クリスマスの過ごし方 by 土屋的な彼女
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『私はクリスマスが大好きだ。という私の発言からわかるように、私は極度のMである』

 本日はクリスマスである。そしてクリスマスという日には死と再生の意味が含まれている。ということは、この日のなかで、喜ぶ者と悲しむ者のそれぞれの集団ができることは集合論的に正しいということになる。これは公理系を鑑みてみる以前に、街中を見ても明らかな事実だ。

 この二つの集団については、文頭の発言を見たときの反応で判別がなされる。

 一方の集団は、私の発言を見て、どうしてクリスマスとマゾヒズムに関係があるんだろうと思った人達の集合である。この人達にとっては、Mという文字がはたしてマゾヒズムのことを表しているのかすらあやしく思われることだろう。極度のMときいて、Mという文字の角度が鋭角なのかとでも考えるかもしれないし、意味もなくマウンテンという言葉を連想するかもしれない。それくらい、この集合に属する人間にとってはクリスマスと苦痛とは結びつかない。この集団の人にとっては、クリスマスとくればそれには楽しさが結びつくのである。ではもう一方の集団はどうだろう。

 いわずもがな、もう一方はクリスマスが苦痛そのものでしかない人達のことで「クリスマスを楽しんでいる奴はマゾだ」という厳然たる真理を知っている人達のことである。この集団に属する人は、私のあの台詞を見て笑ったに違いない。そしてひっそり涙したに違いない。

 とにかく、クリスマスは苦痛を伴う。特に、恋人がいない者にとっては無我の境地に達することもある苦行である。(自己欺瞞に陥るともいう)

 ところで、どうにも私は今年もメリー苦しみますというギャグが好きになれない。こういった人は、どうしてメリーをメニーにしないのかはなはだ疑問である。この場を借りて言わせてもらうが、一人身で苦しんでいるのが自分一人だとでも思っているのか。ちょっと見てみればわかるが、街には多くの同志の苦しみがあふれているのだ。そんなときに、お前はそうやって涙ながらにくだらないダジャレを言っている場合か。たとえば、目の前にクリスマスなのにヒマそうな人間がいるじゃないか。その子を誘ってデートに行くということがなぜ出来ない。ちなみにヒマな女の子とは私のことだが、私だから誘わないといった理由は言ってはいけない。私がカワイイ人間であるということは、カワイイ、という言葉を抜けば「明らかにそうだ」と万人から言われることうけあいである。このように、私は明らかにデートに誘われる条件を満たしている。だが勘違いしてはいけないのは、誘われたからといって私がそこでイエスと答えるとは限らないということだ。(一番尊重すべき権利は、選ぶ権利だ)

 ちなみにメリーという言葉には、笑顔の同調を誘う一種の掛け声としての意味があるが、これは中々面白いことを示唆していると思う。理由は次の通りである。
「メリークリスマス」という言葉はつまり、クリスマスが楽しいという人にとっては単に「クリスマスおめでとう」という意味でしかないが、クリスマスが苦痛の代名詞となっている人にとってメリークリスマスとは「苦しいときこそみんな笑っていよう」という意味になるのだ。なんとなく、こちらのほうが人生の機微を見ている気がするではないか。そう考えると、自分がこちらに属する人間で良かったとはじめて思えてくる。一人身の苦しさを知っている人間で良かった。
 ここで私は、さらにこのことから何らかの哲学的見解を引き出せるのではないかと考え、両者の言葉をじっと見つめなおしてみた。そうするとぼんやりと、後者の方はただやせ我慢をしているだけの台詞のように見えてくる。しまった、調子に乗って見つめなおしたりなんかするんじゃなかった。これではまるで、私が一人身がたたってついに歪んでしまった人間みたいじゃないか。確かに私は歪んでいるが、一人身だったのが理由ではないはずだ。

 だがここでふと思い返してみれば、クリスマスの苦しみというのは相対的な不幸でしかなく、言ってみれば恋人達の幸せが羨ましいだけでしかないのだ。つまりクリスマスというのは恋人なんか欲しくない人(既婚者、すでに恋人がいる人など)にとっては、ただの祭日である。このことから私は、クリスマスに一人身の人間を救済する画期的な術を考え出すに至った。要は、みんなが「恋人なんか欲しくない人」になってしまえばいいだけの話なのだ。しかしこれは、「みんなも恋人を作ればいいのだ」という現場の実態を見ない蒙昧で冷血な発言ではない。私が言いたいのは、みんなも私と同じような「恋人なんか欲しくない人」になればいい、ということである。では、私の言う「恋人なんか欲しくない人」とはなんだろうか。

 個人的な話になるが、そもそも私は彼氏が欲しいとはあまり思ったことがない。少なくとも、食当たりで死ぬかと思うほど苦しんでいる最中はそんなことなど一ミリも思った試しがない。ここで言えることは、腹痛で苦しんでいる間は恋人なんか欲しくない人になれる、ということである。

 これを踏まえて、みんなもクリスマスには一つお腹を壊してみてはいかがだろうか。クリスマスで一人で馬鹿食いしているとそれはそれで可哀想な人にも見られるかも知れないが、腹痛で苦しめばそれどころではなくなるはずだ。こう考えていくと、腹痛というのは、精神的な面にも多用な効果を持っているものである。ストレスでやけ食いをするのは腹痛を引き起こすためだとも解釈できる。解釈だったら、どうとでも解釈できる。

 まとめると、クリスマスに食あたりを起こした今の私は幸せ者であるということだ。間違っても「クリスマスに一人身の女の子がいやし食いで腹を壊した」などと言ってはいけない。腹痛になって本当に良かった。
うみの えび 
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2010年12月24日(金)15時31分 公開
■この作品の著作権はうみの えびさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
悲しいことだけど今日はヒマだったので書いてみました。これだけで有意義になった気がする。


この作品の感想をお寄せください。

2011年03月05日(土)07時36分 うみの えび  作者レス
企画も大団円を迎えて、皆様お疲れさまでした!
この土屋的な彼女は、別サイト(小説家になろう)さんで引き続き出来れば月一更新くらいで書き続けていこうと思っています。すでに続きも少し書いていて、頑張ってキャラ絵もかきました。ttp://mypage.syosetu.com/132727/ 報告でした。

哲カノ企画はすごく実りのある体験でした。ありがとうございました!



pass
2010年12月29日(水)00時10分 うみの えび  作者レス
牛髑髏タウンさんこんにちは。

こちらこそありがとうございます。
そもそもこの拙作は、

「やったー、土屋先生がjkになったよー\(^o^)/」

に対する「ちょw」←この感覚で書いてみたのが発端なので、元ネタを知っている方にもこういった感覚を抱いて頂けたらとても嬉しいです。色んな意味で、土屋先生がいるからこその微笑ましさがありますね。笑う哲学者がどこかの片隅で女子高性化されてる、っていうのが一番のメタな笑いのポイントだと思います。

この書き物一つで見ても面白いようにするのはもちろんの話なので、これからも、笑う哲学者の持つ萌えを女の子に与することによって新たな芽吹きがあるように頑張ってみようと思います。一番必要なのは、可愛い絵だと思いますので、これから頑張って絵を描いてみようと思います。本当にありがたいご感想、ありがとうございました。

pass
2010年12月28日(火)23時22分 うみの えび  作者レス
nさんこんにちは。

この彼女はファンタジーですよね、存在がアンノウンです(笑
土屋先生の手法。語り手が女の子となるとデリケートな部分が出てきて使えなくなってしまうものが割と出てくるものなのですが、今作の中で一つ、逆に女の子だからこその効果があるような書き方の光がちらりと見えた気がします。この兆しは大切にしたいです。

ちなみに自分はクリスマスが苦しいことが悔しいです(o´∀`o)ツライ
哲学の目的は無矛盾性の追及だと思うのですが、だからこそ自分は土屋先生のメタなところが好きです(・w・)
拙作へのご感想ありがとうございました。

pass
2010年12月26日(日)18時25分 牛髑髏タウン DN9w0wBvqc +30点
感想書こう書こうと思いながら時間が経っているうちに、3作も書かれていて、流石です。

このシリーズ、結構好きです。土屋賢二のエッセイのあの独特の語り口が再現されていて、これはうまいですね。ニヤリとさせられます。新ジャンルですね。

女の子が語ってると思って読むと、理屈屋だけどちょっと抜けてる子が想像されて可愛らしいんですが、どうしても脳裏に土屋先生がチラつくのが難点と言えば難点というか(笑)。

楽しませてもらいました。ありがとうございました。
135

pass
2010年12月25日(土)15時14分 n  +30点
土屋的であります!おっさんの可愛らしさが、そのまま女の子の可愛らしさに。
女の子が「独り身を一人で嘆く」形に描かれるのは珍しいので、クリスマスならではのお話と相まって、新鮮です。

個人的には、初めの一文で「?」と思ってしまったのが悔しいです。
134

pass
合計 2人 60点


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