超人少女(オーバーガール)えたぁなる・ニーチェ
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       1、序奏

 星明りが、ぼんやりと世界を照らしている。
 月は無い。もしも行く先に池や崖があったとしても、気付かずに足を踏み外すことだろう。そう認めながら、少女は一切の迷いも見せずに夜の暗闇の中を進んでいった。
 歳は十代の前半。少なくとも、見た目にはそう見える。着ている物はシャツもスカートも量販店の安物で、年頃の少女らしい身だしなみに興味がないのは誰の目にも明らかだった。ただ一度知り合いに馬鹿にされて以来、漢字の書かれたシャツを着ることはやめた。それをオシャレへの目覚めと言う者もいないだろうが。
 ――ここは、住宅街の傍にある自然公園である。
 面積はおよそ百八十ヘクタール。小高い丘全体が公園となっており、中心部へ行くには緩やかな坂道を登り続けなくてはいけない。暗闇で足元が覚束ない中で、木の根や石に注意しながら歩を進め、やがて彼女はその頂上へと辿り着いた。
 そこは広場になっていた。周囲には電灯が等間隔に設置され、今まで世界を支配していた夜闇を押しのけている。他にあるのは幾つかのベンチと、子供たちへ向けた注意書きの並ぶ看板が一枚。きっと休日の昼間には、小学生が走り回ってはしゃいでいるのだろう。そして。
 広場の中心に立つ、二階建ての小さな展望台。
 その半球状の屋根の上に、幼い女の子が座っていた。
 金色の髪と砂糖のように白い肌が、電灯に照らされ闇夜に浮かび上がっている。ハリウッド映画の子役にでもいそうな美少女だった。本来なら登れる筈のない、足を踏み外せば最善でも骨折は免れ得ない不安定な屋根の上で、平然と夜景の展望を楽しんでいた。
 黙って静かに、少女は女の子の姿を見上げる。屋根の上の女の子は暫くじっと遠くを眺めていたが、やがてこちらに聞こえる声で話し始めた。腕を上げて目線の先を指し示し、無邪気に見える笑みを作って。
「街の明かり、すっごく綺麗だよ!」
 返事はしない。が、気にした様子もなく楽しそうに続けた。
「この時間なら、晩御飯も食べ終わってみんなテレビでも見てるのかな? あ、あの家の電気消えちゃった。もう寝るのかなぁ。知ってる? ずぅっと向こうのぼやぼや〜って明るい場所、新宿なんだって。ここからでも見えるって、すごいよね」
 そこでようやく、女の子は少女の方を見下ろした。四つん這いになって身を乗り出し、大きく声を張り上げる。
「ここから見えるだけでもね、たくさん人がいるんだよ。いっぱい、いっぱいいるんだよ。そのみんなが――」
 と、面白がるように口元に小さな拳を当てて。
「みんなが勝手に動いたら、どうなるかな? 暴動かな? 戦争かな? どっかーんてなるかも。どっか〜ん!」
 言いながら、屋根の上で両手を広げて飛び上がる。今にも足を滑らしそうだったが、彼女は危なげなく着地して屋根に寝転がった。
 月のない星空に、楽しげな笑いを響かせて。
「でも、いつか本当にそうなるかもね。ううん、絶対そうなるよ。だって世界は、人がそうあって欲しいよりも小さいんだから」
「……あなたは、人間が怖いのね」
 この夜はじめて、少女は口を開いた。
 外見に不相応の、落ち着いた声音で呟きを漏らす。普通なら聞こえる距離ではなかったはずだが、屋根の女の子には声が届いたようだった。彼女は立ち上がり、少女を見下ろした。
「うん。そうだよ」
 存外に、あっさりと認める。
 不意に吹いた風に、スカートをはためかせながら。
「人間だって、動物だもん。お腹が空いたら虎や狼と一緒だよ。てゆーか、もっと悪いよね。人間は今日の分だけじゃなくて、明日のご飯まで欲しがるんだから。だから――戦争なんてしないように、誰かがしっかりがっちりぎゅーって押さえつけないとダメなんだよ!」
「それで、ベニーにあなたの哲学を売り渡したの」
「友達になっただけだよ」
 そこで、一度会話が止まる。
 実際にはおそらく数秒、ただし体感にして一分以上睨み合い。先に口を開いたのは、屋根の幼女の方だった。
 腰に手を当て、拗ねたように口を尖らして告げる。
「あたし、あなたのこと大っ嫌い。戦争はした方が良いって言ってるみたい。それって絶対おかしいもん」
「力への意志を無くした人間を、最早生きているとは呼べないわ」
「ニーチェの分からず屋!」
「私たちの哲学は交わらない。説得は無理だって、最初から分かっていたはずよ。ホッブズ」
「知ってたもん知ってたもん知ってたもん! ベニーに言われなきゃあたしだって最初から……こんな風に、力ずくでやってた!」
 二人の少女――フリーデリケ・ニーチェとマーサ・ホッブズ。それぞれが、互いに向けて右腕を突き出した。
 広げた指の隙間から、ニーチェはホッブズの姿を見る。星空を背負い憤る幼い少女。彼女の哲学は、人間のあるべき強さを破壊する。
 そんなことは、許されない。
「解放命題(プロポジション)”神は死んだ(ゴット・イスト・トート)”」
 その命題を宣告すると同時に、ニーチェの着ていた服が光となって溶けて消えた。
 代わりに漆黒と純白。二種類の光の帯が虚空より現れて、彼女の周囲を包むようにぐるりと取り巻いた。
 右の裸足を差し出して、白と黒の光が交差する場所に爪先を触れる。光の帯は足指の先から土踏まず、踝へと這い上がり、ニーチェの細い足首を締め付けた。光はまだ物足りぬとばかりに脛と膝までを覆い隠し、そこでモノクロのブーツへと変化する。
 同様に、左足にもブーツが履かれる。
 次にニーチェは右の手を光の帯へと差し出した。赤ん坊を思わせるほど柔らかく、ただしすらりと長い指先が触れると、光はまず五指を包み込んだ。そして掌と甲を越え、肘までを撫ぜて長手袋になる。
 左腕にも手袋を纏い、これで四肢の全てが白黒の装具で飾られた。
 更に二種類の光の帯はニーチェの頭上で結ばれるように折り重なり、二重螺旋状となって降り注いできた。彼女は光を肩に纏い、その慎ましく膨らんだ胸に重ならせ、臍は隠さずに腰から太腿までを覆わせた。
 白と黒の交わった光は、降るのとは逆に下から物質化していった。まずは短いスカートが彼女のステップに合わせて揺れ、学生服に似た、しかし制服にしては装飾過多な上着がその胸元を覆い隠す。
 最後に周囲を包む光が一箇所に集い、髪留めとなってニーチェの長い髪に添えられた。白金色の髪留めがきらりと光り、変身の過程が全て完了する。
 攻撃に対する耐久力の向上、運動能力の強化。簡単な治癒能力まで併せ持つ哲学者の鎧(ソフィアン・ドレス)――『善悪の彼岸』。モノクロームの装束を身に纏い、ニーチェは夜闇の中に立った。
 装いを変えたのは、ニーチェだけではない。
「解放命題(プロポジション)”人間の自然状態は、万人の万人に対する闘争である(ベルム・オムニウム・コントラ・オムネス)”」
 ホッブズもまた、宣告と共に変身のプロセスを開始した。子供らしいフリルのワンピースが、水銀のように身体から流れて散る。
 すると大地より翠玉色の光が突き出して、天に向かって駆け上がった。稲光に似たその光はまた地に潜り、再び現れと弧を描いて繰り返し、海原をうねる大海蛇のように大地の海を舞い泳いだ。
「おいで」
 ホッブズが囁くと、大地より二条の光が飛び出して彼女の両の脹脛に巻き付いた。どちらが頭で、どちらが尾か――光の蛇は弾力のある幼い脚をきつく締め上げながら昇り、腿の付け根をぐるりと一周すると腰回りで一度絡んだ。
 光が下腹を締めると、ホッブズが小さく声を漏らした。構わず光はまだふくらみの無い胸の中心を擦り、首を巻いてから両腕に降りた。
 全身を這って包み込んだ緑の光は手首に至ると、ようやくその進行を止めた。その代わりとでも言うように、ぎゅっとホッブズを締め上げる。咽の奥で掠れる悲鳴に呼応するように、全身を覆う光が一斉に物質化した。
 貴族の子女を思わせる、壮麗な緑のドレス。まるで鱗のように、細かいフリルが何段にも折り重なっている。
 最後に光が胸元に集まり、蛇のブローチとなってドレスを飾った。
 これが、彼女の装う哲学者の鎧――恐らくは、『リヴァイアサン』。
 ホッブズは展望台の屋根から飛び降りると、羽があるようにゆったりとニーチェの前に着地した。無邪気に見える笑みを浮かべ、胸のブローチに手を伸ばす。
「あたしから行くよっ!」
 返事をする間もない。
 ブローチの瞳が光ると、途端に激しい地鳴りが辺り一帯を襲った。
 地震……ではない。夜の自然公園で、巨大な何かが身じろぎをする気配がした。それが動く度に、頭上では星が隠されて星座の形が違っていく。
 その正体はビルほどもある、巨大かつ強大な蛇である。闇夜に紛れる漆黒の身体を右へ左へと揺らしながら、それはニーチェを喰らう機会を窺っていた。
「行っちゃえ! リヴァイアサン!」
 ホッブズの命令を受け、大蛇が顎を開き襲い掛かってくる。
 ――勝てるだろうか。
 迫り来る蛇をまっすぐに見つめ、ニーチェは自問した。奴は開いた口だけで、ニーチェの身長の三倍はある。『善悪の彼岸』が如何に強力な哲学者の鎧でも、その牙をまともに受ければ即死は免れない。
 それでも、と。ニーチェは蛇に向けて一歩踏み出した。
 誰にも道を譲るつもりはない。
 目的を果たすために、ここで逃げ出すわけには行かない。
「何で逃げないの!?」
 リヴァイアサンを迎え撃つため身構えるニーチェに、ホッブズが目を丸くする。
「この子を見たら、絶対怖くなるはずなのに!」
 どうやらその巨体だけでなく、人の精神に働きかけるような能力まで備えているらしい。
 確かに、怖い。蛇の眼は鈍く光を放ち、脳幹を冒し恐怖の本能を引き出そうとする。だが。
「私が何より怖いのは、諦めてしまうことよ!」
 腹の奥から叫び、その勢いを借りてニーチェはリヴァイアサンの下顎を蹴り上げた。
 僅かだが、蛇の頭部が持ち上がる。ニーチェは全身を大きく捻って跳び、渾身の力を込めて側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
 哲学者の鎧に強化されたはずの筋肉が、その重さに軋みを上げる。だが彼女は呻き一つ漏らさずに、歯を食いしばって右足を振りぬいた。
 リヴァイアサンが、その巨体が勢いよく吹っ飛ばされる。激しい音と砂煙を上げて倒れる大蛇から目を逸らさずに、ニーチェは大きく息を吐いた。呼吸が乱れている。
 膝の関節にも痛みがある。大事はないが、もう暫く全力で戦うのは無理だろう。が――
 当然。と言うべきか。
 さしてダメージを受けた様子もなく、リヴァイアサンは起き上がって鎌首をもたげた。
「逆らったって無駄だもん」
 思わぬ反撃を受けたことが不満だったのか、ホッブズが苛立たしげに言う。
「リヴァイアサンは負けないんだもん。強いとか弱いの話じゃないよ、そーゆー風にできてるんだから」
 恐怖による絶対支配の象徴、リヴァイアサン。
 本当に、そうなのかもしれない。ホッブズがそう定義した以上、この大蛇を殺すことは原理的に不可能なのかもしれない。
 それでも、ニーチェは迷わなかった。
「言ったでしょう」
 ゆったりとした動きで広場を回り、その胴体でニーチェを包囲するリヴァイアサンを睨み付けながら。
「私は、絶対に諦めない」
 ――蛇の包囲が完成する。
 リヴァイアサンの胴体は、その直径がニーチェの身長の倍を越える。変身した今ならば跳び越えられない高さではないが、それも邪魔が入らなければの話だ。あの巨大な顎を避けながらでは無理がある。
 苛立ちが頂点に達したらしいホッブズが、顔を赤くしてこちらを指差した。
「なら、そのまま死んじゃえ! リヴァイアサン!」
 再び蛇の顎がニーチェに迫る。
 横飛びして何とか避けるも、リヴァイアサンはまたすぐに襲い掛かってきた。二度、三度とかわす度、蛇の包囲は狭まりどんどん逃げ場もなくなっていく。そして――
 もうこれ以上逃げ場のなくなった最後。一か罰か蛇の胴体を飛び越えようと跳んだ時、先程痛めた膝が悲鳴をあげた。
 一瞬の隙を、見逃すリヴァイアサンではない。蛇がその牙でニーチェを貫くために、大口を開けて迫ってくる。
 避けられない。そう覚悟した瞬間だった。
 深く力強い雄叫びを上げて、一匹の獣が林の向こうから飛び出してきた。燃え盛る炎の毛皮を纏った四足の獣が、リヴァイアサンに牙と爪を突き立てる。
 怯んだリヴァイアサンから逃れて距離をとり、ニーチェは獣を振り返った。
 外見は犬に似ているが、体躯が大型犬の数倍ありサイズだけなら牛や馬に近い。何より特筆すべきは、灼熱を発する真っ赤な肢体であろう。彼は炎の毛皮だけでなく、爪や血肉にすらも溶鉱炉に似た高温を持っている。爪の食い込んだリヴァイアサンの傷口から、肉の焼ける匂いが漂ってきた。
「ツァラトゥストラ!」
 ゾロアスター教開祖の名を持つ、ニーチェの使い魔である。
 激しく悶えるリヴァイアサンに振り落とされ、ツァラトゥストラは広場に着地した。しゃーと低く鳴く大蛇を警戒しながら、ニーチェの傍に寄って口を開かずに思念で語る。
『すまない、遅れた』
「呆れるくらいにナイスタイミングだったわ」
『……出番を見計らってたとでも疑っているのか』
「どちらにしろ、助かった事には違いないわ。ありがとう」
『なんか含みがあるんだよな……』
 言い合う内に、リヴァイアサンは既に体勢を立て直していた。煙を上げる傷口は痛むのだろうが、それもあの巨体である。虫に刺されたようなものなのかもしれない。
 相手は途方もない化物だが、これで勝算も出てきた。
「――時間稼ぎ、頼めるかしら」
『勝てと言われなくて安心したよ』
 軽口を叩いて、ツァラトゥストラがリヴァイアサンに挑みかかる。
 それは対等の戦いとは、世辞にも言えないものだった。何よりサイズが違いすぎる。勝てる見込みなど無いが、蛇の牙と叩きつける尾をかわしては、着実に爪で鱗を焼いていく。存外に健闘しているようだった。
 それでいい。時間さえ稼げれば、後は自分が戦おう。
「読込開始(リーディング)」
 唱えると、ニーチェの眼前の空間に光で綴られた文章が流れ始めた。
 下から上へ、高速で文字が現れては消えていく。書籍一冊分の文章を表示しなくてはいけないのだ。誰かが時間を稼いでくれなければ、とても戦闘中にできることではない。
 と。
「無駄だよ」
 離れた場所で、ホッブズが言った。
 ちらりとそちらに視線を投げれば、彼女はニーチェを睨んでいた。戦いでいつの間にか捻じ曲がった展望台に寄り掛かり。
「リヴァイアサンは負けないだもん」
「あなたは、戦わないの?」
 ニーチェの返答は、ホッブズの言葉とは関係ないものだったが。
 その質問が、ホッブズには最も逆鱗に触れるものだったらしい。彼女は、身を乗り出して声を荒げた。
「そんなことしないよ! 戦う権利は、全部リヴァイアサンに預けたんだから!」
「ならあなたは、世界に何をなすのかしら」
「何って……」
「あなたの生きる価値は、何?」
「…………」
 会話が途切れる。
 同時に、虚空に流れる文章も消えた。ニーチェの目の前で、熱く眩い光が溢れる。
「読了(トゥ・ジ・エンド)」
 バリン、と。
 音がして、空間が割れた。
 次元の狭間より剣の柄が現れる。装飾らしい装飾も無い、蒼く無骨な柄だった。
 ニーチェはその柄をしっかり握ると、力一杯に引き寄せた。まるで透明な鞘から引き抜かれるように、次元を超えてまっすぐな刀身が世界に姿を現す。
「奪い、支配し、より高みを、より強きを欲する意志。それこそが、存在の根源」
 心剣『力への意志』。
 そのシンプルな剣を手に、ニーチェはリヴァイアサンへと向き直った。
「生きるとは、求めることよ。立ち止まってしまえば、それは死んでいるのと変わらないわ」
 戦いは、ツァラトゥストラがリヴァイアサンの尾に弾き飛ばされるところだった。既に全身がボロボロで、まともに立つことさえ難しそうだ。
 一方リヴァイアサンも相応のダメージは受けていたようだが、焼け石に水といったところか。動きが鈍っている様子もない。
 十分だった。
 ニーチェは、剣を手に駆け出した。彼女が持つには重く長いその剣を、引き摺るようにして全力で走る。
 リヴァイアサンが、こちらの動きに気付き襲い掛かってきた。大きく開いた顎の中に並ぶ、凶悪な牙の群れ。既に何度も見た光景だが、もう逃げ出すつもりは無い。
「はっ!」
 溜めていた息を吐き出し、『力への意志』を振るう。鋭利な刃は大蛇の口に飛び込んで――
 神殿のオベリスクを思わせる太い牙を、根元からへし折った。
 反動で横に跳び、咽に呑まれるのを防ぐ。リヴァイアサンは轟く悲鳴を上げて苦悶に身体をよじらせた。
『……遅かったじゃねえか』
「ナイスタイミングでしょ」
『遅すぎだ、この野郎……』
 ぐったりしたツァラトゥストラをその場に残し、リヴァイアサンを彼から引き離すために、ニーチェは場所を移動した。大蛇は凶悪な形相で――蛇の表情など分からないが、多分――ニーチェの後を追いかけてくる。
 適当な場所で立ち止まり、振り返る。地を砕いて猛進するリヴァイアサンに、ニーチェはまっすぐ剣を向けた。
「私が諦めない限り、『力への意志』は必ず私を勝利へと導く!」
 飛び上がり、リヴァイアサンの顔を一撃する。
 剣先が鱗に触れた瞬間、剣の重量が一気に増大した。速度もだ。腕が千切れそうなほど異常な加速をして、その勢いで蛇の顔面を両目ごと切り裂く。
 ――硬く、重く、速い。単純だがこれが、『力への意志』の能力である。
 のた打ち回るリヴァイアサンを見ながら、ニーチェは静かに述懐した。そもそも力とは何か。それは、影響力であると言ってもいい。『何』を『どれだけ』変えられるかで、力の強さは測ることができる。人一人を小さく動かすことは、弱い力でできる。国を大きく動かすためには、強い力が要る。そういうことだ。
 つまり力は、”運動方程式”で表せる。
 キログラムメートル毎秒毎秒。その力は、ニーチェの心に呼応して無限に増大していく。
 顔面から大量の、深緑色の血を撒き散らしながら、リヴァイアサンが聳え立つ。彼女の前に立ち塞がる。
「恐怖で人間本来の生を押し込めようとする者に」
 声に合わせ、『力への意志』の刀身が長く伸びた。ちょうど、リヴァイアサンを切断できるほどに。
 絶対支配の大蛇が、一際高い鳴き声を上げた。
「私は、負けないわ!」
 地を蹴って、迫り来る大蛇と空中で交差し――
 その首を切り落とし、吹き出す血を浴びながら、ニーチェは展望台の屋上に立った。
 ずぅん。と、リヴァイアサンの巨体が大地に沈む音が響く。
「そん……な……」
 ホッブズが、呆然としてよろめいた。光となって消えていくリヴァイアサンに、弱々しく手を伸ばす。
 彼女の哲学は、敗北したのだ。
 パキンと、音を立てて彼女のブローチが割れた。
「あ……」
 その呟きに――血が混じる。
 哲学者の鎧が身体ごと裂けて、袈裟懸けに血を噴き出し。ホッブズはその場に倒れ伏した。

 おそらくは。
 ホッブズの哲学者の鎧は、リヴァイアサンと連動していたのだろう。もし大蛇を無視してホッブズを狙ったとしても、あの大蛇を打ち倒せるほどの力がなければ彼女の鎧を貫けなかったはずだ。
 完璧な防御力。その代償として、大蛇が受けた傷を彼女も受ける事になってしまった。
 死んではいない。浅い傷ではないが、息は保っていた。
 血だらけのワンピース――服は変身前の物に戻った――で倒れるホッブズの傍らに立って、ニーチェは周囲に目を向けた。
 広場にあった展望台は歪んで傾ぎ、並んだ街灯はその半分ほどがひしゃげて倒れている。惨憺たる有様だが、あの戦闘の傷跡にしては被害が小さいと言えるかもしれない。その被害のほとんどは、リヴァイアサンが死ぬ直前に苦しんで暴れた時のものだ。目立つことを嫌って、元より建造物は壊さないよう注意していたのだろうか。
「う……」
 ようやく、呻きながらホッブズが目を覚ます。身じろぐその姿を、ニーチェは黙って見下ろした。
 次第に、彼女の瞳が焦点を取り戻していく。ぼんやりと空を見上げ、暫く視線を彷徨わせてからようやくニーチェと目が合った。そのまま数秒見つめ合い。
「……ぁぅ」
 顔を歪めて、喉を震わせる。
「あ……あああぁぁんっ! ひっ! ひゃぁぁぁんんん!!」
 泣き出した。
 どうしたものかと迷ったが、そのまま用件に入る事にした。頬にかかる髪を掻き上げて。
「あなたは負けたわ。分かるわね」
「ああああああっ!」
「私たち哲学少女は負けた以上、滅ぼされても文句は言えない」
「っ! うあああぁぁっ!」
「でもね。ベニーについてあなたの知っていることを教えてくれたら、見逃してあげてもいいわ」
「ああああああああああんっ!!」
『聞いてないぞ』
「そうね」
『あと、言ってることが完全に悪人の台詞だな』
「善人であるつもりも無いわ」
 哲学者の鎧――『善悪の彼岸』を指し示し、ツァラトゥストラに視線を送る。この鎧は、善も悪も越えて生きる決意のようなものだった。
 そもそもが人の生に、善いも悪いも無いのだから。
「……あたし、悪くないもん」
 と、ホッブズがやっと人の言葉を発した。赤く充血した目をこすり、すんすんと鼻を鳴らしながら。
「人間なんて、押さえつけなきゃ戦争するんだもん。あたし、戦争を無くしたかっただけだもんっ!」
「本当に人間が嫌いなのね」
 またぐずり始めたホッブズに、ニーチェは落ち着いた声で告げた。
 それから、首を横に振り。
「でも、違う。あなたの本質はそこじゃない」
 片膝を付いて、彼女の顔に自分の顔を近づける。
「あなたが本当に怖かったのは、あなた自身でしょう”戦争の落とし子”。あなたは高潔に生きるべきだった。人は本能に負けないと、自らの手で証明するべきだったのよ。でも、あなたにはできなかった。自分が不完全だったから、皆も不完全だと決め付けたのね。それが、あなたのルサンチマン」
 語る間、ホッブズは全く動かなかった。聞こえていないはずもないが。
「行きましょう、ツァラトゥストラ」
『…………』
 彼女を放っておくのかと視線で問うツァラトゥストラを、無視してニーチェはホッブズに背を向けた。髪飾りに手を当てて、『善悪の彼岸』の変身を解く。
 『リヴァイアサン』を砕かれた今、残ったのはただ泣き叫ぶしかない小さな女の子だ。とどめを刺す必要もないだろう。
 二人の哲学論争は終わったのだ。
 ――そのはず、だったが。
 後ろから足首を掴まれて、ニーチェは立ち止まった。足元にしがみ付くホッブズに、顔も向けずに忠告する。
「動かない方がいいわよ。致命傷でないといっても、すぐに動ける傷でもないわ」
「……あたし、ニーチェのこと大っ嫌い」
「知っているわ」
「ニーチェに何言われたって、あたしはあたしの哲学に殉じるんだから」
 その言葉が――
 遺言に聞こえて、ニーチェはハッと足元を見た。そこでホッブズは笑っていた。体中を血だらけにして、殉教者の笑みを浮かべている。
 もう間に合わないと、ニーチェは焦燥と共に悟った。
「――食べちゃえ、『ベヒモス』」
 ホッブズの呪いに答えて、地面に巨大な口が開く。鋭い牙がホッブズごとニーチェを刺し貫いて引き裂き、二人の哲学少女を一瞬で絶命させた。

       2、世界の背後を説く者について

 空白――
 どこまでも続く白い闇の中で、ニーチェは目を覚ました。
 踏み締めるべき大地が無い。空も。ただ見通す限り広がる光の海を、ニーチェは藻屑のように漂っていた。
 時折起こる波に揺られてふわふわと、何も無い空白の空間に浸る。それはゆりかごに揺られているようで、本来ならば眠気を誘う心地良さだったのだろうが――
 しかしニーチェは、不思議な気持ち悪さを感じていた。
 おかしい。何かが違う。
 胃の辺りに、乗り物酔いに似た不快感が広がる。
 一瞬感じた眠気は当に吹き飛んでいた。この気持ち悪さの正体を探るため、ニーチェはこの透明な世界をじっと観察して。
 不意に、気付く。
 逆様なのだ。
 重力も星もない、上下の別が付かない世界で、ニーチェは何故かそのことを確信できた。今自分は、世界に逆に立っている。
 いや。それとも、逆様なのは世界の方か。
 ――光の海を、ニーチェは進む。
 逆様の世界。
 蟻が象を喰らう世界。
 太陽が地球の周りを巡る世界。
 被害者が加害者を支配する世界。
 進む程に、胃のむかつきが酷くなっていく。この在り得ない、在ってはならない世界を全身が拒絶する。
 間違っている。
 弱さを賞賛する世界など、世界本来の姿からかけ離れたものだ。
 この間違いは、正さなければならない。
 不快感を握り潰して決意を固めたその時、圧倒的な光の逆流に飲まれてニーチェは意識を失った。

 薄明の中――
 今度こそ本当に目を覚まし、ニーチェは顔を上げた。
 そこはまだ、ホッブズと争った広場だった。半ばから折れた街灯、歪んだ展望台、状況はニーチェが死ぬ前と変わってない。ただし夜空はうっすらと白み、東から朝日が顔を出そうとしていた。
 無傷で残った街灯の一本に背中を預けて座り込み、広場全体をぼんやりと眺める。
 ホッブズの姿はどこにもない。死体さえも。そういうものだ、哲学少女が滅びるということは。まるで初めから存在していなかったのように、痕跡さえ残さずに消え果る――普通ならば。
 ふと肌寒さを感じ、ニーチェは自分の体を見下ろした。そこでようやく、自分があられもない格好をしている事に気付く。
 着ていたシャツはホッブズの『ベヒモス』に食い裂かれ、ギリギリ胸を隠せるほどしか残っていなかった。というか胸の下半分が完全に見えている。まあ、元々隠さなければならないほどの大きさはないが。
 余計なお世話だ――と自分の思考に突っ込みを入れながら、剥き出しになった腹部に指を向けた。『ベヒモス』の牙に貫かれ、大きな穴が開いたはずの腹には、しかしどこにも傷跡が無かった。ローティーンの少女らしい瑞々しいお腹を撫ぜて、痛みがないことを確認する。
 千切れたシャツが何かの冗談であるかのように、傷の痕跡さえないことを確かめてニーチェは夜明け前の空を見上げた。もうすぐと言うわけでもないが、ぐずぐずしていればその内に人が来る。こんな格好を見られたら――
「確実に通報されるわね」
 スカートも腰周りがやられ、手で掴んでいなければズレ落ちてくるだろう。とてもではないが、歩き回れる格好ではない。
「……どうすればいいかしら」
『オレに聞いてるのか?』
 視界の陰から、赤い獣――ツァラトゥストラが現れる。
 本来は炎に包まれた巨体である彼が、今は座って見下ろせるほどに小さく縮んでいた。黙っていれば、まるきり仔犬にしか見えようがない。最も、燃えるような紅色の毛皮を持った犬がいればの話だが。
「他に誰がいるのよ。……良い方法はある?」
『その前に、確かめさせろ』
 ツァラトゥストラはそう言うと、ニーチェの足の上に乗った。毛並みと同じ紅い瞳で、ことらの顔を真剣に覗き込んでくる。
『お前の名前は』
「フリーデリケ・ニーチェ」
『何者だ』
「哲学者ニーチェの魂を受け継ぐ、哲学少女」
『目的は』
「当面は、ベニーを滅ぼすこと」
『ベニーとは誰だ』
「この世界に存在する、最強の哲学少女の一人。他の哲学少女たちを集めて組織化し、世界を支配しようとしている、まあ、簡単に言って魔王ね……これでいい?」
『今度はちゃんと覚えてるみたいだな』
「たかだか死んだ程度で、心配しすぎよ」
 言いながら、背中を撫でてやる。毛皮はほんのりと暖かかった。これを体毛が放熱しているのだと気付く者は、人間の中にはまずいないだろう。彼が時折この格好で人前に出ては、女の子に撫でられて悦に入っているのをニーチェは知っていた。そのことに文句を言うつもりもないが。
『お前がそれを言うかよ。前に死んだ時なんか、記憶を全部ふっとばして行方不明になったじゃねえか』
「あれは、死に方が悪かったからよ……」
 気まずげに目を逸らして呟く。迷惑をかけた自覚はあるため、あの時のことを言われると強く反論ができなかった。
 それよりも――と、誤魔化したわけではないが――ニーチェは立ち上がってスカートの裾を摘んだ。真顔で首を傾げる。
「痴女だと思われるかしら」
『どっちかっつーと強姦被害者だな』
「うっかり警察に保護されて、的外れの同情の目で見られるのはご免よ」
『いっそ変身していったらどうだ? 場違いなコスプレで済むぞ』
「……それが良さそうね」
『おい。冗談を真に受けんな』
「他に方法もないわ」
 もしかすれば、あるのかもしれないが。
 他の案を考えるのも面倒で、ニーチェはツァラトゥストラの冗談を採用することにした。手を掲げ、空に向けて変身の言葉を唱える。
「解放命題”神は死んだ”」
 先ほどホッブズと相対した時と同じプロセスを経て、哲学者の鎧『善悪の彼岸』の装着が完了する。ちなみに長々と変身しているようだが、実は一瞬で済んでいるので心配はいらない。
「なるべく人が来ないうちに行きましょう」
 ツァラトゥストラに告げて、ニーチェは早足に歩き出した。
 少女向けアニメの戦うヒロインのような格好で、昇りゆく朝日を背に歩いていく。
 ――一陣の風が吹き、傾いでいた展望台がついに倒壊した。激しい音と砂煙を上げる広場を振り返ることなく、悠然とした足取りでニーチェはその場を後にする。
『――なんだ、その無駄な格好良さ』
 ツァラトゥストラの呆れが交じった思念を、ニーチェは黙殺した。

       3、大いなる憧れについて

「ほら、ご覧になって。ああ……とても美しいわ」
 都会の喧騒から離れた、自然豊かな森の中。
 蒼天の色を映す湖の辺に佇んで、一人の少女が声を弾ませていた。
「風が波を立てているのね。日差しが水面に反射して、宝石みたいに光っているわ」
 浮き立つ彼女の心に応じて、白いレースの日傘が揺れる。
 歳は二十歳にやや届かないくらい――外見上は、だが。艶がかった黒髪を腰より長く伸ばし、パステル調のワンピースと長手袋で身体の大部分を隠している。病的なまでに青白い肌色は、生まれつきのものだった。日傘は別に、伊達やお洒落で差している訳ではない。
「ねえ、小鳥の歌声が聞こえるでしょう? あの声の全てに、ちゃんと意味があるのは知っているかしら」
 小さな顔にやや不釣合いの、大きめの眼鏡を直しながら彼女は問いかける。
 返事は無い。
 それ以前に、この場には彼女以外の誰もいなかった。一人静かに湖を眺めて、それでも彼女は存在しない隣人に声をかけ続けた。
「ああ、楽しいわ。この美しい世界が――もうすぐあの人のものになるんですもの」
 ずっと、願っていたことだった。
 この世界には、真理が多すぎる。人の数だけあると言ってもいい。しかもそのどれもが不完全で、醜い真理ばかりだった。
 この世を統べる、唯一の真理を探していた。誰もが頭を垂れるしかない、絶対の真理を。
 そして、見つけた。彼女の名は――
「ベニーが、きっと私たちを導いてくれるわ」
 やはり返事は無い。
 だが、彼女は知っていた。彼はそこにいるのだ。ただし誰にも認識できない――主である彼女さえ、彼がどんな姿をしているか知らない。それが彼女の使い魔である、”悪い霊”の能力だから。
「けれど、ねえ困ってしまったわ。私たちの邪魔をする人がいるのよ。彼女――ニーチェちゃんがいる限り、ベニーの夢は叶わないの。私たちがどうすればいいのか、分かるでしょう?」
 ――風が旋る。
 それは気のせいだったのかもしれない。”悪い霊”が認識できる痕跡を残すはずがないのだから。だが彼女は彼がニーチェのところに向かったのだと確信して、見えない背中を視線で追った。実は見当外れの方向を見ていたのだと、気付くのはもう少し後でだが。
 呟く。
「……この世界に、真理は二つもいらないのよ」
 そして、彼女は湖に視線を戻した。
 奇跡のような精密さで成り立つ、美しい世界。人がおいそれと触れられるものではない。
 ただベニーだけが、この世界を支配できる。ただ一つの真理として、支配してくれる。
 どこか恍惚の笑みを浮かべ、ルナ・デカルトは高い青空を見上げた。

 ぼんやりと。
 青空を見上げながら、ニーチェは通っている中学校から下校していた。
 空には白い雲がふわりと浮かんでいた。一見すると一ヶ所に留まっているように見える雲だが、暫く眺めていれば風に流されていく様子がよく分かる。形を変え大きさを変えて、五分もすればもう原形を留めていない。
 月も、太陽だってそうだ。少しずつ、しかし確実に位置を変えていく。変わらないように思えるものでも、真に変わらないものなどこの世にはない。
 いずれは消えてしまう。
 ならば存在の価値とは一体何か。終わるために生まれた存在に、果たして意味などあるものなのか。
『危ねーな』
 足元から思念波が届いて、ニーチェはそちらを見やった。
『ちゃんと前見ろよ。こんなところで車にでも轢かれたら、ただの馬鹿だぞ』
「それほど鈍かったら、ホッブズのリヴァイアサンには勝てなかったでしょうね」
 ツァラトゥストラに、冷たい調子で告げる。
 歩みを再開するニーチェの後から、赤い仔犬は付いてきた。声に不思議そうな色を滲ませて。
『どうした? 機嫌悪そうじゃねーか』
「……今日、テストの返却があったのよ」
『赤点でも取ったか?』
「全教科で九十点以下は無いわ」
 そうじゃなくて――と、足を止めず。振り返りもせずに続ける。
「クラスの子が言ってたのよ。学校の成績なんて、社会に出たら何の意味もないって」
『お前はどう思うんだ?』
「その通りだと思うわ」
『ありゃ、そうかい』
「ただ、だとしたら社会に出てから意味のある事って何? 勉強とは違う、どんな努力をしているのかしら?」
『そう言ったのか?』
「言って理解してくれるとも思えないわ」
 そこで、ニーチェは立ち止まった。悲しげに、小さく首を振る。
「成績なんて意味がない。その言葉を自分が何も持っていないことを肯定するために使うなら、それは弱者のルサンチマンよ。……どう伝えれば分かってくれるかしら」
『悩んでるとこ悪いけどな。悩みの種を、もう一個持ってきたぜ』
 ツァラトゥストラの声に、険が交じる。
 はっとして顔を向ければ、彼は至極真面目にこちらを見上げていた。何かあったのだ。おそらくは――ベニーに関わる何かが。
『招待状が届いたよ』
「招待状? 誰から」
『送り主はルナ・デカルト』
「デカルトって、あのデカルトなの? 彼女の哲学は確か――」
『ベニーのそれと相性がいい。傘下にあると思って間違いないな』
「招待状ね……」
 ニーチェは呆れた目線をツァラトゥストラに投げかけて。
「私の常識では、そういうのは罠と言うのだけど」
『奇遇だな、俺の辞書にもそう載ってる。無視するか?』
「まさか」
 そう、ニーチェは笑った。
 ベニーの手掛かりが、向こうの方からやってきたのだ。乗らない手はない。
 もちろん危険だろう。相手はあらゆる準備をして、勝てると確信しているからこそ待ち構えているはずなのだから。だが、危険だからと言い訳して逃げ出すのは、ニーチェの哲学に反する行為だった。
「――ベニーは滅ぼすわ。絶対に」
 そのためならば、どんな危険も厭わない。
 それこそが、哲学少女ニーチェの存在意義なのだから。
「でも……」
 と、学校指定の鞄を両手で持ち直し、眉を顰める。
「招待状なんて、どうやって送り付けて来たのかしら。居場所を知ってるはずは無いのに」
『あれだろ。昨日のコスプレで帰宅が悪目立ちしてたんだろ』
「つまり、不可抗力ね」
『是が非でも非を認めなねーのな』
 半眼になって非難するツァラトゥストラの尻尾をうっかり踏みつけながら、ニーチェは家路を急いだ。やるべきことは山積している。
 帰り着く頃には、学校であった悩みなどすっかり記憶から飛んでしまっていた。

       4、喜びと情熱について

 木漏れ日の差し込む森の中を、ニーチェはツァラトゥストラと並んで歩いていた。
 舗装された道ではない。でこぼことして歩きづらい山道だが、決して細い獣道というわけでもなかった。古いものだが、自動車が通った跡も見える。少しばかり寂れた自然遊歩道と、そう表現するのが分かりやすいかもしれない。
 東京郊外にある、静かな山間の森の中。この道の先で、デカルトは待ち構えているはずである。
 ニーチェは既に『善悪の彼岸』を纏っていた。心剣『力への意志』も、右手にぶら下げている。もしも招待が罠であるなら、いつ仕掛けられてもおかしくはないのだ。周囲に警戒の眼差しを向けながら、非常にゆっくりとした歩速で進む。
 幸いにと言うか、拍子抜けした事にと言うべきか。何事もなく二人は森を抜けた。
 ――目の前に、大きな湖が広がった。
 駆け寄らずとも、その水が澄んでいることはすぐに分かった。風に撫でられ、波を立てる湖面が日を照り返して碧玉のように瞬く。その光景はまるで、湖が歌っているかのようにも見えた。
『……おい』
 息を呑んで景色に見入るニーチェに、ツァラトゥストラが足元から思念波をかけた。忘れていた警戒を思い出して、口元を引き締め彼の方を見下ろす。
「何」
『あそこだろ、招待された場所は』
 言って、視線で示した先に。
 木造の山荘が建っていた。やや古ぼけて経年を感じさせるものの、それがまた趣を与えている。旧華族あたりの別荘と、言われれば信じてしまうだろう。湖と森に挟まれ、違和感無く自然の中に溶け込んでいた。
『静かな湖畔の森の陰、ってところだな』
「いい場所ね」
 言いながら、彼の家に向けて足を踏み出す。
 一歩一歩確かめるように歩きながら、ニーチェは剣を胸の前で構えた。鏡のような刀身が、彼女の顔を映して白く輝く。
 ざっ、と足音を立てて止まる。建物までは約三十メートル――中から外の様子を窺っていれば、もうこちらの姿に気付いていることだろう。
 利は向こうにある。ならばこちらから先制するには、一体どうするべきか。
 ニーチェは音も無く頭上へと、『力への意志』を振り上げた。
「勿体無いけど……潰させてもらうわ」
 スイッチがあるわけではない。
 『力への意志』は文字通り、ニーチェの意志に反応してその能力を発動する。ニーチェは全身に力を込めると、最大重量・最大加速で己の剣を振り下ろした。
 その速度は、音速を優に超える。
 剣から発せられた圧倒的威力としか言い様のない衝撃の波が、大地と空間を砕きながら突き進む。数瞬遅れて轟音。突風に激しく振り回される木々を後に残し、衝撃の刃は山荘を真っ二つに叩き割った。
 ――地面に根元まで刺さった剣を引き抜いて、勢い痛めた肩を庇うように擦る。
「呼子鳥の目覚ましと言うには、少し派手過ぎたかしら」
『……もしかして、目覚める前に永眠するだろって突っ込み待ちか?』
「邪推は男らしくないわ。――様子を見てくるから、ここで見張っていて」
『へいへい、せいぜい気を付けろよ』
 小さく手を挙げて了解を示し、ニーチェは趣のある別荘だった、今は廃屋と化した山荘へと向かった。

 あの一撃で、決着がついたと。
 楽観的に考えるのは危険だった。まだ敵は無傷で待ち構えている。その前提で、崩れかけの山荘を慎重に探っていく。
 建物の中は、どうにも殺風景な印象を受けた。それなりに年季の入った建物なのに、高級そうな調度品の一つも転がっていない。装飾といえば風景を映した写真が飾られているくらいで、それも著名な写真家の作品というわけではなさそうだった。
 崩れた壁の向こうを覗き込めば、支柱らしい大きな柱に半ばまで亀裂が入っていた。ぎりぎり形を保っているこの建物も、遠からず崩壊するだろう。
 家の内部に人の気配はない。まさか本当に先ほどの一撃に巻き込まれて滅びたのか、それとも最初から無人だったのか。後者だとすれば、どこかに罠が仕掛けられている可能性が高い。
 どちらにせよ、長居しない方が良さそうだ。そう思いながらテラスに出れば、そこに――
 日傘を差した少女が立っていた。
 歳は二十歳にやや届かないくらい――外見上は、だが。艶がかった黒髪を腰より長く伸ばし、パステル調のワンピースと長手袋で身体の大部分を隠している。病的なまでに青白い肌色は、生まれつきのものだろうか。だとすれば、日傘は別に伊達やお洒落で差している訳ではあるまい。
 湖に向かって張り出したテラスは、『力への意志』の攻撃で半分以上が砕けている。にも関わらず平然と、少女はテラスの縁に立って湖を眺めていた。
 物思いにでも耽っているのか、こちらを振り向こうという素振りも見せない。遠巻きに横顔を確認すれば、とても美しい少女だと分かった。どこか、儚い美しさだったが。
 と。ぼんやりと見蕩れている場合ではない。
「あなたが、デカルト……?」
 尋ねるが、彼女は振り向きもしなかった。
 あまり似合っていない眼鏡の奥から、湖と山をじっと眺めて小さな口を開く。
「――ねえ、世界は美しいでしょう?」
 うっとりとした声で、彼女は言った。
「あの空や山並みが、どうして美しいのか。あなたは理解しているかしら」
「……何の話をしているの」
「それはね、世界がたった一つの法則に支配されているからなのよ」
 やはりニーチェを無視して、少女は言いながら振り返った。
 ワンピースの裾を踊らせて、上目遣いにささやかに微笑む――彼女の方が背は高かったが。その笑顔に、ニーチェは背筋を冷たくした。
「夕日に染められた海岸線の朱色も、夜空を彩る星星の運行も。この世の全ては数式で表せることはご存知でしょう? 世界はね、数学で動いているのよ」
 手袋をしていても分かる、長細い指で日傘をくるくると弄びながら。
「誰が決めたのか分からないけれど……いいえ、これだけの美しい方式だもの。きっと神様がお決め下さったに違いないわ」
 狂愛じみた物言いと仕草に、言葉を返すことができなかった。
 彼女の――ルナ・デカルトの笑顔は、死人のそれとよく似ていた。
 黙り込むニーチェに、彼女は音もなく近付いてきた。本当に、注意して聞いていたのに足音が耳に届かなかった。霊のようだからといって、体重がないというわけでもあるまいが。
 彼女は静かに、ただしきっぱりと断言する。
「数学こそが、世界の真理なのよ」
「――ヒルベルトの形式主義は……」
「数学が、不完全なのはその通りだわ」
 あっさりと無邪気に、前言を翻してデカルトは認めた。
「不完全性定理も非ユークリッド幾何学も、数学が真理になり得ないことを示している。でもね。だからといって、数学が無意味だということにはならないでしょう? 人が見た世界を書き起こしたものが、即ち数学なのだもの」
 また微笑んで、平気でこちらに背を向ける。
 背後から攻撃していいものか。悩むニーチェの心情を、分かっているのかいないのか。彼女はとうとうと語り続ける。
「”我思う、故に我あり”。私が存在していることは間違えようがないわ。でもね、それなら、私は”何処”に存在しているのかしら? それは、私たちが認識している宇宙とは似ても似つかない世界かもしれない。水槽に浮かぶ脳かもしれない。それどころか、時間と空間で定義できるような場所ではないかもしれない。でもね。私が在る以上、『私の在る何処か』もまた絶対に必要なのよ。それを私は、『世界』と呼ぶわ」
 湖と、空と山と。世界に向けて左手を広げ、デカルトは声を弾ませた。
「数学も文学も心理学も、占星術に風水も、ありとあらゆる学問は全て、同じ『世界』を別の側面から描いたものに過ぎないの。『世界』は決して人の手が届くことのない物自体。宇宙のイデア。それこそが唯一絶対の真理だと、ねえニーチェちゃん。あなたもそう思わないかしら?」
 ニーチェは、答えなかった。
 口を閉ざしたニーチェを見て肯定と受け取ったか、彼女は蒼白の顔に満足げな笑みを浮かべた。
「数学は、『世界』を人の認識に基づいて翻訳したものよ。人の認識に限界がある以上、数学も完全になれないのは残念だけれど……数学を通してだけ、人は『世界』を垣間見られるの。それは素晴らしいことではないかしら。もっとも――そんな必要もない人が、一人だけいるけれど」
「……ベニーね」
「ああ、彼女は素晴らしいわ!」
 花が咲いたようにとは、正にこのことを言うのだろう。
 掠れ気味な彼女の声に相応しくない、精一杯の元気な声量でデカルトは謳った。
「不完全な私たちには触れることができない『世界』を、ベニーは見ることができるの! いいえ、彼女は『世界』――真理そのものだわ! きっと、絶対に、ベニーは私たちを導いてくれるのよ!」
「させないわ」
 鋭く、告げる。
 興奮していた彼女が、冷や水をかけられたように醒めていくのが見ていて分かった。手にした『力への意志』を握りなおし、死人色の瞳を向けるデカルトを静かに見つめ返す。
「あなたの哲学は知らないし、知ろうとも思わない。ただし、ベニーは必ず私が滅ぼすわ。人は……何者にも導かれず、自らの意志で生きるべきよ」
 剣の切っ先を、真直ぐに伸ばして。
「ベニーについて、吐けと言われて素直に白状する雰囲気ではなさそうね。いいわ、まずはあなたを滅ぼして、それからゆっくり調べさせてもらうから」
「まあ、それは……ご苦労様なことね」
 ニーチェ越しに山荘を眺め、彼女は心から同情したように言った。
 打ち砕かれて倒壊寸前の建物には、割れた梁や柱が積み重なって散乱している。ここから目的の情報を探すのは、相当に骨が折れる作業だろう。自業自得ではあるが。
「……心配は不要よ」
 捜索はツァラトゥストラに任せるから――と心の中で付け加え、日傘の少女に向き直る。彼女は小さく首を傾げ、優しげに言ってきた。
「そう。いえ、心配していたわけではないの。あなたが私に勝つことは、ありえないのだもの」
「その自信が何処から来るのか、是非とも教えて欲しいわ」
「自信……? ねえニーチェちゃん、あなたは何かを勘違いしているのではないかしら。だって、あなたは――」
 淡々と語る。全ては、最初から決まっていることのように。
「もう負けているのよ」
 眼鏡の奥で、瞳が輝いたその瞬間。ニーチェの世界は捻じ曲がって変質した。

       5、墓場の歌

 気が付けば、ニーチェは教室にいた。
 窓からは夕明かりが差し込み、教室を赤く照らしている。放課後――なのだろう。グラウンドからは部活に励む生徒たちの声が聞こえていた。
 窓際の前から三番目。自分の席に着いてニーチェはノートを広げていた。机の上を撫でて、感触を確かめてみる。間違いない、自分の席である。
 服装は『善悪の彼岸』ではなく、学校の制服に変わっている。ただし右手にはしっかりと『力への意志』が握り締められており、それだけが教室の風景とアンバランスではあった。
 見渡しても、教室内に他の生徒の姿はない。が。
 白いチョークで黒板になにやら書き連ねている、教師風の姿があった。内容は数学か。座標と方程式の関係についての説明らしい。
 X軸とY軸を用いた二次元座標。――デカルト座標を描く彼女に、ニーチェは厳しく問い掛けた。
「……一体、何をしたの」
 これは幻覚だ。
 それは間違いなく明らかなのに、気を抜けば本物の世界だと思ってしまいそうになる。それほどまでに、恐ろしく精巧な幻覚だった。
 デカルトが、振り返ってささやかに笑う。
「ニーチェちゃんは、悪霊の存在を信じるかしら」
 不可解な言葉に眉を顰めるニーチェに、彼女は笑顔のまま続けて言った。
「私の招待状を、受け取ったからここまで来てくれたのよね。……そう、その時なの。招待状と一緒に、私の使い魔が――”悪い霊”が、ニーチェちゃんに取り憑いてしまったのよ」
 頬に手をあてて、首を傾げる。
「”悪い霊”は、人の認識を支配するわ。それがどういうことか、ニーチェちゃんには分かるわよね?」
 チョークを持っていた手で触れたため、彼女の頬に白い粉がついていたが。
 ――状況は、最悪だった。
 認識を支配されるとは、自分の五感が信じられないということである。実は既に刺されて死につつあるのに、気付いていないということさえも有り得る。
 打開策は、ないと言っていい。
 ニーチェは負けた。負けていたのだ、招待状を手にした時、既に。
「ねえニーチェちゃん、降参をしてくれないかしら」
「……殺せばいでしょう」
「もう、意地が悪いわ。できないって分かっているくせに」
 デカルトが、苦笑いを浮かべる。
「永劫回帰。ニーチェちゃんは、何度滅ぼしても生き返ってくるのよね。残念だけど、私にはあなたを完全に滅ぼすことができないわ」
 でもね。と、付け加えて言う。
「滅ぼさない一番の理由は、そんなことをしたらベニーが悲しむからよ。彼女はとても心優しい人だから……誰かが傷つくことに耐えられないのよ。それがニーチェちゃん、あなたでも」
 知っている。
 ベニーは確かにそういう性格だ。もしもニーチェが滅びれば、敵対していたにも関わらず彼女は大いに嘆くだろう。泣くかもしれない。いいや、間違いなく大粒の涙をこぼしてニーチェの死を惜しむはずだ。
 彼女は自分の弱さを隠さない。それを恥だとも思わない。
 だからこそ、ニーチェはベニーが許せなかった。
「ベニーはね、本当はあなたとも友達になりたいの。でもあなたの哲学的にそれは無理だと知っているから――せめて負けを認めて、邪魔だけはしないでいて欲しいのよ」
 我侭を言う子供を諭すように、ただし相変わらず淀んだ瞳で言う。
 それが、とても不快だった。
「私は、ホッブズを滅ぼしたわ」
 言って、ニーチェは立ち上がった。
 重い『力への意志』を引き摺りながら、デカルトを目指して教室を歩く。
「ホッブズだけじゃない。多くのベニー配下の――友達と、本人たちは言っていたかしら――哲学少女を滅ぼしてきたわ」
 瞳に力を込めて、きょとんとしているデカルトの正面に立つ。剣を構え、ニーチェは断言した。
「そんな私と、それでも友達になりたいと言い切るのは、優しさではないわ。それは……人でなしと言うのよ!」
 叫んだ勢いのまま、『力への意志』を横に薙ぐ。
 加速した力の塊が、机に椅子、黒板ごとデカルトを両断して――
 幻覚の教室は、溶けるように零れて消えた。

 振り返ると、一面の花畑だった。
 色とりどりの花々がどこまでも。本当に、地平線の果てまで続いている。三百六十度ぐるりと見ても、花と青空しか目に入らない。
 そんな花畑の中に、デカルトは立っていた。
 花の鮮やかな色に調和した淡いワンピースを揺らして、彼女が腕を正面に掲げる。
 あくまで抵抗するニーチェに呆れたような、憐れむような笑顔を浮かべて、青空の下で宣告した。
「解放命題(プロポジション)”我思う、故に我あり(コギト・エルゴ・スム)”」
 デカルトの全身が、淡い光に包まれた。
 ワンピースの裾から、糸が解けるように服が分解していく。服の下でショーツと、それからブラジャーも、同様に解れてデカルトは裸身を晒した。
 紫外線を拒絶する真白い肌の、その周りに幾つもの光る球体が浮かび上がった。深いクリアブルーをした魔力の球が、ゆっくりと少女の周囲を廻り始める。
 彼女を中心に公転する軌跡は次第に強い光を放ち、やがて蒼く光るリングと化した。同時に多数のフラフープをしているようだと、説明すれば分かりやすいだろうか。
 彼女を包むリングはやがて、狭まってきゅっと身体を締め付けた。病的な痩身に似合わない豊満な胸を上下から押さえて揺らす。そのまま染み込むように肌の上を輝きが広がり、物質化して水色の衣装へと転じた。
 また別のリングが腰を締め付け、そこから光が滝のように流れてスカートになった。肘先や膝下でも、光輪が手袋やブーツに変わっていく。
 青を基調としたドレスを纏って、まだ終わりではなかった。彼女が顔の前に手を持っていくと、あの大きな眼鏡が光の砂となって消失する。かと思えば最後に残っていた蒼い光球が、顔を覆って新しい眼鏡となった。彼女の可憐さを引き立てる、似合いの眼鏡である。
 眼鏡を指で直しながら、哲学少女ルナ・デカルトはニーチェに向き直った。はにかむように――ただし、やはり生気の足りない瞳で。
「哲学者の鎧『世界論』。ベニーは綺麗だと褒めてくれたけれど……どうかしら。馬子にも衣装と、自惚れても構わないかしら?」
「まさか、似合ってるとでも言って欲しいの?」
「そういえば……あなたに褒められてもあまり嬉しくないわ」
 そう思うなら、無駄話は止めないさいと。
 口にする代わりに、ニーチェは『力への意志』で斬りつけた。音速を超える一撃。風圧で花が舞い上がり、二人の間を色鮮やかに舞う。剣は――
 デカルトに届かなかった。目測を誤ったのだ。信じられないことではあるが、目の前の彼女に剣が届くかどうかを判断できなかった。
 認識を支配されるとはそういうことだ。頭で理解はしていても、認識と現実がずれている感覚にぞっとする。頭を振って怖気を払い、ニーチェはデカルトを睨みつけた。
 そこに、彼女はいなかった。
「――降参するつもりはないのね」
 声は、背後から聞こえてきた。
 はっとして振り返ろうとするニーチェの首に、鋼の刃が引っ掛けられた。肩越しに突き出された柄から伸びた、湾曲した刀身の内側に刃が付いている。
 処刑鎌――死神の持つような大鎌を喉にあてがい、デカルトは後ろからにこやかに告げてきた。
「――ありがとう、ニーチェちゃん」
 楽しそうな、心底から嬉しそうな声で笑う。
「ああ……私ね、本当はあなたを殺したくて殺したくて殺したくて仕方がなかったの。だって世界に真理は二つもいらないんですもの。ベニーがいれば、ベニーさえいれば、ベニーだけがいればあなたなんて存在している必要ないのよ。例え世界の片隅でもあなたの哲学が許されるなんて、耐えられるはずがないわ」
 デカルトが、鎌を持つ手に力を込める。刃が喉に食い込み血が滲んだ。
「この鎌は、『情念論』はね。精神と肉体を切り離すことができるのよ。分かりやすく言うと、脳から発せられた信号を遮断して――あら、こちらの方が分かり難かったかしら?」
 悩ましげに首を傾げたが、まあいいかと思い直したようだった。説明自体を放棄して、ニーチェに優しく語り掛ける。
「永劫回帰を持つあなたは滅ぼせないけれど、動けなくして閉じ込めることはできるわ。どうかしら、やっぱり降参したくなったかしら? でももう遅いわ、認めてあげない」
 ――あなたは死なないけれど、死んだと同じことにはなるのよ。
 そう言う彼女は、まるで本物の死神のようだった。死のない少女に死を運ぶ、哲学の死神。
「もちろん、本当に首を狩ることもできるわ。実はね、ニーチェちゃんが死なないと聞いた時から、少しだけ気になっていたのよ。ねえ、あなたがどうやって生き返るのか、私に見せてくれないかしら。首と胴が離れたら、もしかして首から頭が生えてくるの? 試してみてもいいわよね、どうせ死んでも生き返るのだもの」
 声を弾ませるデカルトに、ニーチェは答えなかった。
 抵抗もしない。むしろ脱力して『情念論』の刃を受け入れるニーチェに、デカルトは不思議そうに呟いた。
「まさか、諦めてしまったの? ニーチェちゃんらしくないわ」
 ――諦める?
「それとも、いずれ反撃の機会があるとでも思っているのかしら」
 ――いずれ?
 馬鹿馬鹿しい。己はニーチェなのだ。諦めたり、来るか来ないか分からない時を待ったりはしない。
 そうではなく、ニーチェは決めたのだ。己の持つ、最大の力で戦うことを。
「デカルト」
 鎌の刀身に蒼白い顔が映っている。ほっそりしていると言うよりは、不健康に骨ばった手足。ただ瞳だけが、熱意に歪んで輝いている。世に死神がいるなら、きっと彼女のような姿をしているのだろう。
 鋭い刃を指先でなぞり、何とはなしに言ってみる。
「……あなたにはお似合いよ、このデスサイズ」
 デカルトは一瞬きょとんとした後、深い笑みを顔に乗せて。
「やっぱり、褒められても全然嬉しくないわ」
 断じて、彼女は一息に鎌を引いた。
 ニーチェの首が、玩具のように軽い音を立てて転がる。そこは空想の花畑か、それとも湖を望むテラスだろうか。
 どちらでもいい。真も偽も善も悪も、ニーチェには意味のないことだった。この価値を見失った世界で、信じるべきものはただ一つ。
 ――死んだ手に握られたままの『力への意志』が、日の光を反射して輝いた。

       6、学問について

 現代より、何百年も以前。
 哲学の根本を、デカルトは見つけたはずだった。
 あらゆる思想の基本となる大前提。哲学のオケアノス。事実デカルトのオリジナルが発見した第一原理は受け入れられ、彼は近代哲学の父と呼ばれるまでになった。
 だが、そこまでだった。
 数学がそうであるように、議論の余地がないほど統一された学問になるはずだった哲学は、当初の目論見から外れて方々に分散していった。
 砂を纏めるために水を撒いた結果、泥となって広がってしまった。
 どこで間違ってしまったのか。
 それでも始めは哲学を一つにするために努力はしたが、いつしか彼女は哲学から離れていった。己の失敗から目を逸らすように。
 近年ルナ・デカルトが血道をあげていたのは、物理学の統一理論を完成させることだった。数学者でもある哲学少女にとってその作業は性にあっていたし、少なくとも哲学を統一するよりは見込みがある分野だと思えた。
 静かな湖畔の森の陰。小さな山荘に篭り研究に没頭していたデカルトの下に――彼女が現れるまでは。
 ある日突然にデカルトの下を訪れたベニーは、高名な哲学少女に会えて嬉しいと、どれだけこの日を待ち望んでいたかを興奮気味に語ってくれた。
 誰よりも高名な彼女にそれを言われるのは気恥ずかしさを通り越して不快ですらあったけれど、全身で喜びを示す幸せそうな彼女を見れば、そんな気持ちはすぐに霧散してしまった。
 それから少し、ベニーと哲学についての話をした。
 そして、思い出してしまった。
 統一された哲学を――絶対の真理を見つけ出したいという、あの頃の想いを。
 ベニーならばそれができる。デカルトは、そう確信した。
 おかしいと言うのなら、きっとその時におかしくなってしまったのだろう。けれど後悔はない。どこまでもベニーに付いて行くと、自らの意志で決めたのだから。
 デカルトが明晰に認識するものは、確実に存在する。
 真理は在る。それが、今の彼女が信じる全てだった。

       7、病より癒え行く者

 フリーデリケ・ニーチェは、正確に言うならば超人では”ない”。
 彼女には目的がある。ニーチェ哲学を世に広めるという目的が。万難を排して成し遂げるべき目的がある限り、結果よりも過程を重視する超人にはどうしてもなりえない。
 だが。一時的とはいえ、彼女が超人となる瞬間がある。
「――なに!?」
 デカルトの顔が驚愕に染まるのを、ツァラトゥストラは笑いを堪えながら見ていた。
 彼女の『情念論』に切り裂かれ、全身が全く動かない。床に這い付くばった状態で、けれども彼は自分たちの勝利を確信していた。
 高く、火柱が立ち昇っている。ニーチェの死体が燃えていた。
 尋常な燃え方ではない。炎が、マグマよりまだ赤い炎が頭部と体の両方から噴出している。いや――
 燃えているのではない。彼女の屍そのものが、炎へと転化しているのだ。
 こうして見ている間にも、火勢はどんどんと強まり渦を巻いて拡大していく。デカルトが、小さな悲鳴を上げて飛び退いた。
 炎は衰える様子を見せず、程なくテラス全体を呑み込んで灼熱の海へと変えてしまった。ツァラトゥストラも火に巻かれたが、元より燃え盛る毛皮を持つ彼が、熱量で傷を受けることはない。むしろ心地良ささえ感じていた。
 ――炎の中に、人影が揺らめく。
 そう思った瞬間、炎の流れが大きく変わった。高く天を貫いていた炎が、花が開くように外側へ向かって広がっていく。
 逆巻く炎の中心に、ニーチェが立っていた。生まれたままの姿で、右手に『力への意志』をぶら下げて。
 きちんと胴体と繋がった首の、その瞳が虚ろに空を見ている。
(デカルトは、勘違いしてたみたいだな)
 再生したニーチェを眺めながら、ツァラトゥストラは思考した。
 彼女は、永劫回帰を治癒か蘇生の能力だと思っていた。その実態を知らなかったため、あれだけ驚いていたのだろう。
 滅びは滅びだ。生き返ることはない。それは未だ、どんな哲学を以ってしても覆すことはできない地平の彼方にある。
 だから、永劫回帰は蘇生能力ではない。
(アレは――生き返るんじゃない。生まれ直すんだ)
 ニーチェが、裸のまま剣を振り上げる。
 無表情に、予備動作もなく。ただ上から下に振り下ろしただけの一撃で、湖が真っ二つに断たれた。
 モーゼが海を割ったように、裂けて湖底が露出した。一瞬の、世界が息を呑んだような静寂の後、幾つもの大波が渦巻いて湖の亀裂を埋める。
 雨が――
 上空に吹き上がった湖水が降り注ぐ。それでも一切勢いを止めない火の海の中、雨に打たれて裸身のニーチェはツァラトゥストラに顔を向けた。
 今の彼女に、記憶はない。
 人格も。感情があるのかどうかも怪しい。ただ生まれたばかりである、赤ん坊のように純粋な存在の塊。
 力への意志、そのものだった。
 ――ニーチェが、左手をツァラトゥストラに掲げる。
 応じて、ツァラトゥストラの体が弾けた。肉体を無くし、莫大なエネルギーの奔流となってニーチェの周囲に集う。
 ツァラトゥストラの質量256キログラムが、総てエネルギーに変換されたのだ。その狂った値の熱量を、ニーチェは事も無げに全身に纏った。
 煉獄の炎を思わせる、荘厳にして壮麗なる真紅のドレス。世界で唯一ベニーの鎧に匹敵する、最強の哲学者の鎧――『ツァラトゥストラはかく語りき』。
 哲学少女ならぬ超人少女。主を殺し暴走した『ベヒモス』を、刹那に葬ったニーチェの真の姿である。
 溢れ出す魔力で天地を赤く照らし染めながら、フリーデリケ・ニーチェは静かに剣を構えた。
 彼女の視線の先で、デカルトがただでさえ白い肌を蒼白に染めて、表情を強張らせていた。

       8、舞踏の歌

 ――強く在りたい。
 ニーチェの心にあるのは、それだけだった。
 理由は要らない。太陽が膨張を続けるように、子供が大人になるように、より強大な力を求めることは、存在として当然の欲求である。
 或いは本能と、そう言い換えても良いかもしれない。
 神のいない世界で、人生の価値が決して保証され得ないこの世界で、理屈を越えた魂を突き動かす衝動だけが、人に生の実感を与えるのだ。
 ――妨げる者は、打ち砕くのみである。
 ニーチェは、デカルトへと向けた『力への意志』を振り上げた。
「……っ! ”悪い霊”!」
 デカルトの悲痛にも聞こえる呼びかけに応え、世界が一瞬で変質する。
 気が付けば、ニーチェは宇宙に浮かんでいた。
 全身が凍り付く極低温。真空の世界は呼吸を許さないのみならず、体内の水分を沸騰させようとする。幻覚と分かっていても、通常耐えられるものではない。
 だが。ニーチェは全てに構わずに、掲げた剣を振り下ろした。
 世界が、砕ける。
 “悪い霊”の作り出した妄想の世界は、鏡が割れるように金属質の音を立てて破壊された。もうどこにも、いや最初から、宇宙の風景など存在していない。
 風が水面に波を作る湖畔で、デカルトは恐怖に顔を引き攣らせていた。
「そんな! “悪い霊”……!」
 心が折れていないのは、褒めても良い事かもしれない。
 再び世界が変わる。今度は光の届かない深海だった。水圧に体が潰されそうになりながら、また平然と剣を振るう。
 あっさりと、湖畔は静けさを取り戻した。
「”悪い……霊”……!」
 三度目には、声に涙が混じっていた。
 そこは太陽の内部だった。灼熱の業火に焼かれながら、ニーチェが三度剣を振るう。
 心剣『力への意志』。この世で最も強大な力が、嘘を吐く世界を破壊した。
「…………っ」
 そこまでだった。
 “悪い霊”の使役に、体力が必要というわけでもないだろうに。デカルトは肩を震わせて息を荒げていた。咽の奥で掠れた、か細い声で呆然と呟く。
「ニーチェ……神殺しの、哲学少女……」
 ようやく理解したらしい。
 彼女では、ニーチェには到底敵わないことを。
 ゆっくりと、デカルトに剣を向ける。悲鳴を上げる彼女を、ニーチェは刹那の踏み込みで斬りつけた。
 その一撃を――奇跡的にも――デカルトは避けた。眼鏡の蔓に指先で触れて。
「わ……私の『世界論』は世界を座標化して、運動を数式として捉えるわ。そう簡単に――」
 言い終える前に。
 返す剣で、ニーチェはデカルトの眼鏡を叩き斬った。
「あ……」
 気の抜けた呟きを漏らし、彼女は数歩下がってへたり込んだ。浅く切られた額に血の筋が浮かぶ。
 終わりだった。手足をガタガタと震わせて、へたり込むことが精一杯のデカルトに、もう立ち上がる気力は残っていない。
 ニーチェは剣を下げると、じっとデカルトを見下ろした。静かに、ただし鋭い声で告げる。
「デカルト」
 その声に――
 一番驚きを見せたのは、ツァラトゥストラだった。内側から発せられる驚愕の思念を感じ取りながら、それは一先ず置いて言葉を続ける。
「あなたの方法的懐疑は完璧だったわ」
 デカルトが、顔を上げる。
 混乱している表情だった。まさか、褒められていると思うはずもない――褒めているつもりもない。
「けれど、哲学は間違えた。我思うゆえに我あり。あなたは世界に自分がいることを証明したんじゃない。あなたは……」
 声に、一層の鋭さを含めて告げる。
「世界に、自分しかいないことを証明してしまったのよ」
「ちが……うわ……。私が認識するものは、確実に存在を……」
 途切れ途切れに言う彼女に、ニーチェは冷徹に首を振った。
「世界を美しいと言っていたわね、山並みや湖を綺麗だと。――本当は、そんなことを思ってもないのでしょう。世界には、自分以外何もないのだから。あなたの哲学が完成した時、世界は意味を失ってしまった」
「私は……」
「あなたは、それに耐えられなかった。だから世界を――唯一にして絶対の真理を求めたのね。そんなもの存在しないと、心のどこかで知っていたのに」
 それが、彼女のルサンチマン。
「……違う!」
 デカルトが叫ぶ。
 燃え尽きる直前の蝋燭のように、白い肌を紅潮させて。
「違うわ、それは間違いよ。真理はあるわ……そう、ベニーが! ベニーがいるもの! 彼女こそ世界、真理そのものだわ!」
「ルナ・デカルト……」
 苦い。
 苦いものを呑み込んで、ニーチェは言った。まるでどちらが勝っているのか分からない、泣いているような悲しげな声で。
「あなたは、確かにそこにいるのに。世界は初めからあなたの中にあったのに、どうしてそれで満足できなかったの」
「私の、中に……? そんなはずはないわ。こんな――こんなものが、真理であるはずないもの……」
 自分の掌を見下ろして、デカルトが呟く。
 触れれば折れそうなほどに細い指。全体は血管が透けて青白く、病的な印象が濃く漂っている。
 ――デカルトのオリジナルは、生まれながらに体が弱かった。
 だからだろうか。彼は自分の外部に真理を求めた。数学を好み、広く世界を回り、個人を超越した理性と論理に真理を求めた。
 結果として見つけた真理が、世界を否定するものだったとは。皮肉と言うより他にない。
「選びなさい」
 『力への意志』を突きつけて、ニーチェは宣告した。
「自分を受け入れて、人間本来の生を生きるか。それとも歪んだ価値観の中で、私に滅ぼされるか」
「決まっているわ」
 今日見た中で、最も晴れやかな顔で――
 病弱な身体を忘れた生気に満ちた笑顔で、彼女は即答した。

 恐らくはそれが、信仰というものなのだろう。

       9、夜の流離い人の歌

『――途中で、正気に戻ったな』
 足元で、ツァラトゥストラがそう呟いた。
『超人化してる最中に正気に戻るなんて、今までなかったじゃねーか。できるんなら最初からしろっての』
「今回だけよ」
 疲れた調子で、ニーチェが答える。
「デカルトの”悪い霊”が、私の認識を引っ張り出してくれたのよ。彼女は私を倒すためにそれをけしかけたわけだけど……怪我の功名といったところね」
 実際、彼女はひどく疲れていた。
 永劫回帰の発動は、そう気楽なものではないのだ。体力と精神力をごっそりと持っていかれる。超人化している最中は気にならないのだが。
 道端に立つ錆びたバス停に寄り掛かり、ニーチェは空を見上げた。
 夜空には、星が瞬いている。
 ぼんやりと、白く霞がかっているラインは天の川だ。その正体は、無数の星々の集合体であるという。それらの星の全てで――
 同じ物理法則が適用される事実。それは当然の事でもあり、またとても奇妙な事であるようにも思えた。
 それは、いい。今重要なのは、そんなことではない。
 重要なのは、もうバスがないという事実である。
 初激で叩き壊された上、ニーチェに焼き尽くされた山荘からは、ベニーの手掛かりを発見することはできなかった。気が付けばとうに日は沈み。ここに辿り着いた時には、既に最終のバスが行った後だった。
 後はもうヒッチハイクでもするしかないが、車の通りはほとんどない。そろそろ、徒歩で最寄りの駅に向かう決断をしなければならないだろう。何時間かかるかは分からないが。
『”悪い霊”ねえ』
 丸まって休んでいるツァラトゥストラが、大した興味もなさそうに言う。
『そいつは、もう消えたのか』
「さぁ、どうかしら」
 使い魔というものは、主が滅べば消えてしまうものが多い。だからといって、例外がないわけではない。少なくともホッブズの『ベヒモス』は主の死後も暴れ続けた。
 だからひょっとすれば、”悪い霊”が未だニーチェにとり憑いている可能性もなくはないのだが。
「なんにせよ、私に”悪い霊”は見えないわ。認識できないものの居る居ないを論じても、仕方ないでしょう」
『……それもそうだな』
「――歩きましょうか。車を待つのも飽きたし」
『従うよ』
 連れだって、二人が歩き出す。
 暗い夜空の下を、ただし迷いのない足取りで。
 立ち止まることはない。行く先が暗いからといって逃げ出して、進む者が愚かなのだと歪んだ言い訳をしてはならない。
 真っ直ぐ進んだその道こそが、人間本来の生なのだから。
 ――ニーチェは歩き続ける。
 目的を果たすまで。
 ベニーの胸に『力への意志』を突き立てて、価値の再転倒を果たすまで。彼女は永劫を生き続ける。
 それこそが、神殺しの超人少女フリーデリケ・ニーチェの哲学である。

       0、

「熱ぅ!」
 おたまで掬ったシチューを味見して、ベニーは小さく悲鳴を上げた。
「あぅ……でも、おいしひ……」
 火傷した舌を持て余しながら、しかし嬉しそうに呟く。
 料理は、数少ない彼女の持つ特技の一つだった。特に今日のシチューは、会心の出来と言っていい。自然と顔もほころぼうというものだ。
 チン――と、オーブンが鳴る。
 ベニーはエプロンの裾で口元を拭うと、とてとてとオーブンの前に駆け寄った。
 外見年齢はおよそ十六歳。幼いと言うほどでもないが、彼女の挙動は一つ一つが小学生のようにたどたどしい。今にも転びそうな小走りで三メートル先のオーブンに辿り着くと、蓋を開けて良い焼き色のチキンを取り出した。
 香ばしい匂いが厨房に広がる。これもまた、満足の行く仕上がりだった。
 と。
「ベニー……」
 呼ばれて振り返れば、青年が呆れた顔で立っていた。
「料理は俺たちでするって言っただろ」
「ご、ごめんなさい……。でも、せっかく皆さんがいらっしゃるんですから、わたしも何かできればと思いまして……」
「だからさぁ」
 青年は、呆れた表情を更に深くして。
「俺らに敬語を使う必要はないっての。どこの世界に、使い魔と敬語で話す主がいるんだよ」
「駄目、でしょうか……?」
「ああもう、好きにすればいいや」
 不安になって上目遣いに訊くベニーに、青年は軽く頭をかかえて諦めた。
「……それより、ここはいいから早く行け。皆待ってるぞ」
「は、はい!」
 もう、そんな時間だったか。
 ベニーは慌ててエプロンを外すと青年に――十二体いる使い魔の一人、バルトロマイに頭を下げて厨房から飛び出した。
 慌てていたため、途中で二度ほど顔面からこけた。

 広い大聖堂。
 その祭壇の下。聳える巨大な十字架を背に立って、ベニーは集まった哲学少女たちの顔を見渡した。
 ここにいるだけで二百人超。総勢で五百を越える”友達”の全員を、ベニーはしっかりと記憶している。こうして一瞥するだけで、誰が来ていないか確認することもできる。
 以前は欠席者全員に後で連絡を入れていたのだが――純粋に心配だったのだが――、余計なプレッシャーを与えるなと使い魔たちに釘を刺され、最近は自重していた。
 それでも、いつも見る顔がいなければつい探してしまう。
 ホッブズ。そしてデカルト。特にデカルトは、知り合ってから一度も欠席したことがないほど熱心にこの集会に参加してくれたというのに――
 彼女はもう、どこにもいない。二度と会うこともない。
 悲しくなって、ベニーは瞳を閉じた。胸の前で指を組み合わせ、流水の声音で言う。
「人は、弱い生き物です」
 あまり大きいとは言えないその声は、しかし聖堂の隅々にまで響いた。
「それは、決して恥ずべき事ではありません。弱さを知っているからこそ、慈愛の心を育み他者に優しくすることができるのです」
 顔を上げる。普段の彼女からは想像できない、凛とした表情でベニーは告げた。
「表面的な強さは捨てましょう。力によって得た幸せは、本当の幸福ではないのですから」
 光が――
「解放聖句”父よ、彼らをお許しください”」
 ベニーの全身を、眩い光が包み込んだ。
 不思議な色の光だった。純白のようであり、虹色に彩られているようでもある。赤、黄、青――あらゆる色が等しく混ざり合って、つまりはやはり純白だった。
 光はやがて、レースのドレスへと転じた。細やかな刺繍の施された、真珠よりも白くダイヤモンドよりも輝く美しいドレスへと。風もないのに裾を波打たせ、ベニーを可憐に飾り立てる。
 その背中から、大きな翼が生えた。
 聖堂の半分を覆う巨大な翼だった。優しく羽ばたいて、皆の頭上に羽根の雪を降らせる。
 それは、この世で最も高潔な哲学者の鎧。救世主たる証『新約(ザ・ニューテスタメント)』。
 集まった哲学少女たちは、一様に涙を流していた。
 『新約』の羽根は人に触れると、対象から強くあろうとする心を――力への意志を奪う。
 それは即ち、人間としての完成を意味する。弱さを受け入れる心こそが、この世界で人だけに与えられた特権なのだから。
 弱さこそが、人間本来の生の形なのだ。
(……ニーチェ)
 ベニーは、敵の姿を思い浮かべた。
 己の哲学の対極に位置する、誰よりも愛しき敵の姿を。
(やっぱり、私じゃないと駄目なんですね。私が、あなたを導いてあげなければ……)
 聖堂には、未だ光の羽根が降り注いでいる。
 ここに争いはない。奪い奪われることも、憎み憎まれることもない。誰も傷つくことのない、小麦のような優しさだけが存在する。
 いずれは全世界が、ここと同じになるのだ。
 そのためには、あの超人を乗り越えなければならない。逆説的ではあるが、彼女がいて初めてベニーの哲学は完成するのだ。
 逆様の哲学少女。最後の一欠片。他の何よりも、特別な彼女。
 ――愛してる。
 囁き声で呟いて。イエス・ベニー・ヨセフは、自ら戦う決意を固めたのだった。
皆本暁 

2010年12月29日(水)15時03分 公開
■この作品の著作権は皆本暁さんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
はじめまして。
哲学のことを全然知らない私が、飲茶様の著作とウィキペディアだけを頼りに書かせていただきました。

はい、ただ魔法少女の変身バンクが書きたかっただけです。
根本的に企画の趣旨を誤解しているような気もしますが、見逃してください。

こういった場に投稿するのは初めてなので、至らぬ点もあるかと思いますが、どうかご容赦のほどをお願いします。

※10/12/31
誤字をちょっと訂正。まだありそう……

※11/02/03
指摘していただいて更に誤字訂正。
校正ちゃんとしないとなぁ。


この作品の感想をお寄せください。

2011年02月02日(水)21時45分 皆本暁  作者レス
>真柴竹門さん
熱い感想ありがとうございます!
リリカルなのはもまどかマギカも見てますよ。個人的にはプリティサミーが好きです。
特別なのはだけを参考にってことはないですけど、近年の魔法少女パロディもの色々は書いてる時頭にあったと思います。大魔法峠とか(笑)

>本当に「飲茶様の著作とウィキペディアだけ」で勉強したんですか?

哲学をちゃんと勉強したことはありません。ていうか哲学の本だって一冊も持ってません、飲茶様の本だけです。あとはゼノサーガ(おい)。
だからニーチェの哲学を勘違いしてないかちょっと心配なんですよねー。哲学って奥が深くて分かりづらくて。でも確かに好きは好きです。ネットでたらたらそれっぽいページを見たりはしちゃいます。

魔法少女ものはタイトル見て貰えれば分かるかなーと思ったんですけど……超魔法少女とかにしておけばよかったかな。
哲学用語とかも、趣味に走ったからとはいえちょっと不親切すぎたかなー。精進せねば。

作者的にも一番の萌えキャラはベニーのつもりで書いているので、伝わったようで嬉しいです。ええ、色々な団体に怒られそうですけど。ジーザス。

改めて、感想ありがとうございました。


pass
2011年02月01日(火)23時33分 真柴竹門  +40点
はじめまして、真柴竹門です。久々にローグライクRPGゲーム「神楽道中記」(18禁)をプレイして『やっぱちょっと腕が落ちたかなあ?』とか思いながら感想です。
いきなりですが、この「超人少女〜」って作品はもしかして「魔法少女リリカルなのは」を参考にしてません? あの熱血友情で魔法バトルなアニメです。もしくは、私は未視聴だけど「プリキュア」とかですか?
いや、明らかにファンシー要素を盛り込んでおきながら、ハードな設定とアクションシーンってのは「なのは」に通じるものがあるなーと思いまして。
最近では「魔法少女まどか★マギカ」という、トリッキーな色彩演出の新房昭之とかわいくて萌えーな絵の蒼樹うめとバイオレンスでバッドエンド好きな虚淵玄、そして個性的な作品を世に送り出すアニメスタッフのシャフトとエキゾチックな音楽を生み出す実力派の梶浦由記といった面子の「なのは後継者」的な作品がありまして、化学反応どころか悪魔合体なシロモノでした(笑)。

さて、余談はここまでにしましょう。えーと、タイトルからして『ギャグ系かな?』と予想しましたが、出たしがかなーり真面目で気合いを入れ直しました。だというのに……

>「みんなが勝手に動いたら、どうなるかな? 暴動かな? 戦争かな? どっかーんてなるかも。どっか〜ん!」

……って何ですか? 皆本暁さん、あんた最初の雰囲気かえせ!(笑)。
そして変身シーン、めちゃめちゃチカラ入っててクソ吹いちまったじゃないですか。まずこの辺で読者が試される気がします(笑)。でもいいぞ、もっとやれー!
それからモーフィアスさんが「視覚的な描写が多すぎる」と批判していますが、それほど気にしなくていいと思いますよ?
私なんかモーフィアスさんの「終末崩壊序曲!」で「詩的な文章は解読に疲れる!」と批判したことありますし、金椎響さんの「死の季節」では「その文体は封印してくれ!」とまで言っちゃった人間ですからね(笑)。視覚的文章も詩文も、どっちもどっちです。
というか私は視覚的文章のほうが読みやすいと感じる人間でして(逆に詩文は苦手)、本作の変身シーンはイメージしやすかったのでよく出来てると思います。いいですよ、いいですよ。
そしてバトルシーンは肉体言語ですか。それにしては膝の関節や肩を痛めたりしてヘチョイですね(またはリアルと言うべき?〔笑〕)。
けどバトルの内容は激しいです。本気で殺しあってます。結界を貼って外界と遮断したり、戦闘後の破損物が修復したりといった生易しい設定もありません。大蛇、炎の魔犬、悪い霊、といった使い魔も強力でしたし、ローグRPGとは違った意味でサバイバルです。はい。
ストーリーのノリも良いですね。例えばデカルト初登場の第三章なんか『コイツが次の敵であり、ページ数から考えて一応のラスボスか。ゴクリ』と期待したくらいです。
んでもって哲学面ですが、作者はよく勉強したと思います。イチイチ「このネタはあれでしょう? これでしょう?」とは言いませんがね。でも……

>そもそも力とは何か。それは、影響力であると言ってもいい。『何』を『どれだけ』変えられるかで、力の強さは測ることができる。人一人を小さく動かすことは、弱い力でできる。国を大きく動かすためには、強い力が要る。そういうことだ。

……やっぱ良いですね、こういうウンチク(笑)。というかホッブズが「ベヒーモス」という作品を作っていたことや、デカルトが生まれつき身体が弱かったこととか、私は知りませんでした。本当に「飲茶様の著作とウィキペディアだけ」で勉強したんですか?
ニーチェやデカルトとはあまり関係ない不完全性定理も非ユークリッド幾何学も、作者は知っていましたし。いやあ、凄いです。
本作の特徴は、哲学要素を魔法少女ネタに編み変えてパロディに仕立て上げている点にあります。しかしパロディというのは元ネタに対して(批判的であろうが)愛・敬意がなければダメです。つまらない作品になります。
それに関して言えば、中学校の帰りでの「学校のテスト・成績は社会に出たら意味がない。でも社会に出るまでの努力をクラスの子はしているのか? ただの弱者の僻みに落ちて、ルサンチマンになってるだけじゃない。でもどうしたら上手く指摘できるのか?」と悩むシーンからでも伺えます。
ちゃんと理解したうえでないと、これは書けません。またラスト近くでの、永劫回帰による「生き返る、じゃなくて生まれ直す」といったニーチェ復活ネタは素晴らしいアイディアであり、暴走ベヒモスと絡めたかなりの良質な伏線となっております。これは哲学に対しての愛・敬意があったから可能なんです。
それから作品全体の完成度も高水準です。これらの理由をもって、私は本作に高得点をあげざるを得ません。ええ、よく出来てます。……しかしながら、この小説には致命的な欠陥があるのです。
ぶっちゃけた話、読者層がめっさ限定されまくりです!
「超人少女〜」を読者が楽しむためには、次の条件が重なってないといけないんじゃないかと想像しました。
1.ニーチェ・ホッブズ・デカルトなどの哲学を前もって知ってること。でないとパロディ作品なんだから読者側がツッコミを入れられず、笑って楽しめなくなるからである。
2.魔法少女もの、しかもバトル要素の強い魔法少女作品が好きであること。でないとパロディに持っていく方向に対し、読者側が嫌悪感を抱くかもしれないからである。
……凄く敷居が高いです(笑)。本作の哲学要素の書き方は、とてもじゃないけど「解説」って形ではないですからね。どうしたって予備知識が読者側に求められます。
私だって本作を真っ当に評価できてるのか、あまり自信ないです。もし正当に評価されたいならば、自分の足で「ニーチェが好き?」「うん」「じゃあ魔法少女ネタも好き?」「うん」と答える輩を探し出し、「これ読んで!」と頼まねばならないでしょう(笑)。
まあ作者は「ただ魔法少女の変身バンクが書きたかっただけです」と明言してるわけですしね。作者が「書きたい!」と思うものを書くべきだというのが私の意見ですから、これについては評価しないことにしておきます。
ただまあ、皆本暁さん自身の首を絞める改善案となるやもしれませんが(笑)、「作者からのメッセージ」で「これはニーチェと魔法少女をネタにしたパロディ作品です!」と書いておいたら途中で逃げる読者は減るかと思います。逆に「読もう!」って読者も減ることになりそうですが(笑)。
あと「力への意志」と「力への意思」が統一されていませんね。直しておいたほうがいいんじゃないですか?
つーか、ついてこれないと言えば一番ついてこれないのが、感想欄での華は半開さんと作者との会話ですよ。

華は半開さん
>他にベニーの敵足りうる哲学少女は誰が挙げられるだろうか(ニーチェの仲間は一人もありえないだろうけれど)?
>カルリクレス? ゴータマ・シッダールタ? ムハンマド? ……少ないなあ。

皆本暁さん
>シッダールタは観察者ポジションですよねきっと。
>ニュートンあたりも、上手くすれば当て馬くらいにはなるかもしれません。三位一体否定していたらしいですし。
>あとはかなり強引ですが、人類はすべて真理をもとめる哲学者だとすれば
>原始の哲学者ルーシー・アファールという手も。
>いえ、もっと古い化石も発見されているようですが。こっちの方が有名なので。

全っ然わかりません! あなた達は一体なにを話してるんですか?! カルリクレス? もう一から十まで教えて下さい!(泣)。
では最後に、本作で気に入ったのはセリフ回しですね。とても良かったのをピックアップしましょう。

>「――時間稼ぎ、頼めるかしら」
>『勝てと言われなくて安心したよ』

>「あなたは、戦わないの?」
>「そんなことしないよ! 戦う権利は、全部リヴァイアサンに預けたんだから!」
>「ならあなたは、世界に何をなすのかしら」
>「何って……」
>「あなたの生きる価値は、何?」
>「…………」

>『……遅かったじゃねえか』
>「ナイスタイミングでしょ」
>『遅すぎだ、この野郎……』

>『静かな湖畔の森の陰、ってところだな』
(略。ていうかこの間のシーンに対して『容赦ねーっ!』というツッコミ〔笑〕)
>「呼子鳥の目覚ましと言うには、少し派手過ぎたかしら」
>『……もしかして、目覚める前に永眠するだろって突っ込み待ちか?』

>「ホッブズだけじゃない。多くのベニー配下の――友達と、本人たちは言っていたかしら――哲学少女を滅ぼしてきたわ」
>「そんな私と、それでも友達になりたいと言い切るのは、優しさではないわ。それは……人でなしと言うのよ!」

>「……あなたにはお似合いよ、このデスサイズ」
>「やっぱり、褒められても全然嬉しくないわ」

>「あなたの方法的懐疑は完璧だったわ」
>「けれど、哲学は間違えた。我思うゆえに我あり。あなたは世界に自分がいることを証明したんじゃない。あなたは……」
>「世界に、自分しかいないことを証明してしまったのよ」

……いいですなあ。私にはこういう腕が元からありませんからね。鍛えようにも鍛えることすら適いません。
まあこんな愚痴を言ってたら、超人少女フリーデリケ・ニーチェに「ドスッ」って後ろから刺されそうですが(笑)。
ちなみに、萌えに関してですが、ニーチェは始めから終わりまでずっと(良い意味で)凛々しかったですし、ホッブズはガキすぎますし、デカルトは病んでいますし。
思えば一番萌えなのが、ラスボスのクッキングするベニーちゃんかもしれません(笑)。

では、点数は四十点を差し上げます。魔法少女とニーチェをここまでパロってくれる秀作は他にないでしょう。星空の夜を歩くニーチェちゃんの姿はとても勇ましかったです。
それでは、どうもありがとうございました。

109

pass
2011年01月05日(水)14時18分 皆本暁  作者レス
>華は半開さん
感想ありがとうございます。
シッダールタは観察者ポジションですよねきっと。
ニュートンあたりも、上手くすれば当て馬くらいにはなるかもしれません。三位一体否定していたらしいですし。

あとはかなり強引ですが、人類はすべて真理をもとめる哲学者だとすれば
原始の哲学者ルーシー・アファールという手も。
いえ、もっと古い化石も発見されているようですが。こっちの方が有名なので。

pass
2011年01月03日(月)12時51分 華は半開  +20点
他にベニーの敵足りうる哲学少女は誰が挙げられるだろうか(ニーチェの仲間は一人もありえないだろうけれど)?

カルリクレス? ゴータマ・シッダールタ? ムハンマド? ……少ないなあ。
125

pass
2011年01月02日(日)18時26分 皆本暁  作者レス
>モーフィアスさん
感想ありがとうございます。
ついつい視覚的表現を多用してしまうんですが、読者にしてみれば読みづらいだけですよね……。
このタイトルにつられて読んでくださった方なら、ニーチェの名前が出てくるまでは読んでくれるのではないか。そこまで読めば笑ってくださる方もいるのではないかと期待したのですが。
読み手にそれを期待するのは、書き手の甘えですね。反省します。

間延びした説明台詞が続いてしまう時は確かにあります。
それとも、本筋と関わらない会話に尺を取りすぎていることについての指摘でしょうか。どちらにせよ、もっと余分なものをそぎ落とす努力はしなければなりませんね。
自分でも少し気になってはいたのですが、こうして指摘していただけるとはっきり自覚できて助かります。ありがとうございました。

哲学用語に関しては……すみません、この企画向けの一発ネタということで勘弁してください。

>〓〓〓さん
匿名は構わないと思いますよ。
ただ、下駄記号は表示できない文字(ケータイ用の絵文字をパソコンで見る時とか)の代替として使われることがあるので、文字化けと誤解されやすいです。必要性がなければ、使わない方が無難かもしれません。

pass
2011年01月02日(日)03時27分 モーフィアス  0点
 幻想的な作風は好きです。個人的な好みを書くことは、実力向上に関してまったく意味はありませんが。
 ただ、興味のある作風ではあっても、面白いとは思えませんでした。
 とにかく、視覚的な描写が多すぎる。読むのが疲れる。つってもなぞるように目を通しただけで、ろくすっぽ読んでいませんが。
 文章作品というのはアニメ等の映像作品とは違います。絵なら一目で分かることも、文章だといちいち、文字を読んで想像しなければなりません。この作業がとても疲れる。このサイトの読者は、情景描写なんかには付き合ってくれませんよ。私もですが。
 視覚を文字にする作業は、極力止めるべきです。

 次に、ガキっぽい台詞の数々は完全に私の守備範囲外で、茶番にしか見えません。けど、このサイトにはこれでちょうどいいのかもしれません。そこらへんはちょっと判断つきかねるのですが、確実に言えることは、無駄な会話が多いです。台詞と描写を時系列順にひたすら並べただけの、脚本的な箇所が多いです。
 特に重要ではないシーンも脚本のような展開が長いこと続くと、嘘くさくなるし、退屈です。作品にメリハリが必要です。

 そして。
 哲学的用語が分からなくても作品自体は理解できるように創らなければなりません。
 その単語の意味が分からなければ楽しめないのであれば、暗号が書かれているのと同じです。それでは、娯楽として失格です。面白いはずがありません。

 一人、高評価な感想をつけていますが、基本的に、この作品は、ほとんど人は冒頭20行ほども読み進まず、リタイアしています。

 私の作品もそうですが、冒頭で小難しそうな作品は、このサイトにおいては場違いです。読んでもらえてません。
132

pass
2010年12月30日(木)18時20分 皆本暁  作者レス
>〓〓〓さん
私は変態ではありませんが、喜んでいただけたのでしたらとても嬉しいです。思い切って投稿した甲斐がありました。ええ、変態ではありません。紳士です。

それと、お名前は下駄記号三つでよろしいでしょうか。
もしかしたら、文字化けしているのかとも思いまして。勘違いでしたらすみません。

pass
2010年12月29日(水)20時36分 〓〓〓(考え中) 
皆本暁様、こんにちは。
すごいです、すごいです、すごいですー! どうしたらこんなマジックが使えるのでしょうか? hentai-nihonに生まれて良かったです。ああ、たいへん幸せです。どうもありがとうございました。

2010年12月30日追記
言葉足らずにて失礼しました。作者様はもちろん紳士です! 申し上げたかったのは、クールジャパン、ギークの文脈で用いられる、驚愕・賞賛・畏敬の意味を込めたhentaiです。偉大な思想家・哲学者を可愛らしい少女に変換するhentai、少女が変身するhentaiでもあります。

げた記号は単に匿名のつもりで使用しておりました。著者の方から指摘を受けたのは2回目ですので、改めようと思います。感想人として一個の人格を持つことを求められているか、出版関係の方であれば作業未完了の不完全感を持たれるのかも知れません。

2011年1月2日追記
皆本暁様、お返事ありがとうございます。
「活版印刷は死んだ!」
このように解釈し、思考を経て、思想込みで作品を評価する覚悟があるかと繰り返し自問し読み直し、とても自信が持てなくなりました。非常に面白く拝読したのは本当ですが、評価は控えさせていただきました。また言葉足らずな気がしますが、悪しからずご了承くださいませ。

2011年2月27日追記
 皆本暁様、もう読んで戴けないかも知れませんが、失礼をお詫びするために追記します。まず、ご作品に釣り合わない感想文を付けてしまい、ご気分を害されたことと思います。誠に申し訳ありませんでした。
 次に下駄記号について弁解させてください。下駄記号の呼び名は金属の活字を組んで活版印刷を行っていた時代に使われていました。活字とは木や金属の柱上の細片の一方に左右反転した文字が凸となるように彫りこまれた(朱文の印と同じ型です)あるいは鋳造されたもので、一個一文字となるように製造されており、文章の形に一文字ずつ並べて版を組み上げ、できあがった版にインクをつけて紙に当てるとインクが紙に転写されて刷り上る仕組みが活版印刷です。(書物からの知識なので理解が浅いかもしれません。ご容赦ください)版を組むときに必要な活字が足りなかったら、代用文字としてありあわせの活字を裏返して仮組みしたそうです。鋳造した活字の裏側はすべて同じ形に仕上げられており、試し刷りするとその形から〓下駄と呼ばれる印刷像が生じました。時代が変わってもはや活字は使われておらず、「該当文字無し」の意味と下駄記号〓が残り、由来はすっかり消え去ってしまったようです。本サイトのような「活字中毒」の人が集まる場所であれば、活字の裏側の様子など共通認識であるに違いないとはまったくの私の思い違いで、既に「活字」の意味さえ異なっているのだと今回の行き違いを通じて認識させられました。不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。
 最後に、評価点を引いた本当の理由を申し上げます。皆本暁様にはまったく関係のない個人的な感性の問題であり、勇んでうかつに感想評価を書き込んだ私が悪いのですが、つまり、後で気付いたことですが「新宿が見える180haの公園」が実在のある公園とよく合致しそうであることが私的に受け入れられませんでした。虚構と現実の混ぜ方に対する私個人のこだわりに原因があります。ご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ございませんでした。本作が非常に面白かったことから、早く注目してもらいたいとの気持ちが裏目になり、皆本暁様にたいへんなマイナスとなってしまったことをお詫び申し上げます。それでもたくさんの方が本作を読み、楽しんだことは拍手の数に表れていると思います。とても整った文章でまとまりがあり、企画の趣旨によく添った本作は得点以上に評価されるべきであると思います。重ねてお詫び申し上げます。本当にすみませんでした。
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合計 4人 60点


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