コギト【修正版】
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 宇宙船は闇の中を静かに泳ぎ続けている。
 この宇宙船には窓が無い。この宇宙船にはエンジンが無い。この宇宙船には時計が無い。この宇宙船には明かりが無い。どれも設計者が付け忘れたわけではない。そもそも必要が無いのだ。
 心臓から伝わる鼓動だけが時間の進行を感じる手段。曖昧な意識だけが目の前の世界を知覚している。目の前といっても、前も後ろも右も左も上も下も真っ暗なのだけれど。
 耳は何の音も捉えず、鼻は何の香りも感じない。何より身体が全く動かせない。
 でもそんな、インプットもアウトプットもほとんど無い、自分以外が全て死に絶えたような世界ですら、人間は哲学せずにはいられないのだ。
 私は考える。
 世界とは何か。
 存在とは何か。
 真理とは何か。
 私とは何か。
 あなたとは何か。

 何かとは、何か。



 φ運命的な彼女φ

 明日できることは今日するな――そう言ったのは、誰だったか。
 今年の冬は例年より少し長く感じた。春一番が髪を撫で付ける中、コートをあおった背中を若干丸めつつ、まだ少し雪の残るアスファルトの上をゆっくりと歩く。
 寒さの厳しい三月下旬、僕はこの時期特有の憂鬱な気分に浸りながら、春休み前に出たレポートを処理しようと大学へ向かっていた。家でやれないこともないけれど、仕送りの望めないいわゆる苦学生たる僕は、電気および水道およびガス料金を積極的に節約しなければならないのだ。
 警備員さんに軽く会釈しつつ、大学の敷地内へと足を踏み入れる。さすが地方大学の春休みと言ったところか、ロータリーに人影はほとんど見えず、閑散とした構内に一抹の寂しさを感じた。その上、いつも一緒に行動している友人達は皆、実家の寄生虫になるため帰省中だ。対して、実家が差し押さえられて跡形もない僕に、改まって帰る場所など存在しなかった。
 夏までには進路も確定し、休み明けから卒業研究も本格的にスタートするだろう。研究テーマを何にしようか考えながら図書館へ続く階段を上る。
 短い悲鳴が聞こえてきたのは、踊り場まであと少しというところだった。咄嗟に見上げた直後、視界を阻むように降ってきた何かを、さながらアニメの主人公のように抱き止め……抱き止……。
「う、無理……」
 生憎、落ちてきたのは飛行石を身につけた三つ編みの少女やカニに体重を奪われた女子高生ではなかったらしい。生まれてこのかた、体育の時間以外にスポーツと言えるような活動をしてこなかった僕は、彼女を受け止めた姿勢のまま階段の角に背中を思い切りぶつけ、一階までゴリゴリと滑り降りた。
 彼女の持っていたバッグから数冊の本が飛び出して、ニスの光るフローリングに散らばる。
『方法序説』
 一瞬だけ見えた本の表紙には、そう書かれていた。



 彼女と初めて会ったのはいつか、記憶力が悪く注意力も散漫なこの僕に、正確な日付までは答えられない。けれど、会った場所がこの大学の図書館で、今年に入ってからだということは覚えている。
 僕は日頃からレポートを書くために、仲の良い友人達と図書館に通っていた。対して彼女は、決まって『哲学』の書架のそばにある机に着いて、年季の入った本を両手で抱えるようにして読んでいた。それだけならば、僕も彼女も図書館で目が合う程度の利用者同士に過ぎず、お互いの名前を知ることもなかっただろう。
 しかし、彼女には他と違う特徴があった。頻繁に何もないところで転ぶのだ。そしてお約束のように辺りに本をぶちまける。ゼミ仲間の間で『ドジッ子ちゃん』というベタなあだ名まで付けられてしまうほど、彼女の転倒率とその見事さは常軌を逸していた。
 そして今回彼女と知り合った原因は、他ならぬそれだった。
「すみませんでした」
 傷の手当てが終わった僕に、彼女が頭を下げる。
「もういいですって。ただの掠り傷で済んだんですし」
 実際、傷はそれほどひどくない。事故の瞬間は背骨が削れたかと思ったけれど、医務員さんに「痣になってるだけだ。これなら三日で治るよ」と言われて安心した。
 けれど目の前の彼女はずっと謝りっぱなし。不慮の事故みたいなものなのに、なんとも律儀な人だ。聞けば、階段を下りようとしたところで例のごとくよろめいてしまったらしい。
 今度から手提げ鞄はやめて、リュックサックにしよう。そしてジャンプを入れて歩こう。
 そんな決意をしつつ食べる、学食の醤油ラーメンのなんと美味なことか。助けてくれたお礼にと、彼女が昼食を奢ってくれることになったのだ。一応遠慮はしたけれど、気が済まないと言われたらわざわざ断る理由もない。
 昼ご飯を食べるのは本当に何年かぶりだ。ちなみに彼女は食欲がないので食べないらしい。
「ホントに助かりました。ここの学生さんなんですか?」
「ええ、工学部の四年です。えっと」
「浜荻由乃です」
 なんと呼べばいいのか迷っていたら、向こうから名乗ってくれた。この場合、僕も名乗るべきだろう。
「芳桐優悟です。由乃さんは何年生?」
「いえ、私は図書館に通ってるだけの一般市民です。本当は今年ここに入る予定だったんですけど、受験で失敗しちゃって」
「ああ、そうだったんだ……」
 どおりで、図書館以外で見たことがないと思った。僕より三歳年下、ということになるんだろうか。雰囲気的にはかなり大人びて見えるけれど。
「じゃあ、今は浪人中?」
「いえ、ニートみたいな感じです」
 反応に困ることをにこやかに言わないでほしい。っていうかマジか。
「……奢ってもらっちゃって良かったの?」
「大丈夫です」
 何が?
 生活保護とかから出てるわけじゃないよな……? そう思いながら血税と変換された疑いのあるスープを飲み干した。
「ごちそうさまでした」
「お礼できてよかったです」
 そう言って微笑む彼女に対し、一回失敗したくらいで諦めない方がいいよ、という言葉が出かかったけれど、思い直す。何か理由があってのことかもしれないし、そもそも僕が口を挟むことではないだろう。
「図書館には毎日来てるんだ?」
「はい、ここなら古い本でもそろってますから」
 確かに、うちの大学は今年設立百周年を迎えるほど古い。絶版になった本だっていくつも所蔵されているだろう。本好きには宝の山だ。
「でも、図書館通いはもうおしまいです」
「え?」
「そろそろ潮時かなって思ってたんです。私、転びやすくなる病気に罹ってて。よく転んでたの見ませんでした?」
「……はい」
 何度も見ました。でもってあだ名まで付けちゃってましたごめんなさい。みんなで「萌える」とか言ってましたマジでごめんなさい。
 何かの怪我や病気が原因なのでは、と考えることもできたはずだ。穴があったら入りたくなるどころではない。縦穴式住居があったら住み着いてしまうほどの罪悪感に苛まれ、空になったラーメンの器を見て自己嫌悪に襲われた。
「ひょっとして、大学受験に失敗したっていうのも?」
「ええ、まあ。それでも我侭で図書館にだけは来てましたけど、人に迷惑を掛けてしまうとなるともうダメですね。この辺りで自重しておきます」
「もう来ないの?」
「はい。またさっきみたいなことがあったら困りますし。それじゃ、今日は本当にご迷惑お掛けひぇっ!」
 イスから立ち上がろうとしたところで、由乃さんががくりと床に跪いた。まるで力が急に抜けたかのように。
「だ、大丈夫?」
「あはは……言ってるそばからダメですね、私」
 テーブルの角にしがみつき、足をがくがくさせながら立ち上がる彼女の姿は、冗談抜きに生まれたての子鹿のようだった。さすがに黙って見ているわけにもいかず、テーブル越しに手を差し伸べる。
 前はもっとスムーズに立ってなかったっけか。
「ありがとうございます」
「杖とか持ってた方がいいんじゃ……?」 
「いえ、一度立ってしまえばそれほど苦ではないんです。それじゃ」
 彼女はもう一度頭を下げると、手を振りながら食堂から出ていった。
「…………」
 すげぇ心配。
 急いで食器を片付け外へ出る。ロータリーを見渡すと案の定、道ばたに座り込んでいる影があった。助けを求めて周囲をきょろきょろ見回している彼女と、ばっちり目があった。とりあえず、何も言わずに引っ張り上げる。
「すみません。いつもはこんなことないんですけど……。なんだか今日はちょっと、調子が悪いみたいです、ね」
 そう言う彼女の声は、少しだけ潤んでいた。
「えっと……近くじゃないなら家まで送ろうか? 徒歩だけど」
 交通事故に遭いそうで恐いし、何より同情したというのが本音だ。彼女の気持ちを理解できるつもりはないけれど、それでも、僕にできることはするべきではないだろうか。
「いいんですか?」
「ラーメン奢ってもらったお返しだよ。それとも、大学に知り合いとかいたりする?」
 念のために訊いてみたけれど、彼女は首を横に振った。



 彼女の家はかなり遠かった。車ならばさほど気にならない距離だけど、歩けば僕でも三十分は掛かるだろうか。
「バスとか使わないの?」
「なるべく歩きたいんです。転ぶのが怖いからって、運動不足は嫌ですし」
 なかなかアクティブな人だ。。
「そういえば、いつも哲学の書庫の前で本読んでたけどさ、哲学、好きなの?」
「好き……うーん、そう一言で言い表すのは少々味気ないですね。ただ、引き込まれるのは確かです。例えばですけど、水槽脳仮説って知ってますか?」
「いや、聞いたことない」
「実は自分が体験しているこの世界は現実じゃなくて、コンピュータに繋がれた水槽の中の脳が見せられている仮想世界なんじゃないか、っていう仮説です。あくまで思考実験なんですけど、私にはなんだか、この話がそこまで荒唐無稽に思えないんです。優悟さん、実は私がただの幻で、この状況もコンピュータが見せている嘘に過ぎないとしたら、どう思いますか?」
 もしも僕の人生が虚構だったら。
 そんなことを真剣に考えたことは、今までなかったけれど。
「夢だろうと現実だろうと、僕は僕のやりたいことをやるだけだよ。たとえ目の前の出来事が夢でも、君をちゃんと家まで送る」
 それから家に帰って夕飯を食べず、ガスを節約するため風呂に入らず水だけ浴び、電気代を節約するため即座に寝る。なんと充実した大学生活か。とりあえずシナリオライターかプログラマー呼んでこい。
「区別をつけようとは思わないんですね……。すぐにそう考えられるのはすごいです」
「そ、そうかな」
 現実が酷くてむしろ幻想であって欲しいと思ってることは秘密にしておこう。せっかく尊敬してくれてるみたいだから。
「この仮説が言いたいことは、そういう虚構と真実が区別不可能だということなんです。疑い始めるとみんな疑えちゃうってことですね。もしかしたら悪魔が自分に幻を見せているのでは、って考えた人もいます。これはデカルトのデーモンって言うんですけど」
「胡蝶の夢なら聞いたことあるけど、あれもそう?」
 今の自分は蝶が夢を見ているだけかもしれない、というやつだ。どこの誰が言ったのかは忘れたけれど。
「そうです。あらゆるものは疑えるけれど、疑っている『私』がいることは疑いようの無い事実だ、という点でも同じことを言ってますね。『我思う、ゆえに我在り』です」
「そのフレーズは聞いたことあるよ」
 そういう意味だとは知らなかったけど。
「有名ですからね。ちょうど今日借りてきた本にその言葉が載ってて……あ!」
 小さく叫んで、彼女は足を止めた。一瞬また転びそうになったのかと思って慌てたけれど、違うらしい。
 ショルダーバックから本を一冊取り出して、困ったような顔をしている。
「どうしたの?」
「図書館の本、返すの忘れてました」
「ああ、なら僕が返しとくよ。ここから戻るのはさすがに面倒だし」
「ごめんなさい。事故の前まではまだ図書館に通うつもりだったので……。今のうちに全部読んじゃいますから」
 そう言って、歩きながら本を読み始める彼女。あまり厚い本というわけでもないのに、両手で抱えるようにして。
 もう目的地のだいぶ近くまで来ている。そろそろ彼女の家が見えてもおかしくないくらいだろう。
「じっくり読んだ方がいいんじゃないかな? 僕まだ休み中だし、なんならまた取りに来るけど」
「いいんですか? 途中までは読んだので、明日までには読み切れると思います。そこまで長い本でもないですし」
「そっか。じゃ、明日また来るよ」
「お願いします。いろいろとすみません」
「別にいいよ。代わりに借りてきて欲しい本とかはある? ついでに持ってくるけど」
 僕は大学の人間だから、一度に五冊ほど借りることができるし、貸し出し期間も長い。人間移動図書館と呼んでほしくはない。
「それはさすがに悪いですよ。又貸しになっちゃいますし、私まだ読んでない本たくさんあるんですよ? 延々と借りさせちゃうじゃないですか」
「読んでない本、気にならない?」
「それは……気にならないことはありませんけど……。まだヘーゲルさんもカントさんもハイデガーさんもサルトルさんも読んでないですし……キルケゴールさんにメルロ・ポンティさんにベーコンさんも……」
「うん、まあ、いくらでも言ってよ。借りてくるから」
 なんか思ってたより多そうだぞ。安請け合いしちゃったけどいいのか自分。
「……優悟さん、どうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「さぁね。下心があるのかもしれない」
「自己申告してどうするんですか」
 由乃さんはくすくすと笑った。
 いろいろ負い目があるから、とは言えない。
 再び彼女が足を止める。
「ここが私の家です」
 僕は彼女が指差した方に目を向ける。広くはないけれど芝生の繁った庭、白塗りの壁、引き戸の玄関、百人載っても大丈夫そうな車庫、一人載っただけで潰れそうな犬小屋(家主不在)。一般的な家屋と違うのは、家の周りから段差というものが無くなっているところだろうか。バリアフリーというやつだろう。
「ありがとうございました」
 玄関前で、彼女がぺこりと頭を下げた。こちらこそ、と僕もお辞儀する。
「それじゃ、また明日」
 本を抱えて手を振る彼女に手を振り返しつつ、踵を返す。
 僕も家に帰るとしよう。偶然とは言え、人を助けると気分が良くなるものだ。足が勝手にスキップしてしまいそうになるけれど、通報されては敵わない。彼女と話したことを考えることで抑え込む。
 もしもこの世の中が全部嘘だったら。
 僕が水槽の中の脳で、今までの全てが幻だったとしても、僕は全く構わない。それだけ変わり映えのない毎日だったし、人よりも不便な人生を歩んできたことは胸を張って、いや、肩を落として言える。
 けれど、今日彼女に出会ったことだけは真実であって欲しいと思う。どうしてそう思うのかは分からないし、もしかしたらそう思うことすら幻なのかもしれないけれど。
 と。
 冷静になって思い出した。
「結局レポートやってないじゃん……」
 春休みはもうすぐ終わる。



 φ意識的な彼女φ

 春休みが終わって、一ヶ月ほどが経った。
 借りた本を由乃の家に届け、返す本を預かって返る。そんなサイクルがもう五回ほど続いていた。今も背中のリュックサックには、哲学書が三冊ほど詰まっている。最初の内は分厚い本が結構腰にきたけれど、今はもうそうでもない。
 ちなみに、彼女はこれだけの量を一週間足らずで読んでしまう。もし同じだけの時間が与えられてとしても、僕にはとても無理だ。読むだけならまだしも、内容を理解するなら尚更。
 何度か会う内に、僕らはずいぶん打ち解けた。女性の友人はバイト関係で何人かいるけれど、由乃の持つ雰囲気はその誰とも違う。バイト先の彼女らを動物とするなら、彼女は植物だろう。良くも悪くも、自分が無い。そんな感じだ。
「ん……?」
 彼女の家まであと数百メートルというところで、見慣れた人影がこっちに向かって歩いてきた。由乃だ。
「優悟さん、こんにちは」
「ああ、こんにちは。散歩?」
「はい。良い天気だったので、ちょっと外を歩いてみたくなったんです。ほら、最近図書館に行かなくなったから運動不足でしたし」
 確かに、今日は晴れているばかりか涼しげな風も吹いている、絶好の散歩日和だ。その証拠に、彼女の今日の服装は白のワンピースに丸めた黒い日傘というラフなものだった。
「日傘するほど暑くはないよ?」
「杖代わりです。これなら変に目立たないですし」
「ああ、なるほど」
「本持ってきてくれたんですね。じゃあ、一旦戻りましょう」
 そう言って、由乃さんはくるりと回れ右をした。
「わやややや……」
 予想通り足がもつれて転びそうになる。すかさず後ろから身体を支えた。
「相変わらずだね」
「ちょっと調子づくとすぐこれです。参っちゃいますよね」
 こっちを見て照れたように笑う。この人の前では気が抜けない。
「こんなこと訊くのも悪いけど、それ、なんて名前の病気なの?」
「……そんなことより優悟さん、お腹空いてませんか?」
「空いてる。昨日の夜にトイレットペーパー食べてから何も食べてないから」
「何食べてるんですか……」
 人間、極限状態になれば何でも食べられるものだ。幸い冷蔵庫に賞味期限切れのポン酢があって助かった。給料日前は本当にきつい。
こんなことなら日払いのバイトを選んでおけばよかったかもしれない。
「じいさんが大量の借金残したまんま死にやがってね。文字通りの貧乏くじってやつで、その遺産が父さんの代を飛び越えて僕にも降りかかってきてるんだ」
「それは……大変、ですね」
「まぁそれでも何とか食べつないでこれたし、借金もあと少しなんだ。卒業までには終わる予定だよ」
 かわりに怒濤の奨学金返済地獄が始まるけれど。僕の労働はこれからも続く。芳桐優悟先生の来世にご期待ください。
 ちなみに親は両方とも過労死してしまったので頼ることはできない。そもそも、こういった家庭状況で大学に進学できたのは、誰であろうあの人たちのおかげだ。親孝行したくてもできないのが、たまに辛くなる。
「それじゃはい、これ」
 浜荻家の前に来たところで、リュックを開けて借りてきた本を由乃に差し出した。しかし、なぜか彼女はそれを受け取ろうとしない。かわりに家を指差して言う。
「あの、折角ですから上がっていきませんか?」
「いや、いいよ。三時からバイトだし」
「まだ全然時間あるじゃないですか。お昼ご飯、ご馳走しますよ? お腹空いてるんでしたよね?」
「お邪魔します」
 思わず丁寧語が出た。遠慮の精神も空腹には勝てない。
 由乃が鍵を開けて僕を中へ招き入れる。そう言えば、今まで玄関前でやり取りすることはあったけれど、彼女の家に入るのは初めてだ。
 浜荻家は家の中もバリアフリーだった。玄関にはスロープがあって、二階へ続く階段には両脇に手すりが付いている。
 そこで妙な感じに気が付いた。家の中から僕ら以外の人の気配がしないのだ。家族はどうしたのだろう。一軒家に一人暮らし、ということはありえないだろう、さすがに。
 そう思っていたら、彼女が答えを教えてくれた。
「肩の力抜いてください、誰もいないので。父は私が高校に入る前に病気で死にました。母は私が生まれてすぐに、交通事故で」
「そうなんだ……」
「おかげでお金だけは困らないんです。困らない程度ですけどね」
 彼女の言葉は、強がりにしか聞こえなかった。
 僕も実は両親がいないんだ、と言おうとしてやめる。何のフォローにもなっていないし、だから僕には君の気持ちが分かるよなんていうのは、少々厚かましい言い分だ。
「そこが私の部屋です。一応元はリビングなんですけど、一番広い部屋なので自分用にしちゃいました。じゃあ、お昼ご飯作るので待っててください」
 そう言って彼女はどこかへ引っ込む。
 家族以外の女性の部屋に入るのはこれが初めてだ。
 心臓を落ち着かせながら引き戸を開けると、予想以上に質素な部屋が現れた。殺風景と言った方がいいかもしれない。
 灰色のカーペットが敷かれた床の上に、難しそうな本が何冊も並んだ小さめの本棚が二つとソファが一つ、大きめのリクライニングベッドもある。それから、日の当たるガラス戸の前には小洒落たテーブルが一つとイスが二つ。テーブルの上にノートパソコンはあるけれど、テレビは無いらしい。部屋の隅にはダンベルと、ハンドグリップ……? なんだか彼女には似つかわしくない代物だけど、お父さんの遺品だろうか。
 これが男部屋ならベッドの下を覗いたりパソコン内の画像ファイルを検索したりするところだけど、そんなわけにもいかない。とりあえず、ソファに腰掛けて料理ができるのを待つことにする。別に悪いことをしているわけじゃないのに、無性にそわそわした。
 そういえば由乃、料理はできるのだろうか? 上手いかどうかではなく、足腰的な意味で。
「できましたよ」 
 借りてきた本を読みながら待つこと数十分、食欲をそそる匂いを引き連れて、彼女が部屋に入ってきた。お盆に乗った皿の上ではトマトソーススパゲッティが湯気を立てていた。彼女はそれを慎重にテーブルの上に置き、小さく一息ついた。
 転んで僕の顔面にスパゲッティを喰らわせる、というイベントは幸い回避されたようだ。一応身構えていたけれど、要らない心配だったらしい。
「はい、どうぞ」
「いただきます……」
 少し緊張しながらスパゲッティを口に運ぶ。
 パスタの茹で具合も、トマトソースの塩加減もちょうど良かった。トマトとパスタのアバランシェ増倍や、と意味不明なことを叫びそうになるくらい。
「おいしい。僕もファミレスで厨房のバイトしてるけど、全然敵わないよ」
「良かった……。まぁ、伊達に一人暮らししてませんよ」
 ホッと胸をなで下ろした後、彼女は得意げに胸を張る。線の細さが目立った。
「ねぇ、あのダンベルとかハンドグリップって、由乃が使ってるの?」
 さっき少し気になったことを訊いてみる。
「そうですよ? 健康のために毎日トレーニングしてます」
「その割には細いね」
「あはは、ボディービルダー目指してるわけじゃないんですから。あくまで運動不足を解消する程度ですよ」
「今は一日中この部屋にいるの?」
「基本はそうですね。さっきみたいに散歩に行く以外は、滅多に外にでません。買い物は通販で済ませられますし」
 部屋には南側にだけテラスへ出られるガラス戸がある。庭先の塀が低いせいで、向こうの国道を行き交う人や車がよく見えた。
 アクアリウムみたいでしょう? と彼女が言う。
「天気の良い日はカーテンを開けてるんです。本を読んでると、下校途中の小学生とかがよく覗きこんできますよ。向こうからしたら、私が水槽の中にいるように見えるのかもしれません」
 水槽と聞いて、いつか教えてもらった思考実験を思い出した。
 水槽脳仮説。
 彼女は自分以外誰もいないこの家で、いつもどんなことを考え、過ごしているのだろう。
「寂しくない?」
「寂しくは、ないですよ。だって……」
 だってと言ったきり、彼女は黙り込んだ。
 不躾なことを訊いてしまった。彼女自身が望んで一人になったわけではないのに、寂しくないなんてことがあるだろうか。高校時代の友人は、皆進学で都会へ行ってしまったと聞いた。僕には大学に友人がいるけれど、彼女には親しい人間が一人もいないのだ。
「…………」
「トマトは哲学の香りがします」
 暗い雰囲気を振り払いたかったのか、唐突に由乃が呟いた。あまりに唐突すぎて、僕は面食らう。麺を食らいながら面食らうなんて貴重な経験だ。
「哲学の香り?」
「優悟さんはどんな香りだと思いますか?」
 僕はトマトソースに鼻を近づけてみた。
「こう、爽やかというか、若干の酸味が漂うというか」
「爽やか、ですか。じゃあ、トマトの色は何色ですか?」
「え? 赤、だよね?」
「それはどんな色ですか? 私に説明してみてください」
「どんなって……波長が七百ナノメートルの可視光線だよ」
 僕だって伊達に理系ではない。この程度なら一般教養かもしれないけれど。
「その通りです。でも優悟さん、それだと優悟さんが見ている赤色がどうして『その色』なのかの説明になってません。どうしてその波長の色が『赤く』見えるのか、説明できますか?」
 それは、赤く見えるから赤いんじゃ……いや、これじゃ全然説明になってない。科学的どころか論理的ですらない。僕は僕だから僕だ、って言ってるのと同じだ。循環してしまっていて根本が無い。
 腕を組んで考える。何とかして彼女に上手く説明できないだろうか。
 そうだ、こんなのはどうだろう。
「目に入ってきた光が、網膜の化学物質に作用して視神経に伝わった後、脳内で赤っていう色に解釈されるんだよ」
「なるほど。それで、その解釈は何がするんですか?」
「脳、じゃないかな?」
「じゃあ、脳はどういう情報に基づいて『その色』だと解釈するんです?」
「それは……」
 そこから先は出てこなかった。
 同時に納得する。原因を限りなく突き詰めていくと、どうしても説明できない部分に突き当たってしまうのだ。これはもう、『僕は何故僕なのか』という問題と同レベルの難易度だろう。
 もう一度目の前のトマトソースを見つめる。
 僕はどうしてこの色を、こんな色として見ているのだろう? 彼女には、どんな色に見えているのだろう?
「こんなふうに、何かを見たり聞いたり触ったりしたときの感覚が何故存在するのかを物理的に説明することはとても難しいのです。不可能だと結論づけてしまっている人も少なくありません。これを哲学では意識のハードプロブレムと言って、『赤い感じ』とか『酸っぱい感じ』みたいな感覚のことをクオリアと言います。他人のクオリアが自分のクオリアと同一であるかを知る術はありません。そもそも他人がクオリアを持っているかどうかすらわかりませんし、自分にクオリアがあることを他人に説明することもできません。だから、色や匂いの本質的な定義というのは難しいんです」
 僕が彼女に僕の見ている『赤』を伝えることは不可能ということか。
 つまり、自分の意識を自覚できるのは自分だけ。ひょっとしたら、意識を持っているのはこの世で自分ただ一人であって、自分の周りの人間はみんな意識を持っていないのかもしれない。
 目の前の彼女が意識を持っているかどうかも確認できない。
 ……あ、水槽脳仮説と同じじゃないか。
「我思う、ゆえに我あり、だね」
「そう、そうです。クオリアという概念自体は最近になって作られたものなんですけど、そこから展開されることに関しては昔から議論されていたのです」
 彼女は少し興奮気味に言った。
 意外なところで繋がるものだ。始まりは全く別のところだったはずなのに。
「由乃がハマるのも分かる気がするよ。面白い」
「そう言ってもらえるとなんだかうれしいですね。ところで優悟さん、このハードプロブレムを解決できる方法が一つだけあるんですけど、わかります?」
「いや。何? 由乃が見つけたの?」
「いえいえ、とんでもないです。それに簡単なことですよ。優悟さんも考えたんじゃないですか? 自分以外はみんなゾンビか幻想で、意識なんて持っていないと考えてしまえばいいんです。これを独我論と言います」
 ……分かった。
 彼女がなぜいきなりトマトは哲学の香りだなどと言い出したのか、やっと合点がいった。
 彼女が言いたいことは、要するに。
「だから、独りは寂しくない、って?」
「ご名答です。元々この世界には私しかいないんですから、寂しいも何もあるわけないのです」
 自嘲じみたその言葉は、僕と彼女しかいない部屋に虚しく響いた。
「本気で言ってる?」
「……あはは、半分くらい」
「なら、僕は君に意識があると信じる。だから君も僕に意識があると信じて欲しい」
「……ゾンビのくせに、私を騙す気ですか?」
「ゾンビは嫌だなぁ。そうだ、ゾンビにしても水槽の脳にしても、君を騙そうとしている第三者がいないと成立しないじゃないか。僕はきっとそれだよ。デカルトのデーモンと呼んでくれ」
 僕の言葉に彼女は小さく吹き出した。つられて僕も笑う。
「わかりました。デーモン優悟さん」
 十万年以上生きてるどっかの悪魔教教祖みたいな呼び方はやめてくれ、と突っ込みかけたところで、彼女の手が僕の手の上に重なった。突然の出来事に心臓が跳ね上がる。
「えっと、いきなりどうしたの?」
「温かいですね。優悟さんの手」
 彼女はそう言って微笑んだ。
 その温もりを、彼女はどんなふうに感じているのだろう。彼女が言うように、他人である自分にそれは認識できないことだけれど。
「由乃の手は、冷たいね」
「冷え性なんです。ちょっと温めさせてください」
 そういえばさっきから手を動かしていない。ふと横に目をやると、スパゲッティが二皿、寄り添うように冷めていた。



 φ唯物的な彼女φ

 六月というのは一年の内で最も嫌な月だ。何が嫌かと聞かれれば、祝日が一日もないこともあるけれど、何よりこの雨の多さが第一に挙げられるだろう。特にここのところ、ヨウ化銀でも打ち上げたんじゃないかと思うほど、日本列島は全域に渡って雨天が続いていた。
 加えて、『傘』という風雨防御システムが、人類の有史以来未だに目立った発展を遂げていないことも残念でならない。折りたためるようになった程度で調子に乗るな。ビジュアル面以外では雨合羽にも劣るくせに。
「折れた傘に向かって何恐い顔してるんですか?」
「自分を正当化しようと必死になってる」
「……タオル、使ってください」
「ありがとう」
 差し出されたタオルは予想通りいい匂いがした。どうして女性の所有物というのは皆アロマティックなフレーバーを漂わせているのだろうか。洗剤だけで作り出せるものではない気がする。
 バイト先を出た時はぱらつく程度だった雨足が急に勢いを増し、業務スーパーで買った百円のビニール傘がナチュラルクラッシュしたのは、つい先ほどのことだ。濡れ鼠になりながらやっとたどり着いたのは、アパートより断然近いこの浜荻家だった。庭先で雨宿りさせてもらうだけだったはずが、こうして上がり込んでしまっているあたり、僕という人間はなかなかに図々しいと言えるだろう。
「ついてないですね。なんだか梅雨っぽくない雨ですし」
 リビングのガラス戸にたたきつける雫を見つめながら、由乃が言った。彼女の言うとおり、今の天候は梅雨というより雷雨のそれだ。ときおりゴロゴロと雲が幕放電を起こす音も聞こえる。
「梅雨って言っても、もう夏だしね。たぶん夕立だから、もうすぐ止むよ」
「優悟さん、寒くないですか?」
「……少し」
 正直かなり寒かった。というかこれは悪寒だ。風邪をひいたのかもしれない。
 むぅ、弱った。病院に行くゼニなんて無いぞ。
「顔色悪いですよ。念のために風邪薬飲んでおきますか?」
「ごめん。ありがと」
「いつもお世話になってるんですから、これくらいのことさせてください」
 もらった薬を水なしで飲んで、とりあえずは落ち着いた。悪寒はするけれど、プラシーボ効果というやつか、なんだか楽になった気がする。
 雨は依然止みそうにない。
「暇なら何か話しましょうか」
「うん。知恵熱出せば少しは暖かくなるかもね」
「知恵熱ってそういうものじゃないと思いますけど……。ではこの天気にふさわしい話をしましょう。スワンプマンという思考実験の話です」
「スワンプ?」
 いつもの調子が出なくなること? それはスランプやんけー。
 ……やっぱり風邪だな。さっきからテンションがおかしい。
「日本語だと、沼って意味ですね。ある男性が沼にハイキングに出かけるんです」
「またなんでそんな辺鄙なところに……」
「まぁまぁ、思考実験にツッコミは無しですよ。で、不運にも男性は、そこで雷に撃たれて死んでしまうんです」
 雨まで降ってたのかよ。
 いや、出かけるときはぱらつく程度だったのかもしれない。どこかで聞いたような話だけど。
「それで?」
「けれど、その時別の雷が沼に落ちて、その後の化学反応から、凄まじく低い確率ですけど、原子レベルで男性と全く同じ『何か』ができてしまうんです」
「何か?」
「つまり男性のコピーができたんです。そしてこのコピーは何事も無かったかのように家に帰って、男性の家族に電話をし、男性が出かける前に読んでいた本の続きを読んで眠り、次の日には男性が勤めている会社へ出勤していく――この場合、周囲は男性の変化に気づくことすらできないんです」
「えっと、どういう目的の思考実験なんだ?」
 男が雷に打たれたけど復活したよめでたしめでたしってことにはならないのか。
「アイデンティティーとは何か、という問いです。大ざっぱな言い方ですけど。ほら、よく考えてみてください。事故の前と後で、男性は同一人物でしょうか」
 同一人物、じゃないのか? だめだ。なんかボーっとして頭がよく働かない。
「周りの人間が同一人物だと思うなら、そうなんじゃない?」
「確かに、周りから見たらそうかもしれませんね。でも、優悟さん自身がこの人だったら、どう思います? 自分のコピーが社会はおろか家族にすら受け入れられているんですけど」
「まあ、いい気分はしないな」
 きっとそいつに僕の意思は無いわけだし。
「でもそんなこと普通ありえないでしょ? 雷が落ちてミジンコが生まれたってびっくりだよ」
「確かに、現実味の無い思考実験っていまいちピンときませんよね。ならこういう話ならどうですか? まずある部屋に人を閉じ込めます。この部屋は特殊な部屋で、朝昼晩三食必ず手に入って、トイレとお風呂も付いています」
「別に普通の部屋じゃないか?」
「いえ。前提として、中の人間は外にいる誰とも会うことができません。新陳代謝で身体を構成する全ての原子が入れ代わらない限り、です。正確には分かりませんけど、一年もすれば全部入れ代わるんじゃないでしょうか。そしたらその人は外に出ていいんですけど、果たしてその人にとって世界は、もしくは世界にとってその人は、部屋に入る前と同一のものなのでしょうか。社会はその人を同一人物として受け入れられるのでしょうか」
「いや、一年も部屋に篭ってたら社会にそいつの居場所なんて無いだろ」
 っていうかそれなんてニート?
「ふふ、そうですね。まあこれは、スワンプマンというよりテセウスの船に近いものかもしれないですけど。テセウスの船っていうのは、船の部品を少しずつ代えていって全てが入れ代わったとき、それは元の船と同一だと言えるのかっていう思考実験です」
「船と人間は違うでしょ。大事なのは意識の連続性じゃないかな?」
 意識が続いているから、僕は僕を認識し続けられるわけで、つまりそれは、同一人物でい続けられているということじゃないだろうか。
「では先ほどの話に前提を付け加えましょう。部屋の中の『彼』は眠り続けています。スワンプマンならぬ、スリープマンですね。栄養は食事ではなく、胃に直接注入する形で得ているとします。眠る前の彼と、何年か経った後に起きた彼は、同一人物ですか?」
「…………」
 さすがに、意識のはっきりしていない状態で体中の物質が入れ替わってしまったら、別人になってしまう気がする。いや、でも脳内に情報が維持されているとしたら……。
「ちなみに私は、今のところ別人だと思ってます」
 考えがまとまらずにいたら、由乃が先に意見を述べた。
「どうして?」
「実は今日と昨日でも自分が少しずつ違っているとしたらどうですか? 人間は微少な変化に気づくことが苦手です。けれどその変化がある程度積分されたものだとしたらどうでしょう。優悟さん、十年前の自分のこと、どれくらい覚えてます?」
「十年前って言うと、小学校六年生か。ほとんど覚えてないな」
「なら十年前の優悟さんと今の優悟さんに、どれほどの同一性があるというんでしょう。記憶がほとんど無いなら、赤の他人と違わない気がするんです、私は」
「いや、でも、十年前の僕が僕だったことは覚えてるよ。結局、自覚があるかどうかの問題じゃないか?」
「自覚ですか。確信をついてきますね。ということは、完全に記憶がなければ別人、というわけですか。やっぱり優悟さん、工学部なだけあって考え方が物理主義的ですね」
 そうだろうか。確かに、霊魂の存在とかは疑わしいと思っているけれど。
「由乃は違うの?」
「私もどちらかというと物理主義的ですけど、それだと今のところクオリアの説明をつけられないんですよ。そもそも、クオリアには物理主義を批判するという目的があるんです」
 そういえば、意識のハードプロブレムは物理主義には解決が難しいんだっけか。
 色の『赤い感じ』や匂いの『甘い感じ』はどこから来ているのか、物理的に説明するのは根本的に不可能な気がする。
「説明しようとは思ってるの?」
「いえ、今は逆に神秘主義で説明できない思考実験を考えてます。スリープマンはその一環ですよ。さっき優悟さん、記憶があれば同一、みたいなことを言いましたけど、さらにこんな風に設定するとどうでしょう」
 そう言うと、彼女は再び語り始めた。
「金属製の試験管に赤ちゃんが一人入っているとします。この赤ちゃんをずっと試験管の中で育てるのです。まるでずっと母親の胎内にいるように。音や色などの刺激や情報を一切与えないことが前提です。そうすることで、何の記憶もない人間を作ります。この赤ちゃんが大人になって、初めて試験管から出されたとき、彼はクオリアを持っているでしょうか」
 ……クオリアも何も、そいつに果たして、意識はあるんだろうか。目の前の世界をどう捉えるのだろう。色はどんな風に見えるのだろう。音はどんな風に聞こえるのだろう。匂いはどんな風に感じるのだろう。
 人間が生まれる前の状態、それは死んだ後の状態と変わらないような気がする。その状態のままでいきなり外界に放り出されるであろうそいつは、まさにゾンビそのものではないか。
「……恐ろしいことを考えるね」
「思考実験なんてほとんどがホラーみたいな内容ですよ。『哲学的ゾンビの作り方』とでも題しましょうか。まぁ、彼が哲学的ゾンビかどうかは議論の余地がありますけどね」
 微笑む彼女だったけれど、今回ばかりは少し恐かった。
 しかしそういわれると、小さい頃のことをよく覚えていないのは、ただ単に昔のことだからではなく、俗に言う『物心』というやつが十分にできていないからとも考えられる。
 生まれて間もない頃の僕には、一体どんな風に世界が見えていたのだろう。
 改めて周りの世界を感じようとして気づく。いつの間にか雨が止んでいたらしい。時計を見ると、もう午後八時を過ぎていた。
「雨も止んだし、そろそろおいとまさせてもらうよ。雨宿りさせてくれてありがとう」
「気にしないでください。もう暗いですし、泊まっていってもいいですよ? ベッドは共用になりますけど」
「……心揺れるお誘いだけど、遠慮しとくよ」
「あはは、冗談ですよ。じゃあ、そこまで見送ります」
 彼女を伴って外に出る。浜荻家は街の中心から離れているため、夏至前のこの時間でもかなり暗い。懐中電灯が欲しくなるくらいだ。
「今夜は月が綺麗ですね」
 彼女が空を見上げてそう言った。つられて僕も空を見渡したけれど、月のツの字も見あたらない。というか、さっきからやたら暗いと思っていたら、月が出てなかったせいだったのか。幾千という星は見えているから、晴れてはいるんだろうけれど。
「……どこにも見えないけど」
「新月ですから。今ならちょうどあの辺りにあるはずです」
 暗闇の一部を指差す彼女。
「よくわかるね」
「新月が一番好きですから。見えないけどそこにあるなんて、まるで人の意識みたいじゃないですか」
 なるほど。
「でも、綺麗かどうかは判断できなくない?」
「……まぁ、今のはちょっとそう言いたい気分だっただけですよ。それじゃ、また次の機会に会いましょう」
 彼女は傘をつきながら家へ帰っていった。
 そう言えば、風雨をしのぐ以外にももう一つ、使い道があったっけか。さすがに雨合羽じゃ、彼女を支えられないだろう。
 彼女の手の中にあるそれは、少しだけ誇らしげに見えた。



 φ超人的な彼女φ

 爆炎が晴れたあとに現れた彼女は、傷一つ負っていなかった。
「バカな……! 効いていない……!?」
「残念でしたね優悟さん」
 僕を見下すような声とともに、由乃はゆっくりと顔を上げる。手榴弾をもってしても、彼女の体を傷つけることはできなかった。
「くっ……!」
「ふふ、見てください優悟さん。日々の筋トレによって、私はこれだけの力を手に入れました。今なら街ひとつ全壊することだってできるんですよ?」
 彼女は足元の石をつかむと、粉々に砕いてみせた。あのか弱かった彼女は、もうどこにもいない。目の前にいるのは、筋肉という鋼の鎧を纏った超人だ。
「あなたの力で私に勝つことなど不可能です。ああ、良いことを教えてあげましょう。私の戦闘力は五十三万です」
「なん……だと……!」
 対して、僕の戦闘力はたったの五。ゴミだ。
 もはや為すすべはないだろう。僕の持ち手は手榴弾があと一つ。
 そんな危機的状況に、なんだか笑えてきた。突然笑い始めた僕を、彼女は訝しむ。
「何がおかしいんですか?」
「はぁ……いやぁ、本当に情けないな。女の子一人、倒すこともできないなんて」
「ただの女の子ではないのだから仕方ありませんよ。あなたの目の前にいるのは、いずれこの世の全てを手に入れる人間なのです」
「ああ、そうだね。でも……」
「でも?」
「でもその点トッポってすげぇよな! 最後までチョコたっぷりだもぉぉぉぉん!」
 雄叫びを上げつつ、彼女に向かって突進する。
 燃え盛る夕日だけが、二人の闘いを見守っていた。



「――という夢を見たんだ」
「いやぁ……見たんだと言われてもですね」
 六月も終わりに差し掛かり、蝉の声がうるさくなってきた。最近とみに思うことなのだけれど、彼らがあの調子でより大きな音を出せるように進化していったら、いずれは鼓膜を破壊するレベルの大音量を出せるようになってしまうのではないだろうか。おそらくこれは、今のところ地球上で僕しか気づいていない環境問題だ。
 閑話休題。
 いつも彼女から話を聞かせてもらっているから、たまには僕の方からということで話をしたわけだけども。あまりにも突拍子が無さすぎたせいか、彼女は口元を引きつらせていた。
「こないだ君がボディービルダーを目指すみたいなこと言ってたから、こんな夢見たんだと思うけど」
「脈絡があるようで全くないですよ、それ。というかそんなこと絶対言ってません」
「僕としては結構面白い夢だったよ」
「最後の方、完全に展開が破綻してたじゃないですか。それに、女の子がムキムキになる夢を面白がれる人って、そうそういないと思うんですけど」
 風が、風鈴を鳴らして吹き抜けていった。生ぬるい風も高い音が混じると涼しく感じる。人間の感覚は適当だ。
「僕だって別に、筋肉質な女の子が好みなわけじゃないよ。ただ普段おとなしい子の意外な一面が見れたっていうか」
「ああなるほどギャップですか……って何で私が実際にそうなったみたいに言うんですか!」
 この子ノリツッコミできたんだ……。意外な一面を発見した。
「でも筋骨隆々じゃないにしてもさ、筋トレしてる割には、なんだか細すぎないか? 体重何キロ?」
 台風の日に外を歩けば、冗談じゃなく飛んで行ってしまうだろう。ひょっとして四十キロ無いんじゃなかろうか。そのくらい細い。
「女の子に体重を訊ねるなんて万死に値します。……話は変わりますけど、超人といえばニーチェさんですね」
「いや、悪いけどその『といえば』は僕知らない」
 僕の中での超人は、キン肉マンとかオメガマンとかラーメンマンとかそっちの方だ。っていうか、あからさまに話を逸らされたな。
 今までも何度かあったけど、どうやらこの手の話題は彼女にとって都合が悪いらしい。
 僕の勘繰りなど知る由もなく、彼女は教鞭を振るい始める。
「ではいつものごとく説明しましょう。優悟さんは、自分が死んだらどうなると思いますか?」
 死んだらどうなるか。改めて聞かれると回答に困る質問だ。
 しかしこの問題に関して考えたことのない人間は、まずいないだろう。誰もがすぐに、考える時間が無駄だ、と思ってしまうだけで。
「うーん……まず何も感じなくなって、そのあと意識も消えるんじゃないか? 死んだことないからわからないけど」
「そうですね。ほとんどの人はそんな風に消えてなくなるか、もしくは天国などの別世界へ行くだろうと考えているはずです。しかしニーチェさんはそういった一過性の世界観に疑問を持ち、『永劫回帰』という結論に達しました」
「転生を繰り返すってこと?」
「半分正解です。転生は別の何かに生まれ変わることですけど、永劫回帰は自分にしか生まれ変われません。その上、辿る人生も全く同じです。ある意味運命論的で、逃げ場のない考え方なんです。でもあり得ない話じゃないと思いますよ? たとえ周期的じゃなくとも、時間が無限大なら、この世界が将来的に再現される可能性はゼロじゃありません。それどころか百パーセントだとすら言えます。再現されるならそこに私や優悟さんがいるわけで、それはまさに永劫回帰じゃないですか」
「でも、全く同じことを繰り返すってことはさ、僕らには選択肢がないってことだよね。しかも前回の記憶もない。それって僕がさっき言った、消えてなくなるっていうのとどう違うんだ?」
「そうですね。基本的には変わらないと思いますよ。少なくとも、実存主義的には同じことですし」
 心なしか、いつもより得意げな語り口調の由乃。まるで自分の考え方を発表しているかのようだ。いや、実際彼女なりの解釈なのだろう。
 実を言うと、僕はニーチェの超人思想や永劫回帰について、おおよそのことは既に知っている。それが彼女にとってどういう意味を持つものなのかも、ある程度予想はついている。それが正しいかどうかを確かめるために、敢えて見てもいない夢の話をしたのだ。超人を絡めて。最後の方はなんか適当になったけど。
 今のところ、話の展開はほぼ僕の意図した通り。
「ニーチェって、『神は死んだ』って言った人でしょ? 前から疑問だったんだけど、どうしてそんなこと言ったの? ただ単に宗教が嫌いだったとかじゃないんだよね?」
「うーん……宗教が嫌いだったというより、『信仰の深い人間は最終的に救済される』という他力本願な思想を批判したかったんじゃないでしょうか。神様というのは弱い人間が作り出した負け惜しみだ、とまで言っていますし」
 ルサンチマン。妄想の中で自分を正当化することを、ニーチェはそう呼んだ。
 例えば、金を欲しがる人間は汚い、という言葉を使う場合、僕みたいな人間がそれを言うことはルサンチマンに当てはまる。お金で解決できることは多いのに、一方的に金持ちを悪と決めつけ、持つための努力をしない自分を正当化していることになるのだ。僕は一応努力しているつもりだし、お金が欲しいとも思うけれど。
 他にも、世のため人のために働かないのは悪いことだ、というのもルサンチマンだろう。女なんて面倒なだけだ、と言う恋人いない歴=年齢の人間もルサンチマンの保有者である。
「じゃあ、その弱い人間の反対が超人ってこと?」
「そうです。永劫回帰する一見無意味な世界の中で、何にも絶望せずに、信念を持って生きていける人間のことを超人と呼ぶんです。優悟さんは、世界が永劫回帰しているとしたら、どう思います?」
「また最初からあの借金地獄を味わえって? それはちょっと嫌だな」
 裕福な家庭に生まれなくても、縛りや負担のない家に生まれていたらどれだけ楽だったろう。
 ただ、借金のおかげでちょっとのことでもへこたれない精神力が身についた、とも考えられる。ポジティブにいこう。これはルサンチマンにならないだろうし。
「由乃はどう思うの? 永劫回帰」
「私は全然かまいません。むしろ、たまにそうだったらいいなって、思います」
「……そうか」
 その言葉で、僕の予想は確信に変わった。もう間違いない。
「ひょっとしてさ、生きるの、つらい?」
 僕の質問に、彼女は虚を突かれたようだった。それはそうだろう。会話していていきなりこんなこと訊かれたら、僕だって同じ反応をする。
「え? いや、いきなり何ですか?」
「僕にはそんな風に見えるよ。君、いろいろ我慢してることあるでしょ」
「そんな、我慢だなんて」
「困ったら、人に頼っていいんだよ?」
「十分頼ってますよ。どうしたんですか優悟さん? 今日はなんだかおかしいですよ?」
「さあ、なんでだろう。心当たりはない?」
「心当たり……?」
 一瞬眉をひそめ、すぐに彼女は息を飲んだ。
「優悟さん、まさか」
 何かを言いかけ、しかしすぐに口をつぐむ由乃。やっと気づいた、か。
「何?」
 意地悪くも僕は訊き返す。彼女が何を僕に訊こうとしたのか、なんとなくだけど分かった。
「……いえ、何でもないです」
 どうやら思い直したようだ。あくまでも、僕が『気付いていない』方に賭けるつもりらしい。
 彼女が何を迷っているのか、なんとなく分かる。にしても、これだけ鎌をかけたというのに、まだ白を切るつもりなのか。
「まぁいいや。今日はもう行くよ。午後からバイトあるから」
「はい……気を付けて」
「ありがと。またくるね」
 と、最後に一言。
「同じ人生を繰り返すとしても、そうでないとしても、それを救いにしちゃだめなんじゃないかな」
「…………」
 由乃は俯いたまま、何も言わなかった。言いたいことはたくさんあるけれど、それをぐっと堪えているようだった。
 そんな彼女を置いて、玄関を出る。
 結局、自白させる作戦は失敗に終わった。思った以上に頑なだ。
 きっと今までもそうしてきたのだろう。自分のために他人が犠牲になることを嫌い、誰かに助けを求めることもなく。そうしたところで、誰かが褒めてくれるわけでも、慰めてくれるわけでもないのに。
 でも、僕はそれを強さだと思わない。だから褒めないし、慰めもしない。ニーチェもそんなことが言いたかったわけじゃないと思う。
 他人を利用し、他人に利用され、妥協せず互いに高めてあっていく社会を、彼は夢見たのだ。
 優しい彼女は、超人になれない。



φ本質的な彼女φ

 今年の夏は例年通り暑い。先週から夏休みに入っていた僕は、ずっと研究室に入り浸りだった。ちなみに僕の研究テーマは、とある医療装置の開発。
 しかし今日は研究も休み。手元のビニール袋の中身を心配しながら、体中汗だくになって由乃の家へ急ぐ。
「ドライアイス貰ったほうが良かったかな、こりゃ」
 ミンミンうるさい蝉の声も、アスファルトに浮かび上がる逃げ水も、暑さからくる苛立ちを一層募らせる。唯一の救いは、リュックサックに分厚い本が一冊も入っていないということだろうか。
 浜荻家の門をくぐって中へ。リビングに入ると、空調の効いた天国が待っていた。
「涼しい……」
 二十一世紀万歳な充実空間に、思わず率直な感想がもれる。
「お疲れ様です。どうぞ、シャワー使ってください」
 ひんやりしたフローリングに倒れ込んでいたら、労いの言葉が降ってきた。
 声の主は背上げしたリクライニングベッドの上で本を読んでいる。こっちを向いた表紙には『There’s something about Mary』と書いてある。借りてきた時にちらっと見てみたけれど、中身も英文だったはずだ。よく読めるな、と思う。英検3級の僕には到底無理だ。
「ありがと。そうそう、アイス買ってきたから、冷凍庫に入れとくよ」
「えっ?」
 露骨に驚いた顔をして、由乃がこっちを見た。
「どうしたの? もしかしてアイス嫌い?」
「いえ、好きです。でも、優悟さんが何か買ってきてくれるなんて、初めてじゃないですか?」
「ああ、そういうことか」
 確かに僕が彼女に何か買ってくるのは初めてかもしれない。そういえば、彼女にはまだ話してなかったっけか。
「実はね、返済完了したんだ。借金」
「え、ホントですか!?」
「うん。金融の法律が変わってね、過払い金が戻ってきた」
 ン百万円。二割くらい弁護士に取られたけど。というか今まで取られ過ぎだった。利子率三十パーセントって相場じゃなかったんだネ。マジでなんてところから借りてんだクソじじい。
 でもおかげで返済どころか、貯金までできる始末。ずっと僕のターンとはこのことだ。
「おめでとうございます。これでもうトイレットペーパー食べずに済みますね」
「……まぁね」
 覚えてたのか。嫌な前科を作ってしまった。
 苦笑しながらアイスを冷凍庫に入れ、とりあえず汗を流すために浴室へ向かう。……なんかもう自分の家と変わらないくらい自由に使っちゃってる気がするんだけど、いいんだろうか。
 ぬるめのシャワーを浴びながら、今日のことを考える。
 あの図書館にあった彼女が未読の哲学書は、先週で最後の一冊となった。残りページ数が少しだったところを見ると、今日中に読み終わってしまうだろう。
 僕の役目はとりあえず今日で終わる。
 とても密度の濃い四ヶ月だった、と思う。背中の傷はずいぶん前に完治した。新しく買ったリュックサックにもだいぶ愛着が湧いてきた。借金は予想外に早く返済し終わった。
 そして何より、考えることの面白さを知ることができた。今はたまに図書館に言って、哲学書を借りて読んでいる。彼女に追いつけるのはいつになるか分からないけれど。
 風呂から上がって髪をタオルで拭きながらリビングに戻ると、ちょうど本を読み終わったところだったのか、彼女はパタリと本を閉じた。
「さっぱりしましたか?」
「あ、うん。ところでそれ、どういう本なの?」
 気になったので訊いてみる。
「マリーの部屋という思考実験に関する本です」  
「マリーの部屋?」
「マリーさんという名前の優秀な科学者が、白と黒しかない部屋――つまり色のない部屋に閉じこめられているとします。彼女は神経生理学を専攻していて、視覚に関する物理的な課程から神経的な課程まで熟知しています。でも彼女は生まれてこの方『色』というものを見たことがないのです。外の世界のことはテレビを見て知っていますが、映る映像は全て白黒です」
「色に限定した哲学的ゾンビを作るってこと?」
「鋭いですけど、その言い方は語弊がありますね。というか、そこが争点なんですよ。ある日突然テレビがカラーになったら、彼女はそこから新しい『何か』を学ぶのかという問題です」
「何か? 色じゃなくて?」
「色と言ってもいいんですけど、あえて何かと言いました。彼女が色を見たとき、どういった形で感じるのかは分からないからです。ひょっとしたら、何も感じないかもしれませんしね。色や匂いを本質的に定義するというのはとても難しいのです」
 それは、クオリアの話を最初にした時にも聞いた気がする。
「ところで優悟さん、話は変わりますけど恋の定義ってわかりますか?」
「ん? こい? 流れの緩い川とか池にいる淡水魚のこと?」
「わざとボケないでください。恋愛の恋ですよ」
 わざとじゃなかったんだけどな……。
「んー……そういうのはあんまり考えたことないな。好きだと思ったら恋なんじゃない?」
「じゃあ、恋と愛の違いって何ですか? 優悟さんの定義だと区別がつかなそうですけど」
 挑戦的な笑みを浮かべながら彼女が言った。
 同じじゃダメなのか。二者の違いが僕には分からない。
 しかしまた、ずいぶんとロマンチックなワードを引っ張り出してくるものだ。彼女もやっぱりそういうところは女の子なんだろう。なるほどこれがコイバナというやつか。
「由乃の中ではどうなの?」
「私ですか? そうですね……恋は妄想で、愛は幻想です」
「…………」
 リアリストだった。いや、もはやニヒリストと言うべきかもしれない。なんでこんなにサバサバしてるんだろう。
「でもこれも受け取り方の問題ですよね。言葉のクオリアです」
「言葉の場合もクオリアってあるの?」
「いえいえ、これは私が勝手にそう呼んでいるだけで、クオリアの厳密な定義からは外れます。でも、言葉を解釈するとき、人間は自分の中にある定義に照らし合わせるでしょう? それは結局、色や匂いにおけるクオリアと同じような気がするんです」
「なるほど」
 そう考えると、言葉は他者との共通性を前提にしていることが分かる。そしてその前提は色や匂いと違って、真でない場合が多そうだ。後天的に習得したもの、というだけでこうも感想が違ってくるのは面白い。
「動物は大まかに分けて五つの感覚、つまり視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚を持っている、とアリストテレスは言いました。そしてこれらはそれぞれ、色、匂い、音といった様々な要素を捉えることができます」
 細かく分けると二十種類以上あるらしいんですけど、ややこしいのでそのあたりは無視します。と付け足し、彼女は続ける。
「加えて私たち人間には、捉えることのできる要素がもう一つあると私は思うのです。そしてそれに対応する感覚器は、見えず、匂わず、聞こえず、触れられず、味わえないものを捉えるために発達しました。何だと思いますか?」
「いや……」
 そんなものあったっけか。第六感……? なんて話を彼女が持ち出すはずがないし。
「それは、『脳』です。そして脳が捉えることのできる要素は『言葉』。私たちは言葉を駆使して物事を思考し、言葉を介して他者を理解し、言葉を用いて存在を定義しています。視覚が物や色を捉えるように、聴覚が音を捉えるように、嗅覚が匂いを捉えるように――言葉は世界を捉えることができる。そして哲学とは、『言葉』という物理的には存在しない感覚器官で『何か』を計ることを言うのです。私の中では」
「何か?」
「抽象的な言い方ですけど、そう言うしかありません。あなたの中の言葉と私の中の言葉は定義や感じ方からして微妙に違うんですから。でも、『何か』だけは共通です。『何か』は『何か』だけで完結できる唯一の言葉ですから」
 何か。
 世界とは何かだ。
 存在も何かだ。
 真理も何かだ。
 僕も何かだ。
 彼女も何かだ。
 何かも、何かだ。
 この何かに何かを当てはめることが、哲学。
「ゲシュタルト崩壊しそうだね」
「ふふ……。さて、これで私から話せる哲学的な何かはほとんど全て優悟さんに伝えてしまいました。これでもう心残りはありません」
「死ぬみたいな言い方しないでくれよ」
 茶化すようにそうつっこむと、彼女は自嘲気味に少しだけ笑って、僕に本を返してきた。
「はい、最後の本、読み終わりました。これで、お別れですね」
 お別れ。
 さりげない彼女の告白に、僕は動じず、本を受け取る。予期していたことだった。かわりに聞き返す。
「それはどういう意味?」
「今度、引っ越すんです」
 それは、傍目から見ても見え見えの嘘だった。全く筋が通っていない。つっこみどころが満載過ぎて、どこからつっこんでいいか分からない。
「へぇ、急な話だね。こんな立派な家があるのに?」
「実はちょっと旅をしてみたくなりまして。ほら私、ずっと読書しかしてなかったでしょう? 外の世界も見てみたいなぁ、と。だからたぶん、しばらく会えなくなります」
「ふぅん」
「寂しく……ないですよ」
「なんだよそれは」
 目を潤ませつつもそう言う彼女が可愛くて、思わず吹き出す。寂しくなりますね、とでも言いかけて誤魔化したのだろう、たぶん。
「今までどうも、ありがとうございました」
 彼女がぺこりと頭を下げた。
 ……うん、そうだね。僕も君には感謝してる。君のおかげで僕の世界は今までと比べものにならないくらい広がった。僕としては、感謝してもしきれないくらいだ。 
 でも、君が本当に言いたい言葉は、そうじゃないだろう?
 向こうから言う気がないなら仕方がない。僕から訊こう。
「じゃあ最後にさ、ちょっと外歩いてみない?」
「え……いえ、今は気分じゃないので。ごめんなさい」
「そっか、気分じゃないか。君って気分屋だったっけ?」
「何、言ってるんですか。私だって乗り気じゃない時くらい……」
「足、もう動かないんだろう?」
 僕がそう言うと、由乃はわずかに身体を震わせた。
 少し前からなんだか様子がおかしかった。家の中だというのに傘をついて歩いたり、座ろうとしなかったり。そして彼女は今日、一度もベッドから出ていない。否、おそらくもう自力では出られないほど進行しているのだ。
 それでも彼女はかくのごとく笑う。
「あはは……すみません。心配させたくなくて今まで黙ってたんですけど、こないだ派手に転んじゃって足を……」
「人工呼吸器を付ける気は、ないの?」
 無理な笑顔が、完全に硬直した。
 彼女にとって、それほど決定的な一言だったのだろう。
「……やっぱり、知ってたんですか」
「そのベッド、君が使うにしては広すぎる。元々はお父さんのものなんじゃない? 君の病気はお父さんから遺伝したんだろう? ダンベルとハンドグリップも、ALSの進行を抑えるためのもの。違う?」
 筋萎縮性側索硬化《きんいしゅくせいそくさくこうかしょう》症。略してALSは、『転びやすくなる病気』ではない。運動神経を形成する神経細胞が死滅してしまい、全身の筋肉を自分で動かすことができなくなる病気だ。神経細胞が死滅する原因はまだ分かっていない。治療法もまだ見つかっていない。俗に言う、不治の病だ。
「実を言うと、結構前から調べて知ってたり、ね」
「……意地悪ですね」
 俯いた彼女が呟く。
「それで、人工呼吸器は付けないの?」
「ええ、付けません。だから私の命は、長くてあと三年ほどです」
 残酷な事実を彼女は気丈に言い放った。その表情に迷いは見えない。
 ALSに罹った人間は、まず足の筋肉が衰弱し、転びやすくなる。そして衰弱は徐々に体全体へ広がっていき、いずれは自分で身体を動かすことも、喋ることもできなくなる。最終的には呼吸筋が麻痺して死に至る。
 しかし、心臓や消化器官などを統括する自律神経系は無事なので、人工呼吸器を使えば辛うじて生き延びることはできるのだ。
「優悟さんの言うとおり、私の父もこの病気でした。たぶん遺伝なんです。だから半年くらい前に判明したときも、それほど驚きませんでした」
 嘘、ではないだろう。僕が前から感じていた彼女が持つ独特な雰囲気は、一種の『諦め』だったのだ。先のことを考えていない。良くも悪くも自分が無い。
「去年の今頃までは、みんなと同じように大学に行って、勉強して、就職活動して、社会に出て行くんだと思ってたんですけどね。どんなに人生や世の中に対して深い考察を持っていたとしても、みんなと同じように生きて死ぬんだろうと。でも、それすら無理でした。サルトルさんは『人間は自由の刑に処せられている』なんていってますけど、どうやら私は少し違ったようです。ほら、ちょっと外に出なくなっただけで、足、ダメになっちゃいました」
 掛け布団が弱弱しく動いた。もうそれ以上動かせないらしい。
「生きたいとは、思わないの?」
「無理矢理延命したところで、人に迷惑を掛けるだけです。父は私に迷惑を掛けまいと死にました。私も、そんな人生望みません。優悟さんも気にしないでください。半ば巻き込んでしまってすみませんでした」
「でも君の場合は迷惑が掛かるような人はいないだろう? それでも生きる気がないのはなぜ?」
「だって、自分から触れられない現実なんて、幻想とどれだけの差があるというんですか? そんな受動的な人生に、一体どれだけの価値があるんですか?」
 彼女の口調は、答えを期待しているものではなかった。
 ALSは、有体に言ってしまえば『出力ができなくなっていく病気』だ。外からの情報は耳や目からいくらでも入ってくる。そして自分の中でそれらの情報について考えることもできる。けれど、それを誰かに伝えることはできない。手も足も、最後には口も動かなくなってしまうから。
 外の世界と関わることができなくなる。自分とは何の関係もない世界を見続けて、それでも思考だけは明晰なまま生き続ける。イスに縛り付けられて延々と映画を見続けさせられるようなものだ。
 水槽の中の脳、みたいなものだ。
 考えることが人一倍好きな彼女ですら、そんな世界はごめんだという。
 僕にも、その考えを否定することはできない。論破することなどできない。僕だって、彼女と同じ状況になったらそう考えるだろうし、なにより僕に彼女ほどの思慮深さはないのだから。
 だから僕は、そんな彼女の哲学に疑問を投げかけることにした。
「君は、もしお父さんが生き続けることを選んだとして、それを迷惑だと思った?」
「それは……」
 彼女の論には一つ、前提が抜けている。
 僕という存在が、抜けている。
「もしもの話だけどさ、誰かと一緒なら、生きられる?」
 僕の言葉に由乃は一瞬動きを止め、怒りからか、それとも別の『何か』からか、顔を真っ赤にしながら首を横に振った。
「ダメ! ダメです! そんなこと……! 私に優悟さんの人生を左右する権利なんてありません」
「これは僕の権利で、意志だ。もちろん君が嫌なら別にいい。でも君が僕の気持ちを察する必要なんてない」
「意味、分かっていってるんですか? 残りの人生ほとんど全部、私なんかの世話をするのに使うってことですよ……? 私、仕事も家事もできないし、子供だって産めないし、そのうち喋ることもできなくなっちゃうんですよ!?」
「問題ない。どうなっても君に変わりはない」
「そうだとしても、私が負い目を感じます。やめてください。変な気、起こさないでください」
「目的が無かったんだ」
 僕の言葉に彼女は不思議そうな顔をした。意味がわからないのだろう。
「僕の人生には、今まで手段しか無かった。ただひたすらお金稼ぎに生きてきたし、そうしなきゃならなかった」
 目的なんて必要ないとすら思っていた。大学に来たのも、将来就職に有利になるからと踏んでのことだった。
 けれど返済が終わって手に入れたはずの安息はひどく味気なくて、これから何をして生きていくか皆目見当がつかなかった。就きたい仕事は無かったし、進学したところでただの時間稼ぎに過ぎないことは分かっていた。僕にとって学校の勉強は奨学金をもらうためのもので、大学進学は安定した職業に就くためのものだったのだから。
「でも、もう違う。君が僕に目的をくれた。僕は残りの人生を君に費やすことにする」
「そんなこと、意味、無いですよ」
「意味は作るものだと思うよ。BMIって知ってる?」
「BMI……?」
「ブレイン・マシン・インターフェイス。病院で教えてもらわなかった? 脳から発せられる微弱な電波を読みとって、身体が動かせない人でもコミュニケーションできるようにするシステムのことだよ」
「知ってます。でも、大したことはできないって聞きました」
 その通り。最新技術が使われたものでも、簡単な語彙をひらがなでパソコンに表示させたり、マウスポインタを動かすくらいが精一杯だ。
「だから僕がなんとかする。今、大学でBMIを研究してる。大学院に行ってからもするつもりだよ」
 自由に会話ができるように。ベッドから起き上がれなくても、いろんなことができるように。
 今すぐには無理でも、五年後十年後、彼女が笑って暮らせるように。
「……なんで、そこまでしてくれるんですか……」
 下を向いたまま、滲んだ声で彼女が訊いてきた。いつかの質問と同じだ。
 あの時はただの罪悪感と同情からだった。でも今は違う。
「君ともっと話したいから。君と話してると、いろいろ考えられて、楽しいんだ」
 これは僕のエゴだ。彼女の気持ちは知らない。それは彼女にしか分からないことで、彼女にしか考えられないことで、彼女にしか決められないことだ。
「僕は、君に生きていてほしいと思う。僕には君が必要だ。だから……とりあえずさ、買ってきたアイス、一緒に食べない?」
 言いたいことは全て言った。僕から言うことはもう何もない。これで彼女が生きる道を選ばなかったとしても、もう僕に止めることはできない。人間は、自由の刑に処せられているのだ。
 だから当然、沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「……哲学は、準備でした」
 消えるような小さな声で、彼女は言葉をつなぐ。
「いざ死ぬときになって、恐くならないように。実際途中までは上手くいってたんです。ニーチェさんの超人思想とか永劫回帰とか、初めて聞いた時大好きになりました。死んだらまたお父さんに会えるかもと思って。優悟さんに指摘されるまで、そんな楽観的なことを考えていました」
 同じ人生を繰り返す。大病を患った彼女にとって、それは救いにもなったろうし、トドメにもなったろう。
「でもそうやって哲学を学んでいく内に、だんだん楽しくなってしまったんです。誰かに私の考えを聞いてもらいたいという欲も出てきました。そんな時優悟さんと会って、全部おかしくなってしまいました。せっかく作ってきた覚悟も諦めも、日に日に揺らいでいって……本当、これじゃ私の人生設計だだ狂いじゃないですか」
 そこで彼女は、やっと顔を上げた。涙を拭い、僕に向かって笑みを浮かべる。
「責任、取ってくださいね」
 この四ヶ月で分かったことが一つある。
 それはある種の真理と言っても過言ではない。きっと本人にも自覚はあるだろう。
 ――彼女は意外と、ひねくれ者だ。
「いくらでも」
 意外と素直な、僕が言った。



 φ幻想的な彼女φ

 二本の轍の間に足跡を付けて歩く。
 終わりかけた夏の砂浜は暑くもなく寒くもなく、ちょうど良い気温だ。僕が押す車イスに揺られながら、彼女は本を読んでいる。
 旅行に行こうと言い出したのは僕からだった。こういうことはできる内にやっておいた方がいい。行き先を決めたのは彼女だ。僕の提案に、だったら海が見たいです、と返答してきた。なんでも、数年前父親と海水浴に行ったのを最後に、海を見たことがないのだそうだ。
 そんなわけで、僕らは比較的近場にある海水浴場に来ていた。夏休みを利用した、一泊二日のささやかな旅行だ。
「カントさんは、物自体の受け取り方は人間の先天的な形式に依存していると考えています。この考え方によれば、人間にはクオリアが元から備わっている、となりますね。つまり、試験管の中で何の情報も与えず育てた人間にも、クオリアはある、ということになります」
「本能みたいな?」
「あくまで物理主義に徹しようとすると、そうです。逆に神秘主義的な言い方では『魂』となるでしょう」
 旅行に来ても、彼女のすることが普段と変わっていないあたりお笑いだ。家族連れやカップルがわいわいやっているところで本を読んでいる彼女は、さぞ奇妙に映っているだろう。
「そこで気づいたんですけど、色とか匂いとか、私たちが既に経験したことがあるものを使って思考実験を打ち立てても、それがわからない登場人物の気持ちを理解することは難しいと思うんです」
「ああ、なるほど。マリーの気持ちがわからないのはそういうことか」
「だったら、まだ自分の知らない感覚があると仮定したらどうでしょう。例えば『ほげ』という要素があるとします」
「ほげ?」
 なんか気の抜ける名前だ。
「『ほげ』は空気のように身の回りにあふれていますが、普通の人はそれを感じることができません。しかし優悟さんはある日突然、『ほげ』を感じることに目覚めるのです」
「聖闘士聖矢みたいに?」
「まぁ、そうです。想像できますか? 『ほげ』を感じてる自分を」
「できるわけないだろ」
 そんな得体の知れないもの感じてたまるか。
「では、『ほげ』を最初に感じた優悟さんは、『ほげ』に対してどんな感想を抱くと思いますか?」
「え? どんなと言われても、なんかこう、『ほげ』だなーって……」
 いや、自分で言っておいて意味が分からない。
 苦笑混じりの僕に彼女も笑う。
「でもそんな感じで、始めはすごく曖昧に感じるんじゃないでしょうか。そこからだんだん感覚が固定されていくというのが、私の推測です。視覚や聴覚や嗅覚も同じで、感覚が曖昧だから子供時代は皆自我が薄いのです。……なんて、こんなものは推測の域を出ない話ですから、机上の空論と言われればそれまでですね」
 彼女はそこで一旦話を切り、本に目を戻した。
 僕は車イスを海の方へ向け、ストッパーを掛ける。海水が付いて錆びてしまうとまずいので、波打ち際からはだいぶ距離を取った。
 僕は浜辺に座り込んで、彼女の横顔を覗き見る。
 どこか儚げな空気を纏った、穏やかな表情。ショートカットの健康的な黒髪とは対照的な、折れそうなほどに細くて白い腕。深窓の令嬢、という表現がこれほど似合う人間はなかなかいない。
「海って、こんな色でしたっけ?」
 ふと顔を上げて海を見つめたかと思うと、ぽつりと呟く彼女。
「うん? 記憶と違う?」
「違うというかなんというか。違和感を感じます」
 言われて僕も再び海を見る。海と空は地平線が見えないほど同色だ。
「でも前に来た時と違うのは当たり前じゃないか? 天気とか、季節によっても変わるだろうし」
「それはそうなんですけど……。ときどき思うことがあるんです。これってこんな色だったかな? こんな匂いだったかな? って。優悟さんはありませんか?」
「急に言われてもなぁ……。そういうの、普段から意識してないし。今度から気をつけてみるよ」
「そう考えると、クオリアって変質はしないんでしょうか。確かに、熟したトマトが一瞬で真っ青になったところはみたことがありません。夕日はいつも赤いですし、海はいつも青いです。でも微妙に違う『何か』を感じることがあるんです」
「…………」
 考えてみる。
 僕も、去年見た海の色を克明に思い出せるかと訊かれると、そんなことは不可能だ。それは既に記憶の中の認識に過ぎず、ぼんやりと、青かったよな、くらいにしか思えない。
 デカルトのデーモンは案外、僕らの中に存在しているのではないだろうか。不確定な認識、という形で。
 とんとんと肩を叩かれて隣を見ると、彼女が笑みを浮かべていた。
「そういえば、『ほげ』じゃないですけど、優悟さんと会ってから感じることができるようになったものがあるんですよ」
「何?」
「まだ曖昧で、ひょっとしたら幻かもしれないんですけどね」
「だから、何?」
「……自分で考えてください」
 彼女はそっぽを向いてしまった。なんか悪いことしたか? 僕。



「あ、ちょっと止まって」
 宿泊先のホテルへ帰る途中、小さな花屋の前で彼女が声を上げた。
 その指差す先にあったのは、見たことのある植物だった。
「こんな時期にトマトの苗なんて売ってるんだね」
「知りませんでした? トマトって実は多年生植物なんですよ?」
 そう言いながら、小指ほどに育った苗の葉にそっと触れる由乃。
「そうなの?」
「適切な環境の中で育てれば、一年中実をつけるんです。一時期私も育ててみようと思ったことがあるんですけど、肥料が持てなくて諦めました」
 そういえば、家の庭で空のプランターを見たことがある気がする。あれはその名残か。
「育ててみる?」
「いいんですか?」
「うん。片手間に育てる分なら買うよりは安く上がるし、一応家庭菜園の経験もあるからね、僕」
 種を撒いた次の日に全てカラスにやられたというほろ苦い経験が。
 苗を三本ほど買って、再び帰路につく。
 しばらく黙って本を読んでいた彼女が、ふとこっちを振り向いて口を開いた。
「優悟さんって、馬鹿ですよね。私なんかで一生を棒に振っちゃうんですから」
「だろうね。由乃は頭良いよね。こんなに尽くしてくれる人間を旦那にしちゃうんだから」
「それ、自分で言うことじゃないですよ」
 その通りですけど、と付け足して由乃は笑った。
 決して楽な暮らしはできないだろう。僕と彼女の貯金も一生分にはほど遠い。もって五年程度だろう。
 それでも、これは自分で選んだ道であり、何より僕の生きる意義なのだ。
 さて、帰ったらまず、家の庭を畑にする準備をしなければ。肥料を買ってビニールハウスの材料を買って、クワやジョウロも必要だな。
 皮算用というのはいつやっても楽しい。収穫後の調理法はいろいろ思い浮かぶけれど、まずはそのまま届けようか。
 愚かな僕から賢い君へ。
 真っ赤なトマトと、幻想を。



 φ哲学的な彼女φ

 微かに響くコンピュータの唸りで、私はゆっくりと目を覚ました。と言っても言葉通りの意味ではなく、視界はまぶたに遮られたまま、真っ暗。自力で開けることはもうできない。
 人工呼吸器をつけてから三年が経って、能動的に動かせるのは眼球だけになった。そして最近は、それすらも思うようにいかない。向こうの世界と繋がることはほとんどなくなってしまった。そもそもそんなものが本当に在ったのか、疑いたくなるくらい。
 こうしていると、まるで宇宙にいるみたいに思えてくる。そういえば、さっきまで見ていた夢はそういうストーリーだったかもしれない。
 キュルキュルというガラス戸を開く音がした。家庭菜園の世話を終えた彼が、テラスから部屋に入ってきたのだ。開いた戸から吹き込んできた爽やかな風に、哲学の香りが運ばれてきた。そういえば、彼はもうすぐ収穫だと言っていた気がする。
「起きたの?」
 コンピュータに映った私の脳波を見てか、彼が声をかけてきた。
『はい。たったいま』
 私の頭の上に設置されたスピーカーが、私の声でぎこちなく喋る。今のところの彼の研究成果、脳波解析と音声合成技術による意思伝達システム。今はまだ片言じみた発音しかできないけれど、バージョンアップは続いている。自由に会話できるようになる日はそう遠くないと思いたい。
「まぶた、開けたい?」
『おねがいします』
 目の上に温もりを感じた後、視界が戻ってきた。目薬を点さないとじきに乾いてしまうから、そう長い間は開けていられないけれど、それでも彼の顔を見ることができて少し安心。同時に、真っ赤に熟れたトマトが目に入って、思わずよだれが出た。体は動かなくても、唾液腺は元気だ。
『おいしそう』
「ホントに好きだね、トマト。今年も良い出来だよ。あとでご馳走するからね」
 私の口元をハンカチで拭くと、彼はそう言って親指を立てる。もちろん、私はもう物を食べるということができない。胃に穴を開けて、そこから栄養物を流し込んでいる状態。味を感じたいときは、トマトの液を脱脂綿に付けて舌に当てる。それで十分。
『いまなんじですか』 
「朝八時。今日は早く帰ってくるからね。ヘルパーさんは来てるから。じゃ」
 そう言って彼は、私を再び闇の中へと戻した。
 もうそんな時間なんだ。彼が甘やかしてくれるおかげで、すっかり寝坊癖がついてしまった。
 本当に、どうやってお礼したらいいんだろう。
『ゆうごさん』
「ん、何?」
 私の呼びかけに、彼は振り向いてくれた。私はこの瞬間が、たまらなくうれしい。
『おはようございます』
 私の世界が、今日も始まる。
折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE

2010年12月31日(金)23時57分 公開
■この作品の著作権は折伏ぬゐさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
 参考にした本があるわけではないので、何か変なところがあるかもしれません。不安です。

※2001/5/29
 一章(超人的な彼女)追加+感想にて指摘された点、できる範囲で修正いたしました。まだ不十分な点もあるかとは思いますが(特に一人称を二人分使ってしまっているところとか)、これが今の精一杯です。


この作品の感想をお寄せください。

2011年09月04日(日)22時56分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE
 丹奈さんはじめましてです。読んでいただいた上に感想まで下さり、本当にありがとうございます。長い間気づかずにいてすみませんでした。

>化物語とか、私の知ってるコアなネタなど、くすりと笑わせる表現も随所にあって良かったです。
 化物語ネタは修正時に追加した部分ですね。下書き段階ではヒロインがガハラさんっぽい性格だったので、あまりにも被りすぎかなと思って一度削ったネタでした。
 くすっとくる表現はこれからも上手く使っていきたいです。一人称でないと使いにくいというのが玉に瑕ですけども。

 ほのぼのカップルを目指したかったというのは私自身もそうでした。ひょっとしたらそのうち、またいくつか話を追加してどこかにアップするかもしれません。まかり間違って続編を作ってしまう可能性も無きにしも非ず。そのときは全身義体化によって完全復活を遂げ、超人的な身体能力を手に入れた由乃をお見せすることに……はさすがにならないでしょう(笑)

 次回の企画に出す哲学小説も現在鋭意執筆中です。おそらくペンネームが変わってますが、みときちさんに絵を描いて頂くことになっておりますので、すぐに分かると思います。よろしければ探してみてください。

 ではではこれにて。機会がありましたらまたお会いしましょう。
126

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2011年07月30日(土)00時25分 丹奈  +40点
最後まで読ませていただきました。

化物語とか、私の知ってるコアなネタなど、くすりと笑わせる表現も随所にあって良かったです。

彼女もすごく哲学的で、最初は主人公以上にほけーっとしながら読んでいたんですが、なるほどそういう理由でしたか…。

最後は辛い展開でしたね。
個人的にほのぼのカップルにならないかなー、なんて思ってたらあんなことに…。
私だったら堪えられなくて死を選びます!
そういう意味で由乃ちゃんは強いなと感じ、優悟が由乃ちゃんに生きる道を選ばせた凄さを感じました。

とりあえずすごく面白かったので感想を書かせてもらいました。

読めて良かったです!!
ではでは


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2011年06月08日(水)23時12分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE
 svaahaaさん、お久しぶりです。わざわざ読んでいただきありがとうございます。ウケなかったらトッポのせいにしようと思っていましたが、どうやらそれは回避できそうですね。たとえお一人にでも笑っていただければ当方満足です。
 前回作品賞を取れたのは読者様の好みに合致したためだと思っています。今読み返すと未熟な部分が多々あって、とてもじゃありませんが推敲程度では直せません(笑) かといって書き直す気力もないですが。

 既にご存じのようですが、今現在、次回に向けてストーリー練ったり世界観練ったりキャラクター練ったりしています。夜も寝ないで昼寝して考えた甲斐あってか、今後のテーマ発表によって柔軟に対応できるよう、候補案が三つほどできました。どれとも合わなかったらと思うと恐ろしいですが(汗) 期待に応えられるようがんばります。

 svaahaaさんもお元気で。では。
129

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2011年06月03日(金)09時52分 svaahaa I0z7AdLSAc
 こんにちは、svaahaaといいます。お久しぶりといっていいのかわかりませんので、何となく初対面の体で。本当にいまさらですが、作品賞おめでとうございます。追加の章を読ませていただいたので、その報告代わりに。ちなみに私は「トッポ」の下りで笑いました。相変わらず楽しい文章をお書きになる。

 第二回に向けてプロット作りの最中とのこと。私も折伏ぬゐさんのえもいわれぬ作品を待望しています(高圧)。お体に気をつけつつ作品作りに励んでくだされば幸いです。

 ではこれにて。
120

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2011年05月30日(月)15時45分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE
 真柴竹門さん、お久しぶりです&二度目の感想投稿ありがとうございます。っていうかレスポンス早! 修正版投稿から一日経ってないじゃないですか(笑)

 追加した章だけ読んでいただければ十分です。その他は誤字脱字の修正とか読んでも読まなくても本筋には関係ない矛盾の修正程度なので(例えば、初めに主人公が奨学金もらってないみたいな話をしてるのに後になってバリバリもらってることになってるところとか)。
 作者レスの表示はですね、携帯から無理矢理投稿したのがいけなかったのか、修正できなくなってしまいました。パソコンからも無理です。一応『評価しない』扱いになっているので平均点は変わらないようです。なのでこのままでいいかと(今投稿しようとしたら、どうやら作者レスで投稿できなくなっているようです。企画は終わっていますが、とりあえず飲茶氏に報告しておきます)。
 トッポは失敗だったかもしれません。でも自分にはあれ以上バトルパート(?)を続けるだけの文章力もネタもありませんでした。半ば投げです。『バキ』を読んでればもう少し長めに出来たかもしれませんが(笑)
 唐突感が消えたとのことで、入れてよかったと思います。実を言うと、企画開始時は超人思想をテーマにした章を書くつもりでした。しかし締切が迫ってしまったため断念。おかげでギリギリですけど投稿できたのです。今回書く際は盛り上がりを意識して書きましたけど、あの時書けていたらただ超人思想を説明するだけの章になっていたでしょう。そういう意味では完全な状態で投稿しなくてよかったな、と。ルサンチマンですね。

 それにしても、なんだかいろいろとご存じのようで(笑) 現在、プロット練りながらキャラを固めてるところです。期待に応えられるようがんばります。では。

119

pass
2011年05月29日(日)21時30分 真柴竹門  +50点
どうも、真柴竹門です。折伏ぬゐさん、お久しぶりですね。今日は「現象学と解釈学」(新田義弘)を読了。Amazonでは高評価されている本なのですが、正直いうとマニアックで難解すぎて全っ然わかりませんでした。そんなところに折伏ぬゐさんの優しい文章による新章をお目に書かれて、心がとっても癒されましたよ。つーか前回のケースといい、あなたは時の女神ですか?(笑)。
実はsvaahaaさんが「漂蕩思考」というブログを立ち上げておりまして、その中で、私の黒歴史とも言うべき「シャイスタ★(略)」を読んで下さることを知りました。うう、恥ずかしくて死にたい、削除したい……(泣)。ですので「哲彼企画」サイトへ感想投稿されてないかチェックしに来たところ、折りよく「コギト」が修正されていることを知りました。「土曜までに拝読」と書かれていたから、今日ぐらいに感想が送られているのかなと予想していたんですが。
ちなみに今回の「五十点評価」は、あくまで前回の二月一日にした評価であり、追加分の「φ超人的な彼女φ」を考慮した上での評価ではないことをご容赦願います。というのも私は「メンドくせー」が口癖の男ですので「φ超人的な彼女φ」しか読んでないからです(笑)。ああ、怒らないで下さいね! ……それから、折伏ぬゐさんから椿さんへの返信レスですが、ちゃんと「作者レス」ボタンを押してからでないと不味くないですか? 「点数評価なし」にしてるから、結果的に平均評価が下がってしまってますよ。


さて新しい章の感想ですが、いきなりの超展開に吹きました。面白えー! しかし最後の「でもその点トッポってすげぇよな! 最後までチョコたっぷりだもぉぉぉぉん!」って雄叫びですが、どんなテレビCMだったか忘れたので脳内でどのようなリズムで再生すればいいのか分からず、興が醒めたりもしました。
>パロディやオマージュが分からない人にとっては苦痛なのと同じですね……。
なるほど、確かにそうですね。この苦痛がまさしく作者のミスによるものですか、ふむふむ。
最初は『こんな夢を見る奴だったのかよ!』『優悟のキャラを変えたのか作者!』と思いました。しかし優悟は賢いですね。鎌をかけるのにあんな与太話をデッチ上げるなんて、いやはや私には無理です(笑)。
そして哲学面ですが、なかなか良いと思います。由乃はルサンチマンじゃないけれど超人でもなかったのですね。現世への恨みや妬みは持ってないが、あの世に行くことを期待してる点からしてポジティブではない、と。敬虔なキリスト教徒に対しての批判とも読み込めそうです。
そして「φ超人的な彼女φ」を付け加えることによってALS発覚時の唐突感は拭えてます。また『次に何か来るな?』と読者に心構えさせる仕掛けを設けることで、期待感を抱かせることにも成功しているように感じました。そういえばTwitterで遠堂みなみさんと……

>自分の場合はまともにプロットを書けたためしが無いのです。
>書きたい場面をいくつか書いて後から繋げる、なんてことしてるから、
>齟齬が出てきて書き直しになることもしばしば(笑)
>大事な場面を書く、というのはある意味プロットかもしれないけど、
>こんな方法で上手く書けてるのだろうか

>書きたい場面が決まったら、
>それをより際立たせる為にはどう事態を動かせばいいかって考えて行けば、
>案外できあがっちゃったりするよ〜
>いや、出来の良し悪しは別にしてヽ(´ー`)ノ

>おおなるほど! そういう風には考えたことなかったです。
>いつも矛盾を気にして書いてました。
>そしてモチベーションが下がるという負の連鎖。次から意識してみます

>矛盾ないように組み立てるのってパズルみたいだよね〜。
>私は今ピースを思い出しながら書いてるとこ(笑)

>小説の場合はピースを切ったり削ったり延ばしたりできるから便利ですよね。
>あんまりやり過ぎるとご都合主義と言われてしまいますが……。
>ピース作り頑張ります

……という会話をしておられましたが、今回の修正版はコレに挑戦したわけですか。うん、上手くいってると私は思いますよ(超どうでもいい話でしょうが「シャイスタ★(略)」の第三章屋上編は、まさに上記の思考によって作成したエピソードだったりします。第四章の後半の展開をいきなり提示したら読者がついていけないと考えたので。後学のよしなになってくれれば良いのですが)。


さて、折伏ぬゐさんは第二回で、みときちさんとタッグを組みイラストを描いてもらって参戦するそうですね。私は今回、書き手参加は辞退するつもりですが、読者参加でのんびりと素晴らしい小説を期待しながら待つことにします(重圧)。
では簡単ながらも、これで失礼します。

127

pass
2011年05月29日(日)02時00分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE
 棒さん、感想ありがとうございます。長期間放置してしまったようで、どうもすみませんでした。今さらですが返信いたします。


 今読みなおしてみて、序盤の展開が若干早いかなぁとも思いましたが、ゆったりと感じていただいたということは、問題ないということなのでしょう。

 この小説を書くのにどれだけ資料を漁ったかですが、恥ずかしながらそこまで多くの本を参考にしたわけではありません。ただ、飲茶氏の本には大変お世話になりました。残りは自分なりに考えを組み立てたもので、いろいろと勘違いしている箇所もあると思います。

 全体的に起伏が少ないとのことで、一章追加して起伏をつけてみました。なんだか間違った起伏のつけ方をしてしまった気がしてなりませんが(笑) 夜中のテンションって怖いですね。

 暖かな気分を提供できたなら、当方としてはそれで満足です。非常に参考になりました。棒さんの作品も読ませていただきます。
129

pass
2011年02月19日(土)21時33分 棒  +20点
始めまして、棒です。
感想というものはあまり得意ではないので、変なことを書いてしまうかもしれませんが、気にしないでください。あくまで私個人の感想です。
さて、この小説は小説内の時間経過は早いですけど、文章のお陰でしょうか、ものすごくゆったりした物語に感じます。どこかほんわかした雰囲気の中、苦労人同士が惹かれあう。良いですね心惹かれます。
その中でものすごく濃い哲学をつらつらと並べる彼女は、キャラクターとしてとても面白いです。作者さんはこの小説のためにかなり調べたのでしょうか?それとも知識として知っていたのでしょうか?たくさんの哲学が出てきてとても勉強になりました。
ただ全体的に起伏が少ないので、面白いという感じはしませんでした。
その代わりに暖かな気分にはなれました。

最後に、一番気に入った台詞をば
「新月が一番好きですから。見えないけどそこにあるなんて、まるで人の意識みたいじゃないですか」
この台詞がかなり印象的でした。
143

pass
2011年02月14日(月)01時19分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
 真柴竹門さん、感想ありがとうございます。レスが遅れて申し訳ございません。

 近くにほっかほっか亭がなかったのでほっともっとに行ってきました。とても美味しかったです、塩唐揚げ弁当(ぇ 残念ながらそぼろ弁当はありませんでした……。

 Simple is the bestは私の大好きな言葉です。地味が一番。キャラは二人にしておけば地味でも大丈夫! 文章の固さはギャグでごまかし、知識の無い人間が下手に新規的なものを切り開こうとするのは無策だろうとチキりました。
 哲学の面白さを再認識できた、という言葉は非常に嬉しいです。知っている人でも退屈しないように、が秘かな目標だったので。もちろんこれで満足せず、既知の知識でも「そういうことだったのか」と頷いていただけるような小説を目指したいですね。

 最初は私も特徴のある作品を書いて差別化をはかるつもりでしたが、その作品は世界観が大きくなりすぎて、とても100枚という制限の中には納まりきらないと気づき(分割するにしても長くなりそうで)、こちらを投稿することになりました。結果的には良かったようで何よりです。


>けどな
 あう、単純なタイプミスです。正しくは、けどね、です。

>膜放電
 あうあうあ、今度は変換ミス。正しくは幕放電です。溜まった静電気が雲の中で放電する現象のことです。

>There’s something about Mary
 これは普通にググると同じ題名の映画が出てきてしまうようですね。ヒロインが読んでいたのは、マリーの部屋についての哲学者達の議論をまとめた本です。邦訳されていませんが、題名は一般に『マリーに首ったけ』と訳されます。私自身まだ読んだことがないので、本文中でも内容には触れていません。読んでみたい本の一つです。
 カラーになっても細胞が死んでいて結局白黒しか見えないのでは、という意見ですが、血が通っている内は錐体細胞も保持されるのでは……? 確かに筋繊維などは使わないと衰退していきますが、神経細胞でも同様のことが起こるのでしょうか。ちょっとわかりませんね。

 話がブツブツ切れることの対策に四季を利用する、との提案ありがとうございます。実を言うと最初はそのつもりだったのです。が、あまり時間を早く進めるとその分ヒロインの病気も進んで、話の半分以上ヒロインが歩く描写が無くなってしまう! それだとさすがに様子がおかしいと気づかれる――無駄にオチの隠蔽とリアリティを追求した結果、こんなことになってしまいました。理由は他にもいろいろあった気がしますが忘れました(オイ


『シャッターボタンを全押しにして』が非常に面白かったので、金椎響さんの作品は全て読むつもりです。問題はこの企画ページがいつまで存在するかということですが(笑)

 真柴竹門さんの作品も読ませていただきます。ではまた。

pass
2011年02月13日(日)03時57分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
>svaahaaさん、感想ありがとうございます。お約束みたいになってますが返信遅れて申し訳ありません。全然リアルが一段落しません。なんかもう感想制覇とか不可能に近いですが、その分感想返しはきっちりやらせていただこうと思います。


 緩い下り坂という表現ですが、私としても当初は自由落下(万有引力定数小)をイメージして書いていたので、そう受け取っていただけるとうれしいです。宇宙のくだりはここからきてます。
 ヒロインが中途半端にドジっ娘っぽくなってしまったのは、ALSという病気の必然性を考慮してのことでした。主人公の顔面にスパゲティーをぶちあてる計画もありましたが、作品の雰囲気を壊してしまうと思い断念しました。
 ユーモアのセンスはもっと高めていきたいです。少なくとも拙い文章力をごまかせる程度まで。
 登場人物がキレイなのは私の心がキレイだからです。嘘です。ヘタレて汚くできなかっただけです。黒優悟は書けても黒由乃は書けません。ただ、死に近づいた人間は今までやらなかったことを始めるパターンが多いそうですので、哲学を始めてもおかしくないかと。というかヒロインを遊び人にしたら全く別のストーリーに……あ、その場合も転職すれば賢者になれるからいいんですか。なるほど(なるほど?)。

 svaahaaさんの考え方を変えたという時点で、この企画は素晴らしいものだったのだと思います。パート2、やってほしいですね。読んだ人の考え方に影響を与える、というのは私が目指すものの一つでもあります。
 ストーリー性は内容の説得力を上げる要素の一つだと思っています。面白おかしくギャグや掛け合いをやっているだけなら必要のないものですが、シリアスな展開を持ってくる場合は必要なのでしょう。


 アバランシェ降伏は分かる人だけ分かればいいかな、というのと主人公の工学系っぽさを出すためだけに入れましたが、余計だったかもしれません。パロディやオマージュが分からない人にとっては苦痛なのと同じですね……。ちなみにツェナーは電圧をかけたときのトンネル効果を利用するという別のものなので、そのまま電子雪崩という認識であっていると思います(自信無い……)。

 一人称の視点移動が反則的だというのは……その通りですね(笑) しかもさんざっぱら自我に関する話をしておいてこれですから、思慮が浅かったと深く反省しております。夢オチ並の禁じ手に手をかけてしまったかもしれません。
 なんとか修正したいと思います。っていうか修正できるのかこれは……? 下手すると全文三人称に書き換えることになるような(笑) 修正版をどこに上げるかは目下検討中。


 非常に考えさせられました。参考になるご感想ありがとうございました。svaahaaさんの作品も感想締め切りまでには必ず読ませていただきます。


>真柴竹門さん
 感想レス及び感想返し、申し訳ありませんがしばしお待ち下さい。明日までにはなんとか致しますので。

pass
2011年02月01日(火)23時30分 真柴竹門  +50点
はじめまして、真柴竹門です。自転車の時に長くて広い道で誰もいなかったら、たまに両手を離して一輪車のように走ったりしてまして、今日もそれをしてみました。そんな午後に感想を書きたいと思います(ちなみに、恐いからハンドルをすぐ掴みますが〔笑〕)。
すみませんが表現力が下手なので、感想文の中で否定的な記述があったとしても全て肯定的に脳内変換して下さい(笑)。では行きます。
この作品を一言でいうなれば、私は次のような比喩表現を使いたいと思います。
「コギト」とは、そぼろ弁当のような小説である、と。
世の中には色んな小説が溢れています。育ち盛りで食欲旺盛な若者がバクバクとがっつけるデラックス弁当、桜の木の下で春を謳歌しながら食せる数多くのオカズが詰め込まれた幕の内弁当。
それと比べれば、本作はキャラがやや無個性ですし、エキセントリクウさんは「ギャグ、ユーモアのセンスが実に素晴らしい」と褒めていますし私も同意しますが、それでも文体は硬くて色がありません。哲学面でも殆ど知っていることばかりでしたし、世界観もイメージが湧かなかったです。
しかし、それでも良いものは良いのです。たまに食べると美味しいじゃないですか、あの弁当って。
そぼろ肉とご飯を口に入れた時の素朴でギュッとした旨み。堅実な説明により哲学の面白さをギュッギュッと再認識いたしました。やはり旨いな、と。
それから今度は金糸玉子の甘み。章ごとの、真ん中あたりに位置する哲学解説の導入も解説後の日常への戻り方も工夫されててスムーズですし、浜荻由乃と芳桐優悟の仲が良くなっていく過程がほんのり甘く描かれています。
副菜も良し。冒頭はSFのようでインパクトがあり、ラストとの繋がりも「おお、そういうことだったのか!」とサプライズをもたらしてくれます。いいアクセントになってくれるのです。
……そして、最後の漬物は酸っぱかった。ジーンと来たです。
そもそも本作との出合いも幸運でした。私は「コギト」を読む前に、エキセントリクウ作「哲学の道で少女は思考する故に少女あり」というユニークな小説や、色音作「西暦2236年 (※SF注意)」というSF小説とか、そういった個性的な作品を読んだあとだったのです。
だから大味なものばかりで口の中が食傷気味でしたから、本当に僥倖だったのですよ。出会いのタイミングの良さ悪さも、読書の観点からいえば重要であります。……あ、別にこの二作を貶してるわけでも、デラックス弁当や幕の内弁当に例えてるつもりでもありませんからね!
さて、本作で印象に残ったのが、エキセントリクウさんと被るのですけど……

>「トマトは哲学の香りがします」
>「哲学は、準備でした」

……でした。後者ですが、現実でも死の宣告をされた人が哲学の本を読み始めたりすることがあるそうです(うろ覚えですけど)。前者のセリフも、何かイカしておって読者の想像力を働かせてしまう威力が込められていました。
描写も丁寧に描かれていますね。粗がほぼ見当たりません。ただ、あえて言えば……

>そもそも、クオリアには物理主義を批判するという目的があるんですけどな

……な? けどな、って何だかおかしいような気がします。まあ女の人でも、ふざける際のセリフでワザとこんな口調にしたりするんで、私の指摘が間違ってるのやもしれません。
あと、わからない用語が二つほどあります。いや、勿論「デーモン優悟」は分かりましたが(笑)。
スティーヴン・ホーキングさんの感想に対する返信レスで、アバランシェ増倍というのが電気関係の専門用語だと知りましたが、なら「膜放電」というのは何ですか? ネットで調べたけど、あまり検索に引っかからないというか。
あと「There’s something about Mary」もググってみたら「メリーに首ったけ」(1998年。キャメロンディアスの出世作)というコメディ映画が出てきたんですけど、これがどう哲学と関係あるんですか? ただのネタ? ちなみに、この映画は見たことあります。ヘア・ジェルのネタは私も笑った。
しかし、マリーの部屋ですか。う〜ん、テレビがカラーになったとしても、きっと何も見えないんじゃないでしょうか?
だって生まれてこの方ずーっと白黒しか見たこと無いんですよね。だったら眼球には「桿体細胞」しか残ってそうにありません(暗い場所でも活躍できるが、色の識別が苦手な暗視カメラ的細胞)。
「錐体細胞」なんか、疾うの昔に腐って剥がれ落ちちゃってることでしょう(色を識別できるが、多くの光がないと働かないカラーセンサー的細胞。ネット「さいえんす? 見えないものを見ようとして」より)。
ゆえにマリーはカラーテレビを見てもモノクロ世界にとどまったままでいることでしょう。いやあ、随分と物理主義的な回答だなあ(笑)。
そして哲学面ですが、すでに知っていたことだからといって下げるつもりは前々からありません。問題はいかに材料を創意工夫するか、です。ただ、それでも……

>哲学的な話なんて一章一章でブツリブツリ切れてますしね……謎というか、話を次章に持ち越すみたいな方法も、後から考えてみればあったなぁなんて後悔しています。

……と困っているようですが、ブツリブツリ感しか改善されない案なのですけど「四季」を利用してはいかがでしょう? 謎の盛り込み方は、作者のほうで何とかしてみて下さい(笑)。
実は「φ本質的な彼女φ」での導入が夏であると予想してましたから、予想通りに的中して喜んだりしました。だからてっきり『この作品は四季を通じてゆっくりと二人の関係が近付いていくのを描く小説かな?』と思っとったのですよ。
しかし秋の描写がなくて「あれ?」ってなりました。そこで私の心境を利用してみたらどうですか? つまり……

φ運命的な彼女φ 冬のおしまい
φ意識的な彼女φ 春のおとずれ
φ唯物的な彼女φ 梅雨のしらべ
φ本質的な彼女φ 夏のまぶしさ
φ幻想的な彼女φ 秋のたそがれ
φ哲学的な彼女φ 冬のはじまり

……という感じに章ごとのタイトルを付け加えればブツリブツリ感を改善できるんじゃないかと考えたのですが、出しゃばってしまいましたか? すみません。話を哲学面の観点からの感想に戻ります。
そしてALSという真実が明らかにされた時、かなりガツンと来ました。と同時に『だから独我論一歩手前の話題ばっかりだったのか!』と、網でグイッと引っ張るような一気に伏線を回収する手管にはやられました。いやあ、ただのドジっ子じゃないなあとは想像していましたが。
つーかトマトの歯ごたえも感じられないのですね(泣)。自転車で風を切るような風圧による疾走感も得られません。凄え厳しい話なのですが、それでも温かな終わり方でホッとしました。優悟ならきっと、由乃の頼みとあらば車イスを手押しで走ってくれそうですね。
私の感想文投稿には、前期と後期に分けられます。前期とは、昨年十二月初旬に読了しておきながら色々あったため一月に入ってから感想文を書いて投稿する時期。そして一月に入ってから読了した作品に対して数日後に感想文を投稿するのが後期、という具合です。
前期では金椎響さんとupa・R・upaさんに五十点満点を差し上げました。そして三つ目の五十点であり、後期では初の満点を差し上げるのが本作になります。
もしもわざわざ返信レスをして下さるのなら、ほっ○ ほっ○ 亭のそぼろ弁当を食って来てからでお願いします。別にこのチェーン店の回し者ではありませんが、そのそぼろ弁当の味が、作者の努力の証である「コギト」なんだと噛み締めて下さい。勿論、白身魚のフライは捨てましょうね(……え?)。
にしても、永劫回帰、ですか。……ああいや、これについてはちょっと恥ずかしい思い出がありまして。金椎響さんの「シャッターボタンを全押しにして」の感想で、折伏ぬゐさんがお忙しくなることは存じております。
が、それでも暇が出来れば、宜しかったら金椎響第三作目「She said to me, “GODSPEED”.」 → 第二作目「哲学的な魔女、あとオレとか」という順番で読書してみてはいかがでしょう? そもそも両方とも面白い作品ですしね(あー、でもこういう宣伝ってやっぱりダメですかね?)。
っていうか作品の内容にあまり触れず、それどころか全然褒めてない感想文になっちゃってますね!(笑)。折伏ぬゐさん、ホントごめんなさい!! 謝罪が欲しいのでしたら喜んで土下座します!

それでは宣告どおり、五十点満点を差し上げます。くそ、こんな美味いそぼろ弁当は初めてだ!
シンプル・イズ・ベストな小説を読ませて頂き、感謝の念で一杯です。それでは、本当にどうもありがとうございました!

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pass
2011年02月01日(火)01時43分 svaahaa I0z7AdLSAc +30点
 ふと目についたと思えばあっという間に読了してしまったので、参考になればこれ幸いと少しばかり感想を書かせていただきます。

 率直にいいましょう、おもしろかったです。緩やかな下り坂――という表現はマズいかもしれませんが、切ない雰囲気の中で日々を「普通に」過ごす二人の姿には心打たれるものがありました。金椎響さんがおっしゃるように、ヒロインが「ドジっ娘」であればこういう展開はできなかったでしょう。nさんは迷っておられたようですが、「萌え」に舵をきっていようがなかろうが、小説としておもしろければそれでいいじゃないかと私は思います。テーマや賞といったものをあげつらうことが些事とは決していいませんが、そこに優先順位のトップがあるかといえばそうではないと思うので。
 すでに指摘がありますけど、作中ならびに感想欄でのやり取りから垣間見える作者さんのユーモアには私もクスリとさせられました。日頃はすべってばかりとのことですが、会話と文章ではやはり勝手が違うのでしょうね。物を書く上で文章側にセンスをお持ちであることは素直にうらやましいです。
 登場人物が「キレイ」じゃないかというのは私も感じました。もっというなら、祖父の代からの借金を背負わされてこんなに真っ直ぐな青年に育つのかとか、難病をわずらっている人間が哲学書を読みふけるものなのかとか、人の悪い猜疑心に駆られたり。けど、枚数制限もありますし、これはこれでまとまっていていいと思います(ドロドロの三角関係や溝の深い二人のケンカなどは、病気を扱う本作にはやはり必要なのかもしれませんが)。

 物語性を重視されたということで、それは功を奏していると思います。個人的な話で申し訳ありませんが、私はこの企画に参加当初、「エンタメじゃない小説なんか読みたくない」と思っていました。ライトノベルを主に読むような私の考えですから、そのときはエンタメ=萌えor笑いのような短絡した浅い発想しか持ちませんでした。しかし、この企画に関わり、作者さんや読者さんとの交流を重ねるうちに、それではダメだと思い直しました。正確には、いまでもエンタメじゃない小説にはまったく興味がありません。ただ、いまはエンタメが萌えや笑いだけで成り立っているような単純なものではなく、物語の中でキャラクターの人間性をいかに描くかという部分に大きくかかってくるのだと考えています(いまさらだと思われるかもしれませんが)。なので、ライトノベルを名乗るにしたって、萌えや笑いに終始していては本当に人を楽しませ、うならせ、感動させることはできないのだと思います。
 いま思えば、本企画で私がおもしろいと感じ、他の方からも好評であるような作品には、しっかりと物語性を意識したものが多かったのではないかと思います。もちろん、本作もそこに含まれるでしょう。本音をいえば、私は「『哲学的な彼女』企画パート2」でリベンジをはかりたい。今回は土俵に上がらせてすらもらえなかったのではと後悔しているぐらいですので。そんな私は、本作のようにストーリーで魅せる作品が書ける作者さんたちには頭が上がりません。

 ええと、関係のないことばかり書きましたが、要は「おもしろかった」です。ついでとばかりに、以下にもどうでもいいことが続きます。読み飛ばしていただいて結構ですよ、はい。

>それとアバランシェ増倍は電気関係の専門用語です。
 ああ、なるほど。確か高い逆バイアスの電圧がかかると電子が「雪崩」を起こして電流が流れる……ってやつでしたっけ(あれ、それはツェナーか?)。専門じゃない上にバンド理論の基礎すらうろ覚えの私がこれですから、やはり読者さんはみんな原義通りに解釈しちゃうんじゃないでしょうかね。伝わりにくい比喩は使いどころが難しいです。

 ただ、最後に彼女の視点で語られる部分は(文学的にはどうあれ)哲学的にはちょっと「卑怯」かなと思いました(ことばが悪いかもしれませんが)。個人的に一人称視点の力というのは小説という場においてはほとんど「最強」じゃないかと思っていまして、どういうことかというと、「個人の心情を決定的に語ることができる」という特権を行使できるからです(三人称の場合は「世界の中の事実を決定的に語ることができる」という風になりますかね)。つまり、語り手となった人物の心理および感情は作者によって一種の「約束事」として保証がなされるわけです。それは、叙述トリックや精神が錯乱しているなどの特殊な設定でもないかぎり、語り手が「赤い花が見える」といったら彼には赤い花が見えているのであり、しかもそれが「クオリア」として与えられているのだという保証です。なので、一人称小説の語り手はゾンビではありえません。それはそういう「約束事」によってそうなのです。
 しかし、本作のラストのように、一人称小説において語り手が「交替」するというのはどういうことか。それは現実ではありえない(どういう意味で「ありえないのか」は永遠の謎のような気もしますが!)「クオリアの保証を得た人物」が複数存在するという状況です。視点交替という離れ業はさっきのような「約束事」(あるいは小説に特有かつ不可欠な「錯覚」)によって行われると思うのですが、その作品の中で一度でも語り手の地位を与えられた人物は、同時にクオリアの保証も得てしまいます。つまり、独我論や他我問題といった類の問題は、このような視点交替のある一人称小説では生じえないのです。本来は決して手に入れることのできないはずの直接的な証拠=クオリアを、それがもつ「特権」によっていとも容易くさし出すことができるわけですからね。
 ……えー、要するに何がいいたかったというと、「一人称小説で視点交替をしてしまうと、それは独我論や他我問題が持つ問題の意味を無化してしまう、あるいは、すでにそれが乗り越えられた地点からしか語ることができなくなる」というクレームでした。文学的にも、似たような見地から「いちゃもん」をつけることができると思います(というか、すでに手垢がつきまくっているかと)。

 あとどうでもいい上におこがましいにもほどがあると思いますが、スティーヴン・ホーキングさんの感想はかなり「哲学的」だと思いました。反論したいことが山ほど頭に浮かんだという意味で、それはかなり刺激的な文章でした。それは本当なのかと疑ってしまったほどですが、かの「物理学者」さんは本作を読むまで哲学にはうとかったとあります。そんな人に十分「目覚めた」といえるような感想を書かせた本作は、なんというか「哲学的エネルギー」に満ちているのではないかと思いました(私もこんな文章を書いているので思惑にはまっているのか?)。作者さんの力量、推して知るべし。

 さてさて。正しいとか間違っているとかいう以前にそもそも有益だったかどうかが訝しまれる感想ですが、以上です。最初に「少しばかり」と書きましたが……あれは嘘です(爆)。しかし、本作の平均点の高さは嘘ではないと感じています。久方振りに「哲女」企画の作品を読みましたが、本作には楽しい時間をいただきました。どうもありがとうございました。
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pass
2011年01月21日(金)23時56分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
 nさん、感想ありがとうございます。返信が遅れて申し訳ありません。

 実話のよう、と言われると嬉しい限りです。個人的には、ところどころでかなり無理があるよなコレ……と思ってたので(笑)

 小説というものは一種の思考実験だと思っています。涙を誘う話にしようと思って書いたつもりはありませんが、設定的に半ば悲劇っぽくなってしまったのは確かですね。好意的に受け取ってもらえたようで良かったです。

 ヒロインは途中までキャラが安定しておらず(年齢もころころ変わったりして)、哲学が準備だと言う話も突発的に思い付いた設定です。その時は自分でも、なかなか気の利いたバックボーンを閃いたな、とほくそ笑みました。こう、気色悪い感じに。
 萌えっぽくないのは仕方ないと割り切りました。本当はもう一つ、少女の出てくる中世物語も書いていたのですが、間に合わず断念。いつか機会があれば……。具体的には『哲学的な彼女』企画パート2があれば(笑)

 では、その時にまた。

pass
2011年01月17日(月)20時28分 n  +40点
重いテーマを現実的に描いて、まるで実話のようです。
哲学的にも、読み手に「知」に対する欲を沸き立たせ、ヒューマンドラマとあいまって泣かせ、心に染み渡ってきます。
「ダイレクトに哲学的な話」で感嘆したり、驚いたり、好奇心をくすぐられたことはありますが、泣いたのは初めてです。
そういった意味で、とても印象深い作品でした。

冒頭部分を読んでみると、読んでいる自分が非常に刺激の多い状態なのだと気がつきました。
「宇宙船」を想像することで、少し心を落ち着けてから物語に入って行くことができました。

そして彼女ですが、これまで読んだ作品の中で最も哲学的な彼女だと思います。
趣味だけではなく「実用的」に哲学を必要としていた点においても最強です。

これまで、全体の3分の2ぐらいの作品を読み、その半数ぐらいに感想を書きました。その間に皆さんの感想はどんどん長くなり、言ってることは海より深く、私にはほとんど分からず、ハードルは天まで上がり、もうムリです。
「難しそうな哲学を使ってあえて萌え小説を」という趣旨であるのに対し、たいへん哲学的に深くて感動して泣ける作品はどう評価したら良いのでしょうか。
守りたい、大切な、儚くかけがえのない彼女は「萌え」なのでしょうか?
私はこの作品で、ひとつの愛、その発生と到達点を見せていただいたと思います。
でも、「これ、萌え小説。面白かったから読んでみて!」なんて男友達に勧められるシロモノではありません。

小説としては50点どころか60点だろうと思うこの作品、ここで出会えて感謝、無料で読んで申し訳ないと思いつつ・・・
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pass
2011年01月16日(日)01時38分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
 金椎響さん、感想ありがとうございます。

 主人公を水槽の脳にする気が起きなかったわけでもありませんが、それだとあまりにもそのままというか、予想がつくので初期段階で却下しました。でも胡蝶の夢とかを見させるなら良かったかも。

 冒頭、なんだか評判が良いようなので、修正は加えるにしても残したいと思います。言われてみれば、冒頭あっての最終章なんですよね……。読者様をやや混乱させてしまうのが困り者です。今のところ良く受け取ってもらえているみたいですね。ブラウザバックされる方もいるのかもしれませんが。

 私は伏線やら裏付けやらがない物語の展開には納得できないタイプなので、説得力にはいつも気を使うようにしています。好印象と言っていただけると、日頃の努力が身を結んだようで嬉しいです。

 私も基本切ない物語は、書くのも読むのも苦手です。今回は題材的にそうならざるを得なかったわけですが。ただ、ヒロインが最後死ぬような展開は始めから考えてませんでした。必然性もありませんし、化学調味料はあまり使いたくないのです。くだらない自尊心ですけども。


 二人の会話については、既存の哲学をまず説明し、その後そこから話を飛躍させる――という展開にしたかったのですが、私の頭では『飛躍』がなかなか上手くいきませんでした。クオリアや哲学的ゾンビの話を既に知っている人に、どう新鮮な説明ができるかが課題ですね。私が既に知っている(当たり前ですけど)せいか、主人公の疑問も白々しく感じるんですよね。どうしたものでしょうか……。

 物語性があると言って頂けると非常に嬉しいです。その辺りは意識して書いていたので。最初は哲学的な会話主体のものにしようとしていたのですけど、そういった展開は今回の企画においてあまりにもオーソドックスになってしまうのでは、と考えてやめました。結果、差別化を計れたようで何よりです。

 点数は私自身目安と捉えていますし、作品自体にもそこまで自信が無かったので、現在予想外の高得点に驚いています。もしやフリーメイソンの陰謀ではあるまいか。

 ユーモアがあると言われると素直に嬉しいです。日頃は滑ってばかりなので。あと面白いことを思い付いたときはプスプス一人で笑うので、たまに気味悪がられます。文章の良いところは、口頭よりも笑いのハードルが下がることだと思います。布団が吹っ飛んだ(爆)

 参考になりました。また機会があればよろしくお願いします。

pass
2011年01月15日(土)00時49分 金椎響 8tiPoznsKE +30点
 折伏ぬゐさん、初めまして。金椎響といいます、どうぞよろしくお願いします。
 さて、この度は『コギト』を読ませて頂いたので、以下感想を綴っていきたいと思います。

 最初に、こういう話は大好物です。それ故、おいしく頂きました。
 冒頭のくだりを見て、「……SFか、よし読もう」と決めた後、現代に描写が移ったので「なるほど、きっとオチは水槽の中に浮かぶ脳だな」と思って読んでいたら、途中で見事に裏切られました。でも、こういう裏切られ方は嫌いじゃないです。読者の予想の上を行っていたと思います。
 由乃ちゃんと優悟くんの日常パートは哲学に対してあまり知識のない読者にとっては、平易でわかりやすかったのではないかと思います。由乃ちゃんの病気が明らかになってからは、思うところが沢山ありました。そして、冒頭部が最後にああ繋がるのか、と感嘆の声を上げずにはいられませんでした。折伏ぬゐさんの技術が輝いていたと思います。

 個人的には、由乃ちゃんがただのドジッ娘なら絶対感情移入できなかったと思います。また、借金返済に追われる優悟くんの設定がその後に活かされなかったら、首を傾げていたと思います。
 そう思うと、文章に説得力があると思います。また、設定に余分な要素が少ないのも好印象でした。文章が平易でふんわりとしていますけれど、それでいて最後の方は惹きつけられてしまいました。あと、ところどころでくすりと笑ってしまう文体も良かったです。

 また、これは作者としてなのですが、わたしはこういう切ない感じの小説を描けない人間なので、単純に羨ましいです。「いつか、こういう物語を書いて人々を感動させたいな」って読んでいて思いました。

 わたしの前に、エキセントリクウさんから「謎を設けると良い」という助言がありました。わたしも、そういう要素があれば、もっともっとこの作品は輝くんじゃないかなと思います。ただ、それがないから欠点か、と問われると、うーん、それはちょっと違う様な気がします。なんと評して良いのか、判断に迷いますけれど。

 点数は30点です。直感では、35点です。
 しかしながら、わたしが今までつけた30点作品の範疇には収まらない、高いレベルの作品でした。企画開始から数えて、わたしは3人にしか与えていない40点クラスかもしれない、とも思いました。ただ、そこでこの作品に自己最高得点を授ける、となると、どこかで躊躇いがあって……。
 恐らく、スワンプマンやマリーの部屋といった話題の数々に魅力を感じなかったことが、こんな微妙な直感のもとなのだと思います。もし、わたしがそのような点について思い至っていない、哲学初心者であれば、きっと新鮮に感じて、素直に感動できたんじゃないかな、と思います(もっとも、今でもわたしは哲学についてはまだまだ勉強不足の初心者だと思いますけれど)。

 ただ、この作品はこの企画には珍しい、物語性を有した作品なんですよね。小説に物語性を求めてこの作品にうっかり参加しちゃったわたしとしましては、この点を評価して+10点を差し上げても良かったのですが、それだとわたしの今までの採点基準の整合性が保てなくなってしまうので、苦渋の30点ということで、本当にごめんなさい。

 お世辞じゃなくて、本当に面白かったです。この企画において、折伏ぬゐさんの作品って正統派だと思うんですよ。構成も物語も人物も良かったですし、ユーモアに富んでいて、哲学性や萌えもあったと思います。
 なにより、このわたしが最後まで読めたということは、「捻くれた読者の一人を惹きつける魅力がこの作品にはある」ということだと思うので。

 だから、あんまり点数については気にしないで頂けると幸いです。これは「哲学的な彼女」企画というルールのなかでやっているからつけられた、便宜的な数字だと思って頂いて、折伏ぬゐさんには純粋に、あなたの作品を楽しめた、そして面白いと主張する読者の存在がいることを、喜んで頂けると、感想を記したわたしも嬉しいです。

 最後に、折伏ぬゐさん、素敵な作品を世に送り出して下さってありがとう。
 お陰で、楽しいひと時を過ごすことができました。


 感想欄で

>泣きながら感想書いてます(笑)
 笑ってるじゃないですか!(泣)

 というやりとりに笑ってしまいました。わたしもそんなユーモアが欲しいです。
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pass
2011年01月12日(水)02時46分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
>エキセントリクウさん
 感想ありがとうございます。先ほど心拍数が上がって鼻血出そうになりました。べ、別に褒められて嬉しかったわけじゃありませんから! 落花生食べ過ぎただけですから!

 とりあえずは滑っていなかったようで何よりです。もっと笑い所というか和み所を作れれば良かったのですけどね。

 「哲学は、準備でした」に関しましては、『哲学者の生涯は死への準備である』という哲学者キケロ氏の格言がありまして、そこから来た台詞です。台詞自体を思い立ったのはその部分を書いてる最中でしたが。格言ってやっぱり頭の中に残るものなんですね。

 章を変えたとはいえ、突然の視点移動はまずいかなぁとも思っていたのですが、序章によって補正が利いたんですかね? 入り方が抽象的過ぎる気がしてましたけど、そうなると、この序章も切るのはもったいない気がしてきました。


 さて、ご指摘の欠点に関しましては返す言葉もございません。哲学的な話なんて一章一章でブツリブツリ切れてますしね……謎というか、話を次章に持ち越すみたいな方法も、後から考えてみればあったなぁなんて後悔しています。

 物語がワンパターンな感じも否めませんね。短い話だからまぁいいかなどと考えていた怠惰な自分を再構築せねばなりません。短い話だからこそそういったマンネリ回避に力を入れるべきでしょうに。

 哲学的な話が退屈に感じられたのは、おそらく何度も聞いたことのあるような話をそこかしこに混ぜたせいでしょう。主催者の飲茶さんのような説明ができるといいんですけど……(ホントにどうやったらあんな面白くできるんですかね?)。知識不足も多々あったと思います。

 感傷的になると変にカッコつけた文章になってしまうのは昔からの癖で、なかなか直りません。くさくない文章の書き方も研究しないといけないようです。


 いろいろと参考になりました。エキセントリクウさんの小説も読ませていただきますね。ではまた後ほど。

pass
2011年01月10日(月)16時08分 エキセントリクウ  +40点
感動しました。
うまいですね。
レベル高いですね。

今までここに投稿された作品をいろいろ読んできましたが、小説として、一番完成していると思いました。
正直、ホッとしました。
心に響く作品に、ようやく出会うことができました。

>生活保護とかから出てるわけじゃないよな。そう思いながら血税と変換された疑いのあるスープを飲み干した。
>加えて、『傘』という風雨防御システムが、人類の有史以来未だに目立った発展を遂げていないことも残念でならない。折りたためるようになった程度で調子に乗るな。ビジュアル面以外では雨合羽にも劣るくせに。
「折れた傘に向かって何恐い顔してるんですか?」
「自分を正当化しようと必死になってる」

ギャグ、ユーモアのセンスが実に素晴らしい。

>「トマトは哲学の香りがします」
> 「哲学は、準備でした」

いい台詞。いい言葉です。最高。

>僕は車イスを海の方へ向け、ストッパーを掛ける。海水が付いて錆びてしまうとまずいので、波打ち際からはだいぶ距離を取った。

こういう描写のディテールも大変いいです。

ラストの視点移動がオープニングにかかってくるなんて演出も、さすがです。


……と、ほめてばかりではいけませんね。
とくに力のある人には、シビアな見方で接するべきだと思うので。

まず次へ次へと読者をひっぱるような仕掛けや工夫が足りません。この素晴らしいラストシーンに向けて、絶対、何としても、首に縄をかけてでも、読者を連れていくんだ、というような気概をもつべきです。それと単調になっていませんか?たとえば由乃が転ぶシーン、どうせなら、もっと思い切り派手に転ばせましょう。ラーメンなんかひっくり返しちゃってもいいじゃないですか。そうした後にカタイ哲学の話をすれば、メリハリがつくと思います。あ、由乃の哲学の話。これは本に書かれたことを説明するだけの、学校の先生がネムイ授業を行っているのと変わりありません。ここでも工夫が必要と思われます。あとALSの話から、少々感傷的になっているきらいがあります。感傷的になった途端クサクなってしまうので、できるだけクールに突き放しましょう。


……とはいえ、本当に良く書けています。合格。
もっとみんな、この作品を読むべきです。


最後に、ぼくの拙作「哲学の道で少女は思考する故に少女あり」も、よろしければ、ご一読ください。
折伏ぬゐさんには、ぜひ読んでいただきたいので。






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pass
2011年01月10日(月)02時18分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
>スティーヴン・ホーキングさん
 拙作を読んで頂いた上、どれほど時間をかけられたかもわからないくらい長い感想まで頂き、本当にありがとうございます。見つけた時はびっくりしました。
 それと返信が遅れて申し訳ありません。ここ何日かバタバタしてました。おかげで感想制覇にも支障が……。


 哲学の説明、わかりやすかったと聞いて少しホッとしました。なにぶん推敲不足で(推敲してもダメなくらいなのに)意味不明な感じになっていないか不安だったのです。哲学に詳しい方からの感想がまだないので完全に安心はできませんが。でもまあ、相対主義的にはマトなんてあってないようなものですから、よほどおかしなことを言っていなければ大丈夫だと自分に言い聞かせる日々です。小心者です。


 さて、本題へ。
 冒頭部はホーキングさんお察しの通りヒロインのモノローグですが、今になって入れたのを少し後悔しています。本筋とマッチしてない感じがして……。投稿期間を過ぎて改稿するのも気が引けるので直してませんが。この辺りは私の力量不足です。

 一章の文頭のスペースが抜けてるのは……なぜでしょうね。書いている最中はちゃんと空いていたと思うんですが……。とりあえずエディタのせいにしておきます。これも前述の理由で手付かず。

 ヒロインのさん付けは単に律儀なだけです。だから彼女はトマトのことをトマトさんとは呼びません。フランシス・ベーコンのことをベーコンさんとは呼びますが(笑)

 それとアバランシェ増倍は電気関係の専門用語です。主人公が工学部の電気科という設定なので。特殊なダイオードに使われている効果ですが、ただの分かりにくいネタです。

 同一性につきましては、空間内を移動するという行為を行っている時点で『空間と入れ代わっている』、もっと言ってしまえば時間内を進んでいく時点で『時間ごと入れ代わっている』と見ることもできますので、これまたあってないようなものなのかもしれません。ただ、あまり哲学的に突き詰めると現実とそぐわなくなる気もします。

 ヘレン・ケラーやディックといった人物の名前を即座に連想されるあたり、相当な量の読書をこなされているのでしょう。私に足りない部分です。
 言語は万能だと思いますが、全能だとは思いませんし、そんなものはこの世の中にないような気がします。だから人間にできることはあくまで近似なのだとおもいますよ。

 言葉自体が他者との共通性を持っているということについて。全くその通りだと思います、この辺は締め切り間近で完全に勢いで書いてたので、その点に気づけませんでした。これこそマトハズレですね。うあー。
 一人称にしといただけまだ良かったです。ここは主人公が馬鹿だったということで。

 主人公が超人思想を知ってたのは出来過ぎでしたね。ここを書いてる時は確か締め切りまであと二時間とかそういうレベルだったと思います(さっきから言い訳ばっかり)。ここは主人公が勉強家だったということで。

 改めて小説内の文章をピックアップされると小恥ずかしいですね。台詞がくさいというかなんというか。さりげない言い回しとか、気の利いたことができればいいんですけども。

>泣きながら感想書いてます(笑)
 笑ってるじゃないですか!(泣)

 主人公とヒロインが綺麗過ぎるのは書いてて思いました。準ヒロインみたいなのを登場させて昼ドラ並にドロドロにしたり、二人の性格を捩曲げるとか考えましたが、時間の関係で断念しました。何より私にそんな筆力ありません。哲学は人間を綺麗にする、ということでここは一つ。

 BMIの技術は日進月歩でして、現在は約500種類ほどの表現ができるようになっています。しかし片言で喋れるレベルにはまだ十年ほど掛かるでしょう。なのでこの部分はかなり希望的観測というか、SFチックです。
 ちなみに脳波でコミュニケーションするツールなら既に米軍が開発中です。軍事用にですけどね……。

『プラトンも落涙のプラトニック・ラブ』。最後に素敵なキャッチコピーをありがとうございます。


 五十点には正直驚きました。嬉しかったです。と同時に少しの不安も。理由は、ホーキングさんが私のこの作品しか読んでおられないようだからです。ひょっとしたら、感想投稿の度にその作品に相応しい名前に変えておられるのかもしれませんが(ヒロインと同じ病気のホーキング博士から取られたのだと推測します)、そうでないとしたら五十点はあまりにも早計というもの。これは余計なお世話かもしれませんが、拙作より面白い作品・作者様は今企画の中にいくらでもいらっしゃると思います。企画を盛り上げるためにも、私以外の作者様方の作品も読まれてみてはいかがでしょう。私も感想制覇頑張りますので。


 では改めまして、感想ありがとうございました。

pass
2011年01月07日(金)01時15分 スティーヴン・ホーキング  +50点
 

 こんにちは、作品を読ませてもらいました。
 とても素晴らしい小説でした。本当に面白かったです。
 語り手である芳桐優悟さんの話し口調は楽しく、浜荻由乃さんの哲学講義はわかりやすく、哲学エンターテイメントとしても知的な恋愛小説としても傑作だと思いました。
 由乃さんに起こった出来事は悲しすぎて、読んでいて切なくなりました。ですが、希望のあるラスト・シーンでしたので、彼女のために嬉しく思いましたし、私自身もとても勇気付けられました。
 優悟さんと由乃さんのお二人、そして作者様に、心からお礼を言いたいです。

 ここまで書いて、かなり悩みました。
 現在も悩んでいます。
 何を悩んでいるのかと申しますと、感想を投稿することが不安なのです。
 どういったことが不安なのか?
 哲学について何も知らない私が感想を書いて良いのだろうか、という疑念が拭い去れないのです。
 哲学の勉強をしたこともなければ創作の基礎も知らない私が哲学小説の感想を書くことだっておこがましいのに、作品に点数を付けて良否を判定するというのは不遜の極みである――というのは、ちょっと大袈裟ですけど、やはり抵抗を感じます。
 正直なところ、哲学について的外れなことを書いてしまい、恥をかくのは嫌だな〜というのが本音なのです。
 しかし、考え直しました。
 もしかしましたら哲学的な彼女企画そのものが哲学的ゾンビ企画、すなわち何かの幻影かもしれないじゃないですか(笑)。
 幻影に怯えるのはバカバカしい、というわけで、感想の続きを書かせていただきます。
 意味不明な文章は、水槽脳仮説の水槽に生えているミズゴケな何かだと思っていただいて、無視していただけましたら幸いです。

 ☆

 冒頭の部分。
 最初に読んだときは「これは何だろ?」と思いました。
 読み終えてからわかったんですけど、この部分は由乃さんのモノローグなのですね(違ったらすみません)。
 我々は誰もが一人乗りの宇宙船のパイロットではないだろうかと、このパートを読んで感じました。彼女の置かれた状況とは比較にならないでしょうけれど、誰も彼も孤独な旅人だよなあ、と思うんですよね、現時点での私は。
 そう感じるのは、この部分の感想を書いているのが、夜中だからかもしれません(笑)。

 ☆ φ運命的な彼女φ

>明日できることは今日するな――そう言ったのは、誰だったか。

 文頭の一字開けが無いと思いました(細かくてすみません)。

>例えばですけど、水槽脳仮説って知ってますか?

 優悟君と同じく、私も知りませんでした(苦笑)。

>それから家に帰って夕飯を食べず、ガスを節約するため風呂に入らず水だけ浴び、電気代を節約するため即座に寝る。

 まだ寒い時期に水浴びは避けたほうが無難かな、と思いました(笑)。

>我思う、ゆえに我在り

 現時点での自分ということであって、過去と未来の自分が同一であるかどうかは別なのかもしれないなあ、と読みながら思いました。存在しているのは思っている瞬間の自分であって、その自分が過去から未来へ何も変わらないまま連続するとは限らないわけで、厳密に言うならば「我思う、ゆえに、その一瞬の我在り」ではなかろーか? と感じたわけですが、デカルトに難癖をつけているだけという気が致します。

 ふと気付いたんですけど、哲学者たちは時間をどう定義していたのでしょうか?
 時間と哲学について、後で調べてみたいと思います。

>それは……気にならないことはありませんけど……。まだヘーゲルさんもカントさんもハイデガーさんもサルトルさんも読んでないですし……キルケゴールさんにメルロ・ポンティさんにベーコンさんも……

 さん付けなのが、とてもかわいいです。

 ☆ φ意識的な彼女φ

>パスタの茹で具合も、トマトソースの塩加減もちょうど良かった。トマトとパスタのアバランシェ増倍や、と意味不明なことを叫びそうになるくらい。

 アバランシェとはavalancheでしょうか?
 雪崩?
 確かに、意味不明ですね(笑)。

>それは、赤く見えるから赤いんじゃ……いや、これじゃ全然説明になってない。

 色彩は共通の認識に基づいて言葉で定義付けられるのでしょうけれど、生まれつき目の見えない人が色を理解するのは難しいと思いました。夕焼け空の色だよ、と比喩してみたところで何も伝わりません。
 感覚的な情報を言葉で相手に伝えるのは難しいですね。言葉はコミュニケーション・ツールとして力不足という気が致します。とはいえ、言葉以外で情報を伝達するとしたら、表情やジェスチャーあるいは手旗信号しか思い浮かびません。それだと目の見えない人にはわからないでしょうし……悩みますね。

>これを独我論と言います

 オンラインゲームを連想しました。仲間だと思っていた自分以外のプレイヤーがプログラムで動いているとしたら、きっと寂しいでしょうね。

>テーブルの上でパスタが二皿、寄り添うように冷めていた。

 冷めているんですけれど温かな雰囲気の流れる文章だと思いました。

 ※ すみません。長くなりすぎましたので分割します。


149

pass
2011年01月07日(金)01時15分 スティーヴン・ホーキング  +50点
 

 ☆ φ唯物的な彼女φ

>アイデンティティーとは何か、という問いです。大ざっぱな言い方ですけど。ほら、よく考えてみてください。事故の前と後で、男性は同一人物でしょうか

 死によって連続性が途切れているのですから、外見も中身も同じであっても、同一人物とは言えないと思います。

 唐突に、フィリップ・K・ディックのSF小説を思い出しました。
 自分が本物の自分なのかわからなくなった人物が主人公で、哲学的な内容の作品だったように記憶しているのですが、題名は忘れてしまいました(泣)。
 読んだ本について、ほとんど覚えていない私って、もしかしたら同一性に欠けているのかしら(笑)?
 ↓
>なら十年前の優悟さんと今の優悟さんに、どれほどの同一性があるというんです? 記憶がほとんど無いなら、赤の他人と違わない気がするんです、私には

 毎日の積み重ねがあって今日の自分が存在する、という考えもあると思いました。
 最初に歯を磨いたときの記憶が無くても、歯を磨くことは習慣として身に付けているわけで、記憶が失われていようとも歯が残っていれば、それは同一性の証明になりえる、という気が致します。
 従いまして私は、記憶が無くとも同一、という立場です。
 しかしながら私と致しましては、同一性という言葉そのものに若干の疑問を感じます。
 同一の存在など、果たしてあるものなのでしょうか?
 時間が流れ続ける限り、すべての存在は同一でいられないと思うのです。
 要するに、万物は流転すると考えているわけですけれど、哲学的にはどうなのでしょう?

>金属製の試験管に赤ちゃんが一人入っているとします。この赤ちゃんをずっと試験管の中で育てるのです。まるでずっと母親の胎内にいるように。音や色などの刺激や情報を一切与えないことが前提です。そうすることで、何の記憶もない人間を作ります。この赤ちゃんが大人になって、初めて試験管から出されたとき、彼はクオリアを持っているでしょうか

 三重苦のヘレン・ケラーを題材にした戯曲『奇跡の人』を思い出しました。
 ヘレン・ケラーは視覚と聴覚に関して、クオリアを持っていなかったと思います。見えも聞こえもしないのですから、クオリアを持つことは出来ません。彼女がクオリアらしきものを持ったとすれば、アン・サリヴァン先生の教育を受けてからだと考えました。
 試験管内で成人した赤ちゃんの場合は、どうでしょうか? 初めて試験管から出されたとき、正常な感覚器官を持っているのならば、外界からの刺激を受けて「痛い」「熱い」「眩しい」などの感覚が生じ、それを表す正常な反応を示すはずです。
 ですが、それを言語で表現することは出来ません。会話の教育を受けていませんから、何も話せないのです。外見は大人になっていますが中身は赤ん坊ですので、生まれて間もない赤ちゃんがそうであるように、ただ泣くだけでしょう。
 そこで、ふと思いました。
 感覚のすべてを言葉で表現しようとする試みに無理があるのではないか?
 言語を万能のものとする考えにとらわれすぎなのではないか?
 クオリアの伝達が困難であることに示されているように、言葉はコミュニケーション・ツールとしては力不足という気がしてなりません。
 それでも、言葉の他に何があるのかと言われても返す言葉がないわけでして、うーん弱りました。

>彼女の手の中にあるそれは、少しだけ誇らしげに見えた。

 とても素敵な文章だと思いました。
 どういったところが素敵なのか、上手く説明できないのですけれど、それこそがクオリアということでご了承ください(笑)。

 ☆ φ本質的な彼女φ

>鋭いですけど、その言い方は語弊がありますね。というか、そこが争点なんですよ。ある日突然テレビがカラーになったら、彼女はそこから新しい『何か』を学ぶのかという問題です

 映画『カラー・オブ・ハート』を思い出しました。
 白黒テレビの中の世界が色彩を帯びていく、といった話でした。ただし、変化は色だけにとどまらなかったように思います。白黒テレビ世界の住人がカラー化するとき、新しい『何か』を手に入れていったわけですが、あの映画の元ネタって案外、マリーの部屋なのかもしれません。

>そう考えると、『本質』という言葉は他者との共通性を前提にしていることが分かる。たぶん『真理』にも同じことが言えるだろう。

 言葉自体が他者との共通性を持っていると考えました。
 自分だけにしか理解できないマイ言語では、他の人との伝達手段には役立ちません。
 自分のクオリアを他者へ伝える際にも、マイ言語(勝手に定義しました、すみません)と同様のケースが起こり得ると思いました。
 誰かに自分の内的体験を説明しようとしても、その相手には共通する経験や認識が無いため、言葉でいろいろ言われても何のことやらさっぱりわからない、という事例です。
 説明しようとしている人物にとっては、それは事実であり、時に『本質』もしくは『真理』です。それでも他者にとっては単なる戯言でしかありません。
 ううむ、これは病的なケースに限った話かもしれませんね(汗)。
 恋愛も例外的なケースに該当するかもしれません。自分にとっては真実の愛でも、相手にはストーカーでしかないというパターンです――ううむ、やはり恋は妄想、愛は幻想なのでしょうか? 教えてください、由乃さーん!
 ↓
>私ですか? そうですね……恋は妄想で、愛は幻想です

>それは、『脳』です。そして脳が捉えることのできる要素は『言葉』。私たちは言葉を駆使して物事を思考し、言葉を介して他者を理解し、言葉を用いて存在を定義しています。視覚が物や色を捉えるように、聴覚が音を捉えるように、嗅覚が匂いを捉えるように――言葉は世界を捉えることができる。そして哲学とは、『言葉』という物理的には存在しない感覚器官で『何か』を計ることを言うのです。私の中では

 なるほど、そんな気がしてまいりました。
 正直に申しますと、私は別のことを考えていました。
 言葉は世界のすべてを捉えることができない、と思ったのです。
 自分のクオリアを他者のクオリアと比較できないのは、言葉がクオリアを捉えきれていない証拠だと思います。
 勿論、捉えきれてないから言葉は無力、というわけではございません。
 今の時点では言葉は世界のすべてを捉えていませんが、将来においては言葉が世界を捉え尽くすだろう、という予感が致します。
 人類が言葉を使い始めた頃と比べたら、言葉は格段に使い勝手が良くなっているはずです。言葉で世界を捉えようとする努力を我々が続けていく限り、言葉によって定義される世界はもっと広がっていくと思います。いずれ人類が真理みたいなものに到達すれば、その『何か』を言葉で表現できるのでしょうけれど、現時点ではこうなりますよね。
 ↓
>抽象的な言い方ですけど、そう言うしかありません。あなたの中の言葉と私の中の言葉は定義や感じ方からして違うことが多々あるんですから。この世界の全てが『何か』なんです

>ふふ……。さて、これで私から話せる哲学的な何かはほとんど全て優悟さんに伝えてしまいました。これでもう心残りはありません

 この文章以降の展開、泣けますよね(号泣)。

>俗に言う、不治の病だ。

 私は難病もののお話って苦手なんですけど、この物語はかなり好きです。
 作品の中心を哲学という太い柱が貫いて支えているので、ヘタレな私でも悲劇に耐えられたのだと思います。

>意味は作るものだと思うよ。
 ↑
 かなりの名台詞だと感心しました!
 ↓
>僕は、君に生きていてほしいと思う。僕には君が必要だ。だから……僕と一緒に、哲学してくれませんか

>ニーチェさんの超人思想とか永劫回帰
 ↑
 優悟さんはどれほど勉強したのだろう、と感心しました!
 ↓
>人は死んでも同じ人生を再び繰り返す、という考え方だ。

>意外と素直な、僕が言った。

 いいですね(泣)。
 あらためて思ったんですけど、章の終わりに置かれた文章、どれも良い感じがします。

 ※ 再びすみません。長くなりすぎましたのでまた分割します。


156

pass
2011年01月07日(金)01時14分 スティーヴン・ホーキング  +50点
 

 ☆ φ幻想的な彼女φ

 全体を通して面白いんですけど、この章は特に好きです。
 場面転換が効いているのかな、と思います。
 潮の香りとか浜辺で売られている焼きそばの匂いとか、感じますね(笑)。

>あくまで物理主義に徹しようとすると、そうです。逆に神秘主義的な言い方では『魂』となるでしょう

 塊、ですか……間違いました、魂ですね(汗)。

>そこで気づいたんですけど、色とか匂いとか、私たちが既に経験したことがあるものを使って思考実験を打ち立てても、それがわからない登場人物の気持ちを理解することは難しいと思うんです。だったら、まだ自分の知らない感覚があると仮定したらどうでしょう。例えば『ほげ』という要素があるとします
 ↑
 ある日突然、何かに目覚めるっていうのは、何となく理解できます。
 この小説を読むまで哲学について何も知らなかったのですが、目覚めましたよ私。
 ↓
>『ほげ』は空気のように身の回りにあふれていますが、普通の人はそれを感じることができません。しかし優悟さんはある日突然、『ほげ』を感じることに目覚めるのです

>ふふ……。でもそんな感じで、始めはすごく曖昧に感じるんじゃないでしょうか。そこからだんだん感覚が固定されていくというのが、私の推測です。視覚や聴覚や嗅覚も同じで、感覚が曖昧だから子供時代は皆自我が薄いのです。……なんて、こんなものは推測の域を出ない話ですから、机上の空論と言われればそれまでですけどね

 小さな子供ですと、鏡に映る自分を自分だと認識できないようです。その頃は誰でも皆、自我の境界線が曖昧な世界に生きているのでしょうね。感覚が固定される前の記憶を覚えていれば机上の空論ではなくなるのでしょうけど、由乃さん、お役に立てず申し訳ございません。残念ながら私は忘れてしまいました(笑)。

>デカルトのデーモンは案外、僕らの中に存在しているのではないだろうか。不確定な認識、という形で。

 海で出会ったときは素敵に思えたのに街で再会したら論外だったという愚痴や、愛していたと思ったが実は間違いだったという世迷い言は居酒屋でよく聞きます。
 それらは全部、デカルトのデーモンが悪いのですね(泣)。

>種を買った次の日に全てカラスにやられたというほろ苦い経験が。

 爆笑!

>それでも、これは自分で選んだ道であり、何より僕の生きる意義なのだ。

 生きる意義って、哲学の大テーマ! という気がします。
 自殺を思いとどまるよう「死んだらダメ!」とか「君がいなくなったら皆が悲しむ」とか説得したことが昔あったんですけど、次の機会があったら「生きる意義を見つけるために、一緒に哲学しないか」と誘ってみますね。

>真っ赤なトマトと、幻想を。

 ここまでの五つの章題と、各章最後の一文を並べてみます。

φ運命的な彼女φ 春休みはもうすぐ終わる。
φ意識的な彼女φ テーブルの上でパスタが二皿、寄り添うように冷めていた。
φ唯物的な彼女φ 彼女の手の中にあるそれは、少しだけ誇らしげに見えた。
φ本質的な彼女φ 意外と素直な、僕が言った。
φ幻想的な彼女φ 真っ赤なトマトと、幻想を。

 どのタイトルも、どの文章も良いのですけれど、涙腺を最も刺激されたのは最後の組み合わせでした。
 この小説、かなり良いですよ!

 ☆ φ哲学的な彼女φ

 書くの恥ずかしいんですけど、泣きながら感想を書いてます(笑)。
 実を申しますと感想を書くのに手間取ったんですけど、それは哲学について私が何も知らないからというだけでなく、この最終章に辿り着くのを避けていたためだと気付きました。
 ここの感想を書くのがどうして嫌だったのか?
 二人の強さと相対することで、自分の弱さを自覚するのが怖かったのではないか、と思います。
 由乃さんも優悟さんも、眩しすぎるんですよ、私にとって。
 正直、彼らが羨ましいです――が、羨ましがっているばかりでは何も始まりませんので、感想を再開します。

>こうしていると、まるで宇宙にいるみたいに思えてくる。そういえば、さっきまで見ていた夢はそういうストーリーだったかも。

 冒頭部分ですね。

>はい。たったいま

 平仮名なのが泣けますね……(´_`。)

>私の頭の上に設置されたスピーカーが、私の声でぎこちなく喋る。今のところの彼の研究成果、脳波解析と音声合成技術による意思伝達システム。今はまだ片言じみた発音しかできないけれど、バージョンアップは続いている。自由に会話できるようになる日はそう遠くないと思う。

 優悟さんが研究しているブレイン・マシン・インターフェイス、良い働きを見せているようですね。
 この前インターネットでBMI関連のニュースを読みました。
 作品に登場するような医療機器が、今年の夏には発売されるみたいです。
 他にも脳波で操作する車椅子の研究などが進んでいるそうです。素晴らしい発明ですよね。BMIがもっと進歩したら、布団に入ったまま電動ベッドで出勤とか、普通にできそうですよ。発売されたら私、絶対に買うと思います(笑)。

 ふと、思ったんですけど。
 コミュニケーションの道具として、将来的に脳波を使えないでしょうかね?
 作中では、脳波解析と音声合成技術による意思伝達システムが使われています。自由に会話できる日はそう遠くないと由乃さんは考えています。
 優悟さんには、その上を行ってもらいます(笑)。
 具体的にどうするのかと言うと、二人の脳を二本の電極でつなぎます。相手の脳波を自分の脳波に伝えることで、思考内容を直接的に伝達するのです。会話も言語も要りません。脳と脳が接続された二人は、心と心でつながったのです。ああ、何てロマンチック!(失笑)
 技術的に可能なのか、脳波で高度な思考を伝えられるのか、そもそも脳は本当に心の在り処なのか、などなど考えるべき問題は様々ありますが、試みる価値はあると思います。
 一種の思考実験としても面白そうです。
 接続された二つの脳は、意識を共有するのか? 両者のクオリアは共通なのか? 二つと言わず人類全体の脳をつなぎ合わせたら、人々は何を夢見るのか?
 私には見当もつきません――ですが、由乃さんと優悟さんなら、然るべき結論を導き出すものと信じています。

>本当に、どうやってお礼したらいいんだろう。

 最終章が由乃さんの一人称というのが、泣けるんですよね。
 優悟さんの一人称だと、どうなったでしょう?
 その仮説も検証してみたいですけど、長くなったので止めます(苦笑)。

>私の世界が、今日も始まる。

 良いですよ……この作品、猛烈に良いですよ!
 本当に感動的ですし、哲学への興味も湧いてきましたし、今年最初に読んだのがこの小説で、本当に良かったです。
 そのお礼と申し上げては何ですが、上記の点数をどうかお受け取りください。

 2011年1月7日 追記

 書き忘れていたことがあったので、付け加えておきます。

 水槽脳仮説に関する説明を読んで映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を思い出しました。
 あの映画に登場する夢邪鬼というキャラクターはデカルトのデーモンだよな〜と今になって気付いたので、一応報告しておきます(←何のために?)
 それと最終章を読んで「プラトンも落涙のプラトニック・ラブ」というフレーズを思い付き、ネタにして笑いを取ろうとほくそ笑んで……そのまま忘れてしまいました。
 ここで使わないと一生使えないネタだと思いましたので、あんまり面白くないんですけど書いておきます(←だから誰得?)

 追加するほどのことではないですね(汗)。



147

pass
2011年01月03日(月)23時48分 折伏ぬゐ 3zzXlUmpzE 作者レス
>plusinquotesさん
 こんな読みづらい文章を三回も読んでいただきありがとうございます。投稿最終日まで完成していなかったので推敲できず、変な部分など多々あったと思いますが、伝えたいところは伝えられたようで何よりです。


 彼女の語る哲学は、現象や存在について自分なりに考えたことそのままなので、詳しい方に突っ込まれやしないかとびくびくしてます。いや、突っ込んでもらった方がいいんですけどね(笑)

 それとどうでもいい余談ですが、最初は病気ではなく怪我という設定で、二人の関係も幼なじみでしたが、こっちの方が良いかなと思って急遽変えました。そしたら何だか勢いだけの展開になってしまって……もっと徐々にいくべきだったかなぁと。
 まぁ、プロットの大切さを知れた、と前向きに考えておきます。

 貴重な感想、ありがとうございました。

pass
2011年01月03日(月)02時21分 plusinquotes  +20点
 3度読み返しました。互いを受け入れている2人の、ゆっくりした時間が流れているこの物語につきあっていると、自分のような人間でも少しく温かな気持ちになれました。

 かわいいながら、いささか難儀な子やなと思いながら読み進めていましたが、彼女にとっては水槽脳仮説も、クオリアも、実存的な問題につながっていたのだなとわかると、また最後の節の希望を見ると、なんとも言えない気持ちになりました。彼女の持つ陰や、「とある医療機械」のところでご病気なんだろうなとは思っていましたが。

 こういう、いい時間を与えてもらって、ありがとうございました。
142

pass
合計 10人 290点


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