言った。
 あまりに淡々としていて、単調だった。自分が死んだことを明日の天気予報と同列に語っているような、当事者意識に欠ける態度に、わたしは戸惑った。わたしは右京を窺った。
 右京は、強張った笑みを浮かべて佇んでいた。普段の超然とした彼女らしからぬ態度で、その姿には余裕が見られない。
「脳のモジュールが機能を失って、『わたし』という存在が消えた。長い長い『わたし』という存在の不在。その後、脳が生きている別のモジュールを使って、別の『わたし』という存在をエミュレートし始めた。それが……」
 彼女は指差した。
 白い指が指し示す先には、右京の姿があった。ぎくり、と右京は肩を震わせ、拳をかたく握り締めた。
「あなたよ」
「やめろ」
 右京は冷たく言い放った。もう一人の右京が一歩を踏み出して、着々と右京との距離を詰めていく。
「わたしもあなたも、共に『上嘉瀬右京』なの。自伝的記憶を失って後天的に形成された人格は、無事機能しているモジュールが連結される形で『あなた』を生み出しているの」
 彼女は右京に手を差し出した。
 まるで、右京の誕生を祝って握手でもしましょう、と言うかのように。
「『上嘉瀬右京』の身体は今もなお生きている。だけど、あの時確かにわたしは『死んだ』し、あなたは『生まれた』のよ」
「やめろ」
 右京は乱暴な手付きで、かつて『死んだ』右京の手を振り払った。
 ばしん、という肉を打つ音がいつまでもこの世界に響き渡った。
「やめろ、やめろ、やめろ……」
 右京の声が木霊した。
 自分の声で、もう一人の右京の声を必死に掻き消してしまおうとしているようだった。目をぎゅっと瞑って、両手で耳を塞ぐ右京の姿に、わたしは他人ながら泣いてしまいそうだった。
 なんのドラマもない鉄パイプの雨で死んだ、かつての自分に詰め寄られる右京に耐えられなかった。そんな簡単に『わたし』が死んでしまう、ということ。今、自分がこうして生きていること自体が奇跡だ、なんて思ってしまう程、儚く脆い存在であると言われている気がして、吐き気がした。
「だから、わたしはここにいる。死者にしか踏み入ることのできないこの領域に」
「……おまえはボクじゃない」
 その声は辛うじて絞り出されたものだった。
 声、というよりも悲鳴だったかもしれない。単なる空気を震わす波だったかもしれない。そこには言葉の意味などはなくて、ただプリミティブな感情のみが宿っていたのかもしれない。呪言にも似た、不吉な音の連なり。
「……おまえは『わたし』なんかじゃない」
 もう一人の彼女は、唇を持ち上げる様にして笑った。
「ううん。わたしはあなただよ。わたしは事故で失ったモジュールで、かつてあなたとイコールで結ばれていた自分自身」
 朗らかな笑みを浮かべた。
 笑うことそれ自体が残酷でグロテスクだった。苦しむ人間の姿を嬉々として眺めることができる。満面の笑みで見下す事ができる。無邪気さは決して無垢なんかじゃない。善も悪も知らない、ただ無知なだけだ。
「そう。死んでしまった『わたし』なんだよ」
 悲鳴が木霊した。
 世界に対する怒り。自分に対する怒り。あるいは深い悲しみと絶望。その甲高い声がわたしの胸を締め付ける。
 言葉が剃刀みたいに鋭さをもって、もう一人の右京の姿を削り取って行く。薄切りにされていくセーラー服姿の少女。右京の姿をした右京ならざる少女は、輪切りにされながらも笑みを浮かべている。
 その笑みはかつて、ウッちゃんと呼ばれていた少女のものなのだろうか。わたしにはわからないだろうし、泣き叫ぶ右京も存ぜぬところだろう。
 わたしには、この笑みの意味がなんとなくわかったような気がした。自分を殺して、新たに生まれた上嘉瀬右京を責めているのだ。
 どうして、おまえが、と。おまえなんて生まれなければよかったんだ、と。
 神奈を今もなお苛む、額に走った薄紅色の傷と同じ意味合いに違いない。わたしを苦しめる「死者の国」と同じニュアンスに違いない。
 ボクはかつて死んだのか。じゃあ、今のボクは一体なんだ。ボクは一体誰なんだ。
 右京は声を上げて叫んでいた。大きな瞳に涙を滲ませて、絶望に打ちひしがれて。その頬を自らの涙で濡らしていた。



 心地の良い破滅のテーマ。

 皆が漠然と終わりの予感を感じつつ、その終わりはといえば、ジリジリと重たい足取りで近づくばかりだった。いつになるんだ。一体、いつになれば終わるんだ。
 そんな状態で放っておかれた、まるで永遠に続く迷宮のような「終わり」の姿は、葬式を前にした準備の狂騒にも似ていて、死の予感に彩られながらも華やかだった。
 有終の美。ぱっと咲いて散る花。美しい生命の終焉。世界は終わり、命は朽ちる。

 わたしはすんすん、と鼻を鳴らして、心地の良い破滅のテーマを嗅ぎ回った。

「……わたしは」
 右京は肩を震わせていた。その姿は憔悴しきっていた。目の下にうっすらと隈を作っている。
 ともすれば力なく倒れてしまいそうな右京の身体を、わたしはそっと支えてやる。
 かつて湯船で嗅いだ、心地良い香りがした。右京から香る、独特の清々しい芳香だ。
「怖いんだ」右京は言った。
「わたしが『死者の国』を訪れてから……」
 普段の超然とした態度が、嘘の様だった。悩み疲れているようだった。長い間、ずっと眠れない夜を過ごしていたのかもしれない。気が晴れず、ずっと豪雨にさらされ続けたような顔をしている。
「……奴の記憶を思い出す」
 右京は息を吐いた。
「かつての『わたし』の記憶だ。他の人は、自分の本来の記憶を取り戻しつつある、なんて思うかもしれない。だけど、わたしはそう思わない。わたしそっくりの『誰か』の記憶が、唐突に脳裏に浮かぶんだ。ハルは、そんなのに耐えられるか?」
 わたしは力強く首を振って、右京の問いに答えた。
「それだけじゃない。今までのわたしならば考えないこと、思いつかないことを行動に移してしまう。わたし自身が望んでいたのか、それとも奴の意思なのか……。今のわたしにはいまいち自信が持てない」
 右京は嗚咽を漏らした。
 今もなお彼女を縛って離さないなにかに、他ならぬかつての自分自身の姿に、右京は苦しめられ、傷付いている。
「なあ、ハル、教えてくれ。あの世界にわたしが足を踏み入れたということは、わたしはすでに『死んで』いる、ということなのか?」
 右京は瞳を濡らした。
「『生きている』ってなんだ? わたしは心臓が動いている。脳だって機能しているモジュールがまだ沢山ある。なのに、三年より前の『わたし』は消えて、『ボク』が三年前に生まれた。これは一体どういうことだ?」
 その姿は、母にすがる子どもの様に頼りなかった。右京はぽつりと呟いた。消え入りそうな声で。ともすれば喧騒で掻き消されてしまうそうな小さな声で言った。
「わたしは怖い。本当は今のわたしでさえ、死んでいるんじゃないかと、思ってしまうから」
 そう言うと、右京はわたしの胸に顔を埋めた。その姿があまりにも痛々しくて、わたしは右京の背に手を回して、ぎゅっと抱き締めた。
「わたしは、右京が『生きて』いるかわからない」
 わたしは言った。
「だけど、それはわたしにも同じ事が言える。だって、右京には、わたしが昨日まで連続性を有したわたしなのか、それとも今し方生まれた新しい『わたし』なのか、一目して判断できないでしょ?」
 右京は頷いた。
「わたしも同じ。程度の違いよ。そんなこと言ったら、わたしだって『死者の国』に何度も行ってるし、実際一度は死にかけてるから」
「……だから気にするな、と?」
 右京は目をぎらつかせた。普段の右京からは想像がつかない、凶暴さを秘めた輝きに、わたしは驚いた。それは彼女が努めて隠そうとしていた一面なのかもしれない。あるいは、打ち解けた分だけ表層に上がってきた、プリミティブな感情なのかもしれない。
「そうじゃなくて……」
 わたしは言った。
「自分が『生きている』って思えれば、生きているんじゃない。死んだら、そう思うことができない訳でしょ。それって、逆説的に言えば『生きて』なきゃできないことだと、わたしは思うんだ」
 右京は弱々しく笑った。
「……ハル、それは子ども騙しだよ」
 右京はそう呟くと、両手で顔を覆った。
 わたしは、震える右京の背をそっと包み込んだ。
「あなたはわたしにとって、たった一人のかけがえのない、代替不可能な右京だよ」



 ボクからわたしへ。
 わたしは右京の一人称の変化を見逃さなかった。右京がわたしを「ハル」と呼んだように、わたしが右京に「死者の国」を打ち明けた様に、なにかがまた変わろうとしていた。
 その変化が、はたして右京の身にどういう変化をもたらすのか、その詳細は残念ながら、わたしは知ることができない。
 師走に活気づく横浜の街の中で、わたしは白い息を吐いた。神奈は街を彩る電飾にこころを躍らせ、右京はその様子ををじっと見つめていた。
「……きみはいっつも牛乳を飲んでいるんだね」
 右京は、一回りも二回りも小さい神奈を見下ろして言った。
「少しでも背を伸ばしたいの!」
「ついでに胸も一回り、とか思っているんだろう?」
「うっ、うるさい!」
「……一回りと言わずに、二回りかな?」
 右京は人の悪い笑みを浮かべ、その脇で神奈は頬を膨らませて不満を露わにしている。
 かつての旧友達の時間は、三年間のブランクを経ながらも、再び動き出したようだった。無論、一度止まったという事実は消えてなくなることはないし、その時間を埋めることに、さらなる時間を費やさねばならないだろう。
 しかし、彼女達の浮かべるぎこちない笑顔を見ていると、わたしの心配も恐らく杞憂になるんだろう。
 決定的な出来事があった訳じゃない。蓋を開ければ、事実なんて、現実なんてこんなものだ。胸を膨らませて待つと、いつもその分だけ損をする。夢見がちなロマンチストは現実の世界で躓く。
 でも、この些細な現実の積み重ねが、確実にわたし達を導いていくのだろう。物語の結末へ。最後の句点、あるいはピリオドが打たれるまで。
「ハル」
 右京と神奈の声が重なった。そのハーモニーに、わたしは思わず笑ってしまった。
 わたしは、変わったのだろうか。それとも、『死んで』生まれ変わるのだろうか。それとも、とっくのとうに死んでしまったのだろうか。この世界が「死者の国」だったりするのだろうか。

 すんすん、とわたしは鼻を鳴らした。今日もどこかで上がる死の匂いを嗅ぎながら。
 死を想い、今を生きる。



 冬は死の季節だ。
 凍てつく北風が虫を、木々を、動物を死に追いやり、深い眠りへと誘う。春という新たな季節まで、寒さが大地をあまねく支配する厳しい時だ。
 たとえ、越冬を試みる者がいたとしても、彼らが一瞬でも隙を見せれば、冬は容赦なくその寒さをもって死に至らしめる。
 冷たさに打ち勝つ温もりのないものは、冷えて死ぬ。生きて春を迎えることができない。
 自然の厳しい掟がこの世界にはある。

 だけど。

 冬の後には春が来る。始まりを予感させる、母なる暖かな世界が。
 種から芽が萌え、豊かな命の産声がこの大地に溢れる時が、きっと来るのだ。
金椎響 8tiPoznsKE
http://kagamimono-nishiki.hatenablog.com/
2010年12月24日(金)02時27分 公開
■この作品の著作権は金椎響さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 感謝を捧げます――私の小説を読んで下さった全ての方々に。

◆あらすじ◆
 高校生の「わたし」(ハル)は「死者の国」を行き来する力を持っている。ある日、「死者の国」に顔を黒く塗り潰した少女が現れる。身に覚えのない死者の少女。「わたし」は一風変わった友人の上嘉瀬右京(かみかぜうきょう)をはじめとする友人達と学校生活を送りながら、その少女が誰なのか、思いを巡らせる。金椎響が送る、ダウナー小説。

◆作者からのコメント◆
 初めまして。作者の金椎響です。
『シャッターボタンを全押しにして』、『哲学的な魔女、あとオレとか』、『She said to me, ”GODSPEED”.』に続き、本作で第四作目の投稿となります。
 残念な事に、ラノベ的な「軽くて、笑える」物語でないことを読者に伝えねばなりません。重苦しく、息苦しい雰囲気を楽しんで頂ければ幸いです。
 皆さんからの感想、評価、ご意見、誤字脱字指摘等、お待ちしております。
 
◆哲学的なテーマ◆
「わたし」という意識、主観、女性観、「死」と「生」、意思と欲求、イリア、他者など。
 脳の自閉症の個所については当企画主催者である飲茶氏のサイトを、各章の冒頭部については惜しくも亡くなられた伊藤計劃氏のサイトを参考にしております。

◆おわりに◆
 最後に、私のような初心者に、このような機会を与えて下さった飲茶様やうっぴー様をはじめとする企画運営の皆さま、そして、私の作品を読んで下さった全ての読者の方々に心から感謝致します。
 本当に、本当に、ありがとう。

※更新内容:誤字脱字の訂正

最終更新日 2011年03月13日(日)


この作品の感想をお寄せください。

2011年03月13日(日)13時55分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 nさん、こんにちは。作者の金椎響です。
 最初に、返信が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
 まずは多くの作品が投稿されるなかでわたしの作品を読んで頂けたこと、嬉しく思います。
 なんと、nさんには金椎響が当企画において投稿した四作品全てに感想を記して下さりました! 本当にありがとうございます。一つの作品を読んで頂けるだけでも嬉しいですが、こうしてわたしの作品を全て読んで頂いたばかりか、丁寧な感想を記して貰えることは作者にとって、これほどまでに嬉しいことはないと思います。
 nさん、本当にありがとうございます。

>実は、金椎響さんのもので、一番初めに読んだのがこの作品です。
→そうだったんですか。最初に本作を読むと、他の三作品、そして金椎響に対して、他の読者様とはまた違った印象を抱かれたのではないかな、なんて思います。
>読んだからには感想を、と思いつつ、今まで書けずにいました。
→ありがとうございます。書けずにいながらも、それでもこうして最終的には感想を記して頂けた事、本当に嬉しく思います。作者としましては、自身の作品を読んで頂けただけでも幸せなのに、感想まで記して頂けると本当に嬉しい限りです。

>なぜだか私はものすごくリアリティーを感じ、読後かなり経った今でも、
>校舎の様子や駅の改札、死の世界、その冷たい感じ・・・などを
>思い浮かべることができます。
→ありがとうございます。金椎響としましては、作品における雰囲気や世界観、そしてリアリティについては注意を払ったつもりだったので、nさんにそのように感じて頂けて嬉しいです。

>夢にも出るくらいの印象の強さでした。
→えっ!? そうでしたか、ごめんなさい。他の投稿者様への感想を拝読させて頂くと、nさんは怖い雰囲気の作品が苦手なのかな、なんて思いました。それを思うと、なんだか悪いことをしてしまったような気がします。
>「面白さ」ではなく「印象深さ」の際立つ作品です。
>劇的な展開があるわけでもなく、描いているのはありふれた学園風景や少女の夢。
>なのになぜこんなにも心に残るのか。
>全然分かりません。
→作者としましては、エンターテイメント性よりもダウナーな空気を大切にして作品作りに励んだつもりです。なので「印象深さ」が際立つ、そしてなによりもうれしいのは「こんなにも心に残るのか」と評して頂けると嬉しい気持ちで胸がいっぱいになります。

>ただ、一つ言えるのは、私の記憶を無くした人に対する印象が変化した事実です。
>記憶が無くなることについて、その立場に立って想像したことはないなぁと。
>少なくとも「死」という観点は欠落していました。
>新しく生まれるような、無垢なような、「生」の印象しかもっていませんでした。
→nさんにそのように思って頂けると、作者としましても問題提起ができたと安堵することができます。

>これからはその他の場面においても、
>「生」を感じたらその裏にある「死」を、
>「死」を感じたらそこには「生」を、
>思っていけるんではないかと思います。
>私の中の「哲学」を変えてくれた作品なのだと思います。
→ありがとうございます。nさんからそのような言葉で褒めて頂けるとなんだか泣けてきます。この企画に作者として参加し、今まで自分なりに「哲学」について考えてきたつもりなので、読者様のなかで「哲学」を変えるような力が宿った作品を生み出し、そしてそれを届けることができた幸せを、今は噛み締めたいと思います。

>この程度の意味不明な感想しか思い浮かばないから、
>今まで感想を書けなかったんですね。
→いやいや、全然「意味不明」なんかじゃないですよ! わたしは読者様の率直な感想を求めておりますので、むしろ嬉しいです。

>女の子だけっていうのも良いものでした。
→おそらくこの企画において最後の一作になると思ったので、あえて男の子と女の子の恋愛ではないもので挑みました。また、雰囲気重視で暗い趣の作品になりました。わたしとしましては、今までのスタイルでないにも関わらず、「良いもの」と率直に評価して頂けると、なんというか……救われた気分です(笑)

>しかし評価に迷います。
>「面白かったです」は違うな〜と感じつつ。
→そうですよね(苦笑) なんだかnさんを困らせる悪い子でごめんなさい。

 最後に、nさんには改めて感謝の気持ちを記したいと思います。
 わたしの作品を全て読んで頂き、感想を全てに記して頂けたこと、高い評価点をつけて頂いたことにも感謝しておりますが、わたしにとってなにより嬉しく、そして支えになったのは、nさんの率直なお言葉でした。
 この素晴らしい企画はもう終わってしまいましたけど、わたしはこれからもnさんに言葉を胸に刻んで小説を綴っていきたいと思います。またどこかで、nさんと出会いたいという気持ちとともに、ここに感謝の気持ちを言葉で綴ります。
 nさん、本当に、本当にありがとう。

pass
2011年02月28日(月)11時13分 n  +30点
実は、金椎響さんのもので、一番初めに読んだのがこの作品です。
読んだからには感想を、と思いつつ、今まで書けずにいました。

なぜだか私はものすごくリアリティーを感じ、読後かなり経った今でも、
校舎の様子や駅の改札、死の世界、その冷たい感じ・・・などを
思い浮かべることができます。

夢にも出るくらいの印象の強さでした。
「面白さ」ではなく「印象深さ」の際立つ作品です。
劇的な展開があるわけでもなく、描いているのはありふれた学園風景や少女の夢。
なのになぜこんなにも心に残るのか。
全然分かりません。

ただ、一つ言えるのは、私の記憶を無くした人に対する印象が変化した事実です。
記憶が無くなることについて、その立場に立って想像したことはないなぁと。
少なくとも「死」という観点は欠落していました。
新しく生まれるような、無垢なような、「生」の印象しかもっていませんでした。

これからはその他の場面においても、
「生」を感じたらその裏にある「死」を、
「死」を感じたらそこには「生」を、
思っていけるんではないかと思います。
私の中の「哲学」を変えてくれた作品なのだと思います。

この程度の意味不明な感想しか思い浮かばないから、
今まで感想を書けなかったんですね。

女の子だけっていうのも良いものでした。
しかし評価に迷います。
「面白かったです」は違うな〜と感じつつ。
124

pass
2011年02月20日(日)00時24分 roma N0mWgMiihI +50点
「小説をどう読み解くか」 ロジャー・B・ヘンクル 岡野久二・小泉利久訳より
-------------------------------------------------引用開始
 さて、私がこれまで勧めてきた方法を復習してみると次のようになる。第一に、作品の主題が何であると思えるか、つまりその作品の基本構成はどうなると思えるかをときどき自問してみること。第二に、ナレーター(物語の語り手)及び主要な作中人物に対する各自の反応を書き留めておかなければならないが、彼らについての最終判断は差し控えること。第三に、作中で話されるか、実行されるか、または言及された異常な事や印象的な事を紙面の余白か紙片に書き留めておくこと。矛盾点は特にメモしておかなくてはならないが、すぐにそれらを解けなくても落胆してはならない。(事実、最初に読んでいるうちは幾つかの矛盾点は決して解けないだろう。)小説を読了した後、作中の基本構成がどのようだと思えるかとか、予期した通りのものであったかとかを再考してみること。メモを種類別に収集し、適合すると思える面を関連づけるようつとめながら、しばらくは矛盾点を無視して、自分のメモの再検討をしてみること。作品中の経験の解釈を一度考えついたら、それに心象群や指示関係や小場面の内容などを関連づけてみること。次に、二つの方法で自分の解釈の正しさを確認してみよう。第一に作品に関する自分の読みに明白な矛盾点をぶつけてみて、第二に作中人物たちや彼らの体験に対する自分自身の反応や自分の読後感と作品の読みとが一致するかどうかを問題にしてみて、解釈を確実なものとする。ここで、矛盾点を処理する場合には、創造的でなければならないが、自己に不誠実であってはならない。自分の解釈と作品を十分満足できるように適合させえなければ、多分自分の解釈が誤っているのであり、小説の新しい読み方を求めて、もう一度メモに帰っていかなければならないだろう。いずれにしても批評的な読みの—小説作品を理解するための—要点は、心を打つ部分をメモし、作品の基本構成を考え、自分の仮の結論の正しさを論証する行為にあるのである。

 (略)そして、大抵のすぐれた小説が読者に多義性を意識させたままで置き去りにしようとするものだから、いかなる先行の批評家といえどもすぐれた小説を完全に分析しつくしてしまうことはないであろうし、人が小説から引き出すことのできるものを誰かがそっくり引き出してしまっていることもないであろう。(略)事実、第一級の小説の際立った特質とは、それをより深く探れば探るほど、ますます大きな、解釈上の豊かさを生むということである。英国の批評家C・S・ルイスは、「優れた作品」とは何かを決定する規準は、その作品が優れた—つまり注意深くて感受性の鋭い—読者に、創造的で分析的な読書を促すかどうかであるとさえ主張している。
-------------------------------------------------引用終了

自分なりにまとめを必要としたことと、後のすぐれた読み手のみなさまの目に留まるように投下します。著作権などで問題がありましたら削除してくださいませ。
113

pass
2011年01月17日(月)02時52分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 romaさん、こんにちは。作者の金椎響です。どうぞよろしくお願いします。

 最初に、わざわざわたしの作品を読んで下さってありがとうございます。本当に嬉しいです。
 わたしとしましては、あの時、作者として応じることができなかったという事実が、わたしのこころを苛んでいただけに、こうしてまた再びお会いできたことを喜んでおります。

 えっと、嬉しさのあまり超特急で返信をしたためたため、ところどころ誤字脱字があるかもしれません。今度こそわたしの言葉をあなたに、という意気込みで目を真っ赤にしてキーを叩いておりますので(笑)

>こんにちは。作者様の4作品の投稿順序を間違って記憶しておりました。その節は失礼しました。上嘉瀬右京から直コメントを戴いたからには感想を書き直します。
→「別に気にしなくてもいいよ。なんせ作者が全然気にしていないようだからね。……そうそう、実は本編登場人物が感想欄にまで出てきたのは、あの時が初めてなんだ。ふふっ、キミは実に運が良いな。そして、ボクもまた運が良かったよ」

>スケキヨ右京は悪かったです。謝ります。マスクをペルソナと言い直しましょう。
>3 年前の鉄パイプ崩落事故で右京は頭部を負傷し入院した。(……)
→読者の御想像にお任せします。
 しかし、romaさん、凄いですね。この作品は雰囲気が大切だと思うので、作者の口から直接真実を告げることはできないのですが、わたしはromaさんの感想を見て、息を飲んでしまいました。
 この企画は本当に読者様に恵まれているな、と思います。他の皆さんも、お喋りな作者がせっかく黙っていますので、これを機に色々と思いを馳せて頂けると嬉しいです。

>それで、萌えたのは私の妄想の中の神奈ちゃんです。小柄で胸がなくて、人望のある、ちょっと委員長キャラの入った神奈ちゃん最高。
→それです! わたしは読者様のそういう反応をこころ待ちにしておりました。いやはや、romaさんに気に入って頂けて何よりです。そのような感想が頂けると、わたしとしては本当に嬉しくて嬉しくて……。
 神奈ちゃんは良い子だと思います。斜に構えている「ハル」に対して、なにかと気にかけていたりして、気配りのできる女の子だと思います。
>萌えって、読者が勝手に感じるものでしょう? そういう遊びの余地を用意してくれた作者様に感謝します。
→その通りです。わたしの手を離れた時から、作品はromaさんのものです。だから、わたしは意図的な「萌え」ってあんまり好きじゃないんです。「萌え」は読者様が感じる者であって、作り手が人工的に作り出す存在じゃないような気がしてしまうのです。

>以下気になった箇所を付記。
→御指摘どうもありがとうございます。
 早速、確認させて頂き、不適切なものについては変更を施したいと思います。romaさん、本当にありがとうございます。

>ついでに。
→すいません。本当に手のかかる作者で(苦笑) ありがとうございます。早速確認させて頂きます。
 特に、写真関連の言葉は、普段からルーズな物言いだっただけに、配慮が欠けていました。というか、申し訳ありません。皆さんから指摘されるたびに、わたしの方でも確認をしているのですが……。ちょっと、お時間を頂くことになるかもしれませんが、全ての表現について再検討したいと思います。

 最後に、romaさん、本当にありがとうございました。
 わたしの作品を読んで頂いたばかりか、こうして一つ一つの言葉に対して向き合って頂けたこと、詩人肌の作者としましては、これほどまでに嬉しいことはありませんでした。
 また、独自の視点からの感想と高い評価は、作者にとって新鮮でありましたし、創作意欲を刺激されました。
 なにより、わたしの作品に長く付き合って頂いたこと、本当に嬉しく思います。
 romaさん、本当に、本当に、ありがとう。
 あなたにわたしの返信がちゃんと伝わっていたこと、そして、またこうしてお会いできたことを嬉しく思います。

<1/17(月) 追記>
1.『死の季節』について、御指摘を受けた二か所について訂正致しました。
2.『シャッターボタンを全押しにして』について、御指摘を受けたすべての誤字脱字について訂正致しました。「草食系」等の表現につきましては、可及的速やかに再検討したいと思います。

<1/23(日) 追記>
>私は初稿の冒頭の「死者の国」描写で「書き割り」を明瞭にイメージしており(……)
→素晴らしいですね。雰囲気を楽しんで欲しい、と言った自分の言葉に嘘偽りはございませんが、今思うと「死者の国」に関する詳細について触れない、という縛りはもどかしいです。作者はお喋りなので、romaさんからこのように鋭いご指摘を受けると、ついつい解説したくて堪りません。
 ただ、この作品の感想を拝読させて頂くと、本当に凄いんですよね。皆さんが言葉の一つ一つを丁寧に紐解いて、この世界を語って下さっている。かなり不親切な表現だったのに、皆さんの想像はそれに迫っている。わたしとしては話してしまいたいのですけれど、皆さんが築いて下さった世界観や、「死者の国」のイメージを壊したくない、なにより大切にしたいので、読者様のご想像にお任せしたいと思います。
>「死の季節」は徹頭徹尾「哲学的な彼女」を描写し続けたこと、右京と神奈の友情に萌えがあったことから、満点がふさわしいと思います。
→romaさんからの満点、本当に嬉しいです。金椎響個人は、「死の季節」がもっとも自分の好みに合っているので、そう評して頂けると感無量です。こちらこそ、どうもありがとうございました。再びあなたと出会い、満点を頂けたことを胸に、これからも頑張ります。

<2/2(水) 追記>
>金椎響さん、過負荷で気の毒になってきました。
→すいません。最近現実世界の方が慌ただしくなってしまいまして、感想に対する応答が鈍くて。
>私も課題図書が増えて大変です。
→お互い大変ですね(笑) お疲れの出ない様、どうか無理はなさらずに。

<2/5(土) 追記>
>金椎響さん、お返事ありがとうございます。
→いえいえ。むしろ、わたしの方の返信が遅くなってしまっているので申し訳なく思っております。
>修正作業のほうもお疲れ様です。
→本当はもっとガシガシやりたいんですけれど(苦笑) 制限枚数100枚という縛りに、限られた時間のなかでの推敲は思いの外大変で。しかも、疲れているとなかなか頭が働かなくて上手くいかないです。
>私も、現実世界で提出文書を差し戻されて訂正に追われています。お互いにがんばりましょう。
→頑張りましょう(笑) わたしも日々文章を提出して差し戻されるのも仕事のうちなので、その大変さや苦労がヒシヒシと伝わってきます。
>「虐殺器官」を読むと分かるのか(……)
→そんなことはありませんのでご安心を(笑) ただ、本作はかなり伊藤計劃氏を意識しています。もともと計劃氏の作品を読んで「ああ、小説書きたい」と思っただけに、本作においてそれが炸裂しています。ただ、わたしの作品は計劃氏の劣化コピーですけれど。
>私は感想は二作品にしかつけていませんけれど、金椎響さんの四作品はすべて拝読しております。
→ありがとうございます。読んで頂けただけで作者は嬉しいです。
 ただ、わたしにとって第三作目とか黒歴史以外の何物でもないので、読んで頂けたのが嬉しい半面、凄い恥ずかしいです。
 第二作目も作者の予想に反して高い評価を頂けて嬉しい半面、手厳しい感想や低い評価をつけられたら立ち直れないかも……と戦々恐々だったりします。当初は点数とか感想に頓着しない図太い性格だったんですけれど……おかしいな。
>リンクがあれば資料と見なして目を通すことにしていますから、ブログも拝見しております。
→ありがとうございます。金椎響という人間の底の浅さが露呈したブログなので、なんだか気恥ずかしいですが、誰かに読んで下さっている、と思えるだけで前向きに生きていけそうな気がします。

<2/7(月) 追記>
>人生哲学って、哲学に含まれるのですか?
→個人的には含まれていて欲しいですね。死ぬその瞬間まで人は生きねばなりませんから。本当は、人生に羅針盤など必要ないのかもしれませんが、それでもなにか指し示すものがあって欲しい、なんてわたしはどうしても思ってしまうんですよね。
>「哲学的な魔女、あとオレとか」「She said to me, “GODSPEED”.」はテーマに興味を持ちましたから、感想期間が延びればいつかコメントするかもしれませんが多分間に合わないでしょう。
→どうか無理はなさらずに。わたしはこうして誰かに読んで頂けただけで十分幸せですから。こうして、少なくともromaさんにはわたしの作品を全て読んで頂けたことがわかっただけで、気が晴れやかで満たされた気分です。
>「哲魔女」はあと200枚書き足して本1冊分にしていただきたいと思うくらいです。
→本当ですか!? ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。『哲魔女』は最終的に削りまくってしまい、自分の表現したいものが上手く表現できなかったのではないか、と不安で心残りだったりします。この企画が終わっても、改稿を続けていって、自分が納得できる作品にしたいと思っております。
>金椎響さんもそういう支え的な何か、お持ちでしょう? 良かったら教えていただけませんか。
→支え、ですか。うーん、難しいですね。あえて挙げるとするならば、ホッファーになるんでしょうか。彼の著作に、というよりは、彼の生き方、それこそ彼の歩んだ数奇な人生が羨ましいのかもしれませんけれど。

 romaさんには申し訳ないのですが、この感想は予告なく追記・削除される恐れがあります故、お暇な時で良いので適宜確認して頂けると幸いです。

pass
2011年01月17日(月)01時25分 roma N0mWgMiihI +50点
こんにちは。作者様の4作品の投稿順序を間違って記憶しておりました。その節は失礼しました。上嘉瀬右京から直コメントを戴いたからには感想を書き直します。

スケキヨ右京は悪かったです。謝ります。マスクをペルソナと言い直しましょう。

3年前の鉄パイプ崩落事故で右京は頭部を負傷し入院した。理不尽に不幸なことに、右京の入院中、別な事故があり父母と妹が同時に死亡した。記憶と家族を失った右京は深刻な自己同一性の危機に直面する。鉄パイプ崩落事故に居合わせながら比較的軽傷で済んだ長谷川神奈は友人右京を救おうと決意した。神奈は右京と同じ高校に進み、反応が鈍く感情が平板になった右京を友人の輪に引き入れ気を配る。一方右京は周囲に期待される対人上のペルソナの確立に苦しんだ。そもそも基盤となるべき自己を失っているのだから。右京は心の靄を分割してやり過ごすことにした。白いペンキを塗ったような仮面の右京、顔を黒く塗り潰された影の右京、そして、からっぽな「わたし」。「わたし」の名前はハル。矛盾したコマンドに耐えられず暴走して生じた人格……妄想です。失礼します!

それで、萌えたのは私の妄想の中の神奈ちゃんです。小柄で胸がなくて、人望のある、ちょっと委員長キャラの入った神奈ちゃん最高。萌えって、読者が勝手に感じるものでしょう? そういう遊びの余地を用意してくれた作者様に感謝します。点数は哲学分を差し引いてつけました。私の妄想に哲学は入っていませんので。

以下気になった箇所を付記。ハルは信頼できない語り手ですが、ハルと作者様では階層が異なります。取捨選択はお任せします。後日、本文を拝見して差分を確認するので(嫌な読者でしょうね!)感想コメント欄でのフォローは不要です。

別者→別物?
「キミに軽蔑されるのを承知で、こんなことを言ってしまう(の)だけれど……」
(圧縮省略)

2011年1月21日追記
なるほど、デカルト劇場(Cartesian Theater)なる哲学用語を私は知りませんでした。おぼろげに概念には触れていたものの、それが哲学に属するとは思っていませんでした。では正直に報告しますと、私は初稿の冒頭の「死者の国」描写で「書き割り」を明瞭にイメージしており、読み進めることを決定しました。ですから「天井」「照明器具」「舞台装置」のキーワードを拾って安心したものです。「デカルト劇場」はダニエル・デネットにより批判されているそうで、傍観者ハルが「生きているんだか死んでいるんだか分からない」のはそのせいでしょうか。「死の季節」は徹頭徹尾「哲学的な彼女」を描写し続けたこと、右京と神奈の友情に萌えがあったことから、満点がふさわしいと思います。どうもありがとうございました。

2011年1月24日追記
「読者の解釈を尊重します」繰り返されるコメントには意味があるのでしょう。多元草稿モデル(Multiple Drafts Model)を拾い読みした範囲で以下を続けます。理解不足ではありましょうが、多元草稿モデルでは(都合よく拡大解釈すると)草案を頻繁に修正することを認めています。どうぞご容赦ください。

女優である右京が観客に向かって『ハル』と呼ぶ許可を求める、この瞬間に劇場は崩壊します。このときハルは、右京の脳に漂う無数の草稿のひとつになったと解釈しました。実際上の人格の統合を意味します。「デカルト劇場」と「多元草稿モデル」には連続性がなく、論理的ではないのですが、本作はデネットの主張をベースにした世界観と思われますので、そのように受け取りました。

多元草稿モデルでは「物語」は矛盾して連続的に修正された内容の平行した流れであり、意識的な経験として唯一の「物語」が真実として選び出されることがないとしています。「物語」はこの場合、脳の認識を指しているのですが、「小説のストーリー」と読み替えると非常に魅力的です。本作は読んだ人の読んだ回数だけ経験する物語があり、そのどれかが他の物語にまさることは決してないのです。……今度こそ、及第点とれているでしょうか。

2011年1月27日追記
金椎響さん、過負荷で気の毒になってきました。ここの落とし処は
>明らかな矛盾を内包している作品なので。
くらいでよろしいかと思います。私も課題図書が増えて大変です。

2011年2月4日追記
金椎響さん、お返事ありがとうございます。ええ、読者のために、作品を守り続けてくださいね。修正作業のほうもお疲れ様です。私も、現実世界で提出文書を差し戻されて訂正に追われています。お互いにがんばりましょう。

さて、解釈に至った過程です。初めはハル、顔なし、右京、神奈の四人の人物を想定して読みますが、それでは辻褄が合わなくなります。違和感を覚えた点を列挙し、括弧内に備考を付記します。
 ・冒頭部で「劇場」のイメージを与えられる (異世界よりも心理物の可能性を思わせる)
 ・右京の紹介があるのにハルの紹介がない (冒頭に続く重要な世界観提示と思われる)
 ・気がつくとハルのそばに右京がいる (偶然ではあり得ない頻繁さで繰り返される)
 ・基本的に右京はハル以外と会話をしない (神奈の右京へのリアクションが自然でない)
 ・神奈のハルへの気の遣いかたが真剣である (ハルが言う表面上の仲を超えている)
 ・ハルが右京の家に上がるとき、右京の家族への遠慮をしない (自宅だからですね)
 ・右京がハルの珈琲を再現する (同じ家の同じ什器、同じロットの豆だから可能と考えると自然です)
これらを総合して最も無理がないと思われる物語を構築すると「右京ひとりの中に三人がいる」「神奈はある程度それを知っている」ことになりました。本文から得られた解釈は以上です。

110K1さんの感想は抽象的でじつはよく理解できないでいます。死生観が異なるせいか「脱臭された死」がどうにも捉えられずにいます。「虐殺器官」を読むと分かるのか……しかし私は『家畜人ヤプー』をギブアップしているので無理そうな気がします。

>一体どの点を見てデカルト劇場やダニエル・デネットについて思い至ったのですか?
私は感想は二作品にしかつけていませんけれど、金椎響さんの四作品はすべて拝読しております。リンクがあれば資料と見なして目を通すことにしていますから、ブログも拝見しております。■作者からのメッセージ欄も気を付けていたのですが難しかったですね。それで、本当に私はものを知らなくて恥ずかしいのですが「劇場」のキーワードは既に持っていましたので、
>哲学用語の「デカルト劇場(またはカルテジアン劇場)」
この語句に注目して手がかりとしました。「解明される意識」は注文したものが今週届きました。面白いお喋りがたくさん詰まっています。楽しんで読もうと思います。

2011年2月6日追記
人生哲学って、哲学に含まれるのですか? 私はメンタルと戦術(比喩ですよ)を坂井三郎の著作から得ています。劣化コピーですけども。ストライクウィッチーズを視聴せねば……この企画の別の場所で教えてもらったアニメ作品です……がそれはどうでもよくて。「哲学的な魔女、あとオレとか」「She said to me, “GODSPEED”.」はテーマに興味を持ちましたから、感想期間が延びればいつかコメントするかもしれませんが多分間に合わないでしょう。「哲魔女」はあと200枚書き足して本1冊分にしていただきたいと思うくらいです。私は出版社の者ではありませんから、ひっそりと希望するだけですが。で、真柴さんはニーチェが勇気の元と言い、私は(好きな作家や尊敬する作家とは別に)坂井が良いと思っていて、金椎響さんもそういう支え的な何か、お持ちでしょう? 良かったら教えていただけませんか。

2011年2月11日追記
こんにちは! お返事ありがとうございました。
>あえて挙げるとするならば、ホッファーになるんでしょうか。彼の著作に、というよりは、
>彼の生き方、それこそ彼の歩んだ数奇な人生が羨ましいのかもしれませんけれど。
ネットで一巡りしてきました。骨太ですね。伊豆見左近はこんなものを読んでいたのですね。「シャッターボタン」も続編が欲しいです。伊豆見に判断や行動が求められるシーンを見たいです。急がせているわけではありません、でも、いつか、ぜひ読ませてくださいね。いつの間にか、私もすっかり金椎響さんのファンです。次は「おめでとう」コメントになると良いなと思いつつ、では、また!

2011年3月17日追記
最終稿?読ませていただきました。深みと確からしさが増して感じられます。死の匂いが濃密に書き込まれていて、今度こそ「脱臭された死」が分かった気がします。私も時々はMMに足を運びますが、みなとみらいの食べ物は何もかも「工業製品」であって「死」が剥ぎ取られているように感じます。生と死は共役して不可分であるはずなのに(私の思うところでは)、MMには「死」が無い、だから「生」の確からしさが希薄になる。そのくせドックヤードガーデンには「死」が清潔に「保存」されている。胸糞悪い(笑)です。いまさら、そして非常に迷惑かもしれませんが、私からの大賞を『死の季節』に捧げさせてください。素晴らしい作品をどうもありがとうございました。
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pass
2011年01月15日(土)00時35分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 どうも、真柴竹門さん、こんにちは。作者の金椎響です。
『シャッターボタンを全押しにして』に引き続き、わざわざ読んで頂いたばかりが、こうして感想を記して頂けると嬉しいです。
 特に、哲学に対して造詣が深い真柴竹門さんからの感想と評価ですので、ありがたい限りです。
 真柴竹門さん、本当にありがとうございます。

>体調が優れないのですが、治ってきたので感想を執筆します。やっぱりあのたい焼きが不味かったのかな?
→大丈夫ですか?
 健康もまた立派な財産ですので、どうか無理はなさらずに。
 ちなみに、わたしは白いたい焼きが好きです。中身がチョコレートやカスタードなど、最近ではたい焼きも豊富になりましたよね。

>約一週間前に読了したのですが、今頃になって感想を投稿です。遅くなってすみません。私は基本的に遅いんです。
→いえいえ、大丈夫ですよ。むしろ、読んで頂いたばかりか、わざわざ感想を綴って頂けると、作者としても嬉しいです。
 こうして投稿している以上は、読まれてナンボなのでこうして真柴竹門さんの目にとまって、わたしにはもったいないくらいの感想をしたためて下さって、本当に助かります。

>んで、今回は前の「シャッターボタンを全押しにして」と違い、辛口評価です。
>というのも、本作は自分に合わなかった点が三つもあったからなんですよ。まあこういう意見もあるんだなと参考にしてくださる程度で結構です。
→豆腐メンタルな作者としましては、そう言われちゃうと厳しいですね、やっぱり。いくら身構えても、慣れることがない、というか。
 もっとも、叱られるうちが華な訳ですし、自分を鍛えるのは厳しさだと思うので、忌憚のない感想を頂けると助かります。

>まず一つ目ですが、この詩的な文章が合いませんでした。
>超個人的な意見を述べさせてもらうと、封印したままでいてほしかったです(笑)。
→ごめんなさい。
 実は、こういう小説が書きたかったりします。処女作ではたたでさえ冗長だったので、こういった技法は使えなかったので、今回その際の欲求不満が爆発してしまいました。
 ただ、難しいのは「詩的な文章が嫌」という方がいる一方で、この作品の長所に文章を挙げる方々がいるんですよね。作者にとっては悩ましいところです。

>二つ目は、この作品の世界観や雰囲気。
>「シャッターボタン」の時は『鉛色のような世界観』と高評価したのですが、今作品は一言でいうと『コールタールのような世界観』のように感じました。
>基本的にエンターティメントを求める人間のためか、鉛色までなら大丈夫ですが(むしろオーケー)、コールタールとなってくると正直ネバっこすぎてとてもハードなんです。キツいんです。
→コールタールのような世界観、素敵です。良い表現ですね。皆さんがドン引きなのを承知で、コールタールな世界を描いてひとり喜んでいるのが、金椎響だったりします。こう記すと、なんだか残念な奴ですけれど。

>そうですか、これが金椎響のもう一つの世界ですか。
→すいません。金椎響の作品って、もともと賛否両論だと思うんですけど、この作品は本当に好みが分かれたと思います。
 ただ、第三作目を書き終えた辺りから、自分を見つめ直して、わたしが書きたいものを書こうと思ったんですよね。……なんだか「それがこれかよ」って感じですけど。

>三つ目は「ハル」について。
>一人称は「わたし」を使ってるし、女性なんだと明確に描写されてるんですが、何故か私には「ハル」がとても男性的に見えてしょうがなかったんです。
>なんというか、上手く表現できませんけれど、この人の思考回路とか会話での態度とか雰囲気が、なんか男臭いんです。
→それはちょっとショックですね。
「ハル」が男性的なのは、きっと作者が雄々しいからなんだと思います(苦笑) ただ、これはわたしにとっては衝撃的な一言でした。今まで頂いた感想のなかで、こころにグサッと来た言葉でした。その辺は気をつけて書いたつもりだったのに……。精進します。

>ここまで悪条件が重なってる作品なのにどうして最後まで読んだのか、って疑問に思われるかもしれませんが、単に私のこだわりです。
→真柴竹門さんが最後まで小説を読むことは、他の方の感想を拝読させて頂いたので存じておりますよ。
 素晴らしいと思います。わたしには到底真似できない境地ですが、最後まで読んで頂き、こうして感想を記して頂けると、作者としても嬉しいです。
>そして何故この作品に二十点を差し上げるのか、0点じゃないのか?
>理由は『これは客観的に見て、くだらない作品なのか?』と考えてみたところ、感覚的に『いや、そんなことはない』という結論が出てきたからです。
>んでまあ二十点がなんとなーく妥当なラインでしょう、ってことで付けました。
→好みじゃないけど、客観的な見地に立って評価して頂けるのは、作者にとっては名誉なことです。特に、創作における技量を高める上で、客観的なご意見は非常に参考になりますし、次作への糧になります。また、感覚的にくだらなくない、と言って頂けるだけで救われた気分です。

 解決案、目を通させて頂きました。
 正直に申し上げまして、かなり良いと思います。
 というか、これこそまさに皆さんが求めていた『死の季節』なのだと思います。『新約 死の季節』ですね。

 関係ないですけど、わたしも一番最初はミステリー作家に憧れて、結構その手の本は読んだんですよ。
 今でも、なる気がないのに書店で幻冬舎の『ミステリー作家の書き方』とか目にすると、ついつい手にとってしまうんですよね。と言っても、今では好きな作家さんの小説論やどういうこころがけで小説を書いているのか、ある種のファンブックとして目を通している感じですけれど。
 
>「最初からプロットを立てて、それに沿ってエピソードを埋めていく」というやり方が無難じゃないでしょうか?
→その通りだと思います。
 ただ、当初の第四作目はそうやってプロットを書き上げた段階で、終わってしまったんですよね。構成とかストーリーラインに気を配れば配る程、自分の書きたかったものとは乖離してしまって、やる気が削がれてしまうというか……。燃え尽きてしまったんです。

>失礼ですが、どこにそんなミスリードがあったのですか? 別にミステリー作家を目指してるわけじゃないんですけど、後学のために詳しくお聞かせ願えませんか?
→ここで記さない理由は、下記にて記します。

>「作者からのメッセージ」の「哲学的なテーマ」の中に「イリア」というのがあってビックリしました。どこにそんな描写があったのだろうか、と。
→ここで記さない理由は、下記にて記します。

>はっきりいって作者の実力不足の一部が垣間見えた気がしました。作品の裏話ならオッケーですが、作中の解説を作者がするのは描写能力が足りてないことを明かしてるのと同じです。そういうことは作品の中で表現すべきです。
→真柴竹門さんの仰る通りだと思います。わたしも、自分の記した感想にこんなこと書かれるのであれば「それは御自身の作品のなかでやって下さい」と言ってしまうと思います。
 ただ、そのように言われますと、そもそも「ミスリードやイリアってどこ?」っていう疑問にはお答えできなくなってしまいますね。それらは全て、読者の方に気付かれなかった時点で、作者の落ち度な訳ですから。それに対して応答すると、「それは御自身の作品のなかで表現すべきでは?」と追撃されてしまうような……。
 わたし自身は基本的に、読者の方からの質問に関しては、描写不足あるいは作品のなかで表現すべきなどと評されても、解説することを厭わない態度で臨んできましたけれど、さすがにこのように言われては、わたしの口から申し上げることはできません。
 もっとも、作者の実力不足というのは御指摘の通りだと思います。というか、「垣間見える」どころの次元じゃないと思います。「素人」とか「それがどうした」等、散々な評価を頂いております。もっとも、実際その通りなので、わたしとしては悔しくても悲しくてもただ唇を噛み締めるだけですけど。

>逆にレヴィナスは「いや、存在自体には少しも『良い』ところなんてないよ。むしろ価値とか意味とかを求める人間が、無機質な『存在』に触れてばかりだと無価値に陥って苦しむんじゃないか?」と主張します(合ってる?)。
→少々噛み砕きすぎているかもしれませんけど、そういう理解で合ってるんじゃないでしょうか。わたしも、専攻違いなので完璧に理解している訳ではないので、正確なことが言えず、なんとももどかしい気分ですけれど。

>それでは予定通り二十点です。
>私には合いませんでしたが、良質な作品だと思います。
>長文、失礼しました。
→最後に「良質な作品」と評して頂けると、荒んだこころが和らぎます。
 酷評でしたが、それでも+20点(良かったです)という評価をして頂けた、真柴竹門さんの優しさに感謝です。
 あと、わたしの小説の感想に対して長文は全然失礼に値しませんから、大丈夫ですよ。むしろ、嬉しいくらいですから。わたしとコミュニケーションを取ろうと思っているんだな、なんて思います。

 わたし自身、こうして振り返ると、至らないところが多々あったと思います。
 そして、なにより作者にとって予想外だったのは、こんなにも多くの方に読んで頂けるとは思いませんでした。また、皆さんが予想以上に金椎響に良い意味で「期待」をしてくれていたことに、わたし自身が最後まで気付かなかったのは、頂けないことだと思います。

 最後に、真柴竹門さん、感想どうもありがとうございました。
 またこのような機会があった時は、あなたからの御意見を胸に、小説を綴りたいと思います。

pass
2011年01月14日(金)03時45分 真柴竹門  +20点
どうも、真柴竹門です。軽くゲ○ ピーになって体調が優れないのですが、治ってきたので感想を執筆します。やっぱりあのたい焼きが不味かったのかな?
約一週間前に読了したのですが、今頃になって感想を投稿です。遅くなってすみません。私は基本的に遅いんです。
んで、今回は前の「シャッターボタンを全押しにして」と違い、辛口評価です。
というのも、本作は自分に合わなかった点が三つもあったからなんですよ。まあこういう意見もあるんだなと参考にしてくださる程度で結構です。

まず一つ目ですが、この詩的な文章が合いませんでした。
私はとにかく格調高い文章を楽しむセンスが致命的に欠けてるんです。いちいち立ち止まって「どういう描写か? どういう意味か?」を脳内変換しながら読み進めるので、どうしても読書が大変になるんです。
美しい文章を解読しながら読むのは楽しい作業ですが、いかんせん体力がかなり消費されました。ぶっちゃけ本作品の全体像を捉え損ないまして、どういう物語だったのか僅かばかりしか把握しておりません。
えっと、電車で右京が「ハル」を助けて、単なるチョイキャラだと思ってた神奈が実は重要人物でして、神奈から右京の秘密が明らかにされて……え〜と? ヤバイ、間違ってる気がします(笑)。

>ありがとうございます。封印していた文体だったので大丈夫かな、と心配しておりました。

超個人的な意見を述べさせてもらうと、封印したままでいてほしかったです(笑)。

二つ目は、この作品の世界観や雰囲気。
「シャッターボタン」の時は『鉛色のような世界観』と高評価したのですが、今作品は一言でいうと『コールタールのような世界観』のように感じました。
基本的にエンターティメントを求める人間のためか、鉛色までなら大丈夫ですが(むしろオーケー)、コールタールとなってくると正直ネバっこすぎてとてもハードなんです。キツいんです。

>特に、処女作と本作には色々と力が入っています。むしろ、力が入り過ぎて色々と大変なことになってしまっているかもしれません。
>「この企画に投稿できる作品はこれで最後かも」なんて思ったら、ちょっと気合が入り過ぎてしまいました。

そうですか、これが金椎響のもう一つの世界ですか。残念ですが私はどうもついてこれない可能性が出てきました(笑)。

三つ目は「ハル」について。
一人称は「わたし」を使ってるし、女性なんだと明確に描写されてるんですが、何故か私には「ハル」がとても男性的に見えてしょうがなかったんです。
なんというか、上手く表現できませんけれど、この人の思考回路とか会話での態度とか雰囲気が、なんか男臭いんです。
ですから物語の始めから『「ハル」は女性なんだ!』と意識しようとしても、読んでるうちに違和感が出てきてしまって、最後まで楽しめませんでした。
他の方の感想を見てみると、そのように捉えたのは私だけみたいですね。どうも一般的な意見ではないようです。しかし、このせいで頭をズキズキさせながら読むハメになったことは確かなのです。

ここまで悪条件が重なってる作品なのにどうして最後まで読んだのか、って疑問に思われるかもしれませんが、単に私のこだわりです。
「意味がわからなくても最後まで読んでやる! 投げたら負けだ!」ってのが信条ですから、その意気で読了したにすぎません(まあ常に守ってるわけでもないんですが)。
そして何故この作品に二十点を差し上げるのか、0点じゃないのか?
理由は『これは客観的に見て、くだらない作品なのか?』と考えてみたところ、感覚的に『いや、そんなことはない』という結論が出てきたからです。
んでまあ二十点がなんとなーく妥当なラインでしょう、ってことで付けました。

さて、次は推理小説的な意見と、哲学的な意見の計二つを述べたいと思います。
では推理小説的な意見から。

>小学生みたいですけど、「なんだ、結局右京だったんじゃん」と思ったもので。
>そこで作者の構成力が、皆さまの希望に足りていなかったことは紛れもない事実だと思います。

というふうに全体のストーリーが甘い点が指摘されているようですね。じゃあこういう解決案はどうでしょう?
……とはいってもエンターティメント性を盛り込もうって言いたいんじゃあありませんよ。
まず結論として、「死者の国」で顔が塗り潰された右京のような女性が出てくるのですが、これを序盤のうちから影を取り去って「右京そっくりの人」だと読者や「ハル」に示すのです。しかも明るいヤツなのです。
するとどうなるか? 読者や「ハル」は、「死者の国」の設定から考えて「双子説」にまず飛びつくでしょう。何故なら神奈がそのあとに「三年前に」という何やら怪しい単語を口にするからです。
しかしひょんなことから「ん? ボクには双子なんていないよ?」と明らかにされたとします。そしたら『もしかしてわたし(ハル)と同じく右京にも「死者の国」へ行く能力があるのだろうか?』と推理するでしょう。
そのあとは「ハル」が「右京も上っ面ではニヒルなヤツを演じてたけど、本当は違うくせに騙してたんだ!」と仮面をつけてたことへの怒りを基点にドラマティックな展開をするも良し。
また「右京に「死者の国」を話してみようかな? というか右京はわたしに話す気があるのかな?」と葛藤するも良し。そのあとも「ま、興味ないや」と傍観者でいるのも良しです。
そして本編のように神奈から真相を聞かされる展開にしても構いません。作者がクライマックスの解説で「この物語は推理小説ではない、だからそこで読者に驚いてもらいたくなかったんです」とおっしゃってますもの。
重要なのは、これにより一本の「ストーリーライン」というのが出来上がることです。これにより読者は、自動車を運転しながら風景を眺めるようにストーリーの情報を探すことなく、電車に乗りながら楽々と風景を眺める感じになれます。
どうです? ミステリー野郎からの差し出がましい意見ですが、この「逆転の発想」はいかがでしょうか?(そんなにミステリーは勉強してないけど)。

>本作では自分の書きたいエピソードをとにかく書いて書いて書きまくった後に組み上げて、
>その後不要な場面や冗長な表現を削り落としているので、確かに構成に難なり、なのかもしれません。

まあ、ミステリーの世界では「解決編を作る前に問題編を書いて、あとから解決編を模索して書き上げる」という見切り発車的な書き方があるそうですが(未確認)、作者の書き方では無理なんじゃないでしょうかね? 酷い言い草ですけど(笑)。
実際、この見切り発車的な書き方は土壇場での実力が問われそうですし、運も必要になってくるでしょう。ですから「最初からプロットを立てて、それに沿ってエピソードを埋めていく」というやり方が無難じゃないでしょうか? つーか……

>その前に、顔無しの少女の正体が「ハル」自身かもしれないというミスリードがあったので、
>ここでは作中の順番を踏まえて、顔無し=右京を読者に認めてもらえるよう場面を重ねるべきだ、というのが作者の考えです。

失礼ですが、どこにそんなミスリードがあったのですか? 別にミステリー作家を目指してるわけじゃないんですけど、後学のために詳しくお聞かせ願えませんか?
作者としては穿り返されたくない話でしょうが、こういうのって成功談ばっかり聞いててもダメなんですよね。嫌ならいいけど。

最後に哲学的な意見を一つ。
「作者からのメッセージ」の「哲学的なテーマ」の中に「イリア」というのがあってビックリしました。どこにそんな描写があったのだろうか、と。それから……

>主人公がその問題に対して、ある意味「傍観者」的な立ち位置にあるので、いまいちドラマに迫力が欠けてしまっています。
>作者の見苦しい弁明と致しましては、主人公の「ハル」はある意味、ではなく本当に「傍観者」です。

……とありますけど、はっきりいって作者の実力不足の一部が垣間見えた気がしました。作品の裏話ならオッケーですが、作中の解説を作者がするのは描写能力が足りてないことを明かしてるのと同じです。そういうことは作品の中で表現すべきです。
残念ながら、私も「ハル」が「傍観者」なのかどうかよくわかりませんでした。つまりニヒリスト(負の感情を持った観察者)か傍観者(負の感情すら持っていない観察者)かの区別がつかなかったのです。
そこでイリアの話に戻るのですが、もしかして「ハル」はイリアの体現者なのですか?
「存在(イリア)」って確かレヴィナスがハイデガーの「存在(エートル、ザイン)」を批判するために用いた用語ですよね。
確かにハイデガーの言うとおり、存在がなければなーんも存在しません。それは認めますがハイデガーは「エートル、ザイン」を神秘的に崇め祭ってる節があります。
逆にレヴィナスは「いや、存在自体には少しも『良い』ところなんてないよ。むしろ価値とか意味とかを求める人間が、無機質な『存在』に触れてばかりだと無価値に陥って苦しむんじゃないか?」と主張します(合ってる?)。

>わたしはこめかみを漂う睡魔を振り切る様に(レヴィナスの不眠)
>痛みと格闘する中で、これもわたしの身体のなかで(イリヤの恐ろしさの一端)

……とも読み取れますしね。でもこれじゃあわかりにくいです。ニヒリストとの違いを出すためにもレヴィナスとハイデガーの対比をするようなシーンがあれば「ハル」の「傍観者」を強調できたんじゃないでしょうか?
例えばハイデガーを体現したエートル教師でも出演させて、「ハル」が『何だか変なの。わたし達はただ存在するだけなのに。そう、わたしのようにただ見るだけ。それが存在』くらいの内面描写をさせてほしかったです。

それでは予定通り二十点です。
私には合いませんでしたが、良質な作品だと思います。
長文、失礼しました。

100

pass
2011年01月13日(木)01時31分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
<後半部分>

※このコメントはsvaahaaさんの感想に対する返信の「後半部分」です。
 この前に投稿した「前半部分」をご覧になって頂けると、幸いです。
 また、不定期で更新する恐れがありますので、ご了承の程をよろしくお願いします。

<1/15(土)追記>
1.感想欄を私信のように使えるのは、感想をしたためてくれた読者の特権であるとわたしは思います。作者間の交流、というのもこの企画においては重要な要素だと思いますので。無論、度が過ぎるといけませんけれど。
2.あれ、そうだったんですね……恥ずかしい。では、雷電やソリダスのお話になるのかな……ちょっと調べてみます。金椎響はゲーム音痴なので、ゲームをプレイする機会はないかもしれないので、プレイ動画やクリア後の感想を漁ってみます。
3.ちなみに、わたしが『MGS』シリーズについて、プレイしてないのにも関わらずなんとなく知っているのは、計劃氏の『ガンズ オブ ザ パトリオット』を読んだからだったりします。

<1/14(金) 追記>
1.そう言って頂けると、この企画に参加して長々と小説を綴っていた日々が報われます。
2.「そんなこと言われたって、べつに嬉しくなんてないんだからねっ!?」 ペンネームの読みは110K1さんのレスで書いたのですが、もしかして、わたしのレスを全て目を通してくれたのですか!? 本当に、お疲れ様です。
3.読まれたのですか!? 「ハル」の訪れる世界を「死者の国」と表現したのは、一重に『虐殺器官』のパロディ、というかオマージュです。金椎響の作風は森見富美彦氏と伊藤計劃氏の影響を色濃く受けていると思います。『MGS』シリーズはやったことがないのですが、「2」はシャドーモセス島でリキッドが出てくるお話でしたっけ? 「まだ終わってなーいっ!」

<以下本文>

>それに、終盤右京も死者の国に入れてましたけど、そのことがハルをさらに「部外者」にしていると思います。(……)他人を救うのか、自分が救われるのか、物語がどっちの話だったのかが不鮮明だったかなと思いました。
→一応、保健室での神奈の握手や、右京が「ハル」に傘を差し出す辺りで、「ハル」は救われて、そこからクライマックスにかけて、他人に無関心を貫いていた「ハル」は、「死者の国」について右京に話すばかりか、戸惑っている右京を慰めています。なので、一応救われて、救っている物語、なのだと思います。
 ただ、全体的に地味で、かつ説明不足な感は拭えず、読者の方々は納得できなかったと思います。その点については、猛省しております。

>さて、散々文句を垂れ流しといてこの点数は何だ、と思うかもしれません。説明は一言、ずばり「直感」です。
→実はわたしが求めていたものは、それだったりします。
 哲学性十点、萌え十点、文章力十点、構成十点、エンタメ性十点、計五十点満点……みたいな分析的な採点で点数をつけて頂くよりも、読者の方に直感で、感覚で「これ面白い!」って思って頂けた方が、作者として嬉しいです。
 個人的には、この企画で大賞を頂くことよりも、誰かのこころに残る作品を世に送り出せたことの方が、よっぽど嬉しいです。いや、大賞、頂けるのでしたら喜んで頂きますけれど(笑)

>あと、勝ち負けでいうと負けです。私の。なんというか、企画を通して全体的に(そもそもこの企画の作者さんの中で私が勝てた人がどれだけいるんだって話ですけどね)。
→わたしはあなたに勝てた、なんて思っていません。あなたはこの企画で一、二を争う点数を読者の方から頂いた小説家なのですから。多くの方が、あなたの作品を読み、楽しみ、笑い、そして感想を記し、点数をつけたのです。
 そしてなにより、わたしが「負けた」と思ったんですから、これはきっとわたしの負けなんだと思います。競争相手も好敵手もいないはずのこの企画で、そう思えた相手なのですから。
>この企画に次回があるかは不明ですが、もし今後このようなイベントで「金椎響」の名前を見つけたときには、勝手ながらそれを目の敵にしてその評価を上回れるよう努力したいと思います。
→誰かの目標になる、これほどまでに嬉しいことはありません。わたしはあなたにそう言ってもらえるような人間じゃないと思いますけれど、そう言って頂けたことは、本当に嬉しいです。

>ただ、作者さんも重々承知のことと知った上で私がいいだけなので書きますが――私の肯定は全読者の肯定ではありませんし、全読者の否定が私の否定ではありません。金椎響という作者のファンに半分以上なりかけている可能性のある私のいうことです。冷静さと分別を書いた大衆的支持者の戯れ言以上のものではないと思って、むしろ積極的に私以外の否定的意見に耳を傾けてください。
→実はですね、わたしはこの企画で欲していたのは、大賞の受賞ではなく、ファンだったりします。
 一人でもいい、いや一回だけでもいい。誰かに50点を入れてもらう。それが、この企画に求めていたものです。誰かにわたしの提示した世界を「最高!」って言って貰えること。それだけで、わたしのこころは満たされます。わたしが求めていた雰囲気や世界、あるいは生み出した人間の織り成す物語が、誰かの琴線に触れる。それはわたしにとって、大きな幸せなんです。

>とはいえ、あなたの作品を気に入った読者がいない、なんてことでは絶対にないので、そこは素直に喜んでいただけると私もどことなく嬉しいです(どうでもいいですけどね)。
→嬉しい。嬉しいです。そのように言って貰えることが、ただただ嬉しくいです。

>自然主義的に(……)
→さすがですね。わたしが長々と書いた問題提起をあっさりまとめられたばかりか、感想まで。
 個人的に、わたしはそこまで脳に縛られることを悲観的には捉えていなかったりします。一応、「哲学的な彼女」企画なので、そこをどうにかして、論点や主題、そして問題提起にするべく文章を弄っておりますけれど。

>もう一つ思いつきを書かせていただくなら(……)なので、私は常々「お前は俺だ」的なセリフに訝しみを覚えます。「死者の国」も「顔なし」も、結局は「形成史を名乗る構成史」でしかありえない。記憶の力は絶大で巧妙ですが、この二分法を自覚する限り、上のセリフを受け容れることはできないと思います(……)。
→「死者の国」については明言を避けますけれど、そのように捉えることは自然だと思います。
 というか、神経生理学や認知心理学で厳密に言うと、しっかり分けて考えなくてはならないのですが、わかりやすくアジェンダセッティングをしたかったので。現に、人格形成、ひいては意思決定において、過去の情報の蓄積って非常に重要なんですよね。前作の報酬系も、常に結果のフィードバックを受けて、欲求のプライオリティが変化しているんですよね。

>本当は自我関連についても長々と一説垂れたかったのですが……それをやると冗談抜きに長くなるので自重します。
→そう言われちゃうと、聞きたいです(笑) まぁ、またこのような企画があるかもしれないので、大切にとっておきましょう。

>願わくば再びの邂逅に恵まれんことを――などと気取りつつ、どうもありがとうございました。
→そうですね、またあなたに出会える日を楽しみにしておりますよ。

 最後に、svaahaaさん、本当にありがとうございました。
 実は、最後にラノベじゃない作品を投稿したのは、svaahaaさんに対する意地悪だったりもします。
 最後だから、自分の好き勝手に小説を書こう、とも思っていましたけど、svaahaaさんがとある方の感想に「小説に求めるものは娯楽」という言葉を見て、こころが決まりました。
 処女作はともかく、二作目と三作目は小説としての質はともかく、わたしらしさ、「金椎響」らしさが弱かったかもしれない、と思っていました。
 わたしが書きたい「小説」の形を模索しているなかで、今までわたしの小説を読んで下さったsvaahaaさんの目にどう映るか。最後の最後に、試したくなってしまいました。
 だから、「作者からのコメント」にも「ラノベらしさはない」みたいなことを書いてしまいました。最初、感想が頂けなくて、「なんだ、わたしの一人相撲だったか」とがっかりしてしまいましたけど、こうして感想を記して頂けた時は本当に嬉しかったです。それも、思ってもない高評価だったことは、本当に予想外でした。

 わたしの作品を全てに感想を記して頂けたこと、四作中三作に50点を投じて下さったこと、そしてなによりも嬉しいのは、わたしの築いた合計400頁にも及ぶ金椎響ワールドに訪れて頂けたことです。
 わたしの作品を読んで頂けたこと、本当に感謝しております。

 svaahaaさんの言葉が、小説創作において励みになったことは言うまでもありません。本当に、この企画に作者として参加できて良かった、なんて思っています。わたしが読者として参加していたら、こんなにあなたと言葉を交わす事もなかったでしょう。そう思うと、この偶然に対して素直に感謝したいです。

 svaahaaさん、本当に、本当にありがとう。
 またどこかであなたの名前を見る日を、わたしも楽しみにしております。

pass
2011年01月13日(木)01時18分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
<前半部分>

 svaahaaさん、こんにちは。作者の金椎響です。

 えっと、まず最初に。感想の文字数をオーバーしてしまいましたので、半分に分けたいと思います。
 また、後日改めて更新するかもしれませんので、お手数をおかけしますが、ご了承のほどを。「後半部分」冒頭において、追記を記しました(1月14日)。御確認して頂けると、幸いです。

 感想どうもありがとうございます。なんと金椎響の投稿した四作品全てに感想をして頂きました。わたしを最初から最後まで見守って頂けて、本当にどうもありがとうございます。
 うわっ、自分で言うのもなんですけど合計400枚ですよ……。本当にごめんなさい。

>年も明けてそれなりに経ったこのタイミングに感想をば。(……)参考になるかは不明ですけど、よろしければ。
→いえいえ、むしろ嬉しいです。この企画は「哲学的」なのですから、思ったことは率直に、考えたことは余すことなく綴って頂ければ、作者としてありがたいです。

>文章がおしゃれです。気が利いているというか、いい意味でひねくれている(?)というか。(……)個々の落ち度をネガティヴに捉えるよりも、そういう文章が書けるのだという自分の能力をポジティヴに評価してほしいですね(え、何様?)。
→ありがとうございます。処女作と本作の違いの一つは、表現だと思っておりますので、その点を評価して頂けると嬉しいです。もっとも、わたしの書く文章なので、なんだかおかしいことになっていますけれど。わたしがおかしいんで、全然おかしくないですね。……あれ!?
>(……)他の方のお墨付きに便乗して、私も作者さんの「ポテンシャルの大きさ」を評価したいと思います。
→ありがとうございます。普段、あんまり評価されることがないわたしとしましては、そんなお言葉を、しかも他ならぬsvaahaaさんから頂けると舞い上がってしまいます。

>私は「上嘉瀬右京」がお気に入りです。
→それは良かったです。個人的には、100枚という枚数を通して、登場人物を描くことを念頭に置いていたので、こうして登場人物に愛着を持って頂けると、作者としては嬉しいです。
>芝居がかったしゃべり方はともすれば記号的で人を選ぶかもしれませんが、こればっかりは私の趣味です ――右京はいい、実にいい(きっぱり)。
→ありがとうございます。
 これはギリギリまで悩みました。これは「前作との対比」とかそういう問題以前に、「記号的な人」というものを書くためにわたしは筆を握っている……というかキーを叩いている訳ではないので。
 しかし、最後の右京の変化(そして成長)を描く時に、端的に読者の皆様に提示できる変化だと思ったので、現在の形となりました。また、かつての自分との空白を埋めるために芝居がかった風で「装っている」のであれば、物語と矛盾はないかな、なんて。
>記憶喪失で過去の自分との断絶に悩む、というのも私にはどストライクのテーマでして、王道といったらあれかもしれませんが、とにかく好きです。
→第二作で取り上げた「過去と現在の自分の断絶」というテーマを突き詰めたかった、という意図もあります。

>もちろん(?)、「わたし」こと「ハル」や「神奈」もよかったです。私は女子高生になった経験などありませんが、等身大の彼女たちが横浜の街に息づく姿を思い描くことができました。
→どの作品のどの登場人物にも思い入れがありますが、彼女達三人はわたしの中で娘みたいなものなので、そう言って頂けると嬉しいです。
>前半でハルが神奈をうとましく思い、後半でそれが自分勝手な想定に起因するものだと気づくという展開は、なんといか「リアル」な成長を表していると思います。(……)前半を読んだ時点でなんとなくその展開が読めてしまったということがあります。嘆くべきは展開のお約束化ではなく、人間の成長モデルが一般的に認知されていること、なのでしょうかね?
→物語的には、ここから「ハル」の他者に対する心境が大きく変わる場面だったので、ここは読者の方に展開が読めるのを覚悟の上で書かせて頂きました。もっとも、この小説では「展開が読めなくてハラハラ」というエンターテイメント性は捨ててでも彼女達を書くぞ、なんて思っておりました。捨てちゃ駄目じゃない、エンタメ性……。
「お約束」については、難しいところだと思います。ベタで手垢のついたものが好きな方もいらっしゃる一方で、常に斬新で新鮮なものを求める読者もいますから。これは一種のトーレドオフで、両立させるのは大変だと思います。まぁ、作者の腕の見せ所、なんでしょうけれど、わたしには荷が重すぎますね。

>ついでに。私も同じようなことをして指摘された経験を踏まえていいますが、一段落を特定のキャラクターに費やして彼/彼女を「説明」するというのはどうも禁じ手のようです。(……)内容には関係なくこういう形式の文章を挿入することがそもそもダメなんでしょうね。以後、気をつけます(私が。え?)。
→実は、わたしはこの禁じ手的な手法が好きだったりします。森見登美彦氏の作品群でこの手法を見て、衝撃を受けまして。
 あと、好み以前の問題で、読者にこの作品のヒロイン上嘉瀬右京のディティールについて早めに知って頂きたかったんです。これが本なら、表紙や、ラノベでしたら最初の登場人物紹介で「ああ、右京ってこういう娘なんだ」って視覚的にわかりますから、この場面は不要なんですけど。
 また、この場面で間接的に「ハル」についても触れたかったので(少なくとも、平均よりも飛び抜けた容姿を持つ右京相手に、負けるけれどそれに次ぐくらいに「ハル」の胸は大きくて脚が細いんだ、みたいな)。
 特に、前三作では主人公についての外見的特徴はほとんどなかった(第二作目の「オレ」の目付きが悪……鋭い、くらい)ので、本作では、主人公の大まかな容姿がわかるようにしました。
 ただ、それが諸刃の剣で、読者の読むリズムを狂わすことは承知しておりますし、それ故そこで評価を大きく落とすことは甘受しなくちゃいけないと思っております。

>あとどうでもいいですが、「右京」は初作の「左近」と何か関係があるのかな、とか。
→当初は伊豆見左近のライバルキャラでした。「ぼく」を巡った三角関係、という設定は結局第一作では採用されず、後の第二作目に流用されることになりました。
 次の設定では、上嘉瀬「左」京で、伊豆見左近の娘でした(笑) 性格・容姿は本作の「ハル」みたいな感じで、ここで考えた上嘉瀬「左」京の設定が、後に「ハル」として引き継がれることになりました。
 最終的に、当初のライバルキャラに、アイディア段階の設定を少しずつ肉付けしていった結果、今の上嘉瀬右京の形に収まりました。
 直接的な描写は一切ありませんが、右京は伊豆見左近と交流があるかもしれませんね。右京は自分を詮索しない話相手を欲していたようなので。案外、相互不干渉主義を貫く伊豆見とは、仲が良いかもしれませんね。

>「ハル」は死の季節たる「冬」の対だから死者の国にいけるのかなと、とか。
→「死者の国」のディティールについては、読者の御想像にお任せします。
 作者的にも気に入っておりますし、この点については皆さんのイメージを大切にしたいと考えておりますので。普段は饒舌ですが、ここだけは口を噤みたいです。

>今回前作からのカメオ出演がなかったので(ですよね?)、勝手に妄想しただけです。
→そうですね。本作はカメオ出演はなかったです。というのも、前三部作で一区切りがついたつもりだったので。
 本当の第四作目では、三人称小説で枚数は50枚、と決めていたのですが、結局プロットを書いて終わってしまいました。逆に、なんとなく場面だけ描いていた本作があっさり100枚を超えたので、「これは削れば投稿できるかな」と思ったので、急遽この作品を書きました(笑)
 ただ、第一作最後の場面の伊豆見と「ぼく」は桜木町駅からランドマークタワーを見上げていますし、二作目では真妃乃は登校や主人公と会う時は桜木町駅を利用しています。第三作目で「オレ」が転んだり、終盤で二人乗りしているところが桜木町駅沿いの道路なので、前三作の主人公陣が桜木町駅に集合している可能性はありますけど。

>最後に物語について。死者の国の顔なしが右京だったというのは本作の山場だと思います。(……)主人公にとってある種「他人事」だったというのは微妙に「肩すかし」です。しかも、右京の描写がことさらそれを臭わせていたので、記憶喪失という一点だけでは、顔なしが記憶を失う前の右京だったというのはインパクトに欠けました。小学生みたいですけど、「なんだ、結局右京だったんじゃん」と思ったもので。
→何分、現実的な心情の変化だったので、ここで「ハル」が張り切るのも不自然かな、と踏み止まってしまいまして。
 あと、顔無しの少女の正体を、推理小説風に迫っていくのは作者の技量では枚数的に無理でしたので、最初から諦めておりました。顔無しの少女が「ハル」自身だった、というミスリードまでで限界でした。こればっかりは、作者の未熟さ故です。
 むしろ、できないことがわかっていたから、最初からエンタメ性を切り捨てて、地に足つけていこう、みたいな感じで驀進してしまいました。

pass
2011年01月13日(木)00時42分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 酉野目さん、お久しぶりです。『Terminal』で読者として感想を書き込ませて頂いた金椎響です。
 この度は、わざわざわたしの作品を読んで頂き、ありがとうございました。
 そして、返信が遅れてしまって、申し訳ございませんでした。遅ればせながら、以下、感想に対する返信を綴っていきたいと思います。

 最初に、二百を超える作品が投稿される本企画において、そのなかからわたしの作品を読んで頂けて本当に嬉しいです。
 次に、こうして感想を記して頂けたこと、感謝しております。

>まず思ったのは、私はこの作品の空気が好みだと言うことです。
→そのように評して頂けると、純粋に嬉しい気持ちでいっぱいです。
 作者と致しましては、端的に「作品の空気が好み」と言って頂けると、それだけでこの作品を書いた甲斐があった、と思います。
 酉野目さんのその言葉が、金椎響の手を動かしております。一人孤独にパソコンに向き合う時、読者の皆さんのポジティヴなお言葉が、わたしの原動力です。
>読者を急かさずに世界においてくれる空気が。頭の気怠さが吹き飛ぶような刺激はありませんが、心地よさがあります。
→ありがとうございます。
 今回の作品では世界観・雰囲気作りに渾身の力を込めたので、そのようなお言葉を頂けると、作者冥利に尽きます。
>そこが欠点とも言われているようですが、今の私にとっては欠点ではありませんでした。
→フォローありがとうございます。
 なんだか駄目な作者ですね。読者の方に助け舟を出してもらっているうちはまだまだなんでしょうけど、今の私にとっては、これほどこころ強いお言葉はありません。

>いやしかし、この質と量がある作品をいくつも投稿する金椎響さんは敬意に値します。素晴らしいです。
→ありがとうございます。
 量はともかく、質についてはマチマチだったりします(笑)
 特に、処女作と本作には色々と力が入っています。むしろ、力が入り過ぎて色々と大変なことになってしまっているかもしれません。
 逆に、二作目・三作目はライトノベルって感じに仕上げたつもりです。なんて言って、宣伝をしておきます。特に三作目は駄作な感じがしますので、皆さんから率直な感想が頂けると嬉しいです。

 酉野目さん、感想どうもありがとうございました。
 最後に、この作品の空気を好きだと言って貰えた時、本当に嬉しかったです。
 わたしを支えているものは、読んで下さったばかりか、わざわざ感想を記してくれた皆さんからの暖かい言葉だったりします。
 挫けそうになった時、もう自分には小説が綴れない、なんて思った時は、酉野目さんの言葉を思い出して、キーを叩きたいと思います。

 酉野目さん、本当にありがとうございます。

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2011年01月13日(木)00時38分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 佐々みことさん、こんにちは。作者の金椎響です。応答が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

 最初に、多くの作品が投稿される当企画において、わざわざわたしの小説を読んで頂いたこと、感謝しております。

 次に、100枚というこの企画ではヘビー級の枚数の小説を、最後まで読んで頂いて、本当にありがとうございます。

 そして、読んで頂いたばかりか、こうして感想を記して頂けたこと、感謝しております。
 読者の方々のお言葉によって、わたしは支えられておりますので、率直に嬉しいです。

>長かったです。でも読めました。
→お疲れ様でした。
 なんだか読者の皆さんに対して、申し訳ない気持ちで一杯ですが、広い心で許して頂けると幸いです。
>丁寧な文章だと思います。少し丁寧すぎるかもしれません。
→「この企画に投稿できる作品はこれで最後かも」なんて思ったら、ちょっと気合が入り過ぎてしまいました。
 感受性の高い「ハル」の個性だと思って頂けると、作者としましては嬉しいです。
>この量を四作……。私には、とてもできそうにありません。
→わたしは逆に、20枚のショートショートでまとめあげてしまう皆さんの方が凄いな、などと思っております。
 四作目は50枚に収めてやる、と意気込んでいたのですが、あっさり100枚を大きく超えてしまいましたから。どうにかして100枚に収めるべく、パソコンの前で格闘する羽目になりました(苦笑)

>野々宮真司さんと同じことを言うようでなんですが、構成に甘さがあるなという印象を受けました。
→いえいえ、思ったことを率直に言って頂けると、作者としては有り難いです。
 本作では自分の書きたいエピソードをとにかく書いて書いて書きまくった後に組み上げて、その後不要な場面や冗長な表現を削り落としているので、確かに構成に難なり、なのかもしれません。
 今回、予想を超える読者の方々に本作を読んで頂き、また皆さんがわたしにエンターテイメントや、構成等の全体的な小説の完成度を求めていることがわかりました。
 今後は、佐々みことさんをはじめとする皆さんの声を活かして、今まで以上に構成にも気を使っていきたいと思います。
>しかし、この作品の全体を貫く雰囲気や世界観には、いわく言いがたい魅力を感じます。
→ありがとうございます。
 その言葉を聞ければ、作者としては大満足です。
 佐々みことさんの言葉を胸に、自分の技量を磨いていきたいと思います。

>この先、またどこかで、金椎響さんの作品を目にすることを楽しみにしています。
>ありがとうございました。
→いえいえ、こちらこそ。わたしの小説を読んで下さって、ありがとうございました。
 わたしも、またこのような企画で佐々さんと出会い、あなたの素敵な作品を読む日が来ることを、切に願っております。

 作者と致しましては、長い作品にも関わらず読んで頂いたばかりか、こうして感想を記して頂けたこと、本当に嬉しく思っております。
 特に、雰囲気や世界観を「魅力」と評して頂けたこと、作者冥利に尽きます。
 普段は、読者として参加するわたしですが、今回ばかりは作者として参加して本当に良かったと思っております。

 最後に、佐々みことさん、本当に、本当に、ありがとう。
 この企画を通じてあなたに出会えたことを、感謝したいと思います。

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2011年01月13日(木)00時33分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 モーフィアスさん、はじめまして。作者の金椎響です。
 モーフィアスさんのお名前は度々感想欄で拝見しておりました。この度は、わざわざ感想を記して頂いて、本当にありがとうございます。

 他の感想にて「慣れ合い不要」とのことでしたので、わたしもここでは気を遣いませんのであしからず。
 決して、あなたの言葉にキレて感情的になっている訳ではございません。下手な対応をして延々と感想を記さねばならなくなるのも大変なので、後腐れのない様にハッキリ言わせてもらいます。

>冒頭の表現だけ見ると、確かに数少ない、小説らしい文章です。そういう文章が書ける人のようですけど。
→ありがとうございます。
 読者の方から、それも意味のある言葉を紡ぐという心情をお持ちのモーフィアスさんからそのように評して頂けますと、作者としてこれ以上に名誉なことはありません。

>何十作品もこのサイトの作品を眺めて見て回った上での結論ですが、このサイトに投稿されている作品のほとんどは、小説というものを全く理解してない人が書いた心得ゼロ作品がほとんどです。
>その中で、数少ない、小説というものを理解している人に見受けられます、この作者は。
→わたしも当企画が始まった時から読者、そして作者として関わって参りましたが、時にはわたしもそのように思うことがありました。
 その中で、「小説というものを理解している」というお言葉を頂けたこと、嬉しく思います。

>けど、立て続けに100枚の作品を何作品も書くというのは、面白い作品を書こうとするのであれば、あり得ませんよ。
→ええ、あり得ません。詳しくは下記に記します。
>明らかに無意味に文章を水増ししなければ、到底、そんなに書けはしません。
→文章の意味を見出すのは、一重に読者の皆さまであると思います。なので、特に反論はありません。意味を見出してもらえるように描けなかった作者の不徳の致す点だと思います。
 ただ、モーフィアスさんが「無意味だ」と言うところに、意味を見出す読者の方々もおりますことを、どうかお忘れのなきよう。

>ただ、そんな無意味なドラマの中でも、何かしら頭を使って表現を作り込んでいるようなので、なるほど確かに小説の体を成しています。このサイトの平均と比べれば、たいしたものです。
→ありがとうございます。
 今まで我慢してきた表現方法だったので、それを率直に評価して頂けると、作者として嬉しい限りです。

 さて、以下モーフィアスさんの御指摘が続きます。
 個人的には、モーフィアスさんの分析は正しいと思いますし、わたし自身、読者として作品を見る時、また書店で本を購入する時、こういった「面白さ」を作品に求めることもあります。
 しかしながら、わたしはこの作品で(というよりも、わたしの書いた作品に通ずるかもしれませんが)、エンターテイメント性やドラマ性を軽んじています。
 この作品の「作者からのコメント」にも記した通りです。ライトノベル的な「軽く、笑える」展開は当初からわたしの眼中にありませんでしたし、この企画で最高得点を取ろう、なんて思って創作活動をしていた訳でもありません(無論、大賞を受賞できるのであれば、それはとても喜ばしく、名誉なことですけれど)。

 わたしは、この作品では「アマチュア」として自己表現をしています。
 ですから、わたしの自己満足・自家発電を読んで頂いてうっかり面白い、楽しい、あるいは考えさせられた、と思って頂ければそれでいいと考えています。わたしは基本的に、自分の書きたい事をただ書いているだけです。
 自己満足・自家発電となじって頂いて結構です。読者を蔑ろにしている、その通りです。

 ただ、わたしは他のなにかに縛られずに、ただ自分の効用を最大限に満たしたい。書きたいものを素直に表現したい。こうして投稿している以上、厳しいお言葉を頂くのも甘受します。作者の傲慢を非難されるのだって、受け止めます。ですが、わたしは基本的に、新人賞に投稿とかしない限りは、基本的にこの姿勢です。
 わたしの小説を読んでお金を払いたい、という方がいるならば、その方の御希望通りに、そして求められているものに対して誠実に小説を書こう、と思います。

 お気づきになられていないようでしたから言ってしまいますけれど、そもそも十代二十代の若い読者、それも普段ライトノベルを読んでいる様な若年層に対して、100枚という枚数で小説を投稿している時点で、わたしが読者の求めるものを積極的に描こうとしていないのではないか、と思いませんでしたか?
 わたしは「ハル」という一人称の語り部を通じて、上嘉瀬右京などの人間達を描きたかったんです。そして、彼女達を取り巻く世界や雰囲気をこの100枚という舞台に築き上げたかったんです。彼女達の「物語」を綴る。それが、わたしのやりたかったことです。

 わたしは「小説」が書きたいのです。
 数十枚程度の小ネタのライトノベルをちょろちょろっと書いて読者の皆さんに評価されたい、なんてわたしは皆目毛頭思っていません。
 自分の書きたいもので勝負したい。それが読者に求められていなくても、そもそもお呼びじゃなくても、です。その勝負の果てが負けであっても、自分を貫きたいんです。
 それは「言葉の洪水」とか言って、この企画で私的な実験をしているあなたと同じ次元の議論なんじゃないですか。あなたはこうも言っています。「懸賞小説でもないのにしっかり書くのなんて馬鹿らしい」と。モーフィアスさんはご自身の作品に対して真摯じゃない。わたしは読者に対して真摯じゃない。多分、そういうことなんだと思います。
 別に、わたしはモーフィアスさんの執筆姿勢にどうこういうつもりはないです。作者は作者なりの、読者は読者なりの哲学をもってしかるべきだし、ないのはないので問題です。
 それに、わたしのある種の傲慢な態度故に投稿した小説をまったく読んで頂けなくなるリスクは甘んじて受けれるつもりです。というか、そういう心積もりじゃなきゃ100枚も「無意味に」書いていません。

>ただでさえ、誰も彼も興味があるのは自分の作品だけであり、他人の作品には興味無いと言うのに。
→その通りだと思います。
 だから、真面目に作家を目指す方は、読者に振り向いてもらうために、努力を惜しんではいけないと思いますし、その努力ができない人間には商業作家は務まらないと思います。

>冒頭から、いきなり本題を書けばいいじゃないですか?
→そうだと思います。ただ、それは商業小説家志望の方に指南してあげて下さい。
 わたしのような、巷に蔓延るエンタメ小説を鼻で笑っている人間に言ったところで、どうにもなりません。お互いに不幸なだけです。

>到底最後まで読み進める気にはなりません。
→別に、無理して最後まで読んで頂かなくても大丈夫ですよ。わたしは「最後まで読まないくせに、文句をつけるのはおかしい」なんて恥ずかしいことは言いません。最後まで読者を惹きつけられなかった作者に、その責任があると考えております。

 無論、野々宮さんやモーフィアスさんのように、わざわざ作者の至らないところを御指摘下さるばかりか、進むべき指針を示して下さることには感謝しております。赤の他人なのに、こうして私的な時間を費やしてわたしに関わってくれる訳ですし、ライターズスクールでもないのに、わざわざありがたい助言をして頂いている訳ですので、その点は純粋に、ありがとうと感謝の気持ちでいっぱいです。
 なにより、わたしの小説に目を通して頂けた、その事実に対しては素直に感謝の念を持っています。

 最後に、色々と手厳しいながらも、真摯に感想を記して頂けたこと、感謝しております。
 小説に対する姿勢等、価値観の相違がありましたが、こうして読者の方から「本気で」感想を頂けたことを嬉しく思います。
 わたしも普段はここまで率直な物言いをしません。そう言う意味では非常に有意義だったと思います。

 あなたの「実験」が実りあるものになること、そしてあなたの言葉で皆さんが変化しより「面白い」作品が世に送り出されることを、わたしもまた切に願っております。

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2011年01月13日(木)00時23分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 110K1さん、はじめまして。作者の金椎響です。
 最初に、この度はご感想どうもありがとうございます。
 驚いたのですが、なんとわたしの投稿した作品全てに感想をして下さったではありませんか!?
 全四作、計400頁にも渡る金椎響ワールドを見て頂き、本当にありがとうございます。

 さて、本の巻末に記されている「解説」のような文言に驚いてしまいました。
 わたしとしましては、夢のような光景にただただ唖然としてしまいました。誰かにこうして、わたしの小説を「解説」して頂ける日が来るなんて、嬉しすぎて嬉しすぎて、なんだか鼻血が出てしまいそうです。

>私はこの企画を眺めていて苛立つことが多かった。もはや小説ではない。小説の条件である物語性、ひいてはテーマを欠いた作品があまりにも多い。私はそのことに怒りにも似た感情をずっと抱いていた。
→この企画で、物語性・テーマ性はあんまり求められていないですよね。
 わたしはその傾向に対して、残念に思っておりましたので、この度「作者」として参戦させて頂き、作品を綴っておりました。
 なにより、その点を純粋に評価して頂けると、作者としては嬉しい限りです。

>この企画において、やたら哲学と萌えに焦点が当たり、肝心の小説の議論は行われてこなかった。読者諸君は、投稿された小説を読んで、何らかの感情を、怒りや悲しみ、笑いを喚起されたのだろうか。
→この企画では、なるべく少ない枚数で読者をニコリとさせるような作品が好まれますからね。
 110K1さんの仰るような「小説」は、あんまり投稿されていないんじゃないかな、なんてわたしも思います。
 というか、わたしの作品がイレギュラーなんだと思いますけれど。いやはや、本当に申し訳ないです。

>読者はこの作品、ひいては金椎響の著作を語る時、ついつい百枚という枚数にばかり目がいってしまう。勘違いも甚だしい。それを褒めたところで何の意味もなさない。枚数だけが楽しさや面白さを生む訳ではあるまい。(……)そんな瑣末を褒め称えたところで失笑を買うだけだ。お前は作品を枚数で評価するのか、と。
→確かに、作品をただ枚数だけで評価するのは、喜ばしくないですね。作者としては、その枚数の中に綴られている人物や、出来事、世界観や雰囲気、顛末と読後感などもしっかり評価して頂けると幸いです。
 でも、「100枚」って結構インパクトがありますよね。皆さんが驚かれたり、呆れられたりするのも頷けると思います。

 以下、110K1さんの感想が続きます。
 作者的には、その点については読者の御想像にお任せ致します。
 特に、「死者の国」のディティールにつきましては、雰囲気重視ということで作者からはノーコメントということでよろしくお願いします。
 でも、こうして力強く解説して頂けると、作者は嬉しいです。わたしの全力を受け止めて頂いて、全力で紐解いて頂けると、作者冥利に尽きると思います。

>私は金椎響氏、という人を知らない。それ故、私が氏を買い被っているのかもしれない。しかし、それは些細な出来事だ。金椎響氏がこの小説を作為的に描いたとしても、意図せず生み出された偶然によって描かれたとしても、結果的に私がこの作品に文学性や哲学性を見出せることができれば、その時点で作者が勝っているし、楽しめた私もまた幸せなのだろう。読書というものはそういうことだ。
→なるほど、読書をそのように捉えることもできますね。なんだか学部生時代に学んだ「WIN−WINな関係」って感じですね。
 わたしもこの作品を世に送り出せて満足しておりますし、110K1さんがわたしの作品に満足して頂けたのであれば、それはきっとお互いに幸せなことだと思います。
 なにより、読者の方にわたしの作品を読んで「幸せ」と言って頂けたこと、それこそがわたしの「幸せ」です。

>想像の域を出ない与太話であるが、金椎響氏はこの作品をそもそもエンターテイメントとして描いていない恐れがある。ただ、「ハル」という人間を描いただけ、という徹底的なリアリズムの境地なのかもしれない。「ハル」という語り部が紡ぎ出す、人生と言う名の物語を淡々と描いただけなのかもしれない。
→一応、ダウナー小説と銘打ったので。一応、主人公の心境が変化しているので、写実主義的な「リアリズム」とはちょっと違う様な気がしますけど。どちらかというと、中間小説の亜種亜流、といった感じだと思います。
 少なくとも、わたしはエンタメ小説を書いている自覚はないですね。もっと硬派で「無意味」なものを綴っていると思います。

>私は金椎響氏の作品をずっと読んできたが、氏は作風を作品ごとに変えている。三作目で私の嫌いなエンターテイメントを重んじるライトノベルズに舵を切った反動が、この作品なのかもしれない。そうであったとするならば、金椎響は自身の作品の変遷にも、ある種の「哲学」を込めたに違いない。
>過去の自分の作品に対する疑い、自分の姿勢に対する検証、小説とは、物語とは、そういったものに対する氏なりのアプローチだったとするならば、もはや金椎響という作者自体が「哲学的」なのかもしれない。
→まさかの「哲学的な作者」!?
 処女作ではアウシュヴィッツを軸に哲学を展開しました。その後、書いている途中に浮かんだアイディアと今まで溜めてきたエピソードで二作目を書きました。その際、前作と対比になるように作品を作ったつもりです。また、この素晴らしい企画を機会に、自分のスタイルを再確認する意味も込めて、作風を変えていました。

>冬という死の季節。右京と神奈が呼ぶ「ハル」という名の主人公。冬の後に訪れる「春」という季節。
→気付いて頂けて嬉しいです。
 安直ですけれど、誰も指摘してくれなかったので。

>なんのことはない、私は作者の掌で踊らされていただけに過ぎない。しかし、私はこうして誰かの掌で踊り狂いたかったのだ。
→楽しんで頂けたのでしたら、作者としても嬉しいです。掌で踊らされる、って書かれると、なんだか悪女みたいですけれど。

>金椎響が送る『死の季節』。悲しい響きが送る死の季節。
→なんと、わたしのペンネームの意味まで読み説いてしまうとは、驚きました。
 いや、そのまんまなんですけど、今まで誰も指摘してくれなかったので。金椎響は「かなしいひびき」と読みます。「キンツイキョウ」とかじゃないですよ。

>読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて私はこの作品を拡大解釈して楽しむ。それがきっと、この企画でもっとも大きな幸せなのだろう。
→その通りだと思います。読者の数だけ、『死の季節』の捉え方があります。わたしの手を離れた瞬間から、物語は読者のものです。ですから、わたしがこうして作者としてつらつら書き綴る行為は本来的には駄目なんですよね。

 あと、読んでいてふと思ったのですが。
 110K1、イトーケーイチというお名前、そして、このハードボイルドな文体、もしかして伊藤計劃さんが好きだったりしますか? わたしも伊藤計劃さんのファンなので、サイトとか目にしているのですが、評論の仕方があまりにそっくりだったので。きっと、伊藤計劃さんが生きていて、わたしの作品を見たら、こんな感じになるんだろうなー、なんて思いました。

 最後に、110K1さんには感謝してもし尽くせないです。
 ハードボイルドな「解説」、50点という高い評価、そして、なによりわたしの小説を満足して頂けたこと。
 作者としては、ここまで肯定的に捉えて頂けると、本当に嬉しい限りです。

 110K1さん、本当に、本当にありがとうございました。この企画を通じて、あなたのような素敵な読者に出会えたことを、嬉しく思います。


pass
2011年01月13日(木)00時14分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 〓〓〓さん、感想どうもありがとうございます。
 ついに投稿数が200を超えた本企画において、わたしの小説を読んで頂いて、本当にありがとうございます。
 わたしの記念すべき第一作目『シャッターボタンを全押しにして』ではお世話になりました。こうして、また金椎響の作品を読んで頂いただけでなく、感想が頂けると本当に嬉しいです。

 ちなみに、感想につきましては、わたしの投稿した作品の全てについて、一通り目を通させてもらいました。
 少々お時間を頂くことになるとは思いますが、わたしの作品に対して感想をして頂いた皆さん全てに、返信する所存ですので今しばらくお待ち頂けると幸いです。

>読んで良かった、と思いました。
→その言葉を聞くと、作者として感無量です。
 わたしを支えているのは、読者の方々の率直でポジティブな言葉だったりします。その言葉が聞けるだけで、胸を張って生きていけそうな気がします。
>>満月が闇夜に浮かんでいる。
→闇夜は月のない夜なので、満月が浮かんでいるはずありません。
 で、普段でしたらここで作者がしゃしゃり出て解説をするところなのですが……。今回、「死者の国」のディティールについては、作者は明言を避けます。
 ここは、読者の解釈を尊重します。というのも、この小説では「死者の国」のイメージって結構重要だと思いますから。作者的にも凄い気に言っているので、安易な説明はやめておきます。
 本文に修正を加えたのは、単に日本語的な間違いを正す、という意味合いではなく、「死者の国」に関する読者への情報に手を加えた、と解釈して頂けると幸いです。

「ハル」の半身浴説、なんか凄い色っぽい。
 考えてみれば、「ハル」は雨で右京と一緒にぐっしょり濡れたり、お風呂に浸かったり、その後着替えたり、わたしの作品の中で珍しく「お色気」な感じです。 
 右京の発言からも、「ハル」はかなり可愛い女の子だと思うので、これは……いいんじゃないでしょうか(笑)

>この文で始まる章はおかしな点が山盛りです。
→というかですね、この作品は全体を通して、おかしいんです(笑)
 というか、そもそも作者がおかしい。うん、だから作品がおかしくなる。うんうん、全然おかしくないですよ。
>ですが、作者様を信頼して読み進んで大丈夫。
→小説には「信頼できない語り部」という言葉がありまして……(笑)
 この作品は「自分が生きているか死んでいるかわからない」みたいなお話ですので、語り部を信頼しすぎない方がいいかもしれません。先程の「満月と闇夜」みたいな明らかな矛盾を内包している作品なので。

>ヒロインの一人、上嘉瀬右京の容姿の描写から、マスクを被った犬神佐清をイメージしました。
→「キミね、ボクは一応この作品のヒロインなんだよ? ひどいじゃないか、スケキヨだなんて。もっとも、ボクも犬神家の一族は見たことがないんだけどね」
>スケキヨ右京で読み進めて、特に矛盾が起こりませんでした。良かったのでしょうか、ヒロインなのに。
→「良くない。それは実に良くない。せっかくハルがボクを抜きんでた美しさと評してくれたのに、マスクをしていたら台無しじゃないか」
>途中、主人公ハルと右京が同一人物かと思いましたが、やはり別の人なんですね?
→ご想像にお任せします。

>作中の「死後の世界」は現像用の暗室がモチーフでしょうか。作者様の前々作「シャッターボタンを全押しにして」からの連想です。
→読者の解釈を尊重します(棒読み)
 ちなみに、わたしの前々作は『哲学的な魔女、あとオレとか』だったりします(爆)。影が薄い次男をどうか忘れないでやって下さい(笑)

>「無機質なリノリウム」 
>なんとリノリウムは天然素材の有機物ではありませんか(石灰岩除く)。
→お恥ずかしいながら、存じておりませんでした。早速修正させて頂きます。

>「セピア色の思い出」
→お詳しいですね。これはわたしがカメラが好きだからですね。
>横浜ランドマークタワー着工が 1990年、竣工が1993年。
→え、結構最近なんですね。
>電子辞書が当たり前になったのは2000年くらいですか?
→わたしが中学生の時にはちらほら、高校時代にはほどほど普及していたと思うので、だいたい90年代後半から、遅くても00年代だと思います。

>そうか、ハルのお父さんは自宅の浴室を暗室に改造したから、娘と仲良くできなくなったのですね。
→ここに『新約 死の季節』が生まれたのであった(笑)
 今度、自分の作品のパロディを書いてみようかな、なんて本気で思ってしまったではありませんか。スケキヨは「ちょっと……」ですけど、ガ●ダムみたいにスタイリッシュな仮面を被った右京とか、結構アリかもしれませんね。

 最後に、とうとう200を超える作品が投稿される当企画において、わざわざわたしの作品をまた読んで頂いたばかりか、こうして単語一つ一つ真摯に、そして気さくな感想を記して頂いて、本当にありがとうございます。
 小説家というよりも詩人肌な作者と致しましては、こうして言葉で盛り上がれるのは楽しいです。
 作者としては、純粋にわたしの築いた世界を堪能して頂けると、本当に嬉しいです。
 〓〓〓さん、本当にどうもありがとうございました。


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2011年01月13日(木)00時12分 金椎響 8tiPoznsKE 作者レス
 野々宮真司さん、はじめまして。作者の金椎響です。
 最初に、この作品を読んで頂いたことに対して、感謝の言葉を記したいと思います。本当に、ありがとうございます。
 企画もいよいよ終盤戦となり、100を超え200に迫る作品が投稿されるなか、わざわざわたしの作品を読んで頂けたこと、本当に嬉しく思います。

 そして、返信が遅れてしまい申し訳ありませんでした。「……わたしの作品なんて、どうせ誰も読んでくれない」なんて思って、年末年始の忙しさに甘えてチェックを怠っておりました。
 野々宮さんをはじめとする皆さんから、こんなに沢山の感想を頂けたこと、感謝しております。
 
>この短期間に100枚の作品を四作(笑)。しかも作品だけでなく作者コメントや他作品への感想も長い長い(笑)。
→作者はお喋りなもので(苦笑) 100枚の小説は読まれないだけ実害はないんですけど、皆さんの作品に対する感想が長いと嫌われてしまうだろうな、と思いながらキーを叩いております。迷惑千万な話で申し訳ないです。
>さて、では作品の評価ですが、金椎響さんに習って長めでいきます(笑)
→ありがとうございます。なんだか付き合わせてしまうようで悪いですけど、嬉しいです。

>まずは良かった点。第一に、文章が読ませます。ただ読みやすいだけでなく、詩的な装飾もきちんとあって、なかなかいい雰囲気の文体ですね。
→ありがとうございます。封印していた文体だったので大丈夫かな、と心配しておりました。野々宮さんにそう言って頂けて安堵しております(笑)
>ところどころ凝りすぎて不自然になっている箇所もないではないですが、全体的によく練れた文章と言っていいでしょう。
→自分でもやりすぎちゃったかな、と思うところがあります。しかし、それも主人公の「ハル」らしさかな、と思ったので、表現に関しては「やり過ぎ」なくらい書き込みました。
 作者の満足度で言えば、この作品が一番「金椎響」らしさが爆発していたかもしれません。それくらい、文章については張り切ってしまいました。
>第二に、「引っぱり」の技術が優れている点です。顔のない少女、右京の「三年前の事件」、主人公の過去など、物語全体にさまざまな謎が散りばめられているため、長くても最後まで興味を失うことなく読むことができます。長い話を最後まで読ませるためには、謎で引っ張るのが有効な手法ですが、そういう技術はしっかり身につけられています。さすがですね。
→ありがとうございます。野々宮さんにそう仰って頂けると、たとえそれがお世辞でも凄く嬉しいです。

>次に、良くなかった点ですが、一言で言えば、全体的に「ドラマの盛り上がり」が足りないってことですね。(……)全体の組み立てがいまいち上手くない、という印象がします。
→野々宮さんの御指摘の通りだと思います。
 ただ、作者からのコメントで記した通り、ドラマ性やエンターテイメント性で読者を惹きつけようという意図は、当初からまったくありませんでした。「ハル」と右京をとことん掘り下げる、それがこの小説でわたしが行いたかったことです。
>第一の理由は、主人公の立ち位置です。本作の中心的な謎は、右京の過去にあるわけですが、主人公がその問題に対して、ある意味「傍観者」的な立ち位置にあるので、いまいちドラマに迫力が欠けてしまっています。
→作者の見苦しい弁明と致しましては、主人公の「ハル」はある意味、ではなく本当に「傍観者」です。
 愛称や下の名前で呼び合う神奈との関係も「なんとも思ってないだけだ」と「あっさり言ってしまう」くらい興味がないんです。
>もっと主人公をドラマの核心部に向かって踏み込ませる必要があるのです。そのためには、主人公が抱えている「過去」の問題をより克明に描き出し、そこに右京の抱えている問題と「共通性」があることをしっかり表現していく必要があります。
→なるほど。確かに、野々宮さんの御指摘通りだと思います。
 わたしは「死者の国」に訪れることができ、死んでしまった家族のなかで一人だけ生き残った「ハル」と、三年前の出来事によって劇的に変わってしまった右京の闇が同一であることを主張していたつもりだったのですが、御指摘を受けて改めて見返すと、ちょっと足りなかったかもしれません。
 それは作者の技量不足以前に、認識不足だったと思います。

>第二の理由は、主人公や右京が立ち直っていく理由が曖昧であることです。(……)マイナスからプラスに切り替わる「ドラマティックなポイント」がないので、いまいちストーリーが盛り上がっていません。
→わたしとしましては、野々宮さんが言う『ドラマティック』かどうかはともかく、保健室で神奈と手を握る場面、軽蔑されるのを覚悟の上で「『ハル』と呼んでもいいかい?」という場面、そして「死者の国」から帰った後のやりとり、と大まかに見て三つの場面で伏線を張っていたつもりだったのですが。それが上手く読者に伝わっていなかったみたいなので、今後は改めていかなければならないと思います。
>しかしながら、物語においては、やはりマイナスをプラスに切り替えるための、何らかの「決定的な出来事」が必要であると私は思います。
→確かに、それは御指摘の通りだと思います。
 ターニングポイントを「劇的」に描けなかったのは、一重に作者であるわたしの落ち度だと思います。
>小説とは現実を忠実に描き出すためのものではなく、読者を楽しませるためのものだからです。
→野々宮さんの仰る「小説」は、恐らくエンターテイメント小説やライトノベル、大衆小説のことを差しているのだと思います。
 わたしはこの作品を、大衆小説、エンタメ小説として描いていません。「作者からのコメント」にダウナー小説、と銘打った通りです。純文学ほど芸術性を追求している訳でもないので、中間小説の亜種・亜流みたいな感じでしょうか。
 わたしの作風はもともと、ドラマ性――緊張し感激させる要素やエンターテイメント性――娯楽要素が少ないと思います。雰囲気・世界観、あるいは主題重視の作品を主に描いているわたしとしましては、そう言われると、なんとも返答に困ってしまいます。

>第三の理由は、「顔のない少女」の正体が分かるタイミングの問題です。彼女が顔を露にする瞬間は、物語のひとつのクライマックスと言ってもいいところなんですが、この時点ですでに読者には彼女の正体が分かってしまっているので、驚きが全くないんですよね(汗)
→わたしとしては、この物語は推理小説ではない、だからそこで読者に驚いてもらいたくなかったんです。
 むしろ、顔無しの少女の正体が右京だった、という唐突な事実を突き付けて、読者をげんなりさせたくなかったんです。
 その前に、顔無しの少女の正体が「ハル」自身かもしれないというミスリードがあったので、ここでは作中の順番を踏まえて、顔無し=右京を読者に認めてもらえるよう場面を重ねるべきだ、というのが作者の考えです。

>文章やキャラクターの造形についてはよく練られていると思いますので、あとは物語をドラマティックに盛り上げていくための「構成」を工夫してみるといいでしょう。
→確かに、わたしはこの小説をエンタメ小説として描いているつもりはありませんでした。
 しかしながら、寄せられた感想を見てみると、予想外に皆さんが金椎響に対して求めているものが大きくて驚きました。わたしの小説は、この企画ではマイナーだと思っていたら、処女作は王冠を頂きましたし。本作でもまさかこんなにも多くの読者の方から感想を頂いたばかりか、実は期待されているとは、露とも思いませんでした。
 それを思うと、期待していた読者の皆さんの気持ちを、結果的に裏切ってしまったと思います。

 言い訳に聞えてしまうかもしれませんが、作者はこの作品を自身の墓標みたいな感じに捉えています。最後の作品として、割り切って自分の好きなように書いた、という感じです。
 ですから、ここまで皆さんの反響を頂けるとは思ってもみなかったです。

 また、改めて振り返ると、この作品は大まかな構成よりも先に、場面を描いて描いて書きまくって、その後に不要な場面を削り、がしゃがしゃ組み替えていった経緯があります。
 そこで作者の構成力が、皆さまの希望に足りていなかったことは紛れもない事実だと思います。仮に、この作品がエンタメ小説じゃなかったとしても、作者にその意図が毛頭なかったとしても、その技量が作者になかったことは素直に認めねばなりませんし、この御指摘は非常に有り難いです。

>金椎響さんはすでに「量を書く」能力を持ってますので、ある意味もう勝ったも同然です(笑)。その勢いで驀進していってください。応援しております。
→応援ありがとうございます。この勢いで驀進しちゃっていいのかな、なんて思ったりしますけれど(笑)

 一部、作品の方向性や小説観で食い違いはありましたが、作者にとってためになる、極めて有益な感想だったと思います。
 将来、わたしが血迷って(?)新人賞とかに投稿する際、あるいはエンタメ小説を書く機会には、野々宮さんの御指摘を踏まえて、小説創作を行っていきたいと思います。
 なにより、100枚という枚数の小説をわざわざ読んで下さったばかりか、こうして丁寧な感想を、しかもわたしに合わせて長く書いて頂けること、これ以上の幸せはありません。
 野々宮さん、真摯な感想、どうもありがとうございました。
 この企画を通じて野々宮さんと出会い、こうしてわたしの書いた小説を通じて言葉を交わせたことに、改めて感謝したいと思います。

 野々宮さん、どうもありがとうございました。

pass
2011年01月06日(木)11時32分 svaahaa I0z7AdLSAc +50点
 年も明けてそれなりに経ったこのタイミングに感想をば。すでにいろんな方がいろんなことをおっしゃっていますので、やはり参考になるかは不明ですけど、よろしければ。もはや恒例の超長文ですが、これも最後と思って恩赦をよろしくお願いします。

 まずは表現。全作通じてそうですが、文章がおしゃれです。気が利いているというか、いい意味でひねくれている(?)というか。少々それが濃過ぎる部分も散見されますが、個々の落ち度をネガティヴに捉えるよりも、そういう文章が書けるのだという自分の能力をポジティヴに評価してほしいですね(え、何様?)。私も最近考えが変わりまして、「やっぱり小説というのは気取った文章がないとダメだな」と思うようになりました。究極的な目標はその文体で自在に作品の雰囲気をコントロールできるようになることなのでしょうが、それにはまずその素地となる基本的かつ小説的な文章力がなければ不可能です。他の方のお墨付きに便乗して、私も作者さんの「ポテンシャルの大きさ」を評価したいと思います。

 次に登場人物。作者さんの意図からすれば当然の結果かもしれませんが、私は「上嘉瀬右京」がお気に入りです。芝居がかったしゃべり方はともすれば記号的で人を選ぶかもしれませんが、こればっかりは私の趣味です――右京はいい、実にいい(きっぱり)。記憶喪失で過去の自分との断絶に悩む、というのも私にはどストライクのテーマでして、王道といったらあれかもしれませんが、とにかく好きです。
 もちろん(?)、「わたし」こと「ハル」や「神奈」もよかったです。私は女子高生になった経験などありませんが、等身大の彼女たちが横浜の街に息づく姿を思い描くことができました。前半でハルが神奈をうとましく思い、後半でそれが自分勝手な想定に起因するものだと気づくという展開は、なんといか「リアル」な成長を表していると思います。ただ無粋なことをいえば、私自身そういう経験に覚えがないでもないので、前半を読んだ時点でなんとなくその展開が読めてしまったということがあります。嘆くべきは展開のお約束化ではなく、人間の成長モデルが一般的に認知されていること、なのでしょうかね?
 ついでに。私も同じようなことをして指摘された経験を踏まえていいますが、一段落を特定のキャラクターに費やして彼/彼女を「説明」するというのはどうも禁じ手のようです。本作では右京について、それをしています。作者としては便利な方法なので、私もついついそうしたがるのですが、文章の流れを断ってまでするべきことではないのでしょう。そういうことは、本文の中にさりげなく「描写」としてちりばめなければならないらしい。これは世界観の設定などについてはよくいわれることですが、内容には関係なくこういう形式の文章を挿入することがそもそもダメなんでしょうね。以後、気をつけます(私が。え?)。
 あとどうでもいいですが、「右京」は初作の「左近」と何か関係があるのかな、とか、「ハル」は死の季節たる「冬」の対だから死者の国にいけるのかなと、とか、いろいろ邪推しました。作者さんにそれを説明する義務はありませんよ。今回前作からのカメオ出演がなかったので(ですよね?)、勝手に妄想しただけです。

 最後に物語について。死者の国の顔なしが右京だったというのは本作の山場だと思います。が、すでに野々宮真司さんの指摘にもあるように、それが主人公にとってある種「他人事」だったというのは微妙に「肩すかし」です。しかも、右京の描写がことさらそれを臭わせていたので、記憶喪失という一点だけでは、顔なしが記憶を失う前の右京だったというのはインパクトに欠けました。小学生みたいですけど、「なんだ、結局右京だったんじゃん」と思ったもので。それに、終盤右京も死者の国に入れてましたけど、そのことがハルをさらに「部外者」にしていると思います。死者の国に入り、そこに他人を導けるという「能力」は、ハルを「依頼されて人の過去のしがらみを取り除く」みたいな、いわば「代行者」の立場に置いているかと。なので、他人を救うのか、自分が救われるのか、物語がどっちの話だったのかが不鮮明だったかなと思いました。

 さて、散々文句を垂れ流しといてこの点数は何だ、と思うかもしれません。説明は一言、ずばり「直感」です。平凡な読者の素直な感想としてまったく中学生以下の品質ですが「おもしろかった」のですよ、ええ。それを理屈立てて説明することもできなくはないのでしょうが、とどのつまりどこかで破綻するかと思います。世の大半の読者は深く考えてせっせとレビューを書いたりなどしないのですから、これで許してください、はい。
 あと、勝ち負けでいうと負けです。私の。なんというか、企画を通して全体的に(そもそもこの企画の作者さんの中で私が勝てた人がどれだけいるんだって話ですけどね)。この企画に次回があるかは不明ですが、もし今後このようなイベントで「金椎響」の名前を見つけたときには、勝手ながらそれを目の敵にしてその評価を上回れるよう努力したいと思います。

 ただ、作者さんも重々承知のことと知った上で私がいいだけなので書きますが――私の肯定は全読者の肯定ではありませんし、全読者の否定が私の否定ではありません。金椎響という作者のファンに半分以上なりかけている可能性のある私のいうことです。冷静さと分別を書いた大衆的支持者の戯れ言以上のものではないと思って、むしろ積極的に私以外の否定的意見に耳を傾けてください。
 とはいえ、あなたの作品を気に入った読者がいない、なんてことでは絶対にないので、そこは素直に喜んでいただけると私もどことなく嬉しいです(どうでもいいですけどね)。

 以下、心底どうでもいいこと。本作に触発されて私が考えたことです。

 自然主義的に倫理や道徳を「個体および種の保存を最適化するために自然発生した一つの方法」と解釈するなら、その動機と解されている生命に対する「尊厳」や「崇高さ」といった価値は、その機能を果たすために持ち出された、それ自体やはり自然発生した「裏付け」に過ぎないともいえると思います。「倫理的価値は内在的か外在的か」なんて議論がありますが、上述の観点からすれば、その答えは「より倫理や道徳を神聖かつ不可侵なものに仕立て上げやすい方」であればどちらでもいいんじゃないでしょうか。これは単なる思いつきですが――論理や合理性といったものが脳構造に左右されるある種「偶然的なもの」であり、しかもその脳構造もまた「種の保存」やら「優良遺伝子の継承」のために最適化されているのだとすれば、われわれの脳が到達可能な論理的・合理的帰結の多くは、倫理や道徳に対して「必然的に」肯定的にならざるを得ないのではないかと思いました。もちろん、このような再帰的・メタ的な思考もまた、回り回ってそれに寄与するのではないかと。人間の複雑さを鑑みれば、それも当然かなぁ、なんて――以上、単なる思いつきでした。付け加えると、私自身はこの思いつきには懐疑的です。倫理性はともかく、合理性までそういってしまうのは早計かと(ならなぜ書いた)。

 もう一つ思いつきを書かせていただくなら――世界に「形成史」は存在しえず、ただ「構成史」があるだけ。それが記憶の、引いては世界の「本性」ってやつかなあと思いました。なので、私は常々「お前は俺だ」的なセリフに訝しみを覚えます。「死者の国」も「顔なし」も、結局は「形成史を名乗る構成史」でしかありえない。記憶の力は絶大で巧妙ですが、この二分法を自覚する限り、上のセリフを受け容れることはできないと思います――と不明瞭なことを書きましたが、どうか勘弁してやってください。

 ――とまあ、とりとめのないことを書いたのは、作者さんの問題提起が今回もうまくいっていたことを証する、私の「実演」だと思って流してください。本当は自我関連についても長々と一説垂れたかったのですが……それをやると冗談抜きに長くなるので自重します。

 願わくば再びの邂逅に恵まれんことを――などと気取りつつ、どうもありがとうございました。

(1/13 追記)レスを読み終えて付言をば少々。
一、私もエンタメではない部分でこの作品を面白いと感じたのだと思います。
二、わ、私だって「かなしいひびき」の読み方には気づいてたんだからねっ。
三、『虐殺器官』読了。改めて作者さんに対する氏の影響と存在の大きさを知りました。『MGS2』のテーマを引き継いだ(と私が解釈する)氏の夭折が悔やまれるばかりです。

(1/14 追記)ここを私信みたいに使ってすいません。もうこれで本当に最後です(汗)。
・リキッドが出てくるのは『MGS』です。調べれていただければすぐわかると思います。私が「MGS2のテーマ」といったのはゲーム終盤での長い会話のことです(少年時代の私はそれに打ちのめされました)。もしプレイする機会があれば是非どうぞ。伊藤氏に対する解釈が変わるかも?
113

pass
2010年12月29日(水)19時36分 酉野目  +20点
 頭がすっきりしない寝起きのような状態で読んでしまい、申し訳ないのですが、感想を書きます。

 まず思ったのは、私はこの作品の空気が好みだと言うことです。読者を急かさずに世界においてくれる空気が。頭の気怠さが吹き飛ぶような刺激はありませんが、心地よさがあります。そこが欠点とも言われているようですが、今の私にとっては欠点ではありませんでした。
 
 いやしかし、この質と量がある作品をいくつも投稿する金椎響さんは敬意に値します。素晴らしいです。
119

pass
2010年12月28日(火)11時31分 佐々みこと  +20点
 こんにちわ。読ませていただきましたので、感想を。
 長かったです。でも読めました。
 丁寧な文章だと思います。少し丁寧すぎるかもしれません。
 この量を四作……。私には、とてもできそうにありません。
 野々宮真司さんと同じことを言うようでなんですが、構成に甘さがあるなという印象を受けました。しかし、この作品の全体を貫く雰囲気や世界観には、いわく言いがたい魅力を感じます。
 この先、またどこかで、金椎響さんの作品を目にすることを楽しみにしています。
 ありがとうございました。
 
118

pass
2010年12月26日(日)04時27分 モーフィアス  +20点
 冒頭の表現だけ見ると、確かに数少ない、小説らしい文章です。そういう文章が書ける人のようですけど。
 何十作品もこのサイトの作品を眺めて見て回った上での結論ですが、このサイトに投稿されている作品のほとんどは、小説というものを全く理解してない人が書いた心得ゼロ作品がほとんどです。
 その中で、数少ない、小説というものを理解している人に見受けられます、この作者は。

 けど、立て続けに100枚の作品を何作品も書くというのは、面白い作品を書こうとするのであれば、あり得ませんよ。
 明らかに無意味に文章を水増ししなければ、到底、そんなに書けはしません。

 この作品、冒頭ではそれなりに作者が自分の考えみたいなことを書いているので、冒頭を無意味だと無碍に否定はできませんけど。
 でも、登場人物が出てきたあたりからは、特に意味のない、あるいはほとんど意味のないドラマが延々と続いています。
 これが、面白く無い。
 ただ、そんな無意味なドラマの中でも、何かしら頭を使って表現を作り込んでいるようなので、なるほど確かに小説の体を成しています。このサイトの平均と比べれば、たいしたものです。
 けど、表現を多少工夫したところで、ドラマ自体が無意味に続いていくのであれば、いかんともしがたく、面白くない。
 私の本日の代わり映えしない日常生活を、ブログに書いただけ、みたいなものです。
 これが売れっ子作家なら、そうやって特に意味のない展開を延々と書いても読者はそれなりについてきてくれるでしょうけど、素人がそれをやったら、すぐ飽きられますよ。
 素人のデビュー作品は、大作家の作品よりも面白くなければなりません。てか、大作家の作品が、実は面白くない。無意味なことをたくさん書いて水増ししてるから。
 特に素人には即効性が求められて、冒頭から面白くなければなりません。そうでないと、下読みにあっさりボツにされてしまうし、このサイトにしたって、誰も読んでくれませんよ。
 ただでさえ、誰も彼も興味があるのは自分の作品だけであり、他人の作品には興味無いと言うのに。

 私は小説投稿サイトというものを眺めて回りましたけど、素人はみんな、延々と冒頭から無意味なことを書きまくります。

1.情景描写
2.日常生活のどうでもいい一挙手一投足の実況生中継
3.人物やら架空の歴史やらの、解説・説明

 特に「2」が多く、この作品も、この「2」に該当します。

 冒頭から、いきなり本題を書けばいいじゃないですか?
 ここは面白い! と、自信のある場面からいきなり書き始めるべきではないですか?
 特に面白くもない場面を延々と書くのは止めて、作者が自分でメリハリつけて編集すべきではないですか?
 上嘉瀬右京なる人物の解説を書籍換算で1ページ以上も延々と書きまくるのは、明らかに読者を意識できていない証拠ですよ。
 情景描写やら一挙手一投足の実況生中継やら解説・説明やらが、面白いわけないじゃないですか。

 到底最後まで読み進める気にはなりません。
 作者の文章力はそれなりに認めますが、作品が面白いかどうかと言うのであれば、素人の陥る典型的な
 袋小路に陥っているというのが、私の判断です。
 文章力があるという点だけにおいて、20点としておきます。
118

pass
2010年12月25日(土)12時59分 110K1 KI8qrx8iDI +50点
 今まで傍観者として沈黙を守ってきた。しかし、ついに耐えかねて不本意ながらも書き込むことにした。読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて感想を送る。

 私はこの企画を眺めていて苛立つことが多かった。もはや小説ではない。小説の条件である物語性、ひいてはテーマを欠いた作品があまりにも多い。私はそのことに怒りにも似た感情をずっと抱いていた。そんな私にとって金椎響氏は私の求めているものを描いた。ただ、それだけだ。
 この企画において、やたら哲学と萌えに焦点が当たり、肝心の小説の議論は行われてこなかった。読者諸君は、投稿された小説を読んで、何らかの感情を、怒りや悲しみ、笑いを喚起されたのだろうか。自身の心に訴えかけるものがあったのか。読み終わった後に訪れる読後感を味わえたのか。作者が描く世界観や雰囲気を堪能できたのか。読後に何か思うところはなかっただろうか。私には他の読者の事はわからない。しかし、私はそうではなかった。

 読者はこの作品、ひいては金椎響の著作を語る時、ついつい百枚という枚数にばかり目がいってしまう。勘違いも甚だしい。それを褒めたところで何の意味もなさない。枚数だけが楽しさや面白さを生む訳ではあるまい。言葉を紡ぐ素地である以上、間接的に世界観や雰囲気に影響することはあっても、そんな瑣末を褒め称えたところで失笑を買うだけだ。お前は作品を枚数で評価するのか、と。

 この物語は、主人公が右京を救う物語ではない。他人に興味が持てず死を志向する主人公が前進するきっかけを掴む人間模様だ。そこには綺麗な友情はなく、ある種の同族意識であるが故の共感が彼女達を結び付けている。
 そしてこの物語で徹底して描かれているのは脱臭された死だ。死者の国で出会う顔無しは誰かわからない死そのものであるし、そもそも死者の国で出会う死者の生きた姿そのものが脱臭された死そのものだ。かつての右京の人格の死も、死者の国に足を踏み入れる主人公自体も、本来の死ではない死を纏っている。そんな無機質な死の風景、死臭の漂わない胸糞悪さを、感受性の高い女子高生の一人称で読者の前に提示する。淡々と物語を眺める読者の冷徹な視点に警鐘を鳴らす。死はお前達と無縁ではない、と。金椎響という人は簡単に死んでしまう無防備な生を、直接的な死の描写を抜きにして表現してしまう。まさに脱臭された死だ。
 一体、他の誰がここまでテーマを掘り下げて描いただろうか。ここまで真摯に小説を描いた人間がはたしてこの企画にいただろうか。それが、私がこの作品を評価する理由だ。私はこの作品で描かれている息苦しい雰囲気、そして重いテーマに対して敬意を表したい。

 私は金椎響氏、という人を知らない。それ故、私が氏を買い被っているのかもしれない。しかし、それは些細な出来事だ。金椎響氏がこの小説を作為的に描いたとしても、意図せず生み出された偶然によって描かれたとしても、結果的に私がこの作品に文学性や哲学性を見出せることができれば、その時点で作者が勝っているし、楽しめた私もまた幸せなのだろう。読書というものはそういうことだ。
 小説とは現実を忠実に描き出すためのものではなく、読者を楽しませるためのもの。あるいは面白さの追求。そういう意見を目にして私は幻滅した。それは各々の読者が各々の胸の内に抱く、極めて私的なものだ。
 現に、私のような読者だっている。小説に下世話なエンターテイメントを持ち込んで欲しくない、と思う読者が。ライトノベルズという薄っぺらさにがっかりする人間がいて、そういう人間が嬉々としてこういう小説を嗜むことを、忘れてはならない。
 もし読者が楽しんだか・楽しんでないか、面白いか・面白くないかという点に価値尺度を置くのであれば、百枚という小説を読ませられた時点で、それは読者の敗北だ。感想を送るなんてもはや白旗を振る様なものだ。例え作品に何らかの瑕疵があったとしても、だ。
 もっとも、読書に勝ち負けといった概念があればの話だ。無論、私は読者はそれぞれの小説観があってしかるべきだし、それを否定しない。私は自分の言いたい事をただ、言っただけだ。

 想像の域を出ない与太話であるが、金椎響氏はこの作品をそもそもエンターテイメントとして描いていない恐れがある。ただ、「ハル」という人間を描いただけ、という徹底的なリアリズムの境地なのかもしれない。「ハル」という語り部が紡ぎ出す、人生と言う名の物語を淡々と描いただけなのかもしれない。
 私は金椎響氏の作品をずっと読んできたが、氏は作風を作品ごとに変えている。三作目で私の嫌いなエンターテイメントを重んじるライトノベルズに舵を切った反動が、この作品なのかもしれない。そうであったとするならば、金椎響は自身の作品の変遷にも、ある種の「哲学」を込めたに違いない。
 過去の自分の作品に対する疑い、自分の姿勢に対する検証、小説とは、物語とは、そういったものに対する氏なりのアプローチだったとするならば、もはや金椎響という作者自体が「哲学的」なのかもしれない。

 冬という死の季節。右京と神奈が呼ぶ「ハル」という名の主人公。冬の後に訪れる「春」という季節。
 なんのことはない、私は作者の掌で踊らされていただけに過ぎない。しかし、私はこうして誰かの掌で踊り狂いたかったのだ。
 金椎響が送る『死の季節』。悲しい響きが送る死の季節。読者の数だけ解釈がある。その言葉に甘えて私はこの作品を拡大解釈して楽しむ。それがきっと、この企画でもっとも大きな幸せなのだろう。
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pass
2010年12月24日(金)21時53分 野々宮真司 H4HIQlHxIA +20点
 金椎響さん、はじめまして。野々宮と申します。
 この短期間に100枚の作品を四作(笑)。しかも作品だけでなく作者コメントや他作品への感想も長い長い(笑)。小説家にとって一番重要なのは質よりも量、すなわち「文章における饒舌さ」だと私は思ってるのですが、この点については申し分のない能力をお持ちの作者さんだと言えるでしょう。本当に羨ましい。
 さて、では作品の評価ですが、金椎響さんに習って長めでいきます(笑) まずは良かった点。第一に、文章が読ませます。ただ読みやすいだけでなく、詩的な装飾もきちんとあって、なかなかいい雰囲気の文体ですね。ところどころ凝りすぎて不自然になっている箇所もないではないですが、全体的によく練れた文章と言っていいでしょう。
 第二に、「引っぱり」の技術が優れている点です。顔のない少女、右京の「三年前の事件」、主人公の過去など、物語全体にさまざまな謎が散りばめられているため、長くても最後まで興味を失うことなく読むことができます。長い話を最後まで読ませるためには、謎で引っ張るのが有効な手法ですが、そういう技術はしっかり身につけられています。さすがですね。
 次に、良くなかった点ですが、一言で言えば、全体的に「ドラマの盛り上がり」が足りないってことですね。それぞれのキャラ造形や散りばめられた謎など、一つ一つの部品を取り出して見ればすごく良い仕上がりなんですが、全体の組み立てがいまいち上手くない、という印象がします。ドラマが盛り上がっていない理由は主に三つあります。
 第一の理由は、主人公の立ち位置です。本作の中心的な謎は、右京の過去にあるわけですが、主人公がその問題に対して、ある意味「傍観者」的な立ち位置にあるので、いまいちドラマに迫力が欠けてしまっています。もっと主人公をドラマの核心部に向かって踏み込ませる必要があるのです。そのためには、主人公が抱えている「過去」の問題をより克明に描き出し、そこに右京の抱えている問題と「共通性」があることをしっかり表現していく必要があります。そうすることで初めて、主人公が、右京の持つ苦しみにドラマティックに関わっていくことができるわけです。
 第二の理由は、主人公や右京が立ち直っていく理由が曖昧であることです。マイナスからプラスへ、苦しみから喜びへ、という物語の基本を踏まえたエンディングにはなっているのですが、マイナスからプラスに切り替わる「ドラマティックなポイント」がないので、いまいちストーリーが盛り上がっていません。
 物語の終盤で「決定的な出来事があったわけじゃない」と述べられているように、「些細な現実の積み重ね」によって彼女たちは少しずつ立ち直っていったのでしょう。実際、現実の世界において、人はそうやって回復していくことがほとんどです。しかしながら、物語においては、やはりマイナスをプラスに切り替えるための、何らかの「決定的な出来事」が必要であると私は思います。小説とは現実を忠実に描き出すためのものではなく、読者を楽しませるためのものだからです。
 本作は「主人公が、人格の断絶に苦しむ右京を救う物語」として要約することができると思いますが、ドラマを盛り上げるためには、主人公の苦しみと右京の苦しみを深くリンクさせた上で、「ドラマッティックな救済の場面」を用意するのが不可欠であろうと思います。これは、先に挙げた第一の欠点を克服することにもつながります。
 第三の理由は、「顔のない少女」の正体が分かるタイミングの問題です。彼女が顔を露にする瞬間は、物語のひとつのクライマックスと言ってもいいところなんですが、この時点ですでに読者には彼女の正体が分かってしまっているので、驚きが全くないんですよね(汗) 少女が顔を見せる前に、右京の過去の秘密が明かされてしまっているからそうなるんですが、これは「手品をする前にタネを明かす」ようなものです。右京の過去については少女が顔を見せた後で説明しなくてはなりません。上に挙げた二つほど本質的な問題ではないですが、ここはエンターテイメント作品として致命的なミスだったと思います。
 文章やキャラクターの造形についてはよく練られていると思いますので、あとは物語をドラマティックに盛り上げていくための「構成」を工夫してみるといいでしょう。金椎響さんはすでに「量を書く」能力を持ってますので、ある意味もう勝ったも同然です(笑)。その勢いで驀進していってください。応援しております。
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合計 9人 280点


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